説明

キャップ、これを用いた締結構造およびこの締結構造を有する航空機

【課題】被雷電流がファスナを通って流れたとしても内部でスパークが発生するのを抑制でき、安全性を向上し得るキャップ、これを用いた締結構造およびこの締結構造を有する航空機を提供する。
【解決手段】本発明にかかるキャップ27は、航空機の上外板3とこの上外板3の内側に位置するストリンガ11とを結合するファスナ15におけるストリンガ11を突き抜ける部分を覆うように取り付けられ、上外板3の内部空間に触れる外側面33が曲面で構成され、導電性材料によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャップ、これを用いた締結構造およびこの締結構造を有する航空機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する外板は、格子状に形成された骨部材である構造部材によって内部から補強されている。
外板と外板の内側に位置する構造部材とは、ファスナによって接合されている。ファスナは金属製(たとえば、チタン合金)であるため、落雷がファスナを通って内部で火花(スパーク)を発生する恐れがある。
【0003】
このため、たとえば、特許文献1に示されるように、ファスナに雷が通るのを抑制する構造が提案されている。
特許文献1に示されるものは、ファスナの頭部の外側端に絶縁性のキャップを装着しているものであり、このようにファスナの構造を工夫して雷の通過を抑制するものは多く提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−126119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のファスナによって外板と構造部材とを結合するものでは、ファスナの構造部材から突出した部分に角部が存在するので、ファスナに電流が流れた場合、この角部で電界が集中し易くなる。航空機が被雷した場合、たとえ、抑制対策が取られているものでも、一端ファスナに電流が流れると、角部で電界集中が起きて、スパークが発生し易くなる。たとえば、内部に燃料等の可燃物がある燃料タンクでスパークが発生すると、燃料が引火して爆発する恐れがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、被雷電流がファスナを通って流れたとしても内部でスパークが発生するのを抑制でき、安全性を向上し得るキャップ、これを用いた締結構造およびこの締結構造を有する航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の第一態様は、航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける前記構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられ、前記外板の内部空間に触れる外側面が曲面で構成され、導電性材料によって形成されているキャップである。
【0008】
本態様にかかるキャップは、導電性材料によって形成され、航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられているので、ファスナを通る雷撃電流はキャップの内部を通って流れる。これにより、この部分に位置するファスナの角部に電界が集中することを抑制することができる。
キャップの外板の内部空間に触れる外側面、たとえば、タンク内に露出する面が曲面で構成されているので、キャップの外板の内部空間に触れる外側面には、角部が存在しない。これにより、キャップの外側面には、電界が集中する部分がないので、電界の集中によるスパーク(火花)の発生を抑制することができる。
たとえば、内部に燃料等の可燃物がある燃料タンクでこのキャップ用いれば、スパークが発生し、燃料に引火して爆発する恐れを抑制できるので、安全性を向上させることができる。
【0009】
前記態様では、前記構造部材と接触する接触面を有していることが好適である。
このようにすると、ファスナからキャップに流れた電流が接触面を通って構造部材に流れるので、ファスナから構造部材へ流れる電流の抵抗が実効上低くなる。ファスナから構造部材へ流れる電流の抵抗が低くなると、電流値が減少するので、スパークの発生をより抑制することができる。
なお、接触面は構造部材に接触しているので、外板の内部空間に触れる外側面に相当せず、角部が存在してもよい。
【0010】
本発明の第二態様は、航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける前記構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられ、前記構造部材と接触する接触面を有し、導電性材料によって形成されているキャップである。
【0011】
本態様にかかるキャップは、導電性材料によって形成され、航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられているので、ファスナを通る雷撃電流はキャップの内部を通って流れる。これにより、この部分に位置するファスナの角部に電界が集中することを抑制することができる。
また、ファスナからキャップに流れた電流が接触面を通って構造部材に流れるので、ファスナから構造部材へ流れる電流の抵抗が実効上低くなる。ファスナから構造部材へ流れる電流の抵抗が低くなると、電流値が減少するので、スパークの発生をより抑制することができる。
たとえば、内部に燃料等の可燃物がある燃料タンクでこのキャップを用いれば、スパークが発生し、燃料に引火して爆発する恐れを抑制できるので、安全性を向上させることができる。
なお、接触面は構造部材に接触しているので、外板の内部空間に触れる外側面に相当せず、角部が存在してもよい。
【0012】
本発明の第三態様は、航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とがファスナによって結合され、該ファスナにおける前記構造部材を突き抜ける部分が、前記第一態様あるいは前記第二態様のキャップによって覆われている締結構造である。
【0013】
本態様にかかる締結構造では、ファスナにおける構造部材を突き抜ける部分が第一態様あるいは第二態様のキャップによって覆われているので、たとえ、ファスナを通って雷撃電流が流れてもスパークの発生を抑制することができる。
たとえば、内部に燃料等の可燃物がある燃料タンクの締結構造として用いれば、スパークが発生し、燃料に引火して爆発する恐れを抑制できるので、安全性を向上させることができる。
【0014】
本発明の第四態様は、前記第三態様の締結構造によって外板とこの外板の内側に位置する構造部材との少なくとも一部が締結されている航空機である。
【0015】
本態様にかかる航空機では、スパークの発生を抑制することができる締結構造で外板とこの外板の内側に位置する構造部材との少なくとも一部が締結されているので、たとえば、内部に燃料等の可燃物がある燃料タンクの締結構造として用いれば、スパークが発生し、燃料に引火して爆発する恐れを抑制できるので、安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、キャップは、導電性材料によって形成され、航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられているので、ファスナを通る雷撃電流はキャップの内部を通って流れる。これにより、この部分に位置するファスナの角部に電界が集中することを抑制することができる。
キャップの外板の内部空間に触れる外側面、たとえば、タンク内に露出する面が曲面で構成されている、および/または構造部材と接触する接触面を有しているので、電界の集中によるスパークの発生を抑制することができる。
たとえば、内部に燃料等の可燃物がある燃料タンクでこのキャップ用いれば、スパークが発生し、燃料に引火して爆発する恐れを抑制できるので、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の締結構造を用いた燃料タンクが設けられた主翼の構成を説明する斜視図である。
【図2】図1の燃料タンクの構成を説明するX−X断面視図である。
【図3】図2の上外板とストリンガとの締結部の構成を説明する断面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかる締結構造を図1〜3を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態の締結構造を用いた燃料タンクが設けられた主翼の構成を説明する斜視図である。図2は、図1の燃料タンクの構成を説明するX−X断面視図である。
【0019】
主翼1には、図1および図2に示されるように、上外板(外板)3と、下外板(外板)5と、スパー(構造部材)7と、リブ(構造部材)9と、ストリンガ(構造部材)11と、が主に設けられている。
さらに、主翼1の内部、すなわち、内部空間には、燃料タンク13が主翼1と一体に設けられている。
【0020】
上外板3および下外板5は、主翼1の外形を構成する薄板であり、スパー7、リブ9、および、ストリンガ11とともに主翼1に働く引っ張り荷重や、圧縮荷重の一部を受け持つものである。
上外板3は、主翼1の上面を構成する薄板であり、下外板5は、主翼1の下面を構成する薄板である。
上外板3および下外板5は、たとえば、母材としてエポキシ系樹脂を用いるとともに、強化繊維として炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂(CFRP)で形成されている。なお、上外板3および下外板5は、たとえば、アルミニウム合金等の金属製とされていてもよい。
【0021】
スパー7は、図1および図2に示されるように、主翼1の翼幅方向(図2の紙面に垂直方向)に延びる構造部材であって、上外板3および下外板5との間にわたって配置される部材である。
本実施形態では、主翼1の前縁LE側と、後縁TE側にそれぞれスパー7が配置されている例に適用して説明する。
【0022】
ストリンガ11は、図1および図2に示されるように、一対のスパー7の間を、主翼1の翼幅方向(図2の紙面に垂直方向)に延びる構造部材であって、スパー7を強度的に補助するものである。
スパー7およびストリンガ11は、主翼1に作用する前後方向や、上下方向に働く曲げや捩れなどの力を主翼1が取り付けられている航空機の胴体(図示せず)に伝達するものである。
【0023】
リブ9は、図1および図2に示されるように、主翼1の翼弦方向(図2の左右方向)に延びるとともに、上外板11および下外板12の間にわたって配置される構造部材である。言い換えると、リブ9は、スパー7およびストリンガ11と略直交する方向に延びる構造部材であって、主翼1の断面形状に形成された板状の部材である。
【0024】
スパー7、リブ9およびストリンガ11は、たとえば、アルミニウム合金等の金属で形成されている。また、部分的に金属で形成されるもの、全体がCFRP等の繊維強化樹脂で形成されるものもある。
【0025】
燃料タンク13は、航空機の燃料(可燃物)が貯蔵されるタンクであって、その貯蔵空間は、図1および図2に示されるように、主翼1の内部が上外板3、下外板5、一対のスパー7および複数のリブ9で区切られて形成されている。燃料タンク13は、主翼1と一体に形成されたインテグラルタンクである。
燃料タンク13の内部には、燃料を受け入れ、供給する燃料配管(図示省略)および燃料量を計測する燃料計測系の配線(図示省略)が設置されている。
【0026】
スパー7、ストリンガ11およびリブ9は、上外板3および下外板5と金属製のファスナ15を用いて締結されている。ファスナ15は、たとえば、アルミニウム合金製、チタン製とされている。
図3は、図2の上外板3とストリンガ11との締結構造17の構成を示す断面視図である。
【0027】
ファスナ15は、円柱状に延びるシャンク部19と、シャンク部19の一端に配置されたヘッド部21とを有している。
ヘッド部21は、円錐台形状をし、その小径部が略同径のシャンク部19に接続するようにされている。シャンク部19の他端側(ヘッド部21と反対側)には、雄ネジ23が刻設されている。
【0028】
ファスナ15は、シャンク部19が、上外板3およびストリンガ11に形成された貫通孔に挿通され、ヘッド部21は上外板3に埋め込まれるように配置されている。
シャンク部19は、ストリンガ11から燃料タンク13の内部空間に突出するようにされている。ナット25がシャンク部19の雄ネジ23に螺合し、ストリンガ11側へ移動することによってファスナ15は上外板3とストリンガ11とを締結する。
【0029】
ファスナ15の燃料タンク13内に位置する部分、すなわち、ストリンガ11から燃料タンク13内に突き抜けている部分、およびナット25を覆うキャップ27が備えられている。
キャップ27は、略球体が一平面で切断された形状をしている。この切断面は、構造部材であるストリンガ11と接触する接触面29を構成している。
【0030】
接触面29の中央部分には、ファスナ15のストリンガ11から突き出している部分およびナット25の全てを収容する収容空間31が形成されている。キャップ27は、収容空間31がファスナ15のストリンガ11から突き出している部分およびナット25の全てを収容し、接触面29がストリンガ11に接触する状態で装着される。言い換えると、キャップ27は、ファスナ15におけるストリンガ11を突き抜ける部分およびナット25の全てを覆うように取り付けられている。
【0031】
キャップ27の接触面29を除く外側面33は、上外板3の内部空間、すなわち、燃料タンク13の内部空間に面している。キャップ27の装着時に、外側面31は上外板3の内部空間に触れる。一方、接触面29はストリンガ11に接触しているので、上外板3の内部空間に接触することはない。
外側面33は、略球体の一部であるので、曲面で構成されている。外側面33の形状は、球体の一部に限らず、曲面を構成する適宜形状とされてよい。
なお、接触面29と外側面33との境界部に角部ができるが、この角部は接触面29がストリンガ11に接触しているので、上外板3の内部空間に触れる外側面33に相当しない。
【0032】
キャップ27は、たとえば、アルミニウム合金製とされている。キャップ27は、アルミニウム合金に限らず、適宜な導電性材料で形成されてよい。
この場合、ファスナ15およびストリンガ11の材料と電気抵抗が略同等の材料を用いるのが電気腐食の発生を抑制する上で好適である。
【0033】
キャップ27は、収容空間31に雌ネジを刻設し、ファスナ15の雄ネジ25に螺合させ、接触面29がストリンガ11に強く接触するように取り付けてもよい。
接触面29とストリンガ11との間に隙間が生じる場合には、接触面29とストリンガ11との間に導電性グリースを挟み、導電性を確保するようにしてもよい。
また、接触面29とストリンガ11との間にシーラントを介在させ、粘着性を向上させるようにしてもよい。この場合、たとえば、接触面29に突起を設け、接触面29を強く押し込み、ストリンガ11側に埋め込ませて導電性を確保することが好ましい。
【0034】
上外板3および下外板5とスパー7およびリブ9とのファスナ15による締結構造には、上述したキャップ27が備えられている。
【0035】
以上のように構成された本実施形態にかかる締結構造17の動作について説明する。
ファスナ15の近傍に雷撃を受けると、雷撃電流がファスナ15を通って流れる。ファスナ15を通って流れる雷撃電流は、ファスナ15からストリンガ11へ流れるとともにファスナ15からキャップ27の内部を通って接触面29を介してストリンガ11へ流れる。
【0036】
このように、雷撃電流はファスナ15からキャップ27の内部を通ってストリンガ11に流れるので、この部分に位置するファスナ15の角部、たとえば、雄ネジ23に先端あるいはファスナ15の端部に電界が集中することを抑制することができる。
キャップ27の外側面33は曲面で構成されているので、角部が存在しない。これにより、キャップ27の外側面33には、電界が集中する部分がないので、電界の集中によるスパーク(火花)の発生を抑制することができる。
【0037】
また、ファスナ15からキャップ27に流れた雷撃電流が接触面29を通ってストリンガ11に流れるので、ファスナ15から直接ストリンガ11に流れるルートだけのものに比べて伝達される面積が増加する。これにより、ファスナ15からストリンガ11へ流れる電流の抵抗が実効上低くなる。ファスナ15からストリンガ11へ流れる電流の抵抗が低くなると、電流値が減少するので、スパークの発生をより抑制することができる。
【0038】
これらにより、燃料タンク13の内部でスパークが発生し、燃料に引火して爆発する恐れを十分に抑制できるので、航空機の安全性を向上させることができる。また、ファスナ15等の耐雷構造を簡素で工作性のよいものにできるので、製造コストを低減することができる。
【0039】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
たとえば、接触面29を広く確保でき、ファスナ15からストリンガ11へ流れる電流の抵抗が十分低くできる場合、外側面33に角部を有するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 主翼
3 上外板
5 下外板
7 スパー
9 リブ
11 ストリンガ
15 ファスナ
17 締結構造
27 キャップ
29 接触面
33 外側面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける前記構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられ、
前記外板の内部空間に触れる外側面が曲面で構成され、
導電性材料によって形成されていることを特徴とするキャップ。
【請求項2】
前記構造部材と接触する接触面を有していることを特徴とする請求項1に記載のキャップ。
【請求項3】
航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とを結合するファスナにおける前記構造部材を突き抜ける部分を覆うように取り付けられ、
前記構造部材と接触する接触面を有し、導電性材料によって形成されていることを特徴とするキャップ。
【請求項4】
航空機の外板とこの外板の内側に位置する構造部材とがファスナによって結合され、
該ファスナにおける前記構造部材を突き抜ける部分が、請求項1から請求項3のいずれかに記載のキャップによって覆われていることを特徴とする締結構造。
【請求項5】
請求項4に記載の締結構造によって外板とこの外板の内側に位置する構造部材との少なくとも一部が締結されていることを特徴とする航空機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195114(P2011−195114A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66927(P2010−66927)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(509155782)