説明

ガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法

【課題】 GIS等のガス絶縁電力機器において絶縁ガス(SF)が封入された容器からのガス漏れを補修するにあたり、作業性に優れ、絶縁ガスによる人体、環境への影響を及ぼすおそれのない補修方法を提供する。
【解決手段】 ガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法は、容器1内の絶縁ガスを一部回収することにより、容器1内の絶縁ガス圧力Pを0.1MPa<P≦0.2MPaまで下げておいてから、複数の容器部材2どうしの結合部分にコーキング処理を施すものである。コーキング処理は、コーキング材下塗り工程、金属パテ(補強材)塗布工程およびコーキング材上塗り工程を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断機(GCB)、ガス絶縁変圧器(GIT)、ガス絶縁中性点接地抵抗器(NGR)、ガス絶縁送電線路(GIL)等のガス絶縁電力機器において、絶縁ガス封入容器を構成する容器部材どうしの結合部から生じるガス漏れを補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GISやGCB等のガス絶縁電力機器は、複数の容器部材を結合してなる容器を備え、この容器内に絶縁ガスが圧縮封入された状態で使用される。絶縁ガスとしては、電気絶縁性に優れた六フッ化硫黄(SF)ガスが一般に用いられている。
図2は、GISの絶縁ガス封入容器(1)の一部を示したものであって、略管状の上下2つの容器部材(2)が直列に結合されている。両容器部材(2)の結合端部にはそれぞれ環状フランジ部(21)が設けられており、これらのフランジ部(21)どうしが通電導体保持用スペーサ(3)を介在させた状態で複数組のボルト(4)及びナット(5)によって締結されている。図示は省略したが、各フランジ部(21)とスペーサ(3)との間には、Oリング、パッキン等のシール部材が介在され、それによって容器(1)のシール性が確保されている。容器(1)を構成する他の容器部材どうしの結合部分も、上記とほぼ同じ構造である。
ところで、この種の機器においては、長期使用に伴ってシール部材やボルト(4)・ナット(5)に不具合が生じたり、フランジ部(21)に錆が発生したりすることによって、容器部材(2)どうしの結合部分、具体的には、フランジ部(21)とスペーサ(3)との間や、ボルト(4)・ナット(5)とフランジ部(21)のボルト挿通孔縁部との間に僅かな空隙が生じ、これらの空隙を通じてSFガスが漏洩することがある。
このようなガス漏れを補修する場合、不具合が生じたシール部材等を交換することが一般に行われていたが、そのためには機器の通電を停止した上で、容器を分解する必要があった。
【0003】
その他のガス漏れ補修方法としては、コーキング処理によるものが考えられる。しかしながら、GIS等のガス絶縁電力機器の場合、容器内のSFガス圧力が通電状態において0.4〜0.5MPa程度に保持されているため、そのままでコーキング処理を行うと、ガス漏れ箇所に塗布したコーキング材が硬化する前に漏洩ガス圧力によって剥がれてしまうおそれがあった。
そこで、上記の問題点を解決する手段として、以下のようなガス漏れ補修方法が提案された。この方法は、容器部材のフランジ部どうしを締結している複数組のボルト・ナットの一部を取り外すことによって、容器内のガス圧力を逃がすための流路を形成し、この状態でフランジ部の外周面等にコーキング材を塗布し硬化させた後、上記流路にシール材を充填するとともに、取り外されたボルト・ナットに代えて、シール機能を有するボルト・ナットを取り付けるようにしたものである(下記特許文献1参照)。従って、この方法によれば、機器の通電を停止させることなく、ガス漏れ箇所の補修を行うことが可能となる。
しかしながら、SFガス自体は人体に無害であるものの、その分解ガスや分解生成物は人体に悪影響を及ぼすおそれがあるとされている。また、SFガスは、温暖化係数がきわめて大きい温室効果ガスとして知られており、排出抑制の対象とされている。
そのため、上記の方法のように、ガス漏れ補修に際して、容器内を減圧する目的でSFガスを意図的に大気放出させるのは、安全面及び環境面で好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−88258号公報
【発明の概要】
【0005】
この発明の目的は、作業性に優れている上、絶縁ガスによる人体や環境への影響を及ぼすおそれのないガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法を提供することにある。
【0006】
この発明によるガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法は、ガス絶縁電力機器の絶縁ガス封入容器を構成している複数の容器部材どうしの結合部分から生じるガス漏れを補修するにあたり、容器内の絶縁ガスを一部回収することにより容器内の絶縁ガス圧力を下げておいてから、複数の容器部材どうしの結合部分にコーキング処理を施すものである。
この発明の方法によれば、容器内の絶縁ガスを一部回収することによって、容器内の絶縁ガス圧力が通常時よりも低くなるため、漏洩ガス圧力によるコーキング材の剥離が起こり難く、複数の容器部材どうしの結合部分へのコーキング処理を良好に行うことができる。しかも、上記方法にあっては、容器内の絶縁ガスの一部を大気放出させることなく回収するため、絶縁ガスによる人体、環境への影響を及ぼすおそれがない。
【0007】
この発明によるガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法において、コーキング処理時の容器内の絶縁ガス圧力Pを0.1MPa<P≦0.2MPaとするのが好ましい。
上記圧力が0.1MPa以下になると、容器内の絶縁ガスの絶縁耐力が低下して、機器の通電を停止する必要が生じる上、ガス回収に要する時間が増大し、作業の迅速性に欠けることになる。一方、上記ガス圧力が0.2MPaを超えると、漏洩ガス圧力によるコーキング材の剥離が発生し易くなる。
【0008】
また、この発明によるガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法において、コーキング処理が、複数の容器部材どうしの結合部分にコーキング材を塗布する工程と、塗布したコーキング材の上に金属パテよりなる補強材を塗布する工程と、補強材の上にさらにコーキング材を塗布する工程とを含んでいる場合がある。
前述した特許文献1記載のガス漏れ補修方法においては、コーキング処理の補強材としてアラミド繊維材を使用することが示されている。このアラミド繊維材は、きわめて高い強度を有しており、コーキング材と併用することによって、コーキング処理層の強度を大幅に高めることができる。しかしながら、アラミド繊維材は高価であって、これを使用するとコストの増大を招く上、ボルト・ナットとフランジ部のボルト挿通孔縁部との境界部分のような凹凸が多く狭い箇所には施工することができなかった。
これに対して、この発明に係る上記態様の方法では、補強材として金属パテを使用するものである。金属パテは、エポキシ樹脂等よりなる主成分に鉄、アルミニウム等の金属粉を配合したものであって、適度な強度を有している上、アラミド繊維材と比べて安価であるので、コストを抑えることができる。また、金属パテの場合、ボルト・ナットとフランジ部のボルト挿通孔縁部との境界部分のような凹凸が多く狭い箇所にも塗布施工することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施形態を示すものであって、GISの絶縁ガス封入容器における容器部材どうしの結合部分を示す部分切欠き正面図である。
【図2】GISの絶縁ガス封入容器における容器部材どうしの結合部分の基本構造を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明の好ましい実施形態を、図1および図2を参照して以下に説明する。
この実施形態は、ガス絶縁開閉装置(GIS)において、絶縁ガス封入容器を構成する容器部材どうしの結合部分から生じるガス漏れを補修する方法に適用する例を示したものである。なお、絶縁ガス封入容器(1)における容器部材(2)どうしの結合部分の基本構造は、図2に基づいて先に説明した通りであるので、ここでは詳しい説明を省略する。
GISの通電状態において、容器(1)内には、所要量のSFが0.4〜0.5MPaの圧力で封入されている。この容器(1)において、容器部材(2)どうしの結合部分、具体的には、各容器部材(2)のフランジ部(21)外周面とスペーサ(3)外周面との間、及びボルト(4)・ナット(5)とフランジ部(21)上下面のボルト挿通孔縁部との間からSFガスが漏出している場合、以下の手順によって補修を行う。
【0011】
a.減圧処理
まず、容器(1)に設けられたSFガス導入導出口(図示略)にガス回収装置(図示略)を接続し、容器(1)内のSFガスの一部を回収する。ガス回収量は、回収後における容器(1)内のSFガス圧力が約0.2MPaとなるように適宜調整する。この圧力においても、SFガスの絶縁耐力は絶縁油のそれにほぼ匹敵する程度であるので、GISの通電を停止する必要はない。もっとも、補修作業中の安全性を重視するのであれば、通電を一時的に停止させることも勿論可能である。
【0012】
b.ケレン・清掃処理
次に、コーキング処理を施す箇所、具体的には、各容器部材(2)のフランジ部(21)外周面、スペーサ(3)外周面、ボルト(4)・ナット(5)の表面およびフランジ部(21)上下面のボルト挿通孔縁部等に残っている塗膜、錆、塵埃をベルトサンダー等で除去し、さらにこれらの部分に付着している油脂分を清掃除去する。
【0013】
c.コーキング処理
そして、ガス漏れが生じている空隙部にコーキング材を充填し、さらに、これらの空隙部を埋めるように、各容器部材(2)のフランジ部(21)外周面およびスペーサ(3)外周面、並びにフランジ部(21)上下面とボルト(4)・ナット(5)との境界部分等にコーキング材を塗布して、下部コーキング材層(61)を形成する。コーキング材には、例えばアクリル系接着剤等が使用される。
次いで、下部コーキング材層(61)の上に、金属パテよりなる補強材を塗布して、補強材層(62)を形成する。金属パテとしては、例えばエポキシパテ等が用いられる。
さらに、補強材層(62)の上に、コーキング材を塗布して、上部コーキング材層(63)を形成する。
こうして、容器部材(2)どうしの結合部分に3層構造のコーキング処理層(6)が形成される。
コーキング処理層(6)の厚みは、特に限定されないが、好適には1mm程度となされる。これにより、コーキング処理層(6)について、GIS等の高電圧機器のための耐電圧試験に要求される10000ボルト以上の絶縁耐力が確保される。
【0014】
d.ガス漏れ検知
約12時間放置してコーキング処理層(6)を自然硬化させた後、蓄積法により容器部材(2)どうしの結合部分からSFガスが漏れていないかどうかを検知する。もしガス漏れ箇所が見つかれば、そこに再度コーキング処理を施す。
【0015】
e.コート処理
ガス漏れのないことが確認できたら、コーキング処理層(6)の上に、下塗りコート剤、中塗りコート剤、上塗りコート剤、仕上げコート剤を順次塗布し、コート処理層(図示略)を形成する。
【0016】
以上の工程を経て、ガス漏れ補修作業が完了する。その後、ガス回収装置を作動させて、一部回収したSFガスを容器(1)内に戻し、容器(1)内のSFガス圧力を定常値(0.4〜0.5MPa)まで回復させる。
【0017】
上述した補修方法によれば、シール部材等の交換やそれに伴う容器(1)の分解組立の必要がなく、ガス漏れ箇所をコーキング処理によって迅速かつ確実に補修することができる。しかも、上記方法によれば、従来技術のように容器(1)内のSFが意図的に大気放出されないので、安全面、環境面においても好適である。
【実施例】
【0018】
実機でのガス漏れ補修を、上記実施形態に示す要領にて実施した。対象機器は、ガス絶縁開閉装置(三菱電機株式会社製GIS)とし、この機器のSFガス量は35kgであった。
そして、容器内のSFガスをガス回収装置で所要量回収することにより、容器内のSFガス圧力を0.2MPa(実施例1)、0.15MPa(実施例2)、0.1MPa(比較例1)、0.3MPa(比較例2)とした上で、コーキング処理を行った。
ガス回収後の容器内のSFガス絶縁耐力、SFガスの回収に要した時間、および漏洩ガス圧力によるコーキング材の剥離の有無を、以下の表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1から明らかなように、実施例1、2では良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0021】
(1):絶縁ガス封入容器
(2):容器部材
(21):フランジ部
(3):スペーサ
(4):ボルト
(5):ナット
(6):コーキング処理層
(61):下部コーキング材層
(62):補強材層
(63):上部コーキング材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス絶縁電力機器の絶縁ガス封入容器(1)を構成している複数の容器部材(2)どうしの結合部分から生じるガス漏れを補修するにあたり、容器(1)内の絶縁ガスを一部回収することにより容器(1)内の絶縁ガス圧力を下げておいてから、複数の容器部材(2)どうしの結合部分にコーキング処理を施すことを特徴とする、ガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法。
【請求項2】
コーキング処理時の容器(1)内の絶縁ガス圧力Pを0.1MPa<P≦0.2MPaとすることを特徴とする、請求項1記載のガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法。
【請求項3】
コーキング処理が、複数の容器部材(2)どうしの結合部分にコーキング材を塗布する工程と、塗布したコーキング材の上に金属パテよりなる補強材を塗布する工程と、補強材の上にさらにコーキング材を塗布する工程とを含んでいることを特徴とする、請求項1または2記載のガス絶縁電力機器のガス漏れ補修方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−253962(P2012−253962A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126164(P2011−126164)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000141015)株式会社かんでんエンジニアリング (16)
【出願人】(509101206)株式会社オオヨドコーポレーション (1)
【Fターム(参考)】