説明

ガラスゴブの製造方法及び製造装置、並びにガラス成形体の製造方法及び製造装置

【課題】溶融ガラス滴の落下距離を変更することなく、溶融ガラス滴と下型との接触面の直径を任意に調整できるガラスゴブ及びガラス成形体のそれぞれの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】下型は上方又は下方に移動しながら溶融ガラス滴を受け、前記下型が前記溶融ガラス滴を受けたときの、前記溶融ガラス滴と前記下型との接触面の直径が所望の大きさになるように、前記下型の速度を調整することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスゴブの製造方法及び製造装置、並びにガラス成形体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ用レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、光通信用のカップリングレンズ等として、ガラス製の光学素子が広範にわたって利用されている。このようなガラス製の光学素子として、ガラス素材を成形型で加圧成形して製造したガラス成形体を用いることが多くなってきた。
【0003】
加圧成形によってガラス成形体を製造する方法として、液滴成形法やリヒートプレス法が知られている。
【0004】
液滴成形法は、所定温度に加熱した下型に溶融ガラス滴を滴下させ、滴下した溶融ガラス滴を、下型と上型とで加圧成形してガラス成形体を得る方法である。この方法は、下型や上型等の加熱と冷却を繰り返す必要がなく溶融ガラス滴から直接、最終形態のガラス成形体を製造することができるので、1回の成形に要する時間を非常に短くできることから注目されている方法である。
【0005】
また、リヒートプレス法は、予め作製しておいた所定質量及び形状を有するガラスゴブ(予備成形体)を成形型とともに加熱して加圧成形する方法であり、ガラス溶融炉等の設備を必要としないことから広く実施されている。このリヒートプレス法におけるガラスゴブの製造方法としては、下型に溶融ガラス滴を滴下させ、滴下した溶融ガラス滴を冷却固化させてガラスゴブとする方法がある。
【0006】
しかしながら、上記の方法でガラス成形体やガラスゴブを製造する際、下型に溶融ガラス滴を滴下させた時の溶融ガラス滴と下型との接触面(初期の接触面とも呼ぶ。)が硬化してしまう。そのため、その後溶融ガラス滴の追加や上型の押圧等でガラス滴と下型との接触面の拡大を行っても、初期の接触面よりも外側に溶融ガラスが伸ばされ形成された新たな下型との接触面と、初期の接触面との間に窪みが発生するという問題がある。
【0007】
図9(a)は、下型101に溶融ガラス滴102を滴下した後の状態の断面図を示している。停止している下型101の上方から溶融ガラス滴102を滴下した場合、滴下後の下型101と溶融ガラス滴102との初期の接触面の直径は、図9(a)のようにd1となる。次に、初期の接触面の直径d1よりも大きい直径d2を得ようとして、上型103の加圧により、溶融ガラス滴20と下型101との接触面の拡大を行うと、初期の接触面と新たに拡大した接触面との境界に段差が生じ、窪みKが発生する。この窪みKは、ガラス成形体の表面に凹部として残り、問題となっていた。
【0008】
このような問題点に対して、特許文献1においては、下型に溶融ガラス滴を滴下させた時の溶融ガラス滴と下型との初期の接触面の直径を調整する方法として、溶融ガラス滴が下型まで落下する落下高さを20〜200cmの間で調整する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−263415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、溶融ガラス滴の落下距離により、溶融ガラス滴と下型との初期の接触面の直径の調整を行っているため、落下距離を大きく変更しなければならない。そのため、溶融ガラスの成形装置が大きくなるという問題がある。
【0011】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶融ガラス滴の落下距離を変更することなく、溶融ガラス滴が下型に滴下したときの接触面の直径を任意に調整できるガラスゴブ及びガラス成形体のそれぞれの製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0013】
1.下型に溶融ガラス滴を滴下する工程と、
滴下した前記溶融ガラス滴を前記下型の上で冷却固化する工程と、を有するガラスゴブの製造方法において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受け、
前記下型が前記溶融ガラス滴を受けたときの、前記溶融ガラス滴と前記下型との接触面の直径が所望の大きさになるように、前記下型の速度を調整することを特徴とするガラスゴブの製造方法。
【0014】
2.溶融ガラス滴を受ける下型を有するガラスゴブの製造装置において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受ける下型駆動装置を備え、
前記下型駆動装置は、前記下型の移動速度を調整する手段を有することを特徴とするガラスゴブの製造装置。
【0015】
3.下型に溶融ガラス滴を滴下する工程と、
滴下した前記溶融ガラス滴を、前記下型及び前記下型に対向する上型により加圧成形する工程と、を有するガラス成形体の製造方法において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受け、
前記下型が前記溶融ガラス滴を受けたときの、前記溶融ガラス滴と前記下型との接触面の直径が所望の大きさになるように、前記下型の速度を調整することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
【0016】
4.溶融ガラス滴を受ける下型と、
該下型に滴下された前記溶融ガラス滴を、前記下型と協働して加圧成形する上型と、
を備えたガラス成形体の製造装置において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受ける下型駆動装置を備え、
前記下型駆動装置は、前記下型の移動速度を調整する手段を有することを特徴とするガラス成形体の製造装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガラスゴブの製造方法及び製造装置、並びにガラス成形体の製造方法及び製造装置によれば、下型を上方又は下方に移動させながら溶融ガラス滴を下型で受けるようにし、下型が溶融ガラス滴を受けたときの、溶融ガラス滴と下型との接触面の直径が所望の大きさになるように、下型の移動速度を調整している。よって、溶融ガラス滴の落下距離を変更することなく、溶融ガラス滴が下型に滴下したときの接触面の直径を任意に調整できるガラスゴブ及びガラス成形体のそれぞれの製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のガラスゴブの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】下型10を上方に移動させながら溶融ガラス滴を下型で受ける工程を示す模式図である。
【図3】下型10を下方に移動させながら溶融ガラス滴を下型で受ける工程を示す模式図である。
【図4】下型10を上方に移動させながら溶融ガラス滴を受けた状態を示す模式図である。
【図5】下型10を下方に移動させながら溶融ガラス滴を受けた状態を示す模式図である。
【図6】本発明のガラス成形体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】ガラス成形体の製造装置(工程S204における状態)を示す模式図である。
【図8】ガラス成形体の製造装置(工程S207における状態)を示す模式図である。
【図9】ガラス成形体の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図8を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
(ガラスゴブの製造方法)
本発明のガラスゴブの製造方法について図を参照しながら説明する。図1は、ガラスゴブの製造方法の一例を示すフローチャートである。図2及び図3は、下型10が下方又は上方に移動しながら、溶融ガラス滴を下型で受ける工程(工程S103)を示している。図2は、下型10が上方に移動しながら、溶融ガラス滴を下型で受ける工程を示し、図3は、下型10が下方に移動しながら、溶融ガラス滴を下型で受ける工程を示している。
【0021】
下型10は、図示しない加熱手段によって所定温度に加熱できるように構成されている。加熱手段は、公知の加熱手段を適宜選択して用いることができる。例えば、下型10の内部に埋め込んで使用するカートリッジヒーターや、下型10の外側に接触させて使用するシート状のヒーター、赤外線加熱装置、高周波誘導加熱装置等を用いることができる。
【0022】
また、下型10の上方には、溶融状態のガラス24を貯留する溶融槽25と、その下部に設けられた滴下ノズル26とが配置されている。
【0023】
以下、図1に示すフローチャートに従い、順を追って各工程について説明する。
【0024】
先ず、下型10を予め所定温度に加熱しておく(工程S101)。下型10の温度が低すぎると、ガラスゴブの下面(下型10との接触面)に大きなしわが発生する場合や、急速に冷却されることによってガラスゴブにワレが発生する場合がある。逆に、必要以上に温度を高くしすぎると、ガラスと下型10との間に融着が発生しやすくなり、また、下型10の寿命が短くなるおそれがある。実際には、ガラスの種類や、形状、大きさ、下型10の材質、大きさなど種々の条件によって適正な温度が異なるため、実験的に適正な温度を求めておくことが好ましい。通常は、ガラスのガラス転移点をTgとしたとき、Tg−100℃からTg+100℃程度の温度に設定することが好ましい。
【0025】
次に、下型10を上方又は下方に移動を開始する(工程S102)。下型10の移動には、下型駆動装置30を用いて行う。下型駆動装置30は、モータ部31と回転部32、移動部33を有し、移動部33には下型10が連結している。モータ31により回転部32が右又は左方向に回転することにより、移動部33が、上方又は下方に所定の速度で移動する。移動部33が移動することにより、連結されている下型10が上方又は下方に所定の速度で移動する。下型駆動装置30は、モータ31の回転速度を調整して、下型を所定の速度で移動させる移動速度調整手段を有している。
【0026】
上方又は下方に移動する下型10の移動速度V1、V2は、得ようとする溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径により決まる。溶融ガラス滴20の質量、温度、溶融ガラス滴20の滴下距離L1、L2の値が固定された状態で、下型10の上方又は下方へ移動させる移動速度を調整することで、下型10が移動しながら溶融ガラス滴20と衝突したときの衝撃力を調整することができる。この衝撃力を調整して、溶融ガラス滴20が下型10に滴下した時の接触面の直径を必要とする値に調整することができる(図2、図3参照)。
【0027】
図4は、下型10を所定の速度で上方に移動させながら溶融ガラス滴20を受け、その後停止させた状態の下型10上の溶融ガラス滴20の形状を実線で示した図である。また、破線は、同じ落下距離のところで静止している下型10に同じ溶融ガラス滴20を落下させた場合の溶融ガラス滴10の形状を示す。下型10を所定の速度で上方に移動させながら溶融ガラス滴20を受けることにより、溶融ガラス滴20と下型10との衝撃力が、静止した下型10と溶融ガラス滴との衝撃力よりも大きくなる。よって、下型10を上方に移動させながら溶融ガラス滴20を受けることにより、溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径d3を、静止している下型10で溶融ガラス滴20を受ける場合の溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径d4よりも大きくすることができる。
【0028】
図5は、下型10を所定の速度で下方に移動させながら溶融ガラス滴20を受け、その後停止させた状態の下型10上の溶融ガラス滴20の形状を実線で示した図である。また、破線は、同じ落下距離のところで静止している下型10に同じ溶融ガラス滴20を落下させた場合の溶融ガラス滴10の形状を示す。下型10を所定の速度で下方に移動させながら溶融ガラス滴20を受けることにより、溶融ガラス滴20と下型10との衝撃力が、静止した下型10と溶融ガラス滴との衝撃力よりも小さくなる。よって、下型10を下方に移動させながら溶融ガラス滴20を受けることにより、溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径d5を、静止している下型10で溶融ガラス滴20を受ける場合の溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径d4よりも小さくすることができる。
【0029】
このように溶融ガラス滴20と下型10との衝突時における衝撃力を、下型10の上方又は下方への移動速度で調整することで、溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径を調整することができる。
【0030】
図1のフローチャートに戻って、所定の速度で移動を始めた下型10に、下型10を移動させながら、溶融ガラス滴20を滴下する(工程S103)。この時の下型10と溶融ガラス滴20とが滴下距離Lで衝突するときの衝撃力は、前述のように溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径が所定の値になるようにしている。溶融ガラス滴20は、ヒーターによって加熱され、内部に溶融状態のガラス24が貯留されている溶融槽25の滴下ノズル26の先端部から自然に分離して、一定質量の溶融ガラス滴20が所定の温度で下方に滴下されるようにしている。図1のフローチャートでは、下型を移動開始した後に溶融ガラス滴を滴下するようにしているが、溶融ガラス滴を滴下した後に、所定の滴下距離のところで所定の速度の下型と溶融ガラス滴が衝突するように下型を動かすようにしても良い。また、溶融ガラス滴の落下タイミングをセンサーで検知し、その検知結果をもとに下型を所定の速度で動かすように制御しても良い。
【0031】
次に、下型10を停止させ(工程S104)、滴下した溶融ガラス滴20を、下型10の上で冷却固化する(工程S105)。下型10の上で所定時間放置することによって、溶融ガラス滴20は下型10や周囲のエアーへの放熱によって冷却され、固化する。下型10と溶融ガラス滴20とは、調整された衝撃力で衝突するようにしているので、固化したガラスゴブの下型と接する接触面の直径は所定の直径となる。
【0032】
その後、固化したガラスゴブを回収し(工程S106)、ガラスゴブの製造が完成する。ガラスゴブの回収は、例えば、真空吸着を利用した公知の回収装置等を用いて行うことができる。更に引き続いてガラスゴブの製造を行う場合は、工程S101以降の工程を繰り返せばよい。
【0033】
なお、本実施形態の製造方法により製造されたガラスゴブ27は、リヒートプレス法のガラスプリフォーム(ゴブプリフォーム)として、各種精密光学素子の製造に用いることができる。
【0034】
(ガラス成形体の製造方法)
本発明のガラス成形体の製造方法について図6〜図8を参照しながら説明する。図6は、ガラス成形体の製造方法の一例を示すフローチャートである。また、図7、図8は本実施形態で用いるガラス成形体の製造装置を示す模式図(断面図)である。図7は滴下された溶融ガラス滴を下型で受ける工程(工程S204)における状態を、図8は、受けた溶融ガラス滴を下型と上型とで加圧する工程(工程S207)における状態を、それぞれ示している。
【0035】
図7及び図8に示す下型10及び上型40は、同じ材質からなり、溶融ガラス滴20を加圧するための成形面を有している。
【0036】
下型10は、下型駆動装置30により、滴下ノズル26の下方で溶融ガラス滴20を受けるための位置(滴下位置P1)と、上型40と対向して溶融ガラス滴20を加圧成形するための位置(加圧位置P2)との間で移動可能に構成されている。また上型40は、図示しない駆動手段により、下型10との間で溶融ガラス滴を加圧する方向(図の上下方向)に移動可能に構成されている。
【0037】
以下、図6に示すフローチャートに従い、順を追って各工程について説明する。
【0038】
先ず、下型10及び上型40を予め所定温度に加熱しておく(工程S201)。下型10及び上型40は、図示しない加熱手段によって所定温度に加熱できるように構成されている。下型10と上型40とをそれぞれ独立して温度制御することができる構成とすることが好ましい。所定温度とは、加圧成形によってガラス成形体に良好な転写面を形成できる温度を適宜選択すればよい。下型10と上型40の加熱温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
次に、下型10を滴下位置P1に移動し(工程S202)、下型10を上方又は下方に移動を開始する(工程S203)。下型10の移動には、下型駆動装置30を用いて行う。下型駆動装置30は、ガラスゴブの製造装置と同様に、モータ部31と回転部32、移動部33を有し、移動部33には下型10が連結している。モータ31により回転部32が右又は左方向に回転することにより、移動部33が、上方又は下方に所定の速度で移動する。移動部が移動することにより、連結されている下型10が上方又は下方に所定の速度で移動する。下型駆動装置30は、モータ31の回転速度を調整して、下型を所定の速度で移動させる移動速度調整手段を有している。
【0040】
上方又は下方に移動する下型10の移動速度V1、V2は、ガラスゴブの製造方法と同様に、得ようとする溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径により決まる。溶融ガラス滴20の質量、温度、溶融ガラス滴20の滴下距離L1、L2の値が固定された状態で、下型10の上方又は下方へ移動させる移動速度を調整することで、下型10が移動しながら溶融ガラス滴20と衝突したときの衝撃力を調整することができる。この衝撃力を調整して、必要とする溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径を得ることができる。
【0041】
所定の速度で移動を始めた下型10に、溶融ガラス滴20を滴下する(工程S204)。この時の移動する下型10と溶融ガラス滴20とが滴下距離Lで衝突するときの衝撃力は、前述のように溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径が所定の値になるようにしている。溶融ガラス滴20は、ヒーターによって加熱され、内部に溶融状態のガラス24が貯留されている溶融槽25のノズル26の先端部から自然に分離して、一定質量の溶融ガラス滴20が所定の温度で下方に滴下されるようにしている。
【0042】
次に、下型10を停止させ(工程S205)、下型10を加圧位置P2に移動させる(工程S206)。滴下位置P1から加圧位置P2への移動は、下型駆動装置30により行う。
【0043】
加圧位置P2に移動した下型10と上型40とで溶融ガラス滴20を加圧して成形する(工程S207)。溶融ガラス滴20は、加圧されている間に下型10や上型40との接触面からの放熱によって冷却され、固化する。加圧を解除してもガラス成形体28に形成された転写面の形状が崩れない温度にまで冷却された後、加圧を解除する。ガラスの種類や、ガラス成形体の大きさや形状、必要な精度等によるが、通常はガラスのTg近傍の温度まで冷却されていればよい。
【0044】
溶融ガラス滴20を加圧するために負荷する荷重は、常に一定であってもよいし、時間的に変化させてもよい。負荷する荷重の大きさは、製造するガラス成形体28のサイズ等に応じて適宜設定すればよい。また、上型40を上下移動させる駆動手段に特に制限はなく、エアシリンダ、油圧シリンダ、サーボモータを用いた電動シリンダ等の公知の駆動手段を適宜選択して用いることができる。
【0045】
次に上型40を退避させてガラス成形体28を回収し(工程S208)、ガラス成形体28の製造が完成する。ガラス成形体28の回収は、例えば、真空吸着を利用した公知の回収装置等を用いて行うことができる。更に引き続いてガラス成形体の製造を行う場合は、工程S201以降の工程を繰り返せばよい。
【0046】
なお、本発明のガラス成形体の製造方法は、ここで説明した以外の別の工程を含んでいてもよい。例えば、ガラス成形体28を回収する前にガラス成形体28の形状を検査する工程や、ガラス成形体28を回収した後に下型10や上型30をクリーニングする工程等を設けてもよい。
【0047】
また、前述したガラスゴブの製造方法及びガラス成形体の製造方法で用いた下型10及び上型40の金型に好ましく用いることができる材料として、例えば、各種耐熱合金(ステンレス等)、炭化タングステンを主成分とする超硬材料、各種セラミックス(炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム等)、カーボンを含んだ複合材料等が挙げられる。
【0048】
また、下型10及び上型40の成形面の加工は特に限定するものではないが、旋盤等を用いた機械加工により形成することができる。加工した成形面の表面には、被覆層が形成されていても良く、また、表面粗さも特に限定するものではない。
【0049】
本発明の製造方法により製造されたガラス成形体は、デジタルカメラ等の撮像レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、光通信用のカップリングレンズ等の各種光学素子として用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
先ず、炭化珪素からなる上型及び下型の基材に、深さ4mm、凹面の半径4.25mmに成形面を機械加工した。この金型を用いて、図6に示すフローチャートに従ってガラス成形体の製造を行った。ガラス材料にはTgが480℃のリン酸系ガラスを用いた。滴下ノズル26の先端付近の温度は950℃とし、約500mgの溶融ガラス滴20が滴下するように設定した。また、工程S201における加熱温度は、下型が500℃、上型が450℃とし、工程S207における加圧の際の荷重は1800Nとした。
【0052】
溶融ガラス滴20を下型10に滴下するとき、滴下距離L(ノズル先端から滴下した溶融ガラス滴20が下型10の成形面に衝突するときの距離)を200mmに固定して、下型10を表1に示す速度で上方に移動させた。下型10の移動は、ノズル先端から下方250mmから開始し、200mmで溶融ガラス滴20を受け、150mmの位置で停止した。その後、下型10を加圧位置P2に移動させた後、上型40を用いて、溶融ガラス滴20を成形した。この時の溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径を測定した。
【0053】
測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から、下型10の上方への移動速度を50〜300mm/sの間調整することにより、ガラス成形体の下型10と接触する面の直径を8〜9mmまで調整することができることが判る。
【0056】
(実施例2)
実施例2は、実施例1において、滴下距離を600mmに変え、下型10の移動方向を下方にし、下型10の移動を、ノズル先端から下方550mmから開始し、600mmで溶融ガラス滴20を受け、650mmの位置で停止した他は、実施例1と同様にして、溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径を測定した。
【0057】
測定結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果から、下型10の下方への移動速度を50〜300mm/sの間調整することにより、溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径を8〜9mmまで調整することができることが判る。
【0060】
(比較例1)
比較例1としては、実施例1において、滴下距離を表3のように変化させ、それぞれの滴下距離のところに下型10を固定させた状態で溶融ガラス滴20を受けた他は、実施例1と同様にして、溶融ガラス滴20と下型10との接触面の直径を測定した。
【0061】
測定結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の結果から、下型10を固定した状態で溶融ガラス滴20を受ける場合、下型と接触した面の直径を7〜10mmに調整するのに、滴下距離を100〜700mmの間に調整する必要がある。
【0064】
以上のように実施例1、2及び比較例1の結果から、溶融ガラス滴と下型との接触面の直径を調整する場合に、下型を上方又は下方に移動させながら溶融ガラス滴を受けるようにすることで、容易に調整することができる。また、下型の移動距離は、下型を所定の速度にできる距離であれば良く、本実施例では、100mmの間隔があれば十分であった。よって、比較例1のように滴下距離を変えて、溶融ガラス滴と下型との接触面の直径を調整する方法に比べ、装置をコンパクトにすることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 下型
20 溶融ガラス滴
21 エアー溜まり
24 ガラス
25 溶融槽
26 滴下ノズル
30 下型駆動装置
31 モータ
32 回転部
33 移動部
40 上型
28 ガラス成形体
P1 滴下位置
P2 加圧位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型に溶融ガラス滴を滴下する工程と、
滴下した前記溶融ガラス滴を前記下型の上で冷却固化する工程と、を有するガラスゴブの製造方法において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受け、
前記下型が前記溶融ガラス滴を受けたときの、前記溶融ガラス滴と前記下型との接触面の直径が所望の大きさになるように、前記下型の速度を調整することを特徴とするガラスゴブの製造方法。
【請求項2】
溶融ガラス滴を受ける下型を有するガラスゴブの製造装置において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受ける下型駆動装置を備え、
前記下型駆動装置は、前記下型の移動速度を調整する手段を有することを特徴とするガラスゴブの製造装置。
【請求項3】
下型に溶融ガラス滴を滴下する工程と、
滴下した前記溶融ガラス滴を、前記下型及び前記下型に対向する上型により加圧成形する工程と、を有するガラス成形体の製造方法において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受け、
前記下型が前記溶融ガラス滴を受けたときの、前記溶融ガラス滴と前記下型との接触面の直径が所望の大きさになるように、前記下型の速度を調整することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
溶融ガラス滴を受ける下型と、
該下型に滴下された前記溶融ガラス滴を、前記下型と協働して加圧成形する上型と、
を備えたガラス成形体の製造装置において、
前記下型は上方又は下方に移動しながら前記溶融ガラス滴を受ける下型駆動装置を備え、
前記下型駆動装置は、前記下型の移動速度を調整する手段を有することを特徴とするガラス成形体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−275121(P2010−275121A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126255(P2009−126255)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)