説明

ガラス調タイルの製造方法

【課題】ピンホールが全く又は殆ど無い、厚い透明な釉薬層を有したガラス調タイルを製造する。
【解決手段】耐火度1100℃以下の透明釉薬を素焼きしたタイル素地上に被着させて焼成するタイルの製造方法であって、該釉薬のスラリーを複数回該タイル素地に掛けることにより厚さ1〜2mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造することを特徴とするガラス調タイルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚い透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面(前面)に厚いガラス層が設けられたガラス調タイルは、独得の深みを有した意匠性に富むものである。
【0003】
厚いガラス層を有したタイルを製造する方法の一つとして、タイルの表面に板ガラスを載せて焼成し、板ガラスを表面に融着させる方法がある(特開昭60−203440号)。
【0004】
しかしながら、タイルにガラス板を載せて焼成する場合、タイルとガラス板との間に空気が残留し易く、ガラス本来の美しさを生かしたタイルを焼成することができないことがある。しかも、タイルとガラス板の間に空気が残留すると、タイルとガラスの接着が弱くなり、ガラスの割れや剥離が生じる原因となってしまう。
【0005】
特開平7−32334号には、成形型内にまず透明釉薬粉粒体と着色粉粒体との混合物を充填し、予備的にプレス成形した後、その上にタイル素地成形用の粉粒体を充填し、プレス成形し、乾粉成形体を得、しかる後それを1250℃で3時間焼成することにより、厚さ1.1mmの釉薬層を有したタイルを製造することが記載されている。
【特許文献1】特開昭60−203440号
【特許文献2】特開平7−32334号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平7−32334号の方法では、タイル素地の焼成時に併せて釉薬粉粒体を熔融軟化させるようにしているため、釉薬としてタイル素地の焼成温度(1250℃)でも垂れ流れることがない高耐火度、高熔融粘性のものを用いる必要がある。
【0007】
かかる高耐火度、高熔融粘性の釉薬は、焼成時にタイル素地あるいは釉薬から発生したガスが抜けにくく、タイル製品の釉薬層中にピンホールが残留し易い。
【0008】
本発明は、ピンホールが全く又は殆ど無い、厚い透明な釉薬層を有したガラス調タイルを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1のガラス調タイルの製造方法は、耐火度1100℃以下の透明釉薬を、タイル素地上に被着させて焼成するタイルの製造方法であって、該釉薬のスラリーを複数回該タイル素地に掛けた後、焼成し、厚さ1〜2mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造することを特徴とするものである。
【0010】
請求項2のガラス調タイルの製造方法は、耐火度1100℃以下の透明釉薬を、タイル素地上に被着させて焼成するタイルの製造方法であって、該釉薬の乾粉を成形して板状釉薬とし、この板状釉薬をタイル素地の上に載せた後、焼成し、厚さ1〜2mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造することを特徴とするものである。
【0011】
請求項3のガラス調タイルの製造方法は、請求項1又は2において、前記タイル素地の前面に高低差1.0mm以上の凹凸が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,2のいずれのガラス調タイルの製造方法においても、釉薬として耐火度が1100℃以下の低耐火度釉薬を用いるため、タイル素地に厚く釉薬層を掛けたり、あるいは厚い釉薬乾粉成形板をタイル素地に載せたりしても、焼成により釉薬が十分に熔融し、厚さ1〜2mmの厚い透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造することができる。
【0013】
この透明釉薬層は、低耐火度のものであるから、熔融粘性が低く、ガスが抜け易いので、透明釉薬層中にピンホールが全く又は殆ど残らない。
【0014】
この低耐火度釉薬をタイル素地に掛けたり釉薬乾粉成形板をタイル素地に載せた後に行う焼成は、タイル素地が既に素焼きしたものであるため、釉薬を熔融させる低い温度(例えば900〜1000℃)程度であり、熔融した釉薬が垂れ流れることはない。
【0015】
請求項3の通り、タイル素地の前面に凹凸を設けておくと、焼成後の釉薬層とタイル素地との付着面積が増大し、釉薬層とタイル素地との付着強度が高くなる。なお、前記の通り、釉薬の熔融粘性が低いので、請求項2のように釉薬乾粉成形板を凹凸面の上に載せて焼成する場合に、該釉薬乾粉成形板とタイル素地との間の間隙にも熔融釉薬が十分に入り込み、気泡が残留することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明では、耐火度1100℃以下の透明釉薬をタイル素地に厚く被着させる。
【0018】
タイル素地としては、通常のタイル用坏土を成形し、1000〜1100℃程度で素焼きしたものを用いることができる。坏土の原料は、通常の長石、珪石、陶土、粘土、シャモット等でよい。成形法は、乾式プレス法のほか、湿式押出成形法などを用いることができる。
【0019】
透明釉薬としては、耐火度が1100℃以下、好ましくは900〜1100℃、特に900〜1000℃のものが用いられる。
【0020】
釉薬の好適な調合は次の通りである。
長石 15〜30重量部、特に25〜30重量部
珪砂 15〜30重量部、特に15〜20重量部
炭酸リチウム 3〜 7重量部、特に2〜5重量部
フリット 35〜50重量部、特に40〜50重量部(合計で100重量部)
【0021】
フリットの組成は、SiO55〜60wt%、NaO10〜15wt%、CaO5〜10wt%、KO5〜10wt%、B5〜10wt%であることが好ましい。
【0022】
釉薬をタイル素地に厚く被着させるには、釉薬スラリーを複数回幕掛けしてもよく、釉薬乾粉を板状に成形してタイル素地に載せてもよい。いずれの場合も、焼成後の釉薬厚みが1〜2mmとなるようにする。乾粉成形板の厚みは、1.5〜2.5mm程度が好ましい。
【0023】
このように厚く釉薬スラリーを掛けるか、又は釉薬乾粉成形板をタイル素地に載せて1100〜1200℃程度で焼成した場合、釉薬の熔融粘性が低く、ガスが十分に抜け、製品タイルの釉薬にピンホールが全く又は殆ど残留しない。また、上記焼成の釉薬の場合、熔融粘性が過度に小さくなく、熔融した釉薬がタイル素地から垂れ流れ落ちることもない。
【0024】
なお、タイル素地の前面に高低差1.0〜1.5mm程度の凹凸、例えば波状凹凸を設けてもよい。このように凹凸を設けた場合、釉薬乾粉成形板をその上に載せたときに凹部と該釉薬乾粉成形板との間に間隙が生じるが、この間隙内の空気は焼成時に十分に抜ける。このような凹凸を設けておくと、意匠性が高まると共に、タイル素地と釉薬との結合性が向上する。
【実施例】
【0025】
実施例1
長石15重量部、珪砂20重量部、炭酸リチウム5重量部、フリット40重量部(合計で100重量部)の釉薬を用いてガラス調タイルを製造した。フリットの組成は、SiO57重量%、NaO8重量%、CaO5重量%、KO5重量%、B5重量%、Al20重量%である。
この釉薬の耐火度は1000℃である。
【0026】
この釉薬を濃度60重量%のスラリーとし、タイル素地に5回幕掛けした。タイル素地としては、通常の内装用タイルと同じものを用いた。
【0027】
施釉後の焼成は迅速焼成炉(RHK)を用い、1200℃にて60分行った。これにより、厚さ1.5mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルが得られた。
【0028】
実施例2
上記釉薬を乾燥させて乾粉とし、これをプレス成形して厚さ2.0mmの成形板とした。この成形板を実施例1のタイル素地と同一のタイル素地の上に載せ、同様に焼成することにより、厚さ1.5mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルが得られた。
得られたガラス調タイルは、いずれも釉薬が光沢を有した美麗なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火度1100℃以下の透明釉薬を、タイル素地上に被着させて焼成するタイルの製造方法であって、
該釉薬のスラリーを複数回該タイル素地に掛けた後、焼成し、厚さ1〜2mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造することを特徴とするガラス調タイルの製造方法。
【請求項2】
耐火度1100℃以下の透明釉薬を、タイル素地上に被着させて焼成するタイルの製造方法であって、
該釉薬の乾粉を成形して板状釉薬とし、この板状釉薬をタイル素地の上に載せた後、焼成し、厚さ1〜2mmの透明釉薬層を有したガラス調タイルを製造することを特徴とするガラス調タイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記タイル素地の前面に高低差1.0mm以上の凹凸が設けられていることを特徴とするガラス調タイルの製造方法。

【公開番号】特開2007−91518(P2007−91518A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282380(P2005−282380)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)