説明

ガラス用塗料組成物、着色層付きガラス板の製造方法、および着色層付きガラス板

【課題】プレス型への付着を抑制でき、かつ、数〜10数μmの厚さの膜としてもクラック発生やガラスの反りが生じないガラス用塗料組成物の提供。
【解決手段】下記硬化性ケイ素成分(A)と耐熱顔料(B)とを含む、ガラス表面に着色層を形成するためのガラス用塗料組成物。
硬化性ケイ素成分(A):炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい)硬化性ケイ素化合物(1)を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ガラス板に焼き付ける用途に好適なガラス用塗料組成物に関する。また、自動車の窓ガラスに好適な着色層付きガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の窓用ガラス板の車内側周縁部には不透明着色層が形成されている。不透明着色層は、窓用ガラス板と該窓用ガラス板をその周縁で車内側から保持する接着剤やモールディングとの間に介在し、該接着剤やモールディングの紫外線による劣化を防止する役割を有する。また、窓用ガラス板の車内側周縁部に設けられた電熱線等の端子が車外側から見えないようにする役割も有する。
不透明着色層は、ペースト状のガラス用塗料組成物をガラス板に塗布し、乾燥し、ついで焼成することによって形成される。前記ガラス用塗料組成物は、ガラスフリットおよび耐熱顔料を必須成分として含有し、必要に応じて耐火物フィラーを含有する。なお、耐熱顔料としては、通常黒色の顔料が用いられる。
【0003】
一方、自動車用ガラス板は自動車のデザインに合わせてプレス曲げ加工が施されており、ガラス用塗料組成物をガラス板に焼き付けて不透明着色層を形成すると同時にプレス曲げ加工することが行われている。このような場合には、プレス曲げ加工に用いられるプレス型に不透明着色層が付着しないこと、すなわち型離れ性が良好であることが求められる。特に近年、自動車のデザインに対応するためにガラスの深曲げや複雑形状成形のニーズが高くなっているため、型離れ性は非常に重要な問題となってきている。
【0004】
しかし、従来から知られた、ガラスフリットを必須成分とするガラス用塗料組成物は、溶融することによって結合性を発現して不透明着色層となるため、プレス型への付着を完全になくすことは困難であった。型離れ性向上の課題を解決すべくケイ酸ビスマス種物質を含有するガラス用塗料組成物が提案されているが(特許文献1参照)、該組成物を用いてもプレス型への付着を完全になくすことは困難であった。
【0005】
また、ガラスフリットを必須成分とするガラス用塗料組成物は耐酸性に劣るため、該ガラス用塗料組成物を用いて形成された着色層付きガラス板を屋外で使用すると、酸性雨の影響により着色層が変色する問題もあった。近年、車種によっては、着色層がモールディングによって被覆されず、直接風雨に曝される場合もあることから、耐酸性(酸性雨の酸の主成分が硫酸であることから、特に耐硫酸性)に優れたガラス用塗料組成物が強く求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−175832号公報(第2−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、硬化性ケイ素成分と耐熱顔料とを含むガラス用塗料組成物を検討し、この組成物を使用することによってプレス型への付着の問題を解決できることを見出した。しかし、硬化性ケイ素成分を含むガラス用塗料組成物を硬化させることによって形成される膜は、膜厚が1μm程度であってもクラックが発生しやすいため隠蔽性を損ねる可能性があった。さらにガラス板に反りが発生する可能性もあった。
【0008】
通常、自動車用ガラス板に形成される着色層は数μm〜10数μm程度である。しかし、前記の理由により、硬化性ケイ素成分を含むガラス用塗料組成物を用いて1μm以上の厚さの膜を形成することは困難であることから、硬化性ケイ素成分を含むガラス用塗料組成物を用いて自動車用板ガラスに着色層を形成することは困難であった。
すなわち、これまで、型離れ性が良好であり、かつ、隠蔽性に優れた着色層を形成できるガラス用塗料組成物は得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、すなわち以下の発明を提供する。
[1]下記硬化性ケイ素成分(A)と耐熱顔料(B)とを含む、ガラス表面に着色層を形成するためのガラス用塗料組成物。
硬化性ケイ素成分(A):炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい)硬化性ケイ素化合物(1)を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分。
【0010】
[2]SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)および耐熱顔料(B)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)が40〜75質量%、耐熱顔料(B)が25〜60質量%である、[1]に記載のガラス用塗料組成物。
【0011】
[3]硬化性ケイ素化合物(1)が、1個の炭化水素基と3個の加水分解性基とを有する3官能加水分解性シランまたは該3官能加水分解性シランに由来する単位を含む加水分解性シラン化合物の部分加水分解縮合物である、[1]または[2]に記載のガラス用塗料組成物。
【0012】
[4]硬化性ケイ素成分(A)が、炭化水素基が結合したケイ素原子を有さずかつ水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子を有する硬化性ケイ素化合物(2)と硬化性ケイ素化合物(1)とを含む成分である、[1]、[2]または[3]に記載のガラス用塗料組成物。
[5]硬化性ケイ素化合物(2)が、4個の加水分解性基を有する4官能加水分解性シラン、該4官能加水分解性シランの部分加水分解縮合物、またはポリケイ酸である、[1]〜[4]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【0013】
[6]SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)およびSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)が30〜90質量%、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)が10〜70質量%である[4]または[5]に記載のガラス用塗料組成物。
【0014】
[7]耐熱顔料(B)が、銅クロムマンガン系複合酸化物、クロムコバルト系複合酸化物、鉄マンガン系複合酸化物、クロム鉄ニッケル系複合酸化物、クロム銅系複合酸化物、マグネタイトおよびチタニアからなる群から選ばれる1種以上の耐熱顔料である[1]〜[6]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
[8]耐熱顔料(B)が、メジアン径が0.02〜2.5μmの粉末状耐熱顔料である[1]〜[7]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【0015】
[9]さらに耐火物フィラーを、硬化性ケイ素成分(A)と耐熱顔料(B)の総量に対して10〜50質量%(ただし、硬化性ケイ素成分(A)の量はSiO換算による)含む[1]〜[8]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
[10]耐火物フィラーが、α−アルミナ、α−石英、ジルコン、コーディエライト、β−ユークリプタイト、フォルステタイト、ムライト、ステアタイト、ジルコニア、ホウ酸アルミニウム、石英ガラス、およびシリカからなる群から選ばれる1種以上である、[9]に記載のガラス用塗料組成物。
[11]さらに樹脂バインダーを含む、[1]〜[10]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【0016】
[12][1]〜[11]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成し、次いで焼成することによって、ガラス表面に着色層を形成することを特徴とする着色層付きガラス板の製造方法。
[13][1]〜[11]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物が焼成されて形成された着色層を有する着色層付きガラス板。
【0017】
[14][1]〜[11]のいずれかに記載のガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成し、次いで該組成物の層が形成されたガラス板を熱成形することを特徴とする熱成形された着色層付きガラス板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガラス用塗料組成物はプレス型との型離れ性に優れるので、自動車用窓ガラスに好適な着色層付き曲面ガラス板を、プレス型に該塗料組成物が付着することなく製造できる。また、該組成物を用いて得られる膜は、膜厚を10数μm程度としても、膜にクラックが発生せず、ガラス板の反りも発生しない。よって、自動車用板ガラスに充分な隠蔽性を付与することができる。さらに、本発明のガラス用塗料組成物は耐酸性に優れるため、該組成物を用いて得られる着色層付きガラス板は耐酸性に優れ、直接風雨に曝される場合においても着色層の変色を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明における硬化性ケイ素成分(A)は、炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい)硬化性ケイ素化合物(1)を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分である。硬化性ケイ素成分(A)は、実質的に硬化性ケイ素化合物のみからなる成分である。
【0020】
硬化性ケイ素化合物(1)における炭化水素基はケイ素原子と炭素−ケイ素結合で結合している炭化水素基である。炭化水素基としては、炭素数6以下の炭化水素基が好ましい。炭素数6以下の炭化水素基としては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルケニル基、および炭素数6以下のアリール基が好ましい。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、およびヘキシル基等が挙げられ、メチル基およびエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。前記アルケニル基としては、ビニル基が好ましい。前記アリール基としてはフェニル基が好ましい。硬化性ケイ素化合物(1)に含まれる炭化水素基が2個以上ある場合、これらの炭化水素基は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0021】
硬化性ケイ素化合物(1)における加水分解性基とは、加水分解反応を受けて、シラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)を生成する基であり、アルコキシ基、アシロキシ基、ハロゲン原子、およびイソシアネート基等が挙げられる。これらのうち、アルコキシ基およびハロゲン原子が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基等が挙げられ、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また、加水分解性基が複数ある場合、同一の基であっても異なる基であってもよいが、加水分解反応が進行する速度が均一であり、加水分解反応の制御が容易であることから、同一の基であることが好ましい。
【0022】
本発明のガラス用塗料組成物を用いて着色層付きガラス板を製造する際は、ガラス用塗料組成物をガラス板に塗布して該組成物の層を形成した後、焼成する。この際、硬化性ケイ素成分(A)に由来するシラノール基同士が脱水縮合することによって硬化性ケイ素成分(A)が硬化し、この硬化物が耐熱顔料(B)のバインダーとなって膜が形成され、着色層が形成される。ここで、硬化性ケイ素成分(A)に由来するシラノール基とは、硬化性ケイ素成分(A)にもともと含まれるシラノール基、および、硬化性ケイ素成分(A)中に含まれる加水分解性基を有するケイ素原子が加水分解されることによって生成するシラノール基を指す。
【0023】
硬化性ケイ素成分が、炭化水素基が結合していないケイ素原子のみを含む硬化性ケイ素化合物(例えば、後述の硬化性ケイ素化合物(2))のみからなる場合、焼成により生成するSiOは柔軟性がなく、それがバインダーとなっている着色層は脆いためにガラス板の熱成形の際にクラックを生じやすく、またガラス板に反りが生じやすい。硬化性ケイ素成分として硬化性ケイ素化合物(1)を使用することにより、その硬化物中には炭化水素基が結合したケイ素原子を有する酸化ケイ素が生じ、この酸化ケイ素はSiOに比較して柔軟であり、それがバインダーとなっている着色層は上記のようなクラックや反りを生じにくい。なお、ケイ素原子に結合した炭化水素基は焼成の際にその一部が熱分解して消失することも予想されるが、ガラス板の熱成形温度程度の温度下では残存する炭化水素基も少なくないと考えられる。
【0024】
また、本発明における硬化性ケイ素成分は、従来のガラスフリットをバインダーとする場合に比較して低温で焼成することができる。そのため、従来はガラスフリットの溶融に必要であったためガラス板の熱成形に必要な温度よりも高温で行われていたガラス板の熱成形をより低温で行うことが可能となり、熱成形によるガラス板の歪みの発生を低減できる。しかも、本発明における硬化性ケイ素成分の硬化物は、熱成形温度下で軟化することはなく、そのため型離れ性が高い。さらに、本発明における硬化性ケイ素成分の硬化物は、アルカリ金属成分などの耐酸性を低下させる成分がなく、ガラスフリットに比較して耐酸性が良好である。
【0025】
硬化性ケイ素化合物(1)は、ケイ素原子を1個有する化合物(以下、モノマーともいう)であるか、ケイ素原子を2個以上有する化合物(以下、オリゴマーともいう)である。いずれも硬化性である必要上、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を2個以上有する。ケイ素原子を2個以上有する化合物ではケイ素原子同士が直接結合していてもよいが、ケイ素原子同士を連結する連結基が存在することが好ましく、その連結基は通常酸素原子である。酸素原子である連結基は通常シラノール基同士の脱水縮合により形成される。このようなケイ素原子を2個以上有する化合物は通常加水分解性基を2〜4個有するモノマーの部分加水分解縮合反応で製造される。
【0026】
硬化性ケイ素化合物(1)がモノマー(すなわち、ケイ素原子を1個有する化合物)である場合、ケイ素原子には1〜2個の炭化水素基と2〜3個(炭化水素基との合計は4個)の水酸基または加水分解性基を有する。この場合、化合物が安定である必要上、反応性の基は水酸基ではなく通常は加水分解性基である。したがって、硬化性ケイ素化合物(1)がモノマーである場合、該ケイ素化合物(1)としては、2官能加水分解性シランまたは3官能加水分解性シランが好ましく、3官能加水分解性シランであることが特に好ましい。なお、以下、3官能加水分解性シランとは1個の炭化水素基と3個の加水分解性基が結合したモノマー、2官能加水分解性シランとは2個の炭化水素基と2個の加水分解性基が結合したモノマー、4官能加水分解性シランとは4個の加水分解性基が結合したモノマー、1官能加水分解性シランとは3個の炭化水素基と1個の加水分解性基が結合したモノマー、をいう。
【0027】
硬化性ケイ素化合物(1)がモノマーである場合は3官能加水分解性シランが好ましい。モノマーを2種以上使用する場合、3官能加水分解性シランと2官能加水分解性シランを併用することが好ましく、両者の合計に対する3官能加水分解性シランの割合は50モル%以上が好ましく、特に80モル%以上が好ましい。2官能加水分解性シランのみの硬化物は柔軟性が高すぎ、また耐熱性が低いため、その割合が高くなると最終的に形成された着色層の耐熱性や硬さが不十分となるおそれが生じる。
【0028】
3官能加水分解性シランとしては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、およびフェニルトリクロロシラン等が挙げられる。2官能加水分解性シランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、およびジフェニルジクロロシラン等が挙げられる。
【0029】
硬化性ケイ素化合物(1)がオリゴマー(すなわち、ケイ素原子を2個以上有する化合物)である場合、その中に1〜2個の炭化水素基が結合したケイ素原子が存在することは必須であるが、炭化水素基が結合していないケイ素原子が含まれていてもよい。オリゴマー鎖末端のケイ素原子を除き、個々のケイ素原子は2〜3個の連結基(通常酸素原子)と1〜2個(連結基との合計は4個)の炭化水素基または水酸基もしくは加水分解性基を有する(一部のケイ素原子は4個の連結基を有していてもよい)。オリゴマー鎖末端のケイ素原子は0〜3個の炭化水素基と0〜3個(炭化水素基との合計は3個)の水酸基または加水分解性基と1個の連結基を有する。
【0030】
硬化性ケイ素化合物(1)がオリゴマーである場合、その中の全ケイ素原子に対する炭化水素基が結合したケイ素原子の割合は80〜100モル%が好ましい。また、1個の炭化水素基が結合したケイ素原子と2個の炭化水素基が結合したケイ素原子の合計に対する、1個の炭化水素基が結合したケイ素原子の割合は、50〜100モル%が好ましく、特に80〜100モル%が好ましい。2個の炭化水素基が結合したケイ素原子の割合が高いオリゴマーは柔軟性が高すぎまた耐熱性が低いため、最終的に形成された着色層の耐熱性や硬さが不十分となるおそれが生じる。
【0031】
オリゴマーは3官能加水分解性シランの部分加水分解縮合、3官能加水分解性シランと
2官能加水分解性シランとの部分加水分解共縮合で製造されるものが好ましい。これらは少量の4官能加水分解性シランや1官能加水分解性シランをさらに使用して部分加水分解共縮合して製造されることもある。場合によっては4官能加水分解性シランと1官能加水分解性シランとの部分加水分解共縮合で製造されたものも使用できる。オリゴマーとしては、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物、メチルトリメトキシシランとジメチルジメトキシシランとの部分加水分解共縮合物、メチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとの部分加水分解共縮合物、ビニルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物等が挙げられる。
【0032】
上記オリゴマーは液体であるか溶媒可溶性であることが好ましい。オリゴマーの縮合度が高くなると溶媒不溶性の固体になりやすく、そのため塗料組成物として使用が困難になりやすい。
【0033】
さらにオリゴマーとして、硬化性シリコーンレジンと称されて市販されているオリゴマーも使用できる。通常市販の硬化性シリコーンレジンは、加水分解性基が塩素原子である3官能加水分解性シランや2官能加水分解性シランを使用して上記のようにして製造されたオリゴマーであり、そのオリゴマーは塩素原子が加水分解して生成した多数のシラノール基を有する。具体的には硬化性メチルシリコーンレジンや硬化性メチルフェニルシリコーンレジンが溶剤に溶解されて市販されている。
【0034】
硬化性ケイ素成分(A)は、硬化性ケイ素化合物(1)とともに、炭化水素基が結合したケイ素原子を有さずかつ水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子を有する硬化性ケイ素化合物(2)を含むことが好ましい。硬化性ケイ素化合物(2)における加水分解性基としては、前記と同様の基であり、好ましい態様も同様である。なお、硬化性ケイ素化合物(2)中のケイ素原子に結合する基としては、全てが水酸基または加水分解性基であってもよく、水酸基および加水分解性基の両方であってもよい。
【0035】
硬化性ケイ素化合物(2)は硬化性ケイ素成分(A)の硬化物の耐熱性や硬さを向上させる成分として有用である。硬化性ケイ素化合物(1)のみの硬化物が充分な耐熱性を有しない場合や柔軟性が高すぎる場合に硬化性ケイ素化合物(2)を併用することが好ましい。しかし、硬化性ケイ素成分(A)中の硬化性ケイ素化合物(2)の割合が高すぎる場合は前記のように着色層のクラック発生やガラス板の反りが生じるおそれがある。
【0036】
硬化性ケイ素化合物(2)は、ケイ素原子を1個有する化合物(以下、モノマーともいう)であるか、ケイ素原子を2個以上有する化合物(以下、オリゴマーともいう)である。いずれも硬化性である必要上、ケイ素原子に結合した水酸基または加水分解性基を2個以上有する。ケイ素原子を2個以上有する化合物ではケイ素原子同士が直接結合していてもよいが、酸素原子を連結基として結合していることが好ましい。
【0037】
硬化性ケイ素化合物(2)がモノマーである場合、ケイ素原子には4個の水酸基または加水分解性基を有する。この場合、化合物が安定である必要上反応性の基は水酸基ではなく通常は加水分解性基である。したがって、硬化性ケイ素化合物(2)がモノマーである場合、該ケイ素化合物(2)としては、4官能加水分解性シランであることが好ましい。その加水分解性基としては前記の加水分解性基が挙げられ、特にアルコキシ基や塩素原子が好ましい。4官能加水分解性シランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラクロロシラン等が好ましく使用できる。このほかにテトライソシアネートシラン等も使用することができる。
【0038】
硬化性ケイ素化合物(2)がオリゴマーである場合、上記4官能加水分解性シランの部分加水分解縮合物が好ましい。また市販のオリゴマーを使用できる。このオリゴマーは液体であるか溶媒可溶性であることが好ましい。オリゴマーの縮合度が高くなると溶媒不溶性の固体になりやすく、そのため塗料組成物として使用が困難になりやすい。
【0039】
硬化性ケイ素化合物(2)はまたポリケイ酸であることも好ましい。ポリケイ酸としては、ケイ酸アルカリ水溶液(ケイ酸リチウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、およびケイ酸カリウム水溶液等)を、脱アルカリ処理(イオン交換処理、中和処理等)することによって得られるポリケイ酸を使用することが好ましい。ケイ酸アルカリ水溶液をイオン交換処理することにより、ケイ酸アルカリは脱塩されてケイ酸となり、直ちに縮合反応が進行し、ポリケイ酸となる。この場合、ポリケイ酸は水溶液として得られる。また、ケイ酸アルカリ水溶液に酸を添加して中和し、水を留去する。つぎに希釈剤を加え、沈殿物(塩)をろ過して除去する方法によってもポリケイ酸を得ることができる。
【0040】
硬化性ケイ素成分(A)は硬化性ケイ素化合物(1)、硬化性化合物(2)以外の、その他の硬化性ケイ素化合物を含んでいてもよい。その他の硬化性ケイ素化合物としては、例えばシランカップリング剤やそのオリゴマー等が挙げられる。シランカップリング剤は前記2官能加水分解性シランや3官能加水分解性シランにおける炭化水素基の1つが官能基含有有機基(該有機基はケイ素原子と炭素−ケイ素結合で結合)に置換した構造を有するケイ素化合物である。そのオリゴマーは前記と同様にシランカップリング剤を部分加水分解縮合させて得られるものである。また、互いに反応性の官能基を有する2種のシランカップリング剤の反応物も使用できる。
【0041】
シランカップリング剤における官能基としては、アミノ基、エポキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基、塩素原子等が挙げられる。具体的なシランカップリング剤としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0042】
本発明のガラス用塗料組成物は、SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)と、後述する耐熱顔料(B)との総量に対し、SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)を40〜75質量%(好ましくは50〜75質量%)、耐熱顔料(B)を25〜60質量%(好ましくは25〜50質量%)含むことが好ましい。SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)の含量および耐熱顔料(B)の含量がそれぞれ前記の範囲であると、膜の焼付けの状態および膜の性能(強度、耐酸性等)を良好にできる。なお、SiO換算とは、硬化性ケイ素成分(A)中に含まれるケイ素原子の全量がSiOになっていると考えた場合の質量を有するとして換算した値である(以下同じ。)。
【0043】
硬化性ケイ素成分(A)が、硬化性ケイ素化合物(1)とともに硬化性ケイ素化合物(2)を含む場合、硬化性ケイ素化合物(2)の配合割合の上限は、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)とSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)との総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)が70質量%であることが好ましい。
その配合割合の下限は併用の効果が発揮される限り特に限定されないが、通常は5質量%が好ましい。より好ましくは、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)およびSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)が30〜90質量%、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)が10〜70質量%である。特に、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の割合は20〜40質量%が好ましい。SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の含有量が前記の範囲であると、着色層の強度を大きくでき、かつ着色層にかとう性を持たせることができる。
【0044】
硬化性ケイ素成分(A)がシランカップリング剤などの他の硬化性ケイ素化合物を含む場合、その量(SiO換算として)は、SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)の全量に対して40質量%以下が好ましく、特に20質量%以下が好ましい。
【0045】
本発明のガラス用塗料組成物は耐熱顔料(B)を含む。耐熱顔料(B)は紫外線および可視光線を遮蔽する機能を有する。耐熱顔料(B)としては、銅クロムマンガン系複合酸化物、クロムコバルト系複合酸化物、鉄マンガン系複合酸化物、クロム鉄ニッケル系複合酸化物、クロム銅系複合酸化物、マグネタイトおよびチタニアからなる群から選ばれる1種以上の耐熱顔料であることが好ましい。これらの耐熱顔料は粉末であることが好ましく、粉末である場合、そのメジアン径が0.02〜2.5μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることが特に好ましい。なお、メジアン径とは耐熱顔料粉末の粒径のD50(積算分布で表した粒度分布曲線の中央の値)を指す。
【0046】
また、着色層の強度を大きくするためには、耐熱顔料(B)の充填効率を上げることが有効である。耐熱顔料(B)の充填効率を上げるためには、メジアン径の異なる粒子を併用することが好ましい。たとえば、メジアン径が0.1μm以上の粒子と、メジアン径が0.1μm未満の粒子とを組み合わせて使用することができる。この場合、メジアン径が0.1μm未満の粒子の量は耐熱顔料(B)全体に対して0.01〜40質量%であることが好ましい。
【0047】
本発明のガラス用塗料組成物は、さらに、耐火物フィラーを含んでいてもよい。耐火物フィラーを含むことによって、曲げ加工、強化加工、焼成の際の熱によるガラス板の強度低下を抑制できる。さらに、着色層のα(50〜350℃における平均線膨張係数)を小さくでき、着色層の強度を大きくできる。
【0048】
耐火物フィラーを含む場合、その含有量は、SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)および耐熱含量(B)の総量に対して通常0.01〜60質量%であり、10〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることが特に好ましい。耐火物フィラーの含有量が50質量%超では焼き付けが不充分になるおそれがある。
【0049】
本発明における耐火物フィラーとしては、融点またはガラス転移点が700℃以上である金属酸化物、金属ホウ化物、金属ケイ化物等の無機物が好ましい。具体的には、α−アルミナ、α−石英、ジルコン、コーディエライト、β−ユークリプタイト、フォルステライト、ムライト、ジルコニア、ステアタイト、ホウ酸アルミニウム、石英ガラス、およびシリカからなる群から選ばれる1種以上の無機物あることが好ましく、ホウ酸アルミニウム、石英ガラス、およびシリカからなる群から選ばれる1種以上の無機物であることが特に好ましく、着色層の色調が良好であること、着色層の強度が大きいことからホウ酸アルミニウムがとりわけ好ましい。
【0050】
耐火物フィラーの形状は、球状、燐片状、ウィスカ等のいずれでもよく、燐片状またはウィスカであることが好ましい。ウィスカの形状としては、繊維径が0.1〜10μm、繊維長が0.5〜100μm、繊維径/繊維長が0.001〜2であることが好ましい。
【0051】
本発明のガラス用塗料組成物は、さらに樹脂バインダーを含むことが好ましい。樹脂バインダーは、硬化性ケイ素成分(A)(SiO換算として)、耐熱顔料(B)、および必要に応じて含まれる成分(耐火物フィラー、後述するガラスフリット等)の固形成分の分散媒として機能し、ガラス板の表面にガラス用塗料組成物を定着させる役割を果たす。さらに、本発明のガラス用塗料組成物は、樹脂バインダーを含むことによりガラス板に塗布するための適度な粘度とすることができる。樹脂バインダーとしては、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール樹脂、およびブチラール樹脂、ロジンおよびロジン誘導体等が使用できる。これらの樹脂のうち、セルロース系樹脂が好ましく、エチルセルロースが特に好ましい。
【0052】
本発明のガラス用塗料組成物が樹脂バインダーを含む場合、その量は、硬化性ケイ素成分(A)(SiO換算として)、耐熱顔料(B)、耐火物フィラー、および後述するガラスフリットの総量(以下、総固形分とする。)に対して1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。
【0053】
本発明のガラス用塗料組成物は、さらに溶剤を含んでいてもよい。溶剤を含むことにより、ガラス板に塗布する際の作業性を良好にできる。溶剤としては、特に制限されず、α−テルピネオール、ブチルカルビトールアセテート、フタル酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、およびジエチレングリコールモノブチルエーテルモノアセテート等が使用できる。溶剤の量は、総固形分と樹脂バインダーとの合計量に対し、10〜60質量%が好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。
【0054】
さらに、本発明のガラス用塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲でガラスフリットを含んでもよい。
【0055】
ガラスフリットとしては、酸化ケイ素、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ナトリウム、および酸化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも2種以上の酸化物を含有するガラスフリットが好ましい。さらに、ガラスフリットは、下記成分基準のモル%表示で、SiO(40〜65%)、Bi(1〜30%)、TiO(0.5〜20%)、LiO+NaO+KO(1〜25%)、B(0.01〜10%)、MgO+CaO+SrO+BaO(0〜10%)、ZnO(0〜10%)、ZrO+SnO(0〜10%)、Al(0〜5%)、CeO(0〜2%)、F(0〜2%)から本質的になる無鉛ガラスのフリットであることが好ましい。
【0056】
本発明のガラス用塗料組成物がガラスフリットを含む場合、その量は硬化性ケイ素成分(A)に対して等量以下(より好ましくは0.8倍量以下)とすることが好ましい。ガラスフリットを含むことにより、着色層とガラス板との密着性が向上し、曲げ加工を行ってもガラス板の強度が保持される利点がある。しかし、ガラスフリットの量が硬化性ケイ素成分(A)に対して等量より多くなると、型離れ性、低温焼付け性、耐酸性が低下するおそれがあるため好ましくない。
このガラスフリットの軟化点(Ts)は500〜600℃であることが好ましく、αは50×10−7〜130×10−7/℃であることが好ましい。本発明のガラス用塗料組成物をソーダライムガラス板(典型的には、Tsは730℃、αは80×10−7/℃)に焼き付ける場合、Tsが前記範囲であれば焼き付けを良好にでき、αが前記範囲であればガラス板の強度低下を抑制できる。また、ガラスフリットの粒径のD50は1〜6μmであることが好ましい。
【0057】
本発明のガラス用塗料組成物は、硬化性ケイ素成分(A)、耐熱顔料(B)、および任意成分(耐火物フィラー、樹脂バインダー、溶剤、およびガラスフリット等)を、乳鉢、プラネタリーミキサー等で混合し、三本ロールミル等で均一に分散させることによって得ることができる。
【0058】
硬化性ケイ素成分(A)として、硬化性ケイ素化合物(1)と硬化性ケイ素化合物(2)を併用し、かつ、硬化性ケイ素化合物(2)の一部として水溶液状のポリケイ酸を使用する場合は、該水溶液状ポリケイ酸と、硬化性ケイ素化合物(1)と、ポリケイ酸以外の硬化性ケイ素化合物(2)とを、水と共沸する溶媒(アルコール、トルエン等)を用いて混合し、共沸脱水によって水を留去し、続いて耐熱顔料(B)や耐火物フィラー等を加えて混合し、均一に分散させることによって、本発明のガラス用塗料組成物を得ることができる。なお、この場合、前記の水溶液状のポリケイ酸は酸性であるため、硬化性ケイ素化合物(1)および/または硬化性ケイ素化合物(2)を加えた時点で、これら硬化性ケイ素化合物の一部について部分加水分解縮合反応が進行していると考えられる。このように、本発明のガラス用塗料組成物は、焼成以前の段階において、部分加水分解縮合反応が部分的に進行していてもよい。
【0059】
本発明のガラス用塗料組成物は、自動車用ガラス板に着色層を形成する用途に好適である。このほか、他のガラス製品(ガラス瓶、ガラスコップ等)に着色層を形成する用途にも使用できる。
【0060】
以下、自動車用ガラス板に用いられる着色層付きガラス板の製造方法について具体的に示す。ガラス板としては、ソーダライムシリカガラス、石英ガラス等が使用でき、ソーダライムシリカガラスが好ましい。ソーダライムシリカガラスは、無色透明ガラスであっても有色透明ガラスであってもよい。また、紫外線吸収剤や熱線吸収剤が添加してあってもよく、その表面に熱線反射膜や低反射膜等の機能表面コーティングがほどこされていてもよい。
【0061】
本発明の着色層付きガラス板は、以下の製造方法によって得ることができる。なお、以下に使用する本発明のガラス用塗料組成物としては溶剤を含む流動性の組成物が好ましい。その組成物をガラス板表面に塗布した後、溶剤等の揮発性成分は揮発除去(乾燥ともいう)される。乾燥を行った後の(揮発性成分を含まない)組成物もまた本発明のガラス用塗料組成物である。
【0062】
(製造方法1)
本発明のガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成し、次いで焼成することによって、ガラス表面に着色層を形成することによる着色層付きガラス板の製造方法。
(製造方法2)
本発明のガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成し、次いで該組成物の層が形成されたガラス板を熱成形することによる熱成形された着色層付きガラス板の製造方法。
【0063】
製造方法1〜2において、ガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成する方法としては、スクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷の条件は、自動車用着色層付きガラス板の製造において通常採用される条件が採用でき、スクリーン版のメッシュ、線数(1インチ当たりのドットの数)、スキージ圧、スキージのアタック角、乳剤厚、印刷回数等を適宜選択することによって所望のガラス用塗料組成物の層を形成できる。たとえばスクリーン版のメッシュは90〜380、線数は120〜250が適当である。なお、ガラス用塗料組成物を塗布する箇所は、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラス等の周縁部である。
【0064】
製造方法1においては、ガラス用塗料組成物層が形成されたガラス板を焼成することによって着色層付きガラス板を製造する。製造方法1は主に平板状の着色層付きガラス板の製造に好適な方法である。ガラス用塗料組成物層が形成されたガラス板は、そのまま炉に入れて焼成してもよいが、焼成前に乾燥し、ガラス用塗料組成物中に含まれる溶剤を揮発除去(乾燥)することが好ましい。乾燥条件は溶剤の種類にもよるが、通常は80〜140℃で10〜30分間乾燥させることが好ましい。乾燥後の膜厚は通常20〜30μmである。つぎに、乾燥後のガラス板を焼成することによって、硬化性ケイ素成分(A)の部分加水分解縮合反応を進行させ、着色層を形成する。焼成は、通常は600〜750℃で3〜5分間加熱することによって行われる。焼成後の着色層の厚さは通常の場合、10〜15μmである。
【0065】
製造方法2は曲面を有する着色層付きガラス板の製造方法として好適である。具体的には、ガラス板の表面にガラス用塗料組成物の層を形成した後、該組成物の層が形成されたガラス板を加熱し、曲げ成形する際にこの加熱を利用して焼成する方法であり、熱成形(プレス曲げ加工等)時の加熱により焼成が行われ、着色層付きガラス板が得られる。熱成形は600〜750℃で3〜5分間加熱することによって行うことが好ましい。
【0066】
製造方法2においては、ガラス用塗料組成物の層が形成されたガラス板を熱成形する前、該ガラス板を乾燥することによりガラス用塗料組成物に含まれる溶剤を揮発除去することが好ましい。乾燥条件は製造方法1で記載した条件と同様の条件が採用できる。製造方法2においても、乾燥後の塗料組成物の層の厚さは通常20〜30μmであり、焼成後の着色層の厚さは通常10〜15μmである。
なお、製造方法1および2で得られた着色層付きガラス板は、炉から取り出した後に徐冷してもよく、強化処理するために急冷してもよい。
【0067】
本発明のガラス用塗料組成物を用いて形成される膜は、数〜10数μm程度の厚さとしても、膜にクラックが発生したり、ガラス板に反りが発生したりしない。よって自動車用ガラス板に特に好適な隠蔽性に優れる着色層付きガラス板を得ることができる。加えて、プレス曲げ加工等の熱成形を行う場合にプレス型への付着が抑えられるため、生産性が向上する。
【0068】
また、近年、歪みが少ないガラスが求められている等の理由で、曲げ加工の温度を低くする要求もある。本発明のガラス用塗料組成物は、ガラスフリットを含むこれまでのガラス用塗料組成物よりも低温で焼成が可能であるため、焼成温度を低くすることもできる。さらに、本発明のガラス用塗料組成物は耐酸性(特に耐硫酸性)にも優れる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ただし、以下の例1〜21は実施例であり、例22は比較例である。
【0070】
[1]ガラス用塗料組成物の調製
硬化性ケイ素成分(A)、耐熱顔料(B)、耐火物フィラー、樹脂バインダー、溶剤、およびガラスフリットを表に示す質量部で混合して混練し、三本ロールミルによって均質分散させてペースト状のガラス用塗料組成物を得た。ただし、硬化性ケイ素化合物(A)の質量は、SiO換算の値である。
【0071】
硬化性ケイ素化合物(1)としては、メチル基が1個結合したケイ素原子の割合が高い市販の硬化性メチルシリコーンレジン(GE東芝シリコーン株式会社製、商品番号:TSR127B)およびビニルトリエトキシシランを用いた。硬化性ケイ素成分(2)としては、テトラエトキシシランおよび市販のケイ酸ソーダ水溶液(日本化学工業株式会社製、商品名:珪酸ソーダ4号)を脱アルカリ処理して得たポリケイ酸を用いた。
耐熱顔料としては銅クロムマンガン系複合酸化物黒色耐熱顔料(粒径のD50=0.9μm)を、耐火物フィラーとしてはホウ酸アルミニウムウィスカー、燐片状シリカ、石英ガラス粉末(粒径のD50=1.0μm)を、樹脂バインダーとしてはエチルセルロースを、溶剤としてはα−テルピオネールを用いた。ガラスフリットとしては以下に示す方法により得られたガラスフリットを用いた。
【0072】
[ガラスフリットの調製]
SiO(58.2%)、Bi(15.0%)、TiO(9.0%)、LiO(15.0%)、NaO(0.1%)、KO(2.4%)、CeO(0.4%)。
前記成分を混合して白金るつぼに入れ、1000〜1400℃で1〜3時間溶解して溶解ガラスとした。つぎに、この溶解ガラスを急冷してフレーク状ガラスを得るか、または水砕して水砕ガラスを得る。その後、フレーク状ガラスまたは水砕ガラスをボールミルで粉砕してガラスフリットを作製した。ガラスフリットの粒径のD50は1〜6μm、Ts(軟化点)は565℃、α(50〜350℃における平均線膨張係数)は110×10−7/℃であった。
【0073】
[2]ガラス用塗料組成物の評価
[1]で得たガラス用塗料組成物を用い、耐酸性、型離れ性、着色層の強度、着色層の厚さ、ガラス板の反り、着色層のクラックについて評価を行った。
【0074】
[2−1]耐酸性試験
[1]で得たガラス用塗料組成物を、ガラス板(縦10cm、横10cm、厚さ3.5mm)の片方の面のほぼ全面にスクリーン印刷し、120℃で乾燥した。乾燥後のガラス板を炉に入れ、ガラス板の温度を表1に示す温度まで上げて4分間焼成した。その後、常温に冷却し、着色層付きガラス板を得た。
【0075】
この着色層付きガラス板を0.05モル/dmの硫酸水溶液中に80℃で72時間浸漬した後に取り出した。流水によって洗浄後、ガラス板を、着色層が形成されていない面から太陽光の下で目視観察し、色調変化の程度を調べて耐酸性の評価とした。色調変化が見られないものを◎、色調変化が若干見られたものを○、色調変化が見られるものを△、色調変化が著しく認められるものを×として表に示す。
【0076】
[2−2]型離れ性
[2−1]と同様にしてガラス板(縦10cm、横10cm、厚さ3.5mm)にガラス用塗料組成物を印刷し、乾燥した。乾燥後のガラス板を、670℃または630℃に保持され互いに対向する面にガラスクロスが張られた凸型プレス金型および凹型プレス金型の間に挿入した。凸型プレス金型の上に10kgの重しを載せて5分間プレスした。重しと凸型プレス金型とを取り外し、凸型プレス金型のガラスクロス表面へのガラス用塗料組成物の付着状況を調べ、型離れ性の評価を行った。ガラス用塗料組成物の付着が認められないものを○、付着が軽微であるものを△、付着が顕著であるものを×、として表に示す。
【0077】
[2−3]着色層の強度
[2−2]で得られた着色層付きガラス板の、着色層の面に炭素鋼製の片刃カミソリをあて、一定加重をかけて静かにカミソリを動かした。着色層が形成されていないガラス面側から目視によって観察し、カミソリによる傷の有無を調べた。カミソリによる傷が確認されるまでカミソリにかける加重を増して何度か同様の評価を行い、傷の見えない最大加重を着色層の強度とした。着色層の強度は100g重以上であることが必要である。
【0078】
[2−4]着色層の厚さ
[2−1]と同様にしてガラス板(縦10cm、横10cm、厚さ3.5mm)にガラス用塗料組成物を印刷し、乾燥した。乾燥させた段階で、サンプル面内の一部の塗料用組成物の層を削りガラス板が露出するようにした。そのガラス板を表1に示す温度まで上げて焼成し、常温まで冷却した。着色層が形成された箇所とガラス板が露出している箇所との差をデックタック(触診式段差計)で測定し、着色層の厚さを求めた。
【0079】
[2−5]ガラス板の反りおよび着色層のクラック
[2−1]と同様にして着色層付きガラス板を得た。板を炉から取り出した時のガラス板の反りおよび着色層におけるクラックの有無を目視により確認した。ガラスの反りは、凸部を下にして平坦な場所におき、ガラスの端部が平坦部からどれだけ離れているかを測定した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のガラス用塗料組成物は、プレス型への付着を抑制できる。また、数〜10数μmの厚さの膜としても、膜のクラックやガラス板の反りを抑制できる。よって、ガラスに着色層を形成する用途に好適である。また、耐酸性にも優れ、低温での成膜も可能であることから、自動車用ガラス板に着色層を形成する用途に特に好適であり、既存のガラスフリットを用いたガラス用塗料組成物の代替となりうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記硬化性ケイ素成分(A)と耐熱顔料(B)とを含む、ガラス表面に着色層を形成するためのガラス用塗料組成物。
硬化性ケイ素成分(A):炭化水素基が結合したケイ素原子と水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子とを有する(ただし、両ケイ素原子は同一のケイ素原子であってもよい)硬化性ケイ素化合物(1)を含む1種以上の硬化性ケイ素化合物からなる成分。
【請求項2】
SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)および耐熱顔料(B)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素成分(A)が40〜75質量%、耐熱顔料(B)が25〜60質量%である、請求項1に記載のガラス用塗料組成物。
【請求項3】
硬化性ケイ素化合物(1)が、1個の炭化水素基と3個の加水分解性基とを有する3官能加水分解性シランまたは該3官能加水分解性シランに由来する単位を含む加水分解性シラン化合物の部分加水分解縮合物である、請求項1または2に記載のガラス用塗料組成物。
【請求項4】
硬化性ケイ素成分(A)が、炭化水素基が結合したケイ素原子を有さずかつ水酸基または加水分解性基が結合したケイ素原子を有する硬化性ケイ素化合物(2)と硬化性ケイ素化合物(1)とを含む成分である、請求項1、2または3に記載のガラス用塗料組成物。
【請求項5】
硬化性ケイ素化合物(2)が、4個の加水分解性基を有する4官能加水分解性シラン、該4官能加水分解性シランの部分加水分解縮合物、またはポリケイ酸である、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【請求項6】
SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)およびSiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)の総量に対して、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(1)が30〜90質量%、SiO換算による硬化性ケイ素化合物(2)が10〜70質量%である請求項4または5に記載のガラス用塗料組成物。
【請求項7】
耐熱顔料(B)が、銅クロムマンガン系複合酸化物、クロムコバルト系複合酸化物、鉄マンガン系複合酸化物、クロム鉄ニッケル系複合酸化物、クロム銅系複合酸化物、マグネタイトおよびチタニアからなる群から選ばれる1種以上の耐熱顔料である請求項1〜6のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【請求項8】
耐熱顔料(B)が、メジアン径が0.02〜2.5μmの粉末状耐熱顔料である請求項1〜7のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【請求項9】
さらに耐火物フィラーを、硬化性ケイ素成分(A)と耐熱顔料(B)の総量に対して10〜50質量%(ただし、硬化性ケイ素成分(A)の量はSiO換算による)含む請求項1〜8のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【請求項10】
耐火物フィラーが、α−アルミナ、α−石英、ジルコン、コーディエライト、β−ユークリプタイト、フォルステタイト、ムライト、ステアタイト、ジルコニア、ホウ酸アルミニウム、石英ガラス、およびシリカからなる群から選ばれる1種以上である、請求項9に記載のガラス用塗料組成物。
【請求項11】
さらに樹脂バインダーを含む、請求項1〜10のいずれかに記載のガラス用塗料組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成し、次いで焼成することによって、ガラス表面に着色層を形成することを特徴とする着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載のガラス用塗料組成物が焼成されて形成された着色層を有する着色層付きガラス板。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載のガラス用塗料組成物をガラス板の表面に塗布して該組成物の層を形成し、次いで該組成物の層が形成されたガラス板を熱成形することを特徴とする熱成形された着色層付きガラス板の製造方法。

【公開番号】特開2008−273991(P2008−273991A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−235369(P2005−235369)
【出願日】平成17年8月15日(2005.8.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】