説明

ガラス原料粗溶解物の製造方法および光学ガラスの製造方法

【課題】ガラス原料粗溶解物を用いて製造される光学ガラスの着色を抑制すること
【解決手段】ガラス原料を、原料処理部材20の投入口22から、原料処理部材20内に供給する原料供給工程と、原料処理部材20内に供給されたガラス原料を、投入口22から、流出口24へと移動させつつ加熱・溶解する加熱・溶解工程と、流出口24から流れ落ちるガラス原料の融液を、冷却して、固化する固化工程と、を少なくとも経てガラス原料粗溶解物を製造し、原料処理部材20内の投入口22から流出口24側へガラス原料を移動させる際に、原料処理部材20内においてガラス原料を一時的に滞留させるガラス原料粗溶解物の製造方法、および、これを用いた光学ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス原料粗溶解物の製造方法および光学ガラスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス原料を加熱、溶融してガラスを製造する場合、溶融物が坩堝を強く侵蝕する。そして、この際の侵蝕力は、ガラス原料がガラス化する際に顕著であるが、ガラス化した後はさほど大きくは無い。このため、ガラスを製造する場合において、ガラス原料を一旦、粗溶解した後、急冷して得られた粗溶解物を作製し、この粗溶解物を用いて本溶解する製造方法が利用されている。この製造方法では、ガラス原料をそのまま用いて本溶解する製造方法と比べて、本溶解時の坩堝の侵蝕を抑制できる。このような製造方法は、坩堝材料として使用される白金に対する侵蝕力の大きい光学ガラスを製造する場合に利用されている。
【0003】
ここで、粗溶解物の製造には、ガラス原料を加熱して粗溶解するための石英管を備えた原料溶解炉が用いられる(特許文献1,2参照)。この原料溶解炉は、中心軸を水平方向に対して一定の角度を成すように傾斜させて配置した石英管と、この石英管を加熱する抵抗発熱体等とを備えている。そして、粗溶解物を製造する場合、まず、石英管の一方の開口部(投入口)からガラス原料を投入する。そして、投入口よりも鉛直方向下方側に位置する他方の開口部(流出口)側へと、ガラス原料を移動させながら、ガラス原料を加熱・溶解する。そして、融液状となったガラス原料を、流出口の下方に配置された水槽中に投入し、急冷することで、粗溶解物を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−123027号公報
【特許文献2】特開平1−119522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に例示されるような従来のガラス原料の加熱・溶解に用いられる石英管は、内周面が平滑で凹凸の無い面からなる単なる円筒管である。このため、投入口から石英管内に投入された原料が、投入口側から流出口側へと移動する際に、その移動が全く阻害されない。すなわち、原料は、石英管内を加熱・溶解しながら、石英管内にて滞留することなく投入口側から流出口側へとスムーズに移動し、流出口から水槽へと流れ落ちることになる。このため、石英管内にて原料を長時間に亘って加熱・溶解することができない。
【0006】
しがたって、粗溶解物を製造する際に、ガラス原料の加熱・溶解が不十分となり、粗溶解物のガラス化度合が低くなりやすい。すなわち、粗溶解物の白金坩堝に対する侵蝕力は、ガラス化度合が最も低いガラス原料により近づくことになる。このため、得られた粗溶解物は、ガラス原料と比べて白金に対する侵蝕力は大幅に低下しても、本溶解時に侵蝕によって混入した白金に起因する着色が生じ易くなる。
【0007】
このような問題を解決するためには、石英管内のガラス原料をより高温で加熱・溶解することも考えられる。しかしながら、通常、光学ガラスには、様々な種類の金属が含まれている。そして、これらの金属のうち、いくつかの金属は、より高温で加熱されると還元され、その結果、光学ガラスを着色させてしまう場合もある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ガラス原料粗溶解物を用いて製造される光学ガラスの着色を抑制できるガラス原料粗溶解物の製造方法およびこれを用いた光学ガラスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明のガラス原料粗溶解物製造方法は、一方の端部に投入口を備え、他方の端部に流出口を備え、投入口が流出口よりも鉛直方向に対して上方側に位置するように配置され、かつ、筒状および樋状から選択される形状を有する原料処理部材の投入口から、ガラス原料を原料処理部材内に供給する原料供給工程と、原料処理部材内に供給されたガラス原料を、投入口から、流出口へと移動させつつ加熱・溶解する加熱・溶解工程と、流出口から流れ落ちるガラス原料の融液を、冷却して、固化する固化工程と、を少なくとも経てガラス原料粗溶解物を製造し、原料処理部材内の投入口から流出口側へガラス原料を移動させる際に、原料処理部材内においてガラス原料を一時的に滞留させることを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス原料粗溶解物製造方法の一実施態様は、ガラス原料が、Ti化合物、Nb化合物、W化合物、Bi化合物およびLa化合物から選択される少なくともいずれか1種の金属を含むものであることが好ましい。
【0011】
本発明のガラス原料粗溶解物製造方法の他の実施態様は、原料処理部材が筒状部材からなり、筒状部材内に、ガラス原料を一時的に滞留させるための滞留部形成部材が、筒状部材の中心軸に対して、略点対称を成すように配置され、かつ、加熱・溶解工程において、筒状部材を、その中心軸を回転軸として回転させることが好ましい。
【0012】
本発明の光学ガラスの製造方法は、本発明のガラス原料粗溶解物の製造方法によりガラス原料粗溶解物を作製し、このガラス原料粗溶解物を、貴金属または貴金属合金製の容器にて本溶解する本溶解工程を少なくとも経て、光学ガラスを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラス原料粗溶解物を用いて製造される光学ガラスの着色を抑制できるガラス原料粗溶解物の製造方法およびこれを用いた光学ガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法に用いられる原料溶解炉の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す原料溶解炉に用いる筒状部材(円筒管)の一例を示す模式図である。ここで、図2(A)は図1に示す円筒管を、その中心軸を含む平面で切断した場合の端面図の一例を示し、図2(B)は、図2(A)に示す円筒管を流出口側から見た平面図の一例を示すものである。
【図3】図1に示す原料溶解炉に用いる筒状部材(円筒管)の他の例を示す平面図である。
【図4】図1に示す原料溶解炉に用いる筒状部材(円筒管)の他の例を示す平面図である
【図5】図2(A)に示す滞留部S内に複数個の阻害部材を密集して配置した例を示す模式図である。
【図6】図1に示す原料溶解炉に用いる樋状部材(半円筒管)の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法は、一方の端部に投入口を備え、他方の端部に流出口を備え、投入口が流出口よりも鉛直方向に対して(鉛直方向において)上方側に位置するように配置され、かつ、筒状および樋状から選択される形状を有する原料処理部材の投入口から、ガラス原料を原料処理部材内に供給する原料供給工程と、原料処理部材内に供給されたガラス原料を、投入口から、流出口へと移動させつつ加熱・溶解する加熱・溶解工程と、流出口から流れ落ちるガラス原料の融液を、冷却して、固化する固化工程と、を少なくとも経てガラス原料粗溶解物を製造する。ここで、原料処理部材内の投入口から流出口側へガラス原料を移動させる際に、原料処理部材内においてガラス原料を一時的に滞留させる。
【0016】
なお、本願明細書において「ガラス原料」とは、未ガラス化原料、すなわちバッチ原料を意味する。また、原料処理部材は、筒状の形状を有する部材(筒状部材)、および、樋状の形状を有する部材(樋状部材)のいずれかから選択される。それゆえ、筒状部材では、一方の端部に設けられた開口部が投入口となり、他方の端部に設けられた開口部が流出口となる。また、桶状部材としては、筒状部材の外周面の一部または全部が、この筒状部材の長手方向に沿って開口している部材も含まれる。樋状部材は、長手方向に沿って開口している開口部分が、鉛直方向に対して上方側を向くように配置されることが特に好ましい。この場合、樋状部材内を投入口から流出口側へと移動するガラス原料が、樋状部材からこぼれ落ちるのを抑制することが極めて容易になる。
【0017】
したがって、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法では、従来と比べて、原料処理部材内にてより長時間に亘ってガラス原料を加熱・溶解することができる。このため、粗溶解物のガラス化度合をより高めることができ、本溶解時の白金坩堝の侵蝕に起因する光学ガラスの着色を抑制できる。また、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法では、ガラス原料の加熱・溶解に際して、粗溶解物のガラス化度合をより高めるために、加熱時間をより長くすることができるため、加熱温度をより高くしなくてもよい。言い換えれば、従来のガラス原料粗溶解物の製造方法で作製された粗溶解物と同程度のガラス化度合を得るために、ガラス原料を、より低温で、より長時間、加熱・溶解することができる。このため、ガラス原料中に、高温下での還元反応により光学ガラスを着色させ易い金属が含まれていても、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法では、これら金属の還元反応に起因する光学ガラスの着色も容易に抑制できる。
【0018】
高温下での還元反応により光学ガラスを着色させ易い金属成分としては、Ti、Nb、W、Bi等が挙げられ、これらの中でも、光学ガラスに対する着色性の高さ、または、多くの光学ガラスにおいて用いられる汎用性という観点から、前記金属成分として、TiおよびNbが挙げられる。このような観点からは、本実施形態のガラス原料溶解物の製造方法に用いられるガラス原料は、Ti化合物、Nb化合物、W化合物およびBi化合物から選択される少なくともいずれか1種の金属を含むことが特に好ましい。さらにLa化合物などの希土類化合物は溶解しにくい成分であることから溶解温度を高くしなければならない。溶解温度が高くなると侵蝕性が高くなったり、上記着色しやすい金属成分が還元して、ガラスが着色しやすくなる。このため、本実施形態のガラス原料溶解物の製造方法は、希土類化合物、特にLa化合物を含むガラス原料溶解物の製造に好適である。以上より、本実施形態のガラス原料溶解物の製造方法に用いられるガラス原料は、Ti化合物、Nb化合物、W化合物、Bi化合物およびLa化合物から選択される少なくともいずれか1種の金属を含むことが特に好ましい。
【0019】
なお、本願明細書において、「光学ガラスの着色」とは、光学ガラスに要求される光学特性上、本来高い透過率を有するべき所定の波長域での望ましく無い透過率の低下が起こることを意味し、狭義には可視域の波長範囲での望ましく無い透過率の低下を意味するが、広義には、近赤外域の波長範囲または近紫外域の波長範囲での望ましく無い透過率の低下を意味する場合も含む。
【0020】
原料処理部材の投入口から流出口へとガラス原料を移動させる際には、原料処理部材内においてガラス原料を一時的に滞留させる。ここで、原料処理部材内においてガラス原料を一時的に滞留させる方法(滞留方法)としては、特に限定されないが、たとえば、(1)原料処理部材内に、ガラス原料の、原料処理部材の長手方向に対するスムーズな移動を一時的に妨げる堰または障害物を配置する方法、および、(2)原料処理部材の内周面に、ガラス原料の溜まり場となる凹部を設ける方法、が挙げられる。ここで、堰としては、内周面に対して突出するように設けられた凸部、投入口側の内径に対して流出口側の内径が小さくなるように内周面に設けられた段差、融液状のガラス原料が通過可能な貫通穴を設けた仕切り板などが一例として挙げられる。
【0021】
ここで、上記(1)の滞留方法では、原料処理部材内を移動するガラス原料が、堰または障害物によって、押し留められたり、移動速度が大幅に低下したりする。このため、ガラス原料が原料処理部材内に一時的に滞留する。また、上記(2)の滞留方法では、原料処理部材内を移動するガラス原料が、凹部に入り込み、この部分で一時的に滞留した後、凹部を溢れ出たガラス原料が再び流出口側へと移動することになる。
【0022】
次に、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法および光学ガラスの製造方法について、各工程別により詳細に説明する。
【0023】
まず、原料供給工程では、原料処理部材の投入口からガラス原料を投入する。ここで、ガラス原料としては、リン酸を含むガラス原料であれば特に限定されない。なお、リン酸以外のその他のガラス原料を構成する成分としては、Si、Ge、B、Al、Zr、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Nb、Zn、La、Gd、Y、Yb、W、Bi、In、Sc、Te、Ga、Sb等の光学ガラスの製造に用いられる各種元素を含む酸化物、炭酸塩、水酸化物など、公知のガラス製造用の原料が利用できる。また、本溶解時の清澄性を確保するため、ガラス原料を構成する各成分の少なくとも1種類は、炭酸塩等のように、加熱によりガスが発生する成分が選択される。また、ガラス原料は、通常、作製する光学ガラスの組成に応じて各種の成分を適宜混合した粉末状のものが用いられる。
【0024】
ガラス原料を原料処理部材の投入口から原料処理部材内に投入する場合は、ガラス原料を連続的に投入してもよく、一定の時間間隔を置いて逐次投入してもよい。また、単位時間当たりのガラス原料の投入量も、原料処理部材のサイズ・構造や、ガラス原料の加熱・溶解条件等に応じて適宜選択することができる。
【0025】
加熱・溶解工程では、原料処理部材内に投入されたガラス原料を加熱・溶解する。ここで、原料処理部材、ならびに、ガラス原料を原料処理部材内に一時的に滞留させるために必要に応じて原料処理部材内に設けられる堰および障害物を構成する材料としては、ガラス原料に対する耐蝕性および耐熱性を有する耐蝕・耐熱材料が用いられる。このような耐蝕・耐熱材料としては通常、石英ガラスが用いられる。また、原料処理部材ならびに必要に応じて用いられる堰および障害物は、加熱・溶解工程においてガラス原料と接触する部分が耐蝕・耐熱材料から構成されていればよいが、通常は、これら部材全体が耐蝕・耐熱材料から構成される。ここで、原料処理部材が筒状部材からなる場合、加熱・溶解工程の実施に際して、筒状部材は、その中心軸を回転軸として適宜回転させることが好ましい。これにより、筒状部材の内周面の局所的な侵蝕を防ぐことができる。
【0026】
原料処理部材内のガラス原料を加熱する装置としては特に限定されず、抵抗発熱体、重油やガスなどの燃焼加熱等の公知の加熱装置を用いることができ、たとえば、棒状のSiCヒータなどを原料処理部材の周囲に配置することができる。ここで、ガラス原料の加熱温度としては、使用するガラス原料の成分等に応じて適宜選択することができるが、通常は、作製される光学ガラスの液相温度を基準として、流出口近傍の測定温度で、液相温度−100度〜液相温度+500度の範囲内で選択することが好ましく、液相温度−50度〜液相温度+300度の範囲内で選択することがより好ましい。また、投入口は、流出口よりも鉛直方向に対して上方側に位置するように配置されていれば、原料処理部材の中心軸の水平方向に対する傾斜角は特に限定されないが、通常は、1°〜30°の範囲内で設定することが好ましい。また、原料処理部材内に投入された固体状態のガラス原料は、通常、流出口近傍に到達した時点で、ほぼ全量が溶解して融液状となるように、加熱温度や傾斜角等の加熱・溶解条件を設定することが好ましい。
【0027】
固化工程では、流出口から流れ落ちる融液状のガラス原料を、冷却して、固化する。これによりガラス原料粗溶解物を得る。融液状のガラス原料の冷却方法としては特に限定されないが、通常は、水中に、融液状のガラス原料を投入して急冷する。この場合、粒子状のガラス原料粗溶解物が得られる。なお、水冷した場合は、水中からガラス原料粗溶解物を取り出した後、乾燥処理を行う。
【0028】
続いて、本溶解工程を実施するために、ガラス原料粗溶解物を、白金、金、白金合金、金合金などの貴金属または貴金属合金製の容器、例えば、坩堝、樋状あるいはパイプ状の容器に投入して本溶解する。好ましくは白金または白金合金製の坩堝中に投入して本溶解する。その後は、必要に応じて、徐冷、プレス成形、研磨等の後工程を適宜実施することで光学ガラスを得る。なお、光学ガラスは、レンズなどの完成品であってもよく、レンズ等の完成品を製造するために用いるプリフォーム等の半製品であってもよい。
【0029】
次に、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法に用いられる原料溶解炉の具体例について、図面に基づき説明する。
【0030】
図1は、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法に用いられる原料溶解炉の一例を示す模式図であり、具体的には、原料溶解炉の主要部について示した図である。なお、図1およびその他の図において、図中に示す両矢印X方向は水平方向を意味し、両矢印Y方向は鉛直方向を意味し、矢印Y1方向は上方側、矢印Y2方向は下方側を意味する。
【0031】
図1に示す原料溶解炉10は、長手方向の内径および外径が一定である1本の円筒管(筒状部材)20と、円筒管20の周囲に配置された棒状の抵抗発熱体30と、を有している。なお、図中、円筒管20および抵抗発熱体30の一部または全体を適宜囲うように配置される断熱性の壁、原料溶解炉10内や、円筒管20近傍の温度をモニターするための熱電対等の温度センサー、その他の原料溶解炉10を構成する部材については記載を省略してある。また、円筒管20内の具体的な構造についても記載を省略してある。
【0032】
ここで、円筒管20は、その中心軸Cが水平方向に対して所定の角度θを成すように傾斜して配置されている。このため、円筒管20の一方の開口部(投入口22)は、他方の開口部(流出口24)よりも上方側に位置する。また、流出口24の下方には水を満たした水槽WBが配置されている。上記傾斜角θの下限は、円筒管20中を、溶解物が流出口24側に向かって流動することが可能な角度のうち、最も小さい角度を選択することが好ましい。また、傾斜角θの上限は、円筒管20中に投入した原料のすべてが未溶解状態まま流出口24側に到達しない角度を上限とすることが好ましい。傾斜角θは例えば0度を超える範囲で適宜選択されるが、通常は、1度〜30度の範囲内とすることが好ましく、1度〜20度の範囲内とすることがより好ましく、1度〜10度の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0033】
ガラス原料粗溶解物の製造に際しては、不図示のガラス原料を投入口22から投入し、ガラス原料を円筒管20内にて加熱・溶解する。そして、融液状のガラス原料が流出口24から、水槽WBに満たした水中に流れ落ちる。この際、融液状のガラス原料が、水中にて、急冷・固化し、粒子状のガラス原料粗溶解物を得る。
【0034】
なお、筒状部材20内の具体的構造としては、ガラス原料を一時的に滞留させることができるものであれば特に限定されないが、筒状部材20内にガラス原料を一時的に滞留させるための滞留部形成部材が、筒状部材20の中心軸Cに対して、略点対称を成すように配置されていることが好ましい。そして、この際、加熱・溶解工程において、筒状部材20を、その中心軸を回転軸として回転させることが好ましい。この場合、筒状部材20の回転は、連続的に実施してもよく、断続的に実施してもよい。これにより、筒状部材20内の一部分のみが、ガラス原料により著しく侵蝕されるのを防ぐことができる。これに加えて、ガラス原料を一時的に滞留させる機能を筒状部材20に付与する上で、市販の単純な形状の円筒管と、所定の形状に加工した滞留部形成部材とを用いて組み立を行うことができるので、組立作業が非常に容易である。また、滞留部形成部材の形状およびサイズ、ならびに、筒状部材20内の配置位置を適宜選択することにより、筒状部材20内におけるガラス原料の滞留の度合を容易に制御することができる。さらに、ガラス原料の加熱・溶解処理の経時的なばらつきを抑制することもできる。以下に、滞留部形成部材を筒状部材20の中心軸Cに対して点対称に配置した原料溶解炉10の具体例を図面を用いて説明する。
【0035】
図2は、図1に示す原料溶解炉に用いる筒状部材(円筒管)の一例を示す模式図である。ここで、図2(A)は図1に示す円筒管を、その中心軸を含む平面で切断した場合の端面図の一例を示し、図2(B)は、図2(A)に示す円筒管を流出口側から見た平面図の一例を示すものである。
【0036】
図2に示す円筒管20A(20)の内周には、同一の形状・サイズからなる8個のブロック状の滞留部形成部材40A(40)が固定して配置されている。図2に示す滞留部形成部材40Aは、ガラス原料Mの、円筒管20Aの長手方向に対するスムーズな移動を一時的に妨げる堰としての機能を有し、円筒管20Aの内径と同程度の外径を有する円筒管を輪切りにして得られたリング状部材を8等分するように切断する工程を経て作製された部材である。なお、切断後、滞留部形成部材40Aの形状・サイズを調整するために、必要に応じて切断面が研磨または研削されてもよい。
【0037】
ここで8個の滞留部形成部材40Aは、中心軸Cに対して、円筒管20Aの中央部よりやや流出口24側の位置に、円筒管20Aの内周面26に密着するように、円筒管20Aの内周方向に沿って配置されている。なお、以下の説明においては、特に説明の無い限り、中心軸Cに対する滞留部形成部材40の配置位置は、図2(A)に例示される位置に配置されるものとする。
【0038】
また、図2に示す例では、内周方向において互いに隣接する2つの滞留部形成部材40Aの間には、隙間W1が形成されている。この隙間長さ(周方向の長さ)は、バッチ原料の塊が通過できないような長さ、例えば0mm〜5mmの範囲内とすることが好ましく、0mm〜3mmの範囲内とすることがより好ましく、0mm〜1mmの範囲内とすることがさらに好ましい。隙間長さを上記範囲内とすることにより、固体状態のガラス原料M(S)が、滞留部Sに流れ込んだ場合、ガラス原料M(S)を滞留部Sに確実に留めることができる。これに加えて、ガラス原料M(S)が溶解して液状となったガラス原料M(L)を滞留部Sに一時的に滞留させることができると共に、滞留部Sから、流出口24側へと徐々に流出させることができる。この場合、隙間長さや、周方向に設けられる隙間W1の個数を適宜選択することにより、滞留部Sから流出口24側へと流出するガラス原料M(L)の単位時間当たりの流出量を容易に制御できる。
【0039】
なお、滞留部形成部材40を、円筒管20の内周に固定して配置する方法としては、公知の固定方法が適宜選択できる。たとえば、図2に示す例では、滞留部形成部材40Aを、内周面26に対して接着剤で接着する化学的固定方法や、滞留部形成部材40Aと内周面26とを溶接または融着する物理的固定方法が利用できる。ここで、接着剤は、この接着剤により形成された接着層が、ガラス原料の加熱温度において耐熱性を備えると共に、ガラス原料と反応またはガラス原料が溶解した融液により侵食され難いものであることが好ましい。また、固定方法としては、各種の機械的固定方法も利用できる。このような機械的固定方法としては、たとえば、内周面26に滞留部形成部材40Aを係止するための凸部を設け、この凸部を利用して滞留部形成部材40Aを固定することもできる。この場合、中心軸Cに対して凸部の投入口22が設けられた側に滞留部形成部材40Aを配置することで、滞留部形成部材40Aが、その自重により流出口24側に滑り落ちるのを防止できるように固定することができる。または、内周面26と、滞留部形成部材40Aの内周面26と対向する面にそれぞれ穴を設け、これらの穴にピンを差し込むことで内周面26に対して滞留部形成部材40Aを固定することができる。
【0040】
次に、図2に示す円筒管20Aの投入口22からガラス原料Mを投入した場合のガラス原料Mの加熱・溶解のプロセスの一例について説明する。まず、固体状態のガラス原料M(S)を、円筒管20Aの投入口22から投入することで、投入口22近傍の内周面26上に配置する。この際、ガラス原料M(S)は加熱・溶解しながら、流出口24側へと移動する。そして、融液状態となったガラス原料M(L)は、内周面26に沿ってそのまま流出口24側へとスムーズに流れ落ちずに、一旦、滞留部形成部材40Aにより堰止められる。そして、ガラス原料M(L)は、滞留部形成部材40Aの投入口22側の近傍の領域(滞留部S)のうち、鉛直方向の最下方側近傍の領域S0に、一時的に滞留する。この滞留部Sでは、円筒管20Aの長手方向に対して、ガラス原料M(L)の水深が局所的に深くなる。ここで、滞留部Sに滞留するガラス原料M(L)は、たとえば、内周方向に互いに隣接する滞留部形成部材40Aの間の隙間W1を通過したり、および/または、融液面の上昇により滞留部形成部材40Aの内周面40AI(中心軸C側の面)を乗り越えたりすることで、徐々に流出口24側へと流れ落ちる。
【0041】
なお、ガラス原料Mは、円筒管20内への投入前の状態において、通常は粉末状の固体材料が用いられるが、粗い粒子状の固体材料、インゴット状の固体材料、または、これら材料を2種類以上混合した材料等を適宜選択して用いることもできる。また、滞留部Sに滞留するガラス原料Mは、通常は液体状であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、たとえば、固体と液体とが混合した状態であってもよい。
【0042】
また、固体状態のガラス原料M(S)の円筒管20内への投入に際しては、円筒管20内に新たに投入されるガラス原料Mが、滞留部S内に滞留する液状のガラス原料M(L)の液面に覆いかぶさらないように投入されることが好ましい。新たに投入されるガラス原料M(L)が、滞留部S内に滞留する液状のガラス原料M(L)の液面を覆うように投入された場合、滞留部S内に滞留する液状のガラス原料M(L)が、滞留部形成部材40Aの上面側を乗り越えて、一時に多量に流出口24側へと流れ出すためである。この場合、ガラス原料Mを加熱・溶解するプロセスにばらつきが生じ易くなる。これに加えて、流出口24から流れ落ちる融液を水槽WB中に投入してガラス原料粗溶解物を得る場合、粒径が大きくばらつくことになる。
【0043】
図3は、図1に示す原料溶解炉に用いる筒状部材(円筒管)の他の例を示す平面図であり、具体的には、図2に例示した円筒管の変形例を示した図である。ここで、図3に示す平面図は、円筒管を流出口側から見た平面図である。
【0044】
図3に示す円筒管20B(20)の内周には、同一の形状・サイズからなる8個のブロック状の滞留部形成部材40B(40)が固定して配置されている。図3に示す滞留部形成部材40Bは、ガラス原料Mの、円筒管20Bの長手方向に対するスムーズな移動を一時的に妨げる堰としての機能を有し、円筒管20Bの内径と同程度の外径を有する円筒管を輪切りにして得られたリング状部材を8等分するように切断する工程を経て作製された部材である。図3に示す滞留部形成部材40Bは、図2に示す滞留部形成部材40Aと実質的に同様の形状・機能を有する部材である。8個の滞留部形成部材40Bは、円筒管20Bの内周面26に密着するように、円筒管20Bの内周方向に沿って配置され、かつ、内周方向において互いに隣接する2つの滞留部形成部材40Bの間には、隙間W2が形成されている。
【0045】
また、1つのリングを構成するように円筒管20B内に配置された8個の滞留部形成部材40Bの内周側には、1つのリングを構成するように4個のブロック状部材50が固定して配置される。このブロック状部材50は、1本の円筒管を輪切りにしたリング状部材を4等分し、8個の滞留部形成部材40Bの内周側に配置できるように、適宜研削して形状を整えた部材である。
【0046】
図3に示す例では、円筒管20Bの中心軸C方向のガラス原料Mや空気の自由な移動を遮断する1枚の仕切り壁を構成するように、滞留部形成部材40Bおよびブロック状部材50が円筒管20Bの内周側に配置されている。また、滞留部形成部材40Bと、ブロック状部材50との間には、間隙M1が形成されている。そして、この隙間M1は、少なくとも、固体状態のガラス原料M(S)の流動を阻害することができる程度の大きさを有する。
【0047】
ここで、単位時間当たりに、円筒管20B内に投入されるガラス原料Mの投入量が少ない場合は、滞留部形成部材40Bのみが、ガラス原料Mを円筒管20B内に一時的に滞留させる機能を発揮する。この点は、図2に示す円筒管20Aを構成する滞留部形成部材40Aも同様である。
【0048】
一方、図2に示す円筒管20Aでは、単位時間当たりの円筒管20A内に投入されるガラス原料Mの投入量が大きい場合には、溶解しきれなかった固体状態のガラス原料M(S)が滞留部形成部材40Aの内周面40AIを乗り越えて、流出口24側へと移動してしまうことになる。これに対して、図3に示す円筒管20Bでは、単位時間当たりの円筒管20B内に投入されるガラス原料Mの投入量が大きい場合でもブロック状部材50もガラス原料Mを円筒管20B内に一時的に滞留させる機能を発揮する。すなわち、ブロック状部材50は、ガラス原料Mの投入量が大きい場合には、ガラス原料Mの、円筒管20Bの長手方向に対するスムーズな移動を一時的に妨げる堰としての機能することができる。
【0049】
図4は、図1に示す原料溶解炉に用いる筒状部材(円筒管)の他の例を示す平面図である。ここで、図4に示す平面図は、円筒管を流出口側から見た平面図である。
【0050】
図4に示す円筒管20C(20)の内周には、同一の形状・サイズからなる4個のブロック状の滞留部形成部材40C(40)が、内周方向に固定して配置されている。図4に示す滞留部形成部材40Cは、円筒管20Cの内径と同程度の外径を有する円筒管を輪切りにして得られたリング状部材を周方向に4等分するように切断する工程を経て作製された部材である。この滞留部形成部材40Cは、滞留部形成部材40Cの作製に用いたリング状部材の内周面であった面(凹面40CD)が、内周面26と対向するように円筒管20Cの内周に配置されている。このため、滞留部形成部材40Cの凹面40CDと、内周面26との間には、液状のガラス原料M(L)が容易に通過可能な間隙G2が形成される。また、内周面26の周方向に互いに隣接する2つの滞留部形成部材40Cの端面40CSと、内周面26との間にも、液状のガラス原料M(L)が容易に通過可能な間隙G3が形成される。この端面40CSは、滞留部形成部材40Cの作製に用いたリング状部材を切断した際に形成された切断面である。
【0051】
図4に示す滞留部形成部材40Cは、円筒管20Cの長手方向に対して、固体状態のガラス原料M(S)のスムーズな移動を一時的に妨げる障害物として機能する。
【0052】
図1〜図4に例示した円筒管20、滞留部形成部材40、ブロック状部材50を構成する材料としては、ガラス原料Mに対する耐蝕性と、ガラス原料Mを加熱・溶解する際の温度に耐えうる耐熱性とを有する材料が用いられ、通常は、石英ガラスが用いられる。しかしながら、ガラス原料Mを加熱・溶解する処理を長時間に亘って実施した場合、円筒管20、滞留部形成部材40、ブロック状部材50を構成する材料は徐々に侵蝕される。このため、図2および図3に例示する滞留部形成部材40A、40Bでは、隙間W1、W2の幅が時間の経過と共に大きくなり、液状のガラス原料M(L)を堰き止める機能が低下する。この場合、円筒管20A、20B内において、ガラス原料M(L)を一時的に滞留させることが困難となる。
【0053】
このような問題の発生を防止するためには、滞留部S内に、予め、滞留部形成部材40A、40Bの堰高さ(円筒管20A、20Bの直径方向の長さ)の数分の1以下のサイズを有する複数個の阻害部材を密集して配置しておくことが好ましい。
【0054】
図5は、図2(A)に示す滞留部S内に複数個の阻害部材を密集して配置した例を示す模式図である。ここで、図5(A)は、ガラス原料Mの加熱・溶解処理を開始し始めた初期の時点を示す図であり、図5(B)は、ガラス原料Mの加熱・溶解処理の開始後、滞留部形成部材40Aの侵食がある程度進行した時点を示す図である。図5に示す阻害部材60は、滞留部形成部材40Aの堰高さの数分の1〜数十分の1程度のサイズを有する部材であり、滞留部S内に密集して配置されている。なお、阻害部材60は、円筒管20、滞留部形成部材40、ブロック状部材50を構成する材料と同様の材料からなり、その形状としては、たとえば、球状、棒状、多面体状、筒状等の形状が適宜選択できる。
【0055】
ここで、滞留部形成部材40Aの液状のガラス原料M(L)を堰き止める機能が低下し、図5(B)に示すように液面Lが大幅に低下した場合、液状のガラス原料M(L)は、阻害部材60同士の間を液状のガラス原料M(L)が流れることになる。この場合、阻害部材60が密集して配置されており、阻害部材60間の隙間は非常に小さいため、阻害部材60同士の間を液状のガラス原料M(L)の流動抵抗は非常に大きくなる。すなわち、滞留部形成部材40Aの液状のガラス原料M(L)を堰き止める機能が低下し、図5(B)に示すように液面Lが大幅に低下した場合、阻害部材60は、ガラス原料M(L)の、円筒管20Aの長手方向に対するスムーズな移動を一時的に妨げる障害物としての機能を発揮する。
【0056】
以上に説明した本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法およびこれを用いた光学ガラスの製造方法は、リン酸塩系の光学ガラスの製造に特に好適である。リン酸塩系のガラス組成では、従来のガラス原料粗溶解物の製造方法およびこれを用いた光学ガラスの製造方法では、着色が生じ易かったが、本実施形態のガラス原料粗溶解物の製造方法およびこれを用いた光学ガラスの製造方法では、このような着色をより効果的に抑制できる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものでは無い。
【0058】
(実施例A1)
−原料溶解炉−
原料溶解炉10としては、円筒管20内が図3に示す構成からなるものを用いた。円筒管20Bおよびその内部に配置された各部材の構成材料は、全て石英ガラスからなる。ここで、円筒管20Bの寸法形状は、長さ:100cm、外径:10cm、内径:8cmであり、滞留部形成部材40Bは、厚み:5cm、外径:8cm、内径:6cmのリング状部材を、周方向に等間隔に8等分した後、円筒管20B内に配置し易いように、適宜形状を整えたものである。円筒管20B内に配置した互いに隣接する2つの滞留部形成部材40B間の隙間は約1mm前後である。また、ブロック状部材50は、滞留部形成部材40Bの作製に用いたリング状部材と同じ厚みのリング状部材を適宜切断して作製した。なお、滞留部形成部材40B、ブロック状部材50は、円筒管20Bの流出口24側から約20cmの位置に配置した。円筒管20Bの傾斜角θは3度に設定した。また、円筒管20Bの流出口24の近傍には、温度をモニターするための熱電対を配置した。
【0059】
また、滞留部形成部材40Bにより形成される滞留部内には、外径10mm〜20mmの20〜30個のガラス片からなる阻害部材60を密集して配置した。なお阻害部材60は円筒管20と同じ材料からなる。
【0060】
抵抗発熱体30としては、円筒管20Bと同程度の長さを有する棒状のSiCヒータ、円筒管20Bと略平行を成すように、円筒管20Bの周囲に複数本配置した。さらに、流出口24の下方には、流出口24から流出する融液を急冷して、ガラス原料粗溶解物(カレット)を得るために、水槽WBを配置した。
【0061】
(原料)
原料から水、炭酸ガス等の加熱によりガス化する成分を除外した後の酸化物換算で、下記組成からなるリン酸塩系光学ガラス製造用の原料(ガラス原料MA)を準備した。なお、原料の調合に際しては、下記に示す各成分のうち、Pについては、正燐酸(HPO)、メタリン酸又は五酸化二燐等を用い、その他の成分については、炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を用いた。
:17質量%
Nb:22.3質量%
Bi:43.5質量%
WO:8.6質量%
BaO:0.7質量%
:0.6質量%
TiO:2.6質量%
LiO:0.8質量%
NaO:3質量%
O:0.9質量%
合計:100質量%
Sbを外割りで0.2質量%添加
【0062】
−カレットの作製−
SiCヒータにより、円筒管20Bを1100度前後まで加熱した。続いて、円筒管20Bの加熱温度を1100度に維持しつつ、投入口22側から、粉末状のガラス原料MAを投入した。なお、ガラス原料MAは、一定の時間間隔で1kgづつ投入した。また、円筒管20Bは、中心軸Cを回転軸として、原料MAを加熱、溶解する度に一定の角度づつ回転させた。そして、円筒管20B内で、融液状となったガラス原料MAを、流出口24側から流出させ、水槽WB中にて急冷し、カレットを得た。
【0063】
−本溶解および光学ガラスの作製−
得られたカレット2kgを、白金坩堝に投入し、約1100度で4時間の本溶解を実施し、得られたガラスを、徐冷炉にて徐冷し、屈折率ndが2.0027、アッベ数νdが19.3の光学ガラスを得た。
【0064】
(実施例A2)
原料溶解炉10の円筒管20内の構造として、阻害部材60も併用した図3に示す構造の代わりに、図4に示す構造を採用した以外は、実施例A1で用いた原料溶解炉10と同様の構造を有する原料溶解炉10を用いた。ここで、円筒管20Cの寸法形状は、実施例A1で用いた円筒管20Bと同様である。また、滞留部形成部材40Cは、円筒管20Cと同じ材料からなるリング状部材を、周方向に等間隔に4等分した後、円筒管20C内に配置し易いように、適宜形状を整えたものである。なお、滞留部形成部材40Cは、実施例A1と同様に、円筒管20Cの流出口24側から約20cmの位置に配置した。円筒管20Cの傾斜角θは実施例A1と同様に3度に設定した。また、円筒管20Cの外周面の中央部近傍には、温度をモニターするための熱電対を配置した。
【0065】
そして、実施例A1と同様にして、カレットを作製し、本溶解を行い光学ガラスを得た。
【0066】
(比較例A1)
実施例A1で用いた原料溶解炉10において、円筒管20内から、滞留部形成部材40B、ブロック状部材50および阻害部材60を除外した原料溶解炉を用いた以外は、実施例A1と同様にしてカレットを作製し、本溶解を行い光学ガラスを得た。
【0067】
(評価)
実施例A1および実施例A2で得られた光学ガラスについては、分光光度計により、300nm〜700nmの範囲内にて、透過率の測定を行った。これら実施例A1および実施例A2の光学ガラスは、波長500nm前後から透過率が低下し、波長400nm前後で透過率がほぼゼロとなる光学特性を有していた。ここで、透過率が70%となる波長(λ70)を求めた。結果を表1に示す。なお比較例A1で得られたガラスは着色が著しく、光学ガラスとしては適さないものであった。このように実施例A1、A2、比較例B1のガラス組成は同じであるが、その製法の違いによって、実施例A1、A2では光学ガラスとして好適なガラスを得ることができたが、比較例A1のガラスは光学ガラスとしては適さない著しく着色したガラスであった。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示す結果からは、実施例A1,A2の光学ガラスの方が、比較例A1の光学ガラスよりも可視光の短波長域において、より幅広い波長で光を透過し易い(着色し難しい)ことが判った。また、実施例A1の光学ガラスの方が、実施例A2の光学ガラスよりも可視光の短波長域において、より幅広い波長で光を透過し易い(着色し難しい)ことが判った。
【0070】
(実施例A3)
実施例A1において用いた円筒管20Bの代わりに、この円筒管20Bを、中心軸Cを含む平面で実質的に2分割して得られた半円筒管(図6に示す樋状部材100)を用いた。この樋状部材100は、円筒管20Bを2分割した構造を有する点を除けば、その他の寸法や構成材料は、円筒管20Bと同様である。また、円筒管20B内に配置される滞留部形成部材40Bおよびブロック状部材50についても、その配置個数を半分にして、図6に示すように、樋状部材100の内周面に配置した。そして、樋状部材100を回転させなかった点を除いて、実施例A1と同様に滞留部内に阻害部材60を配置し、実施例A1と同様の条件にてカレットを作製した。その結果、λ70は実施例A1と概ね同程度の値を示した。
【0071】
(実施例B1)
実施例B1において、ガラス原料Mとして、下記に示す下記組成からなるリン酸塩系光学ガラス製造用のガラス原料MBを使用した。そして、円筒管20Bの加熱温度を1240度に変更した以外は、実施例A1と同様にしてカレットを作製し、本溶解を行い光学ガラスを得た。
:20質量%
Nb:43質量%
BaO:19.5質量%
:3質量%
TiO:8質量%
NaO:3.5質量%
O:1質量%
ZnO:1質量%
ZrO:1質量%
合計:100質量%
Sbを外割りで0.3質量%添加
【0072】
(実施例B2)
実施例B2において、ガラス原料Mとして、ガラス原料MBを使用し、円筒管20Cの温度を実施例B1と同様に設定した以外は、実施例A2と同様にしてカレットを作製し、本溶解を行い光学ガラスを得た。
【0073】
(比較例B1)
比較例B1において、ガラス原料Mとして、ガラス原料MBを使用し、円筒管の温度を実施例B1と同様に設定した以外は、実施例B1と同様にしてカレットを作製し、本溶解を行い、屈折率ndが1.9236、アッベ数νdが20.9の光学ガラスを得た。
【0074】
(評価)
実施例B1、実施例B2および比較例B1で得られた光学ガラスについては、実施例A1の光学ガラスと同様の評価を行った。結果を表2に示す。実施例B1、実施例B2の光学ガラスは、実施例A1、実施例A2の光学ガラスよりも屈折率ndが低い分、高屈折率付与成分であるNb、TiO、BiおよびWOの合計含有量が少なく、着色が少ないガラス組成となっているが、ガラス組成が同じでも実施例B1、B2と比較例B1との間には表2に示すように着色の指標であるλ70において大きな差が見られた。
【0075】
【表2】

【符号の説明】
【0076】
10 原料溶解炉
20、20A、20B、20C 円筒管(筒状部材、原料処理部材)
22 投入口
24 流出口
26 内周面
30 抵抗発熱体
40、40A、40B、40C 滞留部形成部材
40AI 内周面
50 ブロック状部材
60 阻害部材
100 半円筒管(樋状部材、原料処理部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部に投入口を備え、他方の端部に流出口を備え、前記投入口が前記流出口よりも鉛直方向に対して上方側に位置するように配置され、かつ、筒状および樋状から選択される形状を有する原料処理部材の前記投入口から、ガラス原料を前記原料処理部材内に供給する原料供給工程と、
前記原料処理部材内に供給された前記ガラス原料を、前記投入口から、前記流出口へと移動させつつ加熱・溶解する加熱・溶解工程と、
前記流出口から流れ落ちる前記ガラス原料の融液を、冷却して、固化する固化工程と、を少なくとも経てガラス原料粗溶解物を製造し、
前記原料処理部材内の前記投入口から前記流出口側へ前記ガラス原料を移動させる際に、前記原料処理部材内において前記ガラス原料を一時的に滞留させることを特徴とするガラス原料粗溶解物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガラス原料粗溶解物の製造方法において、
前記ガラス原料が、Ti化合物、Nb化合物、Bi化合物、W化合物およびLa化合物から選択される少なくともいずれか1種の金属を含むことを特徴とするガラス原料粗溶解物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガラス原料粗溶解物の製造方法において、
前記原料処理部材が筒状部材からなり、
前記筒状部材内に、前記ガラス原料を一時的に滞留させるための滞留部形成部材が、前記筒状部材の中心軸に対して、略点対称を成すように配置され、かつ、
前記加熱・溶解工程において、前記筒状部材を、その中心軸を回転軸として回転させることを特徴とするガラス原料粗溶解物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のガラス原料粗溶解物の製造方法によりガラス原料粗溶解物を作製し、前記ガラス原料粗溶解物を、貴金属または貴金属合金製の容器にて本溶解する本溶解工程を少なくとも経て、光学ガラスを製造することを特徴とする光学ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−49612(P2013−49612A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−146547(P2012−146547)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】