説明

キャリア式めっき装置

【課題】移送中にワークに付着した処理液が他の処理槽に混入したり処理槽周辺を汚したりすることのないキャリア式めっき装置を提供する。
【解決手段】キャリア1の下端部にワークから滴下する処理液を受ける受け皿15を前後動自在に設け、該受け皿15には溜め枡16を設けるとともに受け皿15の底面を滴下した処理液が溜め枡16に集まる傾斜面とし、受け皿15をワークWが上限位置にあるとき前進端、その他のとき後退端に位置させ、溜め枡16に集まった処理液を吸入して排出管26から排出するポンプ24を設け、キャリア1のあらかじめ定めた停止位置において排出管26から排出される処理液を受ける排液受け27を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークをキャリアにより搬送してめっき処理する、キャリア式めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キャリア式めっき装置は、ハンガーを上昇、下降させる昇降枠を備えたキャリアを処理槽に沿って設けたレールに支承させて構成されており、キャリアは昇降枠によりハンガーを上昇させてワークを吊り上げ、その状態で走行して所定の位置までハンガーを移送し、その位置で昇降枠によりハンガーを下降させてワークを処理槽中に浸漬させる動作を繰り返してめっき処理するものである。この上昇前のワークは処理槽に浸漬されており、上昇させたワークには処理液が付着しているためキャリアによる移送中にこれが滴下し、他の処理槽に混入したり処理槽周辺を汚したりすることになる。
【0003】
移送中にワークから滴下した処理液が他の処理槽に混入することを防止するために、ワークの下方に滴下する処理液を受ける受け皿を設けた、例えば特許文献1に示されるようなものが提案されている。この特許文献1の請求項3には搬送中の被めっき処理物下方に位置し、かつ、被めっき処理物とともに搬送される液だれ受けを搬送手段に備えたものが示されている。この液だれ受けを備えた搬送手段の具体的な構成は特許文献1の図2(a)〜図2(d)及び段落0028〜0033に記載されており、回動軸を中心にして液だれ受けを上方に回転させるようにしたものである。また、特許文献1の請求項4には水洗槽及び各種工程槽を列状に配置して該列に平行に樋状の液だれ受けを設け、搬送手段が、被めっき処理物の搬送時に被めっき処理物を樋状の液だれ受け上方に保持しながら搬送するものが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来のキャリア式めっき装置では、上昇させたワークに付着した処理液が移送中に滴下し、他の処理槽に混入したり処理槽周辺を汚したりするという問題があった。ワークの下方に滴下する処理液を受ける受け皿を設けるのは問題を解決するための一つの手段であるが、回動軸を中心にして液だれ受けを上方に回転させるようにしたものでは、回転させられた液だれ受けの寸法だけワークを余計に引き上げなければならないことからキャリアの上下方向のストロークを大きくする必要があり、装置の高さ方向の寸法が大きくなるという問題がある。また、各処理槽でワークを上下させるためには個々の処理槽で液だれ受けを回転させる必要があり、それに対応して排液管を設ける必要があるため装置が複雑になるという問題がある。一方、処理槽の列と平行に樋状の液だれ受けを設置した構成のものでは、ハンガーの幅に見合う樋状の液だれ受けの分だけ装置の幅方向の寸法が大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、移送中にワークに付着した処理液が他の処理槽に混入したり処理槽周辺を汚したりすることのないキャリア式めっき装置を、装置の高さ方向、あるいは幅方向の寸法を大きくすることなく実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は上記目的を達成するために、キャリアの下端部にワークから滴下する処理液を受ける受け皿を前後動自在に設け、該受け皿には溜め枡を設けるとともに受け皿の底面を受け皿に滴下した処理液が溜め枡に集まる傾斜面とし、受け皿をワークが上限位置にあるとき前進端、その他のとき後退端に位置させ、溜め枡に集まった処理液を吸入して排出管から排出するポンプを設け、キャリアのあらかじめ定めた停止位置において排出管から排出される処理液を受ける排液受けを設けたものである。
【0008】
ここにおいて、受け皿をキャリアの昇降ガイド下端部に前後方向に設けたガイドレールに支持させ、ガイドレールに沿って前後動させるものとすることができ、受け皿をキャリアの昇降ガイド下部に設けた揺動アームより吊り下げて支持させ、揺動アームにより揺動させて前後動させるものとすることができる。また、キャリアのあらかじめ定めた複数の停止位置において排出管から排出される処理液をそれぞれ受ける排液受けを設け、各排水受けを個別に排水処理装置に接続したものとすることができる。
【0009】
上記課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、ワークが吊り上げられて上限位置にあるとき、受け皿は前進端に位置させられるので、ワークに付着した処理液は受け皿に滴下し、底面を流れて溜め枡に集まることになる。これにより、キャリアが走行してもワークから滴下する処理液が途中の処理槽に混入したり処理槽周辺を汚したりすることを防止することができる。溜め枡に集まった処理液はポンプにより吸入され、キャリアのあらかじめ定めた停止位置において排出管から排液受けに排出される。受け皿をキャリアの昇降ガイド下端部に前後方向に設けたガイドレールに支持させた場合には、前進、後退の動作を円滑に行なわせることが容易であり、受け皿をキャリアの昇降ガイド下部に設けた揺動アームより吊り下げて支持させた場合には、機構をコンパクトにすることが可能である。
【0010】
また、キャリアのあらかじめ定めた複数の停止位置において排出管から排出される処理液をそれぞれ受ける排液受けを設け、各排水受けを個別に排水処理装置に接続することによる作用は、キャリアの複数の停止位置において受け皿が受けた各種の処理液を個別に排液受けで回収することができ、種類の異なる処理液が混じりあうことが少ないので、それぞれの処理液を個別に接続された各排水処理装置により処理することができ、排水処理が容易になる。
【発明の効果】
【0011】
上で述べたように、本発明のキャリア式めっき装置は、ワークに付着した処理液を受け皿で受けることができ、ワークから処理液が滴下して移送途中の処理槽に混入したり処理槽周辺を汚したりすることのないキャリア式めっき装置を提供することができる。また、キャリアのあらかじめ定めた複数の停止位置において排出管から排出される処理液をそれぞれ受ける排液受けを設けた場合には、各種の処理液を個別に排液受けで回収することができるので、それを個別の排水処理装置で処理することができ、排水処理が容易になる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す要部の側面図である。
【図2】本発明の実施形態を示す要部の正面図である。
【図3】受け皿部分の構成を示す側面図である。
【図4】受け皿部分の構成を示す背面図である。
【図5】受け皿部分の構成を示す平面図である。
【図6】受け皿が移動した状態の受け皿部分の構成を示す平面図である。
【図7】受け皿部分の別の構成を示す要部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図において1はキャリアであり、フレーム2と垂直な昇降ガイド3とから構成されている。フレーム2には走行用モータ4によりその一部が駆動される車輪5、5が設けられており、該車輪5、5は処理槽6、6に沿って処理槽6、6の上方に架設されたレール7に支承され、キャリア1はレール7上を前後に間歇走行する。昇降ガイド3には昇降用モータ8によりチェーン9を介して昇降される昇降枠10が設けられており、昇降枠10の下部に設けられた昇降腕11の両端にはハンガー12の両端のピン13と係合されるフック14が設けられている。こうした構成は基本的に従来のキャリア式めっき装置と同様である。
【0015】
昇降ガイド3の下端にはワークWから滴下する処理液を受ける受け皿15が前後動自在に設けられている。受け皿15の後端部には溜め枡16が設けられ、受け皿15の底面は傾斜面となっており、受け皿15に滴下した処理液は底面を流れて溜め枡16に集まるようになっている。図3〜6は受け皿15及び受け皿15を支承する機構と移動させる機構の一例を示しており、溜め枡16は受け皿15の左右の後端に設けられている。受け皿15の底面は前端と中央が高く、そこから溜め枡16に向かって低くなるような傾斜面となっている。溜め枡16には溜め枡16に集まって溜まった処理液が一定量以上になったことを検知するセンサーを設けておくことが好ましい。
【0016】
受け皿15は左右をガイドレール17、17により支持されており、ガイドレール17、17はアーム18を介して昇降ガイド3の下部に取り付けられたガイドフレーム19、19に固定されている。昇降ガイド3の下端とガイドフレーム19、19の後端にはそれぞれ取り付け板20、21が設けられており、取り付け板20、21にはエアシリンダ22が取り付けられている。エアシリンダ22はロッドレスシリンダと呼ばれるエアシリンダであることが好ましく、該エアシリンダ22のスライドテーブル22aは連結板23を介して受け皿15の後端に連結されている。これにより、受け皿15はスライドテーブル22aの前進、後退に従動して前進、後退することになり、昇降枠10が上限位置にあるとき前進端、その他のとき後退端に位置するようにエアシリンダ22が制御される。
【0017】
24は取り付け板21に取り付けられたポンプであり、ポンプ24の吸入側には吸入管25が、吐出側には排出管26がそれぞれ接続されている。吸入管25は可撓性の管でその先端が溜め枡16、16に挿入されており、図示していないが受け皿15の前進、後退に支障のないように適宜固定されている。この吸入管25の先端にはストレーナが設けられることが好ましい。排出管26はキャリア1が所定の位置に停止した状態で、その開口端26aが処理槽6、6の架台側に設けられた排液受け27に臨むように配置されている。ポンプ24は受け皿15に直接取り付けることも可能であり、空運転ができて結晶やスラリーの混入に対しても破損しにくい空気作動式のものであることが好ましい。また、排液受け27は図示しない配管により排水処理装置に接続されることが好ましい。
【0018】
このように構成された本発明のキャリア式めっき装置において、キャリア1が昇降枠10によりハンガー12を上昇させてワークWを吊り上げ、その状態で走行して所定の処理槽6の位置までハンガー12を移送し、その位置で昇降枠10によりハンガー12を下降させ、ワークWを処理槽6に投入して処理液に浸漬させる一連の動作を繰り返すことは従来のキャリア式めっき装置と同様である。本発明のキャリア式めっき装置ではキャリア1の下部に受け皿15が設けられているが、この一連の動作の間、受け皿15は昇降枠10が上限位置にあるとき以外は後進端に位置するので、受け皿15がハンガー12及びワークWの上昇、下降の障害になることはない。キャリア1がワークWを上昇させてワークWが上限位置に達すると、受け皿15は前進して前進端に位置し、ワークWに付着した処理液は受け皿15に滴下することになる。
【0019】
次に、キャリア1はワークWを上限位置に保持したまま所定の処理槽6の位置まで走行するが、この間引き続きワークWから滴下する処理液は全て受け皿15により受け止められる。これによりキャリア1の走行中にワークWから滴下する処理液が途中の処理槽6に混入したり処理槽周辺を汚したりしないという効果が得られ、受け皿15に滴下した処理液は底面の傾斜面により溜め枡16に集まって溜まる。キャリア1の走行後昇降枠10の下降によりハンガー12及びワークWが下降する際には受け皿15が後退し、受け皿15がハンガー12及びワークWの下降の障害になることはなく、ワークWは処理槽6に投入されて処理液に浸漬される。
【0020】
その次のキャリア1の動作は、昇降枠10が下降した状態のまま直前に処理槽6に投入したワークWの浸漬時間の経過を待ってそのワークWを次工程の処理槽6に移送するか、あるいは昇降枠10が下降した状態のまま別の処理槽6の位置まで走行してその処理槽6に浸漬されているワークWを次工程の処理槽6に移送するかのいずれかとなる。いずれの場合も昇降枠10が上昇を完了するまでの間ワークWの受け皿15は後退した状態に保たれる。排液受け27はワークWの浸漬時間の経過を待つ等によりキャリア1が停止しているあらかじめ定められた処理槽6の位置に対応して設けられており、キャリア1が停止している間排出管26の開口端26aは排液受け27に臨む状態になっている。
【0021】
このキャリア1の停止中にポンプ24を運転すると、ワークWから受け皿15に滴下して溜め枡16に溜まっている処理液は吸入管25から吸入され、排出管26の開口端26aから排液受け27に排出される。ポンプ24が故障する等した場合には、溜め枡16に溜まった処理液が排出されずその量が増加して溢れ出す。溜め枡16に液量センサーを設けた場合には、処理液の増加を検知することができ、受け皿15から処理液を溢れさせないための適切な対応をすることが可能にある。また、排液受け27は複数設けることができ、その複数の排液受け27で受け皿15が受け止めた処理液を種類別に回収することが可能になる。処理液を種類別に回収すると排水処理が容易になる利点がある。
【0022】
図7は受け皿15を支承する機構と移動させる機構の別の構成を示すものであり、前記と同一部分には同一符号が付してある。受け皿15は2組の揺動アーム28、29によって昇降ガイド3に取り付けられた支持板30から揺動自在に吊り下げられており、揺動アーム28、支持板30、揺動アーム29、受け皿15は平行リンクを構成している。一方の揺動アーム29は昇降ガイド3に揺動自在に取り付けられた図示しないエアシリンダのピストンに接続されており、ピストンの出、入によって受け皿15は前進、後退させられる。ポンプ24及び排出管26はいずれも受け皿15に取り付けられている。
【0023】
以上説明したように、本発明のキャリア式めっき装置は、キャリア1の昇降ガイド3の下端にワークWから滴下する処理液を受ける受け皿15を前後動自在に設けたものである。この受け皿15の深さすなわち高さ方向の寸法は、ワークWによりくみ出される処理液の数回分の液量を収容できればよいので小さなものであり、装置の高さ方向の寸法を大きくすることは殆ど必要なく、既設のキャリア式めっき装置に追加改造することも可能である。なお、以上の説明では処理槽、処理液としているが、これらが水洗槽、水洗水等を含むことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 キャリア
2 フレーム
3 昇降ガイド
4 走行用モータ
5 車輪
6 処理槽
7 レール
8 昇降用モータ
9 チェーン
10 昇降枠
11 昇降腕
12 ハンガー
13 ピン
14 フック
15 受け皿
16 溜め枡
17 ガイドレール
18 アーム
19 ガイドフレーム
20、21 取り付け板
22 エアシリンダ
22a スライドテーブル
23 連結板
24 ポンプ
25 吸入管
26 排出管
26a 開口端
27 排液受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアの下端部にワークから滴下する処理液を受ける受け皿を前後動自在に設け、該受け皿には溜め枡を設けるとともに受け皿の底面を受け皿に滴下した処理液が溜め枡に集まる傾斜面とし、受け皿をワークが上限位置にあるとき前進端、その他のとき後退端に位置させ、溜め枡に集まった処理液を吸入して排出管から排出するポンプを設け、キャリアのあらかじめ定めた停止位置において排出管から排出される処理液を受ける排液受けを設けたことを特徴とするキャリア式めっき装置。
【請求項2】
受け皿をキャリアの昇降ガイド下端部に前後方向に設けたガイドレールに支持させ、ガイドレールに沿って前後動させることを特徴とする請求項1に記載のキャリア式めっき装置。
【請求項3】
受け皿をキャリアの昇降ガイド下部に設けた揺動アームより吊り下げて支持させ、揺動アームにより揺動させて前後動させることを特徴とする請求項1に記載のキャリア式めっき装置。
【請求項4】
キャリアのあらかじめ定めた複数の停止位置において排出管から排出される処理液をそれぞれ受ける排液受けを設け、各排水受けを個別に排水処理装置に接続したことを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載のキャリア式めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94193(P2011−94193A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249755(P2009−249755)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)