説明

キノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物、及びキノイド型フェニレンビニレン化合物の安定化方法

【課題】安定なキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物である。nは1〜5の整数を表わし;R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わし;X1及びX2はそれぞれ、C(Z1)(Z2)、酸素原子又は硫黄原子を表わし、Z1及びZ2はそれぞれ同一又は異なる、電子吸引性基又は電子供与性基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の用途、特に近赤外吸収材料、発光材料、及び電気化学材料等に有用な新規なキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物に関する。また、本発明は、キノイド型フェニレンビニレン化合物を安定化する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キノイド型フェニレンビニレン化合物については、その吸収特性等について種々の研究が行われ(非特許文献1及び2)、新規な機能性材料として期待されている。一方で、キノイド型フェニレンビニレン化合物は、安定性が低く、種々の用途に使用することの弊害になっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Selective benzylic C-C coupling catalyzed by a bioinspired dicopper Complex", Chem. Commun., 2008, 1005-1007, Prokofieva, Alexander I. Prikhod’ko, Sebastian Dechert and Franc Meyer.
【非特許文献2】"Charge Localization in a 17-Bond Mixed-Valence Quinone Radical Anion", J. Phys. Chem. A 2007, 111, 10993-10997, Stephen F. Nelsen, Michael N. Weaver, and Joao P. Telo.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、キノイド型フェニレンビニレン化合物を安定化する技術を提供することを課題とし、具体的には、安定なキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1]下記一般式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物:
【化1】

式中、nは1〜5の整数を表わし;R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わし;X1及びX2はそれぞれ、C(Z1)(Z2)、酸素原子又は硫黄原子を表わし、Z1及びZ2はそれぞれ同一又は異なる、電子吸引性基又は電子供与性基を表す。
【0006】
[2] nが1又は2である[1]の化合物。
[3] R1〜R4がそれぞれ、同一又は異なる、無置換のアリール基、又はアルキル基、アルコキシ基及びアリール基の少なくとも1つで置換されたアリール基を表わす[1]又は[2]の化合物。
[4] X1及びX2がそれぞれ、C(CN)2、酸素原子又は硫黄原子を表わす[1]〜[3]のいずれかの化合物。
[5] 2つのキノン骨格の間に、互いに同一又は異なる2つのアリール基で置換された4級炭素原子による架橋構造を導入することによる、キノイド型フェニレンビニレン化合物の安定化方法。
[6] 下記式(II)のインデン誘導体を、前記式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物に変換することを含む[5]の方法。
【化2】

式中、nは1〜5の整数を表わし;R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わす。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、キノイド型フェニレンビニレン化合物を安定化する技術を提供することができる。また、本発明によれば、新規なキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例で合成した式(I)の化合物の吸収スペクトル曲線の一例である。
【図2】実施例で合成した式(I)の化合物の蛍光スペクトル曲線の一例である。
【図3】実施例で合成した式(I)の化合物の酸化還元波の一例である。
【図4】実施例で合成した式(I)の化合物のESRスペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.キノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物
本発明は、下記式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物に関する。
【0010】
【化3】

【0011】
式中、nは1〜5の整数を表わし;R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わし;X1及びX2はそれぞれ、C(Z1)(Z2)、酸素原子又は硫黄原子を表わし、Z1及びZ2はそれぞれ同一又は異なる、電子吸引性基又は電子供与性基を表す。
【0012】
前記式(I)の化合物の例には、nが1〜5の下記(Ia)〜(Ie)を有する化合物が含まれる。
【0013】
【化4】

【0014】
式中に複数のR1〜R4が存在する場合は、複数のR1〜R4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
式中、R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わす。アリール基は、フェニル基又はナフチル基等の炭化水素系アリール基であるのが好ましい。中でもフェニル基が好ましい。前記アリール基は、1以上の置換基を有していてもよい。置換基の例には、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルキル基、C120(好ましくはC115、又はC110)のアルコキシ基、及びフェニル基等のアリール基が含まれる。置換基としてのアリール基も、上記アルキル基又はアルコキシ基等の1以上の置換基を有していてもよい。また、R1〜R4がそれぞれ置換基を有するフェニル基である例では、置換基の結合位置については特に制限ないが、パラ位の炭素原子に結合しているのが好ましい。
【0016】
式中、X1及びX2はそれぞれ、C(Z1)(Z2)、酸素原子又は硫黄原子を表わし、Z1及びZ2はそれぞれ同一又は異なる、電子吸引性基又は電子供与性基を表す。電子吸引性基及び電子供与性基は、後述する製造方法等において、インデン誘導体からキノイド型への変換が可能な限り、特に制限はない。電子吸引性基の例には、シアノ基(CN)、酸素原子、硫黄原子、等が含まれ、電子供与性基の例には、イミノ基(NH)等が含まれる。中でも、電子吸引性基が好ましく、シアノ基が好ましい。前記式(I)の好ましい例には、X1及びX2がそれぞれ、C(CN)2、酸素原子又は硫黄原子である化合物が含まれる。
【0017】
2.キノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物及びフェニレンビニレン化合物の安定化方法
前記式(I)の化合物は、対応する下記式(II)で表されるインデン誘導体を、キノイド型に変換することで製造することができる。
【0018】
【化5】

【0019】
式中の各記号は、前記式(I)中の各記号と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0020】
前記式(II)で表されるインデン誘導体の製造方法については、特開2011−32197号公報等に記載の方法を利用することができる。即ち、以下の合成ルート等により製造することができる。
【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
合成ルートA及びB中、Phはフェニル基を、及びArは置換もしくは無置換のアリール基を表わし、式(I)中のR1〜R4に相当し;Xは式(I)中のX1及びX2に相当する。上記合成ルートでは、R1〜R4のうち2つ(R1とR2又はR3とR4)が無置換のフェニル基である化合物の合成ルートを示したが、試薬A1及びB1をそれぞれかえることで、Phが、置換基を有するフェニル基等のアリール基である化合物を合成することができる。また、Arについては、各合成ルートのi工程で用いる試薬(ベンゾフェノン、ビス(4-アルキルフェニル)メタノン等)を選択することで、種々の置換もしくは無置換のアリール基を導入することができる。
【0024】
合成ルートA及びB中のi工程は、フェニルチエニルベンゼン誘導体からインデン誘導体を得、ii工程は、さらに縮環したインデン誘導体A2及びB2を得る工程である。合成ルートAのi及びii工程については、それぞれ特開2001−32197号公報の[0075]〜[0077]に記載の実施例1、及び[0112]〜[0114]の実施例15をそれぞれ参照して実施することができる。また合成ルートB中のi及びii工程については、同公報の[0111]に記載の実施例14、及び[0116]〜[0118]に記載の実施例16をそれぞれ参照して実施することができる。
【0025】
合成ルートA及びBのiii〜vi工程については、フェニレンビニレン化合物をキノイド型に変換する通常の方法を利用することができる。例えば、iii工程においてA2及びB2をそれぞれ、臭化銅等を用いて臭化した後、iv工程においてジヨードエタンと反応させることで、臭素−ヨウ素交換反応を進行させて、A3及びB3をそれぞれ合成することができる。さらに、v工程において、パラジウム触媒等を使用した、A3及びB3のマロノニトリル等とのカップリング反応を進行させ、さらに酸化することで、XがC(CN)2である式(I)の化合物を製造することができ;又はvi工程において、一旦ジエステル体とした後、酸化することで、Xが酸素原子である化合物を、それぞれ製造することができる。
【0026】
また、本発明は、キノイド型フェニレンビニレン化合物を安定化させる方法にも関する。キノイド型フェニレンビニレン化合物は、種々の機能材料に適する吸収特性及び発光特性等を示す一方で、安定性が悪く、種々の用途への利用の弊害になっていた。本発明では、キノイド型フェニレンビニレン化合物中の2つのキノン骨格の間に、互いに同一又は異なる2つのアリール基で置換された4級炭素原子による架橋構造を導入することによって、即ち、以下の骨格単位に、Cy1及びCy2の炭素架橋構造を形成することで、キノイド型フェニレンビニレン化合物を安定化している。架橋構造を導入しても、キノイド型フェニレンビニレン化合物が示す物性をなんら損なうことなく、安定性を顕著に改善できたことは、予測不可能な効果である。
【0027】
【化8】

【0028】
本発明の安定化方法の一例は、一旦、上記一般式(II)のインデン誘導体を製造した後に、上記式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物に変換することにより実施することができる。一般式(II)の化合物から一般式(I)の化合物の変換方法については、上記した通りである。
【0029】
3.キノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物の用途
本発明のキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物は、光機能材料等の種々の機能材料として利用することができる。
例えば、本発明の化合物の中には、近赤外領域に強い吸収を示すものがあり、これらの化合物は、近赤外線吸収材料として有用である。特に、有機系太陽電池では、近赤外領域の光吸収特性を示す材料に対する要求が強い。本発明の本発明の化合物は、有機薄膜型又は色素増感型の有機系太陽電池の材料として利用することができる。さらには,カメラやビデオカメラ等の光学機器やプラズマディイスプレーの光学フィルター等として利用することができる。
また、本発明の化合物の中には、溶液状態で又は固体状態で近赤外領域の発光特性を示すものがあり、発光材料として有用である。例えば、有機EL用等の発光材料及び電荷輸送材料、LEDプリンター等の記録用光源発光素子,光通信用発光材料等として利用することができる。
また、本発明の化合物の中には、酸化還元に対して安定な化合物があり、電気化学材料として有用である。例えば、センサーデバイス,有機メモリー,スィッチング素子等として利用することができる。
また、本発明の化合物の中には、シングレット状態とトリプレット状態のビラジカル状態に由来するESRスペクトル特性を示すものがあり、この特性を利用した用途に用いることもできる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0031】
1.合成例
[実施例1]
以下の合成ルートにより、化合物V及びVIIを合成した。なお、下記スキーム中のPhは無置換のフェニル基を意味し、Arは、4−オクチルフェニル基を意味する。なお、化合物IIは、特開2011−32197号公報に記載の方法に従って合成したものを用いた。
【0032】
【化9】

【0033】
化合物IIIの合成:
化合物II(0.386g,0.526mmol)及びCuBr2/Al23(2.11g,3.15mmol)のCCl4(35mL)混合液を、85℃で一晩加熱した。室温まで冷却し、NaHSO3の水溶液を加えて急冷し、ジクロロメタンを用いて短経路(short path)シリカゲルカラムに通した。溶媒を蒸発させた後、残渣をn−ヘキサンを用いてシリカゲルカラムにより精製し、白色固体の化合物III(0.452g、収率96%)を得た。
Mp.:80-82(C;
1H NMR (500 MHz, CDCl3): 0.88 (t, 3J = 6.8 Hz, 6H), 1.26-1.30 (m, 20H), 1.59 (quint, 3J = 8.0 Hz, 4H), 2.55 (t, 3J = 8.0 Hz, 4H), 7.00 (d, 3J = 8.0 Hz, 1H), 7.02 (d, 3J = 8.0 Hz, 1H), 7.06 (d, 3J = 8.0 Hz, 4H), 7.14 (d, 3J = 8.0 Hz, 4H), 7.23-7.28 (m, 12H), 7.53 (brs, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl3): ( 14.2, 22.8, 29.4, 29.57, 29.60, 31.4, 32.0, 35.7, 62.7, 63.3, 120.17, 120.22, 121.9, 122.2, 127.4, 128.2, 128.37, 128.47, 128.54, 128.66, 128.74, 130.3, 130.5, 137.0, 137.3, 138.8, 141.8, 142.1, 154.5, 155.2, 159.2, 159.7;
TOF MS (APCI+): 888.5 [M]+;
Anal. Calcd for C56H58Br2: C, 75.50; H, 6.56; Found: C, 75.20; H, 6.63.
【0034】
化合物IVの合成:
化合物III (0.304g,0.341mmol)のエチルエーテル(7mL)溶液に、n-ブチルLi/n-ヘキサン(0.49mL,0.75mmol,1.53M)を温度0℃で滴下した。0℃で1時間攪拌した後、ジヨードエタン(0.23g,0.82mmol)を添加して、0℃で30分間攪拌した。NaHSO3の水溶液を加えて急冷し、ジクロロメタンを用いて短経路(short path)シリカゲルカラムに通した。溶媒を蒸発させた後、残渣を、EtOAc/n−ヘキサン(1:20〜1:10)を用いてシリカゲルカラムにより精製し、白色固体の化合物IV(0.333g、収率99%)を得た。
Mp.:83-85 (C;
1H NMR (500 MHz, CDCl3): 0.88 (t, 3J = 6.8 Hz, 6H), 1.26-1.31 (m, 20H), 1.60 (quint, 3J = 7.4 Hz, 4H), 2.55 (t, 3J = 7.4 Hz, 4H), 6.88 (d, 3J = 8.0 Hz, 1H), 6.91 (d, 3J = 8.0 Hz, 1H), 7.05 (d, 3J = 8.0 Hz, 4H), 7.13 (d, 3J = 8.6 Hz, 4H), 7.22-7.27 (m, 10H), 7.45 (td, 3J = 8.0 Hz, 4J = 1.7 Hz, 2H), 7.71 (s, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl3): ( 14.2, 22.8, 29.3, 29.57, 29.60, 31.4, 32.0, 35.7, 62.6, 63.2, 91.6, 91.7, 122.4, 122.7, 127.4, 128.2, 128.4, 128.6, 128.7, 134.1, 134.2, 136.3, 136.4, 137.6, 137.8, 138.8, 141.7, 142.1, 154.5, 155.2, 159.4, 159.9;
TOF MS (APCI+): 984.5 [M]+;
Anal. Calcd for C56H58I2: C, 68.29; H, 5.94; Found: C, 68.29; H, 5.92.
【0035】
化合物Vの合成:
水素化ナトリウム(油中63%濃度,38mg,1.0mmol)を、マロノニトリル(33mg,0.50mmol)の乾燥THF(20mL)混合液に添加し、この混合液を室温で10分間攪拌し、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(10mg,0.011mmol)、PPh3(11mg,0.042mmol)及び化合物IV(98mg,0.10mmol)を添加した。混合液を8時間還流した後、氷浴で冷却しつつ、希釈塩酸(2M,10mL)を添加した。これを飽和Br2/H2O(40mL)に注ぎ、ろ過し、水及びメタノールで洗浄した。粗生成物をCHCl3/MeOHから再結晶させ、空色固体の化合物V(79mg、収率92%)を得た。
Mp.: 185-187 (C (dec.);
1H NMR (500 MHz, CDCl2CDCl2): ( 0.86 (t, 3J = 7.4 Hz, 4H), 1.24-1.26 (m, 20H), 1.58-1.64 (m, 4H), 2.57 (t, 3J = 7.4 Hz, 4H), 7.08 (d, , 7.24-7.27 (m, 2H), 7.37-7.39 (m, 6H);
13C NMR (125 MHz, CDCl2CDCl2): ( 17.4, 25.8, 32.4, 32.57, 32.64, 34.3, 35.0, 38.6, 64.1, 64.6, 81.1, 81.2, 117.45, 117.57, 117.61, 122.8, 123.4, 130.6, 130.8, 130.86, 130.95, 131.7, 132.5, 132.6, 132.8, 132.9, 139.9, 140.7, 140.8, 142.9, 146.5, 156.3, 167.4, 167.9, 172.4, 173.1;
TOF MS (APCI+): 858.5 [M]+;
HRMS (APCI+) Calcd for C62H58N4 (M): 858.4664; Found: 858.4662.
【0036】
化合物VIの合成;
シュレンクチューブに、Cs2CO3(131mg,0.402mmol)、CuI(3.8mg,0.020)、Me4Phen(9.5mg,0.040mmol)、化合物IV(99mg,0.101mmol)及びマグネティック攪拌棒を入れた。この反応容器を減圧し、アルゴンで充填し、トルエン(2mL)/メタノール(0.163mL)を加え、130℃で1日加熱した。室温まで冷却した後、短経路(short path)シリカゲルカラム(CHCl2)に通した。生成物を、CHCl2/n−ヘキサン(1:6〜1:3)を用いてシリカゲルカラムによりさらに精製し、白色固体の化合物VI(75g、収率94%)を得た。
Mp.: 61-63 (C;
1H NMR (500 MHz, CDCl3): ( 0.87 (t, 3J = 6.8 Hz, 6H), 1.25-1.29 (m, 20H), 1.57 (quint, 3J = 6.8 Hz, 4H), 2.53 (t, 3J = 8.0 Hz, 6H), 3.70 (s, 6H), 6.626 (dd, 3J = 8.6 Hz, 4J = 2.3 Hz, 1H), 6.647 (dd, 3J = 8.6 Hz, 4J = 2.3 Hz, 1H), 7.05-6.98 (m, 8H), 7.18 (d, 3J = 8.6 Hz, 4H), 7.21-7.25 (m, 6H), 7.28-7.30 (m, 4H);
13C NMR (125 MHz, CDCl3): ( 14.2, 22.8, 29.3, 29.57, 29.61, 31.4, 32.0, 35.7, 55.5, 62.5, 63.1, 111.3, 111.5, 112.6, 112.7, 120.5, 120.8, 126.9, 128.37, 128.43, 128.6, 131.8, 132.1, 140.3, 141.4, 143.3, 152.8, 158.1, 158.9, 159.4;
TOF MS (APCI+): 793.6 [M+H]+;
Anal. Calcd for C58H64O2: C, 87.83; H, 8.13; Found: C, 87.65; H, 8.20.
【0037】
化合物VIIの合成:
化合物VI(64mg,0.081mmol)のCH2Cl2(4mL)溶液を、BBr3(0.19mL,0.19mmol,1N)に添加し、室温で6時間攪拌した。水を加えて急冷した後、CH2Cl2で抽出し、DDQ(20mg,0.088mmol)を添加した。溶媒を蒸発させた後、残渣を、CH2Cl2を用いてシリカゲルにより精製し、赤色固体の化合物VII(59mg、収率95%を得た。
Mp.: 178-180 (C;
1H NMR (500 MHz, CDCl3): ( 0.87 (t, 3J = 6.5 Hz, 6H), 1.27-1.31 (m, 20H), 1.60 (quint, 3J = 7.0 Hz, 4H), 2.58 (t, 3J = 7.5 Hz, 4H), 6.36-6.37 (m, 2H), 6.41 (dd, 3J = 9.5 Hz, 4J = 1.5Hz, 1H), 6.42 (dd, 3J = 10.0 Hz, 4J = 2.0 Hz, 1H), 7.13-7.17 (m, 8H), 7.22 (d, 3J = 9.5 Hz, 1H), 7.25 (d, 3J = 7.5 Hz, 1H), 7.26-7.28 (m, 4H), 7.31-7.37 (m, 6H);
13C NMR (125 MHz, CDCl3): ( 14.2, 22.8, 29.3, 29.5, 29.6, 31.4, 32.0, 35.6, 60.1, 60.6, 123.5, 128.1, 128.2, 128.3, 129.1, 129.2, 129.8, 130.0, 132.7, 132.9, 133.7, 133.9, 138.2, 141.1, 143.0, 167.7, 168.06, 168.10, 168.8, 187.07, 187.11;
TOF MS (APCI+): 763.5 [M+H]+;
Anal. Calcd for C56H58O2: C, 88.15; H, 7.66; Found: C, 87.96; H, 7.85.
【0038】
[実施例2]
以下の合成ルートにより、化合物XIを合成した。なお、下記スキーム中のPhは無置換のフェニル基を意味し、Arは、4−オクチルフェニル基を意味する。なお、化合物VIIIは、特開2011−32197号公報に記載の方法に従って合成したものを用いた。
【0039】
【化10】

【0040】
化合物IXの合成:
化合物VIII(0.282g,0.203mmol)、及びCuBr2/Al23(0.82g,1.22mmol)のCCl4(14mL)混合液を、85℃で12時間加熱した。室温まで冷却し、NaHSO3の水溶液を加えて急冷し、ジクロロメタンを用いて短経路(short path)シリカゲルカラムに通した。溶媒を蒸発させた後、残渣をろ過し、メタノール及びn−へ起算で洗浄し、黄色固体の化合物IX(0.281g、収率90%)を得た。
Mp.: 262-264 (C;
1H NMR (500 MHz, CDCl3): ( 0.88 (t, 3J = 6.3 Hz, 12H), 1.27-1.30 (m, 40H), 1.50-1.55 (m, 8H), 2.49 (t, 3J = 8.0 Hz, 8H), 6.95 (d, 3J = 8.0 Hz, 8H), 6.99 (d, 3J = 8.0 Hz, 2H), 7.06 (d, 3J = 8.6 Hz, 8H), 7.15-7.23 (m, 22H), 7.25 (s, 2H), 7.50 (d, 3J = 1.8 Hz, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl3): ( 14.2, 22.8, 29.3, 29.6, 29.7, 31.4, 32.0, 35.7, 62.6, 62.9, 118.2, 119.5, 121.6, 126.9, 128.2, 128.4, 128.5, 128.6, 130.2, 136.5, 137.8, 139.3, 141.8, 143.1, 153.5, 156.4, 156.5, 159.3;
TOF MS (APCI+): 1542.9 [M]+;
Anal. Calcd for C106H112Br2: C, 82.36; H, 7.30; Found: C, 82.09; H, 7.44.
【0041】
化合物Xの合成:
化合物IX(0.281g,0.182mmol)のエチルエーテル(6mL)溶液に、n-ブチルLi/n−ヘキサン(0.26mL,0.398mmol,1.53M)を温度0℃で滴下した。0℃で1時間攪拌した後、ジヨードエタン(0.123g,0.436mmol)を添加して、0℃で30分間攪拌した。NaHSO3の水溶液を加えて急冷し、ジクロロメタンを用いて短経路(short path)シリカゲルカラムに通した。溶媒を蒸発させた後、残渣をろ過し、メタノールとn−ヘキサンで洗浄し、黄色固体の化合物X(0.288g、収率97%)を得た。
Mp.: 250-252 (C;
1H NMR (500 MHz, CDCl3): ( 0.88 (t, 3J = 6.9 Hz, 12H), 1.28-1.31 (m, 40H), 1.50-1.54 (m, 8H), 2.50 (t, 3J = 7.4 Hz, 8H), 6.88 (d, 3J = 8.0 Hz, 2H), 6.95 (d, 3J = 8.6 Hz, 8H), 7.05 (d, 3J = 8.0 Hz, 8H), 7.15-7.20 (m, 20H), 7.24 (s, 2H), 7.42 (dd, 3J = 8.0 Hz, 4J = 1.7 Hz, 2H), 7.69 (d, 3J = 1.2 Hz, 2H);
13C NMR (125 MHz, CDCl3): ( 14.2, 22.8, 29.3, 29.6, 29.7, 31.4, 32.0, 35.7, 62.6, 62.9, 90.8, 118.2, 122.1, 126.9, 128.2, 128.4, 128.5, 128.6, 134.1, 136.2, 136.4, 138.4, 139.2, 141.8, 143.1, 153.6, 156.4, 156.5, 159.4;
TOF MS (APCI+): 1638.9 [M]+;
Anal. Calcd for C106H112I2: C, 77.64; H, 6.88; Found: C, 77.64; H, 7.01.
【0042】
化合物XIの合成:
水素化ナトリウム(油中63%濃度,19mg,0.500mmol)を、マロノニトリル(16mg,0.242mmol)の乾燥THF(12mL)混合液に添加し、この混合液を室温で10分間攪拌した。この混合液に、化合物X(80mg,0.049mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(10mg,0.011mmol)及びPPh3(11mg,0.042mmol)をゆっくりと添加した。この混合物を温度70℃に8時間加熱した後、氷浴で冷却しつつ、希釈塩酸(2M,10mL)を添加した。CH2Cl2で抽出し、DDQ(11mg,0.048mmol)を添加した。得られた混合物を、CH2Cl2を用いてシリカゲルに通した。粗生成物を、THF/MeOHで再結晶させ、緑色固体の化合物XI(44mg、収率60%)
Mp.: 210-212 (C (dec.);
1H NMR (500 MHz, THF-d8): ( 0.85 (t, 3J = 6.9 Hz, 12H), 1.27-1.30 (m, 40H), 1.52 (m, 8H), 2.46 (m, 8H), 6.96 (m, 8H), 7.16-7.21 (m, 28H), 7.38-7.52 (m, 6H), 7.91 (brs, 2H);
13C NMR (125 MHz, THF-d8): ( 13.5, 22.6, 29.3, 29.5, 29.6, 31.5, 31.9, 35.5, 54.3, 63.1, 128.4;
TOF MS (APCI+): 1513.0 [M]+;
Anal. Calcd for C112H112N4: C, 88.84; H, 7.46; N, 3.70; Found: C, 88.66; H, 7.46; N, 3.57.
【0043】
2.物性の測定
(1)吸収及び発光特性
上記合成した化合物V、XI及びVIIそれぞれについて、UV−可視光域の吸収スペクトル及び蛍光スペクトルをJASCO V−570により測定した。化合物V及びVIIの吸収スペクトル曲線を図1に示し、また、λmaxを下記表に示し、最も高い吸収ピークについては、吸光度も併せて示す。
また、化合物V及びXIの蛍光スペクトル曲線を図2に示す。化合物Vは励起波長627nmにより、粉体状態で約775nm及び830nmにおいて極大となる発光特性を示し;化合物XIは、励起波長850nmにより、溶液状態で1170nm及び粉体状態で1115nmの近赤外領域に最大となる発光特性を示した。
発光特性から求められたバンドギャップ値Egopt(/eV)を下記表に示す。
【0044】
(2)電気化学的特性
化合物V、XI及びVIIのそれぞれについて、サイクリックボルタンメトリー(北斗電工製,HZ−5000)を用いて酸化還元電位を測定した。化合物V及びXIの測定結果を、図3に示し、酸化波及び還元波からそれぞれ得られた酸化還元電位を下記表に示す。化合物Vには、可逆な還元波が、並びに化合物XIには可逆な酸化・還元波が観測された。酸化波又は還元波から得られた酸化電位値Eox1/2(/V)及び還元電位値Ered1/2(/V)、並びにそれらの値から算出されるバンドギャップ値Egcv(/eV)を下記表に示す。
【0045】
(3)磁性特性
化合物XIについて,JEOL FA200によりESRスペクトルを測定した。結果を図4に示す。図4に示す通り、化合物XIは、シングレットとトリプレットの2つの状態を取り得るビラジカル性を示した。g値を下記表に示す。
【0046】
また、酸化還元電位値であるEox1/2及びEred1/2から算出された化合物V、XI及びVIIそれぞれのHOMO(/eV)、LUMO(/eV)を下記表に示す。但し、化合物VIIのHOMO(表中、「a」を付記)については、Ered1/2および発光特性から求められたバンドギャップ値Egopt(/eV)を用いて算出した。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物:
【化1】

式中、nは1〜5の整数を表わし;R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わし;X1及びX2はそれぞれ、C(Z1)(Z2)、酸素原子又は硫黄原子を表わし、Z1及びZ2はそれぞれ同一又は異なる、電子吸引性基又は電子供与性基を表す。
【請求項2】
nが1又は2である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
1〜R4がそれぞれ、同一又は異なる、無置換のアリール基、又はアルキル基、アルコキシ基及びアリール基の少なくとも1つで置換されたアリール基を表わす請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
1及びX2がそれぞれ、C(CN)2、酸素原子又は硫黄原子を表わす請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
2つのキノン骨格の間に、互いに同一又は異なる2つのアリール基で置換された4級炭素原子による架橋構造を導入することによる、キノイド型フェニレンビニレン化合物の安定化方法。
【請求項6】
下記式(II)のインデン誘導体を、請求項1中の式(I)で表されるキノイド型炭素架橋フェニレンビニレン化合物に変換することを含む請求項5に記載の方法。
【化2】

式中、nは1〜5の整数を表わし;R1〜R4はそれぞれ同一又は異なる、置換されていてもよいアリール基を表わす。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−193145(P2012−193145A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58222(P2011−58222)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業、「戦略的イノベーション創出推進」、「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】