説明

ガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造

【課題】ガラスカーテンウォールが振動することに起因して建物の内部空間に生じる遮音欠陥を効果的に抑制することができるガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造を提供する。
【解決手段】外壁を構成するガラスカーテンウォール12と、ガラスカーテンウォール12の方立て13に取り合うことにより内部空間11a、11bを区画する耐火区画壁10と、耐火区画壁10に一端部が固定され、防火設備としてガラスカーテンウォール12に沿って水平方向に所定長さ寸法だけ延在することにより内部空間11a、11bに端部15a、15bを有する区画壁15とを備えた建物のガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造であって、区画壁15の端部15a、15b近傍とガラスカーテンウォール12との間に、通気性を有する多孔質材料からなる吸音材16を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音によってガラスカーテンウォールが振動することに起因して建物の隣接する内部空間に生じる遮音欠陥を抑制するための遮音欠陥の改善構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高層の集合住宅やホテル等の居室空間の外壁材として、ガラスカーテンウォールが多く使用されている。
図4は、従来のこの種のガラスカーテンウォールを用いた建物の要部を示すもので、図中符号1が居室空間2a、2bを仕切る遮音壁である。この遮音壁1は、例えば乾式の二重壁であり、当該遮音壁1の外周側端部に方立て3が取り付けられている。そして、水平方向に隣接する方立て3間に、二重ガラスによるガラスカーテンウォール4が取り付けられている。
【0003】
また、上記居室空間を仕切る遮音壁1が、防火区画上の面積区画となる壁に該当する場合には、遮音壁1とガラスカーテンウォール4とが取り合う部分に、所定の長さ寸法(建築基準法の施行令によれば90cm以上)の区画壁5を防火設備として取り付けることがある。
【0004】
ところで、このようなガラスカーテンウォール4を用いた建物の一方の居室空間2aにおいて音が発生すると、音源Sから発せられた音は、遮音壁1に入射して、所定のレベル以下まで遮音された後に、その透過音が隣接した居室空間2bへと伝えられる。
【0005】
また、上記音源Sからの音は、ガラスカーテンウォール4と区画壁5との間から方立て3を伝わって、隣接する居室空間2bのガラスカーテンウォール4と区画壁5との間を介して、居室空間2bへの放射音となる。この際に、方立て3は、遮音性能が低いために、当該方立て3部分における遮音欠陥を改善すべく、通常、方立て3を覆うようにして、遮音壁1の端部とガラスカーテンウォール4との間に、鉄板などの質量の大きい遮音材6を取り付ける等の方策が講じられている。
【0006】
ところが、上記音源Sからの音は、居室空間2aのガラスカーテンウォール4を振動させ、この振動が隣接する居室空間2bのガラスカーテンウォール4に伝搬して、放射音として居室空間2bに伝わる。そして特に、区画壁5の水平方向の長さ寸法が、ガラスカーテンウォール4の共鳴透過周波数およびコインシデンス周波数の(1/4+n/2)波長に近くなるために、これらガラスカーテンウォール4と区画壁5との間の空間において、共鳴現象が発生し、当該周波数において大きな遮音欠陥を生じるという問題点があり、その改善が強く望まれていた。
【0007】
なお、下記特許文献1においては、遮音欠陥の改善構造の一種として、家屋等の空間部を構成する1対の板材間に、ヘルムホルツ共鳴器を設けることにより、低周波数域での遮音性能の低下を改善するようにした遮音構造が提案されている。
【特許文献1】特開2002−356934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、ガラスカーテンウォールが振動することに起因して建物の内部空間に生じる遮音欠陥を効果的に抑制することができるガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、外壁を構成するガラスカーテンウォールと、このガラスカーテンウォールの方立てに取り合うことにより内部空間を区画する耐火区画壁と、この耐火区画壁に一端部が固定され、防火設備として上記ガラスカーテンウォールに沿って水平方向に所定長さ寸法だけ延在することにより上記内部空間に端部を有する区画壁とを備えた建物の上記ガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造であって、上記区画壁の上記端部近傍と上記ガラスカーテンウォールとの間に、通気性を有する多孔質材料からなる吸音材を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記区画壁が、ガラスまたは網入りガラスからなることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記吸音材と上記ガラスカーテンウォールまたは上記区画壁との間には、通気用の隙間が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記耐火区画壁と上記ガラスカーテンウォールとの間には、遮音材が介装されていることを特徴とするものである。
【0013】
そして、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記吸音材が、上記ガラスカーテンウォールの共鳴透過周波数の(1/4+n/2、n=0、1、2、…)の波長の音を吸音可能な位置に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜5のいずれかに記載の発明においては、区画壁の端部近傍とガラスカーテンウォールとの間に、通気性を有する多孔質材料からなる吸音材を設けているために、建物の内部空間等において発生した音によってガラスカーテンウォールが振動した場合においても、ガラスカーテンウォールと区画壁との間の空間に入射した空気の振動を、上記吸音材によって緩衝して上記振動に起因する音を吸音することにより、遮音欠陥を改善させることができる。
【0015】
また、請求項2に記載の発明によれば、上記区画壁をガラスまたは網入りガラスによって構成していることに加えて、上記吸音材が上記ガラスの端部近傍とガラスカーテンウォールとの間に設けられているために、上記区画壁や吸音材が内部空間側から外方を眺める際の視界の妨げになることがない。
【0016】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、上記吸音材とガラスカーテンウォールまたは区画壁との間に、通気用の隙間を形成しているために、ガラスカーテンウォールと区画壁との間の空気層が日射し等によって暖められた際にも、当該空気層の熱を上記隙間から逃がすことにより熱だまりが生じることを防止することができる。
【0017】
なお、上記吸音材によって、音が発生した建物の内部空間からガラスカーテンウォールと区画壁との間を通じて隣接する内部空間へ伝わる音を吸収して、遮音欠陥を改善することができるが、請求項4に記載の発明のように、上記耐火区画壁とガラスカーテンウォールとの間に遮音材を介装すれば、遮音性能に劣る方立てに音が伝搬することも抑制することができるために、一層遮音欠陥を改善することができて好適である。
【0018】
さらに、ガラスカーテンウォールと区画壁との間の空間が、ガラスカーテンウォールの共鳴透過周波数の(1/4+n/2、n=0、1、2、…)波長、具体的には1/4波長(n=0)、4/3波長(n=1)、4/5波長(n=2)等と共鳴現象を発生すると、当該周波数において、局部的に遮音欠陥が増大することになる。この際に、上記波長の長さに対応する上記空間の位置において、空気の振動速度が最大になる。
【0019】
そこで、請求項5に記載の発明のように、上記吸音材を、上記ガラスカーテンウォールの共鳴透過周波数の(1/4+n/2、n=0、1、2、…)の波長の音を吸音可能な位置に設ければ、上記共鳴現象によって激しく振動する空気と多孔質の吸音材との摩擦によって、音のエネルギーを効率的に吸収して熱エネルギーに変換することができる。この結果、ガラスカーテンウォールと区画壁との間に入射する音のエネルギーを吸収して、上記空間に入射する音を効果的に低減することができる。
【0020】
なお、一般的な複層ガラスのガラスカーテンウォールを用いた場合には、上記共鳴透過周波数が200Hz付近にあるために、一方の内部空間に設ける区画壁の水平方向の長さ寸法が30〜45cm程度であることを考慮すると、上記吸音材を区画壁の端部に設けることにより、上記ガラスカーテンウォールの共鳴透過周波数の1/4波長における遮音欠陥を効率的に改善することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1および図2は、本発明に係るガラスカーテンウォールによる遮音欠陥の改善構造の一実施形態を示すもので、図中符号10が居室空間(内部空間)11a、11bを仕切る耐火区画壁である。この耐火区画壁10は、乾式の二重壁によって構成された遮音壁であり、その外周側端部は、バックアップ材18およびシール材19を間に介して複層ガラスによるガラスカーテンウォール12の方立て13に隣接配置されている。
【0022】
また、方立て13の両側には、当該方立て13を覆うようにして、内部にガラスウールやロックウールが充填された鉄板などの質量の大きな遮音材14が、防火区画壁10の外周側端部とガラスカーテンウォール12との間に設けられている。
そして、この遮音材14に、防火設備となる区画壁15がガラスカーテンウォール12に沿って取り付けられている。この区画壁15は、耐火強化ガラスからなるもので、ガラスカーテンウォール12と平行に設けられている。
【0023】
ここで、区画壁15の水平方向の長さ寸法は、一方の居室空間11aの端部15aから他方の居室空間11bの端部15bまでが、建築基準法に基づいて要求される90cm以上となるように設定されており、かつ遮音材14および区画壁15は、それぞれ居室空間11a、11bの床レベルから天井レベルまで形成されている。
【0024】
そして、この区画壁15の端部15a、15bとガラスカーテンウォール12との間に、連続気泡等によって通気性を有する多孔質材料からなる帯板状の吸音材16が設けられている。
すなわち、ガラスカーテンウォール12の共鳴透過周波数が200Hz付近にあるのに対して、遮音材14から区画壁15の端部15a、15bまでの長さ寸法は、30〜40cmになる。この結果、吸音材16は、ガラスカーテンウォール12の共鳴透過周波数の1/4波長(42cm程度)の音を吸音可能な位置に設けられている。
【0025】
なお、この吸音材16としては、通気性を有して音波も通過できるものであれば、グラスウール、ロックウール、アルミ系多孔質吸音材、セラミックス系多孔質吸音材等を用いることができ、グラスウールやロックウール等の繊維系に材料を使用する場合には、金属製のパンチングメタル等の通気性を有する補強板で覆って取り付けることが好ましい。
【0026】
さらに、この吸音材16は、その一方の側面が区画壁15に当接するとともに、他方の側面とガラスカーテンウォール12との間に、通気用の隙間17が形成されるように取り付けられている。
ここで、吸音材16の取付構造としては、その上下端部を窓枠の上下部または天井や床に固定したり、また上下端部を窓枠の上下部または天井や床に幅方向の一端部で軸支して回転自在に設けたり、あるいは取り外し自在に取り付ける等の各種構造を採用することができる。
【0027】
以上の構成からなるガラスカーテンウォール12による遮音欠損の改善構造によれば、区画壁15の端部15a、15bとガラスカーテンウォール12との間に、通気性を有する多孔質材料からなる吸音材16を設けているために、居室空間11a、11b等において発生した音によってガラスカーテンウォール12が振動した場合においても、ガラスカーテンウォール12と区画壁15との間の空間に入射した空気の振動を、吸音材16によって緩衝して上記振動に起因する音を吸音することにより、遮音欠陥を改善させることができる。
【0028】
この際に、特に吸音材16を、ガラスカーテンウォール12の共鳴透過周波数の1/4波長の音を吸音可能な位置に設けているために、区画壁15とガラスカーテンウォール12との間の空間において生じる共鳴現象によって激しく振動する空気を、多孔質の吸音材16との摩擦によって、音のエネルギーを効率的に吸収して熱エネルギーに変換することができ、よって上記空間に入射する音のエネルギーを吸収して、効果的に低減することができる。
【0029】
ちなみに、図3に示すように、上記吸音材16を設けない場合と、設けた場合とについて音響透過損失による遮音性能を測定したところ、図中点線で示す吸音材16を設けなかった場合に生じる遮音欠損Aが、図中実線で示す吸音材16を設けた場合には、大幅に改善されていることが実証された。
【0030】
また、上記遮音欠損の改善構造においては、区画壁15を耐火強化ガラスによって構成するとともに、吸音材16が板面を区画壁15およびガラスカーテンウォール12に対して垂直に設けられているために、居室空間11a、11bから外部を眺める際に、区画壁15や吸音材16が視界の妨げになることがない。
【0031】
さらに、吸音材16とガラスカーテンウォール12との間に、通気用の隙間17を形成しているために、ガラスカーテンウォール12と区画壁15との間の空気層が日射し等によって暖められた際にも、当該空気層の熱を隙間17から逃がすことにより熱だまりが生じることを防止することができる。
【0032】
なお、上記実施の形態においては、ガラスカーテンウォール12が複層ガラスによる場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、二重ガラス、単板ガラス、合わせガラス等の他のガラスを用いた場合にも、遮音欠損の改善効果を得ることができる。
【0033】
また、本発明においては、防火設備として耐火区画壁に一端部が固定され、ガラスカーテンウォールに沿って水平方向に所定長さ寸法だけ延在する区画壁の端部近傍と上記ガラスカーテンウォールとの間に、通気性を有する多孔質材料からなる吸音材を設けたものであるが、区画壁を設ける必要のない一般的な壁によって仕切られた空間に対しても、遮音欠損を改善する必要がある場合には、上記区画壁に対応する構成の壁部材を設け、当該壁部材とガラスカーテンウォールとの間に同様の吸音材を設けることにより、同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造の一実施形態を示す平断面図である。
【図2】図1の吸音材を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る遮音欠陥の改善構造の効果を示すグラフである。
【図4】従来のガラスカーテンウォールを用いた建物の要部と音の伝わり状態を示す平断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10 耐火区画壁
11a、11b 居室空間(内部空間)
12 ガラスカーテンウォール
13 方立て
14 遮音材
15 区画壁
15a、15b 端部
16 吸音材
17 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁を構成するガラスカーテンウォールと、このガラスカーテンウォールの方立てに取り合うことにより内部空間を区画する耐火区画壁と、この耐火区画壁に一端部が固定され、防火設備として上記ガラスカーテンウォールに沿って水平方向に所定長さ寸法だけ延在することにより上記内部空間に端部を有する区画壁とを備えた建物の上記ガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造であって、
上記区画壁の上記端部近傍と上記ガラスカーテンウォールとの間に、通気性を有する多孔質材料からなる吸音材を設けたことを特徴とするガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造。
【請求項2】
上記区画壁は、ガラスまたは網入りガラスからなることを特徴とする請求項1に記載のガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造。
【請求項3】
上記吸音材と上記ガラスカーテンウォールまたは上記区画壁との間には、通気用の隙間が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造。
【請求項4】
上記耐火区画壁と上記ガラスカーテンウォールとの間には、遮音材が介装されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造。
【請求項5】
上記吸音材は、上記ガラスカーテンウォールの共鳴透過周波数の(1/4+n/2、n=0、1、2、…)の波長の音を吸音可能な位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のガラスカーテンウォールによる遮音欠損の改善構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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