説明

キャッピング構造、及びキャッピング工法

【課題】 廃棄物処分場における人工材料を用いたキャッピング層を実用に足るものにする。
【解決手段】 廃棄物12を覆うキャッピング層20は、ガス排除層21、浸透制限層22、排水層23、及び盛り土によって形成された侵食防止層24を含んでいる。ガス排除層21は、不織布であるマット体でできている。浸透制限層22は、シート材でできており、その垂直方向の透水係数は、10−5cm/sのオーダーとされている。排水層23は、キャッピング層20の中で、雨水のうち廃棄物12に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分ではマット体により、同割合を15%より小さくしたい部分では立体構造体により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物投棄用の凹面に投棄された廃棄物の表面を覆い、投棄された廃棄物に染み込む雨水を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処分場は、地面を掘り下げ、或いは擁壁を構築するなどして設けられた凹面を備えている。廃棄物は、この凹面に順次投棄される。
【0003】
ところで、廃棄物処分場では、凹面内に投棄された廃棄物に雨水が含浸することによって生じる浸出水が、凹面から外部の土壌に漏水しないようにする必要がある。浸出水には好ましくない物質が含まれている可能性があるからである。
浸出水の漏水防止のために最も汎用されているのが、凹面の表面全体に遮水シートを敷設する技術である。合成樹脂遮水シートやゴム遮水シート製の高い遮水性能を有する遮水シートを凹面の全体に敷設することによって、浸出水の外部への漏水を防止するのである。
しかしながら、この技術によれば、浸出水は、遮水シートによって覆われた凹面の内側に溜まることになる。したがって、現存する廃棄物処分場では、凹面に溜まった浸出水を外部へ、必要に応じて浄化してから排出する水処理設備が必要になり、コスト高の問題を招いている。
【0004】
他方、浸出水の発生自体を防止する技術も提案されている。例えば、凹面に投棄された廃棄物の表面を遮水シートで覆う、キャッピング工法と呼ばれる技術が提案されている。
この技術は、浸出水の発生を防止するものであり、それなりの効果をあげている。しかしながら、この技術にも改良すべき点が存在する。
【0005】
キャッピング工法により、廃棄物層の上に一般的には以下のような層を含むキャッピング層が設けられる。
廃棄物層の上に、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層が設けられる。ガス排除層の上に、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層が設けられる。浸透制限層の上に、雨水の排水を行うための排水層が設けられる。排水層の上に、排水層の下にある上述の層を守るための侵食防止層が設けられる。
従来のキャッピング工法で作られるキャッピング層中の各層は、土砂やベントナイトなどの土質系材料を用いて作られるのが一般的であるが、実用化はまだされていないものの、近年、これら各層のうちのガス排除層、浸透制限層、排水層を人工材料にて構成することが提案されている。キャッピング層中のガス排除層、浸透制限層、排水層を人工材料で構成することにより、キャッピング層を薄くできることによる廃棄物処分場の実行容積の減少防止という効果と、ガス排除層、浸透制限層、排水層を現場で作らずに済むことによるキャッピング層の性能を自在に変化させられ且つ安定化させられるようになる、という効果が期待できる。
【0006】
しかしながら、キャッピング工法自体がまだ新しい技術であるため、キャッピング層の中のガス排除層、浸透制限層、排水層を人工材料で構成するといっても、どのような人工材料を、どのように使えば、どのような効果が得られるか、という点についてはほとんど判らないというのが現状である。
本願発明者は、そのような現状に鑑み、キャッピング層のガス排除層、浸透制限層、排水層を人工材料で構成する技術について研究を重ね、実用化に足るキャッピング層乃至それを作るための工法を見出すに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、人工材料を用いて、実用に足るキャッピング層、及びキャッピング層を作るための工法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するための本願発明は、以下のようなものである。
本願発明は、廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に設けられるものであり、前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含んでいるキャッピング層を有するとともに、前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている、キャッピング構造である。そして、このキャッピング構造における前記浸透制限層は、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成されており、また、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層は、繊維をマット状に成形したマット体によって形成されている。
このキャッピング構造は、キャッピング層中のガス排除層、浸透制限層、排水層を人工材料で構成するので、廃棄物処分場の実行容積の減少防止、及びキャッピング層の性能を自在に変化させられ且つ安定化させられるようになるという効果を有する。
ところで、キャッピング構造においては、雨水のうちどの程度の割合のものをキャッピング層を通過させて廃棄物に到達させるかが重要となる。これは、以下のような事情による。
投棄される廃棄物には様々な種類がある。廃棄物には、例えば、焼却灰、粗大ごみ、生ごみが存在する。これらのうち特に生ごみは、投棄後腐敗を生じ、その過程を経て安定した状態へ移っていく(これを本願では、廃棄物の「安定化」と呼ぶ。)。この安定化を効率よく実現するには、適当な量の雨水を廃棄物に含浸させる必要があるが、廃棄物に含浸した雨水の量が余りにも多いと、上述のような浸出水の問題が生じるため、廃棄物に含浸させる雨水の量は適度な量に制限する必要がある。したがって、雨水のうちどの程度の割合のものをキャッピング層を通過させて廃棄物に到達させるかが重要となるのである。
従来のキャッピング構造ないしキャッピング工法は、浸出水を減らすことを主眼とし、廃棄物の安定化という点を余り意図していなかったので、雨水の略すべてを廃棄物に到達させないようにしている。
本願発明者は、従来とは異なり、廃棄物の安定化を図るという点を意識してキャッピング構造ないしキャッピング工法について研究を行った。その結果、雨水のうちキャッピング層を通過して廃棄物に到達するものの割合を、排水層の構成を変化させることで実現できることに気がついた。排水層の構成を適当なものとすることで、廃棄物の安定化を、浸出水の量が問題にならない程度で実行できるようになる可能性がある。
本願発明者の研究によれば、前記浸透制限層を、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成し、また、排水層を、繊維をマット状に成形したマット体によって形成することで、キャッピング層を通過して廃棄物に到達するものの割合が15%より大きくなる。
【0009】
逆に、雨水のうちキャッピング層を通過して廃棄物に到達するものの割合が15%より小さくなるようにするには、以下のようなキャッピング構造を採用すればよい。
かかるキャッピング構造は、廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に設けられるものであり、前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含んでいるキャッピング層を有するとともに、前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている。そして、このキャッピング構造における前記浸透制限層は、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成されており、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層が、略水平方向(排水層に沿う方向)に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成されている。
【0010】
本願発明のキャッピング構造は、雨水のうちキャッピング層を通過して廃棄物に到達するものの割合が15%より大きくなる部分と、小さくなる部分をともに有するものであってもよい。
このようなキャッピング構造は、廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に設けられるものであり、前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含んでいるキャッピング層を有するとともに、前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている。そして、このキャッピング構造の前記浸透制限層は、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成されているとともに、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層が、繊維をマット状に成形したマット体によって形成されているとともに、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層が、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成されているものとされる。
このようにすれば、キャッピング層を通過して廃棄物に到達する雨水の割合を、より多様に制御できるようになる。
【0011】
本願発明のキャッピング構造の前記浸透制限層は、上述したとおり、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって構成される。このシート材は、どのようなものでもよいが、例えば、ポリエチレン製の不織布を、ポリプロピレン製の不織布によって挟み込んだものとすることができる。
本願発明のキャッピング構造のマット体は、上述したとおり、繊維をマット状に成形したものであればその詳細を問わない。例えば、織布、又は不織布、或いはこれらを組合わせたものをマット体として採用することができる。マット体は、例えば、織布である補強基布を反毛フェルトで挟んでなるものとすることができる。
本願発明のキャッピング構造の立体構造体は、上述したとおり、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有するものであり、樹脂製とされていればその詳細を問わない。なお、この場合の樹脂は、遮水性を有するものとする。例えば、樹脂の薄い板乃至シートをエンボス加工することによって、上述の如き凹凸を形成したものを、立体構造体として採用することができる。立体構造体は、それ単独で使用されることもあるが、不織布により挟まれていてもよい。
【0012】
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層は、それぞれが別体で形成されていても、それらのうち隣り合うもの同士2つが一体に形成されていても、それらすべてが一体に形成されていてもよい。前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層のうち2つ、或いはこれらすべてが予め一体になっていれば、敷設の手間を簡単化できる。
また、本願発明におけるキャッピング層には、上述したように、ガス排除層、浸透制限層、排水層が設けられるが、これらのすべてが廃棄物の全面を覆うようになっている必要は必ずしもない。廃棄物処分場を平面視した場合に、部分的に上述のガス排除層、浸透制限層、排水層のうちの1層、或いは2層が欠けている部分があっても構わない。もっとも、廃棄物処分場を平面視した場合に、ガス排除層、浸透制限層、排水層のすべてが存在しない部分はない。
【0013】
本願発明者は、以下のキャッピング工法も提案する。
【0014】
本願発明のキャッピング工法は、廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に、前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含むキャッピング層を生成するものである。そして、このキャッピング工法では、前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層を、人工材料を層状に成形したものを敷設することにより生成するとともに、前記浸透制限層として、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材を用い、且つ、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層を、繊維をマット状に成形したマット体を敷設することによって形成する。
本願発明の他のキャッピング工法は、廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に、前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含むキャッピング層を生成するものである。そして、このキャッピング工法では、前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層を、人工材料を層状に成形したものを敷設することにより生成するとともに、前記浸透制限層として、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材を用い、且つ、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層を、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成する。
本願発明の更に他のキャッピング工法は、廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に、前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含むキャッピング層を生成するものである。そして、このキャッピング工法では、前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層を、人工材料を層状に成形したものを敷設することにより生成するとともに、前記浸透制限層として、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材を用いる。また、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層を、繊維をマット状に成形したマット体を敷設することによって形成するとともに、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層を、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本発明は、図1に示すような廃棄物処分場で実施される。
この廃棄物処分場は、廃棄物投棄用の凹面10を備えている。この凹面10には遮水層11が設けられている。遮水層11は、この実施形態では、遮水性能を有する樹脂製のシートによって形成されている。かかるシートの厚さはこの実施形態では3mmであるが、この厚さは、1〜5mm程度の範囲で適当に選択される。
凹面10には廃棄物12が投棄されている。この実施形態における廃棄物12は、これには限られないが、焼却灰、粗大ごみ、生ごみを含んでいる。
この実施形態における廃棄物処分場は、予定された容量分の廃棄物12が既に投棄されており、後は廃棄物12の安定化を図ればよい状態となっている。廃棄物12は、安定化の過程で腐敗し、ガス、場合によっては有毒のガス(例えば、硫化水素)を生じる。
この実施形態では、このような廃棄物処分場に対してキャッピング工法を行って、廃棄物12の表面を覆うキャッピング層を形成する。
【0017】
図2に、キャッピング層20が構成された廃棄物処分場の縁部を図示する。
キャッピング層20は、下側から、ガス排除層21、浸透制限層22、排水層23、及び侵食防止層24を含んで構成されている。ガス排除層21、浸透制限層22、排水層23はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている。
なお、この実施形態では、キャッピング層20に含まれるガス排除層21、浸透制限層22、排水層23はすべて、廃棄物12の全面を覆うようになっている。ただし、本願発明はこれに限定されるものではなく、ガス排除層21、浸透制限層22、排水層23のうちの1つ、或いは2つが部分的に存在しない部分があってもよい。
【0018】
ガス排除層21は、廃棄物12の表面を覆うものであり、廃棄物12から発生したガスを抜く機能を有する。ガス排除層21は、その内部をガスが通過できるような空隙を有するものとされる。
ガス排除層21の端部は、外気に対して露出するようにされており、ガス排除層21の内部を通って来た廃棄物12から発生したガスは、その端部から外気に放出されるようになっている。
この実施形態では、廃棄物12内でガスの圧が高まったときに、そのガスがガス排除層21を通して自然に外気に対して放出されるようになっている。なお、必ずしも必要はないが、ガス排除層21に、例えば多数の孔がその一端側の側面に穿たれた有口管の上記一端側を差込むとともに、その有口管の他端を外気に対して開放することで、有口管を介してガス排除層21に溜まったガスを外気に放出するようにしてもよい。また、この有口管の他端にポンプを接続し、このポンプを介してガス排除層21内部のガスを引くことで、ガスをガス排除層21から強制的に外気に放出するようにすることもできる。
【0019】
ガス排除層21は、具体的には、図3、図4に示したようなものとすることができる。
図3は、ガス排除層21を作るときに用いる人工材料の一例であるマット体30の例を示したものである。
このマット体30は、繊維をマット状に成形して構成される。このマット体30は、その全体が不織布でできていても構わないが、この実施形態では、織布である補強基布31を反毛フェルト32で挟んだ構成となっている。補強基布31と反毛フェルト32は、互いに溶着されている。補強基布31は、マット体30の強度を上げるためのものである。補強基布31は、ポリプロピレン製のものである。マット体30の厚さは、1〜2cm程度となっている。
図4は、ガス排除層21を作るときに用いる人工材料の一例である立体構造体40の例を示したものである。この立体構造体40は、略水平方向にガスを移動させられるような所定の凹凸パターンをエンボス加工によって成形された遮水性を有する樹脂でできた薄板41を有している。なお、この凹凸パターンは、後述するように、略水平方向に排水を移動させられるようなものでもある。この実施形態では、立体構造体40の所定の箇所に所々小孔41Aを穿設している。この小孔41Aは、ガス排除層21にガスを導くためのものである。この実施形態における立体構造体40は、その両面を、不織布42で覆われている。両不織布42は、薄板41と、溶着されている。この実施形態では、立体構造体40の厚さは、1〜2cm程度となっている。
【0020】
上述のマット体30又は立体構造体40を、廃棄物12の表面に敷設することにより、ガス排除層21が作られる。
なお、ガス排除層21は、マット体30と立体構造体40の一方によって形成されていてもよいが、部位によりこれらを使い分けて、これらの双方を用いて形成されていてもよい。この実施形態では、マット体30のみによりガス排除層21を形成することとする。
【0021】
次に、浸透制限層22について説明する。
浸透制限層22は、雨水の廃棄物12への含浸を制限する機能を有しており、ガス排除層21の上に設けられている。浸透制限層22は、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーとされている。この実施形態では、浸透制限層22の垂直方向の透水係数は7.7×10−5cm/sとされている。なお、この実施形態における浸透制限層22は、必ずしもそうなっている必要はないが通気性を持っている。この浸透制限層22の通気量は必ずしもこの限りではないが、この実施形態では、1000m/m/24hとなっている。
浸透制限層22は、この実施形態では、三層構造のシート材により形成されている。このシート材は、ポリエチレン製の不織布を、両面からポリプロピレン製の不織布によって挟み込んだものとされている。ポリエチレン製の不織布と、ポリプロピレン製の不織布は互いに溶着されている。雨水の廃棄物12への含浸を制限する機能は主に中心のポリエチレン製の不織布によって得られる。両側のポリプロピレン製の不織布は、主に、補強の役割を果たす。
【0022】
このシート材をガス排除層21の上に敷設することで、浸透制限層22を形成する。なお、浸透制限層22は複数のシート材を組合わせて形成されることが多いが、その場合には隣り合うシート材の端部同士を、水密となるように接続する。
【0023】
次に、排水層23について説明する。排水層23は、浸透制限層22の表面を覆うものであり、雨水の排水を行う機能を有する。排水層23は、雨水の透過を制限する浸透制限層22の上に溜まった雨水を排水する。排水層23の端部の所々には、外気に対してその一端が連通されている連通管23Aが設けられている。排水層23の中を流れてきた雨水は、この連通管23Aを介して外部に排出される。なお、廃棄物処分場の外部には、連通管23Aから排出された雨水を外部に流すための溝23Bが設けられている。
排水層23は、この実施形態では、上述したものと同様のマット体30と、立体構造体40にて構成されている。排水層23として立体構造体40が用いられる場合、立体構造体40に設けられた上述の小孔41Aがあると、雨水は排水層23を通過し易くなる。適当に小孔41Aを設けることで、雨水の廃棄物12への到達量を制御できる。この制御をより適切に行うため、排水層23に用いる立体構造体40と、ガス排除層21に用いる立体構造体40とは、小孔41Aの径や数に関して異なるものとすることができる。
マット体30は、キャッピング層20の中で、雨水のうち廃棄物12に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分に敷設する。他方、立体構造体40は、キャッピング層20の中で、雨水のうち廃棄物12に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分に敷設する。排水層23を作る場合に、マット体30と立体構造体40の片方のみを使うこともできるし、両方を使うこともできる。この実施形態では、部分によりマット体30と立体構造体40を使い分け、これら双方を用いている。
【0024】
侵食防止層24は、排水層23の表面を覆っている。侵食防止層24は、排水層23、浸透制限層22、ガス排除層21を保護する機能を有している。この実施形態における侵食防止層24は土であり、排水層23の上に盛り土することによって形成される。
侵食防止層24は、その表面に植樹等することが可能であり、そのようにすることにより、廃棄物処分場の美観を良好なものにするにも寄与する。
【0025】
以上説明したようなキャッピング層20を形成した廃棄物処分場で、雨水がどの程度廃棄物12に到達するかについての実験を行った。その結果を、図5及び図6に示す。
図5は、排水層23として立体構造体40を用いた部分において、排水層23から排水された単位時間、単位面積あたりの水の量(グラフ中で□のマークで示されている。)と、浸透制限層22を通過した単位時間、単位面積あたりの水の量(グラフ中で◆のマークで示されている。)を示したグラフである。
この場合、散水量(グラフ中で黒三角のマークで示されている。)が増えると、それに略比例して、排水層23から排水された水の量が増える。他方、散水量が増えても、浸透制限層22を通過する水の量はそれほど増えない。これは、立体構造体40を用いた排水層23の水を排水する能力が高いため、散水された水は、浸透制限層22を通過する前に、その大半が排水層23から排水されてしまうからだと考えられる。この場合における浸透制限層22を通過する水の量は、散水量の大小にかかわらず、散水量の5%より大きく15%より小さい範囲に入っている。
図6は、排水層23としてマット体30を用いた部分において、排水層23から排水された単位時間、単位面積あたりの水の量(グラフ中で□のマークで示されている。)と、浸透制限層22を通過した単位時間、単位面積あたりの水の量(グラフ中で◆のマークで示されている。)を示したグラフである。
この場合、散水量(グラフ中で黒三角のマークで示されている。)が増えると、それに略比例して、浸透制限層22を通過した水の量が増える。他方、散水量が増えても、排水層23から排水された水の量はそれほど増えない。これは、マット体30を用いた排水層23の水を排水する能力が小さい(水を溜めてしまう。)ため、散水された水は、なかなか排水層23から排水されず、その間に浸透制限層22を多くの水が通過するからだと考えられる。この場合における浸透制限層22を通過する水の量は、散水量の大小にかかわらず、散水量の80%より大きく90%より小さい範囲に入っている。
【0026】
≪変形例≫
以上説明したキャッピング層20におけるガス排除層21、浸透制限層22、排水層23は別体であったが、これらが一体になっていても構わない。この場合、例えば、図7(A)又は図7(B)に示したような層状に成形した人工材料が、上述した人工材料に代えて用いられる。
図7(A)に示した人工材料は、キャッピング層20の中で、雨水のうち廃棄物12に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分に敷設するものである。他方、図7(B)に示した人工材料は、キャッピング層20の中で雨水のうち廃棄物12に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分に敷設するものである。
図7(A)に示した人工材料は、ガス排除層21に相当するマット体30と、浸透制限層22に相当するシート材50と、排水層23に相当する立体構造体40を一体にしたものである。
図7(B)に示した人工材料は、ガス排除層21に相当するマット体30と、浸透制限層22に相当するシート材50と、排水層23に相当するマット体30を一体にしたものである。
なお、この変形例におけるマット体30、立体構造体40は、上述した実施形態で説明したマット体30、立体構造体40と同様である。また、この変形例におけるシート材50は、上述した実施形態で浸透制限層22を構成していたシート材と同様である。
これらのような人工材料を敷設すれば、キャッピング層20のうち、ガス排除層21、浸透制限層22、排水層23を一回の手間で作ることができる。
このような人工材料を用いた場合でも、上述した実験結果と同様の結果を得られる。なお、図示を省略するが、図7(A)に示した人工材料は、マット体30、シート材50、立体構造体40のうちの2つを組合わせたものとすることもでき、また、図7(B)に示した人工材料は、マット体30、シート材50、マット体30のうちの2つを組合わせたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態によるキャッピング層が設けられる廃棄物処分場の一例を示す側断面図。
【図2】図1に示した廃棄物処分場にキャッピング層を設けた場合における廃棄物処分場の縁部を概略的に示す側断面図。
【図3】図2で示したキャッピング層のマット体の構成を示す斜視図。
【図4】図2で示したキャッピング層の立体構造体の構成を示す斜視図。
【図5】図2で示した廃棄物処分場に設けられたキャッピング層のうち、排水層に立体構造体を用いた部分の通水性能を示す図。
【図6】図2で示した廃棄物処分場に設けられたキャッピング層のうち、排水層にマット体を用いた部分の通水性能を示す図。
【図7】(A)は、本発明の変形例における人工材料の一例を示す図であり、(B)は、本発明の変形例における人工材料の他の例を示す図。
【符号の説明】
【0028】
10 凹面
11 遮水層
12 廃棄物
20 キャッピング層
21 ガス排除層
22 浸透制限層
23 排水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に設けられるものであり、
前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含んでいるキャッピング層を有するとともに、
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている、
キャッピング構造であって、
前記浸透制限層が、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成されているとともに、
前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層が、繊維をマット状に成形したマット体によって形成されている、
キャッピング構造。
【請求項2】
廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に設けられるものであり、
前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含んでいるキャッピング層を有するとともに、
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている、
キャッピング構造であって、
前記浸透制限層が、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成されているとともに、
前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層が、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成されている、
キャッピング構造。
【請求項3】
廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に設けられるものであり、
前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含んでいるキャッピング層を有するとともに、
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層はともに、人工材料を層状に成形してなるものによって構成されている、
キャッピング構造であって、
前記浸透制限層が、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材によって形成されているとともに、
前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層が、繊維をマット状に成形したマット体によって形成されているとともに、
前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層が、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成されている、
キャッピング構造。
【請求項4】
前記マット体は、織布である補強基布を反毛フェルトで挟んでなる、
請求項1又は3記載のキャッピング構造。
【請求項5】
前記立体構造体は、不織布により挟まれてなる、
請求項2又は3記載のキャッピング構造。
【請求項6】
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層は、一体に形成されてなる、
請求項1〜3のいずれかに記載のキャッピング構造。
【請求項7】
廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に、
前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含むキャッピング層を生成する、
キャッピング工法であって、
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層を、人工材料を層状に成形したものを敷設することにより生成するとともに、
前記浸透制限層として、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材を用い、
且つ、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層を、繊維をマット状に成形したマット体を敷設することによって形成する、
キャッピング工法。
【請求項8】
廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に、
前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含むキャッピング層を生成する、
キャッピング工法であって、
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層を、人工材料を層状に成形したものを敷設することにより生成するとともに、
前記浸透制限層として、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材を用い、
且つ、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層を、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成する、
キャッピング工法。
【請求項9】
廃棄物処分場の廃棄物が投棄される凹面内に投棄された廃棄物の表面に、
前記廃棄物の表面を覆う、廃棄物から発生したガスを抜くためのガス排除層と、前記ガス排除層の表面を覆う、雨水の廃棄物への含浸を制限するための浸透制限層と、前記浸透制限層の表面を覆う、雨水の排水を行うための排水層と、前記排水層の表面を覆う、前記排水層、前記浸透制限層、前記ガス排除層を保護する侵食防止層と、を含むキャッピング層を生成する、
キャッピング工法であって、
前記ガス排除層、前記浸透制限層、前記排水層を、人工材料を層状に成形したものを敷設することにより生成するとともに、
前記浸透制限層として、垂直方向の透水係数が10−5cm/sのオーダーのシート材を用い、
且つ、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より大きくしたい部分の排水層を、繊維をマット状に成形したマット体を敷設することによって形成するとともに、前記キャッピング層の中で、雨水のうち廃棄物に到達するものの割合を15%より小さくしたい部分の排水層を、略水平方向に排水を行えるような凹凸を有する樹脂製の立体構造体によって形成する、
キャッピング工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−116512(P2006−116512A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310075(P2004−310075)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【出願人】(390039114)株式会社田中 (21)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】