説明

ガス絶縁電気機器およびその製造方法

【課題】導電性部材と、導電性部材の表面を被覆する絶縁被膜との界面接着性を向上させ、剥離層での部分放電を抑止した信頼性の高いガス絶縁電気機器を提供する。
【解決手段】導電性部材3の表面には凹凸があり、表面粗さの指標の一つに平均長さRsm値がある。本発明では、Rsm値よりも小径の粉体絶縁粒子7よりなる材料を用い、導電性部材3の表面に絶縁被膜6を塗装によって堆積させ、導電性部材3の凹部に、密に粉体絶縁粒子7を詰めこみ、導電性部材3と絶縁被膜6との接合性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁電気機器およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガス絶縁電気機器では、高電圧導体などの高電界部となる電極の面積が大きくなると、破壊電界が低下する電極面積効果が顕著になるため、耐圧を上げるために電極に対して絶縁物の被膜(絶縁被膜)を形成することが一般的である。電極に絶縁被膜を形成すると電極表面凹凸のμmレベルの微小突起から発生する電界放出電子の抑制と同じく、微小突起による電界集中を緩和することとなり、放電が抑制され機器の耐電圧は向上する。
絶縁被膜を形成する方法は、主に高電圧導体がアルミニウム製であることを利用して陽極酸化処理によるアルマイトめっき、注形絶縁物による電極モールド、また固体樹脂の粉体を吹き付け熱硬化させる熱可塑樹脂を用いた粉体塗装法、若しくは固体樹脂粉体を吹き付け熱硬化させる熱硬化性樹脂を用いた粉体塗装法などがある。面積効果の抑制には絶縁物の膜厚があると効果的であることからモールド電極を使った方法が技術的には容易である。しかし、注形を行うためには金型に代表される型が必要であり、複数の形状になる導体に対してすべての型を製作する必要があり、コスト増加の問題が懸念される。一方、粉体塗装方法はモールド電極よりも低コストで膜厚の大きな被膜を形成することが可能である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−29068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に絶縁物と金属といった異種の材料を接合する接合面では、熱サイクルがある環境下においては材料による線膨張係数の違いで発生する応力によって、絶縁物と金属の界面剥離が発生する場合がある。剥離の起こりやすさは、接合界面の密着性となる金属と絶縁物の接触面積の広さが要因の一つであるが、上述した特許文献1のような塗装方法では、電極に吹き付ける粉体粒子の平均粒径を20μm以上と規定しており、金属表面の表面粗さよりも粉体粒径が大きい場合は表面凹凸の凹部分に粉体樹脂が入らないため、金属表面と絶縁物との接触面積が凹部に樹脂がない分だけ小さくなり、その結果、剥離が生じやすくなる。
この発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、金属表面に対して、樹脂である絶縁物との接触面積が最大になるような界面剥離が起こりにくい絶縁被膜を形成できるガス絶縁電気機器およびその製造方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係わるガス絶縁電気機器は、絶縁性ガスが充填された接地タンク、上記接地タンクの内部に配置され、上記接地タンクと絶縁された導電性部材、上記導電性部材の表面を被覆する絶縁被膜を備え、上記絶縁被膜のうち、上記導電性部材の表面凹部に埋設された絶縁被膜埋設部は、上記導電性部材の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以下の径の粉体絶縁粒子によって構成されたものである。
【0006】
この発明に係わるガス絶縁電気機器の製造方法は、導電性部材の表面に、上記導電性部材の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以下の径の粉体絶縁粒子を塗装して絶縁被膜を形成する工程、絶縁性ガスが充填される接地タンクの内部に上記導電性部材を配設し、
上記接地タンクと上記導電性部材とを絶縁したガス絶縁電気機器を得る工程を含むものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のガス絶縁電気機器によれば、導電性部材の凹凸がある表面の凹部に粉体絶縁粒子を密に詰めるように絶縁被膜を成膜することが可能となり、導電性部材と絶縁被膜の界面の密着性を向上させ、剥離を防止し、剥離層での部分放電を抑止できる信頼性の高いガス絶縁電気機器を提供することができる。
【0008】
この発明のガス絶縁電気機器の製造方法によれば、導電性部材の表面に、上記導電性部材の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以下の径の粉体絶縁粒子を塗装して絶縁被膜を形成する工程を含むため、導電性部材の凹凸がある表面の凹部に粉体絶縁粒子を密に詰めるように絶縁被膜を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1によるガス絶縁電気機器の要部断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1による導電性部材表面の凹凸に粉体絶縁粒子が詰まる状態を表す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2による粉体絶縁粒子の粒度分布を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2による導電性部材表面の凹凸に粉体絶縁粒子が詰まる状態を表す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3による導電性部材表面の凹凸に粉体絶縁粒子が詰まる状態を表す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態4による導電性部材表面の凹凸に粉体絶縁粒子が詰まる状態を表す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態5による導電性部材表面の凹凸に粉体絶縁粒子が詰まる状態を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について、図1および図2を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1によるガス絶縁電気機器の軸方向に沿った断面図である。ガス絶縁電気機器は、絶縁性ガス1を封入した密閉容器(圧力容器)である円筒形状の接地タンク2と、この接地タンク2の中心軸線上に配置され、遮断器(図示せず)、断路器(図示せず)等の構成機器と電気的に接続された導電性部材(例えば、高電圧導体、または電極。)3と、この導電性部材3を支持するスペーサ5、導電性部材3とスペーサ5との固定部周囲に設けられた電界緩和シールド4とを備えており、導電性部材3の表面および電界緩和シールド4の表面上には破壊電界を向上させる目的で絶縁被膜(絶縁被覆)6が成膜されている。
【0011】
この接地タンク2内には、絶縁性ガス1として例えば六フッ化硫黄ガスが充填されており、接地タンク2と、遮断器、断路器等の構成機器、導電性部材3との間では絶縁が確保されている。導電性部材3の材質としては、例えば、熱伝導率の良いアルミニウムが用いられる。
絶縁被膜6が形成されていない無被覆の導電性部材3をガス絶縁電気機器に適用した場合では、マイクロメータレベルの表面微小突起(表面凸部)から電界放出される電子によって放電が発生して耐圧低下の原因となるが、導電性部材3の表面を絶縁被膜6で覆うことにより電界放出を抑えることができ、放電発生が起こらなくなるため、耐圧が向上する。絶縁被膜6の材質としては、めっきによるアルマイト形成、もしくは有機物であるエポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンなどの絶縁特性の優れた材料である。
ここで、絶縁被膜6を積層すべき導電性部材3の表面は、例えばアルミニウムなどの金属表面となる。従って、金属である導電性部材3の表面に、絶縁物である絶縁被膜6を、接合性を向上させた状態で成膜する必要がある。導電性部材3と絶縁被膜6との接合性を確保するために、本発明では、以下のような条件下で絶縁被膜6を成膜している。
【0012】
本発明の特徴となる、導電性部材3の表面を被覆する絶縁被膜6は、絶縁被膜6のうち、導電性部材3の表面凹部に埋設された部分である絶縁被膜埋設部は、導電性部材3の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以下の径の粉体絶縁粒子によって形成されている。粉体絶縁粒子の粒径をRsm値以下と限定することで、導電性部材3の表面凹部(金属表面凹部)に粉体絶縁粒子を密に詰めるように絶縁被膜6を塗装し、その後の硬化処理を経て成膜を行うことで、導電性部材3と絶縁被膜6の界面の密着性を向上させることができる。
ここで、Rsm値とは、表面凹凸を山谷のくり返しと考えて、平均した一周期分に相当する値である。つまり、山から山までの距離若しくは谷から谷までの距離、山と谷の平均値をとり、それを原点としたならば、原点から山や谷を通って、次の原点に到達するまでの距離に相当する値である。例えば、アルミニウムのRsm値は、およそ10μm以下の値となる。
【0013】
図2は、絶縁被膜6成膜時に導電性部材3の表面部に粉体絶縁粒子7が堆積される状態を模式的に示す拡大断面図である。吹き付けによる塗装で絶縁被膜6を成膜する場合、粒径がRsm値以下の粉体絶縁粒子7が導電性部材3の表面凹部に密に埋め込まれるように、最初は凹凸表面に対して万遍なく粒子が堆積され、徐々に凹部が埋め尽くされて表面が滑らかとなるように粉体絶縁粒子7が堆積される。熱硬化後の絶縁被膜6にあっても、粉体樹脂が密につまった状態を保持しており、導電性部材3との密着性を確保することができる。
【0014】
ガス絶縁電気機器は、周囲環境の温度変化と通電時に発生するジュール損熱による温度上昇と下降を繰りかえすヒートサイクルが起こるため、線膨張係数の異なる材料の界面に対して界面が離れる方向に応力が働き界面剥離が起こる場合があり、剥離が起こると剥離層で部分放電が発生して、その放電により絶縁被覆を劣化させ、被覆の絶縁機能を低下させる恐れがあるが、本願発明の実施の形態1のガス絶縁電気機器では、絶縁被膜6を構成する粉体絶縁粒子7の粒径をRsm値以下とすることで、金属表面凹部に粉体粒子7を密に詰めることができ、導電性部材3と絶縁被膜6の界面の密着性を向上させ、剥離を防止し、剥離層での部分放電を抑止できる信頼性の高いガス絶縁電気機器を得ることができる。
【0015】
次に、本発明の絶縁被膜6の成膜方法について説明する。粉体絶縁粒子(粒子)7を塗装することで絶縁被膜6を形成する場合、一般的に熱可塑樹脂で形成するならば主材を、熱硬化樹脂で形成するならば、主材や硬化剤、充填材、反応促進材などの固体樹脂を細かく粉砕した粒子を、塗装する目標体(導電性部材3の表面)へ付着させる。樹脂としてはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などがあり、熱可塑樹脂を用いるならば、塩化ビニル系、ポリエステル系、ナイロン系等の樹脂などがあげられる。粉体塗装方法は大きく分けて二つあり、静電気を粉体に与えて塗装する目標体へ付着させる静電塗装法、粉体を圧縮空気によって閉じた空間に流動させてあらかじめ予熱された塗装目標体を浸漬させる流動浸漬法がある。前者は熱硬化性樹脂を用いる場合が多い。どちらの方法にしても細かく粉砕した粉体粒子を塗装目標体に付着させることとなる。
【0016】
図2に示したように、導電性部材3である金属の表面部はマイクロメータレベルで観察すると表面凹凸が存在する。もし粉砕された粉体絶縁粒子の粒径が大きく、金属表面の凹部に入りこまない場合、金属表面の凹凸部分の粉体絶縁粒子の密度(粉体樹脂密度)は疎
となり、樹脂と金属との接着界面部の面積が小さくなる。一方、図2のように表面凹凸の平均長さRsmよりも小さい粒径の粉体絶縁粒子7を使用することにより、金属表面凹凸の凹部に粉体絶縁粒子が入りこむ状態で凹部が埋設され、凹凸部分における粉体樹脂密度が密になる。
従って、粒径が表面凹凸の平均長さRsm値以上の大きさで表面凹凸部に物理的に入らない粉体塗装よりも、本願発明の粒径がRsm値より小さい粉体塗装の方が、金属と樹脂との界面は密着面積が増え、界面剥離の発生を防ぐことが可能となり、しいては剥離層で発生する部分放電を防ぐことが可能となり、ガス絶縁電気機器の絶縁性能を向上させることができる。
【0017】
なお、上述した例では、絶縁被膜6の塗装対象体となる導電性部材3が金属導体である場合を示したが、導電性部材3が金属材料で形成され、その金属材料の表面を絶縁層でコーティングしたような形態である場合など、絶縁被膜6の塗装対象体が金属ではなく絶縁層表面であったとしても、絶縁層の表面部の凹凸の平均長さRsm値より小さい粒径の粉体絶縁粒子7を用いることで、絶縁層上に密着性の良い絶縁被膜6を成膜することが可能で、同様の効果を期待できる。
なお、粉体塗装を対象に実施の形態を記載したが、電着塗装、カチオン塗装、液体浸漬方法などの液体塗装の場合でも塗装材料の粒子径が上記のようにRsm値以下となるように考慮すれば、同様の効果を期待することができる。
【0018】
実施の形態2.
上述の実施の形態1においては、絶縁被膜6の材料となる粉体絶縁粒子7の粒径を、塗装対象体のRsm値より小径とすることについて説明した。この実施の形態2では、粉体絶縁粒子7の粒径にばらつきを持たせた場合の絶縁被膜6の成膜について図3および図4を用いて説明する。
図3は粒子の粒度分布を表した一例であり、横軸は粉体絶縁粒子の粒径(μm)、縦軸は個数によってあらわされる存在比率(%)である。図3にあるように、金属表面凹凸の平均長さRsm値以下に分布があり、小さい粒径ほど配合率が大きい粒度分布となるように塗料の粉体絶縁粒子の配合がなされている。
【0019】
図4は、実施の形態2によるガス絶縁電気機器の導電性部材3表面へ、1度の処理によって絶縁被膜6となる粉体絶縁粒子を堆積させた場合の、凹部埋設状況を示した拡大断面図である。塗装材料となる粉体絶縁粒子7を小径粒子7aと大径粒子7bに大別したとき、小径粒子7aを大径粒子7bよりも多く配合した塗料を用いた場合、粉体絶縁粒子7が塗装対象体である金属表面凹凸に埋め込まれる様子を示している。
1種類の塗料の中に粒度分布があり、小径粒子7aの配合個数が多いと、塗装対象体の表面凹凸の凹部の底に小径粒子7aが詰まる可能性が高くなり、また、大径粒子7bとの間に小径粒子7aが詰まることも考えられ、凹部に樹脂が密に詰まる。従って、導電性部材3と粉体塗装の樹脂である絶縁被膜6との密着性をより向上させることができる。また、小径粒子7aのみを配合した塗装材料を用いて成膜を行う場合よりも、大径粒子7bを配合した分だけ堆積時間を短くすることが可能となる。
【0020】
実施の形態3.
上述の実施の形態2では、1度の塗装処理によって絶縁被膜6となる粉体絶縁粒子7を堆積する成膜方法について説明した。この実施の形態3では、絶縁被膜6を、異なる材料の膜を複数回に分けて堆積させて絶縁被膜6を得る場合に、絶縁被膜6を、導電性部材3の表面に積層される第一の絶縁被膜と、第一の絶縁被膜の表面に積層される第二の絶縁被膜を含む積層膜とし、第一の絶縁被膜を構成する粉体絶縁粒子7の粒径が、第二の絶縁被膜を構成する粉体絶縁粒子7の粒径よりも小さいくなるように成膜する方法について説明する。
【0021】
図5は、実施の形態3によるガス絶縁電気機器の導電性部材3の表面へ粉体塗装する様相を示した拡大断面図である。この図で示すように1回目の塗装で形成した1層目8aでは、使用する粉体絶縁粒子7は、用いる塗料の粉体絶縁粒子の中でもっとも小さな径である小径粒子7cであり、2回目の塗装で形成した2層目8bの材料となる粒子は、小径粒子7cよりも径が大きな中径粒子7dであり、3回目の塗装で形成した3層目8cの材料となる粒子は、中径粒子7dよりも径が大きな大径粒子7eである。ここで、例えば、小径粒子7cによって形成された絶縁被膜が第一の絶縁被膜に相当し、中径粒子7dまたは大径粒子7eによって形成された絶縁被膜が第二の絶縁被膜に相当するものとする。
この実施の形態2では、表面凹部に埋め込まれる粉体絶縁粒子の粒径が、凹部の底部に近いほど小径で、凸部では大径となるように、上層となるほど粒子径を大きくするように塗料を選定して、粒子の小さい径から順番に粉体絶縁粒子(7c、7d、7e)を使用して塗装する。
【0022】
塗装目標体である金属表面の凹部(絶縁被膜埋設部が配置される部分に相当する。)は底から頂に向かい開口径が大きくなるため、この方法を用いると、最も開口径が小さい底部には小さい粒径で、金属表面凹部の大きさRsmに応じて、塗装を行うことができ、塗装目標体の表面凹部に粉体絶縁粒子(絶縁樹脂)はより密に詰められる。従って、導電性部材3の金属と粉体塗装の絶縁被膜6との密着性がより向上する。さらに2回目以降の塗装時は粒径を直前の塗装粒径よりも大きくするため、膜厚を厚くすることが容易になり、塗装時間の短縮にも繋がる。
【0023】
実施の形態4.
上述の実施の形態1〜3では、少なくとも導電性部材3の表面凹部を埋設する高さまで粉体絶縁粒子7を堆積して絶縁被膜6を得る場合について説明した。この実施の形態4では、導電性部材3の表面凸部よりも高くなるまで粉体絶縁粒子7を堆積して、より厚みを持った絶縁被膜6を形成する場合について説明する。
図6は、本発明の実施の形態4によるガス絶縁電気機器の導電性部材3表面へ粉体塗装を行った場合のモデルを示した拡大断面図である。図6に示すように、本実施の形態4では、絶縁被膜6となる粉体絶縁粒子7の塗装膜厚を塗装目標体の表面凹凸の高さの指標であるRy値以上の高さとしている(ここで、Ry値は、絶縁被膜埋設部の形成高さに相当する値である。金属表面のRy値は、およそ40〜50μm。)。Ry値以上の膜厚の絶縁被膜6を塗装し、金属表面凸部に所定膜厚の絶縁物が配置されている場合は、Ry値以下の膜厚の絶縁被膜6を塗装した場合と比較して、表面凹凸部の凸部表面上は絶縁物の比誘電率分だけ電界が下がるため、放電発生する可能性は減少する。さらに絶縁物の仕事関数はガスと比べ格段に高く凸部からの電子の電界放出はなくなるため、放電起点がなくなる。従って放電発生および放電起点の原因となる電界緩和と電子放出抑制が可能となり、機器の耐圧が向上する。
【0024】
実施の形態5.
上述の実施の形態4では、導電性部材3の表面に、塗装目標体の表面凹凸の高さRy値以上の膜厚の絶縁被膜6を形成することについて言及した。この実施の形態5では、Ry値までの高さに相当する導電性部材3の凹部に埋設された絶縁被膜埋設部と、その絶縁被膜埋設部上に積層された絶縁被膜表層部とで、塗装材料に含まれる粉体絶縁粒子の粒径を調節し、成膜時間を短縮する方法について説明する。
上述した実施の形態4では、絶縁被膜埋設部を構成する材料と同じ材料で絶縁被膜表層部に相当する高さまで一度の塗装処理によって絶縁被膜6を成膜をしていたが、本実施の形態5では、図7に、導電性部材3表面へ粉体塗装する様相を表す拡大断面図を示すように、絶縁被膜埋設部については導電性部材3の表面粗さの指標となる平均長さRsm値より小径の粉体絶縁粒子(小径粒子)7fによって構成し、表面凸部よりも上層となる絶縁
被膜表層部についてはRsm値以上の径の粉体絶縁粒子(大径粒子)7gによって絶縁被膜6を構成する例を示す。
【0025】
図7で示すように、塗装膜厚が塗装目標体の表面凹凸の高さの指標であるRy値以上の高さに到達した後は、それ以降の塗装は塗装目標体の界面の剥離の部への影響が小さくなるため、粉体絶縁粒子7の粒径の選択も自由となり、図で示すようにRsm値以上の大径粒径7gを配合した塗料を用いて成膜することも可能である。粒径が大きな塗料を用いた層については単位時間あたりの塗装膜厚が大きくなるため、設定膜厚までの塗装に要する時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 絶縁性ガス
2 接地タンク
3 導電性部材
4 電界緩和シールド
5 スペーサ
6 絶縁被膜
7 粉体絶縁粒子
7a、7c、7f 小径粒子(粉体絶縁粒子)
7b、7e、7g 大径粒子(粉体絶縁粒子)
7d 中径粒子(粉体絶縁粒子)
8a 1層目
8b 2層目
8c 3層目。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性ガスが充填された接地タンク、上記接地タンクの内部に配置され、上記接地タンクと絶縁された導電性部材、上記導電性部材の表面を被覆する絶縁被膜を備え、上記絶縁被膜のうち、上記導電性部材の表面凹部に埋設された絶縁被膜埋設部は、上記導電性部材の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以下の径の粉体絶縁粒子によって構成されたことを特徴とするガス絶縁電気機器。
【請求項2】
上記絶縁被膜埋設部を構成する上記粉体絶縁粒子が大径粒子と小径粒子に大別される場合、上記大径粒子よりも上記小径粒子の個数が多くなるように上記粉体絶縁粒子の配合がなされたことを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電気機器。
【請求項3】
上記絶縁被膜は、上記導電性部材の表面に積層された第一の絶縁被膜と、上記第一の絶縁被膜の表面に積層された第二の絶縁被膜を含む積層膜であり、上記第一の絶縁被膜を構成する上記粉体絶縁粒子の粒径が、上記第二の絶縁被膜を構成する上記粉体絶縁粒子の粒径よりも小さいことを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電気機器。
【請求項4】
上記絶縁被膜は、上記導電性部材の表面凹凸の高さの指標となる最大高さRy値よりも厚く形成されたことを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電気機器。
【請求項5】
上記絶縁被膜のうち、上記絶縁被膜埋設部上に積層された絶縁被膜表層部は、上記導電性部材の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以上の径の上記粉体絶縁粒子によって構成されたことを特徴とする請求項1記載のガス絶縁電気機器。
【請求項6】
導電性部材の表面に、上記導電性部材の表面粗さの指標となる平均長さRsm値以下の径の粉体絶縁粒子を塗装して絶縁被膜を形成する工程、絶縁性ガスが充填される接地タンクの内部に上記導電性部材を配設し、上記接地タンクと上記導電性部材とを絶縁したガス絶縁電気機器を得る工程を含むことを特徴とするガス絶縁電気機器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−210108(P2012−210108A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74906(P2011−74906)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】