説明

ガス絶縁電気機器

【課題】中心導体に金属露出部を設けて2回目以降の絶縁破壊電圧を初期状態に維持する場合において、金属露出部の隙間幅に関する制約を緩和し、薄い誘電体被覆膜を使用した場合でも、金属露出部の形成が容易でかつ金属露出部が放電起点とならないガス絶縁電気機器を提供することを目的としている。
【解決手段】、絶縁ガス13が充填されている金属容器11と、金属容器11に収容された高電圧導体である中心導体12から構成され、中心導体12の金属表面には、耐電圧性能を向上させるために誘電体被覆膜16が施され、さらに、一定の間隔(等間隔でなくてよい)で断面が矩形の凹部(溝)18が、中心導体12の中心軸と垂直の外周面にリング状に一周して設けられ、凹部18の底面及び側面には中心導体12の金属表面が露出された金属露出部17が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器内に高電圧導体を収納し、金属容器内に絶縁ガスを充填して高電圧導体と金属容器とを絶縁したガス絶縁電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高電圧導体からの絶縁破壊を抑制して耐電圧を向上させるため、高電圧導体の金属表面上には絶縁被覆膜が施されている。これは、絶縁被覆膜を施すことにより、高電圧導体の金属表面上の微小突起における電界集中を抑制し、かつ金属表面からの電子放出も抑制して耐電圧を向上させるものである。しかし、絶縁被覆膜が貫通破壊を起こすと絶縁性能が著しく劣化してしまう。
【0003】
そこで、図11に示す従来のガス絶縁電気機器においては、絶縁ガス3が充填された金属容器1の内部に、高電圧導体である中心導体2が絶縁スペーサ4に絶縁支持されて収容され、中心導体2と絶縁スペーサ4との接続部に電界緩和シールド5が設けられたガス絶縁電気機器において、中心導体2及び電界緩和シールド5の金属表面に一定以上の膜厚で誘電体被膜6を施し、中心導体2に施した誘電体被膜6の一部に中心導体2の金属表面を露出させた金属露出部7を形成し、高電圧導体に施された絶縁被覆膜の一部に金属露出部を設けて沿面放電経路を形成することで絶縁被覆膜の貫通破壊を防ぎ、2回目以降の絶縁破壊電圧を初期状態に維持する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。ここで、設けた金属露出部が放電起点にならないように、金属露出部の隙間幅/誘電体被覆膜厚の値を小さくして、金属露出部電界強度を低下させる隙間幅を選択することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−271744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のガス絶縁電気機器の構成においては、金属露出部が放電起点とならないようにするため、選択可能な金属露出部の隙間幅には誘電体被覆膜厚との関係で決まる制約が存在する。このため、例えば薄い誘電体被覆膜を使用した場合は選択可能な金属露出部隙間幅の上限も小さくなり、制約条件を満たす金属露出部を設けることが困難になる場合があるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、金属露出部の隙間幅に関する制約を緩和し、薄い誘電体被覆膜を使用した場合においても、金属露出部の形成が容易でかつ金属露出部が放電起点とならないガス絶縁電気機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明に係るガス絶縁電気機器は、絶縁ガスが充填された金属容器と、前記金属容器の内部に収容されるとともに所定の電圧が印加され、外周面に凹部が形成された高電圧導体と、前記高電圧導体を前記金属容器に絶縁支持する絶縁支持部材と、前記高電圧導体と前記絶縁支持部材との接合部の電界を緩和する電界緩和シールドと、前記凹部の表面の全部または一部を除いた前記高電圧導体及び前記電界緩和シールドの表面に施された誘電体被覆膜と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガス絶縁電気機器によれば、高電圧導体にある一定の間隔で凹部が設けられ、凹部表面の一部もしくは全面は高電圧導体の金属表面が露出されているので、金属露出部が放電起点とならないようにするための金属露出部の隙間幅に関する制約が緩和され、金属露出部の形成が容易な隙間幅で、かつ放電起点とならない金属露出部を形成することできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置を示す概略断面図である。
【図2】本発明の基礎データとなる誘電体被覆膜が繰り返し沿面破壊された場合の性能変化を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置において凹部を設けない場合の金属露出部の隙間幅と金属露出部電界強度の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置において矩形の凹部を設けた場合の金属露出部の隙間幅と金属露出部電界強度の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置において矩形の凹部に針状異物が存在する場合の要部を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置において矩形の凹部に針状異物が存在する場合の凹部深さ/異物長さと針状異物先端電界強度の関係を示す図である。
【図7】本発明の他の実施態様におけるガス絶縁開閉装置の要部を示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施態様におけるガス絶縁開閉装置の要部を示す断面図である。
【図9】本発明の他の実施態様におけるガス絶縁開閉装置の要部を示す断面図である。
【図10】本発明の他の実施態様におけるガス絶縁開閉装置の要部を示す断面図である。
【図11】従来技術のガス絶縁電気機器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係るガス絶縁開閉装置について図1〜図10を参照して説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置を示す概略断面図であり、図2から図6は、実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置の動作を説明するための図である。
図1に示すように、ガス絶縁開閉装置10は、圧力容器である円筒状の金属容器11と、高電圧導体である中心導体12から構成され、金属容器11と中心導体12との間には、両者を絶縁するための絶縁ガス13が充填されている。中心導体12は、固体絶縁物からなる支持部材の絶縁スペーサ14によって金属容器11と同軸中心の位置に固定されている。絶縁スペーサ14と中心導体12の接続部には、接続部の電界を緩和する電界緩和シールド15が接続部を覆うように設けられている。
【0012】
金属容器11と中心導体12が同軸円筒構造である場合には、中心導体12が高電界部になる。そこで、中心導体12の金属表面と、同じく高電界部である電界緩和シールド15の金属表面には、耐電圧性能を向上させるために誘電体被覆膜16が施されている。さらに、ある一定の間隔(等間隔でなくてよい)で断面が矩形の凹部(溝)18が、中心導体12の中心軸と垂直の外周面にリング状に一周して設けられ、凹部18の底面及び側面には中心導体12の金属表面が露出された金属露出部17が形成されている。
【0013】
金属容器11に充填する絶縁ガス13としては、SF6、乾燥空気、N2、CO2、O2、C−C48、CF3Iなどの単体ガスが使用される。また、上記の2種類もしくはそれ以上の種類のガスを混合した混合ガスであってもよい。
【0014】
誘電体被覆膜16の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フッ素樹脂、ゴム系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。また、誘電体被覆膜16は、絶縁破壊時に印加電圧分の電界がかかった状態でも貫通破壊しないよう、一定以上の厚さで被覆される。実際の厚さは、使用材料や被覆する場所によって大きく異なるが、例えば、1mm以上のミリオーダである。誘電体被覆膜16の形成方法としては、モールド注型法、静電塗装や流動浸漬法などの粉体塗装法、液体樹脂の塗装、絶縁シート巻きつけ、熱収縮チューブをかぶせる方法等が挙げられる。
【0015】
以下、実施の形態1に係るガス絶縁開閉装置の誘電体被覆膜16、金属露出部17、凹部18の作用について、図2から図6を参照して説明する。
【0016】
まず、誘電体被覆膜16の作用について説明する。電極表面のミクロな突起が原因となる電極面積効果により、電極面積が大きくなるほど破壊電界値は低下する。特に、高電圧用のガス絶縁開閉装置10では、中心導体12が大きな表面積を持っているので、電極面積効果により破壊電界値は大きく低下する。そこで、中心導体12を誘電体被覆膜16で絶縁被覆して金属表面のミクロな突起を覆うことにより耐電圧性能を向上させることができる。
【0017】
一般的に、ガス絶縁開閉装置10の同軸円筒構造の部分では、径方向電界は中心導体12側が高く、金属容器11の壁面側が低くなる。従って、放電開始は中心導体12側からとなる。中心導体12の絶縁構成は、絶縁ガス13と誘電体被覆膜16の複合絶縁であり、ガスと固体の複合絶縁系では、固体絶縁物よりも絶縁ガスの方が破壊電圧は低いため、ガス空間の最も電界の高い位置で放電が開始する。したがって、この系では、誘電体被覆膜16の表面から放電開始する。発生した放電は、高圧電極の金属部と低圧電極の金属部を橋絡することで完成するため、中心導体12の誘電体被覆膜16表面から始まった放電は、低圧側の金属容器11の内壁面と高電圧側である中心導体12の金属部の両方に向かって進展する。その際、もし、高電圧側の中心導体12の全面が誘電体被覆膜16によって覆われていれば、中心導体12の金属部に到達して放電を完成させるには誘電体被覆膜16を貫通破壊する必要がある。貫通破壊すると誘電体被覆膜16に破壊痕が残り、電極系の絶縁性能は未破壊時よりも大きく低下する。電極系によって異なるが、貫通破壊することにより破壊電圧は20〜30%程度低下する。
【0018】
次に、図11に示す従来のガス絶縁電気機器のように誘電体被覆膜16の一部に金属露出部17を設けた場合の作用について説明する。中心導体12に一部金属面が露出された金属露出部17が形成されていれば、発生した放電は誘電体被覆膜16を貫通するよりも金属露出部17に向けて進展し、金属露出部17に到達して絶縁破壊に至る。したがって、絶縁破壊による誘電体被覆膜16の貫通破壊を防ぎ、2回目以降の絶縁破壊電圧低下を抑制することができる。図2に、絶縁破壊電圧の沿面破壊回数依存性を示す。図2の縦軸は、1回目の絶縁破壊電圧で規格化されている。図2から明らかなように沿面破壊を重ねることで数%程度の絶縁破壊電圧低下は見られるが、破壊電圧低下の割合は貫通破壊の場合と比較して小さい。
【0019】
ただし、高電圧側である中心導体12の金属表面の一部をガス空間中に露出させるので、金属露出部17が放電起点となる可能性がある。金属露出部の隙間幅/誘電体被覆膜厚の値と金属表面電界強度の最大値との関係を電界解析により求めると、図3に示すように金属露出部の隙間幅/誘電体被覆膜厚の値が、10程度より小さくなると急に電界強度が低下する。したがって、使用する誘電体被覆膜16の膜厚を考慮しながら金属表面の電界が破壊電界以下となるような隙間幅を選択することにより、金属露出部17が放電起点となることなく、誘電体被覆膜16の性能が発揮されて高耐電圧を保つことができる。
【0020】
さらに、図1に示す実施の形態1のガス絶縁電気機器における中心導体12の一部に矩形の凹部18を設け、凹部18全面に金属露出部17を形成した場合の作用について説明する。前述の通り、金属露出部17が放電起点とならないようにするため、金属露出部17の隙間幅には誘電体被覆膜厚との関係で決まる制約条件が存在する。特に、薄い誘電体被覆膜を選択した場合は、制約条件を満たす隙間幅の金属露出部を形成するのが困難になる場合がある。図4に、誘電体被覆膜厚の10倍の深さを持つ矩形の断面の凹部18を設け、凹部18の表面の全面を金属露出部とした場合について、金属露出部の隙間幅(開口幅)/誘電体被覆膜厚の値と金属表面電界強度の最大値との関係を電界解析によって求められた結果を示す。図3と比較すると、電界強度の低下が始まる金属露出部の隙間幅/誘電体被覆膜厚の値が10倍程度大きくなっていることがわかる。すなわち、中心導体の外周部に凹部を設け、凹部表面に金属露出部を形成することで、誘電体被覆膜厚を大きくした場合と同様の効果が得られる。
【0021】
また、中心導体12の一部に矩形の断面を持つ凹部18が設けられ、凹部18表面の全面に金属露出部17が形成された場合の他の作用について説明する。設けられた凹部18の表面の全面に金属露出部17が形成され、この金属露出部17に突起があったり、異物が混入していたりしている場合の耐絶縁性能に及ぼす悪影響を低減することができる。図5は、矩形の断面の凹部18の表面の全面を金属露出部17とし、金属露出部17中心に針状異物19が露出部と垂直に付着している場合を示している。図6に凹部18の深さを針状異物19の異物長さで規格化した場合の異物先端電界強度を金属露出部の隙間幅(開口幅)を変えて電界解析で求めた結果を示す。Aは隙間幅が異物の長さ×1の場合で、Bは隙間幅が異物の長さ×5の場合である。また、誘電体被覆膜16の厚みは、針状異物19の長さの1/5とし、針状異物19の直径は針状異物19の長さの1/5とした。この結果、凹部18の深さを深くするほど針状異物19の先端に係る電界強度が低下することが明らかとなった。これにより、高電圧導体に矩形の凹部を設けることにより金属表面電界強度を下げることができ、また、凹部の深さを変えることにより、誘電体被覆膜の厚みの制約を受けず、製作可能な隙間幅を設計することができる。
【0022】
このように、実施の形態1におけるガス絶縁開閉装置によれば、高電圧導体の一部に矩形の断面を持つ凹部が設けられ、凹部表面の全面に金属表面が露出された金属露出部が形成されているので、2回目以降の絶縁破壊電圧の低下を抑制することができると共に、誘電体被覆膜の膜厚の制約を受けずに形成が容易な隙間幅で、かつ放電起点とならない金属露出部を形成することができるという顕著な効果がある。また、高電圧導体上に凹部が設けられているので、高電圧導体上に金属製もしくは絶縁物製の異物が存在する場合であっても、それらが耐絶縁性能に及ぼす悪影響を低減することができる。
【0023】
なお、上述の実施の形態1において、矩形の断面の凹部18の表面の全面を金属露出部17としたが、凹部18の表面のうち底面(図7)もしくは側面の一部のみに金属露出部17を形成する場合であってもよい。
【0024】
また、実施の形態1において、凹部18の断面形状として矩形のものを使用する場合について説明したが、凹部18の断面形状が図8に示す半楕円形20や図9に示す三角形21あるいは図10に示す波形22であってもよく、これら複数の形状を持つ凹部の組み合わせであっても同様の効果が期待される。
【0025】
また、実施の形態1において、凹部18を中心導体(高圧導電体)12の中心軸と垂直
の外周部にリング状に設ける場合について説明したが、凹部18を中心導体(高圧導電体)12の中心軸に対して傾斜角を持って外周部にリング状に設ける場合であっても同様の効果が期待される。
【0026】
また、実施の形態1において、凹部18を中心導体(高圧導電体)12の中心軸と垂直の外周部にリング状に一周して設ける場合について説明したが、凹部18は必ずしも連続的に繋がっている必要はなく、一部が繋がっていない場合であっても同様の効果が期待される。
【0027】
また、実施の形態1において、ガス絶縁電気機器として、密閉容器内に絶縁スペーサで支持された中心導体が収納されたガス絶縁開閉装置について説明したが、これに限定されるものではなく、遮断機、断路器、接地開閉器、あるいは避雷器等の電気機器に関しても適用できるものである。
【0028】
また、図において、同一符号は、同一または相当部分を示す。
【符号の説明】
【0029】
10 ガス絶縁開閉装置
11 金属容器
12 中心導体
13 絶縁ガス
14 絶縁スペーサ
15 電界緩和シールド
16 誘電体被覆膜
17 金属露出部
18、20、21,22 凹部
19 金属異物



【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが充填された金属容器と、
前記金属容器の内部に収容されるとともに所定の電圧が印加され、外周面に凹部が形成された高電圧導体と、
前記高電圧導体を前記金属容器に絶縁支持する絶縁支持部材と、
前記高電圧導体と前記絶縁支持部材との接合部の電界を緩和する電界緩和シールドと、
前記凹部の表面の全部または一部を除いた前記高電圧導体及び前記電界緩和シールドの表面に施された誘電体被覆膜と、
を備えたことを特徴とするガス絶縁電気機器。
【請求項2】
前記高電圧導体は円筒形状を有し、前記凹部は前記高電圧導体の長手方向に少なくとも一箇所以上形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガス絶縁電気機器。
【請求項3】
前記凹部は前記高電圧導体の外周面に一周して設けられたリング形状であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス絶縁電気機器。
【請求項4】
前記凹部の前記高電圧導体の長手方向に対する垂直断面形状が矩形、三角形、半楕円形、波形もしくはこれら複数の組み合わせであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のガス絶縁電気機器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−110191(P2012−110191A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258885(P2010−258885)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】