説明

ガラス不織布の製造装置及び方法並びにガラス不織布

【課題】エレクトロスピニング法により極細径、例えば直径が0.3μm〜5μmのガラスフィラメントからなる不織布、特に、低誘電率、低損失な高周波回路基板を形成するための極肉薄、例えば厚さが50μm〜1mmのガラス不織布の製造装置及び方法並びにガラス不織布を提供する。
【解決手段】長尺状ガラス素材12を供給するガラス素材供給手段14と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を所定速度で搬送する搬送手段16と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を送り出す作用を行うとともに導電性材料から形成されかつ電極となるガイド電極手段と、送り出されてきた該長尺状ガラス素材を溶融軟化させる加熱手段と、該ガイド電極手段から所定間隔を介して対向して設置された導電性材料からなるターゲット部材と、該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加する直流電源手段24とを有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレクトロスピニング法により極細径のガラス繊維からなる不織布を製造する装置及び方法並びにガラス不織布に関し、特に、低誘電率、低損失な高周波回路基板を形成するための肉薄のガラス不織布の製造装置及び方法並びにガラス不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ガラス不織布は細かい繊維径と大きな比表面積を有し耐熱性、化学的安定性に優れているために高温でのフイルターや触媒担体、酵素固定基材、FRP基材などに利用される。また、誘電率特性に優れていることから高周波用電子基材としても有用であり、レーザードームや電子回路基板などの用途が広がっている。
【0003】
従来、プリント配線基板にはガラスクロスと樹脂の複合材料が使用されており、一般的にはEガラスと称せられるアルミノホウケイ酸ガラスが用いられている。特に高周波回路基板として低誘電率、低損失が要求される場合にはDガラスが用いられている。さらに周波数が1GHzを超える高周波回路基板として石英ガラスクロスが用いられてきている。
【0004】
これらのガラスクロスの製造はガラス融液から複数本のフィラメントを引き出し、これを収束させたストランドを撚り合わせたヤーンを紡織することで製造されている。このようにして製造されたガラスクロスは多くの工程を経るために高価である。とくに石英ガラスの場合は溶融粘度が高いために融液からの紡糸ができず、特許文献1に示されているように多数本の石英ガラスロッドを同時に溶融してフィラメントを引き出し、これを収束させて製造されており、多数本の石英ガラスロッドを均一に加熱する必要があり、精密な制御装置が必要な上に、生産性も低く、きわめて高価なものになっている。
【0005】
そこで、特許文献2に示されているように、メルトブロー法により安価に石英ガラス不織布を製造する方法が提案されている。この方法は生産性も高く大量に製造することが可能であるが、溶融ガラスを吹き飛ばしてフィラメントを形成するために、繊維長が短く、径や長さがばらつきもあり、フィラメント同士の絡みつきも不十分で、均一で高強度の不織布を得ることが困難であった。
【0006】
このような石英ガラス不織布を得る別の方法として、特許文献3や特許文献4のようにアルコキシシランを加水分解して得られたゾル液に電界を作用させて、静電力によって紡糸して不織布を製造する方法が知られている。この方法ではゾル液の粘度によって繊維径が変動することから、安定したゾル液を調製しなければならず、安定した品質のフィラメントを得ることが困難であった。また、紡糸した後に焼結してガラス化する必要があり、焼結後の厚みを一定にすることが困難であった。さらに、焼結時にフィラメント同士の一部が融着して、柔軟性が損なわれるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−99376号公報
【特許文献2】特開2004−353132号公報
【特許文献3】特開2003−73964号公報
【特許文献4】特開2007−63683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、エレクトロスピニング法により極細径、例えば直径が0.3μm〜5μmのガラスフィラメントからなる不織布、特に、低誘電率、低損失な高周波回路基板を形成するための極肉薄、例えば厚さが50μm〜1mmのガラス不織布の製造装置及び方法並びにガラス不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明のガラス不織布の製造装置の第1の態様は、長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給手段と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を所定速度で搬送する搬送手段と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を送り出す作用を行うとともに導電性材料から形成されかつ電極となるガイド電極手段と、送り出されてきた該長尺状ガラス素材を溶融軟化させる加熱手段と、該ガイド電極手段から所定間隔を介して対向して設置された導電性材料からなるターゲット部材と、該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加する直流電源手段とを有し、
前記長尺状ガラス素材の先端部を前記ガイド電極手段から送り出して前記加熱手段によって溶融軟化させて、前記ガイド電極手段と前記ターゲット部材との間に直流電圧を印加して、該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に発生した静電力により前記加熱手段によって溶融軟化させられた該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させることができるようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス不織布の製造装置の第2の態様は、長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給手段と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を所定速度で搬送する搬送手段と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を送り出す作用を行うガイド部を有するとともに導電性材料から形成されかつ電極となりかつ搬送されてきた該長尺状ガラス素材を溶融軟化させる加熱電極手段と、該加熱電極手段から所定間隔を介して対向して設置された導電性材料からなるターゲット部材と、該加熱電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加する直流電源手段とを有し、
前記長尺状ガラス素材の先端部を前記加熱電極手段のガイド部に搬送して溶融軟化させ、前記加熱電極手段と前記ターゲット部材との間に直流電圧を印加して、該加熱電極手段と該ターゲット部材との間に発生した静電力により前記加熱電極手段によって溶融軟化させられた該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させることができるようにしたことを特徴とする。
【0011】
前記長尺状ガラス素材がガラスロッドまたはガラス繊維であり、前記ガラスロッドの直径が0.3mm〜2mmであり、前記ガラス繊維の直径が0.1mm〜0.5mmであるように設定するのが好適である。
【0012】
前記ガラスフィラメントの直径が0.3μm〜5μmであり、また前記直流電圧が5kV〜100kVであるのが好ましい。前記長尺状ガラス素材としては石英ガラスが好適に用いられる。
【0013】
前記ターゲット部材の形状には特別の限定はないが、XY方向に移動可能とされたターゲット部材又は回転可能とされたターゲット円筒部材を採用することができる。
【0014】
本発明のガラス不織布の製造方法の第1の態様は、本発明の第1の態様の製造装置を用いるガラス不織布の製造方法であって、前記ガラス素材供給手段から長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給工程と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を前記搬送手段によって所定速度で搬送するガラス素材搬送工程と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を前記ガイド電極手段によって前記加熱手段に向かって送り出すガラス素材送り出し工程と、送り出されてきた該長尺状ガラス素材の先端部を前記加熱手段によって溶融軟化させるとともに前記直流電源手段によって該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加して静電力を生じさせこの静電力により該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させてガラス不織布とするガラスフィラメント堆積工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明のガラス不織布の製造方法の第2の態様は、本発明の第2の態様の製造装置を用いるガラス不織布の製造方法であって、前記ガラス素材供給手段から長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給工程と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を前記搬送手段によって所定速度で搬送するガラス素材搬送工程と、前記加熱電極手段のガイド部に搬送されてきた該長尺状ガラス素材の先端部を前記加熱電極手段によって溶融軟化させるとともに前記直流電源手段によって該加熱電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加して静電力を生じさせこの静電力により該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させてガラス不織布とするガラスフィラメント堆積工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明のガラス不織布は、本発明の第1又は第2の態様の製造方法により製造され、直径が0.3μm〜5μmのガラスフィラメントが相互に絡み合って50μm〜1mmの厚さに堆積状態となっていることを特徴とする。本発明のガラス不織布においては、ガラスフィラメントとして石英ガラスフィラメントを用いた石英ガラス不織布が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガラス不織布の製造装置及び方法によれば、極細径のガラスフィラメントを長繊維で連続して製造することができ、これをターゲット部材上に堆積することで肉薄のガラス不織布を製造することができる。本発明のガラス不織布の製造装置及び方法においては、ガラス材料として石英ガラスのように高融点であるために融液からの紡糸が困難な材料でも容易に不織布を製造することができ、低誘電率、低損失な高周波回路基板を形成するための肉薄のガラス不織布を提供することができる。本発明のガラス不織布は、肉薄、例えば厚さが50μm〜1mmであり、低誘電率、低損失な高周波回路基板を効果的に形成することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のガラス不織布の製造装置の一つの実施の態様を示す概略説明図である。
【図2】本発明のガラス不織布の製造装置の他の実施の態様を示す概略説明図である。
【図3】本発明のガラス不織布の製造装置の別の実施の態様を示す概略説明図である。
【図4】本発明のガラス不織布の製造装置のさらに別の実施の態様を示す概略説明図である。
【図5】本発明のガラス不織布の製造方法の第1の態様の一つの実施の形態の工程順を示すフローチャートである。
【図6】本発明のガラス不織布の製造方法の第2の態様の一つの実施の形態の工程順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明は図示例に限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0020】
図1は本発明のガラス不織布の製造装置の一つの実施の態様を示す概略説明図である。図1において、符号10は本発明のガラス不織布の製造装置である。該ガラス不織布の製造装置10は、長尺状ガラス素材12を供給するボビン等のガラス素材供給手段14を有している。該長尺状ガラス素材の形状としてはガラスロッドやガラス繊維を例示することができる。また、該ガラスロッドとしては直径が0.3mm〜2mmのものが、該ガラス繊維としては直径が0.1mm〜0.5mmのものが好適に使用される。また、上記長尺状ガラス素材としてはホウケイ酸ガラス等の一般的なガラス素材が使用できるが、石英ガラスが好適に使用される。
【0021】
16は搬送手段で、前記ガラス素材供給手段14から供給されてきた長尺状ガラス素材12を所定速度で搬送する作用を行う。該搬送手段16としては、例えば図1に示したように相対向して設置された一対のロールからなる送りロール手段を採用することができる。該搬送手段16によって搬送されてきた長尺状ガラス素材12はガイド電極手段18によってさらに搬送方向に送り出される。該ガイド電極手段18は黒鉛等の導電性材料から形成され電極として作用するように構成される。
【0022】
20は加熱手段で、該ガイド電極手段18に近接して対向設置されている。該ガイド電極手段18によって送り出されてきた長尺状ガラス素材12はその先端部分が加熱手段20によって溶融軟化せしめられる。該加熱手段20としては、後述するように種々の加熱装置を適用することができるが、図1の図示例ではバーナー20aから酸水素バーナー火炎20bを放射する構成を図示した。バーナー20aを適用する場合には、酸水素バーナー火炎20bの中で長尺状ガラス素材12の先端部が溶融軟化せしめられる。
【0023】
22は導電性材料、例えばステンレス材等の金属材料からなるターゲット部材で、該ガイド電極手段18及び加熱手段20からそれぞれ所定間隔を介して対向して設置されている。24は直流電源手段で、該ガイド電極手段18と該ターゲット部材22とにそれぞれ配線25を介して接続されており、該ガイド電極手段18と該ターゲット部材22の間に高圧直流電圧を印加するように作用する。該ターゲット部材22はXY方向に移動可能とされたターゲット部材保持手段23に保持されており、必要に応じてXY方向に移動できるように構成されている。
【0024】
上記の構成によりその作用を説明する。まず、前記長尺状ガラス素材12の先端部を前記ガイド電極手段18から送り出して前記加熱手段20によって溶融軟化させる。一方、前記ガイド電極手段18と前記ターゲット部材22との間に高圧直流電圧を印加して、該ガイド電極手段18と該ターゲット部材22との間に発生した静電力により前記加熱手段20によって溶融軟化させられた長尺状ガラス素材12の先端部からガラスフィラメント26を図1に示したように該ターゲット部材22上に堆積させ、ガラス不織布28を形成することができる。
【0025】
実際の作業においては、該ガイド電極手段18と該ターゲット部材22との間隔は50mm〜300mm程度として、5kV〜100kVの高圧直流電圧を印加するのが好適である。このような作業条件では、溶融した長尺状ガラス素材12の先端部分から直径10μm以下のガラスフィラメント26を静電力によりターゲット部材22上に堆積させることができる。
【0026】
ガラスフィラメント26の外径は長尺状ガラス素材12の送り速度、火炎温度、印加電圧などを調整することで制御することができる。前記ターゲット部材22としては、図1の図示例では金属ターゲット部材を固定して設置した場合を示したが、ターゲット部材22を、後掲する図3に示すように、円筒状にして回転しつつ、回転軸方向に往復移動させる構成とすることもでき、また、図1に示した前記ターゲット部材保持手段23を作動させて金属ターゲット部材をXYステージ上で二次元的に移動させることによって、ガラスフィラメント26を平面状に堆積させてガラス不織布28とすることもできる。製造されるガラス不織布は堆積中あるいはその後にサイジング材を塗布して強度を維持するようにすることができ、また、バインダーを加えて強化することも可能である。
【0027】
前記長尺状ガラス素材12としてはEガラス、Dガラスなどのプリント配線基板に用いられるようなガラスでも良く、またホウケイ酸ガラスを用いることもできるが、とくに石英ガラスが好適に用いられる。石英ガラスは溶融粘度が高いために融液からの紡糸ができないという難点があるため、石英ガラス不織布を製造する場合には本発明の装置及び方法を適用するのが有効である。ガイド電極手段18を構成する導電性材料としては銅やステンレスなどの金属材料も使えるが金属不純物の混入を嫌う場合には黒鉛が好ましい。ターゲット部材22を構成する導電性材料については特に限定されないが、ステンレスなどの金属材料が用いられる。
【0028】
加熱手段20となるバーナー20aから放射される火炎20bはガラス素材12の供給方向に直交する方向から加熱する方法が安定しており制御性に優れているが、図2に示したように火炎に平行に供給してガス流速を加えることで、紡糸速度を速めて生産性を高めることができるので、以下に説明する。なお、本発明における紡糸はガラス素材の先端部が溶融軟化され静電力によってガラスフィラメントとして分離浮遊する状態を指称する用語として用いている。
【0029】
図2は本発明のガラス不織布の製造装置の他の実施の形態を示す概略説明図である。図2の実施の形態と図1の実施の形態との相違点は次の通りある。図2のガラス不織布の製造装置10Aにおいては図1に示したガイド電極手段18が省略されており、かつ図1に示した加熱手段20の代わりに加熱作用とガイド作用を兼ねることのできる加熱電極手段21が設置されている。図2の例では、該加熱電極手段21を構成するバーナー21aがガラス素材12の供給方向と一致乃至平行した状態で設置され、従って酸水素バーナー火炎21bがガラス素材12の供給方向と一致乃至平行した状態で放射される。
【0030】
該バーナー21aの内部に長尺状ガラス素材12が挿通可能な貫通孔であるガイド部30が開穿されており、酸水素バーナー火炎21bによって溶融軟化された長尺状ガラス素材12のガラスフィラメント26は図2に示したように該バーナー21aの先端開口部から水平方向に火炎と共に放射されて静電力によってターゲット部材22上に堆積する。また直流電源手段24は、該加熱電極手段21と該ターゲット部材22とにそれぞれ配線25を介して接続されており、該加熱電極手段21と該ターゲット部材22の間に高圧直流電圧を印加するように作用する。その他の構成は図1と同様であり、同一の符号によって示してあるので、それらの構成部材についての再度の説明は省略する。
【0031】
図2の構成のガラス不織布の製造装置10Aの作用について説明する。まず、前記長尺状ガラス素材12の先端部を前記搬送手段16によって搬送し、加熱電極手段21のガイド部30内に挿通し前記加熱電極手段21によって溶融軟化させる。一方、前記加熱電極手段21と前記ターゲット部材22との間に高圧直流電圧を印加して、該加熱電極手段21と該ターゲット部材22との間に発生した静電力により前記加熱電極手段21によって溶融軟化させられた長尺状ガラス素材12の先端部から水平方向に放射されたガラスフィラメント26を図2に示したように該ターゲット部材22上に堆積させ、ガラス不織布28を形成することができる。この場合、ガス流速の乱れによって静電場が乱され、フィラメント径のばらつきは大きくなる傾向になる。また、火炎の電気導電性のために放電が生じやすくなることから、ターゲット部材22の位置と火炎が接近しすぎないような距離、角度を設定する必要がある。
【0032】
図1及び図2の実施の形態では、ターゲット部材22として金属ターゲット部材を使用した例を示したが、ターゲット部材22としては平板状部材以外の形状の部材を使用することもでき、例えば図3に示すように円筒状の部材を適用することもできるので、以下に説明する。なお、図3の図示例では図2の構成においてターゲット部材22を円筒状部材とした例を示してあるが、図1の構成においても同様に円筒状のターゲット部材を適用することができることはいうまでもない。
【0033】
図3は本発明のガラス不織布の製造装置の別の実施の形態を示す概略説明図である。図3の実施の形態と図2の実施の形態との相違点は次の通りある。図3のガラス不織布の製造装置10Bにおいては図2に示したターゲット部材22に代えて回転軸32上に回転可能でありかつ回転軸方向に移動可能とされた状態で取り付けられたターゲット円筒体34が設けられている。その他の構成は図2と同様であり、同一の符号によって示してあるので、それらの構成部材についての再度の説明は省略する。このように円筒状のターゲット部材であるターゲット円筒体34を用い、このターゲット円筒体34を回転させつつ回転軸方向に往復移動させる状態としてガラスフィラメントを当該ターゲット円筒体34の表面に堆積させてガラス不織布を製造させるようにすることも可能である。
【0034】
図1に示したガラス不織布の製造装置10の図示例においては、加熱手段20としてはバーナー20aによる酸水素バーナー火炎20bの例を示したが、レーザー光や電気炉による加熱であってもよい。レーザー光の場合には炭酸ガスレーザー、YAGレーザーなどが用いられる。溶融部分の粘度が高いため、溶融部分の周囲にガス噴射ノズルを設けてフィラメントが吹き出し易くする必要がある。電気炉の場合には溶融部分が軟化して落下するために、下方に向けて紡糸する。電気炉内にはアルミナ製の炉心管を設けて、ヒーターとの絶縁を完全におこなう必要がある。電気炉はアースしてガラス溶融部分を負電極、金属ターゲット部材を正電極にするなど、放電に対する処置が必要である。
【0035】
なお、図1の図示例では加熱手段であるバーナーを垂直方向に設置した例を示したが、バーナー以外の加熱手段を含めて必要に応じて加熱手段を垂直方向以外にも適宜傾斜させた状態で設置してもよいことはいうまでもない。例えば、図4に示すように図1の構成において加熱手段20であるバーナー20aを水平方向に設置する構成を採用してガラス不織布の製造装置10Cとすることも可能である。この場合は、加熱手段20にガイド部30を設けて加熱手段20の内部において長尺状ガラス素材12の水平方向のガイドを行う点を除いては図1の構成と同様であるが、図2の構成の場合と同様の作用を行うことができる。図4における各部材は、上記構成の相違点以外は同様であり、図1と同様の符号で示されている。
【0036】
図2及び図3に示したガラス不織布の製造装置10A,10Bの図示例においては、加熱電極手段21としてガイド部30を備えたバーナー21aによる酸水素バーナー火炎21bの例を示したが、図1の場合と同様にレーザー光や電気炉による加熱を採用することもでき、また電気炉による加熱を行う場合には、内部にヒーター機能を備えた管状の電気炉や、アーク炉を適用することが可能である。なお、図2及び図3の図示例では加熱手段であるバーナーを水平方向に設置した例を示したが、バーナー以外の加熱手段を含めて必要に応じて加熱手段を水平方向以外に適宜傾斜させた状態で設置してもよいことはいうまでもない。
【0037】
続いて、本発明のガラス不織布の製造方法の第1及び第2の態様について図5及び図6に基づいて説明する。図5は本発明のガラス不織布の製造方法の第1の態様の一つの実施の形態の工程順を示すフローチャートである。本発明のガラス不織布の製造方法の第1の態様は本発明のガラス不織布の製造装置の第1の態様を利用するものである。以下の説明における各部材の符号は図1に示した符号を使用する。
【0038】
まず、長尺状ガラス素材12をボビン等のガラス素材供給手段14に用意する(図5のステップ100)。次に、長尺状ガラス素材12の先端部を搬送手段16によってガイド電極手段18に搬送する(図5のステップ102)。さらに長尺状ガラス素材12の先端部を搬送手段16によって当該ガイド電極手段18から送り出す(図5のステップ104)。このガイド電極手段18から送り出されてきた長尺状ガラス素材12の先端部を前記加熱手段20によって溶融軟化させる(図5のステップ106)。一方、前記ガイド電極手段18と前記ターゲット部材22との間に高圧直流電圧を印加して、該ガイド電極手段18と該ターゲット部材22との間に静電力を発生させる(図5のステップ108)。この発生した静電力により前記加熱手段20によって溶融軟化させられたガラス素材12の先端部からガラスフィラメント26を図1に示したように該ターゲット部材22上に堆積させる(図5のステップ110)。このようにしてガラス不織布28を製造する。
【0039】
図6は本発明のガラス不織布の製造方法の第2の態様の一つの実施の形態の工程順を示すフローチャートである。本発明のガラス不織布の製造方法の第2の態様は本発明のガラス不織布の製造装置の第2の態様を利用するものである。以下の説明における各部材の符号は図2に示した符号を使用する。
【0040】
まず、長尺状ガラス素材12をボビン等のガラス素材供給手段14に用意する(図6のステップ200)。次に、長尺状ガラス素材12の先端部を搬送手段16によって加熱電極手段21に搬送する(図6のステップ202)。搬送されてきた長尺状ガラス素材12の先端部を加熱電極手段21のガイド部30内に挿通し前記加熱電極手段21によって溶融軟化させる(図6のステップ204)。一方、前記加熱電極手段21と前記ターゲット部材22との間に高圧直流電圧を印加して、該加熱電極手段21と該ターゲット部材22との間に静電力を発生させる(図6のステップ206)。この発生した静電力により前記加熱電極手段21によって溶融軟化させられた長尺状ガラス素材12の先端部から図2に示したように水平方向に放射されたガラスフィラメント26を該ターゲット部材22上に堆積させる(図6のステップ208)。このようにしてガラス不織布28を製造する。前述したように、この方法を採用する場合には、ガス流速の乱れによって静電場が乱され、フィラメント径のばらつきは大きくなる傾向になる。また、火炎の電気導電性のために放電が生じやすくなることから、ターゲット部材22の位置と火炎が接近しすぎないような距離、角度を設定する必要がある。
【0041】
なお、図1〜図4に示した実施の形態においては、長尺状ガラス素材12を1本使用した場合について例示して説明したが、本発明の実施にあたっては生産効率の点から複数本乃至多数本の長尺状ガラス素材12を設置して同時に複数本乃至多数本のガラスフィラメントを紡糸するようにしてガラス不織布を製造するのが好適であることは勿論である。また、図1〜図4に示した実施の形態においては、ガイド電極手段18又は加熱電極部材21とターゲット部材22は水平方向に相対向して設置された例を示したが、垂直方向に相対向して設置することもできるし、また設置場所に応じてその他の相対向位置を設定できることは言うまでもない。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、これらの実施例によって本発明が限定的に解釈されるものでないことはいうまでもない。
【0043】
(実施例1)
図1に示した装置と同様の装置を用いて石英ガラス不織布を製造する。長尺状ガラス素材として直径0.3mmの長尺状石英ガラス繊維を用意し、この長尺状石英ガラス繊維を搬送手段(送りローラー)により黒鉛製のガイド電極手段に供給した。この送り方向と直交する方向から加熱手段であるバーナーからの酸水素バーナー火炎で前記長尺状石英ガラス繊維の先端部を約2000℃に加熱して溶融軟化させた。上記ガイド電極手段に対向しかつ150mm離間した位置にXY2方向に移動可能なターゲット部材保持手段を置き、ターゲット部材であるステンレス基板を保持させた(本実施例ではステンレス基板をXY方向に移動させた状態とした)。この黒鉛製のガイド電極手段を電極としてステンレス基板との距離150mm間に直流電源によって20kVの高圧直流電圧を印加しガイド電極手段とステンレス基板との間に静電力を発生させると、溶融した長尺状石英ガラス繊維の先端部から直径約0.5μmの石英ガラスフィラメントが静電力により分離浮遊してステンレス基板上に堆積した。堆積した石英ガラスフィラメントは相互に絡み合い石英ガラス不織布(厚さ200μm)となっていた。
【0044】
(実施例2)
図3に示した装置と同様の装置を用いて石英ガラス不織布を製造する。長尺状ガラス素材として直径0.3mmの長尺状石英ガラス繊維を用意し、この長尺状石英ガラス繊維を搬送手段(送りローラー)により、中心にガイド部である貫通孔を有する加熱電極手段である金属バーナーの貫通孔に供給した。金属バーナーに水素と酸素を供給して酸水素火炎で前記長尺状石英ガラス繊維の先端部を約2000℃に加熱して溶融軟化させた。上記金属バーナーに対向しかつ150mm離間した位置に回転可能なステンレス円筒ドラムを置き、このステンレス円筒ドラムをターゲット部材とした。このステンレス円筒ドラムを回転させるとともに回転軸方向に往復移動させた状態とし、前記金属バーナーを電極としてステンレス円筒ドラムとの間に20kVの高圧直流電圧を印加しバーナーとステンレス円筒ドラムの間に静電力を発生させた。バーナーからのガス流速と静電力によって、酸水素バーナー火炎と同軸方向に送られかつ溶融軟化した長尺状石英ガラス繊維の先端部から直径約1μmの石英ガラスフィラメントが静電力により分離浮遊してステンレス円筒ドラム上に堆積した。堆積したフィラメントは相互に絡み合い石英ガラス不織布(厚さ200μm)となっていた。
【0045】
(実施例3)
加熱手段としてバーナーの代わりに炭酸ガスレーザーを使用した以外は実施例1と同様の手順及び条件で石英ガラス不織布(厚さ200μm)を製造した。
【0046】
(実施例4)
長尺状ガラス素材として長尺状石英ガラス繊維の替わりにSiOを80%、Bを12%含むホウケイ酸ガラスからなる直径0.3mmの長尺状ガラス繊維を用いて、酸水素バーナー火炎で長尺状ガラス繊維の先端を約1200℃に加熱して溶融、軟化させた以外は実施例1と同様の手順で溶融した上記長尺状ガラス素材の先端部から直径約0.3μmのガラスフィラメントが静電力により分離浮遊してステンレス基板上に堆積した。堆積したガラスフィラメントは相互に絡み合いホウケイ酸ガラスからなるガラス不織布(厚さ50μm)となっていた。
【符号の説明】
【0047】
10、10A、10B、10C:ガラス不織布の製造装置、12:長尺状ガラス素材、14:ガラス素材供給手段、16:搬送手段、18:ガイド電極手段、20:加熱手段、20a:バーナー、20b:酸水素バーナー火炎、21:加熱電極手段、21a:バーナー、21b:酸水素バーナー火炎、22:ターゲット部材、23:ターゲット部材保持手段、24:直流電源手段、25:配線、26:ガラスフィラメント、28:ガラス不織布、30:ガイド部、32:回転軸、34:ターゲット円筒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給手段と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を所定速度で搬送する搬送手段と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を送り出す作用を行うとともに導電性材料から形成されかつ電極となるガイド電極手段と、送り出されてきた該長尺状ガラス素材を溶融軟化させる加熱手段と、該ガイド電極手段から所定間隔を介して対向して設置された導電性材料からなるターゲット部材と、該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加する直流電源手段とを有し、
前記長尺状ガラス素材の先端部を前記ガイド電極手段から送り出して前記加熱手段によって溶融軟化させて、前記ガイド電極手段と前記ターゲット部材との間に直流電圧を印加して、該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に発生した静電力により前記加熱手段によって溶融軟化させられた該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させることができるようにしたことを特徴とするガラス不織布の製造装置。
【請求項2】
長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給手段と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を所定速度で搬送する搬送手段と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を送り出す作用を行うガイド部を有するとともに導電性材料から形成されかつ電極となりかつ搬送されてきた該長尺状ガラス素材を溶融軟化させる加熱電極手段と、該加熱電極手段から所定間隔を介して対向して設置された導電性材料からなるターゲット部材と、該加熱電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加する直流電源手段とを有し、
前記長尺状ガラス素材の先端部を前記加熱電極手段のガイド部に搬送して溶融軟化させ、前記加熱電極手段と前記ターゲット部材との間に直流電圧を印加して、該加熱電極手段と該ターゲット部材との間に発生した静電力により前記加熱電極手段によって溶融軟化させられた該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させることができるようにしたことを特徴とするガラス不織布の製造装置。
【請求項3】
前記長尺状ガラス素材がガラスロッドまたはガラス繊維であることを特徴とする請求項1又は2記載のガラス不織布の製造装置。
【請求項4】
前記ガラスロッドの直径が0.3mm〜2mmであり、前記ガラス繊維の直径が0.1mm〜0.5mmであることを特徴とする請求項3記載のガラス不織布の製造装置。
【請求項5】
前記ガラスフィラメントの直径が0.3μm〜5μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のガラス不織布の製造装置。
【請求項6】
前記直流電圧が5kV〜100kVであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のガラス不織布の製造装置。
【請求項7】
前記長尺状ガラス素材が石英ガラスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のガラス不織布の製造装置。
【請求項8】
前記ターゲット部材がXY方向に移動可能とされた基板又は回転可能とされた円筒部材であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のガラス不織布の製造装置。
【請求項9】
請求項1記載の製造装置を用いるガラス不織布の製造方法であって、前記ガラス素材供給手段から長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給工程と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を前記搬送手段によって所定速度で搬送するガラス素材搬送工程と、搬送されてきた該長尺状ガラス素材を前記ガイド電極手段によって前記加熱手段に向かって送り出すガラス素材送り出し工程と、送り出されてきた該長尺状ガラス素材の先端部を前記加熱手段によって溶融軟化させるとともに前記直流電源手段によって該ガイド電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加して静電力を生じさせこの静電力により該ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させてガラス不織布とするガラスフィラメント堆積工程と、を有することを特徴とするガラス不織布の製造方法。
【請求項10】
請求項2記載の製造装置を用いるガラス不織布の製造方法であって、前記ガラス素材供給手段から長尺状ガラス素材を供給するガラス素材供給工程と、供給されてきた該長尺状ガラス素材を前記搬送手段によって所定速度で搬送するガラス素材搬送工程と、前記加熱電極手段のガイド部に搬送されてきた該長尺状ガラス素材の先端部を前記加熱電極手段によって溶融軟化させるとともに前記直流電源手段によって該加熱電極手段と該ターゲット部材との間に直流電圧を印加して静電力を生じさせこの静電力により該長尺状ガラス素材の先端部からガラスフィラメントを該ターゲット部材上に堆積させてガラス不織布とするガラスフィラメント堆積工程と、を有することを特徴とするガラス不織布の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の製造方法により製造され、直径が0.3μm〜5μmのガラスフィラメントが相互に絡み合った状態で50μm〜1mmの厚さに堆積形成されたことを特徴とするガラス不織布。
【請求項12】
前記ガラスフィラメントが石英ガラスフィラメントであることを特徴とする請求項11記載のガラス不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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