ガラス成形体の製造方法および製造装置
【課題】離型後の上型の成型面上の温度を所定の値に制御することが可能なガラス成形体の製造方法および製造装置を得る。
【解決手段】溶融ガラス41からガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法は、下型20と、成型面12を有し、放熱防止部材50によって成型面12が覆われることが可能な上型10とを準備する工程と、下型20上に溶融ガラス41を供給する工程と、上型10および下型20が溶融ガラス41を加圧成形することによって、ガラス成形体を得る工程と、上型10からガラス成形体を離型した後、上型10が再び溶融ガラス41の加圧成形に供されるまでの間、ガラス成形体の離型によって露出した上型10の成型面12を放熱防止板50で覆う工程とを備える。
【解決手段】溶融ガラス41からガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法は、下型20と、成型面12を有し、放熱防止部材50によって成型面12が覆われることが可能な上型10とを準備する工程と、下型20上に溶融ガラス41を供給する工程と、上型10および下型20が溶融ガラス41を加圧成形することによって、ガラス成形体を得る工程と、上型10からガラス成形体を離型した後、上型10が再び溶融ガラス41の加圧成形に供されるまでの間、ガラス成形体の離型によって露出した上型10の成型面12を放熱防止板50で覆う工程とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成形体の製造方法および製造装置に関し、特に、上型および下型が溶融ガラスを加圧成形することによってガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス成形体は、デジタルカメラ用レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、または光通信用のカップリングレンズなど、種々の光学デバイスに組み込まれる光学素子として幅広く用いられる。ガラス成形体は、ガラス素材を溶融することによって得られた溶融ガラスを、成形金型(上型および下型)を用いて加圧成形することによって製造される(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/032670号
【特許文献2】特開平9−25129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上型および下型の加圧成形によってガラス成形体が得られた後、上型および下型は開かれ、ガラス成形体は上型および下型から離型(脱型ともいう)される。当該離型によって、上型の成型面は露出する。その後、下型の成型面上に新たな溶融ガラスが供給され、上型が再びこの新たな溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、上型の成型面は露出したままである。上型からは熱エネルギーが大気中に放射され、上型の温度は低下しようとする。上型の温度を所定の値に維持するために、上型は加熱装置によって加熱される。
【0005】
本発明は、離型後の上型の成型面上の温度を所定の値に制御することが可能なガラス成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づくガラス成形体の製造方法は、溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法であって、下型と、成型面を有し、放熱防止部材によって上記成型面が覆われることが可能な上型とを準備する工程と、上記下型上に上記溶融ガラスを供給する工程と、上記上型および上記下型が上記溶融ガラスを加圧成形することによって、上記ガラス成形体を得る工程と、上記上型から上記ガラス成形体を離型した後、上記上型が再び上記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、上記ガラス成形体の離型によって露出した上記上型の上記成型面を上記放熱防止部材で覆う工程と、を備える。
【0007】
好ましくは、上記放熱防止部材は、ヒータを含み、上記放熱防止部材が上記上型の上記成型面を覆った状態で、上記ヒータが上記上型を加熱する工程をさらに備える。
【0008】
本発明に基づくガラス成形体の製造装置は、溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造装置あって、上記溶融ガラスが供給される下型と、成型面を有し、放熱防止部材によって上記成型面が覆われる上型と、を備え、上記上型および上記下型が上記溶融ガラスを加圧成形することによって、上記ガラス成形体が得られ、上記放熱防止部材は、上記ガラス成形体が上記上型から離型された後、上記上型が再び上記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、上記ガラス成形体の離型によって露出した上記上型の上記成型面を覆う。
【0009】
好ましくは、上記放熱防止部材は、上記上型の上記成型面を覆った状態で上記上型を加熱するヒータを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、離型後の上型の成型面上の温度を所定の値に制御することが可能なガラス成形体の製造方法および製造装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップ、および実施の形態1におけるガラス成形体の製造装置を示す断面図である。
【図2】実施の形態1におけるガラス成形体の製造装置に備えられる放熱防止部材を示す平面図である。
【図3】図2中のIII−III線に関する矢視断面図である。
【図4】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップを示す断面図である。
【図5】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第3ステップを示す断面図である。
【図6】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第4ステップを示す断面図である。
【図7】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第5ステップを示す断面図である。
【図8】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第6ステップを示す断面図である。
【図9】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第7ステップを示す断面図である。
【図10】実施の形態1(および比較例)に基づいて行なった実験結果を示す図である。
【図11】実施の形態2におけるガラス成形体の製造方法に用いられる放熱防止部材を示す断面図である。
【図12】実施の形態2におけるガラス成形体の製造方法に用いられる放熱防止部材の変形例を示す底面図である。
【図13】実施の形態3におけるガラス成形体の製造方法に用いられる放熱防止部材を示す平面図である。
【図14】図13中のXIV−XIV線に関する矢視断面図である。
【図15】実施の形態3におけるガラス成形体の製造方法のステップの一つを示す断面図であり、実施の形態3におけるガラス成形体の製造方法における放熱防止部材が使用される態様を示している。
【図16】実施の形態4におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップを示す断面図である。
【図17】実施の形態4におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップを示す断面図である。
【図18】実施の形態4におけるガラス成形体の製造方法の第3ステップを示す断面図である。
【図19】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップを示す断面図である。
【図20】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップを示す断面図である。
【図21】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第3ステップを示す断面図である。
【図22】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第4ステップを示す断面図である。
【図23】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第5ステップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に基づいた各実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。各実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。各実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。特に制限が無い限り、各実施の形態に示す構成を適宜組み合わせて用いることは、当初から予定されていることである。
【0013】
[実施の形態1]
図1〜図9を参照して、本実施の形態について説明する。本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法は、第1ステップ(ステップST1)〜第7ステップ(ステップST7)を備える。
【0014】
図1は、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップ(ステップST1)、および本実施の形態におけるガラス成形体の製造装置100を示す断面図である。図2は、ガラス成形体の製造装置100に備えられる放熱防止部材50を示す平面図である。図3は、図2中のIII−III線に関する矢視断面図である。図4〜図9は、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップ(ステップST2)〜第7ステップ(ステップST7)をそれぞれ示す断面図である。
【0015】
(ステップST1)
図1を参照して、ステップST1において、ガラス成形体の製造装置100が準備される。ガラス成形体の製造装置100は、上型10、下型20、ノズル30、溶融ガラス40、および放熱防止部材50を備える。
【0016】
上型10は、平坦な下端面11と、下端面11から凸設された成型面12とを有する。下型20は、平坦な上端面21と、上端面21から凹設された成型面22とを有する。ステップST1においては、ノズル30の下方に下型20が配置される。上型10および下型20は、温度センサ(図示せず)によって温度が測定されるとともに、加熱装置(図示せず)によって所定の温度を維持するように加熱制御されている。ここでいう所定の温度とは、たとえばガラス転移点(Tg)−10℃の値である。
【0017】
ノズル30の上方には、溶融ガラス40を貯留する溶融炉(図示せず)が設けられる。ノズル30は他の加熱装置(図示せず)によって加熱される。溶融炉内の溶融ガラス40の一部は、ノズル30内を通してノズル30の下端にまで搬送され、溶融ガラス41としてノズル30の下端から露出する。溶融ガラス41は、表面張力によってノズル30の下端に溜まる。
【0018】
放熱防止部材50は、可動軸54の先端に取り付けられる。可動軸54は、駆動源52に接続され、駆動源52からの動力を受けて略水平方向に往復移動可能に構成される。可動軸54の移動に合わせて、放熱防止部材50も移動する。ステップST1においては、放熱防止部材50は、上型10の成型面12を覆っている。所定の温度を維持するように加熱制御されている上型10は、成型面12が放熱防止部材50に覆われていることによって、大気中への放熱が抑制されている。
【0019】
図2および図3を参照して、放熱防止部材50について詳細に説明する。放熱防止部材50は、ベース51(図3参照)、固定枠53、および断熱材55を含む。ベース51および固定枠53は、たとえばアルミニウムから構成される。ベース51の表面に、断熱材55が載置される。断熱材55は、固定枠53によってベース51に固定される。
【0020】
断熱材55は、固定枠53に設けられた開口部53Hから露出する。開口部53Hの形状および大きさは、上型10(図1参照)の成型面12の形状および大きさに対応しつつ、上型10の成型面12の形状および大きさよりも若干大きく設定されるとよい。
【0021】
断熱材55は、たとえば、複数のシート状の断熱材が積層されることによって構成される。シート状の断熱材としては、たとえば、株式会社ITM社製のファイバーエクセル(ペーパー330)が使用され得る。図1を再び参照して、放熱防止部材50は、開口部53H内から露出する断熱材55と上型10の成型面12とが対向するように配置される。
【0022】
放熱防止部材50と下端面11および成型面12との最小間隔は、1mm以上5mm以下に設定されるとよい。当該最小間隔が1mmより小さくなると、上型10等の振動によって放熱防止部材50が成型面12に接触する虞がある。当該最小間隔が5mmより大きくなると、成型面12に対する断熱性能(保温性能)が低下する。
【0023】
(ステップST2〜ステップST7)
図4を参照して、ステップST2において、ノズル30はさらに加熱される。矢印AR1に示すように、溶融ガラス41はノズル30から離れる。溶融ガラス41は、下型20に向かって滴下される。ステップST2においても、上型10の成型面12は、放熱防止部材50によって覆われている。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されている。
【0024】
図5を参照して、ステップST3において、溶融ガラス41は下型20の成型面22上に供給される。溶融ガラス41は下型20との接触によって放熱(脱熱)され、溶融ガラス41の下方側(下型20に近い側)から固化し始める。ステップST3においても、上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されている。
【0025】
図6を参照して、ステップST4において、矢印AR2に示すように、下型20は上型10の下方に移動する。ステップST4においても、上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されている。
【0026】
図7を参照して、ステップST5において、矢印AR3に示すように、放熱防止部材50は駆動源52からの動力を受けて退避する。放熱防止部材50は、溶融ガラス41が下型20に供給されてから予め定められた時間が経過した後に退避するよう制御されるとよい。矢印AR4に示すように、放熱防止部材50の退避の直後に、下型20は上昇移動する。上型10が下降移動しても良い。溶融ガラス41の表面は上型10の成型面12に接触する。溶融ガラス41は、成型面12および成型面22の間で濡れ広がる。
【0027】
溶融ガラス41は、上型10の成型面12および下型20の成型面22によって高温の大気中で加圧される。溶融ガラス41を加圧するために下型20(または上型10)を移動させるための手段としては、エアシリンダ、油圧シリンダ、またはサーボモータを用いた電動シリンダ等が利用されるとよい。所定の時間が経過することによって溶融ガラス41は固化し、ガラス成形体45(図8参照)が得られる。
【0028】
図8を参照して、ステップST6において、矢印AR5に示すように、下型20は下降移動する。上型10が上昇移動してもよい。上型10および下型20は開かれた状態となる。その後、所定の搬送装置58によって、上型10からガラス成形体45が取り外される(離型される)。搬送装置58は、吸引などの手段によってガラス成形体45を上型10から取り外すとよい。上型10の成型面12は、ガラス成形体45の離型によって大気中に露出する。ガラス成形体45は、搬送装置58によって所定の場所に搬送される。
【0029】
図9を参照して、ステップST7において、矢印AR6に示すように、ガラス成形体45が上型10から取り外された直後、放熱防止部材50は駆動源52からの動力を受けて再び上型10の成型面12を覆うように移動する。上型10の成型面12が放熱防止部材50に覆われることで、上型10の大気中への放熱が抑制される。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御される。その後、矢印AR7に示すように、下型20は再びノズル30の下方に移動する。放熱防止部材50の移動と下型20の移動とは同時であってもよい。下型20には、ノズル30から新たな溶融ガラス41が再び滴下される。
【0030】
上述のステップST2(図4参照)〜ステップST7(図9参照)が繰り返されることによって、ガラス成形体45は連続的に製造されることが可能となる。上述のステップST2〜ステップST7が繰り返される際においても、上型10からガラス成形体45が取り外されたあと上型10が再び溶融ガラス41の加圧成形に供されるまでの間は、ガラス成形体45の離型によって露出した上型10の成型面12は放熱防止部材50によって覆われる。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御される。
【0031】
(作用・効果)
下型20に溶融ガラス41が供給されている間、または溶融ガラス41が移動している間など、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供していないときがある。このときは、上型10の放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう精度高く(換言すると、より所定の値に近づくように)制御されることができる。
【0032】
具体的には、通常、上型10の温調を行なったとしても、上型10の成型面12の温度を制御することまでは困難である。一般的には、装置側に温度センサーとヒータとを備えて温調が行なわれ、その装置に対して上型が取り付けられる。よって、制御温度と金型温度との間には温度に乖離が生じ、成形制御が困難となる。このため、従来では、金型表面(若しくは近傍)の温度を測定し、より溶融ガラスに近いところの温度を制御温度とすることで、成形制御の難易度を下げようという試みがなされている。
【0033】
しかしながら、金型表面温度を放射温度計などで制御できるのは、プレス成形前までであって、プレス中は金型表面温度の測定は困難であり、金型表面に近いところまで温度センサーを近づける方法では、金型表面の温度を測定しているわけではない。よって、一定温度で温調をしているにも関わらず、金型表面近傍では溶融ガラスとの接触および成形によって温度カーブが発生する(実施の形態1に基づく実験結果を参照)。
【0034】
型開き−離型後において金型の温度は急激に低下する。この状態になると、制御温度と金型温度との乖離が最も大きくなるが、制御温度側(装置側)から見た温度では、そこまでわからない、若しくは、わかったとしてもこの状態から温度制御を安定させようとすると加熱系、冷却系の設備が必要となり大きな設備とコストが必要となってしまう。
【0035】
一方で、成形においては高い温度でプレス成形をする方が、外観品質を達成するためには有利である。通常、融着しない限り範囲で最も高い温度が選択される。これは、より高い温度でガラス表面を伸ばして成形していく過程が必要だからである。
【0036】
また、放熱防止部材50を用いる場合と用いない場合とで、上型10を加熱するためのエネルギー使用量を同一に設定したとする。この場合、放熱防止部材50によって上型10の温度低下が抑制されるため、放熱防止部材50を用いる方が、放熱防止部材50を用いない方に比べて上型10の温度は高い値で維持される。
【0037】
上型10の温度が高い値で維持されるため、下型20上に供給された溶融ガラス41はより高い温度で上型10に接触することが可能となる。溶融ガラス41から得られるガラス成形体45の表面にシワなどの欠陥が発生することが抑制される。ガラス成形体45としての品質を向上させることが可能となる。
【0038】
放熱防止部材50を用いない場合、ガラス成形体45の表面にシワなどの欠陥が発生することを抑制する観点からは、上型10を積極的に加熱することが考えられる。上型10は、たとえば上型10に内蔵された加熱装置によって加熱される。
【0039】
しかしながら、上型10をその内部から積極的に加熱すると、上型10の温度分布にばらつきが生じたり、上型10の温度を過度に上昇させたりする虞がある。上型10の温度分布のばらつきや、上型10の過度な温度上昇は、溶融ガラス41から得られるガラス成形体45の品質を低下させる。また、上型10をその内部から積極的に加熱する場合、上型10の全体を加熱する必要があるため、多くのエネルギーおよびコストを必要とする。
【0040】
本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法および製造装置100によれば、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間において、放熱防止部材50が効果的に上型10の放熱(温度低下)を抑制する。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。さらに、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量を低減することもできる。上型10の温度低下が抑制されることによって、上型10の温度分布のばらつきや、上型10の過度な温度上昇などが発生する可能性が低減され、ガラス成形体45としての品質を向上させることも可能となる。
【0041】
(実施の形態1に基づく実験結果)
図10を参照して、実施の形態1に基づいて行なった実験結果について説明する。図10において、実線で示される曲線L1および点線で示される曲線L2は、いずれも、溶融ガラス41を加圧成形しガラス成形体45を得るサイクルを複数回行なった際の、上型10の温度と時間との関係を示している。上型10の温度は、上型10の成型面12付近に内蔵した温度センサによって測定した。
【0042】
具体的に、曲線L1は、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆った場合の上型10の温度と時間との関係を示している。曲線L2は、比較例として、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆わなかった(放熱防止部材50を使用しなかった)場合の上型10の温度と時間との関係を示している。
【0043】
曲線L1に示すように、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆った場合には、毎回の加圧成形サイクルにおいて、上型10の温度変化(温度差)は約8℃で推移していることがわかる。
【0044】
一方、曲線L2に示すように、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆わなかった場合には、毎回の加圧成形サイクルにおいて、上型10の温度変化(温度差)は約10℃で推移していることがわかる。
【0045】
これらの結果から、放熱防止部材50を用いる方が、放熱防止部材50を用いない場合に比べて、上型10の温度低下が抑制されていることがわかる。すなわち、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆った場合には、放熱防止部材50を用いない場合に比べて、毎回の加圧成形サイクルにおける上型10の温度変化が小さいことがわかる。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができ、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量を低減することができることがわかる。
【0046】
[実施の形態2]
図11を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。上述の実施の形態1においては、放熱防止部材50と上型10とは相互に独立して設けられている。本実施の形態においては、放熱防止部材50Aが可動軸54Aによって上型10に取り付けられる。可動軸54Aは、上型10側を固定端として、放熱防止部材50Aを回動可能に支持する。放熱防止部材50Aは、垂れ下がるように回動する。
【0047】
当該構成によっても、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10は放熱防止部材50Aに覆われることができ、上述の実施の形態1と同様の作用および効果を得ることが可能となる。当該構成によれば、上型10が放熱防止部材50Aと一体的に移動する。当該構成は、下型20が固定され、上型10が移動する際に有効である。
【0048】
図12は、放熱防止部材50A(図11参照)の変形例としての放熱防止部材50Bを示す底面図である。図12に示すように、放熱防止部材50Bは、上型10に取り付けられた可動軸54Bによって、水平方向に回動可能に支持されてもよい。当該構成によれば、下型20が固定され、上型10が放熱防止部材50Bと一体的に移動する場合において、溶融ガラス41に対する加圧が開始される直前まで、放熱防止部材50Bは上型10を覆うことができる。放熱防止部材50Bによれば、上型10の大気中への放熱は一層抑制されることが可能となる。
【0049】
[実施の形態3]
図13〜図15を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。図13は、本実施の形態における放熱防止部材50Cを示す平面図である。図14は、図13中のXIV−XIV線に関する矢視断面図である。図15は、本実施の形態における放熱防止部材50Cが使用されている一つの態様を示す断面図である。
【0050】
図13および図14を参照して、放熱防止部材50Cは、ベース51(図14参照)、固定枠53、断熱材55、およびヒータ57を含む。ベース51の表面に、断熱材55およびヒータ57が順に載置される。ヒータ57は、ヒータ57に電力を供給するための所定の配線(図示せず)に接続されている。ヒータ57は、固定枠53に設けられた開口部53Hから露出する。
【0051】
図15に示すように、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていないとき、上型10は放熱防止部材50Cに覆われる。放熱防止部材50Cがヒータ57を含んでいることにより、放熱防止部材50Cは上型10を成型面12の表面側から加熱することが可能となる。
【0052】
放熱防止部材50Cに設けられたヒータ57は、成型面12の表面側から上型10を加熱するため、上型10をその内部から加熱する場合に比べて、上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値により近くなるよう制御されることができる。さらに、より少ないエネルギー使用量で上型10の(成形に供される成型面12付近の)温度を所定の値に加熱することが可能となる。ヒータ57を含む放熱防止部材50Cも、上述の実施の形態2(図11参照)およびその変形例(図12参照)と同様に、上型10に取り付けられてもよい。
【0053】
[実施の形態4]
図16〜図18を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。上述の実施の形態1においては、下型20に溶融ガラス41を供給するために、ノズル30から溶融ガラス41が滴下される(図4および図5参照)。
【0054】
図16に示すように、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法および製造装置101においては、溶融ガラス40から垂れ下がるように溶融ガラス41が液線状に落下する。溶融ガラス41の落下によって、下型20上に溶融ガラス41が供給される。下型20の上端面21上には、溶融ガラス41の広がりを規制するための側壁部材23が設けられるとよい。溶融ガラス41は、側壁部材23に囲まれた成型面22の表面上に供給される。溶融ガラス41が下型20に供給される際、上述の実施の形態1と同様に、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。
【0055】
図17を参照して、所定の量の溶融ガラス41が下型20上に供給された後、矢印AR8に示すように、カッター24を使用して液線状の溶融ガラス41が切断される。溶融ガラス41の下型20への供給は停止される。溶融ガラス41は、下型20との接触によって放熱(脱熱)され、溶融ガラス41の下方側(下型20に近い側)から固化し始める。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。
【0056】
図18を参照して、溶融ガラス41は所定の硬さを有するガラスゴブ(溶融ガラスの塊)を形成した後、側壁部材23(図示せず)は退避する。矢印AR9に示すように、下型20は上型10の下方に移動する。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。以降、上述の実施の形態1におけるステップST5(図6参照)〜ステップST7(図9参照)と同様にして、ガラス成形体45が製造される。
【0057】
下型20に対して液線状に溶融ガラス41が供給される場合であっても、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていないときは、上型10の放熱は放熱防止部材50によって抑制されることができる。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。上型10の温度低下が抑制されるため、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量が低減されている。
【0058】
下型20に対して液線状に溶融ガラス41を供給する場合、大流量の溶融ガラス41が下型20に供給される。比較的おおきなガラス成形体45を製造する際に、下型20に対して液線状に溶融ガラス41を供給するとよい。
【0059】
上型10が下型20とともに溶融ガラス41を加圧成形している際には、カッター24上には溶融ガラス溜42が形成される。溶融ガラス溜42を利用して、再び下型20に新たな溶融ガラス41(溶融ガラス溜42)が供給されるとよい。ガラス成形体45の製造サイクルの効率を向上させることが可能となる。
【0060】
本実施の形態においては、放熱防止部材50の代わりに、上述の実施の形態2および3における放熱防止部材50A(図11参照)、放熱防止部材50B(図12参照)、または放熱防止部材50C(図13および図14参照)が使用されてもよい。
【0061】
[実施の形態5]
図19〜図23を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。上述の実施の形態1においては、下型20に溶融ガラス41を供給するために、ノズル30から溶融ガラス41が滴下される(図4および図5参照)。
【0062】
図19に示すように、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法および製造装置102においては、上述の実施の形態1と同様に、下型20が、ノズル30の下端の溶融ガラス41と対向するように配置される。下型20の成型面22には、溶融ガラス41の広がりを規制するための側壁部22Hが設けられるとよい。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。
【0063】
図20を参照して、本実施の形態においては、矢印AR10に示すように、下型20が、ノズル30の下端から垂れ下がる溶融ガラス41を受け取るように上昇移動する。溶融ガラス41は、ノズル30の下端から途切れることなく連続的に下型20の成型面22内に供給される。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。
【0064】
図21を参照して、下型20の成型面22内に、所定の量の溶融ガラス41が供給される。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給されることで、溶融ガラス41の流量を精度高く調整することが可能となる。また、成型面22に溶融ガラス41を滴下する場合に比べて、成型面22内の溶融ガラス41の供給位置に偏り(ばらつき)が生じにくい。
【0065】
図22を参照して、矢印AR11に示すように、所定の量の溶融ガラス41が供給された下型20は下降移動する。溶融ガラス41の下型20への供給が停止される。溶融ガラス41は、下型20との接触(溶融ガラス40からの離脱)によって放熱(脱熱)され、溶融ガラス41の下方側(下型20に近い側)から固化し始める。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。
【0066】
図23を参照して、溶融ガラス41は所定の硬さを有するガラスゴブ(溶融ガラスの塊)を形成する。その後、矢印AR12に示すように、下型20は上型10の下方に移動する。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。以降、上述の実施の形態1におけるステップST5(図6参照)〜ステップST7(図9参照)と同様にして、ガラス成形体45が製造される。
【0067】
ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給される場合であっても、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていないときは、上型10の放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。上型10の温度低下が抑制されるため、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量が低減されている。
【0068】
上述のとおり、ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給されることで、溶融ガラス41の流量を精度高く調整することが可能となる。比較的小さなガラス成形体45を製造する際に、ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給されるとよい。
【0069】
本実施の形態においても、放熱防止部材50の代わりに、上述の実施の形態2および3における放熱防止部材50A(図11参照)、放熱防止部材50B(図12参照)、または放熱防止部材50C(図13および図14参照)が使用されてもよい。
【0070】
以上、本発明に基づいた各実施の形態について説明したが、今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
10 上型、11 下端面、12,22 成型面、20 下型、21 上端面、22H 側壁部、23 側壁部材、24 カッター、30 ノズル、40,41 溶融ガラス、42 溶融ガラス溜、45 ガラス成形体、50,50A,50B,50C 放熱防止部材、51 ベース、52 駆動源、53 固定枠、53H 開口部、54,54A,54B 可動軸、55 断熱材、57 ヒータ、58 搬送装置、100,101,102 ガラス成形体の製造装置、AR1〜AR12 矢印、L1,L2 曲線、ST1〜ST7 ステップ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成形体の製造方法および製造装置に関し、特に、上型および下型が溶融ガラスを加圧成形することによってガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス成形体は、デジタルカメラ用レンズ、DVD等の光ピックアップレンズ、携帯電話用カメラレンズ、または光通信用のカップリングレンズなど、種々の光学デバイスに組み込まれる光学素子として幅広く用いられる。ガラス成形体は、ガラス素材を溶融することによって得られた溶融ガラスを、成形金型(上型および下型)を用いて加圧成形することによって製造される(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/032670号
【特許文献2】特開平9−25129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上型および下型の加圧成形によってガラス成形体が得られた後、上型および下型は開かれ、ガラス成形体は上型および下型から離型(脱型ともいう)される。当該離型によって、上型の成型面は露出する。その後、下型の成型面上に新たな溶融ガラスが供給され、上型が再びこの新たな溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、上型の成型面は露出したままである。上型からは熱エネルギーが大気中に放射され、上型の温度は低下しようとする。上型の温度を所定の値に維持するために、上型は加熱装置によって加熱される。
【0005】
本発明は、離型後の上型の成型面上の温度を所定の値に制御することが可能なガラス成形体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づくガラス成形体の製造方法は、溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法であって、下型と、成型面を有し、放熱防止部材によって上記成型面が覆われることが可能な上型とを準備する工程と、上記下型上に上記溶融ガラスを供給する工程と、上記上型および上記下型が上記溶融ガラスを加圧成形することによって、上記ガラス成形体を得る工程と、上記上型から上記ガラス成形体を離型した後、上記上型が再び上記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、上記ガラス成形体の離型によって露出した上記上型の上記成型面を上記放熱防止部材で覆う工程と、を備える。
【0007】
好ましくは、上記放熱防止部材は、ヒータを含み、上記放熱防止部材が上記上型の上記成型面を覆った状態で、上記ヒータが上記上型を加熱する工程をさらに備える。
【0008】
本発明に基づくガラス成形体の製造装置は、溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造装置あって、上記溶融ガラスが供給される下型と、成型面を有し、放熱防止部材によって上記成型面が覆われる上型と、を備え、上記上型および上記下型が上記溶融ガラスを加圧成形することによって、上記ガラス成形体が得られ、上記放熱防止部材は、上記ガラス成形体が上記上型から離型された後、上記上型が再び上記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、上記ガラス成形体の離型によって露出した上記上型の上記成型面を覆う。
【0009】
好ましくは、上記放熱防止部材は、上記上型の上記成型面を覆った状態で上記上型を加熱するヒータを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、離型後の上型の成型面上の温度を所定の値に制御することが可能なガラス成形体の製造方法および製造装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップ、および実施の形態1におけるガラス成形体の製造装置を示す断面図である。
【図2】実施の形態1におけるガラス成形体の製造装置に備えられる放熱防止部材を示す平面図である。
【図3】図2中のIII−III線に関する矢視断面図である。
【図4】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップを示す断面図である。
【図5】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第3ステップを示す断面図である。
【図6】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第4ステップを示す断面図である。
【図7】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第5ステップを示す断面図である。
【図8】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第6ステップを示す断面図である。
【図9】実施の形態1におけるガラス成形体の製造方法の第7ステップを示す断面図である。
【図10】実施の形態1(および比較例)に基づいて行なった実験結果を示す図である。
【図11】実施の形態2におけるガラス成形体の製造方法に用いられる放熱防止部材を示す断面図である。
【図12】実施の形態2におけるガラス成形体の製造方法に用いられる放熱防止部材の変形例を示す底面図である。
【図13】実施の形態3におけるガラス成形体の製造方法に用いられる放熱防止部材を示す平面図である。
【図14】図13中のXIV−XIV線に関する矢視断面図である。
【図15】実施の形態3におけるガラス成形体の製造方法のステップの一つを示す断面図であり、実施の形態3におけるガラス成形体の製造方法における放熱防止部材が使用される態様を示している。
【図16】実施の形態4におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップを示す断面図である。
【図17】実施の形態4におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップを示す断面図である。
【図18】実施の形態4におけるガラス成形体の製造方法の第3ステップを示す断面図である。
【図19】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップを示す断面図である。
【図20】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップを示す断面図である。
【図21】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第3ステップを示す断面図である。
【図22】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第4ステップを示す断面図である。
【図23】実施の形態5におけるガラス成形体の製造方法の第5ステップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に基づいた各実施の形態について、以下、図面を参照しながら説明する。各実施の形態の説明において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。各実施の形態の説明において、同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。特に制限が無い限り、各実施の形態に示す構成を適宜組み合わせて用いることは、当初から予定されていることである。
【0013】
[実施の形態1]
図1〜図9を参照して、本実施の形態について説明する。本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法は、第1ステップ(ステップST1)〜第7ステップ(ステップST7)を備える。
【0014】
図1は、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法の第1ステップ(ステップST1)、および本実施の形態におけるガラス成形体の製造装置100を示す断面図である。図2は、ガラス成形体の製造装置100に備えられる放熱防止部材50を示す平面図である。図3は、図2中のIII−III線に関する矢視断面図である。図4〜図9は、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法の第2ステップ(ステップST2)〜第7ステップ(ステップST7)をそれぞれ示す断面図である。
【0015】
(ステップST1)
図1を参照して、ステップST1において、ガラス成形体の製造装置100が準備される。ガラス成形体の製造装置100は、上型10、下型20、ノズル30、溶融ガラス40、および放熱防止部材50を備える。
【0016】
上型10は、平坦な下端面11と、下端面11から凸設された成型面12とを有する。下型20は、平坦な上端面21と、上端面21から凹設された成型面22とを有する。ステップST1においては、ノズル30の下方に下型20が配置される。上型10および下型20は、温度センサ(図示せず)によって温度が測定されるとともに、加熱装置(図示せず)によって所定の温度を維持するように加熱制御されている。ここでいう所定の温度とは、たとえばガラス転移点(Tg)−10℃の値である。
【0017】
ノズル30の上方には、溶融ガラス40を貯留する溶融炉(図示せず)が設けられる。ノズル30は他の加熱装置(図示せず)によって加熱される。溶融炉内の溶融ガラス40の一部は、ノズル30内を通してノズル30の下端にまで搬送され、溶融ガラス41としてノズル30の下端から露出する。溶融ガラス41は、表面張力によってノズル30の下端に溜まる。
【0018】
放熱防止部材50は、可動軸54の先端に取り付けられる。可動軸54は、駆動源52に接続され、駆動源52からの動力を受けて略水平方向に往復移動可能に構成される。可動軸54の移動に合わせて、放熱防止部材50も移動する。ステップST1においては、放熱防止部材50は、上型10の成型面12を覆っている。所定の温度を維持するように加熱制御されている上型10は、成型面12が放熱防止部材50に覆われていることによって、大気中への放熱が抑制されている。
【0019】
図2および図3を参照して、放熱防止部材50について詳細に説明する。放熱防止部材50は、ベース51(図3参照)、固定枠53、および断熱材55を含む。ベース51および固定枠53は、たとえばアルミニウムから構成される。ベース51の表面に、断熱材55が載置される。断熱材55は、固定枠53によってベース51に固定される。
【0020】
断熱材55は、固定枠53に設けられた開口部53Hから露出する。開口部53Hの形状および大きさは、上型10(図1参照)の成型面12の形状および大きさに対応しつつ、上型10の成型面12の形状および大きさよりも若干大きく設定されるとよい。
【0021】
断熱材55は、たとえば、複数のシート状の断熱材が積層されることによって構成される。シート状の断熱材としては、たとえば、株式会社ITM社製のファイバーエクセル(ペーパー330)が使用され得る。図1を再び参照して、放熱防止部材50は、開口部53H内から露出する断熱材55と上型10の成型面12とが対向するように配置される。
【0022】
放熱防止部材50と下端面11および成型面12との最小間隔は、1mm以上5mm以下に設定されるとよい。当該最小間隔が1mmより小さくなると、上型10等の振動によって放熱防止部材50が成型面12に接触する虞がある。当該最小間隔が5mmより大きくなると、成型面12に対する断熱性能(保温性能)が低下する。
【0023】
(ステップST2〜ステップST7)
図4を参照して、ステップST2において、ノズル30はさらに加熱される。矢印AR1に示すように、溶融ガラス41はノズル30から離れる。溶融ガラス41は、下型20に向かって滴下される。ステップST2においても、上型10の成型面12は、放熱防止部材50によって覆われている。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されている。
【0024】
図5を参照して、ステップST3において、溶融ガラス41は下型20の成型面22上に供給される。溶融ガラス41は下型20との接触によって放熱(脱熱)され、溶融ガラス41の下方側(下型20に近い側)から固化し始める。ステップST3においても、上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されている。
【0025】
図6を参照して、ステップST4において、矢印AR2に示すように、下型20は上型10の下方に移動する。ステップST4においても、上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されている。
【0026】
図7を参照して、ステップST5において、矢印AR3に示すように、放熱防止部材50は駆動源52からの動力を受けて退避する。放熱防止部材50は、溶融ガラス41が下型20に供給されてから予め定められた時間が経過した後に退避するよう制御されるとよい。矢印AR4に示すように、放熱防止部材50の退避の直後に、下型20は上昇移動する。上型10が下降移動しても良い。溶融ガラス41の表面は上型10の成型面12に接触する。溶融ガラス41は、成型面12および成型面22の間で濡れ広がる。
【0027】
溶融ガラス41は、上型10の成型面12および下型20の成型面22によって高温の大気中で加圧される。溶融ガラス41を加圧するために下型20(または上型10)を移動させるための手段としては、エアシリンダ、油圧シリンダ、またはサーボモータを用いた電動シリンダ等が利用されるとよい。所定の時間が経過することによって溶融ガラス41は固化し、ガラス成形体45(図8参照)が得られる。
【0028】
図8を参照して、ステップST6において、矢印AR5に示すように、下型20は下降移動する。上型10が上昇移動してもよい。上型10および下型20は開かれた状態となる。その後、所定の搬送装置58によって、上型10からガラス成形体45が取り外される(離型される)。搬送装置58は、吸引などの手段によってガラス成形体45を上型10から取り外すとよい。上型10の成型面12は、ガラス成形体45の離型によって大気中に露出する。ガラス成形体45は、搬送装置58によって所定の場所に搬送される。
【0029】
図9を参照して、ステップST7において、矢印AR6に示すように、ガラス成形体45が上型10から取り外された直後、放熱防止部材50は駆動源52からの動力を受けて再び上型10の成型面12を覆うように移動する。上型10の成型面12が放熱防止部材50に覆われることで、上型10の大気中への放熱が抑制される。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御される。その後、矢印AR7に示すように、下型20は再びノズル30の下方に移動する。放熱防止部材50の移動と下型20の移動とは同時であってもよい。下型20には、ノズル30から新たな溶融ガラス41が再び滴下される。
【0030】
上述のステップST2(図4参照)〜ステップST7(図9参照)が繰り返されることによって、ガラス成形体45は連続的に製造されることが可能となる。上述のステップST2〜ステップST7が繰り返される際においても、上型10からガラス成形体45が取り外されたあと上型10が再び溶融ガラス41の加圧成形に供されるまでの間は、ガラス成形体45の離型によって露出した上型10の成型面12は放熱防止部材50によって覆われる。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御される。
【0031】
(作用・効果)
下型20に溶融ガラス41が供給されている間、または溶融ガラス41が移動している間など、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供していないときがある。このときは、上型10の放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう精度高く(換言すると、より所定の値に近づくように)制御されることができる。
【0032】
具体的には、通常、上型10の温調を行なったとしても、上型10の成型面12の温度を制御することまでは困難である。一般的には、装置側に温度センサーとヒータとを備えて温調が行なわれ、その装置に対して上型が取り付けられる。よって、制御温度と金型温度との間には温度に乖離が生じ、成形制御が困難となる。このため、従来では、金型表面(若しくは近傍)の温度を測定し、より溶融ガラスに近いところの温度を制御温度とすることで、成形制御の難易度を下げようという試みがなされている。
【0033】
しかしながら、金型表面温度を放射温度計などで制御できるのは、プレス成形前までであって、プレス中は金型表面温度の測定は困難であり、金型表面に近いところまで温度センサーを近づける方法では、金型表面の温度を測定しているわけではない。よって、一定温度で温調をしているにも関わらず、金型表面近傍では溶融ガラスとの接触および成形によって温度カーブが発生する(実施の形態1に基づく実験結果を参照)。
【0034】
型開き−離型後において金型の温度は急激に低下する。この状態になると、制御温度と金型温度との乖離が最も大きくなるが、制御温度側(装置側)から見た温度では、そこまでわからない、若しくは、わかったとしてもこの状態から温度制御を安定させようとすると加熱系、冷却系の設備が必要となり大きな設備とコストが必要となってしまう。
【0035】
一方で、成形においては高い温度でプレス成形をする方が、外観品質を達成するためには有利である。通常、融着しない限り範囲で最も高い温度が選択される。これは、より高い温度でガラス表面を伸ばして成形していく過程が必要だからである。
【0036】
また、放熱防止部材50を用いる場合と用いない場合とで、上型10を加熱するためのエネルギー使用量を同一に設定したとする。この場合、放熱防止部材50によって上型10の温度低下が抑制されるため、放熱防止部材50を用いる方が、放熱防止部材50を用いない方に比べて上型10の温度は高い値で維持される。
【0037】
上型10の温度が高い値で維持されるため、下型20上に供給された溶融ガラス41はより高い温度で上型10に接触することが可能となる。溶融ガラス41から得られるガラス成形体45の表面にシワなどの欠陥が発生することが抑制される。ガラス成形体45としての品質を向上させることが可能となる。
【0038】
放熱防止部材50を用いない場合、ガラス成形体45の表面にシワなどの欠陥が発生することを抑制する観点からは、上型10を積極的に加熱することが考えられる。上型10は、たとえば上型10に内蔵された加熱装置によって加熱される。
【0039】
しかしながら、上型10をその内部から積極的に加熱すると、上型10の温度分布にばらつきが生じたり、上型10の温度を過度に上昇させたりする虞がある。上型10の温度分布のばらつきや、上型10の過度な温度上昇は、溶融ガラス41から得られるガラス成形体45の品質を低下させる。また、上型10をその内部から積極的に加熱する場合、上型10の全体を加熱する必要があるため、多くのエネルギーおよびコストを必要とする。
【0040】
本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法および製造装置100によれば、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間において、放熱防止部材50が効果的に上型10の放熱(温度低下)を抑制する。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。さらに、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量を低減することもできる。上型10の温度低下が抑制されることによって、上型10の温度分布のばらつきや、上型10の過度な温度上昇などが発生する可能性が低減され、ガラス成形体45としての品質を向上させることも可能となる。
【0041】
(実施の形態1に基づく実験結果)
図10を参照して、実施の形態1に基づいて行なった実験結果について説明する。図10において、実線で示される曲線L1および点線で示される曲線L2は、いずれも、溶融ガラス41を加圧成形しガラス成形体45を得るサイクルを複数回行なった際の、上型10の温度と時間との関係を示している。上型10の温度は、上型10の成型面12付近に内蔵した温度センサによって測定した。
【0042】
具体的に、曲線L1は、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆った場合の上型10の温度と時間との関係を示している。曲線L2は、比較例として、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆わなかった(放熱防止部材50を使用しなかった)場合の上型10の温度と時間との関係を示している。
【0043】
曲線L1に示すように、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆った場合には、毎回の加圧成形サイクルにおいて、上型10の温度変化(温度差)は約8℃で推移していることがわかる。
【0044】
一方、曲線L2に示すように、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆わなかった場合には、毎回の加圧成形サイクルにおいて、上型10の温度変化(温度差)は約10℃で推移していることがわかる。
【0045】
これらの結果から、放熱防止部材50を用いる方が、放熱防止部材50を用いない場合に比べて、上型10の温度低下が抑制されていることがわかる。すなわち、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10を放熱防止部材50で覆った場合には、放熱防止部材50を用いない場合に比べて、毎回の加圧成形サイクルにおける上型10の温度変化が小さいことがわかる。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができ、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量を低減することができることがわかる。
【0046】
[実施の形態2]
図11を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。上述の実施の形態1においては、放熱防止部材50と上型10とは相互に独立して設けられている。本実施の形態においては、放熱防止部材50Aが可動軸54Aによって上型10に取り付けられる。可動軸54Aは、上型10側を固定端として、放熱防止部材50Aを回動可能に支持する。放熱防止部材50Aは、垂れ下がるように回動する。
【0047】
当該構成によっても、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていない間、上型10は放熱防止部材50Aに覆われることができ、上述の実施の形態1と同様の作用および効果を得ることが可能となる。当該構成によれば、上型10が放熱防止部材50Aと一体的に移動する。当該構成は、下型20が固定され、上型10が移動する際に有効である。
【0048】
図12は、放熱防止部材50A(図11参照)の変形例としての放熱防止部材50Bを示す底面図である。図12に示すように、放熱防止部材50Bは、上型10に取り付けられた可動軸54Bによって、水平方向に回動可能に支持されてもよい。当該構成によれば、下型20が固定され、上型10が放熱防止部材50Bと一体的に移動する場合において、溶融ガラス41に対する加圧が開始される直前まで、放熱防止部材50Bは上型10を覆うことができる。放熱防止部材50Bによれば、上型10の大気中への放熱は一層抑制されることが可能となる。
【0049】
[実施の形態3]
図13〜図15を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。図13は、本実施の形態における放熱防止部材50Cを示す平面図である。図14は、図13中のXIV−XIV線に関する矢視断面図である。図15は、本実施の形態における放熱防止部材50Cが使用されている一つの態様を示す断面図である。
【0050】
図13および図14を参照して、放熱防止部材50Cは、ベース51(図14参照)、固定枠53、断熱材55、およびヒータ57を含む。ベース51の表面に、断熱材55およびヒータ57が順に載置される。ヒータ57は、ヒータ57に電力を供給するための所定の配線(図示せず)に接続されている。ヒータ57は、固定枠53に設けられた開口部53Hから露出する。
【0051】
図15に示すように、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていないとき、上型10は放熱防止部材50Cに覆われる。放熱防止部材50Cがヒータ57を含んでいることにより、放熱防止部材50Cは上型10を成型面12の表面側から加熱することが可能となる。
【0052】
放熱防止部材50Cに設けられたヒータ57は、成型面12の表面側から上型10を加熱するため、上型10をその内部から加熱する場合に比べて、上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値により近くなるよう制御されることができる。さらに、より少ないエネルギー使用量で上型10の(成形に供される成型面12付近の)温度を所定の値に加熱することが可能となる。ヒータ57を含む放熱防止部材50Cも、上述の実施の形態2(図11参照)およびその変形例(図12参照)と同様に、上型10に取り付けられてもよい。
【0053】
[実施の形態4]
図16〜図18を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。上述の実施の形態1においては、下型20に溶融ガラス41を供給するために、ノズル30から溶融ガラス41が滴下される(図4および図5参照)。
【0054】
図16に示すように、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法および製造装置101においては、溶融ガラス40から垂れ下がるように溶融ガラス41が液線状に落下する。溶融ガラス41の落下によって、下型20上に溶融ガラス41が供給される。下型20の上端面21上には、溶融ガラス41の広がりを規制するための側壁部材23が設けられるとよい。溶融ガラス41は、側壁部材23に囲まれた成型面22の表面上に供給される。溶融ガラス41が下型20に供給される際、上述の実施の形態1と同様に、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。
【0055】
図17を参照して、所定の量の溶融ガラス41が下型20上に供給された後、矢印AR8に示すように、カッター24を使用して液線状の溶融ガラス41が切断される。溶融ガラス41の下型20への供給は停止される。溶融ガラス41は、下型20との接触によって放熱(脱熱)され、溶融ガラス41の下方側(下型20に近い側)から固化し始める。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。
【0056】
図18を参照して、溶融ガラス41は所定の硬さを有するガラスゴブ(溶融ガラスの塊)を形成した後、側壁部材23(図示せず)は退避する。矢印AR9に示すように、下型20は上型10の下方に移動する。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。以降、上述の実施の形態1におけるステップST5(図6参照)〜ステップST7(図9参照)と同様にして、ガラス成形体45が製造される。
【0057】
下型20に対して液線状に溶融ガラス41が供給される場合であっても、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていないときは、上型10の放熱は放熱防止部材50によって抑制されることができる。上型10の大気中への放熱が抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。上型10の温度低下が抑制されるため、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量が低減されている。
【0058】
下型20に対して液線状に溶融ガラス41を供給する場合、大流量の溶融ガラス41が下型20に供給される。比較的おおきなガラス成形体45を製造する際に、下型20に対して液線状に溶融ガラス41を供給するとよい。
【0059】
上型10が下型20とともに溶融ガラス41を加圧成形している際には、カッター24上には溶融ガラス溜42が形成される。溶融ガラス溜42を利用して、再び下型20に新たな溶融ガラス41(溶融ガラス溜42)が供給されるとよい。ガラス成形体45の製造サイクルの効率を向上させることが可能となる。
【0060】
本実施の形態においては、放熱防止部材50の代わりに、上述の実施の形態2および3における放熱防止部材50A(図11参照)、放熱防止部材50B(図12参照)、または放熱防止部材50C(図13および図14参照)が使用されてもよい。
【0061】
[実施の形態5]
図19〜図23を参照して、本実施の形態について説明する。ここでは、上述の実施の形態1との相違点について説明する。上述の実施の形態1においては、下型20に溶融ガラス41を供給するために、ノズル30から溶融ガラス41が滴下される(図4および図5参照)。
【0062】
図19に示すように、本実施の形態におけるガラス成形体の製造方法および製造装置102においては、上述の実施の形態1と同様に、下型20が、ノズル30の下端の溶融ガラス41と対向するように配置される。下型20の成型面22には、溶融ガラス41の広がりを規制するための側壁部22Hが設けられるとよい。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。
【0063】
図20を参照して、本実施の形態においては、矢印AR10に示すように、下型20が、ノズル30の下端から垂れ下がる溶融ガラス41を受け取るように上昇移動する。溶融ガラス41は、ノズル30の下端から途切れることなく連続的に下型20の成型面22内に供給される。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。
【0064】
図21を参照して、下型20の成型面22内に、所定の量の溶融ガラス41が供給される。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給されることで、溶融ガラス41の流量を精度高く調整することが可能となる。また、成型面22に溶融ガラス41を滴下する場合に比べて、成型面22内の溶融ガラス41の供給位置に偏り(ばらつき)が生じにくい。
【0065】
図22を参照して、矢印AR11に示すように、所定の量の溶融ガラス41が供給された下型20は下降移動する。溶融ガラス41の下型20への供給が停止される。溶融ガラス41は、下型20との接触(溶融ガラス40からの離脱)によって放熱(脱熱)され、溶融ガラス41の下方側(下型20に近い側)から固化し始める。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。
【0066】
図23を参照して、溶融ガラス41は所定の硬さを有するガラスゴブ(溶融ガラスの塊)を形成する。その後、矢印AR12に示すように、下型20は上型10の下方に移動する。この際も、上型10の大気中への放熱は放熱防止部材50によって抑制されている。以降、上述の実施の形態1におけるステップST5(図6参照)〜ステップST7(図9参照)と同様にして、ガラス成形体45が製造される。
【0067】
ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給される場合であっても、上型10が溶融ガラス41の加圧成形に供されていないときは、上型10の放熱は放熱防止部材50によって抑制された状態で、上型10の成型面上の温度(表面温度)は、加熱装置によって所定の値になるよう制御されることができる。上型10の温度低下が抑制されるため、上型10を所定の温度に維持するために必要なエネルギー使用量が低減されている。
【0068】
上述のとおり、ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給されることで、溶融ガラス41の流量を精度高く調整することが可能となる。比較的小さなガラス成形体45を製造する際に、ノズル30の下端から下型20に垂れ下がるように溶融ガラス41が供給されるとよい。
【0069】
本実施の形態においても、放熱防止部材50の代わりに、上述の実施の形態2および3における放熱防止部材50A(図11参照)、放熱防止部材50B(図12参照)、または放熱防止部材50C(図13および図14参照)が使用されてもよい。
【0070】
以上、本発明に基づいた各実施の形態について説明したが、今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
10 上型、11 下端面、12,22 成型面、20 下型、21 上端面、22H 側壁部、23 側壁部材、24 カッター、30 ノズル、40,41 溶融ガラス、42 溶融ガラス溜、45 ガラス成形体、50,50A,50B,50C 放熱防止部材、51 ベース、52 駆動源、53 固定枠、53H 開口部、54,54A,54B 可動軸、55 断熱材、57 ヒータ、58 搬送装置、100,101,102 ガラス成形体の製造装置、AR1〜AR12 矢印、L1,L2 曲線、ST1〜ST7 ステップ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法であって、
下型と、成型面を有し、放熱防止部材によって前記成型面が覆われることが可能な上型とを準備する工程と、
前記下型上に前記溶融ガラスを供給する工程と、
前記上型および前記下型が前記溶融ガラスを加圧成形することによって、前記ガラス成形体を得る工程と、
前記上型から前記ガラス成形体を離型した後、前記上型が再び前記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、前記ガラス成形体の離型によって露出した前記上型の前記成型面を前記放熱防止部材で覆う工程と、を備える、
ガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記放熱防止部材は、ヒータを含み、
前記放熱防止部材が前記上型の前記成型面を覆った状態で、前記ヒータが前記上型を加熱する工程をさらに備える、
請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造装置あって、
前記溶融ガラスが供給される下型と、
成型面を有し、放熱防止部材によって前記成型面が覆われる上型と、を備え、
前記上型および前記下型が前記溶融ガラスを加圧成形することによって、前記ガラス成形体が得られ、
前記放熱防止部材は、前記ガラス成形体が前記上型から離型された後、前記上型が再び前記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、前記ガラス成形体の離型によって露出した前記上型の前記成型面を覆う、
ガラス成形体の製造装置。
【請求項4】
前記放熱防止部材は、前記上型の前記成型面を覆った状態で前記上型を加熱するヒータを含む、
請求項3に記載のガラス成形体の製造装置。
【請求項1】
溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造方法であって、
下型と、成型面を有し、放熱防止部材によって前記成型面が覆われることが可能な上型とを準備する工程と、
前記下型上に前記溶融ガラスを供給する工程と、
前記上型および前記下型が前記溶融ガラスを加圧成形することによって、前記ガラス成形体を得る工程と、
前記上型から前記ガラス成形体を離型した後、前記上型が再び前記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、前記ガラス成形体の離型によって露出した前記上型の前記成型面を前記放熱防止部材で覆う工程と、を備える、
ガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記放熱防止部材は、ヒータを含み、
前記放熱防止部材が前記上型の前記成型面を覆った状態で、前記ヒータが前記上型を加熱する工程をさらに備える、
請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
溶融ガラスからガラス成形体を得るガラス成形体の製造装置あって、
前記溶融ガラスが供給される下型と、
成型面を有し、放熱防止部材によって前記成型面が覆われる上型と、を備え、
前記上型および前記下型が前記溶融ガラスを加圧成形することによって、前記ガラス成形体が得られ、
前記放熱防止部材は、前記ガラス成形体が前記上型から離型された後、前記上型が再び前記溶融ガラスの加圧成形に供されるまでの間、前記ガラス成形体の離型によって露出した前記上型の前記成型面を覆う、
ガラス成形体の製造装置。
【請求項4】
前記放熱防止部材は、前記上型の前記成型面を覆った状態で前記上型を加熱するヒータを含む、
請求項3に記載のガラス成形体の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−116711(P2012−116711A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268274(P2010−268274)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
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