説明

ガラス繊維集束剤、ガラス繊維、及びガラス繊維不織布

【課題】開繊時間を短くすることが可能であるとともに、開繊されたガラス繊維モノフィラメントの凝集を抑制することが可能となるガラス繊維集束剤と、このガラス繊維集束剤が表面に塗布されたガラス繊維、及びこのガラス繊維を用いて作製されたガラス繊維不織布を提供する。
【解決手段】エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を含有するガラス繊維収束剤とし、前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドのモル数xとプロピレンオキサイドのモル数yとのモル比(x/y)を2〜5とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルカーペットやルーフィングなどの建築資材、またはプリント配線基板の材料に使用されるガラス繊維不織布、該ガラス繊維不織布の作製に適したガラス繊維、及び該ガラス繊維の表面を被覆するためのガラス繊維集束剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タイルカーペットやルーフィングなどの建築資材、またはプリント配線基板の材料に使用されるガラス繊維不織布は、次の手順で作製される。
【0003】
まず、溶融ガラスを白金製ブッシングの底面に形成された複数のノズルから引き出すことによって、ガラス繊維モノフィラメントを作製した後、該ガラス繊維モノフィラメント表面にガラス繊維集束剤を塗布し、ギャザリングシューを用いて複数本のガラス繊維モノフィラメントを一本のガラス繊維ストランド束に束ねた後、ケーキとして巻き取る。
【0004】
次に、巻き取られたケーキからガラス繊維ストランド束を解舒しながら、例えば3〜60mmの長さに切断してチョッドストランドを作製する。
【0005】
最後に、水溶性高分子、界面活性剤などを溶解させた白水中へチョップドストランドを投入し、プロペラ羽根等を用いて攪拌し、チョップドストランドを開繊させてガラス繊維モノフィラメントとし、パルプから紙を製造する場合と同様の方法によりメッシュコンベアー上で抄紙し、乾燥することによってガラス繊維不織布が作製される。
【0006】
ガラス繊維不織布には、機械強度の向上、及びガラス繊維不織布の厚さの均一化を目的として、白水中でチョップドストランドを確実に一本一本のガラス繊維モノフィラメントに開繊させる必要がある。そのため、ガラス繊維不織布の作製に使用されるチョップドストランドを、白水中で容易に(素早く)ガラス繊維モノフィラメントに開繊させることが求められる。更に、一旦開繊されたガラス繊維モノフィラメントが、再び凝集しないことも要求されている。
【0007】
特許文献1には、数平均分子量が10000〜1000000である水溶性高分子と界面活性剤とを含有する集束剤が塗布されることで、毛羽の発生量が少なく、白水中で容易に開繊されるガラスロービングが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−315345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示された集束剤を塗布した場合、開繊時間が短くなり、毛羽の発生が抑制されるものの、白水中において一旦開繊されたガラス繊維モノフィラメントが、再度凝集してしまうという問題が生じていた。先述したように、ガラス繊維不織布の品質を決定する要因の一つとして、ガラス繊維不織布の厚さの均一化がある。厚さが均一であるガラス繊維不織布を作製する場合、白水中で、ガラス繊維モノフィラメントが凝集することを抑制する必要がある。
【0010】
また、集束剤中に含まれる界面活性剤としては、開繊時間を短くする為に、アルキル基の炭素数が12〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテルが多用されてきた。しかし、アルキル基の炭素数が12〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、化学物質排出移動量届出制度(PRTR)の対象物質であり、環境保護の観点から、その使用量を抑制する必要がある。
【0011】
本発明は、係る状況に鑑み、PRTRの対象物質であるアルキル基の炭素数が12〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用せずとも、開繊時間を短くすることが可能であるとともに、開繊されたガラス繊維モノフィラメントの凝集を抑制することが可能となるガラス繊維集束剤と、このガラス繊維集束剤が表面に塗布されたガラス繊維、及びこのガラス繊維を用いて作製されたガラス繊維不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者は、これらの課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、分子中に親水性を示す部位が存在することで、白水中で容易に溶解し、チョップドストランドをガラス繊維モノフィラメントに容易に開繊させる、という一面を有している一方で、分子中にある程度の疎水性を示す部位が存在することで、白水中でもチョップドストランドの外表面を覆うことができ、そのことでガラス繊維モノフィラメントどうしが凝集することを抑制できる界面活性剤を含有するガラス繊維集束剤をガラス繊維に塗布することで、これらの問題を解決することができることを見出した。
【0013】
すなわち本発明に係るガラス繊維集束剤は、
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を含有し、
前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドのモル数xとプロピレンオキサイドのモル数yとのモル比(x/y)が2〜5であることを特徴とする。
【0014】
また本発明に係るガラス繊維集束剤は、前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中アルキル基の炭素数が12〜18であることが好ましい。
【0015】
また本発明に係るガラス繊維は、前記いずれかに記載のガラス繊維集束剤の固形物で被覆されていることを特徴とする。
【0016】
また本発明に係るガラス繊維は、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量に対する前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の固形物の質量割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して0.005〜0.5質量部であることが好ましい。
【0017】
また本発明に係るガラス繊維不織布は、前記いずれかに記載のガラス繊維を集束したガラス繊維ストランド束を3〜60mmの長さに切断し、白水中に分散させることにより作製されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るガラス繊維集束剤は、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を含有し、前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドのモル数xとプロピレンオキサイドのモル数yとのモル比(x/y)が2〜5であるため、本発明に係るガラス繊維集束剤を塗布したガラス繊維により作製されたチョップドストランドは、開繊時間が短くなるとともに、開繊されたガラス繊維モノフィラメントの凝集を抑制することが可能となる。
【0019】
本発明に係るガラス繊維不織布は、開繊後の凝集が起こり難いガラス繊維から作製されているため、厚さが均一であり、建築資材またはプリント配線基板の材料として使用することで、品質の高い建築物またはプリント配線基板を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
本発明のガラス繊維集束剤は、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を含有し、前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドのモル数xとプロピレンオキサイドのモル数yとのモル比(x/y)が2〜5である。以下、その詳細について説明する。
【0022】
本発明のガラス繊維集束剤は、ガラス繊維の表面を覆う用途で用いられるものである。このガラス繊維集束剤は、少なくともエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を含有している。エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を溶媒に溶解させ、アプリケーターなどの塗布装置により、ガラス繊維の表面に塗布されるが、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤との溶解性を考慮に入れると、エタノールやシクロヘキサン等の有機溶媒よりも、水道水、イオン交換水、及び蒸留水に溶解させることが好ましい。
【0023】
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤は、ガラス繊維モノフィラメントを1本のガラス繊維ストランド束状に集束させる役割を果たす。ガラス繊維を白水中に投入する前において、摩擦等に起因する毛羽がガラス繊維表面に発生することを防止するために、所望の集束性を有している必要がある。一方、白水中において、ガラス繊維が集束した状態では、厚さが均一であるガラス繊維不織布を作製することができないため、チョップドストランドは容易にガラス繊維モノフィラメントに開繊される必要がある。また、ガラスの表面に存在するアニオンは疎水性であるため、安定状態となるべくガラス繊維モノフィラメントどうしが凝集してしまう虞がある。凝集防止のため、白水中において、ガラス繊維モノフィラメントは、アニオンよりも親水性である物質に覆われている必要があり、この物質によりガラス繊維モノフィラメントどうしの凝集が起こり難い状態にする必要がある。エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤は、親水性であるエチレンオキサイドを有しているため、白水中に投入する前においては、ガラス繊維モノフィラメントどうしを集束させることが可能であるとともに、白水中に投入されることにより、白水に容易に溶解し、集束力が弱くなる。そのため、白水中においてチョップドストランドは、短時間でガラス繊維モノフィラメントに開繊される。またプロピレンオキサイドは、ガラス表面に存在するアニオンよりも親水性が高く、一方、エチレンオキサイドよりも疎水性が高いため、白水中においてもガラス繊維モノフィラメント表面に存在し、開繊されたガラス繊維モノフィラメントどうしが凝集することを抑制することが可能となる。
【0024】
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤は、以下の化学式で表すことができる。
【0025】
【化1】

(x、y、zはそれぞれ独立した自然数である。)
【0026】
(化1)中の−CO−はエチレンオキサイドであり、−CO−はプロピレンオキサイドである。エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの添え字x、yはそれぞれエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を構成するエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドのモル数を表しており、本発明におけるエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのモル比(x/y)は2〜5である。(x/y)が2より小さいと、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のプロピレンオキサイドのモル数が過剰となり、白水中においてチョップドストランドはガラス繊維モノフィラメントに容易に開繊されず、ガラス繊維不織布の作製に時間を要する虞がある。一方、x/yが5より大きいと、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドのモル数が過剰となり、白水中において、ガラス繊維モノフィラメント表面に存在するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の量が減少するために、ガラス表面のアニオンが白水に曝され、ガラス繊維モノフィラメントどうしの凝集が起こり易くなってしまう虞がある。そのため、厚さが均一であるガラス繊維不織布を作製することが困難となる虞がある。(x/y)の範囲としては、(x/y)が2〜3であることがより好ましい。
【0027】
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのモル数の和(x+y)の相加平均は、5〜20であることが、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の合成容易性を鑑みると好ましい。
【0028】
(化1)中のC(2z−1)はアルキル基であり、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドと比べて水に溶けにくい性質(疎水性)を有している。エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中にアルキル基が存在することで、白水中で容易に溶解してしまい、ガラス繊維モノフィラメント表面に存在するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の量が減少することが抑制される。アルキル基のzは、12〜18であることが好ましい。zが12より小さいと、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤が過度の親水性となるために、白水中で容易に溶解してしまい、ガラス繊維モノフィラメント表面に存在するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の量が減少する虞がある。一方、zが18より大きいと、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤が過度の疎水性となるために、白水中においてチョップドストランドがガラス繊維モノフィラメントに容易に開繊されず、ガラス繊維不織布の作製に時間を要する虞がある。また、アルキル基は、分岐を有さない直鎖状であることが、合成容易性の観点から鑑みて好ましい。
【0029】
また本発明のガラス繊維集束剤は、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤、溶媒に加えて、シランカップリング剤、結束剤、帯電防止剤、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤以外のノニオン系界面活性剤を併用することができる。
【0030】
その中でもシランカップリング剤は、ガラス繊維モノフィラメントの表面を有機化し、そのことによりエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤とガラス繊維モノフィラメントの付着性を高め、毛羽の発生を抑制できるため、シランカップリング剤を併用することが特に好ましい。
【0031】
シランカップリング剤として、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N’−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4 −エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、γ−クロロプロピルトリメトキシシランのようなクロルシラン類、γ−メルカプトトリメトキシシランのようなメルカプトシラン、ビニルメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリルシラン類、などが挙げられる。これらを単独で使用、または2種類以上を併用することができる。
【0032】
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤以外のノニオン系界面活性剤は、ガラス繊維モノフィラメントの集束性が良く、またエポキシ樹脂などの結束剤と比べて白水中において容易に溶解するため、ノニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0033】
ノニオン系界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキル(C12〜18)エーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックコポリマー、アルキル(C12〜18)ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックコポリマーエーテル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸(C12〜18)モノエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸(C12〜18)ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸(C12〜18)エステル、グリセロール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンキャスターオイルエーテル、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、アルキル(C12〜18)アミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸(C12〜18)アミドエチレンオキサイド付加物、グリセロール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸(C12〜18)エステル、ソルビタン脂肪酸(C12〜18)エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物、などが挙げられる。これらを単独で使用、または2種類以上を併用することができる。
【0034】
本発明のガラス繊維は、本発明のガラス繊維集束剤の固形物で被覆されていることを特徴とする。
【0035】
ガラス繊維は、溶融ガラスをガラス溶融炉に設けられた白金などで構成されたブッシングの底部の複数本の耐熱性ノズルからガラス繊維モノフィラメントとして連続的に引き出すことによって成形され、各ガラス繊維の表面には、アプリケーターなどの塗布装置により本発明に係るガラス繊維集束剤が塗布された後、ギャザリングシューで100〜8000本のガラス繊維モノフィラメントが束ねられて一本のガラス繊維ストランド束とされ、ガラス繊維ストランド束は一旦ドラムに巻き取ってケーキと呼ばれる状態にされる。ケーキを130℃で10時間乾燥させた後、ケーキからガラス繊維ストランド束を引き出し、用途に応じてチョップドストランドなどに切断加工される。
【0036】
本発明では、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量に対するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の固形物の質量割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して0.005〜0.5質量部であることが好ましい。ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量に対するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の固形物の質量割合が0.005質量部より小さいと、被覆量が少なすぎるため、均等にガラス繊維表面が被覆され難い場合もあり、ガラス繊維どうしの集束性が低下し、白水中での溶解性にムラが生じる虞がある。一方、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量に対するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の固形物の質量割合が0.5質量部より大きいと、塗布量の増加にもかかわらず、集束性の向上が見られず、また白水中でエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤が溶解するのに時間を要し、ガラス繊維不織布の作製時間が長くなる虞がある。より好ましい範囲としては、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量に対するエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の固形物の質量割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して0.01〜0.3質量部であり、更に好ましくは0.015〜0.2質量部である。なお本明細書では130℃で10時間乾燥させた場合に揮発せずに残留した物質を固形分という。
【0037】
本発明のガラス繊維モノフィラメントは、平均直径が5〜25μmのガラス長繊維であれば、作製されたガラス繊維不織布が所望の強度を有するとともに、ガラス繊維ストランド束を切断する際にガラス繊維が白水外に飛散する虞がないため好ましい。ガラス繊維モノフィラメントの平均直径のより好ましい範囲は、10〜20μmである。
【0038】
本発明のガラス繊維モノフィラメントの平均直径は、単位長さ当りのガラス繊維の質量の計測値、またはガラス繊維の密度の計測値、などからガラス繊維モノフィラメントの直径値を算出して得た値でもよく、またレーザー計測機などによりガラス繊維モノフィラメント直径を計測して得た値や、その他公知の方法で測定したものであってもよい。
【0039】
本発明のガラス繊維は、Eガラス(アルカリ含有率2.0%以下)、ARガラス(耐アルカリ性ガラス組成)、Cガラス(耐酸性のアルカリ石灰含有ガラス組成)、Dガラス(低誘電率を実現する組成)、Hガラス(高誘電率を実現する組成)、Sガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Tガラス(高強度、高弾性率を実現する組成)、Mガラス(高弾性率を実現するベリリウムを含有するガラス組成)、NEガラス(低誘電率、低誘電正接を実現する組成)などの既存の各種ガラス組成を有するガラス繊維に加え、新規性能を発現するために開発された新たなガラス組成であってもよい。
【0040】
本発明のガラス繊維不織布は、上記のガラス繊維を集束したガラス繊維ストランド束を3〜60mmの長さに切断し、白水中に分散させることにより作製されることを特徴とする。
【0041】
ケーキから巻き戻されたガラス繊維ストランド束は、切断機により3〜60mmの長さに切断され、チョップドストランドが作製される。チョップドストランドは、バッチ内の白水中に一度に投入(バッチ式)、あらかじめホッパーに充填されたチョップドストランドを、ホッパーの底部に設けられた振動フィーダーやスクリューを用いて、抄造速度に合わせて一定量ずつ白水中に投入(連続式)、またはガラス繊維ストランド束を白水槽の投入口付近で所定の長さに切断して作製されたチョップドストランドを連続的に直接白水中に投入(切断直接投入法)、いずれかの方法で白水中に投入される。白水中に投入されたチョップドストランドは、抄紙工程を経ることにより、ガラスペーパー状となり、該ガラスペーパーを130℃で乾燥させることで、ガラス繊維不織布が作製される。ガラス繊維不織布は用途に応じて所定の大きさに切断される。
【0042】
白水としては、チョップドストランドの分散性を促進させることを目的として、水道水などの溶媒に、ポリアクリル酸ソーダ、ヒドロエチルセルロース、などの増粘剤、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪アルコールエトキシレート、アルキルグリコシド、などの非イオン性界面活性剤を溶解させることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
[ガラス繊維の作製]
ガラス溶融炉で均質に溶融されたEガラス組成を有する溶融ガラスをガラス溶融炉に設けられた白金ブッシングの底部の複数本の耐熱性ノズルより連続的に引き出すことで、平均直径13μmのガラス繊維を得た。このガラス繊維の表面に、後述する実施例1〜3、比較例1〜4のガラス繊維集束剤をアプリケーターにより塗布した。その後、ギャザリングシューによりガラス繊維集束剤が塗布された5400本のガラス繊維を集束させて2000texのガラス繊維ストランド束として紙管上に巻き取って回巻体とした。次いで、この回巻体を130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた。
【0045】
[ガラス繊維集束剤の塗布量]
(実施例1)
実施例1のガラス繊維集束剤は、以下の手順で準備し、ガラス繊維に塗布した。
(a)エチレンオキサイドのモル数xとプロピレンオキサイドのモル数yのモル比(x/y)が3であり、アルキル基の炭素数が12であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤、(b)数平均分子量10万の水溶性高分子であるポリエチレンオキサイド、(c)アマイド系カチオン界面活性剤、(d)γ−アミノプロピルトリエトキシシランを、それぞれ脱イオン水に溶解させることで調製した。ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(a)0.02質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した。
【0046】
(実施例2)
実施例2のガラス繊維集束剤は、ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(a)0.04質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した以外は、実施例1と同様の手順で準備、塗布した。
【0047】
(実施例3)
実施例3のガラス繊維集束剤は、(e)(x/y)が4であり、アルキル基の炭素数が12であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤、(b)、(c)、(d)を、それぞれ脱イオン水に溶解させることで調製し、ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(e)0.02質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した以外は、実施例1と同様の手順で準備、塗布した。
【0048】
(比較例1)
比較例1のガラス繊維集束剤は、(f)エチレンオキサイドのモル数が30、アルキル基の炭素数が12であるエチレンオキサイドアルキルエーテル、(b)、(c)、(d)を、それぞれ脱イオン水に溶解させることで調製し、ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(f)0.02質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した以外は、実施例1と同様の手順で準備、塗布した。
【0049】
(比較例2)
比較例2のガラス繊維集束剤は、(g)エチレンオキサイドのモル数が10、アルキル基の炭素数が12であるエチレンオキサイドアルキルエーテル、(b)、(c)、(d)を、それぞれ脱イオン水に溶解させることで調製し、ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(g)0.02質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した以外は、実施例1と同様の手順で準備、塗布した。
【0050】
(比較例3)
比較例3のガラス繊維集束剤は、(h)エチレンオキサイドのモル数が5、アルキル基の炭素数が12であるエチレンオキサイドアルキルエーテル、(b)、(c)、(d)を、それぞれ脱イオン水に溶解させることで調製し、ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(h)0.02質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した以外は、実施例1と同様の手順で準備、塗布した。
【0051】
(比較例4)
比較例4のガラス繊維集束剤は、(i)(x/y)が8であり、アルキル基の炭素数が12であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤、(b)、(c)、(d)を、それぞれ脱イオン水に溶解させることで調製し、ガラス繊維へ塗布し、130℃の熱風乾燥装置で10時間乾燥させた後における、ガラス繊維に付着しているガラス繊維集束剤の各成分の塗布割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して、(i)0.02質量部、(b)0.03質量部、(c)0.01質量部、(d)0.01質量部、となるように、脱イオン水への溶解量、アプリケーターローラーの回転速度を調整した以外は、実施例1と同様の手順で準備、塗布した。
【0052】
[開繊性の評価]
以上の工程によって得られた回巻体からガラス繊維ストランド束を引き出しながら切断することで、平均長さが13mmのチョップドストランドを得た。白水として、25℃で10mPa・sの粘度となるように調製されたポリアクリル酸ソーダ水溶液を準備した。1000mlの白水をビーカーに注ぎ入れ、この白水を200rpmで攪拌しながら4gのチョップドストランドを投入し、全てのチョップドストランドがガラス繊維モノフィラメントに開繊されるまでの時間を測定することによって評価した。なお全てのチョップドストランドがガラス繊維モノフィラメントに開繊されたか否かは目視により確認した。
【0053】
[凝集性の評価]
白水を200rpmで攪拌しながら4gのチョップドストランドを投入し、120秒間攪拌した。次いで、攪拌後の白水を抄紙することにより、25cm×25cmのガラス繊維不織布を作製した。作製したガラス繊維不織布に存在している5mm以上のガラス繊維塊の数を目視により数え、1m当たりの個数に換算したものを凝集個数とした。そして、凝集個数により凝集性を評価した。
【0054】
以上のように行った評価結果を表1及び2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1及び2より、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイドモル比が2〜5である実施例1〜3は、いずれも15秒以内でチョップドストランドが開繊した。また、凝集個数も1m当たり50個以下であり、比較例1〜4と比べて、非常に凝集個数が小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のガラス繊維を用いて作製したガラス繊維不織布は、タイルカーペットやルーフィングなどの建築資材、または、プリント配線基板などの電子機器の材料として使用することができる。また他の用途についても要求性能に見合えば利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維の表面に塗布されるガラス繊維集束剤であって、
エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤を含有し、
前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のエチレンオキサイドのモル数xとプロピレンオキサイドのモル数yとのモル比(x/y)が2〜5であることを特徴とするガラス繊維集束剤。
【請求項2】
前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤中のアルキル基の炭素数が12〜18であることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維集束剤。
【請求項3】
表面が請求項1または2に記載のガラス繊維集束剤の固形物で被覆されていることを特徴とするガラス繊維。
【請求項4】
ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量に対する前記エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドアルキルエーテル界面活性剤の固形物の質量割合が、ガラス繊維とガラス繊維集束剤の固形物の合量100質量部に対して0.005〜0.5質量部であることを特徴とする請求項3に記載のガラス繊維。
【請求項5】
請求項3または4に記載のガラス繊維を集束したガラス繊維ストランド束を3〜60mmの長さに切断し、白水中に分散させることにより作製されることを特徴とするガラス繊維不織布。

【公開番号】特開2013−35697(P2013−35697A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170588(P2011−170588)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】