説明

キク科センダングサ属植物を用いた害虫防除剤および害虫防除方法

【課題】 天然資源を由来として、かつ自然界におけるその資源量が比較的豊富であるため、入手しやすく、かつ人体にとって安全性の高い植物原料より得られる抽出物を有効成分とした、植物体地上部に被害を与える害虫に対して用いることのできる害虫忌避剤を提供する。
【解決手段】キク科センダングサ属植物より抽出物を抽出し、これを有効成分として、植物体地上部に被害を与える害虫に対して用いることのできる害虫防除剤を誘導した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除剤および害虫防除方法に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食の安全性に対する関心の高まりから、有機農産物を積極的に購入したり、家庭菜園などで農薬使用量を極力抑えた作物を自家栽培する消費者が増加している。これらの農産物は安全性に優れている半面、農薬の使用を抑制しているため、生育途中で害虫の被害を受けることが多く、生育が困難で生産性が悪い。そこで、農薬に替わる害虫防除手法として、従来から伝統的に使用されてきた物理的防除方法および天然物質に由来する防除資材が再び注目を集めるようになった。
【0003】
なかでも、植物の抽出物から構成される害虫防除剤は古くから慣習的に用いられているが、これらの殺虫作用、忌避作用、誘因作用、食害抑制作用、孵化阻害作用などを利用することによって、害虫を防除することができるものであり、既に市場で販売されているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
例えば、特許文献1には、ヒソップ(ヤナギハッカ)から得られた精油が植物の地上部に生息するアブラムシなどの忌避剤として利用できることが記載されている。また、特許文献2には、ニームオイルを主成分とし、これに黒コショウオイル、インドナガコショウオイル、オランダセンニチオイル、ケチョウセンアサガオオイルなどを混合して得た殺虫・制虫剤が、植物の地上部に生息する多種害虫に対する殺虫および制虫効果を有することが記載されている。また、特許文献3には、キク科センダングサ属植物の抽出物が、土壌中に生息するネコブセンチュウの防除剤として利用できることが記載されている。
【特許文献1】特開平11−255611号公報
【特許文献2】特開2002−363012号公報
【特許文献3】特開2008−120749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および2に記載された害虫忌避剤や殺虫・制虫剤の場合、いずれも植物体地上部に施用されるものではあるが、その原料となる植物はいずれも資源量としては非常に少なく、その精油はさらに希少である。また、有効成分を得るための原料が食用として現在も利用されている場合は、安全性については高いものの、これを害虫忌避剤などの原料として用いることは食料資源を消費することになり、トータルとして資源を有効に利用しているとは言い難い。
【0006】
一方、特許文献3に記載された抽出物の場合、その原料となるキク科センダングサ属植物は旺盛な繁殖力を有し、豊富な資源量を有しており、さらに現在はほとんど食用としては利用されていないが、薬草としての食履歴もあり、高い安全性を有している。しかし、土壌害虫であるネコブセンチュウに対する防除効果は確認されているものの、植物体地上部に被害を与える多くの害虫に対する効果については未だ検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、植物体地上部に被害を与える害虫に対して用いる害虫防除剤として、繁殖力が高く、人体に対する安全性の高い植物を用いて、その抽出成分を主成分とする害虫防除剤およびその害虫防除剤を用いる害虫防除方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、植物体地上部に被害を与える害虫に対して用いる害虫防除剤であって、キク科センダングサ属植物の抽出物を主成分とすることを特徴とする。
【0009】
ここで、キク科センダングサ属植物としては、コセンダングサ(Bidens pilosa L.)やその変種や品種が挙げられ、具体的に変種としてはアワユキセンダングサ(Bidens pilosa ver. radiata Scherff)、タチアワユキセンダングサ(Bidens pilosa L. ver. Radiate Sch. Bip.)などが挙げられ、品種としてはハイアワユキセンダングサ(Bidens pilosa L. ver. Radiate Sch. F. decumbens Scherff)などが挙げられる。
【0010】
また、本発明における抽出物の調製方法としては、特に制限されるものではなく、植物体より有効成分を抽出するのに用いられる通常の方法により得ることができる。例えば、キク科センダングサ属の植物体を水や水蒸気、あるいは有機溶媒にて抽出する方法が挙げられる。
【0011】
また、本抽出物の調製に用いられるキク科センダングサ属の植物体は、生の状態でも乾燥した状態でもよく、根を除く全草を用いることができる。抽出用の溶媒としては水だけでなく、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリル、酢酸エチルなどの親水性有機溶媒、及び、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類などの疎水性有機溶媒が挙げられ、さらにそれぞれの混合溶媒が挙げられるが、水およびエタノール以外の有機溶媒については、抽出後に完全に留去させることが望ましい。
【0012】
溶媒の量は、乾燥させた植物体を用いる場合は、その重量に対して1重量倍〜100重量倍が好ましい。また、生の植物体を用いる場合は、その重量から含水率に基づいて求められる水分の重量を除いた重量に対して1重量倍〜100重量倍が好ましい。溶媒抽出方法としては、浸漬抽出法、振とう抽出法、ソックスレイ抽出法、水蒸気蒸留法などの一般的な植物成分抽出手法を用いることができる。
【0013】
また、抽出後、必要によりカラム分画法や溶媒分画法などにより精製することも可能である。さらに、必要により溶媒を留去させて濃縮および乾燥することも可能である。
【0014】
本抽出物を害虫防除用途に適用する際、有効成分である抽出物を植物体地上部に効果的に施用するため、抽出物を害虫防除剤として製剤化する必要がある。抽出時の溶媒として水や親水性有機溶媒などを用いることにより、本抽出物が高い水溶性を有する場合は、そのまま液剤として、あるいは溶媒を乾燥させて粉剤や粒剤などとして製剤化することが可能であり、その際は、いずれも水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒に溶解希釈することで、目的に応じた濃度に調整して使用することができる。
【0015】
また、抽出時の溶媒として油溶性溶媒を用いるなどにより、本抽出物の水溶性が低い場合は、そのまま液剤として、あるいは溶媒を乾燥させて粉剤や粒剤などとして製剤化しても良いが、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒で希釈する際に、より均一に分散させるために乳化剤や懸濁分散助剤などを添加したり、あるいはあらかじめこれらを添加した状態で液剤や粉剤、粒剤などへ製剤化することが可能である。これによってより容易に目的に応じた濃度に調整し、植物体地上部へ施用することができる。
【0016】
また、いずれの抽出物においても、必要に応じて、さらに展着剤、湿潤剤、保存料などを加えたり、あるいはあらかじめこれらを添加した状態で製剤化することができる。
【0017】
乳化剤としては、例えば、カルボン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダなどのアルキルアリールスルホン酸塩などアニオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤、アルキルベタインやアルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどの両性界面活性剤の他、ノニオン系界面活性剤として、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリド、サポニン、レシチンなどが挙げられるが、特にサポニン、レシチン、あるいは食品添加物に指定されているグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルは安全性の点でより好ましい。
【0018】
また、懸濁分散助剤としては、アルキルナフタレンスルホン酸塩などのホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアガム、ポリオキシエチレン組成物、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、キサンタンガム、酸化チタン、ベントナイト、カゼイン、ゼラチン、アルギン酸などが挙げられるが、特にリグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアガム、キサンタンガム、酸化チタン、ベントナイト、カゼイン、ゼラチン、アルギン酸は安全性の点でより好ましい。
【0019】
また、展着剤としては、乳化剤として用いられる界面活性剤のほか、パラフィン、カゼイン石灰、アルキルトリメチルアンモニウムクロリド、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリ酢酸ビニル、D−ソルビットなどが挙げられるが、特にD−ソルビットは安全性の点でより好ましい。
【0020】
また、湿潤剤としてはグリセリン、糖液、蜂蜜、プロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ソーダ、塩化カルシウムなどが挙げられるが、特にグリセリン、糖液、蜂蜜、プロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、塩化カルシウムは安全性の点でより好ましい。
【0021】
また、保存料としては、パラオキシ安息香酸エステル、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、サリチル酸、柑橘系植物種子抽出物、ヒノキチオール、竹抽出液などが挙げられるが、特にメタノール、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、柑橘系植物種子抽出物、ヒノキチオール、竹抽出液は安全性の点でより好ましい。
【0022】
また、本発明の害虫防除剤には、必要に応じて他の害虫防除成分、酸化防止剤、紫外線吸収剤や、色素、顔料などの添加材を配合することもできる。
【0023】
本発明の害虫防除剤が有効な害虫としては、植物体の地上部に生息するヨトウガやハスモンヨトウなどヨトウムシ類、ワタアブラムシやモモアカアブラムシなどのアブラムシ類、モンシロチョウなどのシロチョウ類、ナミハダニやカンザワハダニなどのハダニ類、コナジラミ類などが挙げられる。
【0024】
本発明によれば、亜熱帯地方において、繁殖力の強い雑草として知られ、かつ食履歴もあり、高い安全性を有するキク科センダングサ属植物の抽出物を有効成分とする害虫防除剤を提供することができる。
【0025】
次に、本願の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の害虫防除剤において、キク科センダングサ属植物が、アワユキセンダングサ(Bidens pilosa ver. radiata Scherff)であることを特徴とする。
【0026】
すなわち、アワユキセンダングサ(Bidens pilosa ver. radiata Scherff)は、キク科センダングサ属植物の中でも、より繁殖力の強い優占雑草であり、資源量が多いため、より栽培や入手がしやすい。
【0027】
したがって、請求項2の発明によれば、これを用いることにより、食用として利用される場合にも、それを枯渇させることがなく、また、低コストで害虫防除剤を提供することが可能となる。
【0028】
また、本願の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の害虫防除剤において、抽出物が、水あるいは親水性有機溶媒のうち少なくとも1種を用いて抽出されたものであることを特徴とする。
【0029】
すなわち、本抽出物は、水、親水性有機溶媒、あるいはそれらの混合溶媒のいずれかを用いて抽出されたものであるため、疎水性有機溶媒を用いる場合よりも相対的に低コストであることが多い。
【0030】
そして、水、親水性溶媒抽出物あるいはそれらの混合溶媒のいずれかを用いて得られた抽出物は水溶性となるので、本抽出物を害虫防除用に製剤化する場合、乳化剤や懸濁分散助剤など、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒に対して抽出物の拡散性を向上させる添加材が特に必要ではない。
【0031】
また、抽出物が水溶性であるので、液剤、粉剤、粒剤などいずれの製剤形態であっても、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒に速やかに均一溶解、希釈して植物体地上部に施用することができる。
【0032】
このように、請求項3の発明によれば、水、親水性有機溶媒、あるいはそれらの混合溶媒のいずれかを用いて得られるアワユキセンダングサなどのキク科センダングサ属植物の水溶性抽出物を用いることによって、抽出コストが低く、さらにその後の製剤工程がより簡便化され、より低コストで害虫防除剤を提供することが可能となる。
【0033】
また、本願の請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の害虫防除剤において、抽出物が、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて抽出されていることを特徴とする。
【0034】
すなわち、本抽出物は、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留によって抽出することが可能であり、水、親水性有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒のいずれかを用いる場合よりも相対的にコストの点で不利であることが多いが、得られる抽出物の成分が限定されるため、夾雑物が少なく、極少量の使用で、より効果の高い抽出物が得られる。
【0035】
本抽出物を害虫防除用途に適用する場合、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて抽出された抽出物は油溶性であるので、そのまま液剤として、あるいは溶媒を乾燥させて粉剤や粒剤などとして製剤化しても良いが、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒で希釈する際に、より均一に分散させるために乳化剤や懸濁分散助剤などを添加したり、あるいはあらかじめこれらを添加した状態で液剤や粉剤、粒剤などへ製剤化することが可能である。これによってより容易に目的に応じた濃度に調整し、植物体地上部へ施用することができる。
【0036】
このように、請求項4の発明によれば、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて得られるアワユキセンダングサなどのキク科センダングサ属植物の油溶性抽出物を用いることによって、水、親水性溶媒抽出物あるいはそれらの混合溶媒のいずれかを用いて得られた抽出物を用いる場合よりも、少量の使用で、高い効果を有する害虫防除剤を提供することが可能となる。
【0037】
また、本願の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の害虫防除剤において、抽出物が、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒に分散していることを特徴とする。
【0038】
すなわち、請求項5の発明によれば、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて得られる抽出物が水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒などに分散希釈した希釈剤として製剤化されているため、油溶性キク科センダングサ属植物の抽出物単独からなる液剤、粉剤、粒剤、およびこの抽出物に乳化剤、懸濁分散助剤などを添加した乳剤、粉剤、粒剤のように、害虫防除用途に適用する際に、さらに、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒などを目的の濃度となるように加えて、製剤と共に撹拌したり、製剤を分散希釈する操作が必要なく、そのまま植物体地上部に施用することができ、より簡便な害虫防除剤が得られることになる。
【0039】
また、抽出物を水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒などに分散希釈する工程は専用の分散装置により行われるため、ユーザーが手動で撹拌し、分散希釈する場合よりも、より安定かつ均一な分散系が形成されており、より高い害虫防除効果を奏する。
【0040】
一方、本願の請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の害虫防除剤を用い、植物体地上部に被害を与える害虫を防除することを特徴とする害虫防除方法である。
【0041】
すなわち、害虫の発生が予見できる、あるいはすでに発生している植物体地上部に対し、アワユキセンダングサなどのキク科センダングサ属植物を材料とし、水、親水性溶媒抽出物あるいはそれらの混合溶媒のいずれかを用いて得られた水溶性の抽出物、又は疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて得られた油溶性の抽出物から誘導した液剤あるいは粉剤、粒剤である害虫防除剤を、目的の量を水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒などで溶解希釈させることにより、噴霧器あるいはジョウロなどを用いて施用することができる。
【0042】
また、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて得られた油溶性の抽出物が水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒などに分散希釈した分散希釈剤として製剤化されている場合は、そのまま噴霧器あるいはジョウロなどを用いて植物体地上部に施用することができる。
【0043】
すなわち、請求項6の発明によれば、アワユキセンダングサなどのキク科センダングサ属植物の抽出物を主成分とした害虫防除剤を植物体地上部に施用することにより、害虫の被害を抑制し、防除することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の害虫防除剤および防除方法によれば、資源量が豊富で食履歴もあり安全性の高い植物資源であるアワユキセンダングサなどのキク科センダングサ属植物の抽出物を主成分とし、効果的に害虫の被害を抑制し、防除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本願発明における実施例1の実施の状態を示す図面である。
【図2】本願発明において実施例3の実施の状態を示す図面である。
【図3】本願発明において実施例4の実施の状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施の形態として、本発明に係る害虫防除剤の具体例と、それを用いた実施例について説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、ここに記載したものに限定されるものではない。まず、各実施例で用いられる害虫防除剤の具体例について説明する。
【0047】
(害虫防除剤A)
採取したアワユキセンダングサを100℃、24時間条件にて乾燥した後、粉砕し、これにより得られたアワユキセンダングサの乾燥粉砕物10gに50mlの水を加え、30分間煮沸した後、圧搾ろ過して約25mlの水抽出液剤を得た。これを害虫防除剤Aとした。なお、この害虫防除剤Aは、本願の請求項3に記載の害虫防除剤に相当するものであり、水を用いて抽出した抽出物から構成されている。以下の実施例では、これを水で希釈して所定濃度に調整して用いた。
【0048】
(害虫防除剤B)
採取したアワユキセンダングサを100℃、24時間条件にて乾燥した後、粉砕し、これにより得られたアワユキセンダングサの乾燥粉砕物10gに100mlの80%エタノール水溶液を加え、48時間浸漬した後、圧搾ろ過して約80mlの80%エタノール抽出液剤を得た。これを害虫防除剤Bとした。なお、この害虫防除剤Bは、本願の請求項3に記載の害虫防除剤に相当するものであり、水と親水性有機溶媒であるエタノールを混合した溶媒を用いて抽出した抽出物から構成されている。以下の実施例では、これを水で希釈して所定濃度に調整して用いた。
【0049】
(害虫防除剤C)
採取したアワユキセンダングサを100℃、24時間条件にて乾燥した後、粉砕し、これにより得られたアワユキセンダングサの乾燥粉砕物20gに100mlの水を加え、水蒸気蒸留により、約0.1mlの精油剤を得た。これを害虫防除剤Cとした。なお、この害虫防除剤Cは、本願の請求項4に記載の害虫防除剤に相当するものであり、水蒸気蒸留を用いて抽出した抽出物から構成されている。以下の実施例では、これを水で分散して所定濃度に調整して用いた。
【0050】
(害虫防除剤D)
採取したアワユキセンダングサを100℃、24時間条件にて乾燥した後、粉砕し、これにより得られたアワユキセンダングサの乾燥粉砕物20gに100mlの水を加え、水蒸気蒸留により、約0.1mlの精油剤を得た。そして、この精油剤0.002mlにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.004ml加え、さらに水を加えて全量を1mlにした後、激しく撹拌して乳化させて分散希釈剤を得た。これを害虫防除剤D1とした。また、この精油剤0.001mlにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.002ml加え、さらに水を加えて全量を1mlにした後、激しく撹拌して乳化させた分散希釈剤を害虫防除剤D2とした。なお、害虫防除剤D1およびD2は、本願の請求項5に記載の害虫防除剤に相当するものであり、水蒸気蒸留を用いて得られた油溶性の抽出物から構成され、この抽出物が水に分散希釈されている。以下の実施例では、これを原液としてそのまま用いた。
【0051】
次に、上記の害虫防除剤を用いた実施例を説明する。
【0052】
(実施例1)
図1は実施例1の実施の状態を示すものである。この実施例では、害虫防除剤として上記害虫防除剤A、B、D1、D2を用いた。そして、まず、容量50mlのガラス製バイヤル2a、2bを用意し、一方のバイヤル2aには水1ml、他方のバイヤル2bには上記害虫防除剤A、B、D1、D2のいずれかを用いた試験溶液を1ml入れた。また、試験片として直径18mmのキャベツ片1a、1bを用意した。そして、キャベツ片1a、1bをバイヤル2a、2bに、それぞれ1片ずつ入れて、2分間浸漬後、バイヤル2a、2bから取り出して、プラスチック製容器3(長さ225mm×幅155mm×深さ40mm、容量1000ml)の両短辺3a、3b寄りの側部中央部に設置した。
【0053】
その後、試験害虫としてハスモンヨトウ幼虫4を投入して、蓋3cを閉めた。なお、ハスモンヨトウ幼虫の窒息死を防ぐために、容器3の蓋3cには直径1mm程度の空気穴を多数設けた。ここで、ハスモンヨトウ幼虫4としては、若齢幼虫、中齢幼虫、及び老齢幼虫を用い、若齢幼虫の場合は10匹〜15匹、中齢幼虫の場合は6匹〜8匹、老齢幼虫の場合は3匹〜5匹投入して、別個に試験を行った。
【0054】
そして、試験開始から、若齢幼虫の場合は24時間、中齢幼虫の場合は6時間、老齢幼虫の場合は3時間後に、キャベツ片の食害率を目視レベルにおいて評価した。水浸漬片の食害率に対する害虫防除剤浸漬片の食害率から対照区に対する食害率比を下記の式により求め、この値が低いほど高い忌避効果を有すると判断した。
食害率比(%)=(害虫防除剤浸漬片の食害率/水浸漬片の食害率)×100
【0055】
以上の試験を、害虫防除剤Aの原液(試験1)、害虫防除剤Bの10倍希釈水溶液(試験2)および20倍希釈水溶液(試験3)、害虫防除剤D1の原液(試験4)および害虫防除剤D2の原液(試験5)について行った。また、同様に、エタノール8%水溶液あるいは乳化剤250倍希釈懸濁液に浸漬した試験片と水に浸漬した試験片を用いた対照試験1、2も行った。さらに、両試験片とも水浸漬させた試験も行い、試験環境や試験片の状態など、その他の害虫忌避因子が存在しないことを確認した。また、各条件での試験は少なくとも3反復以上行い、その全平均を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
その結果、対照試験1、2の場合は、エタノール8%水溶液あるいは乳化剤250倍希釈懸濁液に浸漬した試験片は、水に浸漬した試験片とほぼ同程度に食害を受け、忌避効果が殆ど認めらなかったことから、8%濃度のエタノール、250倍希釈濃度の乳化剤は、ほとんど忌避効果に影響しないことが示された。
【0058】
一方、害虫防除剤Aを原液濃度で用いた試験1での試験では、害虫防除剤浸漬片は、水浸漬片に対する食害率比が約45%であることから、ある程度の忌避効果が示された。また、害虫防除剤Bを用いた試験2、3での試験は、いずれも害虫防除剤浸漬片が、水浸漬片の約30%程度まで食害を防ぐことができ、忌避効果が認められた。また、害虫防除剤D1を用いた試験4においては、試験2、3と同様、水浸漬片に対して約30%程度の食害率比を示し、忌避効果を示したが、害虫防除剤D2を用いた試験5においては、水浸漬片に対して5%まで食害を防ぐことができ、非常に高い忌避効果を示した。
【0059】
ここで、一般的には、害虫防除剤中における抽出液の配合量が増加すると、忌避や殺虫など、その防除効果も向上すると考えられるのに対し、抽出液配合量の低い試験5の方が、試験4よりも忌避効果が向上するという結果が得られた。これは、試験に用いた害虫の成長段階による食害傾向、害虫防除剤に対する抵抗性の違いなどが影響し、繰り返し試験データにばらつきを生じた結果であると考えられる。以上の結果から、害虫防除剤A、B、D1、D2は、ハスモンヨトウ幼虫に対して高い忌避効果を有することが示された。
【0060】
(実施例2)
害虫防除剤として上記害虫防除剤Cを用い、その500倍希釈懸濁液を試験溶液とした。また、試験害虫として、3齢〜4齢のモンシロチョウ幼虫を3匹〜5匹用いた。そして、対象試験を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法で試験を行った(試験1)。試験開始後、18時間後に、キャベツ片の食害率を目視レベルにおいて評価した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
その結果、害虫防除剤Cを用いた試験1では、製剤試験片が水浸漬片の30%まで食害を防ぐことができた。すなわち、これらの結果から、モンシロチョウ幼虫に対して害虫防除剤Cは高い忌避効果を発現することが示された。
【0063】
(実施例3)
図2は実施例3の実施の状態を示すものである。この実施例では害虫防除剤として上記害虫防除剤A、B、D1を用いた。そして、まず、容量50mlのガラス製バイヤル20a、20bを用い、一方のバイヤル20aには水1ml、他方のバイヤル20bには、上記防除剤害虫A、B、D1のいずれかを用いた試験溶液を1ml入れた。また、試験片として直径18mmのキュウリ葉片10aと10bを用意した。そして、キュウリ葉片10a、10bをバイヤル20a、20bにそれぞれ1片ずつ入れて、2分間浸漬後、バイヤル20a、20bから取り出して、プラスチック製容器30(長さ75mm×幅75mm×深さ45mm、容量250ml)の対角部30a、30bに設置した。
【0064】
その後、試験害虫としてワタアブラムシ40を30匹、容器内中央部に投入して、蓋30cを閉めた。なお、アブラムシの窒息死を防ぐために、容器30の蓋30cには直径0.3mm程度の空気穴を多数設けた。そして、試験開始から4時間後に、キュウリ片に付着したアブラムシの数を記録し、水浸漬片への付着数に対する害虫防除剤浸漬片への付着数から対照区に対する付着率を下記の式により求め、この値が低いほど高い忌避効果を有すると判断した。
付着率(%)=(害虫防除剤浸漬片への付着数/水浸漬片への付着数)×100
【0065】
以上の試験を、害虫防除剤Aの原液(試験1)、2倍希釈水溶液(試験2)、および10倍希釈水溶液(試験3)、害虫防除剤Bの10倍希釈水溶液(試験4)および20倍希釈水溶液(試験5)、並びに害虫防除剤D1の原液(試験6)について行った。また、同様に、エタノール8%水溶液あるいは乳化剤250倍希釈懸濁液に浸漬した試験片と水に浸漬した試験片を用いた対照試験1、2も行った。さらに、両試験片とも水浸漬させた試験も行い、試験環境や試験片の状態など、その他の害虫忌避因子が存在しないことを確認した。また、各条件での試験は少なくとも3反復以上行い、その全平均を求めた。結果を表3に示す。
【0066】
その結果、対照試験1、2の場合は、エタノール8%水溶液あるいは乳化剤250倍希釈懸濁液に浸漬した害虫防除剤試験片はいずれも水浸漬片に対して約70%程度の付着が認められ、忌避効果は低いことが示された。一方、害虫防除剤Aを原液で用いた試験1では、害虫防除剤試験片は水浸漬片に対し、約10%しか付着せず、高い忌避効果を示し、2倍希釈、10倍希釈で用いた試験2、3においても、それぞれ水浸漬片に対して20%、30%程度の忌避効果を示した。また、害虫防除剤Bを10倍希釈、20倍希釈して用いた試験4、5での試験は、それぞれ水浸漬片に対して、約15%、約30%の付着率であり、忌避効果を示した。また害虫防除剤D1を用いた試験6においては、水浸漬片に対して約25%の付着率を示し、忌避効果を示した。
【0067】
すなわち、これらの結果から、害虫防除剤A、B、D1は、ワタアブラムシに対して忌避効果を有することが示され、特に害虫防除剤D1およびCは害虫防除剤Aに比べて、より少ない配合量において高い忌避効果を発現することが示された。
【0068】
【表3】

【0069】
(実施例4)
図3は実施例4の実施の状態を示すものである。この実施例では、害虫防除剤として上記害虫防除剤B、D1を用いた。そして、まず、容量8mlの噴霧器200を用意した。ここへ、上記害虫防除剤B、D1のいずれかを用いた試験溶液を1ml入れた。また、試験片として直径18mmのキュウリ葉片100を、プラスチック製容器300(長さ75mm×幅75mm×深さ45mm、容量250ml)の中央部に設置した。
【0070】
その後、試験害虫としてワタアブラムシ40を30匹、容器内中央部に投入して、蓋300aを閉めた。なお、アブラムシの窒息死を防ぐために、容器300の蓋300aには直径0.3mm程度の空気穴を多数設けた。そして、試験開始から1時間後に、ほぼ全数のワタアブラムシがキュウリ葉片に付着しているのを確認後、各種害虫防除剤を全量、キュウリ葉の裏表に十分噴霧し、再び蓋300aを閉めた。試験開始から24時間後、ワタアブラムシの全数に対する死亡数から下記の式により死亡率を求めた。この値が高いほど高い殺虫効果を有すると判断した。
死亡率(%)=アブラムシの死亡数/アブラムシの全数×100
【0071】
以上の試験を、害虫防除剤Bの10倍希釈水溶液(試験1)および20倍希釈水溶液(試験2)、害虫防除剤D1(試験3)について行った。また、同様に、水浸漬片を噴霧した対照試験1、エタノール8%水溶液あるいは乳化剤250倍希釈懸濁液を噴霧した対照試験2、3も行った。また、食品用乳化剤であるソルビタン脂肪酸エステル0.14%を主成分とする市販の農薬を用いた比較試験1も行った。また、各条件での試験は少なくとも3反復以上行い、すべての試験における全平均を求めた。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
その結果、対照試験1において、水はワタアブラムシに対してほとんど殺虫効果を示さず、対照試験2のエタノール8%水溶液もそれほど高い殺虫効果を示さなかった。一方、対照試験3の乳化剤250倍希釈懸濁液を用いた場合は、約70%の死亡率を示し、ある程度の殺虫効果を発現し得ることが示された。また、比較試験1の農薬は、98%もの高い死亡率を示した。一方、害虫防除剤Bを10倍希釈で用いた試験3は、99%もの高い死亡率を示し、これは農薬に匹敵する殺虫効果を有するといえる。また、20倍希釈水溶液を用いた試験4での試験も、約70%の死亡率を示し、殺虫効果を示した。また、害虫防除剤D1を用いた試験5も約73%もの忌避効果を示し、乳化剤のみを同量配合した対照試験3に比べて、やや忌避効果が向上した。
【0074】
すなわち、これらの結果から、害虫防除剤B、D1は、高い殺虫効果を発現し、特に、害虫防除剤Bの10倍希釈水溶液は、農薬に匹敵する高い忌避効果を発現することが示された。
【符号の説明】
【0075】
1a,1b 試験片
2a,2b バイヤル
3 プラスチック製容器
3a,3b 短辺
3c 蓋
4 試験害虫
10a,10b 試験片
20a,20b バイヤル
30 プラスチック製容器
30a,30b 対角部
30c 蓋
40 試験害虫
100 試験片
200 噴霧器
300 プラスチック製容器
300a 蓋
400 試験害虫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体地上部に被害を与える害虫に対して用いる害虫防除剤であって、キク科センダングサ属植物の抽出物を主成分とすることを特徴とする害虫防除剤。
【請求項2】
キク科センダングサ属植物が、アワユキセンダングサ(Bidens pilosa ver. radiata Scherff)であることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除剤。
【請求項3】
抽出物が、水あるいは親水性有機溶媒のうち少なくとも1種を用いて抽出されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の害虫防除剤。
【請求項4】
抽出物が、疎水性有機溶媒あるいは水蒸気蒸留を用いて抽出されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の害虫防除剤。
【請求項5】
抽出物が、水あるいは水と親水性有機溶媒の混合溶媒に分散していることを特徴とする請求項4に記載の害虫防除剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の害虫防除剤を用い、植物体地上部に被害を与える害虫を防除することを特徴とする害虫防除方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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