説明

ガラス・レンズおよびその製造方法

【目的】製造工程を簡単にしつつ,コストを低くし,かつカメラを小型化する。
【構成】バイト40には,遮光用段部31と熱カシメ用斜面32とが一回の切削加工で形成できるように平面の刃41と斜面の刃42とが形成されている。バイト40により,ガラス・レンズL2が切削され,遮光用段部31と熱カシメ用斜面32が形成される(図3(A))。段部31に墨が塗られ(図3(B)),組み立てられる(図3(C))。加熱されている金型60によってレンズ枠12の端面12Aが加圧されることにより,レンズ枠12が柔らかくなり,熱カシメ用斜面32にレンズ枠12が入り込む(図3(D))。レンズ枠12とガラス・レンズL2とが固定される。遮光用に新たなマスク部材が不要であり,一度の切削加工により段部31と斜面32とが形成されるので,製造工程が簡単であり,コストも低く,カメラも小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,プラスチック製レンズ枠に熱カシメによって固定されるガラス・レンズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
監視用CCTVレンズにおいては,レンズ自体はガラスであるが,低コスト化,大量生産化,形状の多機能化のために鏡胴のプラスチック化が著しい。プラスチック製のレンズ鏡胴内においてレンズ枠にガラス・レンズを固定するためには,レンズ枠の端面を熱変形させることによりガラス・レンズを固定する,熱カシメが広く用いられている。
【0003】
また,終端のガラス・レンズにおいて不要な光線をカットしたい場合,フレアの発生を防止したい場合などには,押え環によるガラス・レンズの固定であれば,その押え環の形状を変更することにより対処できる。しかし,熱カシメではレンズ枠端部の形状が決まっているので,熱カシメによるガラス・レンズの固定では,イニシャル・コストのかかる成形部品を追加しなければならない。たとえば,図4の部分断面図に示すように,ガラス・レンズL1およびL2が間隔環14を介してレンズ枠80Aに固定されているものとする。レンズ枠80Aの上面からレンズ枠80Aの後端面に伸び,後端面からレンズL2に伸びているマスク部材83が必要となってしまう。また,図5の部分断面図に示すように,レンズ枠80Bがレンズ枠80Bの端部において二つの部分に分かれて,その分岐部からガラス・レンズL2に向かって伸びるマスク部材85を設けるものものある。
【0004】
また,レンズの材料および保持枠の熱可塑性樹脂の種類が限定されないレンズユニット(特許文献1),迷光防止用の黒塗りの皮膜を形成するもの(特許文献2),高い精度の芯精度を得るもの(特許文献3)などもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-13532号公報
【特許文献2】特開2009-40642号公報
【特許文献3】特開2009-9168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,図4に示すものでは,新たなマスク部材83が必要となってしまう。また,図5に示すものでは,そのようなマスク部材85を取り付けるスペースが必ずしもないことがある。図4および図5に示すものでは,大型化してしまい,カメラを小型化することはできない。また,マスク部材83または85を取り付ける必要であるので,コストが高くなるだけでなく,製造工程を簡略化できない。特許文献1から3においても,コストが高くなり,製造工程を簡略化することはできない。
【0007】
この発明は,製造工程を簡単にするだけでなく,コストを低くでき,かつカメラを小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は,プラスチック製レンズ枠に熱カシメによって固定されるガラス・レンズであって,ガラス・レンズのレンズ面の周囲に沿って形成される遮光用段部と,ガラス・レンズの周面から上記遮光用段部に向かって連続して形成される熱カシメ用斜面と,が一加工で形成される形状を有するものである。
【0009】
この発明は,ガラス・レンズの製造方法も提供している。すなわち,プラスチック製レンズ枠に熱カシメによって固定されるガラス・レンズの製造方法であって,加工手段が,ガラス・レンズのレンズ面の周囲に沿って形成される遮光用段部と,ガラス・レンズの周面から上記遮光用段部に向かって連続して形成される熱カシメ用斜面と,を一加工で形成し,組み立て装置が,遮光用段部と熱カシメ用斜面とが形成されたガラス・レンズをプラスチック製レンズ枠に取り付け,熱カシメ装置がガラス・レンズの周面をプラスチック製レンズ枠に熱カシメするものである。
【0010】
この発明によると,ガラス・レンズのレンズ面の周囲に沿って遮光用段部が形成され,ガラス・レンズの周面から遮光用段部に向かって連続して熱カシメ用斜面が形成される。これらの遮光用段部と熱カシメ用斜面とは一加工で形成される形状なので,製造工程が簡略化される。また,遮光のために新たなマスク部材を取り付ける必要が無いので,カメラを小型化でき,コスト・ダウンを図ることもできる。
【0011】
上記遮光用段部と上記熱カシメ用斜面とは,たとえば,加工部材による一回の切削加工により形成されるものである。
【0012】
上記遮光用段部は,たとえば,墨塗り,遮光シートなどで遮光されている。
【0013】
上記ガラス・レンズは,たとえば,レンズ鏡胴に含まれるレンズのうち,固体電子撮像素子にもっとも近いものでもあり,そうでない場所にも使用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】レンズ鏡胴の断面図である。
【図2】ガラス・レンズをレンズ枠に固定する処理手順を示すフローチャートである。
【図3】(A)から(D)は,ガラス・レンズをレンズ枠に固定する処理工程である。
【図4】従来のレンズ鏡胴の断面図である。
【図5】従来のレンズ鏡胴の断面図である。
【実施例】
【0015】
図1は,この発明の実施例を示すもので,CCDホルダ20が取り付けられているレンズ鏡胴10の断面図である。
【0016】
レンズ鏡胴10には,プラスチック製の鏡胴本体11が含まれている。この鏡胴本体11はほぼ円筒状である。鏡胴本体11の内部のプラスチック製のレンズ枠12に,それぞれが円形の第1のガラス・レンズL1および第2のガラス・レンズL2が固定されている。レンズ枠12もほぼ円筒形である。第1のガラス・レンズL1と第2のガラス・レンズL2との間には間隔環14が配置されており,光軸Lの方向において,間隔環14の距離だけ開けられて第1のガラス・レンズL1と第2のガラス・レンズL2とがレンズ枠12に固定されている。第2のレンズL2は,光軸方向においてもっともCCD24側に配置されている。詳しくは後述するように,第2のレンズL2は熱カシメによってレンズ枠12に固定されている。また,第2のレンズの後面の周囲には遮光用段部31が形成されている。遮光用段部31には墨が塗られており,不要な光線がカットされ,フレアも未然に防止される。
【0017】
鏡胴本体11の周りには回転自在な操作リング13が設けられている。操作リング13にはカム溝(図示略)が形成されており,レンズ枠12に固定されているピン(図示略)がカム溝に入り込んでいる。操作リング13が回転させられることにより,操作リング13に形成されているカム溝に入り込んでいるピンが光軸方向に移動し,第1のガラス・レンズL1および第2のガラス・レンズL2が光軸方向に移動する。
【0018】
鏡胴本体11の上面には,係合凹部11Aが形成されている。連結枠15から先端側に延びている円筒15Aには,中心に突出している係合凸部15Bが形成されている。係合凸部15Bが係合凹部11Aに入り込むことにより,連結枠15が鏡胴本体11に取り付けられている。
【0019】
取り付け枠15の後端面の周囲に,CCDホルダ20の円筒部21が固定されている。
【0020】
CCDホルダ20の内部において,CCD取り付け用アーム22が中心方向に伸びている。このアーム22にCCD24が固定されている。アーム22の開口23と,CCD24の受光面とが位置決めされる。CCD24の受光面には第2のレンズL2などによって集光して得られる光学像が結像する。
【0021】
図2は,上述した第2のガラス・レンズL2をレンズ枠12に固定する処理手順を示すフローチャートである。図3(A)から図3(D)は,第2のガラス・レンズ2をレンズ枠12に固定する処理工程を示している。
【0022】
まず,第2のガラス・レンズL2の面取り処理が行われる(図2ステップ71)。
【0023】
図3(A)は,第2のガラス・レンズL2の面取り処理工程である。
【0024】
バイト(切削工具,加工部材)40は,L字型のもので,平面の刃41およびこの平面の刃41に斜めに向かっている斜めの刃42が形成されている。第2のガラス・レンズL2が光軸Lを中心に回転させられている状態で,加工装置(図示略)に取り付けられているバイト40が第2のガラス・レンズL2の方向に移動させられる。バイト40が第2のガラス・レンズL2に接すると,バイト40の刃41および42によって第2のガラス・レンズL2が削られる。バイト40の刃41によって,第2のガラス・レンズL2の周囲に沿って遮光用段部31が形成される。また,バイト40の刃42によって,第2のガラス・レンズL2の周面から遮光用段部31に向かって斜面(熱カシメ用斜面)32が形成される。
【0025】
遮光面用段部31と熱カシメ用斜面32とがバイト40による一回の切削加工(一加工)により形成されることとなる。一回の切削加工とは,バイト40が第2のガラス・レンズL2に接して切削が開始され,切削が終了して第2のガラス・レンズL2からバイト40から離れるまでの処理である。
【0026】
つづいて,墨塗りが行われる(図2ステップ72)。
【0027】
図3(B)は,墨塗り工程である。
【0028】
筆50の筆先51に墨がつけられ,墨がつけられた筆先51が遮光用段部31に接することにより,遮光用段部31に墨が塗られる。墨により,遮光されて不要な光線がカットされる。
【0029】
つづいて,組み立て処理が行われる(図2ステップ73)。
【0030】
図3(C)は,組み立て工程である。
【0031】
第2のガラス・レンズL2の外周面がレンズ枠12の内周面の後端部に取り付けられる。レンズ枠12の後端面12Aと第2のガラス・レンズL2の段部31とがほぼ同一面となるように,組立て装置(図示略)によって第2のガラス・レンズL2がレンズ枠12に取り付けられる。
【0032】
つづいて,熱カシメが行われる(図2ステップ73)。
【0033】
図3(D)は,熱カシメ工程である。
【0034】
熱カシメ治具60がヒータで加熱されている。熱カシメ治具60には斜面60Aが形成されている。熱カシメ装置(図示略)によって斜面60Aが,レンズ枠12の後端面12Aに加圧させられる。熱によってレンズ枠12の先端面12Aが変形し,レンズ枠12の一部が,第2のガラス・レンズL2に形成されている斜面32に入り込んで固定される。レンズ枠12と第2のガラス・レンズL2とが強固に固定されることとなる。また,レンズ枠12の後端面12Bから第2のガラス・レンズL2の段部31まで連続的に一つの面として形成されるようになる。
【0035】
熱カシメ前に墨塗りを出来,熱カシメで第2のガラス・レンズL2をレンズ枠12に固定する製造工程を終了することができる。墨塗りの不良があった場合には,熱カシメ前にそその不良を見つけることができるので,新たなレンズに取り替えて,第2のガラス・レンズL2をレンズ枠12に固定できるようになる。熱カシメ後に墨塗りをした場合に,墨塗りの不良が見つかった場合には,レンズ枠12に固定された第2のガラス・レンズL2を,レンズ枠12を破壊してレンズ枠12から取り外さなければならないが,熱カシメ前に墨塗りをすることにより,レンズ枠12を破壊する必要もない。もっとも,熱カシメ後に墨塗りをしてもよいのはいうまでもない。
【0036】
上述の実施例では,遮光用段部31に墨を塗ることにより遮光しているが,墨を塗るのではなく,遮光シートなどを貼り付けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10 レンズ鏡胴
12 レンズ枠
31 遮光用段部
32 熱カシメ用斜面
40 バイト(加工部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製レンズ枠に熱カシメによって固定されるガラス・レンズであって,
ガラス・レンズのレンズ面の周囲に沿って形成される遮光用段部と,ガラス・レンズの周面から上記遮光用段部に向かって連続して形成される熱カシメ用斜面と,が一加工で形成される形状を有するガラス・レンズ。
【請求項2】
上記遮光用段部と上記熱カシメ用斜面とは,加工部材による一回の切削加工により形成されるものである,
請求項1に記載のガラス・レンズ。
【請求項3】
上記遮光用段部が遮光されている,請求項1または2に記載のガラス・レンズ。
【請求項4】
上記ガラス・レンズは,レンズ鏡胴に含まれるレンズのうち,固体電子撮像素子にもっとも近いものである,請求項1から3のうち,いずれか一項に記載のガラス・レンズ。
【請求項5】
プラスチック製レンズ枠に熱カシメによって固定されるガラス・レンズの製造方法であって,
加工手段が,ガラス・レンズのレンズ面の周囲に沿って形成される遮光用段部と,ガラス・レンズの周面から上記遮光用段部に向かって連続して形成される熱カシメ用斜面と,を一加工で形成し,
組み立て装置が,遮光用段部と熱カシメ用斜面とが形成されたガラス・レンズをプラスチック製レンズ枠に取り付け,
熱カシメ装置がガラス・レンズの周面をプラスチック製レンズ枠に熱カシメする,
ガラス・レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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