説明

ガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法

【課題】炉心管内部を正圧状態に維持するために必要な不活性ガスの供給量を低減できるガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法を実現できること。
【解決手段】本発明にかかるガラスロッド延伸装置100は、加熱炉1の炉心管4内に導入したガラスロッド15を加熱処理し、この加熱処理によって溶融軟化したガラスロッド15を所望の外径に延伸加工し、この延伸加工後のガラスロッド(延伸済みロッド15a)を炉心管4から引き出すものである。このようなガラスロッド延伸装置100では、加熱炉1の引出口側の下部開口部3bと支持棒17および下部チャック19との間を伸縮自在な筒部2によって覆い、炉心管4の内部空間に連通する閉空間を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材または石英管等の中実または中空のガラスロッドを延伸するガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ファイバ母材等の中実のガラスロッドまたは石英管等の中空のガラスロッドを延伸加工するガラスロッド延伸装置が提案されている。ガラスロッド延伸装置は、ガラスロッドを加熱するための加熱手段として例えば酸水素火炎バーナまたは電気加熱炉を有し、延伸方向の両端が把持されたガラスロッドを加熱し、このガラスロッドを端部から順次溶融軟化させるとともに延伸方向に引っ張る。この場合、ガラスロッド延伸装置は、例えば、電気加熱炉の炉心管内に挿入したガラスロッドを下端部から上端部に向けて順次加熱処理するとともに、このガラスロッドの溶融軟化部分を鉛直下方に延伸する。このようにして、ガラスロッド延伸装置は、ガラスロッドを所望の外径に延伸加工する。
【0003】
このようなガラスロッド延伸装置には、電気加熱炉の上端部、すなわち炉心管内にガラスロッドを挿入する側の一端部に、炉心管の一開口端(ガラスロッド挿入口)をガラスロッドとともに覆う筒部が設けられたものがある。例えば図12に示すように、このようなガラスロッド延伸装置500は、ガラスロッド600を加熱処理する電気加熱炉501と、電気加熱炉501のガラスロッド挿入口をガラスロッドとともに覆う筒部502とを有する。
【0004】
具体的には、電気加熱炉501は、炉体503内部にガラスロッド600の挿入管路を形成するカーボン製の炉心管504を有し、さらに、この炉心管504の外周に配置されたヒータ505と、炉心管504またはヒータ505の外周に配置された断熱材506とを有する。一方、筒部502は、電気加熱炉501の上部に設けられ、ガラスロッド挿入口である炉心管504の上部開口部501aを内部に覆うとともに、炉心管504に連通する貫通孔を形成する。また、筒部502の上部開口端には、支持棒601を挿通可能な貫通孔を形成するとともに筒部502の上部開口端を略閉塞する蓋502aが取り付けられる。かかる蓋502aが取り付けられた筒部502は、ガラスロッド挿入口である上部開口部501aからの外気の流入を防止する。
【0005】
なお、延伸加工を行う際は、一般的にはガラスロッド600は、上端部および下端部に支持棒601,602がそれぞれ取り付けられる。また、支持棒601,602は、チャック603,604によってそれぞれ把持される。
【0006】
ここで、ガラスロッド延伸装置500がガラスロッド600を延伸加工する場合、電気加熱炉501は、炉心管504の内部に導入されたガラスロッド600をヒータ505によって加熱処理し、ガラスロッド600を下端部から上端部に向けて順次溶融軟化させる。これと同時に、ガラスロッド600は、チャック603,604に把持された支持棒601,602によって鉛直方向に張力が加えられ、順次溶融軟化した部分が所望の外径まで細くなるように引き伸ばされる。このように延伸加工されたガラスロッド600は、下部開口部501bを通って炉心管504から引き出される。
【0007】
この場合、かかるガラスロッド延伸装置500の内部空間、すなわち蓋502aが取り付けられた筒部502と炉心管504とによって形成された内部空間には、炉心管内504内への外気の流入を防止するために、アルゴンガス(Arガス)等の不活性ガスが供給される。この内部空間に不活性ガスが供給されることによって、この内部空間は、不活性ガスを充満させた状態であって外部の大気圧に比して高圧状態(すなわち正圧状態)に維持される。これは、カーボン部品である炉心管504が外気中の酸素によって酸化される(すなわち損傷する)ことを防止するためである。
【0008】
なお、このようなガラスロッド延伸装置として、筒構造の長手方向に伸縮自在な筒部を電気加熱炉の上端部に設け、かかる伸縮自在な筒部によってガラスロッド挿入口をガラスロッドとともに覆うようにしたものがある(例えば、特許文献1および2を参照)。かかる電気加熱炉の上部の筒部を伸縮自在な構造にすることによって、ガラスロッドの上端部に取り付けられる支持棒の長さを比較的短くすることができる。
【0009】
【特許文献1】特開平6−256034号公報
【特許文献2】特開平11−349342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した従来のガラスロッド延伸装置は、延伸加工後のガラスロッドの引出口である炉心管の下部開口部を装置外部に露出しているため、このガラスロッド延伸装置の内部空間に充満させた不活性ガスを炉心管の下部開口部から装置外部に大量に流出する。このことは、炉心管の内径が延伸加工前のガラスロッドを挿通可能な程度であるため、延伸加工後のガラスロッドと炉心管の内壁との間に大きな間隙が生じることに起因する。すなわち、炉心管内部を正圧状態に維持するために、この内部空間に大量の不活性ガスを供給しなければならないという問題点があった。なお、このように内部空間に供給される不活性ガスは一般に高価なものであるため、その供給量の低減が要望されている。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、炉心管内部を正圧状態に維持するために必要な不活性ガスの供給量を低減できるガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1にかかるガラスロッド延伸装置は、加熱炉の炉心管内に導入したガラスロッドを加熱処理し、該加熱処理によって溶融軟化した前記ガラスロッドを所望の外径に延伸加工し、この延伸加工後のガラスロッドを前記炉心管から引き出すガラスロッド延伸装置において、前記加熱炉の引出口側の開口部と前記延伸加工後のガラスロッドを引き出す引出手段との間を伸縮自在な筒状部材によって覆い、前記筒状部材は、前記加熱炉に対して鉛直下方に配置され、前記炉心管の内部空間に連通する閉空間を形成することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2にかかるガラスロッド延伸装置は、上記の発明において、前記炉心管の内部空間に不活性ガスを供給するガス供給部と、前記筒状部材の内部空間の圧力を検出する圧力検出部と、前記圧力検出部によって検出された圧力をもとに前記ガス供給部の不活性ガス流量を制御し、前記筒状部材の内部空間を前記不活性ガスによって正圧状態に維持する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3にかかるガラスロッド延伸装置は、上記の発明において、前記炉心管の内部空間に不活性ガスを供給するガス供給部と、前記炉心管の内部空間のCO2濃度を検出する濃度検出部と、前記濃度検出部によって検出されたCO2濃度をもとに前記ガス供給部の不活性ガス流量を制御し、前記炉心管の内部空間を前記不活性ガスによって正圧状態に維持する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項4にかかるガラスロッド延伸装置は、上記の発明において、前記引出手段は、前記ガラスロッドに一端部が接続され、溶融軟化した前記ガラスロッドを延伸加工しつつ前記炉心管から前記閉空間に引き出す支持棒と、前記支持棒の他端部近傍を把持する把持部と、を備え、前記筒状部材は、前記支持棒を摺動自在に挿通する蓋を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項5にかかるガラスロッド延伸装置は、上記の発明において、前記蓋は、前記支持棒が挿通される開口部の径を可変自在に調節することを特徴とする。
【0017】
また、請求項6にかかるガラスロッド延伸方法は、加熱炉の炉心管内に導入したガラスロッドを加熱処理し、該加熱処理によって溶融軟化した前記ガラスロッドを所望の外径に延伸加工し、この延伸加工後のガラスロッドを前記炉心管から引き出すガラスロッド延伸方法において、前記加熱炉の引出口側の開口部と前記延伸加工後のガラスロッドを引き出す引出手段との間を伸縮自在な筒状部材によって覆い、前記筒状部材を前記加熱炉に対して鉛直下方に配置して前記炉心管の内部空間に連通する閉空間を形成し、前記筒状部材を伸長しつつ、前記延伸加工後のガラスロッドを前記閉空間内に引き出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炉心管の内部空間に供給した不活性ガスの中から装置外部に排出される不活性ガスの排出量を低減することができ、炉心管の内部空間を正圧状態に維持するために必要な不活性ガスの供給量を低減できるガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明にかかるガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明にかかる実施の形態は、本発明を具体化した例であって、本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0020】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1にかかるガラスロッド延伸装置について説明する。図1は、本発明の実施の形態1にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。図1に示すように、このガラスロッド延伸装置100は、例えば光ファイバ母材であるガラスロッド15を加熱処理する加熱炉1を有する。かかるガラスロッド延伸装置100は、この加熱炉1の加熱処理によって溶融軟化したガラスロッド15を所望の外径に延伸加工し、この延伸加工後のガラスロッド(以下、延伸済みロッドと称する)15aを加熱炉1から引き出す。この場合、ガラスロッド15は、例えば上端部および下端部に石英製の支持棒16,17がそれぞれ接続され、上部側の支持棒16を上部チャック18で、下部側の支持棒17を下部チャック19で把持され、上部チャック18と下部チャック19とが相対的に離れるように動作することにより、ガラスロッド15に張力が加えられる。このような支持棒17および下部チャック19は、加熱炉1の加熱処理によって溶融軟化したガラスロッド15を所望の外径に延伸加工しつつ加熱炉1から引き出す引出手段として機能する。
【0021】
また、ガラスロッド延伸装置100は、加熱炉1の引出口側の開口部(例えば後述する炉体3の下部開口部3b)を覆う筒部2を有する。筒部2は、伸縮自在な筒状部材を用いて実現され、加熱炉1に対して鉛直下方に配置される。このような筒部2は、図1に示すように、加熱炉1の引出口側の開口部と上述した引出手段(すなわち支持棒17および下部チャック19)との間を覆うとともに、加熱炉1の内部空間(後述する炉心管4の内部空間)に連通する閉空間を形成する。
【0022】
つぎに、上述した加熱炉1の構成について説明する。加熱炉1は、図1に示すように、炉体3の内部に、ガラスロッド15が導入される炉心管4と、炉心管4の内部に導入されたガラスロッド15を加熱処理するヒータ5と、炉心管4またはヒータ5の外周に配置された耐熱性の断熱材6とを有する。また、加熱炉1は、炉心管4の内部空間にアルゴンガス(Arガス)を供給するArガス供給部7,8と、ヒータ5の温度を計測する放射温度計9と、延伸済みロッド15aの外径を計測する外径測定器10とを有する。さらに、加熱炉1は、放射温度計9のために炉体3に形成された温度測定窓にArガスを噴出するArガス噴出部11と、外径測定器10のために炉体3に形成された外径測定窓にArガスを噴出するArガス噴出部12,13とを有する。
【0023】
炉心管4は、例えばカーボンを用いて実現され、ガラスロッド15が導入される内部空間、すなわち上述した加熱炉1の内部空間を形成する。このような炉心管4は、例えば、炉体3の上部開口部3a(加熱炉1の入口側の開口部)を介してガラスロッド15が導入され、炉体3の下部開口部3b(加熱炉1の引出側の開口部)を介して延伸済みロッド15aが引き出される。この場合、上部開口部3aでの炉体3の内壁とガラスロッド15との間隙は、下部開口部3bでの炉体3の内壁と延伸済みロッド15aとの間隙に比して小さい。
【0024】
ヒータ5は、例えば電気ヒータであり、炉心管4の外周に配置される。このようなヒータ5は、炉心管4の内部に導入されたガラスロッド15を加熱処理し、このガラスロッド15を延伸加工できるように溶融軟化させる。この場合、ヒータ5は、加熱炉1とガラスロッド15との相対位置を徐々に変化させることによって、例えばガラスロッド15の下端部から上端部に向けて順次加熱処理する。
【0025】
Arガス供給部7,8は、炉心管4の内部空間にArガスを供給する。具体的には、Arガス供給部7は、給気管7aを介して炉心管4の引出口側開口部の近傍にArガスを供給する。この場合、Arガス供給部7は、炉心管4の内部空間と上述した筒部2によって形成される閉空間とにArガスを十分供給し、この炉心管4の内部空間と筒部2の閉空間とにArガスを充満させるとともに炉心管4の内部空間を正圧状態に維持する。なお、図1に示す給気管7aでは、管路A1と管路A2とが連通している。
【0026】
ここで、給気管7aの噴出方向は、下向きであることが好ましい。これは、給気管7aの噴出方向が上向きであると炉心管4内部の上昇流を強めるため筒部2内の圧力が上がりにくいからである。また、給気管7aの噴出口を、炉心管4の円周方向の全周に設置し、炉心管4の円周方向についてもArガスが均一に噴出されることが好ましい。これにより筒部2内のArガスを閉じ込める効果が高くなるため、筒部2内の圧力が上がりやすい。
【0027】
一方、Arガス供給部8は、給気管8aを介して炉心管4の入口側開口部の近傍にArガスを供給する。この場合、Arガス供給部8は、炉心管4の内部空間にArガスを供給するとともに、上部開口部3aの内側近傍にArガスの膜または壁を形成する。Arガス供給部8は、かかるArガスの膜または壁を形成することによって、上部開口部3aから炉心管4の内部空間への外気の流入を防止し、この炉心管4と外気(特に酸素)との接触を防止する。
【0028】
放射温度計9は、炉体3に形成された温度測定窓を介してヒータ5に例えば赤外線を放射し、このヒータ5の表面温度を測定する。外径測定器10は、炉体3に形成された外径測定窓を介して炉心管4内の延伸済みロッド15aに例えばレーザ光を射出し、これによって延伸済みロッド15aを走査し、得られた投影像をもとに延伸済みロッド15aの外径を測定する。
【0029】
Arガス噴出部11は、放射温度計9がヒータ5の表面温度を測定するために炉体3に形成された温度測定窓にArガスを噴出し、この温度測定窓にArガスの膜または壁を形成する。Arガス噴出部11は、かかるArガスの膜または壁を形成することによって、この温度測定窓から炉体3の内部への外気の流入、すなわち炉心管4と外気(特に酸素)との接触を防止する。Arガス噴出部12,13は、外径測定器10が延伸済みロッド15aの外径を測定するために炉体3に形成された外径測定窓にArガスを噴出し、この外径測定窓にArガスの膜または壁を形成する。Arガス噴出部12,13は、かかるArガスの膜または壁を形成することによって、この外径測定窓から炉心管4の内部への外気の流入を防止し、炉心管4と外気(特に酸素)との接触を防止する。
【0030】
つぎに、上述した筒部2の構成について説明する。筒部2は、図1に示すように、伸縮自在な伸縮筒体21と、伸縮筒体21の一方の開口端と加熱炉1とを接続する上部蓋22と、伸縮筒体21の他方の開口端を閉塞する下部蓋23とを有する。また、筒部2は、支持棒17を摺動自在に挿通する中蓋24を有する。なお、この支持棒17を把持する下部チャック19は、支持板20に対して固定される。この支持板20は、下部蓋23の外側に着脱可能に取り付けられる。
【0031】
伸縮筒体21は、例えばベローズ構造を有する伸縮自在な筒体であり、一方の開口端が上部蓋22に接続され、且つ他方の開口端が下部蓋23に接続される。かかる上部蓋22と下部蓋23とを両端部に接続した伸縮筒体21は、炉体3の下部開口部3b(すなわち加熱炉1の引出口側の開口部)と支持棒17および下部チャック19との間を覆うとともに、炉心管4の内部空間に連通する閉空間(上述した筒部2の閉空間)を形成する。
【0032】
上部蓋22は、一端が炉体3の下端部に固定されるとともに他端に伸縮筒体21が接続され、上述した筒部2の閉空間と炉心管4の内部空間とを連通する管路を形成する。この場合、かかる閉空間は、上部蓋22に形成された管路を介して炉心管4の内部空間に連通する。また、上部蓋22は、この管路の一部分にガラス製またはプラスチック製の光透過性部材22aを嵌め込んだ窓が形成される。作業者は、かかる光透過性部材22aを通して筒部2の閉空間内の延伸済みロッド15aを視認することができる。
【0033】
下部蓋23は、上部蓋22に対向する面に伸縮筒体21が接続されるとともに、この伸縮筒体21の接続面の反対側の面に支持板20が着脱可能に接続される。また、下部蓋23は、筒部2の閉空間内に、下部チャック19を収納する収納部23aを形成する筒部を有し、この筒部の端部近傍に中蓋24を有する。この場合、下部蓋23は、下部チャック19が固定された支持板20を着脱可能に接続するとともに、この下部チャック19を収納部23aに収納する。
【0034】
中蓋24は、例えばカーボンフェルト材を用いて実現され、支持棒17を摺動自在に挿通する開口部が形成される。
【0035】
なお、このような構成を有するガラスロッド延伸装置100は、上部チャック18を用いて所定の位置に固定されたガラスロッド15を炉心管4に沿って変位させるように加熱炉1を駆動する加熱炉駆動部(図示せず)と、筒部2を伸長しつつ支持棒17および下部チャック19を移動してガラスロッド15に張力を加える延伸駆動部(図示せず)と、かかる加熱炉駆動部および延伸駆動部の各駆動を制御する制御部とをさらに有する。この場合、この制御部は、外径測定器10によって測定された延伸済みロッド15aの外径をもとに加熱炉駆動部および延伸駆動部の各駆動を制御し、この延伸済みロッド15aの外径を所望の外径に調節する。また、この制御部は、放射温度計9によって測定されたヒータ9の表面温度をもとにヒータ5の駆動を制御し、このヒータ5の温度をガラスロッド15の加熱処理に好適な温度に調節する。
【0036】
つぎに、上述した伸縮筒体21の構成について説明する。図2は、伸縮筒体21の断面構造を例示する模式図である。図2に示すように、伸縮筒体21は、伸縮自在な蛇腹構造またはベローズ構造に形成されたガラス繊維21aを主体とし、このガラス繊維21aの内壁、すなわち筒部2の閉空間側の壁に金属膜21bを形成して実現される。この場合、金属膜21bは、ガラス繊維21aの耐熱性および気密性を高めることができる。また、伸縮筒体21の外側に凸となる各部分であってガラス繊維21aの内側には、伸縮筒体21形状を保持するための形状保持リング21cが挿入されている。
【0037】
かかるガラス繊維21aと金属膜21bとによって形成された伸縮筒体21は、例えば200℃程度の高温にも耐えうる耐熱性を有するとともに、筒部2の閉空間と筒部2の外部との間で高い気密性を実現する。なお、かかるガラス繊維21aに成膜(すなわちコーティング)される金属膜21bの金属材料としては、例えばアルミニウム、銅、およびニッケル等が挙げられる。
【0038】
つぎに、本発明の実施の形態1にかかるガラスロッド延伸方法について説明する。図3は、母材であるガラスロッド15をガラスロッド延伸装置100上に搬送した状態を例示する模式図である。図4は、加熱炉1の炉心管4内にガラスロッド15を導入した状態を例示する模式図である。図5は、ガラスロッド15を延伸加工した状態を例示する模式図である。図6は、延伸済みロッド15aと支持棒17と切断する状態を例示する模式図である。図7は、ガラスロッドの延伸加工終了後の状態を例示する模式図である。以下、図3〜7を参照しつつ、この実施の形態1にかかるガラスロッド延伸方法について説明する。
【0039】
まず、母材であるガラスロッド15は、図3に示すように、上端部に接続された支持棒16を把持する上部チャック18を用いて支持され、ガラスロッド延伸装置100の上部にセットされる。この場合、ガラスロッド延伸装置100は、筒部2を縮めた状態(すなわち伸縮筒体21を畳んだ状態)である。また、ガラスロッド延伸装置100は、下部蓋23に支持板20を着脱可能に接続し、この支持板20に固定された下部チャック19と、この下部チャック19に把持された支持棒17とを内部に有する。この場合、支持棒17は、中蓋24に摺動自在に挿通し、この端部を炉心管4の内部空間におけるヒータ5の近傍に位置させる。また、下部チャック19は、下部蓋23の収納部23aの内部に収納される。
【0040】
また、ガラスロッド延伸装置100は、この時点(具体的にはガラスロッド15を炉心管4内に導入する前の段階)において休転状態である。すなわち、ガラスロッド延伸装置100は、この休転状態において、炉心管4の内部空間と筒部2の閉空間とにArガスを供給して炉心管4の内部空間を正圧状態に維持するとともに、この炉心管4の内部空間の温度をヒータ5によって予め高温にする。この場合、加熱炉1の上部開口部3aには蓋25が被せられる。蓋25は、例えば石英製のものであり、略中央部に貫通孔25aが形成される。かかる蓋25の作用効果については、後述する。
【0041】
つぎに、ガラスロッド延伸装置100は、上部開口部3aの蓋25が取り外され、その後、ガラスロッド15に向けて上昇する。この場合、ガラスロッド延伸装置100は、図4に示すように、上部開口部3aから炉心管4の内部にガラスロッド15を導入し、このガラスロッド15の下端部15bと支持棒17とを接続する。これと同時に、ガラスロッド延伸装置100は、上述したArガス供給部7によって50〜90[l/min]の流量のArガスを炉心管4の内部空間と筒部2の閉空間とに供給し、且つ、上述したArガス供給部8によって20[l/min]の流量のArガスを炉心管4の入口側開口部の近傍に供給した。これによって、炉心管4の内部空間は、Arガスを充満させた正圧状態に常時維持される。
【0042】
その後、ガラスロッド延伸装置100は、このようなガラスロッド15をヒータ5によって加熱処理するとともに、かかるガラスロッド15の下端部から上端部に向けてヒータ5を徐々に上昇させるように加熱炉1を順次上昇させる。これと同時に、ガラスロッド延伸装置100は、下部チャック19とともに下部蓋23を下降させて筒部2を伸長し、この下部チャック19に把持された支持棒17を鉛直下方に移動させる。このようなガラスロッド延伸装置100の動作によって、ガラスロッド15は、下端部から上端部に向けて徐々に加熱処理されて溶融軟化するとともに、支持棒17の移動に伴って鉛直方向に張力が加えられる。この場合、ガラスロッド15の溶融軟化部分は、鉛直下方に引き伸ばされつつ所望の外径に延伸加工される。
【0043】
このように延伸加工されたガラスロッド、すなわち延伸済みロッド15aは、図5に示すように、支持棒17とともに炉心管4の内部空間から筒部2の閉空間に引き出される。ガラスロッド延伸装置100は、さらに鉛直下方に筒部2を伸長しつつ下部チャック19を鉛直下方に移動させ、順次溶融軟化されるガラスロッド15に張力を加え続ける。この場合、ガラスロッド15は、下端部から上端部に向けて順次延伸加工される。この結果、延伸済みロッド15aは、下部開口部3bを介して炉心管4から筒部2の閉空間に順次引き出される。このようにして、ガラスロッド延伸装置100は、例えば外径100mmのガラスロッド15を外径50mmの延伸済みロッド15a(光ファイバ母材または石英管等)に延伸加工する。
【0044】
ガラスロッド延伸装置100は、ガラスロッド15を所望の外径のガラスロッド(延伸済みロッド15a)に延伸加工し終えた場合、ヒータ5の温度を下げ、また、筒部2を縮小させるとともに延伸済みロッド15aの下端部を外部に露出する。その後、この延伸済みロッド15aと支持棒17とが切り離される。具体的には、ガラスロッド延伸装置100は、ヒータ5の温度を下げた後、下部蓋23から支持板20を取り外して支持板20および下部チャック19を例えば床または作業台に残す。つぎに、ガラスロッド延伸装置100は、この下部蓋23を上昇させるとともに伸縮筒体21を折り畳むことによって、筒部2を縮小させる。この場合、中蓋24は、筒部2の閉空間を外部に対して略気密にするとともに、支持棒17および延伸済みロッド15aの側壁に沿って順次摺動しつつ上昇する。この結果、延伸済みロッド15aは、図6に示すように、支持棒17とともに端部近傍を外部に露出する。このように露出した延伸済みロッド15aおよび支持棒17は、所定の切断装置27によって切り離される。
【0045】
なお、伸縮筒体21を折り畳んだ状態(すなわち縮小した状態)の筒部2には、例えば延伸済みロッド15aと支持棒17との切断工程の際に筒部2が伸長しないようにフック26が取り付けられる。フック26は、図6に示すように、上部蓋22と下部蓋23とを連結し、下部蓋23の落下、すなわち筒部2の伸長を防止する。
【0046】
また、中蓋24は、支持棒17を摺動自在に挿通する開口部が形成されているため、このように下部蓋23から支持板20を取り外して伸縮筒体21を折り畳んだ状態において、筒部2の閉空間と外部とを略遮断できる。
【0047】
その後、延伸済みロッド15aは、図7に示すように、ガラスロッド延伸装置100から取り出される。このようにして、ガラスロッド延伸装置100は、母材であるガラスロッド15をもとに所望の外径の延伸済みロッド15aを実現する。具体的には、例えば外径100mmのガラスロッド15(母材)をもとに、外径50mmの延伸済みロッド15a(光ファイバ母材または石英管等)が得られた。一方、ガラスロッド延伸装置100は、図3に示した状態(ガラスロッド15を炉心管4内に導入する前の段階とほぼ同様の状態)に戻され、上述した休転状態になる。この場合、加熱炉1の上部開口部3aには、上述した石英製の蓋25が被せられる。
【0048】
蓋25は、加熱炉1の上部開口部3aに被せられた場合、Arガスが供給された炉心管4の内部空間を正圧状態に維持するとともに、貫通孔25aから高温のArガスを適度に排出する。この結果、蓋25は、筒部2の閉空間への高温Arガスの流入を抑制するとともに、比較的少ない供給量のArガスによって炉心管4の内部空間を正圧状態に維持することができる。これによって、高温Arガスの接触に起因する筒部2(特に伸縮筒体21)の劣化の防止とArガスの供給量の低減とを両立することができる。具体的には、かかる蓋25を上部開口部3aに被せた場合、上述したAr供給部7,8がそれぞれ20[l/min]の流量でArガスを供給することによって、炉心管4の内部空間は、Arガスを充満させた正圧状態に維持された。
【0049】
ここで、上述したガラスロッド延伸装置100は、延伸済みロッド15aの引出口である下部開口部3bを筒部2の閉空間内に覆い、この下部開口部3bでの内壁と延伸済みロッド15aとの間隙に比してガラスロッド15と内壁との間隙が小さい上部開口部3aを外部に露出している。このようなガラスロッド延伸装置100は、かかる間隙が小さい上部開口部3aを介してArガスを排出するので、引出口側の下部開口部を介してArガスを外部に排出する従来のガラスロッド延伸装置(図12を参照)に比して、装置外部へのArガスの排出量が少ない。
【0050】
また、上述したガラスロッド延伸装置100は、加熱炉1に対して鉛直下方に筒部2を有し、炉心管4の内部において溶融軟化したガラスロッド15を鉛直下方に引き伸ばすように延伸加工していた。このため、炉心管4の内部空間に供給されたArガスは、ヒータ5によって加熱されるとともに鉛直上方に流れ、上部開口部3aの間隙を介して排出される。すなわち、ヒータ5によって加熱された高温のArガス(例えば1000〜2000℃のArガス)は、加熱炉1の鉛直下方に位置する筒部2の閉空間に流入し難い。この結果、下部チャック19を伸縮筒体21で完全に覆っても、熱による故障の心配が少ないため、下部チャック19を伸縮筒体21で完全に覆うことができる。加熱炉に対して鉛直上方に筒部を有する従来のガラスロッド延伸装置(図12を参照)においては、上部チャックの熱による故障が懸念されるため、上部チャックを完全に覆うことができない。したがって、かかる従来のガラスロッド延伸装置の筒部に取り付ける上部蓋には、支持棒を挿通するために装置外部に連通する貫通孔を設ける必要があり、これにより閉空間内の機密性が低くなる。したがって、ガラスロッド延伸装置100は、かかる従来のガラスロッド延伸装置(図12を参照)に比して、装置外部へのArガスの排出量が少ない。また、筒部2の閉空間には、ヒータ5による加熱の影響が少ないArガス(例えば200℃以下のArガス)が流入することになり、かかる筒部2の閉空間が過度に高温になることを防止できるとともに、筒部2(特に伸縮筒体21)の耐熱設計が容易になる。
【0051】
さらに、かかる炉心管4内のArガスは鉛直上方に流れる(アッパーフローである)ため、炉心管4の内部空間に異物が存在する場合であっても、かかるアッパーフローのArガスによって異物は上部開口部3aから装置外部に排出される。したがって、このような異物が延伸済みロッド15aに付着することを防止することができる。
【0052】
以上、説明したように、本発明の実施の形態1では、延伸加工後のガラスロッドが引き出される加熱炉の引出口側の開口部と、この延伸加工後のガラスロッドを引き出す引出手段(例えば支持棒17および下部チャック19)との間を伸縮自在な筒状部材によって覆い、この加熱炉の炉心管の内部空間に連通する閉空間を形成するように構成した。このため、かかる引出口側の開口部での内壁と延伸加工後のガラスロッドとの間隙に比してガラスロッドと内壁との間隙が小さい加熱炉の入口側の開口部から装置外部に不活性ガスを排出することになる。この結果、炉心管の内部空間に供給した不活性ガスの中から装置外部に排出される不活性ガスの排出量を低減することができ、炉心管の内部空間を正圧状態に維持するために必要な不活性ガスの供給量を低減できるガラスロッド延伸装置およびガラスロッド延伸方法を実現できる。
【0053】
また、このような筒状部材を加熱炉の鉛直下方に配置したので、この筒状部材の内部空間(すなわち上述した閉空間)への高温の不活性ガスの流入を抑制することができる。この結果、下部チャックを完全に伸縮筒体で覆うことができるとともに、かかる筒状部材の閉空間が過度に高温になることを防止でき、この筒状部材の耐熱設計を容易にすることができる。
【0054】
さらに、この鉛直下方の筒状部材を伸長しつつガラスロッドを鉛直下方に引き伸ばすように構成したので、炉心管の内部空間を正圧状態に維持しつつ不活性ガスを鉛直上方に流すことができる。このため、この炉心管の内部空間に異物が存在する場合であっても、かかるアッパーフローの不活性ガスによって異物は装置外部に排出でき、このような異物が延伸加工後のガラスロッドに付着することを防止することができる。
【0055】
また、かかる筒状部材をベローズ構造等の伸縮自在な構造にしたので、自在に伸縮することが困難な所定形状の筒を用いた場合に比して、ガラスロッドを延伸加工するために必要な支持棒の長さをより短くすることができる。
【0056】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、所定の流量に調節されたArガスを炉心管4の内部空間に供給していたが、この実施の形態2では、かかる炉心管4の内部空間に供給されるArガスの流量をこの内部空間の圧力をもとに制御している。
【0057】
図8は、本発明の実施の形態2にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。図8に示すように、この実施の形態2にかかるガラスロッド延伸装置200は、上述した実施の形態1にかかるガラスロッド延伸装置100の加熱炉1に代えて加熱炉50を有する。加熱炉50は、上述したガラスロッド延伸装置100の加熱炉1と同様の構成を有し、さらに、筒部2の内部空間の圧力を検出する圧力検出部51と、圧力検出部51によって検出された圧力をもとにArガス供給部7のArガス流量を制御する制御部52とを有する。この場合、圧力検出部51は、管51aを介して筒部2の内部空間に連通する。その他の構成は実施の形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0058】
圧力検出部51は、管51aを介して筒部2の内部空間の圧力を検出する。圧力検出部51は、かかる内部空間の圧力検出結果を制御部52に送信する。かかる圧力検出部51は、制御部52の制御に基づいて筒部2の内部空間の圧力を検出する。この場合、圧力検出部51は、所定の時間が経過する毎に(すなわち定期的に)圧力を検出してもよいし、常時圧力を検出してもよいし、所望のタイミング(例えばガラスロッド15の導入時および筒部2の伸長時等)で圧力を検出してもよい。
【0059】
制御部52は、筒部2の内部空間の圧力をもとにArガス供給部7のArガス流量を制御し、炉心管4の内部空間をArガスによって正圧状態に維持するよう機能する。具体的には、制御部52は、筒部2の内部空間の圧力を圧力検出部51に検出させ、かかる圧力検出部51によって検出された圧力検出結果を取得する。つぎに、制御部52は、この圧力検出結果をもとにArガス供給部7のArガス流量を制御する。この場合、制御部52は、筒部2の内部空間に充満するArガスによって筒部2の内部空間を正圧状態に維持するように、Arガス供給部7のArガス流量を制御する。例えば、制御部52は、筒部2の内部空間の圧力が大気圧に対して5〜10[Pa]程度高くなるように、Arガス供給部7のArガス流量を制御する。
【0060】
ここで、ガラスロッド延伸装置200は、上述した実施の形態1と同様に筒部2を伸長しつつガラスロッド15を延伸加工する場合、筒部2の閉空間の容積を徐々に増加させる。かかる閉空間の容積増加に伴って、炉心管4の内部空間の圧力は徐々に低下する。この場合、制御部52は、圧力検出部51から取得した圧力検出結果をもとに炉心管4の内部空間の圧力低下を把握し、この筒部2の内部空間が負圧状態(すなわち大気圧に比して低い圧力状態)にならないようにAr供給部7のArガス流量を増加させる。このようにして、制御部52は、ガラスロッド15の延伸加工時における筒部2の内部空間を常時正圧状態に維持する。
【0061】
一方、ガラスロッド延伸装置100は、例えばガラスロッド15の延伸加工が完了した後に上述した実施の形態1と同様に筒部2を縮小した場合、筒部2の閉空間の容積を徐々に減少させる。かかる閉空間の容積減少に伴って、筒部2の内部空間の圧力は徐々に上昇する。この場合、制御部52は、圧力検出部51から取得した圧力検出結果をもとに炉心管4の内部空間の圧力上昇を把握し、この炉心管4の内部空間が過度な正圧状態(例えば大気圧に対して+5〜+10[Pa]の範囲を超える高圧状態)にならないようにAr供給部7のArガス流量を必要最小限に減少させる。このようにして、制御部52は、筒部2の内部空間を適正な正圧状態(大気圧に対して5〜10[Pa]程度高圧な状態)に維持しつつ、このArガスの供給量を節約する。
【0062】
このように、制御部52は、上述した筒部2の閉空間の容積変化に伴って増減する筒部2の内部空間の圧力に対応してAr供給部7のArガス流量を常に必要最小限に制御し、筒部2の内部空間を正圧状態に維持しつつ、この炉心管4の内部空間に供給されるArガスの供給量を最小限必要なものに節約できる。
【0063】
なお、圧力検出部51は炉心管4の内部空間の圧力を検出するように構成してもいいが、炉心管4の内部は高温となるため、圧力検出部51の耐熱性の問題が生じる。本実施形態のように筒部2の内部空間の圧力を検出することで、より安定した圧力制御が可能となる。
【0064】
なお、この実施の形態2にかかるガラスロッド延伸方法は、筒部2の内部空間の圧力をもとにArガスの流量を制御する以外、上述した実施の形態1と同様である。すなわち、この実施の形態2にかかるガラスロッド延伸方法では、さらに、筒部2の閉空間の容積変化に伴って増減する筒部2の内部空間の圧力に対応してAr供給部7のArガス流量を常に必要最小限に制御し、Arガスの供給量を節約する。
【0065】
以上、説明したように、本発明の実施の形態2では、上述した実施の形態1の構成に加え、筒部の内部空間の圧力を検出し、この内部空間の圧力検出結果をもとに、この筒部の内部空間に供給する不活性ガスの流量を制御するように構成した。このため、筒部の閉空間の容積変化に伴って増減する筒部の内部空間の圧力に対応して、この不活性ガスの流量を常に必要最小限に制御できる。この結果、上述した実施の形態1の作用効果を享受するとともに、炉心管の内部空間を正圧状態に維持しつつ、この筒部の内部空間に供給する不活性ガスの供給量を必要最小限に節約することができる。
【0066】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3について説明する。上述した実施の形態2では、筒部2の内部空間に供給されるArガスの流量をこの内部空間の圧力をもとに制御していたが、この実施の形態3では、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度をもとにArガスの流量を制御している。
【0067】
図9は、本発明の実施の形態3にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。図9に示すように、この実施の形態3にかかるガラスロッド延伸装置300は、上述した実施の形態2にかかるガラスロッド延伸装置200の加熱炉50に代えて加熱炉60を有する。加熱炉60は、上述したガラスロッド延伸装置200の筒部2の圧力検出部51に代えてCO2濃度検出部61を有し、制御部52に代えて制御部62を有する。この場合、CO2濃度検出部61は、管61aを介して炉心管4の内部空間に連通する。その他の構成は実施の形態2と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0068】
CO2濃度検出部61は、管61aを介して炉心管4内部空間から流入したガスをもとに、炉心管4の内部空間に含まれる二酸化炭素(CO2)の濃度を検出する。CO2濃度検出部61は、かかる内部空間の濃度検出結果を制御部62に送信する。かかるCO2濃度検出部61は、制御部62の制御に基づいて炉心管4の内部空間におけるCO2濃度を検出する。この場合、CO2濃度検出部61は、所定の時間が経過する毎に(すなわち定期的に)CO2濃度を検出してもよいし、常時CO2濃度を検出してもよいし、所望のタイミング(例えばガラスロッド15の導入時および筒部2の伸長時等)でCO2濃度を検出してもよい。
【0069】
制御部62は、炉心管4の内部空間に含まれるCO2の濃度をもとにArガス供給部7のArガス流量を制御し、炉心管4の内部空間をArガスによって正圧状態に維持するよう機能する。具体的には、制御部62は、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度をCO2濃度検出部61に検出させ、かかるCO2濃度検出部61によって検出された濃度検出結果を取得する。つぎに、制御部62は、この濃度検出結果をもとに、Arガス供給部7のArガス流量を制御する。例えば、制御部62は、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度が400[ppm]以下になるように、Arガス供給部7のArガス流量を制御する。
【0070】
ここで、ガラスロッド延伸装置300は、例えば、上述した実施の形態1と同様に筒部2を伸長しつつガラスロッド15を延伸加工する場合、筒部2の閉空間の容積を徐々に増加させる。かかる閉空間の容積増加に伴って、炉心管4の内部空間の圧力は徐々に低下する。このように圧力が低下し続けた場合、炉心管4の内部空間は、大気圧に対して負圧状態になるとともに外気を流入する虞がある。炉心管4の内部空間に外気が流入した場合、この外気に含まれる酸素がカーボン製の炉心管4を酸化し、劣化させる。このような酸化反応ではCO2が生成され、この結果、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度が上昇する。この場合、制御部62は、CO2濃度検出部61から取得した濃度検出結果をもとに炉心管4の内部空間におけるCO2濃度の上昇を把握し、この炉心管4の酸化(すなわち劣化)の進行を阻害するようにAr供給部7のArガス流量を増加させる。
【0071】
このようにして、制御部62は、例えば筒部2の閉空間の容積変化に伴って変化する炉心管4の内部空間のCO2濃度に対応してAr供給部7のArガス流量を常に必要最小限に制御し、炉心管4の内部空間を正圧状態に維持しつつ、この炉心管4の内部空間に供給されるArガスの供給量を最小限必要なものに節約できる。かかる制御部62によって制御されるArガス供給部7は、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度を例えば400[ppm]以下にするために必要なArガス流量(望ましくは最低限必要なArガス流量)に設定してArガスを炉心管4の内部空間に供給する。このように炉心管4の内部空間におけるCO2濃度が400[ppm]以下に維持された場合、この炉心管4の酸化(劣化)の進行は略阻止され、この場合の炉心管4は劣化していないものと略同等である。
【0072】
なお、この実施の形態3にかかるガラスロッド延伸方法は、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度をもとにArガスの流量を制御する以外、上述した実施の形態1と同様である。すなわち、この実施の形態3にかかるガラスロッド延伸方法では、さらに、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度に対応してAr供給部7のArガス流量を常に必要最小限に制御し、Arガスの供給量を節約する。
【0073】
以上、説明したように、本発明の実施の形態3では、上述した実施の形態1の構成に加え、炉心管の内部空間に含まれるCO2の濃度を検出し、この内部空間の濃度検出結果をもとに、この炉心管の内部空間に供給する不活性ガスの流量を制御するように構成した。このため、炉心管の内部空間におけるCO2濃度に対応して、この不活性ガスの流量を常に必要最小限(すなわち炉心管の劣化を阻止するために最低限必要な不活性ガスの流量)に制御できる。この結果、上述した実施の形態1の作用効果を享受するとともに、炉心管の内部空間を正圧状態に維持しつつ、この炉心管の内部空間に供給する不活性ガスの供給量を必要最小限に節約することができる。
【0074】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4について説明する。上述した実施の形態1では、中蓋24に形成された所定サイズの開口部に支持棒17または延伸済みロッド15aを摺動させていたが、この実施の形態4では、かかる支持棒17または延伸済みロッド15aを摺動させる中蓋の開口部の径を可変にしている。
【0075】
図10は、本発明の実施の形態4にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。図10に示すように、この実施の形態4にかかるガラスロッド延伸装置400は、上述した実施の形態1にかかるガラスロッド延伸装置100の筒部2に代えて筒部70を有する。筒部70は、上述したガラスロッド延伸装置100の筒部2の中蓋24に代えて中蓋71を有する。この中蓋71は、支持棒17または延伸済みロッド15aを摺動自在に挿通する開口部の径を変化でき、かかる開口部の径を調節する調節部71aを有する。その他の構成は実施の形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0076】
図11は、中蓋71の一構成例を模式的に示す斜視図である。図11に示すように、中蓋71は、例えばアイリス構造を有し、このアイリス構造によって径を変化させる開口部71bを有する。この場合、中蓋71は、調節部71aの操作によって開口部71bの径を変化させる。このような中蓋71は、例えばガラスロッド延伸装置400がガラスロッド15の延伸加工を完了した場合、支持棒17の外径に合わせて開口部71bの径を調節し、この径の開口部71bに支持棒17を摺動自在に挿通させる。その後、中蓋71は、延伸済みロッド15aの外径に合わせて開口部71bの径を調節し、この径の開口部71bに延伸済みロッド15aを摺動自在に挿通させる。
【0077】
このようにして、中蓋71は、支持棒17または延伸済みロッド15aと開口部71bとの間隙を最小限に調節できる。この結果、図6に示すように下部蓋23から支持板20を取り外して伸縮筒体21を折り畳み、筒部2を縮小させた状態において、中蓋71は、異なる外径の部材を開口部71bに挿通させる場合であっても筒部70の閉空間と外部とを略遮断できる。一方、中蓋71に挿通させる部材(例えば支持棒17または延伸済みロッド15a)が無い場合、中蓋71は、調節部71aの操作によって開口部71bを全閉する。
【0078】
なお、この実施の形態4にかかるガラスロッド延伸方法は、中蓋71の開口部71bの径を調節する以外、上述した実施の形態1と同様である。すなわち、この実施の形態4にかかるガラスロッド延伸方法では、さらに、中蓋71の開口部71bに支持棒17または延伸済みロッド15aを摺動自在に挿通させる場合、かかる支持棒17または延伸済みロッド15aの外径に合わせて中蓋71の開口部71bの径を調節する。
【0079】
以上、説明したように、本発明の実施の形態4では、上述した実施の形態1の構成に加え、中蓋に挿通させる部材(例えば支持棒17または延伸済みロッド15a)の外径に合わせて中蓋の開口部の径を変化させるように構成した。このため、中蓋の開口部に挿通させる部材と開口部との間隙を最小限に調節することができる。この結果、上述した実施の形態1の作用効果を享受するとともに、中蓋を介した筒状部材の閉空間と装置外部との気密性をさらに高めることができる。
【0080】
なお、本発明の実施の形態1〜4では、光ファイバ母材であるガラスロッド15を延伸加工して所望の外径の延伸済みロッド15a(すなわち光ファイバ母材)を得ていたが、これに限らず、石英管等の中空のガラスロッドを母材にして延伸加工し、所望の外径の中空ガラスロッド(すなわち石英管)を得るようにしてもよい。
【0081】
また、本発明の実施の形態1〜4では、炉心管4の内部空間にArガスを供給していたが、これに限らず、Heガス、N2ガス等の他の不活性ガスをArガスに代えて炉心管4の内部空間に供給してもよい。この場合、このような他の不活性ガスを供給する不活性ガス供給部を上述したArガス供給部7,8に代えて設ければよい。
【0082】
また、本発明の実施の形態2,3では、筒部2の内部空間の圧力または炉心管4の内部空間のCO2濃度をもとに不活性ガスの流量を制御していたが、これに限らず、上述した実施の形態2,3を組み合わせたものであってもよい。この場合、例えば上述した実施の形態2にかかるガラスロッド延伸装置200に対し、炉心管4の内部空間におけるCO2濃度を検出するCO2濃度検出部61を追加し、制御部52が、圧力検出部51からの圧力検出結果とCO2濃度検出部61からの濃度検出結果とをもとに不活性ガスの流量を制御すればよい。
【0083】
さらに、本発明の実施の形態4では、上述した実施の形態1にかかるガラスロッド延伸装置100の中蓋24に代えて中蓋71を設けた構成のガラスロッド延伸装置400を例示したが、これに限らず、上述した実施の形態2にかかるガラスロッド延伸装置200の中蓋24に代えて中蓋71を設けた構成のガラスロッド延伸装置であってもよいし、上述した実施の形態3にかかるガラスロッド延伸装置300の中蓋24に代えて中蓋71を設けた構成のガラスロッド延伸装置であってもよい。
【0084】
また、本発明の実施の形態1〜4では、ガラスロッドの上部の位置を固定し、このガラスロッドに沿って加熱炉を上昇させるとともに筒部を伸長することによってガラスロッドを延伸加工していたが、これに限らず、ガラスロッドと加熱炉(具体的にはヒータ)との相対位置が変化するようにガラスロッドまたは加熱炉を移動させればよい。この場合、例えば加熱炉の位置を固定し、ガラスロッドを炉心管の内部に導入する方向(例えば鉛直下方)に移動させるとともに筒部を伸長してもよいし、炉心管の内部にガラスロッドが導入されるように加熱炉とガラスロッドとをともに移動させるとともに筒部を伸長してもよい。
【0085】
さらに、本発明の実施の形態2,3では、Arガス供給部7のArガス流量を制御していたが、これに限らず、かかるArガス供給部7のArガス流量とともにArガス供給部8のArガス流量を制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。
【図2】伸縮筒体の断面構造を例示する模式図である。
【図3】母材であるガラスロッドをガラスロッド延伸装置上にセットした状態を例示する模式図である。
【図4】加熱炉の炉心管内にガラスロッドを導入した状態を例示する模式図である。
【図5】ガラスロッドを延伸加工した状態を例示する模式図である。
【図6】延伸加工後のガラスロッドと支持棒と切断する状態を例示する模式図である。
【図7】ガラスロッドの延伸加工終了後の状態を例示する模式図である。
【図8】本発明の実施の形態2にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。
【図9】本発明の実施の形態3にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。
【図10】本発明の実施の形態4にかかるガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。
【図11】実施の形態4にかかるガラスロッド延伸装置の中蓋の一構成例を模式的に示す斜視図である。
【図12】従来のガラスロッド延伸装置の一構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0087】
1,50,60 加熱炉
2,70 筒部
3 炉体
3a 上部開口部
3b 下部開口部
4 炉心管
5 ヒータ
6 断熱材
7,8 Arガス供給部
7a,8a 給気管
9 放射温度計
10 外径測定器
11〜13 Arガス噴出部
15 ガラスロッド
15a 延伸済みロッド
16,17 支持棒
18 上部チャック
19 下部チャック
20 支持板
21 伸縮筒体
21a ガラス繊維
21b 金属膜
22 上部蓋
23 下部蓋
23a 収納部
24 中蓋
51 圧力検出部
52,62 制御部
61 CO2濃度検出部
71 中蓋
71a 調節部
71b 開口部
100,200,300,400,500 ガラスロッド延伸装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉の炉心管内に導入したガラスロッドを加熱処理し、該加熱処理によって溶融軟化した前記ガラスロッドを所望の外径に延伸加工し、この延伸加工後のガラスロッドを前記炉心管から引き出すガラスロッド延伸装置において、
前記加熱炉の引出口側の開口部と前記延伸加工後のガラスロッドを引き出す引出手段との間を伸縮自在な筒状部材によって覆い、前記筒状部材は、前記加熱炉に対して鉛直下方に配置され、前記炉心管の内部空間に連通する閉空間を形成することを特徴とするガラスロッド延伸装置。
【請求項2】
前記炉心管の内部空間に不活性ガスを供給するガス供給部と、
前記筒状部材の内部空間の圧力を検出する圧力検出部と、
前記圧力検出部によって検出された圧力をもとに前記ガス供給部の不活性ガス流量を制御し、前記筒状部材の内部空間を前記不活性ガスによって正圧状態に維持する制御部と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のガラスロッド延伸装置。
【請求項3】
前記炉心管の内部空間に不活性ガスを供給するガス供給部と、
前記炉心管の内部空間のCO2濃度を検出する濃度検出部と、
前記濃度検出部によって検出されたCO2濃度をもとに前記ガス供給部の不活性ガス流量を制御し、前記炉心管の内部空間を前記不活性ガスによって正圧状態に維持する制御部と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のガラスロッド延伸装置。
【請求項4】
前記引出手段は、
前記ガラスロッドに一端部が接続され、溶融軟化した前記ガラスロッドを延伸加工しつつ前記炉心管から前記閉空間に引き出す支持棒と、
前記支持棒の他端部近傍を把持する把持部と、を備え、
前記筒状部材は、前記支持棒を摺動自在に挿通する蓋を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のガラスロッド延伸装置。
【請求項5】
前記蓋は、前記支持棒が挿通される開口部の径を可変自在に調節することを特徴とする請求項4に記載のガラスロッド延伸装置。
【請求項6】
加熱炉の炉心管内に導入したガラスロッドを加熱処理し、該加熱処理によって溶融軟化した前記ガラスロッドを所望の外径に延伸加工し、この延伸加工後のガラスロッドを前記炉心管から引き出すガラスロッド延伸方法において、
前記加熱炉の引出口側の開口部と前記延伸加工後のガラスロッドを引き出す引出手段との間を伸縮自在な筒状部材によって覆い、前記筒状部材を前記加熱炉に対して鉛直下方に配置して前記炉心管の内部空間に連通する閉空間を形成し、前記筒状部材を伸長しつつ、前記延伸加工後のガラスロッドを前記閉空間内に引き出すことを特徴とするガラスロッド延伸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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