説明

ガラス堆積基板及び熱光学変調器ならびにその製造方法

【課題】 クラッドとなるガラス膜の表面に対して研磨をしなくても、ガラス膜表面が平坦になるようにする。
【解決手段】 シリコン基板21の表面の全面に、溝状の凹部22を周期的に形成する。このシリコン基板21の表面に、クラッドとなるガラス膜23を堆積する。このとき、凹部22の周期を最適に設定すると、ガラス膜23を堆積するだけで、その表面のガラス面が平坦になる。このようなガラス堆積基板20に対して、更に光回路の形成、オーバークラッドの堆積、薄膜ヒータの形成を順次することにより、熱光学位相変調器や熱光学光強度変調器を構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス堆積基板及び熱光学変調器(熱光学位相変調器と熱光学光強度変調器を含む)ならびにその製造方法に関するものである。本発明により製造される熱光学位相変調器及び熱光学光強度変調器は、光通信分野で用いられる光導波回路であり、熱光学効果を利用して位相変調や光強度変調をする際の消費電力を低減することができるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
石英系平面光回路技術を用いた熱光学位相変調器や熱光学光強度変調器は、波長分割多重技術を用いたブロードバンドの光通信分野において、キーデバイスとなっている。この熱光学位相変調器や熱光学光強度変調器では、導波路の上に配置した薄膜ヒータに電力を印加して発熱させ、導波路中のコアの温度を上昇させることで、位相制御、光スイッチングを行うことができる。
【0003】
このようにすることにより、本来受動的機能しか有さない石英系平面光回路において、熱光学効果による屈折率変化を利用した熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器が実現できる。このような原理による熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器は、低損失であり、安定性及び光ファイバーとの整合性に優れているといった特徴を持ち注目されている。
【0004】
この平面光回路技術を用いた熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器の問題点は、消費電力が大きいことである。例えば、熱光学光強度変調器を考えた場合、一般的な2×2の熱光学光強度変調器では、スイッチングに必要な消費電力は450mW程度である。これが、1×32、16×16等大集積化されていくと回路全体の消費電力は非常に大きなものとなってしまう。そこで、これまでに消費電力を下げるために、さまざまなアプローチでこの問題を解決しようとしてきた。
【0005】
この問題の有効な解決方法の一つとして、基板とコアの距離を離す方法がある。これは、基板の熱伝導率が、アンダークラッド(アンダークラッドとは、クラッドのうち基板とコアの間に存在しているものをいう)の熱伝導率よりも高いため、基板とコアの距離を離すことにより、基板を通じての放熱を抑制するものである。これにより薄膜ヒータによって加えられた熱が、熱伝導率の高い基板に逃げるのを防ぐことができ、ひいては薄膜ヒータでの消費電力の低減を図ることができる。そのため、アンダークラッドを厚くし、コアと基板との距離を離すことが考えられる。
【0006】
実際にコアと基板との距離を離すために、アンダークラッドを単に厚くしようとすると、さまざまな問題が生じる。即ち、基板への熱拡散を防止するためにアンダークラッドを厚くすると、アンダークラッドと基板との熱膨張率の差から応力が働き、コアに対する応力複屈折率が増大し、光回路の偏波特性等を劣化させる。
また、基板の反りが増大し光導波路、薄膜ヒータ、電極形成等の工程などに不都合を生じる。
【0007】
さらに、基板水平方向に拡散を防止するためにクラッドに断熱溝を形成することがあるが、この断熱溝深さは、加工(溝深さ)に限界があり、アンダークラッドを厚くすると基板に達する深さまで断熱溝を形成することができない。そのため、断熱溝を形成したとしても、薄膜ヒータから発生した熱が隣接する導波路コアに与える影響を無視できなくなる。またその加工(断熱溝の加工)にも時間がかかり歩留まりを低下させる。
【0008】
なお、アンダークラッド層に比べて熱伝導率の高い基板を用いた熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器において、基板の表面のうちヒータの直下に位置する部分並びにその近傍に凹部を設けることにより、消費電力を下げる方法は、既に特開2000−56278号公報に示されている。
【0009】
図6は、典型的な、基板に凹部を持つ熱光学光強度変調器の構成を示している。ここでは熱光学光強度変調器について述べるが、熱光学位相変調器でも同様である。図6(a)は上面図であり、図6(b)は図6(a)のA−A’での断面図を示している。
【0010】
図6に示すように、シリコン基板1上に、石英系導波路回路によって構成される2つの方向性結合器3,3と、それらを連結するアーム導波路4が形成され、マッハツェンダー干渉計を構成している。アーム導波路4にはコア10が埋め込まれている。両方のアーム導波路4の上に薄膜ヒータ6が形成され、該ヒータ6の両側には、クラッドを除去してなる断熱溝7が形成されている。また、基板1の表面(アーム導波路4が形成される側の面)のうち、ヒータ6の下方に位置する部分(ヒータ6の真下に対応する部分)には、凹部2が形成されている。なお、凹部2にもクラッドが充填されている。
【0011】
これによると、凹部2をヒータ6直下の基板1の表面に形成することで、見た目のアンダークラッド厚を厚くすることができ(凹部にクラッドが充填されている分だけ、ヒータ6と基板1との距離が長くなり)、薄膜ヒータ6から加えられた熱が、アンダークラッドよりも熱伝導率の高いシリコン基板1へ拡散することを抑制でき、消費電力を抑えることができる。
【0012】
このような、凹部2をヒータ6直下の基板表面に有する熱光学光強度変調器は、特開2000−56278によれば、図7に示す工程で製造することができる。
【0013】
工程1として、シリコン基板1の表面に、アルカリ水溶液を用いてウェットエッチングにより、凹部2を形成する。
工程2として、上記の凹部2を形成したシリコン基板1上に、アンダークラッド下層5となるガラスを堆積させる。この時、堆積されたガラス表面は、凹部形状を反映して凹凸を持ったものになる。
【0014】
工程3として、上記凹凸のあるガラス表面(アンダークラッド下層5)を、平坦化するために研磨を実施し平坦な面を得る。
工程4として、引き続きアンダークラッド上層8となるガラスの堆積を行う。
【0015】
工程5として、コア10となる層を堆積し、フォトリソグラフィー等の導波路加工技術を用いてコア10を形成し、マッハツェンダー型の熱光学光強度変調器のアーム部分が、凹部2の上方に位置するように回路を形成し、上記コア10より屈折率が低いオーバークラッド9をさらに堆積して、コア10を埋め込み、薄膜ヒータ6を形成し、薄膜ヒータ6に電力を供給するための配線を行う。
工程6として薄膜ヒータ6より加えられた熱が、基板水平方向に拡散せず効率よくコアの温度上昇に電力が用いられるように、クラッドを除去して断熱溝7を形成する。
【0016】
【特許文献1】特開2000−56278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の従来の製造方法によれば、工程2において、凹部2を含めて基板1の表面上にガラス(アンダークラッド下層5)を堆積させると、基板1上の凹部形状を反映して、アンダークラッド下層5のガラス表面は凹凸を有する。
そこで、これらを平坦化するために研磨する工程3が必須となる。この結果、アンダークラッドとなるガラスの堆積を2度行う必要があり、工程4も必要となる。結局、アンダークラッドとして、アンダークラッド下層5とアンダークラッド上層8の2層の堆積を行う必要がある。
【0018】
また、ガラスの堆積方法として、FHD法を用いた場合、堆積の制約から、凹部2を充填するアンダークラッド下層5のガラスと、研磨後の2度目の堆積によるアンダークラッド上層8とのガラスの組成を同じにできず、上層となっているアンダークラッド上層8のガラスの方が柔らかい必要がある。
【0019】
以上のように、基板1の表面のうち薄膜ヒータ6の下方(ちょど真下)に位置する部分に凹部2を形成した熱光学光強度変調器は、消費電力を抑える上では有効ではあるが、従来の製造方法では平坦化する工程を必要とし、工程が複雑となり、コストの増大に繋がるといった問題があった。
【0020】
そこで、本発明では、単にアンダークラッドを厚くするのではなく、アンダークラッド層に比べて熱伝導率の高い基板に加工を施し、上記のアンダークラッドを厚くした時に生じる問題を回避することができる、ガラス堆積基板及び熱光学変調器ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
つまり本発明は、上で述べたように、熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器の消費電力を抑えるために、基板の表面に凹部を有した熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器を製造するにおいて、アンダークラッドを形成した後、平坦化する工程が必要であり工程が複雑となる問題を解決し、平坦化の工程、2度目のアンダークラッドの堆積の工程を省いた、ガラス堆積基板,熱光学変調器(熱光学位相変調器及び熱光学光強度変調器)ならびにその製造方法を提供するものである。本発明よれば、表面に凹部を有した基板であってもガラスの堆積工程のみで平坦化することができる。
【0022】
また、単にアンダークラッドを厚くしただけでは、断熱層を基板に達するまで掘ることができず、隣接するコアに対して影響が出るといった問題を解決し、アンダークラッドを厚くしても断熱溝が形成でき、完全なる平坦性が得られなくとも導波特性に支障が少ない基板加工の形状を提案し、低消費電力の熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決する本発明のガラス堆積基板の製造方法は、
基板の表面の全面に溝状の凹部を周期的に形成し、この基板の表面にガラスを堆積することを特徴とする。
このとき、前記凹部の周期は、凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とする。
【0024】
また本発明のガラス堆積基板は、
表面の全面に凹部が周期的に形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたガラスとを有することを特徴とする。
このとき、前記凹部の周期は、前記凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とする。
【0025】
また本発明の熱光学変調器の製造方法は、
基板の表面の全面に溝状の凹部を周期的に形成し、
前記基板の表面にアンダークラッドとなるガラスを堆積し、
アンダークラッドとなるガラスの表面に、導波路による光回路を形成し、
前記アンダークラッドとなるガラス及び前記光回路の上にオーバークラッドとなるガラスを堆積し、
前記オーバークラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に薄膜ヒータを形成してなることを特徴とする。
このとき前記凹部の周期は、前記凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とする。
【0026】
また本発明の熱光学変調器は、
表面の全面に凹部が周期的に形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたクラッドとなるガラスと、
前記クラッドの中に埋め込まれた、導波路による光回路と、
前記クラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に形成された薄膜ヒータとを有することを特徴とする。
このとき、前記凹部の周期は、前記凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とする。
【0027】
また本発明の熱光学変調器の製造方法は、
基板の表面に壁状の凸部を形成し、
前記基板の表面にアンダークラッドとなるガラスを堆積し、
アンダークラッドとなるガラスの表面に、導波路による光回路を形成し、
前記アンダークラッドとなるガラス及び前記光回路の上にオーバークラッドとなるガラスを堆積し、
前記オーバークラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に薄膜ヒータを形成してなることを特徴とする。
【0028】
また本発明の熱光学変調器は、
表面に壁状の凸部が形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたクラッドとなるガラスと、
前記クラッドの中に埋め込まれた、導波路による光回路と、
前記クラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に形成された薄膜ヒータとを有することを特徴とする。
【0029】
ま本発明の熱光学変調器は、
表面に壁状の凸部が形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたクラッドとなるガラスと、
前記クラッドの中に埋め込まれた、導波路による光回路と、
前記クラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に形成された薄膜ヒータと、
前記クラッドとなるガラスを除去してなり、前記凸部の上方に位置し、この凸部の上面に達する深さとなっている断熱溝とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、凹部を有する基板上にガラス膜を堆積しただけで平坦なガラス膜表面が得られる。この効果を利用し、アンダークラッドを堆積することで、低消費電力の熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器を製造するに際し、軟化温度が低い石英系ガラスに対して従来の製造方法では必要であった平坦化の工程を簡略化し、安価で簡便に提供する効果がある。
【0031】
また、基板全体に周期的な溝状の凹部を形成することによって、凹部のついた基板面上にガラスを堆積してもガラス表面に平坦な面を得ることが可能となる。その結果、基板に凹部があるにもかかわらず、従来よりも工程数を削減でき、回路性能に全く影響を及ぼさず、設計の自由度の高い熱光学位相変調器、熱光学光強度変調器が提供できる。この場合は、アンダークラッドのガラスの組成の制限もほとんどなくすこともできる。
【0032】
さらに、基板に凸部を有する構造では、基板に極薄い凸部を、断熱溝の下部に熱の吸収体として設けることで隣接するコアへの熱の影響を軽減し、断熱溝として深い溝を形成する必要をなくし、かつ、アンダークラッド厚を厚くできるという効果が得られ、今までにない、大規模集積が可能となる低消費電力の熱光学光強度変調器が提供できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
発明を実施するための最良の形態では、基板の表面に形成する凹部を、基板全面に形成し、しかも凹部の周期間隔を最適化することにより、基板上に堆積するクラッドを平坦化するものである。
【実施例1】
【0034】
本発明の実施例1は、熱光学位相変調器や熱光学光強度変調器の製造に利用できる、ガラス堆積基板である。
【0035】
本願発明者は、基板の表面に凹部を周期的に配列し、しかも凹部を基板一面(全面)に配置することで、該基板上に堆積したガラス膜の表面がほぼ完全な平坦になることを見出だした。実施例1はかかる知見を基にしたものである。
【0036】
図1は、実施例1に係るガラス堆積基板20を示す斜視図である。このガラス堆積基板20では、シリコン基板21の表面に、溝形状となった凹部22が形成されている。凹部22は、シリコン基板21の表面の全面に、一定の周期で形成されている。クラッドとなるガラス膜23は、シリコン基板21の表面に(凹部22を含む面)に堆積されている。ガラス膜23は、堆積しただけであるが、その表面はほぼ完全な平坦になっている。つまり、ガラス膜23の表面に対して研磨をすることがなくても、ガラス膜23の表面が平坦になっている。このようにガラス膜23の表面が平坦になるのは、凹部22を、基板21の表面全面に周期的に形成したからである。
【0037】
ここでガラス堆積基板20の製造方法を説明する。
まず、(100)面のシリコン基板21の表面の全面に、アルカリ溶液によるウェットエッチングにて溝状の凹部22を周期的に多数形成する。つまり、溝状の多数の凹部22が平行となって配列されるように、多数の凹部22形成する。この時、凹部22の深さは12μm、幅は60μmとし、凹部22を形成する周期は120μmとした。なお、凹部22を形成する周期とは、ある凹部の幅方向中央と、この凹部に隣接する凹部の幅方向中央との距離をいう。
【0038】
なお凹部22を形成する方法は、上述したウェットエッチングでなくともよく、ドライエッチング、ダイシング、レーザ加工、機械切削等の方法でもよい。ダイシング方法では非常に簡便な方法にて溝状の凹部22を基板21上に形成できる。
【0039】
また、本実施例1では、基板21としてSi基板を用いたがこの限りではなく、その他半導体基板、石英、サファイア等の基板を用いてもよい。
【0040】
その後、アンダークラッドをFHD法にて製膜した。つまり、アンダークラッドとなるガラス膜23を堆積した。このガラス膜23は各凹部22を埋めつくしつつ、シリコン基板21の表面を厚く覆う。なおFHD法とは、火炎堆積法のことで、数十μmの厚膜を堆積するのに適した方法であり、広く一般的に用いられている。
【0041】
なお本実施例1では、比較的厚い膜を堆積するのに適しているFHD法を用いたが、CVD法等の埋め込み特性に優れた製膜方法を用いても同じである。
【0042】
図2は、本実施例1において、凹部22を周期的に形成した構造とすることにより、ガラス膜23の表面が平面になるのを説明するため、ガラス堆積基板20を破断して示す断面図である。
【0043】
この図2の例では、基板21上に、深さ12μm、幅60μmの凹部22を設け、その上にガラス膜23を40μm堆積させた場合を示している。数値はこの限りではなく、平坦化できる幅、周期、膜厚は他に有り得る。
【0044】
図2(a)は、十分にトレンチ間隔が離れていて、孤立して基板21上に凹部22が存在する場合を示している。この基板21の表面ならびに凹部22上にガラス膜23を堆積させると、ガラス膜23の表面には、凹部22の影響を受けて窪みを生じる。ガラス膜23となるガラスの組成、熱処理温度を調整することで、ガラス膜23の表面に生じた凹の程度を小さくすることはできるものの、完全な平面に近づけることは困難である。
【0045】
実験結果より、今回の製膜条件では、凹部22上のガラス膜23の表面は、最深部で4μm程度の凹になり、凹部22の影響のない平面と同じ高さまで回復するのに、凹部22の幅60μmよりもかなり広い全幅で平面方向に約450μm必要であった。これは、理想的な等方的堆積を仮定すると凹部22と同じになる。実際は、堆積には若干の異方性もあり堆積直後に既に幅は凹部22より広くなっているものである。また、熱処理によりガラスの流動が起こるために広くなる。
【0046】
図2(b)のように、隣接する凹部22との間隔が、凹部22の影響のない平面と同じ高さまで回復する幅450μmよりも広い場合は、両凹部22の中点付近において、元の高さまでガラス表面は回復することができる。
【0047】
しかしながら、図2(c)のように両凹部22の間隔が、450μmよりも狭くなると、その中点付近のガラス膜23の表面は、元のガラス高さまで回復することができなくなる。この場合、ガラス膜23の表面の形状は、隣接する平面からのガラスの流入が少ないと考えると、近似的には、単独で存在する場合のガラス表面形状(点線)の各々の足し合わせで形状が決まると考えることができる。
【0048】
つまり、さまざまな周期配列の凹部22を構成し、その上に堆積させたガラス膜23の表面というのは、単独する凹部22をガラスで埋めたときのガラス表面形状を配列に応じて配置し、それらを足し合わせで示すことができる。この時のガラス膜23の表面の最深部の深さは、単独で凹部22が存在するときよりも深くなる。
【0049】
実際にさまざまな、周期配列の凹部22を形成して、その上にガラス膜23を堆積させて、ガラス膜23の表面の凹凸を観測したところ、孤立したガラス表面形状の足し合わせで説明が可能な表面形状になっていた。
【0050】
これらの事実より、基板21に凹部23を周期的に配置すると、周期的に配置した上のガラス膜23の表面には、非常に平坦な面が得られることを見いだした。
【0051】
図3は、基板上に深さ12μm、幅60μmの凹部を周期120μmで連続的に並べた場合と、隣接する凹部の影響がないとして個々の凹部が単独した場合での、ガラス表面の形状を、LSIの設計等で用いられるプロセスシミュレータにより計算機上で計算した結果を示している。基板凹部の影響のない部分では、底部は8μm程低くなるものの、周期的な凸部上のガラス表面は平坦になることがわかる。この周期的な基板凹部上に堆積したガラス表面の凹凸は100nm程度であった。
【0052】
周期的に凹部を形成した構造を施した部分のみが平坦になるが、基板表面の全体に凹部を施せば、上記で8μmに対応する段差はなくなるので、基板全体で一様に平坦な平面を得ることができる。
【0053】
そこで実際に基板表面の全体にわたり、深さ12μm、幅60μmの凹部を周期120μmで連続的に配置し、その面に、ガラスを40μm堆積させた結果、基板全体にわたり平坦な面を得ることを成功した。指針段差計で、表面の凹凸を測定した結果、凹凸は装置の分解能(65nm)以下であり観測できなかった。予想された凹凸より小さくなったのは、予想よりもガラスの流動化が大きくより平坦化されたと考えられる。
【0054】
深さが10μm以上の凹部を有する基板上に、凹部深さと同程度または数倍の厚さのガラスを堆積し、平坦な表面を得ることは困難であった。そのため従来の方法では、平坦化する工程を必要とした。しかし、本実施例1によると、研磨工程を用いずとも、平坦なガラス面が得られる。
【実施例2】
【0055】
以下の実施例2では、熱光学光強度変調器30について述べるが、その構成の一部である熱光学位相変調器についても同様に実施が可能である。
【0056】
本実施例2では、凹部を周期的に配列し基板一面(全面)に配置することで、ガラス表面がほぼ完全な平坦になることを見出したので、その効果を利用し熱光学光強度変調器30を作製した。
【0057】
図4は、実施例2に係る熱光学光強度変調器30を示す。同図に示すようにこの熱光学光強度変調器30では、シリコン基板31の表面の全面に凹部32が周期的に形成されている。凹部32を含めてシリコン基板31の表面にはクラッドとなるガラス膜33が堆積されている。このガラス膜33中には、石英系導波路回路によって構成される2つの方向性結合器35,35と、それらを連結するアーム導波路34により形成されたマッハツェンダー干渉計が埋め込まれている。ガラス膜33の表面のうち、アーム導波路34の上方に位置する部分には、薄膜ヒータ36,36が形成されている。
【0058】
このような構造となっている熱光学光強度変調器30は、以下の方法で作製することができる。この図では、断熱溝のない熱光学光強度変調器を示しているが無論断熱溝を有するものでも同じである。
【0059】
まず、薄膜ヒータ36の下方に相当する部分だけではなく、基板1の表面全体に適当な周期の凹部32を、従来方法と同じウェットエッチングで周期的に形成する。この時、ダイシング、レーザ加工等の簡便な溝形成技術を用いて作製してもよい。
この場合、凹部32の周期は、平坦化が可能である凹部幅の1.7〜2.4倍が望ましい。
【0060】
上記適切な周期の凹部32を一様に形成したシリコン基板1の表面上にアンダークラッドとなるガラスを堆積する。すると基板1全体にわたり、非常に平坦なガラス表面が得られる。
【0061】
上のように得られた平坦なガラス表面上に、コア膜を堆積しその後、凹部32の上方位置に熱光学光強度変調器のアーム導波路34が位置するように設計した導波路回路を形成する。更に、オーバークラッドとなるガラスを堆積する。このようにして、方向性結合器35とアーム導波路34を備えたマッハツェンダ−干渉計が、ガラス膜33中に埋め込まれる。そして、ガラス膜33(つまりアンダークラッドガラスの上にオーバークラッドガラスを堆積して形成したガラス膜)の表面のうち、アーム導波路34の上方に位置する部分に、薄膜ヒータ36を形成する。
【0062】
なおガラス膜33は、アンダークラッドとなるガラスの堆積と、オーバークラッドとなるガラスの堆積により形成される。アンダークラッドによるガラスの堆積をしたときには、このアンダークラッドガラスの表面は平坦となる。またこの平坦なアンダークラッドガラスの表面に堆積したオーバークラッドガラスの表面も平坦となる。
【0063】
特開2000−56278に示される従来方法では、ヒータの直下または、その周辺のみに凹部を形成していた。この構造では、凹部上に堆積したガラス表面には凹凸が生じる。そのため研磨工程を経て平坦化する必要があった。またヒータ周辺にある程度周期的に配置したところで、本発明のように基板全面に周期的に配置しないと、凹部を形成している箇所としていない箇所で段差を生じ、その箇所で導波路の損失が増大してしまう。
【0064】
本実施例2によると、周期的に凹部32を基板31の表面の全面に配置することで劇的にガラス膜33の表面の平坦性を向上させることができ、凹部32を基板31に施しているにもかかわらず、施していない基板上と同等の導波特性を示す熱光学光強度変調器を作成することが可能となる。
【0065】
また、アーム導波路間隔を十分に離さなくとも平坦性の優れた面が得られるために、アーム導波路34同志の間隔を最小として凹部32の周期まで狭めることが可能となるために、素子のサイズを小さくすることが可能となる。
【実施例3】
【0066】
本発明の実施例3に係る、基板上に凸構造を持つ熱光学光強度変調器40の構造を図5に示す。図5(a)は上面図、図5(b)は図5(a)のB−B’における断面図である。
【0067】
図5に示すように、シリコン基板41の表面には、一定間隔で壁状の凸部42が形成されている。シリコン基板41上にはクラッドとなるガラス膜43が堆積されている。ガラス膜43中には、方向性結合器44とアーム導波路45により形成されたマッハツェンダ−干渉計が埋め込まれている。アーム導波路45にはコア46が埋め込まれている。ガラス膜43の表面のうち、アーム導波路45の上方に位置する部分には、薄膜ヒータ47が形成されている。更に、ガラス膜(クラッド)43を除去して断熱溝48を形成している。断熱溝48を形成する位置は、アーム導波路45が配置されている位置に隣接する部分である。
【0068】
凸部42について更に詳述すると、図5に示すように、シリコン基板41上のアーム導波路45の中間点、さらにこの中間点とアーム導波路45に対称な位置に、アーム導波路45に平行に、長さが、薄膜ヒータ47より若干長く、幅が10μm以下からなる凸部42を三箇所設けてある。また、図5(b)に示したように、凸部42上に、凸部構造上面が現れるように断熱溝48が形成している。つまり、断熱溝48の深さは、凸部42の上面(頂部の面)に達しており、断熱溝48の底面に、凸部24の上面が露出している。
【0069】
以上のような構造になっている熱光学光強度変調器40は、以下の工程で作製することができる。
【0070】
まず、シリコン基板41をRIEを用いてドライプロセスにて、凸部42を形成する。本実施例で作製した凸部42の寸法は、高さ30μm、幅5μm、長さ30mmとした。その後、凸部42を形成した面上に、FHD法にてアンダークラッドとなるガラスを60μm形成した。
【0071】
本実施例では、ガラス膜の堆積方法に比較的厚い膜を堆積するのに適しているFHD法を用いたが、他の方法、CVD法などを用いても同様である。
【0072】
アンダークラッドとなるガラスは、平坦性を確保するためにGeO2、P25及びB23のうち少なくとも1種類の添加物を含む石英系ガラスとし、軟化温度が低いガラスが好ましい。
【0073】
しかしながら、この凸部42の構造は、非常に幅が薄いために、薄膜ヒータ直下近傍の基板に凹部を設けた構造に比べ、その上に堆積させたガラス表面の凹凸は非常に小さくなる。そのために、さほど軟化温度の低くないガラス、つまり流動性があまり得られないガラスをも用いることができる。
【0074】
また、ヒータ下部の基板に凹部を形成した場合、基板の凹部の上方に光の伝播するコアがくるために、その上に堆積したアンダークラッド表面の多少の凹凸でさえも導波特性に及ぼす影響は大きい。
【0075】
ところが、本実施例の凸構造では、コア46と凸部42の基板水平方向の位置は異なる。光回路全体が、基板平面部上に形成され、凸部42の上方位置に回路がくることはない。そのため凸部42の上部のアンダークラッド表面に多少の凹凸があっても、コアの位置するアンダークラッド表面の平坦性が確保でき、平坦化のための研磨工程を経ずしても、良好な導波路特性と、低消費電力を得ることが可能である。しかもアンダークラッドのガラス表面の多少の凹凸が残ったとしても、最終的には、断熱溝48を基板凸部上に形成するために、エッチングされるために残らない。
【0076】
アンダークラッドを形成した後の、熱光学光強度変調器の製造工程は、従来方法と同じで、コア46となる膜を堆積した後、回路パターンをフォトリソグラフィー技術で作製し、オーバークラッドで埋め込み、さらに、薄膜ヒータ47の形成、断熱溝48の形成を行う。
【0077】
本実施例3では、アーム導波路45の間隔は120μm、堆積したコア厚は6μm、オーバークラッド厚は16μmとした。また断熱溝48の高さは50μm、幅は70μm、長さは30mmである。
【0078】
本実施例3における基板41上の凸部42は、従来からある基板凹部を用いた構造と果たす役割が異なる。基板に凹部形成するのは、熱伝導率の高いシリコンとコアの見た目の距離を遠ざけることで、基板への薄膜ヒータから加えられた熱の拡散を防止する目的であった。
【0079】
しかし、本実施例では、シリコン基板41との距離は、アンダークラッドを厚くすることで確保し、凸部42には、薄膜ヒータ47から加えられた熱が隣接するコアに及ぼす影響をなくす目的がある。シリコン基板41の熱伝導率の良さを逆手に取り、隣接するコアに熱が移動する通り道に、凸部42を配置し、隣接コアに拡散しようとする熱を吸収させるのである。
【0080】
従来、熱伝導率の高い基板との距離を確保するためにアンダークラッドを厚くすると、基板まで、断熱溝を掘ることができない問題があった。本実施例の凸部42を用いた場合、凸部42の上面まで掘り下げればよく、断熱溝48深さを浅くでき、アンダークラッドを厚くできるという効果も凸部42にはある。
【0081】
また、凸部42によって仕切られた部分(コア46を含む部分)の断面構造は、T字を逆にした形状になっている。凸部42を極薄く作製することで、この部分の体積は増大し熱容量を大きくできる。結果、基板や、隣接するコアへの熱の拡散を低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、熱光学位相変調器や熱光学光強度変調器などの熱光学変調器や、この熱光学変調器を製造するのに用いるガラス堆積基板に利用するものであり、アンダークラッドとなるガラスを堆積するのみで、研磨することなく、アンダークラッドとなるガラスの表面を平坦にすることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施例1に係るガラス堆積基板を示す斜視図である。
【図2】ガラス堆積基板のガラスが平坦になるのを説明するための説明図である。
【図3】ガラス表面形状を計算機上で計算した結果を示す特性図である。
【図4】本発明の実施例2に係る熱光学光強度変調器を示す構成図である。
【図5】本発明の実施例3に係る熱光学光強度変調器を示す構成図であり、図5(a)は上面図、図5(b)は図5(a)のb−b′断面図である。
【図6】基板に凹部を持つ従来の熱光学光強度変調器を示す構成図であり、図6(a)は上面図、図6(b)は図6(a)のA−A′断面図である。
【図7】基板に凹部を持つ従来の熱光学光強度変調器の製造工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0084】
1 シリコン基板
2 凹部
3 方向性結合器
4 アーム導波路
5 アンダークラッド下層
6 薄膜ヒータ
7 断熱溝
8 アンダークラッド上層
9 オーバークラッド
10 コア
20 ガラス堆積基板
21 シリコン基板
22 凹部
23 ガラス膜(クラッド)
30 熱光学光強度変調器
31 シリコン基板
32 凹部
33 ガラス膜
34 アーム導波路
35 方向性結合器
36 薄膜ヒータ
40 熱光学光強度変調器
41 シリコン基板
42 凸部
43 ガラス膜(クラッド)
44 方向性結合器
45 アーム導波路
46 コア
47 薄膜ヒータ
48 断熱溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の全面に溝状の凹部を周期的に形成し、この基板の表面にガラスを堆積することを特徴とするガラス堆積基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記凹部の周期は、凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とするガラス堆積基板の製造方法。
【請求項3】
表面の全面に凹部が周期的に形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたガラスとを有することを特徴とするガラス堆積基板。
【請求項4】
請求項3において、
前記凹部の周期は、前記凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とするガラス堆積基板。
【請求項5】
基板の表面の全面に溝状の凹部を周期的に形成し、
前記基板の表面にアンダークラッドとなるガラスを堆積し、
アンダークラッドとなるガラスの表面に、導波路による光回路を形成し、
前記アンダークラッドとなるガラス及び前記光回路の上にオーバークラッドとなるガラスを堆積し、
前記オーバークラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に薄膜ヒータを形成してなることを特徴とする熱光学変調器の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記凹部の周期は、前記凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とする熱光学変調器の製造方法。
【請求項7】
表面の全面に凹部が周期的に形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたクラッドとなるガラスと、
前記クラッドの中に埋め込まれた、導波路による光回路と、
前記クラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に形成された薄膜ヒータとを有することを特徴とする熱光学変調器。
【請求項8】
請求項7において、
前記凹部の周期は、前記凹部の幅の1.7〜2.4倍であることを特徴とする熱光学変調器。
【請求項9】
基板の表面に壁状の凸部を形成し、
前記基板の表面にアンダークラッドとなるガラスを堆積し、
アンダークラッドとなるガラスの表面に、導波路による光回路を形成し、
前記アンダークラッドとなるガラス及び前記光回路の上にオーバークラッドとなるガラスを堆積し、
前記オーバークラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に薄膜ヒータを形成してなることを特徴とする熱光学変調器の製造方法。
【請求項10】
表面に壁状の凸部が形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたクラッドとなるガラスと、
前記クラッドの中に埋め込まれた、導波路による光回路と、
前記クラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に形成された薄膜ヒータとを有することを特徴とする熱光学変調器。
【請求項11】
表面に壁状の凸部が形成された基板と、
前記基板の表面に堆積されたクラッドとなるガラスと、
前記クラッドの中に埋め込まれた、導波路による光回路と、
前記クラッドとなるガラスの表面のうち、前記導波路の上方に位置する部分に形成された薄膜ヒータと、
前記クラッドとなるガラスを除去してなり、前記凸部の上方に位置し、この凸部の上面に達する深さとなっている断熱溝とを有することを特徴とする熱光学変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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