説明

キュウリ植物の収量を改善する方法

本発明は、キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有するキュウリ育成系統の植物であって、キュウリ登録種PI169383の種子の代表試料はNCIMB、Aberdeen、Scotlandに受託番号NCIMB41532及び寄託者参照番号PI169383で寄託されており、前記遺伝子移入が前記植物の高収量に関連した連鎖群4上の遺伝子移入であり、前記植物が前記遺伝子移入のない前記キュウリ育成系統の植物よりも高収量を示し、前記高収量とは植物1本当たりのより高い総果実重量を指す、キュウリ育成系統の植物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物育種に関し、より詳細には、本発明は、キュウリ植物の収量を改善する方法に関する。本発明は、さらに、作物収量の改善されたキュウリ植物、及びかかる植物の種子に関する。
【背景技術】
【0002】
キュウリ(Cucumis sativus)は、世界的に主要な野菜作物であり、Cucurbitaceae科の最も重要な作物種の1つである。キュウリは、野菜として、生で、調理して、又はピクルスにして食される。100を超える変種が、ピクルス用の小さなものから薄切り用の大きなものまで楕円形の果実を実らせ、栽培品種は黄色又は褐色から濃緑色の範囲に及び得る。最近の栽培キュウリは、典型的には種無しであり、大部分の他の果実よりも栄養価が低いと一般に考えられているが、新鮮なキュウリは、良好なビタミンA、B1、B5、B6、B9、C及びK並びにミネラル源である。大部分の温室品種は、受粉なしで結実し、開花に関して雌性型である(すなわち、雌花のみをつける)。
【0003】
温室のキュウリの生産力は高い。それは、どの葉の基部にも1個以上の花が咲き、結実するからである。果実は、果実の長さ全体にわたって均一な直径を必要とする市場用の成熟度で収穫される。一般に、開花後12から15日で収穫又は市場に出せる時期になる。多数の作物と比較して、キュウリは早く収穫時期に達する。実際、キュウリの多くの変種は、播種から50〜60日後に収穫できるようになる。キュウリのつるは大量に果実をつけ、頻繁に(2から3日ごとに)収穫されるときに、特に果実が完熟する前に、新しい花の結実が促進され、収穫期間は10から12週間持続し得る。二毛作が最も一般的であるが、三毛作も採用される。
【0004】
キュウリの収量は、収穫期間の長さ、個々の植物の空間的配置、採用される剪定法、利用可能な光、一般的な温度、個別の変種、並びに良好な栄養及び害虫管理に主に依存する。所与の面積の温室で栽培される植物の数は、日照条件及び植物の這わせ方によって決まる。葉の重なり及び隣接する植物による遮光は避けなければならないが、夏の日照条件は冬の条件よりも栽植密度を高くすることができる。キュウリ植物は、垂直又は傘状に這わせることができる。栽植密度は、一般に植物2本/mである。これらの変数を考慮すると、平均的な植物は、植物1本当たりキュウリ10〜50本/収穫期間を生産することができる。収穫真っ最中の傘状に這わせた作物では、収量は、植物1本当たり果実0.5〜1.5kg/週の範囲であり得る。
【0005】
現行のキュウリハイブリッドの収量、特に果実kg/植物で表される収量を改善することは、最近のキュウリ栽培者の課題である。従来の育種方法は、これまで作物収量の大きな改善をもたらさなかった。例えば、米国におけるピクルス用キュウリの平均収量は、培養方法が改善され、収量及び耐病性について選抜されたために、1960〜1980年のほぼ2倍である。しかし、最近20年間はさほど改善されていない。この問題を解決するには幾つかある道筋の1つをとることができる。
【0006】
収量を改善する一方法は、栄養及び害虫の管理を更に改善することに基づく。しかし、最近の制御された生産環境では、これらのパラメータは、通常、最適化されている。
【0007】
別の方法は、育成系統を改善するものである。植物育種家、特に種子会社は、「エリート系統」と一般に称されるエリート育成系統を使用して、一定品質の製品を提供する。エリート系統は、長年の同系交配の結果であり、高収量、高果実品質、及び害虫、病気又は非生物的ストレスに対する抵抗性などの複数の優れた特性を組み合わせる。これらのエリート系統の平均収量は、一般に、現代のキュウリの多くがその子孫である最初の野生(在来種)登録種(accessions)よりもはるかに高い。エリート系統は作物として直接使用され、又はエリート系統を使用して、2つの(同型接合又は近交系)エリート系統間の交雑によって生産される、いわゆるF1、すなわち単交雑ハイブリッドを生産することができる。したがって、F1ハイブリッドは、2種類の親の遺伝的性質を組み合わせて単一植物にしたものである。ハイブリッドに付随する利点は、雑種強勢又はヘテロシスを示すことである。雑種強勢は、ハイブリッド植物がどちらの(近交系)親よりも成長し、より高収量を示すという十分に理解されていない現象である。
【0008】
戻し交雑又は系統選抜は、育種家が、望ましい農業形質をそのエリート育成系統に追加する一方法である。この方法は、育成系統を望ましい形質を発現する系統と交雑させ、続いて該形質を発現する子植物を反復親と戻し交雑することを含む。その結果、育種計画における親としての個体の選抜は、その祖先の性能に基づく。かかる方法は、定性的遺伝形質、すなわちポジティブ又はネガティブにスコアされる形質のための育種に最も有効である。しかし、収量、早生、品質など、栽培者が関心のある多数の形質は、定量的に遺伝され、遺伝率が低い。適切な形質源の非存在下では、改善することができない。
【0009】
循環選抜は、育成系統を改善する選択的育種方法であり、望ましい子孫の系統的な試験及び選抜と、それに続いて新しい集団を形成する選抜個体の組み換えを含む。循環選抜は、キュウリにおいて、収量などの遺伝率の低い量的形質を改善するのに有効であることが判明した。しかし、循環選抜は、育種計画において種々の形質の根底にある遺伝的基盤を増強せず、したがってその潜在能力は限られている。徐々にほんのわずかな改善がなされたにすぎない。
【0010】
キュウリの収量を改善する更に別の方法が必要である。本発明の一目的は、作物収量の改善されたキュウリ植物を生産する方法を提供することである。本発明の別の一目的は、作物収量の改善された栽培キュウリ植物を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定の野生型キュウリ登録種が、キュウリの栽培品種の収量を改善する方法に使用できることを発見した。この発見は、ドナー植物としての野生型キュウリ(Cucumus sativus)登録種PI169383(図2参照)由来の染色体セグメントを、レシピエントとしての市販用キュウリハイブリッド(やはり、C.sativus)の親のうちの1つの植物における対応する染色体位置に移入することによって開発された、遺伝子移入系(IL:introgression line)ライブラリーを調査したときにもたらされた。開発されたILライブラリーのフェノタイピングによって、遺伝子移入系の幾つかの収量が著しい増加を示した。詳細なマッピング研究によって、改善された収量特性が連鎖群4におけるPI169383由来の3個のセグメントに関連することが明らかになった。栽培キュウリ植物の対応する染色体におけるこれらのセグメントの遺伝子移入は、前記栽培キュウリ植物の子孫において収量の増加をもたらした。遺伝子移入セグメントは、量的形質遺伝子座(QTL:Quantitative Trait Loci)として特徴づけることができ、キュウリのゲノムにおけるこれらのQTLの位置は、7種類のAFLPマーカーによって規定された。遺伝子移入の更なるフェノタイピングは、異型接合的状況及びハイブリッド状況で実施された。結果を下記実施例に示す。
【0012】
この知見に基づいて、本発明者らは、改善された収量に関連した望ましい表現型特性のための新規遺伝的基盤を提供する。この遺伝的基盤は、野生型キュウリ(Cucumus sativus)登録種PI169383に存在するものである。
【0013】
高収量の表現型特性の根底にある遺伝子又は原因配列は(まだ)特定されていないが、遺伝子又は原因配列のゲノム位置(すなわち、座)が決定された。これは、遺伝子又は制御配列が所望のキュウリ育成系統に導入される育種プロセスを促進する。
【0014】
第1の態様においては、本発明は、キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有するキュウリ育成系統の植物であって、前記遺伝子移入が前記植物の高収量に関連した連鎖群3及び/又は4上の遺伝子移入であり、前記植物が前記遺伝子移入のない前記キュウリ育成系統の植物よりも高収量を示す、キュウリ育成系統の植物を提供する。好ましくは、前記高収量とは、植物1本当たりのより高い総果実重量を指す。
【0015】
例として、本発明者らは、キュウリ登録種PI169383由来の植物を遺伝子移入のドナー系統として、キュウリ系統Pyr42の植物と交雑させた。キュウリ系統Pyr42の種子の代表試料は、NCIMB、スコットランド、アバディーンに受託番号NCIMB41594及び寄託者参照番号Pyr42で寄託されている。生成した子孫を、Pyr42を反復親として用いて戻し交雑させた。本明細書では収量改善QTLと称する遺伝子移入を含む植物は、前記遺伝子移入のないPyr42系統の植物よりも高収量の植物を生成することが見いだされた。
【0016】
本発明の態様においては、収量増加は、好ましくは、植物1本当たりの総果実重量が、前記遺伝子移入のない前記キュウリ育成系統の植物に比べて、少なくとも3〜5%、より好ましくは少なくとも10%増加するようなものである。
【0017】
植物1本当たりの総果実重量とは、好ましくは、1収穫期間に植物1本で生産される販売可能な果実の総重量を表すものとする。キュウリは、販売重量で収穫され、販売重量の多数の果実をつける植物は、販売重量未満の多数の果実をつける植物よりも有利である。販売可能な果実の重量は、キュウリのタイプに応じて決まる。薄切り用及びベイトアルファ(Beit Alpha)は、ピクルス用よりも販売可能な果実の重量が大きい。好ましくは、本発明では収量増加とは、薄切り用、Beit Alpha及び長いキュウリ(Long Dutch又はヨーロッパ温室キュウリ)、最も好ましくは長いキュウリの収量増加を指す。本発明の好ましいキュウリ果実は、26、最も好ましくは27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44又は45cmの長さである。本発明の植物の果実の長さ/直径比は、好ましくは4、5、6、7、8、9以上、例えば25である。本発明の植物の販売可能な果実の重量は、好ましくは150〜900g、より好ましくは200〜800g、更により好ましくは250〜600gである。典型的な販売可能な果実の重量は、キュウリのタイプに大きく左右され得る。American薄切り用の場合、販売可能な果実の重量は約150〜230gであるが、ヨーロッパ温室キュウリの場合、販売可能な果実の重量は典型的には約300〜700gである。Beit Alphaの場合、販売可能な果実の重量は約90〜200gである。典型的には、Beit Alphaキュウリは長さ12〜18cmである。ピクルス用タイプの場合、販売可能な果実の重量は約80〜110gである。典型的には、ピクルス用キュウリは長さ9〜12cmである。これらの果実重量は商業的育成条件下で得られ、植物は最適性能のために剪定及び収穫される。かかる条件下で、本明細書で企図される販売可能な果実の重量に達する。
【0018】
好ましい一実施形態においては、本発明によるキュウリ育成系統の植物は、本質的に、キュウリ登録種PI169383由来の特定の遺伝子移入を獲得し、前記遺伝子移入は、高収量に関連したQTLを含む連鎖群3及び/又は4上に位置する。遺伝子移入を受けた植物は、同じドナーから別の遺伝子移入を得ることもあるが、大多数のレシピエントゲノムが不変であり、その結果、育成系統植物の表現型が本質的に保存されることが好ましい。これは、PI169383系統の植物をキュウリ育成系統の植物と単に交雑させるだけでは、本明細書に定義された収量QTLの遺伝子移入が得られず、一組みのPI169383由来の染色体と前記キュウリ育成系統の植物由来の別の染色体とを有するハイブリッドが生成するにすぎないので、達成することができない。代わりに、PI169383における収量増加に関連した連鎖群3及び/又は4上のセグメントは、キュウリ育成系統の植物を交雑させることと、それに続いて自家受粉及び/又は(反復親として前記キュウリ育成系統の別の植物に)戻し交雑すること、並びに遺伝子移入を有する前記自家受粉及び/又は戻し交雑の子孫集団からマーカー利用選抜を使用して植物を選抜することの1つ以上のステップとによって、キュウリ育成系統の植物のゲノムに移入することができる。
【0019】
好ましい一実施形態においては、連鎖群3及び/又は4上の前記遺伝子移入は、
i)AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1に関連したセグメント、
ii)AFLPマーカーE12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2に関連したセグメント、
iii)AFLPマーカーE21/M16−F−080−P2に関連したセグメント
からなる群から選択される連鎖群4上の少なくとも1個のセグメント、及び/又は
連鎖群3の染色体置換
を含む。
【0020】
遺伝距離は、図1でセンチモルガンで示し、表示され、検討中の集団に対して決定された。これらの値は、別の集団では異なり得る。したがって、マーカー自体がQTLの位置を最適に規定する。図は、高収量に関連したセグメントを規定しないマーカーも示す。
【0021】
前記遺伝子移入を有するキュウリ育成系統の植物は、系統をますます純粋又は近交系にするために、反復親に戻し交雑する連続ステップによって、エリート系統にすることができる。したがって、本発明は、高収量を有するエリート系統も提供する。前記エリート系統は、キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有し、前記遺伝子移入は、収量増加に関連した連鎖群3及び/又は4上の遺伝子移入である。
【0022】
別の一態様においては、本発明は、本発明のキュウリ育成系統の植物を交雑又は自家受粉させることによって生産されるキュウリ種子を提供する。好ましくは、前記種子はハイブリッド種子、特にF1ハイブリッド種子である。かかるハイブリッド種子は、例えば、本発明の2つのエリート系統を交雑させることによって生産することができる。
【0023】
別の一態様においては、本発明は、本発明の種子を育成することによって生産されるキュウリ植物を提供する。別の一態様においては、本発明は、この植物の植物部分を提供する。好ましくは、前記植物部分はキュウリ果実又は種子である。
【0024】
別の一態様においては、本発明は、上記キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する本発明のキュウリの育成系統(好ましくは、エリート系統)の植物を別のキュウリ植物と交雑させ、得られるハイブリッドキュウリ種子を収穫することを含む、ハイブリッドキュウリ種子を生産する方法を提供する。好ましい一実施形態においては、前記別のキュウリ植物は、キュウリの育成系統の植物、より好ましくは(異なる)エリート系統の植物である。前記別のキュウリ植物は、好ましくは、上記キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する植物である。
【0025】
別の一態様においては、本発明は、本発明の方法によって生産されるハイブリッドキュウリ種子を提供する。このハイブリッドキュウリ種子は、上記キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入をキュウリの育成系統(好ましくは、エリート系統)のゲノムバックグラウンド中に異型接合的又は同型接合的に含み、前記遺伝子移入が好ましくは上記AFLPマーカーによって規定されることを特徴とする。このハイブリッド種子は、発芽すると、本発明のキュウリの育成系統(好ましくは、エリート系統)の前記植物と上記別のキュウリ植物との正常な交雑種の全特性を有する(すなわち、かなりの商品価値のある販売可能な果実をつける)ハイブリッドキュウリ植物をより高収量で与える。同型接合植物と異型接合植物のどちらも本発明の一部である。というのは、収量特性は、相加的特徴であり、異型接合植物でも発現するからである。
【0026】
別の一態様においては、本発明は、本発明のハイブリッドキュウリ種子を育成することによって生産されるハイブリッドキュウリ植物を提供する。
【0027】
別の一態様においては、本発明は、本発明のハイブリッドキュウリ植物の植物部分を提供する。
【0028】
別の一態様においては、本発明は、キュウリ育成系統の植物の収量を改善する方法を提供する。前記方法は、
a)キュウリ育成系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させるステップと、
b)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、前記交雑ステップから得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
c)前記キュウリ育成系統を反復親として使用して、ステップ(b)で選抜された前記子孫キュウリ植物を自家受粉及び/又は戻し交雑させるステップと、
d)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、ステップ(c)の自家受粉又は戻し交雑から得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
e)ステップ(c)及び(d)の自家受粉及び/又は戻し交雑及び選抜の前記ステップを繰り返して、前記遺伝子移入に対して本質的に同型接合であるキュウリ育成系統の植物を生産するステップと
を含む。
【0029】
かかる方法の好ましい一実施形態においては、前記キュウリ育成系統はエリート系統である。
【0030】
別の一態様においては、本発明は、F1キュウリハイブリッドの収量を改善する方法を提供する。前記方法は、
a)前記F1キュウリハイブリッドの少なくとも第1の親系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させるステップと、
b)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、前記交雑ステップから得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
c)前記F1キュウリハイブリッドの前記親系統を反復親として使用して、ステップ(b)で選抜された前記子孫キュウリ植物を自家受粉及び/又は戻し交雑させるステップと、
d)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、ステップ(c)の自家受粉又は戻し交雑から得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
e)ステップ(c)及び(d)の自家受粉及び/又は戻し交雑及び選抜の前記ステップを繰り返して、前記遺伝子移入に対して本質的に同型接合である前記F1キュウリハイブリッドの親系統を生成するステップと、
f)ステップ(e)で得られた前記親系統を、高収量を有するF1ハイブリッドの生産のための親系統として使用するステップと
を含み、ステップ(b)又は(d)で実施される少なくとも1回の選抜はマーカー利用選抜によって実施される。
上記方法の好ましい実施形態においては、マーカー利用選抜手順は、AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1、E12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2及びE21/M16−F−080−P2に対する選抜を含む。
【0031】
更に別の一態様においては、本発明は、本発明による方法によって得られるキュウリ育成系統又はF1キュウリハイブリッドを提供する。更に別の一態様においては、本発明は、キュウリにおける高収量に関連したQTLを含む単離核酸配列を提供する。前記QTLは、
i)AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1に関連した連鎖群4上のセグメント、
ii)AFLPマーカーE12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2に関連した連鎖群4上のセグメント、
iii)AFLPマーカーE21/M16−F−080−P2に関連した連鎖群4上のセグメント
によって規定される。
【0032】
更に別の一態様においては、本発明は、キュウリ植物における高収量に関連したQTLの検出のための、AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1、E12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2及びE21/M16−F−080−P2からなる群から選択される遺伝マーカーの使用を提供する。
【0033】
更に別の一態様においては、本発明は、キュウリ植物、又は種子を含めたその部分を選抜する方法であって、
(a)キュウリ育成系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させ、前記交雑から種子を得、前記種子を子植物に育成することによって、子孫キュウリ植物又はその部分を生産するステップと、
(b)キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入セグメントの存在について前記子孫キュウリ植物又はその部分を試験し、キュウリ登録種PI169383の種子の代表試料がNCIMB、スコットランド、アバディーンに受託番号NCIMB41532及び寄託者参照番号PI169383で寄託されており、前記遺伝子移入が前記植物の高収量に関連した連鎖群4上の遺伝子移入であるステップと、
(c)前記試験から得られる情報に基づいて前記子孫キュウリ植物又はその部分を選抜するステップと、
(d)場合によっては、更なる育種を考慮するために前記情報を使用するステップと
を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】連鎖群4(全長100.1cM)の遺伝地図である。マーカーの識別情報及びそのそれぞれの相対的位置を示し、収量に対する効果を有する(+)又は持たない(−)(左側に示した)遺伝子移入セグメントとの関連も示す(表2と比較されたい。)。収量に対して効果を有することが見いだされた連鎖群4上の3個のセグメントを図の下に「+」で示す。
【図2】(左側、「IL06AB」によって示される)実用品種に近いIL、及び(右側、「ドナー06AB」によって示される)ドナーPI169383から得られる果実の写真である。果実は、植物の一わきの下(armpit)から収穫される。
【図3】本明細書に定義されたプライマー組合せE12/M24を用いて増幅された、(47レーンの各々で異なる)選抜されたキュウリ植物のゲノムのAFLPパターンを示す、AFLPゲルの部分的(切り抜き)画像である。長さ176及び177塩基対の断片は、隣接する矢印(左)で示され、両アレルマーカーE12/M24−F−177−P2/E12/M24−F−176−P1を示す。ゲルは上から下に泳動された。
【図4】本明細書に定義されたプライマー組合せE11/M62を用いて増幅された、(49レーンの各々で異なる)選抜されたキュウリ植物のゲノムのAFLPパターンを示す、AFLPゲルの部分的(切り抜き)画像である。マーカーE11/M62−F−200−P1を示す200塩基対の断片を矢印で示す(左)。
【図5】Cucumis sativusの染色体3(連鎖群3)の連鎖地図である。本願は、染色体3の染色体置換の使用も企図する。かかる置換系統においては、連鎖群3におけるマーカーによって特徴づけられる染色体を除いて、すべての核DNAが反復親から生ずる。好ましくはユニークであり遺伝的に連鎖した、連鎖地図に記されたマーカーに関連するすべてのDNAがドナー親PI169383から生ずる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
定義
本明細書では「キュウリ」という用語は、Cucumis sativus L.var.hardwickii(Royle)又はやせ細ったキュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus又は栽培キュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(中国群)又は網目模様の黄色キュウリ、Cucumis sativus L.(ガーキン群)又はピクルス用キュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(インド群)又は白縞キュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(日本群)又は日本キュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(レバノン群)又はレバノンキュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(ロシア群)又はロシアキュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(種無し群)又は種無しキュウリ、Cucumis sativus L.var.sativus(標準群)又は普通のキュウリ/温室キュウリ、Cucumis sativus L.var.sikkimensis Hook.f.又は褐色網目模様のキュウリ、及びCucumis sativus L.var.xishuangbannanesis ined又はシーサンパンナウリを含めて、Cucumis sativus L.種を指す。植物学的には、Cucumis sativus L.という名称は、野生種を指すが、種子及び野菜の取引では、分類学者が栽培品種に適用し得る任意のより長い植物名の同義語として使用される。「C sativus L.var.sativus」は、USDA GRINデータベースに入力されたほぼ1500の登録種に基づいて、一般に使用される。しかし、分類学者は植物学的変種「var.」と称する栽培植物を認めないので、この名称は将来変わり得る。「キュウリ」という用語は、(アメリカ及びヨーロッパ)ピクルス用、(アメリカ及びヨーロッパ)薄切り用、ヨーロッパ温室(単為結実)、中東(Beit Alphaタイプ)、及び東洋つる棚(oriental trellis)バープレス(Burpless)キュウリという表現を含む。ヨーロッパ、アメリカ、中東又は東洋という用語は、本発明のキュウリの地域的起源又は産地を限定するものではなく、単にキュウリ育種分野において市場タイプの一般に使用される参照にすぎない。
【0036】
Cucumis sativus var.sativus登録種PI169383は、アメリカ、アイオワ州エイムスのNorth Central Regional Plant Introduction Station(ノース・セントラル・リージョナル・プラント・イントロダクション・ステーション)(USDA,ARS,NCRPIS,Iowa State University(アイオワ州立大学),Regional Plant Introduction Station)によって維持され、この登録種の種子は、自由に配布することができる。この登録種は、生物学的状態「野生型」を有する。この植物学的変種は、トルコのイスタンブールで最初に収集された。その果実は、熟すと典型的な黄色を帯びる。低収量であり、一般的には緑色果実が要求されることから、商品価値が限られる。本発明の植物に言及するときには、キュウリ登録種PI169383への言及は意図されず、したがってかかる植物は本発明から除かれる。この登録種についての更なる情報は、Online Database of the Germplasm Resources Information Network(生殖質資源情報ネットワークのオンライン・データベース)(GRIN),USDA,ARS,National Genetic Resources Program(国立遺伝資源プログラム).National Germplasm Resources Laboratory(国立生殖質資源研究所),メリーランド州ベルツビル(http://www.ars−grin.gov)(2007年8月8日))から入手することができる。キュウリ登録種PI169383の種子の代表試料は、NCIMB、スコットランド、アバディーンに本願の出願人/譲受人によって2007年12月17日に受託番号NCIMB41532及び寄託者参照番号PI169383で寄託された。
【0037】
本明細書では「交雑」という用語は、雄株(又は配偶子)による雌株(又は配偶子)の受精を指す。「配偶子」という用語は、植物において配偶体から有糸分裂によって産生され、有性生殖に関与する、半数体生殖細胞(卵又は精子)を指す。有性生殖中には、異性の2個の配偶子が融合して二倍体接合子を形成する。この用語は、一般に、(精細胞を含めた)花粉及び(卵子を含めた)胚珠という表現を含む。したがって、「交雑」は、一般に、別の個体の花粉による1個体の胚珠の受精を指すのに対して、「自家受粉」とは、同じ個体の花粉による1個体の胚珠の受精を指す。ゲノム領域又はセグメントの遺伝子移入を行う状況において交雑に言及するときには、一植物の染色体の一部のみを別の植物の染色体に移入するために、両方の親系統のゲノムの無作為部分が親系統における配偶子の生成において交差現象の発生によって交雑中に組み換えられる必要があることを当業者は理解するであろう。したがって、両方の親のゲノムは単細胞中で交雑によって結合しなければならず、前記細胞からの配偶子の生成、及び受精におけるその融合後、遺伝子移入現象をもたらす。
【0038】
本明細書では「ハイブリッド」という用語は、2つの遺伝的に異なる個体間の交雑種の任意の子孫を意味し、より好ましくは、この用語は、種子から親の形質どおりに再生しない、2つの(エリート)育成系統間の交雑種を指す。本発明のハイブリッドキュウリは、好ましくは、強い雌性を示す。
【0039】
本明細書では「育成系統」という用語は、商業的に価値がある又は農学的に望ましい諸特性を有する栽培キュウリの系統を指し、野生型品種又は在来種と対比される。特に、育成系統は、優れた果実品質(まっすぐな円柱状のずんぐりした形状及び均一な濃緑色)を有することを特徴とする。この用語は、F1ハイブリッドの生産に使用される、本質的に同型接合的な、通常は近交系の、植物系統である、エリート育成系統又はエリート系統という表現を含む。本発明の育成系統は、好ましくは、ウドンコ病抵抗性を示す。
【0040】
本明細書では「収量」という用語は、果実収量(キュウリ)を指し、畑1m当たりの総果実重量(kg)/収穫期間、植物1本当たりの総果実重量(kg)/収穫期間、及びその組合せで表される生産量を指し得る。「収穫期間」という用語は、最初の販売可能な果実の生産から作物の活性化が必要な生産期の最後までの期間を指し、一般に温室のキュウリでは約12週間である。
【0041】
本明細書では「対立遺伝子(単数又は複数)」という用語は、遺伝子の1つ以上の代替形態のいずれかを意味し、対立遺伝子のすべてが少なくとも1つの形質又は特性に関係する。二倍体細胞又は生物体においては、所与の遺伝子の2個の対立遺伝子は、1対の相同染色体上の対応する座を占める。本発明はQTL、すなわち1個以上の遺伝子だけでなく制御配列も含み得るゲノム領域に関するので、場合によっては、「対立遺伝子」の代わりに「ハプロタイプ」(すなわち、染色体セグメントの対立遺伝子)と称する方がより正確である。しかし、その場合、「対立遺伝子」という用語は、「ハプロタイプ」という用語を含むと理解すべきである。
【0042】
「遺伝子」は、染色体上の特定の位置を占め、かつ植物における特定の表現型特性又は形質に対する遺伝的指令を含む、(DNA配列によって示されることが多い)遺伝単位として本明細書では定義される。QTL(量的形質遺伝子座)は、染色体上の特定の位置を占め、かつ植物における特定の表現型特性又は形質に対する遺伝的指令を含む、(1個以上の分子ゲノムマーカーによって示されることが多い)遺伝単位である。遺伝子とは対照的に、QTLの正確な境界は知られていないが、遺伝子マッピングの分野で周知であるファインマッピング技術と、それに続くDNA塩基配列決定ルーチンを使用して、当業者が過度の負担なしに見つけることができる。QTLは、その発現が、単独で若しくは別の遺伝子と組み合わせて、発現される表現型形質をもたらす少なくとも1個の遺伝子をコードし、又はその発現が、単独で若しくは別の遺伝子と組み合わせて、発現される表現型形質をもたらす少なくとも1個の遺伝子の発現を制御する少なくとも1個の調節領域をコードする。QTLは、1個以上の分子ゲノムマーカーを使用して、QTLを含む遺伝子移入のドナーのゲノムにおけるその遺伝子位置を示すことによって規定することができる。1個以上のマーカーは、特定の座を示す。各座間の距離は、通常、同じ染色体上の座の交差頻度によって測定される。2個の座が遠く離れているほど、それらの交差が起こる可能性は高くなる。逆に、2個の座が近いと、それらの交差が起こる可能性は低くなる。概して、1センチモルガン(cM)は、座(マーカー)間の1%の組み換えに等しい。QTLを複数のマーカーによって示すことができるときには、終点マーカー間の遺伝距離がQTLサイズを示す。QTLを規定するマーカーは、QTLと連鎖したマーカー、又はQTLと連鎖不平衡にあるマーカーであり得る。
【0043】
本明細書では「分子ゲノムマーカー」又は簡潔に「マーカー (Marker)」という用語は、核酸配列の特性差を可視化する方法に使用される指標を指す。かかる指標の例は、制限断片長多型(RFLP:restriction fragment length polymorphism)マーカー、増幅断片長多型(AFLP:amplified fragment length polymorphism)マーカー、一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)、挿入変異、マイクロサテライトマーカー(SSR)、配列特徴的(sequence−characterized)増幅領域(SCAR:sequence−characterized amplified region)、切断増幅多型配列(CAPS:cleaved amplified plymorphic sequence)マーカー若しくはアイソザイムマーカー、又は特定の遺伝子及び染色体位置を規定する本明細書に記載のマーカーの組合せである。したがって、本明細書に定義された「QTLと連鎖した分子マーカー」とは、SNP、挿入変異、及びより一般的なAFLPマーカー、又は同分野で使用される任意の他のタイプのマーカーを指し得る。本明細書で名前を挙げるAFLPマーカーに関して、AFLPマーカーは、2個のAFLPプライマーが隣接するキュウリ特異的DNA配列を示し、AFLPプライマーは、制限酵素EcoRI及びMseIの切断部位と合致する「コアプライマー」E及びMからなり(Vos(ヴォス)等、1995,Nucleic Acids Res.(ヌクレイック・アシッズ・リサーチ)23:4407−4414;Bai(バイ)等、2003,Mol.plant microbe interactions(モレキュラー・プラント・マイクロープ・インタラクション) 16:169−176)、示した2又は3個の余分な選択塩基が続き、各々「コアプライマー」が伸長される選択ヌクレオチドを特定する2桁のコードが続く(11:AA;12:AC;13:AG;14:AT;15:CA;16:CC;17:CG;18:CT;21:GG;22:GT;24:TC;25:TG;60:CTC;62:CTT)。したがって、E12/M24−F−063−P2は、全長63bpの断片を生成する増幅プライマーEcoRI+AC及びMseI+TCを用いて得られるマーカーを表す。断片の長さは、断片の検出に使用される方法に依存し得、その真の長さ±少数塩基の近似値である。本明細書に記載のマーカーを規定する際には、染色体上の該マーカーの位置を連鎖地図中の別のマーカーに対して表記すべきである。したがって、マーカーE12/M24−F−063−P2は、そのプライマー配列、及び増幅産物としてのその長さと、図1においてcM単位の対応する距離で示されるE11/M62−F−200−P1及び/又はE12/M24−F−177−P2に対するその位置、又は本明細書に記載のように、別のマーカーに対するその位置との両方で定義される。
【0044】
「座」は、所与の植物種の染色体上の所与の遺伝子が占める位置として本明細書では定義される。
【0045】
本明細書では「異型接合」という用語は、異なる対立遺伝子が相同染色体上の対応する座に存在するときの遺伝子状態を意味する。
【0046】
本明細書では「同型接合」という用語は、同一の対立遺伝子が相同染色体上の対応する座に存在するときの遺伝子状態を意味する。
【0047】
本明細書では「遺伝子移入系」という用語は、ILと略記され、他の点では均一なバックグラウンドにおいてドナー親から生ずる明確な染色体セグメント(好ましくは、マーカー分解能に応じた単一の明確な染色体セグメント)を収容し、典型的には95%を超えるレシピエントゲノム(通常、レシピエント及び反復親として使用される育成系統のゲノム)を含む系統を指す。(ドナーのゲノム全体を一緒に網羅する)ILライブラリー中の異なるILと反復親の表現型変異は移入セグメントに直接関連するので、ILはQTLの特定を容易にする。遺伝子移入系は、典型的には同型接合的である。
【0048】
本明細書では「純粋近交系」又は「近交系」という用語は、自家受粉の繰り返しによって得られる実質的に同型接合的な植物又は植物系を指す。
【0049】
「組み換え現象」とは、減数分裂交差現象を指す。
【0050】
本明細書では「遺伝子移入」という用語は、個体、種、変種又は栽培変種を交雑させることによって、一個体、種、変種又は栽培変種から別の個体、種、変種又は栽培変種のゲノムに移動した、ゲノムセグメントを指す。
【0051】
本明細書では「移入すること」、「移入する」及び「移入された」という用語は、個々の遺伝子又は形質全体が、種、変種又は栽培変種を交雑させることによって、一個体、種、変種又は栽培変種から別の種、変種又は栽培変種のゲノムに移動する、自然と人工プロセスの両方を指す。植物育種においては、プロセスは、通常、移入された遺伝子又は形質に加えて反復親の特性を本質的に有するますます同型接合的な植物を規定する、自家受粉又は反復親への戻し交雑を含む。
【0052】
「戻し交雑」という用語は、2つの親系統間の交雑から得られる植物をその親系統の一方と交雑させるプロセスを指し、戻し交雑に使用された親系統を反復親と称する。戻し交雑を繰り返すと、ゲノムはますます同型接合的又は近交系になる。
【0053】
「自家受粉」という用語は、個体がそれ自体の花粉で授粉又は受精する自家受精プロセスを指す。
【0054】
「遺伝子操作」、「形質転換」及び「遺伝子改変」はすべて、別の生物体のDNA、通常は染色体DNA又はゲノムへの単離及びクローン化された遺伝子の移行の同義語として本明細書では使用される。
【0055】
本明細書では「分子マーカー」という用語は、核酸配列の特性差を可視化する方法に使用される指標を指す。かかる指標の例は、制限断片長多型(RFLP)マーカー、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、一塩基多型(SNP)、マイクロサテライトマーカー(例えば、SSR)、配列特徴的増幅領域(SCAR)マーカー、切断増幅多型配列(CAPS)マーカー若しくはアイソザイムマーカー、又は特定の遺伝子及び染色体位置を規定する本明細書に記載のマーカーの組合せである。
【0056】
本明細書では「植物部分」という用語は、植物中で損なわれていない植物細胞などの単細胞及び細胞組織、細胞塊、並びにキュウリ植物を再生することができる組織培養物を含めて、キュウリ植物の一部を指す。植物部分の例としては、花粉、胚珠、葉、胚、根、根端、やく、花、果実、茎 苗条及び種子の単細胞及び組織、並びに花粉、胚珠、葉、胚、根、根端、やく、花、果実、茎、苗条、若枝、台木、種子、プロトプラスト、カルスなどが挙げられるが、それだけに限定されない。本発明の植物部分は、本発明の態様においては、生及び/又は加工された形態で使用することができる。
【0057】
本明細書では「集団」という用語は、共通の遺伝的起源を有する植物の遺伝的に異質なコレクションを意味する。
【0058】
本明細書では「変種」という用語は、構造又は遺伝的な特徴及び/又は性能によって同じ種内の別の変種から識別することができる類似植物の群を指す。
【0059】
(栽培品種を表す)「栽培変種」という用語は、通常は天然に存在しないが、ヒトによって栽培された、すなわち「野生型」状態以外の生物学的状態を有する、変種を意味するのに本明細書では使用される。「野生型」状態は、植物又は登録種の最初の栽培されていない状態、すなわち自然状態を示す。「栽培変種」という用語は、半自然、半野生、やせ細った、伝統的栽培変種、在来種、育種材料、研究材料、ブリーダー系(breeder’s line)、合成集団、ハイブリッド、創始者株(founder stock)/基礎集団、近交系(ハイブリッド栽培変種の親)、分離集団、変異体/遺伝株、及び進化した/改善された栽培変種を含むが、それだけに限定されない。
【0060】
「エリートバックグラウンド」という用語は、QTL又は遺伝子移入の遺伝的背景が育成系統の遺伝的背景であることを示すのに本明細書では使用される。本明細書では、自然バックグラウンドは、キュウリ登録種PI169383の遺伝的背景である。キュウリ登録種PI169383の連鎖群(染色体)4から育成系統の植物の染色体4上の同じ位置へのQTLを含むDNAの移行を含む方法は、QTLがその天然の遺伝的背景ではなくエリートバックグラウンドに存在する結果になる。この用語は、異型接合的状況と同型接合的状況の両方を含む。
【0061】
好ましい実施形態の説明
【0062】
より高収量の植物の生産
【0063】
本明細書で確認される遺伝子移入の効果は、果実重量の高収量である。これは、多数の果実間の関係が研究されたShetty(シェティ)等(Crop Science(クロップ・サイエンス) 42:2174−2183(2002))による刊行物とは対照的である。Shetty等は、PI169383の実際の収量データを開示せず、その性能について単に結論を下しているだけである。さらに、Shetty等は、晩生、低収量、雌性型近交系のPI169383を含めた遺伝子バンク登録種を比較した。近交系の1つは、例えばWI2757であった。WI2757は、1ha当たり27.000個の販売可能な果実をつけ(Shetty等、表5)、これは1平方メートル当たり2.7個の販売可能な果実に等しい。それに対して、今回の試験のPI169383は、1平方メートル当たり3.4個の販売可能な果実をつけることが判明したが、今回の試験に使用した近交系は、はるかに高い収量を示し、1平方メートル当たり約7個以上の販売可能な果実をつける。Shetty等は、その実験設定の結果として、PI169383をより高収量の登録種であると考えた。しかし、通常の高収量近交系と比較して、PI169383は、植物1本又は1m当たりの果実重量、さらに、植物1本当たりの果実数の点で低収量登録種である。これは、本発明の実施例に記載のデータによって強調される。そのデータは、Shetty等の観察を適切にとらえ、PI169383が栽培キュウリと比較しても少ない果実をつけることを示している。しかし、PI169383がキュウリの数によって高収率を示すと考えられるとしても、PI169383が、重量の点で高収量をもたらす遺伝子領域を含むことは依然として予想外である。結局、数量と重量の負の相関は、植物育種にはつきものである。一例を下記図2に示す。図2は、ドナー系統PI169383が多数の小さいキュウリを房につけるのに対して、遺伝子移入系(IL)がそれより少ない大きい果実を房につけることを示している。別の周知の例としては、果実サイズがかなり異なるにもかかわらず、サクランボ対ビーフステークトマトからの等重量の収量が挙げられる。したがって、任意の高重量収量遺伝子移入が、高数量収量を示すと報告されたPI169383に由来し得ることは予想外であった。
【0064】
キュウリ育種においては、数量収量と重量収量は、別々に考慮される形質である。果実1個当たりの重量は、市場の要件によって決まる固定値であり、重量の高収量は、(小さいキュウリの)数の高収量よりも重要である。
【0065】
本発明者らは、キュウリ登録種PI169383において、高収量に関連した遺伝子又は制御配列が連鎖群4上に存在することを発見した。Horejsi(ホジエイシ)等、(2000)によれば、Cucumis sativus Lの連鎖群4は、べと病(dm)抵抗性に対する抵抗性の遺伝子も含む。LG4は、さらに、以下の周知のマーカーの1種類又は組合せを特徴とし得る:1)CSC443/H3(RFLPマーカー、Bradeen(ブラディーン)等、2001,Genome(ゲノム) 44:111−119)、2)BC551.550(RAPDマーカー、Park(パーク)等、2000,Genome 43:1003−1010)、3)PER(アイソザイム、Bradeen等、上掲)。
【0066】
最終的な染色体番号(chromosome number)は、高収量用QTLが位置するキュウリ染色体にまだ割り当てられていない。しかし、染色体は、これら及び別のゲノム領域が位置する連鎖群(LG4)を参照して明示することができる。連鎖群という用語は、収量改善を与える対立遺伝子が位置し、染色体と同じ階層レベルを有する、物理的ゲノム単位を指すのに本明細書では使用される。
【0067】
第1の方法は、キュウリ登録種PI169383の植物から目的キュウリ系統の植物に高収量用QTLを移入することを含む。これは、QTLが目的キュウリ系統の遺伝的背景に存在する状況をもたらす。子植物における適切な遺伝子移入の確立は、QTL特異的マーカーを使用することによってモニターすることができる。
【0068】
組み換えは、減数分裂中の2個の相同染色体間の情報交換である。組み換え植物では、染色体内の特定の位置に最初に存在するDNAは、別の植物のDNAと(すなわち、母性は父性と、又は父性は母性と)交換される。必要な材料のみを交換し、染色体上の価値ある最初の情報をできるだけ維持するために、通常は2回の交差現象を必要とする。かかる組み換えを見いだす通常の方法は、F2植物集団をスクリーニングすることである。この集団は、まれな(低頻度の)二重組み換えを検出するために、十分なサイズでなければならない。組み換え頻度は以下のように計算することができる。例えば、10cM領域における組み換えは、10%の頻度で見つけることができる(1センチモルガンは、検定交雑における1%の組み換え子孫として定義される。)。
【0069】
本発明は、今回、マーカー利用選抜(MAS:marker assisted selection)のより良好なモデルを規定する。したがって、本発明は、植物育種方法に関し、さらに、植物、特にキュウリ植物、特に育種計画に使用される育種植物としての栽培キュウリ植物、又は本明細書では農学的に望ましい植物とも称する、価値あるキュウリ果実の生産に特に関連した、所望の遺伝子型又は潜在的な表現型特性を有するための栽培キュウリ植物を選抜する方法に関する。ここで、栽培植物は、所望の遺伝子型又は潜在的表現型特性を有するために農業又は園芸作業において意図的に選抜された植物、又は意図的に選抜された植物に由来する植物、特に同系交配によって得られる植物として定義される。
【0070】
収量改善QTLは相加的形質であるので(ハイブリッドは、2種類の親の中間的な表現型を発現する。)、収量改善QTLはF1又はBC1において植物収量を測定することによってモニターすることができる。しかし、これは管理条件下では多数の栽培週間を必要とするので、子植物における適切な遺伝子移入の確立を、以下に説明するシス又はトランスカップリングにおいて、本明細書に記載のQTL特異的マーカーを使用することによってモニターできることが特に有利である。したがって、MAS又はMAB法を使用することによって、植物を選抜する方法が当業者に提供される。
【0071】
したがって、本発明は、高収量を示すCucumis sativus種の植物を選抜する方法であって、前記植物において、本明細書に定義された収量改善QTLの連鎖群(染色体)4上の存在を検出することを含む、方法も提供する。かかる植物を選抜する本発明の好ましい方法において、該方法は、
a)キュウリ植物からゲノムDNAの試料を作製すること、
b)前記ゲノムDNA試料において収量改善QTLと連鎖した少なくとも1個の分子マーカーを検出すること
を含む。
【0072】
キュウリ植物からゲノムDNAの試料を作製するステップは、当分野で周知である標準DNA単離方法によって実施することができる。
【0073】
分子マーカーを検出するステップ(ステップb)は、好ましい一実施形態においては、AFLP法に使用された1セットの双方向性プライマーを使用してQTL用マーカーである増幅産物を産生することを含むことができる。かかる1セットのプライマーを、本明細書ではAFLPマーカーを規定するプライマー、又はマーカー特異的プライマーと称する。双方向性とは、プライマーの方向が、核酸増幅反応において、一方は順方向プライマーとして機能し、一方は逆方向プライマーとして機能するようなものであることを意味する。
【0074】
あるいは、分子マーカーを検出するステップ(ステップb)は、別の好ましい一実施形態においては、前記分子マーカーを規定する核酸配列に実質的に相補的である塩基配列を有する核酸プローブの使用を含むことができる。この核酸プローブは、前記分子マーカーを規定する核酸配列と厳密な条件下で特異的にハイブリッド形成する。適切な核酸プローブは、例えば、マーカーに対応する一本鎖の増幅産物とすることができる。
【0075】
分子マーカーを検出するステップ(ステップb)は、前記ゲノムDNAに対して核酸増幅反応を実施して、前記QTLを検出することも含むことができる。これは、1セットのマーカー特異的プライマーを用いたPCR反応を実施することによって適切に行うことができる。好ましい一実施形態においては、前記ステップb)は、前記QTL用AFLPマーカーを規定する少なくとも1セットのプライマー、又は前記QTL用AFLPマーカーの核酸配列と厳密な条件下で特異的にハイブリッド形成する1セットのプライマーの使用を含む。
【0076】
ステップd)の予測長さ又は予測核酸配列を有する増幅DNA断片を検出するステップは、増幅DNA断片が、マーカーが最初に検出された植物からのDNAとの同じプライマーを用いた類似の反応に基づく予想長さに対応する長さ(±数塩基、例えば、1、2又は3塩基多い又は少ない長さ)、又は前記マーカーが最初に検出された植物におけるQTLに関連したマーカーの配列に基づく予想配列に対応する(80%を超える、好ましくは90%を超える、より好ましくは95%を超える、更により好ましくは97%を超える、更により好ましくは99%を超える相同性を有する)核酸配列を有するように好ましくは実施される。本明細書に定義された遺伝子移入を有する植物(ドナー計画)にないが、遺伝子移入を受ける植物(レシピエント植物)に存在するマーカー(いわゆる、トランスマーカー)も、子植物間の遺伝子移入を検出するアッセイに有用であり得るが、マーカーがないことを試験して、特定の遺伝子移入の存在を検出することが最適ではないことを当業者は承知している。
【0077】
予測長さ又は予測核酸配列を有する増幅DNA断片を検出するステップは、標準ゲル電気泳動技術によって、又は自動DNA配列決定装置を使用することによって、実施することができる。これらの方法は、当業者に周知であるので、本明細書で述べる必要はない。マーカーは、そのプライマー配列に基づいて、増幅産物の長さ、及び連鎖地図上の別のマーカーに対するマーカー位置と組み合わせて、定義されることに留意されたい。
【0078】
分子マーカー及びQTL
【0079】
分子マーカーは、核酸配列の差の可視化に使用される。この可視化は、制限酵素を用いた消化後のDNA−DNAハイブリダイゼーション技術(RFLP)、及び/又はポリメラーゼ連鎖反応法を用いた技術(例えば、STS、マイクロサテライト、AFLP)によって可能である。2つの親遺伝子型間の差はすべて、これらの親遺伝子型の交雑に基づくマッピング集団(例えば、BC、F)において分離する。異なるマーカーの分離を比較することができ、組み換え頻度を計算することができる。異なる染色体上の分子マーカーの組み換え頻度は、一般に50%である。同じ染色体上に位置する分子マーカー間では、組み換え頻度は、マーカー間距離に依存する。低組み換え頻度は、染色体上のマーカー間の短い遺伝距離に対応する。すべての組み換え頻度を比較すると、染色体上の分子マーカーの最も論理的な順序が得られる。この最も論理的な順序を連鎖地図において示すことができる。連鎖地図上の高収量に関連した隣接又は近接マーカー群は、高収量に関連したQTLの位置を正確に示す。
【0080】
本明細書で特定するマーカーは使用することができ、以下に説明する本発明の種々の態様である。本発明の態様は、本明細書で特定するマーカーの使用に限定されない。態様は、本明細書に明示的に開示されないマーカー、さらにはまだ特定されていないマーカーを使用することもできることが強調される。形質発現が多数の予測できない因子に依存する遺伝単位「遺伝子」とは異なり、遺伝単位「QTL」は、表現型の定量化可能な形質に直接関連したゲノム上の領域を意味する。したがって、遺伝子自体は植物育種にほとんど又は全く関係しないが、QTLは植物育種に直接適用することができる。
【0081】
本明細書で特定されるQTLは連鎖群4上に位置し、その位置は、幾つかの別の任意のマーカーによって最適に特徴づけられる。この検討では、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、一塩基多型(SNP)、及び挿入変異マーカーを使用したが、制限断片長多型(RFLP)マーカー、マイクロサテライトマーカー(例えば、SSR)、配列特徴的増幅領域(SCAR)マーカー、切断増幅多型配列(CAPS)マーカー若しくはアイソザイムマーカー又はこれらのマーカーの組合せを使用することもできた。一般に、QTLは、数百万塩基の領域に及ぶことがある。したがって、QTLの全配列情報を提供することは、実際には不可能であるだけでなく、不必要でもある。というのは、一連の近接ゲノムマーカーの存在と特定の表現型形質の存在との間で認められた相関を通じてQTLが最初に検出される方法によって、子植物集団中で特定の表現型形質を示す遺伝的潜在能力を有する植物を追跡することができるからである。したがって、マーカーの非限定的リストを提供することによって、本発明は、育種計画におけるQTLの有用性を規定する。
【0082】
マーカーは、特定の品種系統に特異的である。したがって、特定の形質は特定のマーカーに関連する。本願に示すマーカーは、QTLの位置を示すだけでなく、植物における特定の表現型形質の存在とも相関する。ゲノム上のQTLの位置を示す近接ゲノムマーカーは、主に任意又は非限定的であることに留意することが重要である。一般に、QTLの位置は、表現型形質と統計学的相関を示す、近接する一連のマーカーによって示される。マーカーがその一連の外側に存在すると(すなわち、あるしきい値未満のLODスコアを有するマーカー。マーカーが離れすぎて領域におけるマーカーとQTLの組み換えが頻繁に起こりすぎ、マーカーの存在が表現型の存在と統計的に有意に相関しないことを示す。)、QTLの境界が設定される。したがって、指定領域内に位置する別のマーカーによってQTLの位置を示すこともできる。
【0083】
近接ゲノムマーカーは、個々の植物において、QTL(したがって、表現型)の存在を示すのに使用することもでき、すなわち、マーカー利用選抜(MAS)手順に使用できることに留意することも更に重要である。原則的には、潜在的に有用であるマーカーの数は、有限であるが、極めて大きい可能性がある。当業者は、本願に記載のマーカーに加えて別のマーカーを容易に特定することができる。例えばあるしきい値を超える確立されたLODスコアを有するマーカーが広がるゲノム領域の物理的境界内にあり、それによって交雑においてマーカーとQTLの組み換えが全く又はほとんど起こらないことを示す、QTLと連鎖した任意のマーカー、及びQTLと連鎖不平衡にある任意のマーカー、及びQTL内の実際の原因となる変異を表すマーカーを、MAS手順において使用することができる。これは、収量改善QTLに対するAFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1、E12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2、E21/M16−F−080−P2などのQTLに関連すると本明細書で認めたマーカーが、MAS手順における使用に適したマーカーの単なる例であることを意味する。マーカーE22M12−F−278−P1及びE22/M12−F−092−P2も、図1に示す形質と連鎖しているので、使用することができる。これらのマーカーは、適切に、その存在がQTLの存在と一致することを示す「シスマーカー」であり得る。さらに、QTL又はその特定の形質付与部分が別の遺伝的背景(すなわち、別の植物系のゲノム)に移入されると、幾つかのマーカーはもはや子孫には存在しないこともあるが、形質は子孫中に存在する。これは、かかるマーカーが、最初の親系統におけるQTLの特定の形質付与部分であるゲノム領域の外側にのみあることを示し、新しい遺伝的背景が、異なるゲノム機構を有することを示している。その欠如が子孫への遺伝因子の導入に成功したことを示すかかるマーカーは、「トランスマーカー」と称され、本発明下のMAS手順において同様に適切であり得る。
【0084】
マーカーに関する本発明の収量QTLのハプロタイプは、E12/M24−F063−P2シス(マーカーの存在)、E11/M62−F−200−P1トランス(マーカーの欠如)、E12/M24−F−177−P2シス(マーカーの存在)、E12/M24−F−176−P1トランス(マーカーの欠如)、E25/M13−F−128−P2シス(マーカーの存在)、E22M12−F−278−P1トランス(マーカーの欠如)、E22/M12−F−092−P2シス(マーカーの存在)、E21/M16−F−080−P2シス(マーカーの存在)である。P1又はP2はマーカーの親ラベル(ゲノムバックグラウンド)を示し、P1は反復親であり、P2はドナー親である。
【0085】
QTLを特定した後、QTL効果(改善された収量)は、例えば、検討中のQTLに対する分離したBC子孫の収量を評価することによって確認することができる。好ましくは、本発明のQTLの存在を検出することは、本明細書に定義されたQTLマーカーの少なくとも1種類を用いて実施される。したがって、本発明は、前記マーカーを使用することによって、キュウリにおける改善された収量のためのQTLの存在を検出する方法にも関する。
【0086】
本発明のQTLのヌクレオチド配列は、前記QTLに関連した1種類以上のマーカーのヌクレオチド配列を決定し、前記マーカー配列の内部プライマーを設計することによって解明することができる。次いで、内部プライマーを使用して、前記マーカー配列の外側の配列QTLを更に決定することができる。例えば、AFLPマーカーのヌクレオチド配列は、対象植物のゲノム中の前記マーカーの存在の判定に使用される電気泳動ゲルから前記マーカーを単離し、例えば当分野で周知であるジデオキシ鎖終結法によって、前記マーカーのヌクレオチド配列を決定することによって得ることができる。
【0087】
キュウリ植物におけるQTLの存在を検出する方法の実施形態においては、該方法は、前記QTLと連鎖したマーカーの核酸配列と厳密なハイブリダイゼーション条件下でハイブリッド形成可能なオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを生成するステップ、前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをキュウリ植物の消化されたゲノム核酸と接触させるステップ、及び前記オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドと前記消化されたゲノム核酸との特定のハイブリダイゼーションの存在を判定するステップも含むことができる。
【0088】
好ましくは、前記方法は、前記キュウリ植物から得られる核酸試料に対して実施されるが、in situハイブリダイゼーション法を使用することもできる。あるいは、より好ましい一実施形態においては、当業者は、QTLのヌクレオチド配列が決定された後に、厳密なハイブリダイゼーション条件下で前記QTLの核酸配列とハイブリッド形成可能な特定のハイブリダイゼーションプローブ又はオリゴヌクレオチドを設計することができ、かかるハイブリダイゼーションプローブをキュウリ植物における本発明のQTLの存在を検出する方法に使用することができる。
【0089】
原則的には、本明細書で使用される個々のAFLPマーカーは、指定マーカーコードを有する。このコードは、規定された登録種においてプライマーの増幅産物の長さを示す図と場合によっては組み合わせて、2種類のプライマーを規定する(上記表1の説明も参照されたい。)。したがって、AFLPマーカーは、キュウリゲノムDNAに対して増幅反応を実施することによって得られる一本鎖又は二本鎖DNA断片を規定する。増幅反応は、示した登録種の場合には、示した長さの断片をもたらす。さらに、マーカーは、5’−3’方向に、第1のプライマー配列、キュウリ特異的DNA配列及び第2のプライマー配列からなる配列、及びその補足配列(complement)を含む。こうして2個のプライマーが隣接したキュウリ特異的DNA配列。「キュウリ特異的DNA配列」という用語は、それぞれのプライマーが隣接する領域のヌクレオチド配列を意味し、キュウリ登録種PI169383から増幅された配列、又はそれと少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の配列相同性を有する配列を表す。
【0090】
トランスジェニック法による高収量を有するキュウリ植物の生産
【0091】
本発明の別の一態様によれば、QTLを含む核酸(好ましくはDNA)配列を、高収量を有するキュウリ植物の生産に使用することができる。この態様においては、本発明は、改善された収量を有するキュウリ植物を生産するための、本明細書に定義されたQTL又はその収量改善部分の使用を規定する。この使用は、適切なレシピエント植物における前記QTLを含む核酸配列の導入を含む。上述したように、前記核酸配列は、適切なドナー植物に由来することができる。本発明による適切な収量改善QTL源は、トルコ産のキュウリ在来種PI169383である。かかる植物は、例えば、T.C.Wehner(ウェナー),cucumber gene curator for the Cucurbit Genetics Cooperative(ウリ科植物の遺伝学共同体のためのキュウリ遺伝子のキュレータ)(CGC),Department of Horticultural Science(デパートメント・オブ・ホルティカルチュラル・サイエンス),North Carolina State University(ノースカロライナ州立大学),ノースカロライナ州ローリー、27695−7609 U.S.A.、又はUSDAのNational Germplasm Resources Laboratory,メリーランド州ベルツビルによって主催されるGermplasm Resources Information Network(GRIN)から得ることができる。
【0092】
収量を改善するQTLを含む核酸配列又はその収量改善部分は、利用可能な任意の方法によって適切なレシピエント植物に移行させることができる。例えば、前記核酸配列は、PI169383系統の植物をその収量を改善すべき選抜育成系統と交雑させることによって(すなわち、遺伝子移入によって)、形質転換によって、プロトプラスト融合によって、倍加半数体技術によって、胚救出によって、又は任意の他の核酸移行系によって、場合によっては続いてQTLを含み高収量を示す子植物の選抜によって、移行させることができる。遺伝子導入による移行方法では、高収量用QTLを含む核酸配列を前記ドナー植物から当分野で公知の方法によって単離することができる。こうして単離された核酸配列は、トランスジェニック法によって、例えば、ベクターによって、配偶子中で、又は前記核酸配列で被覆された弾道粒子などの任意の他の適切な移行要素中で、レシピエント植物に移行させることができる。
【0093】
植物の形質転換は、一般に、植物細胞中で機能する発現ベクターの構築を含む。本発明においては、かかるベクターは、高収量用QTLを含む核酸配列を含み、プロモーターなどの調節エレメントの制御下にある、又は調節エレメントに作用可能に結合した、収量改善遺伝子を含むことができる。発現ベクターは、1個以上のかかる作動可能に結合した遺伝子/調節エレメントの組合せを含むことができる。ただし、組合せに含まれる遺伝子の少なくとも1個は、改善された収量をコードする。ベクター(単数又は複数)は、プラスミドの形とすることができ、単独で又は別のプラスミドと組み合わせて使用して、Agrobacterium形質転換系などの当分野で公知の形質転換方法によって、改善された収量を示すトランスジェニック植物を生産することができる。
【0094】
発現ベクターは、マーカーを含む形質転換細胞をネガティブ選択によって(選択マーカー遺伝子を含まない細胞の成長を阻害することによって)、又はポジティブ選択によって(マーカー遺伝子によってコードされる産物をスクリーニングすることによって)回収できるようにする(プロモーターなどの)調節エレメントに作動可能に結合した少なくとも1個のマーカー遺伝子を含むことができる。植物の形質転換のために多数の一般に使用される選択マーカー遺伝子が当分野で公知であり、例えば、抗生物質や除草剤などの選択化学薬品を代謝的に解毒する酵素をコードする遺伝子、又は阻害剤に非感受性である変化した標的をコードする遺伝子が挙げられる。マンノース選択などの幾つかのポジティブ選択方法が当分野で公知である。あるいは、マーカーのない形質転換を使用して、上記マーカー遺伝子のない植物を得ることができ、その技術は当分野で公知である。
【0095】
発現ベクターを植物に導入する一方法は、Agrobacteriumの天然形質転換系に基づく(例えば、Horsch(ホーシュ)等,1985参照)。A.tumefaciens及びA.rhizogenesは、植物細胞を遺伝的に形質転換する植物病原性土壌細菌である。A.tumefaciens及びA.rhizogenesそれぞれのTi及びRiプラスミドは、植物の遺伝的形質転換の原因である遺伝子を有する。発現ベクターを植物組織に導入する方法は、植物細胞とAgrobacterium tumefaciensの直接感染又は共培養を含む。Agrobacteriumベクター系及びAgrobacterium媒介性遺伝子導入方法の記述は、米国特許第5,591,616号にある。植物発現ベクター及びレポーター遺伝子及び形質転換プロトコルの一般的記述、並びにAgrobacteriumベクター系及びAgrobacterium媒介性遺伝子導入方法の記述は、Gruber and Crosby(グルーバー及びクロスビー),1993に見いだすことができる。植物組織の一般的培養方法は、例えば、Miki(ミキ)等、1993及びPhillips(フィリップス)等、1988に記載されている。分子クローニング技術及び適切な発現ベクターの適切な入門書は、Sambrook and Russell,2001である。
【0096】
発現ベクターを植物に導入する別の方法は、微粒子媒介性形質転換に基づき、DNAは微粒子表面に載って輸送される。発現ベクターは、微粒子銃装置を用いて植物組織に導入される。微粒子銃装置は、植物細胞壁及び膜を貫通するのに十分な速度300から600m/sに微粒子を加速する。DNAを植物に導入する別の方法は、標的細胞の超音波処理による。あるいは、リポソーム又はスフェロプラスト融合を使用して、発現ベクターを植物に導入してきた。CaCl沈殿、ポリビニルアルコール又はポリ−L−オルニチンを使用したDNAのプロトプラストへの直接取り込みも報告された。プロトプラスト及び細胞全体及び組織の電気穿孔法も記述された。
【0097】
キュウリゲノムの一部を細菌人工染色体(BAC)、すなわち細菌Escherichia coli中に存在する天然F因子プラスミドに基づく、E.coli.細胞中でDNA断片(100から300kb挿入断片サイズ、平均150kb)をクローン化するのに使用されるベクターに導入する、BACの使用などの別の周知技術を、例えば、BIBAC系と組み合わせて使用して、トランスジェニック植物を生産することができる。
【0098】
キュウリ標的組織の形質転換後、上記選択マーカー遺伝子の発現によって、当分野で現在周知である再生及び選択方法を用いた形質転換細胞、組織及び/又は植物の優先的選択が可能になる。
【0099】
非トランスジェニック法による改善された収量を有するキュウリ植物の生産
【0100】
改善された収量を有するキュウリ植物を生産する別の実施形態においては、プロトプラスト融合をドナー植物からレシピエント植物への核酸移行に使用することができる。プロトプラスト融合は、単一の二核又は多核細胞を産生する、2個以上のプロトプラスト(細胞壁が酵素処理によって除去された細胞)間の体細胞交雑などの誘発又は自発性結合である。融合細胞は、天然に雑種形成させることができない植物種を用いてさえ得ることができ、形質の望ましい組合せを示すハイブリッド植物に組織培養される。より具体的には、第1のプロトプラストは、PI169383のキュウリ植物から得ることができる。第2のプロトプラストは、第2のキュウリ又は別の植物変種、好ましくは耐病性、耐虫性、価値ある果実特性など、ただしそれだけに限定されない商業的に価値のある特性を含むキュウリ系統から得ることができる。次いで、プロトプラストは、当分野で公知である伝統的プロトプラスト融合手順を使用して融合される。
【0101】
あるいは、本明細書に記載のQTLを含む核酸のドナー植物からレシピエント植物への移行に胚救出を使用することができる。胚救出は、生存可能な種子を植物が生成することができない交雑種から胚を単離する手順として使用することができる。このプロセスでは、植物の受精した子房又は未熟な種子を組織培養して、新しい植物を生産する。
【0102】
本発明は、キュウリ育成系統の植物の収量を改善する方法であって、
【0103】
a)キュウリ育成系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させるステップと、
【0104】
b)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、前記交雑ステップから得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
【0105】
c)前記キュウリ育成系統を反復親として使用して、ステップ(b)で選抜された前記子孫キュウリ植物を自家受粉及び/又は戻し交雑させるステップと、
【0106】
d)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、ステップ(c)の自家受粉又は戻し交雑から得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
【0107】
e)ステップ(c)及び(d)の自家受粉及び/又は戻し交雑及び選抜の前記ステップを繰り返して、前記遺伝子移入に対して本質的に同型接合であるキュウリ育成系統の植物を生産するステップと
【0108】
を含み、
【0109】
ステップ(b)又は(d)で実施される少なくとも1回の選抜がマーカー利用選抜によって実施される、
【0110】
方法にも関する。
【0111】
かかる方法の好ましい一実施形態においては、前記キュウリ育成系統はエリート系統である。
【0112】
上記方法の別の好ましい実施形態においては、マーカー利用選抜手順は、AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1、E12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2及び/又はE21/M16−F−080−P2に対する選抜を含む。
【0113】
かかる方法の好ましい実施形態は、前記植物を交雑させることによって、ドナーキュウリ植物としてのPI169383からレシピエントキュウリ植物への前記核酸配列の遺伝子移入による移行を含む。したがって、本発明によるQTLを含む核酸配列の遺伝子移入は、伝統的育種技術を使用することによって適切に遂行することができる。QTLは、好ましくは、マーカー利用選抜(MAS)又はマーカー利用育種(MAB)を使用することによって市販用キュウリ変種に移入される。MAS及びMABは、所望の形質をコードする遺伝子の1種類以上を含む子植物の特定及び選抜のための分子マーカーの1種類以上の使用を含む。この場合、かかる特定及び選抜は、本発明のQTL又はそれに関連したマーカーの選抜に基づく。MASを使用して、目的QTLを収容する準同質遺伝子系統(NIL)を開発することもでき、各QTL効果のより詳細な研究が可能になる。MASは、戻し交雑近交系(BIL)集団の開発に有効な方法でもある。この実施形態によって開発されたキュウリ植物は、有利には、レシピエント植物由来の形質の大多数を受け継ぎ、ドナー植物由来の改善された収量を受け継ぐことができる。
【0114】
上で手短に考察したように、伝統的育種技術を使用して、改善された収量をコードする核酸配列を収量改善が必要なレシピエントキュウリ植物に移入することができる。系統育種と称される一方法においては、改善された収量を示し、本明細書に定義された改善された収量に関連したQTLをコードする核酸配列を含むドナーキュウリ植物を、耐病性、耐虫性、価値ある果実特性など、ただしそれだけに限定されない農学的に望ましい特性を示すレシピエントキュウリ植物(好ましくは、エリート系統の植物)と交雑させる。次いで、(Fハイブリッドである)生成した植物集団を自家受粉させ、種子をつけさせる(F種子)。次いで、F種子から育成されたF植物を、改善された収量についてスクリーニングする。集団は、幾つかの異なる方法でスクリーニングすることができる。
【0115】
まず、集団を伝統的な収量アッセイによってスクリーニングする。かかるアッセイは当分野で公知である。第2に、上記分子マーカーの1種類以上を使用してマーカー利用選抜を実施して、本明細書に定義された改善された収量をコードする核酸配列を含む子孫を特定することができる。QTLの存在を検出する方法によって上で言及された、別の方法を使用することもできる。さらに、マーカー利用選抜を使用して、収量アッセイから得られる結果を確認することができ、したがって、幾つかの方法を組み合わせて使用することもできる。
【0116】
改善された収量を有する近交系キュウリ植物系は、循環選抜及び戻し交雑、自家受粉及び/又は二ゲノム性半数体の技術、又は親系統の作製に使用される任意の他の技術を用いて、開発することができる。循環選抜及び戻し交雑の方法においては、反復親を第1のドナー植物と交雑させることによって、本明細書に開示する改善された収量を与える遺伝因子を標的レシピエント植物(反復親)に移入することができる。第1のドナー植物は、反復親とは異なり、本明細書では「非反復親」と称する。反復親は、収量を改善すべき植物であり、耐病性、耐虫性、価値ある果実特性など、ただしそれだけに限定されない農学的に望ましい特性を有する。非反復親は、PI169383系統の植物であり、改善された収量をコードする核酸配列を含む。あるいは、非反復親は、反復親と交雑受精する任意の植物変種又は近交系とすることができ、改善された収量のためのQTLをPI169383系統の植物との以前の交雑で獲得している。反復親と非反復親の交雑から得られる子孫を反復親に戻し交雑する。次いで、生成した植物集団を所望の特性についてスクリーニングする。スクリーニングは、幾つかの異なる方法で行うことができる。例えば、当分野で公知の表現型スクリーニングによって集団をスクリーニングすることができる。あるいは、表現型アッセイを使用する代わりに、上記分子マーカー、ハイブリダイゼーションプローブ又はポリヌクレオチドの1種類以上を使用してマーカー利用選抜(MAS)を実施して、改善された収量をコードする核酸配列を含む子孫を特定することができる。
【0117】
スクリーニング後、キュウリ植物をますます近交系にするために、次いで、改善された収量表現型、より好ましくは遺伝子型を示し、高収量をコードする必要な核酸配列を含むFハイブリッド植物を選抜し、数世代にわたって反復親に戻し交雑する。このプロセスを2から5世代以上にわたって実施することができる。原則的には、反復親を非反復親と交雑させるプロセスから得られる子孫は、改善された収量をコードする1個以上の遺伝子に対して異型接合的である。
【0118】
一般に、所望の形質をハイブリッドキュウリ変種に導入する方法は、
【0119】
(a)近交系キュウリ親を1つ以上の所望の形質を含む別のキュウリ植物と交雑させて、F1子植物を生産し、所望の形質がPI169383由来の収量改善QTLによって付与される改善された収量であるステップと、
【0120】
(b)好ましくは本明細書に定義された分子マーカーを使用して、所望の形質を有する前記F1子植物を選抜して、選抜されたF1子植物を生産するステップと、
【0121】
(c)選抜された子植物を前記近交系キュウリ親植物と戻し交雑させて、戻し交雑子植物を生産するステップと、
【0122】
(d)所望の形質並びに前記近交系キュウリ親植物の形態学的及び生理学的特性を有する戻し交雑子植物を選抜し、前記選抜が、ゲノムDNAの単離、及び上で定義した少なくとも1種類のQTL用分子マーカーの存在について前記DNAを試験することを含むステップと、
【0123】
(e)ステップ(c)と(d)を2回以上連続して繰り返して、選抜された第3以上の戻し交雑子植物を生産するステップと、
【0124】
(f)場合によっては、同型接合植物を特定するために、選抜された戻し交雑子孫を自家受粉させるステップと、
【0125】
(g)前記戻し交雑子孫又は自家受粉植物の少なくとも1種類を別の近交系キュウリ親植物と交雑させて、所望の形質並びに同じ環境条件で育成されたときのハイブリッドキュウリ変種の形態学的及び生理学的特性のすべてを有するハイブリッドキュウリ変種を生産するステップと
【0126】
を含む。
【0127】
示したように、最後の戻し交雑世代は、改善された収量を有する同型接合純粋育種(近交系)子孫を規定するために、自家受粉させることができる。したがって、循環選抜、戻し交雑及び自家受粉の結果、改善された収量に関連した遺伝子及び商業的に重要な形質に関連した別の遺伝子に対して遺伝的に相同である系統が生成する。
【0128】
異型接合植物は改善された収量も示し、したがってかかる植物も本発明の一態様であることに留意されたい。
【0129】
キュウリ植物及び種子
【0130】
植物育種の目標は、単一の変種又はハイブリッドにおいて種々の望ましい形質を組み合わせることである。商品作物の場合、これらの形質としては、病気及び昆虫に対する抵抗性、熱及び乾燥に対する耐性、作物成熟時間の短縮、収量増加、並びに農学的品質改良を挙げることができる。発芽、苗立、成長速度、成熟度、草高などの植物特性の均一性も重要であり得る。
【0131】
商品作物は、植物の受粉方法を利用する技術によって栽培される。1つの花の花粉が同じ植物の同じ又は別の花に移行する場合、植物は自家受粉する。同じ系統群又は系統内の個体が受粉に使用されるとき、植物は姉妹受粉する。花粉が異なる系統群又は系統からの異なる植物の花に由来する場合、植物は他家受粉する。
【0132】
自家受粉し、多数の世代にわたってタイプごとに選抜された植物は、ほぼすべての遺伝子座において同型接合的になり、純種子孫の均一集団を生じる。2種類の同型接合系統の交雑は、多数の遺伝子座について異型接合的であり得るハイブリッド植物の均一集団を生じる。幾つかの遺伝子座において各々異型接合的な2種類の植物の交雑は、遺伝的に異なる不均一な異種植物の集団を生じる。
【0133】
キュウリ育種計画におけるハイブリッドキュウリ変種の開発は以下の3ステップを含む:(1)初期の育種交雑種に対する種々の生殖質プールからの植物の選抜、(2)数世代にわたる育種交雑種から選抜された植物の自家受粉による一連の近交系の生成(近交系は、それぞれ純種を繁殖させ、高度に均一である。)、及び(3)選抜された近交系を無関係の近交系と交雑させ、ハイブリッド子孫(F1)を生成すること。十分な量の同系交配後、連続的な雑種世代は、開発された近交系の種子を増加させるのに役立つにすぎない。好ましくは、近交系は、その座の約95%以上において同型接合対立遺伝子を含むべきである。
【0134】
近交系の同型接合性及び均一性の重要な結果は、一定の対の近交系を交雑させることによって生成されるハイブリッドが常に同じであるということである。優れたハイブリッドを生成する近交系が特定されると、ハイブリッド種子は、これらの近交系親を使用して連続的に供給することができ、次いで、このハイブリッド種子供給からハイブリッドキュウリ植物を生産することができる。
【0135】
上述した方法を使用して、当業者は、必要な近交系を生産することができ、そこから前記近交系を交雑させることによって市販用(F1)ハイブリッド種子を生産することができる。
【実施例】
【0136】
収量改善遺伝子移入
【0137】
IL集団の開発
【0138】
外来ドナーPI69383を、市販用キュウリハイブリッド変種の母系統である市販親系統と交雑させた。遺伝子移入系をAFLPマーカーを使用して開発して、BC1、BC2及び後続の自家受粉世代中のゲノムカバー率及び重複セグメントについて選抜した(ILに応じて、1又は2回の自家受粉を実施した。)。BC1世代を使用して、キュウリの遺伝地図を得た。他の地図と共通したマーカーは見いだされず、したがって染色体番号を割り当てることができなかった。
【0139】
本明細書では連鎖群は、無作為な連鎖群番号を指す。ゲノムカバー率についての選抜によって、30種類の遺伝子移入系(IL)を選抜した。
【0140】
ILを反復親(F1IL)と交雑させて、ドナーセグメントに対して異型接合的であるが、ゲノムの残りの部分に対して同型接合的である系統を得た。ILを変種の別の市販親(父系統)とも交雑させて、ドナーセグメント及びゲノムの残りの部分に対して異型接合的であるハイブリッド(HYIL)を得た。
【0141】
この実験設定では、いわゆるハイブリッドIL(すなわち、最初の変種Accoladeの親系統2と交雑させた遺伝子移入を有する親系統1)は、極めて良好に機能した(表1参照)。
【0142】
集団のフェノタイピング
【0143】
30種類のILを温室内の2つの反復ブロックで育成した。5.75mの各ブロックは8本の植物を含み、植物1.39本/平方メートルの栽植密度になった。QTLは、早春の実験中のILでしか検出されず、夏季の実験では検出されなかった。
【0144】
長いキュウリのkg/m単位の生産量、果実重量及び収穫の早さを求めるために、収穫時期に植物が果実をつける少なくとも2か月間、ILの果実を週2又は3回収穫した(果実の中央で少なくとも4cmの直径を有する果実。直径4cmに達しなくても、3日間生長の停止した果実も収穫する。)。収穫ごとに、収穫の総重量及び果実数としての収量を求めた。結果を表1に示す。示した値は1ブロック当たりの平均値である。
【0145】
生産量(P)に換算した収量を収量/mで表し、以下のように計算した。
【0146】
(総重量(kg単位)/ブロック/栽培)
P= ×(植物密度/m
(植物本数/ブロック)
【0147】
果実重量=総重量(kg)/果実総数
【0148】
果実から1cmの距離で果実脚を切断して果実を収穫した。収量を収穫から2時間以内に秤を用いて測定した。収穫の早さは、播種後の畑の最初の収穫日である。
【0149】
表1 遺伝子移入系の収量。一番上の行は対照値を示す。対照より高い値を(+)で示し、対照より低い値を(−)で示す。対照BC=Pyr42系統、対照=市販ハイブリッドAccoladeの特許登録親、対照**=PI69383、親系統=市販ハイブリッドAccolade。
【0150】
【表1】

【0151】
本願は、染色体3の染色体置換の使用も企図する。かかる置換系統においては、連鎖群3におけるマーカーによって特徴づけられる染色体を除いて、すべての核DNAが反復親に由来する(図5参照)。後続の実験によれば、LIL3−1(連鎖群3に対応する染色体がドナー材料で置換された染色体置換系統)及びその子孫は、対照よりも高い収量(kg)と精力を示す植物をもたらした。特に、この特定の遺伝子移入は、この試験において、任意の他の(ハイブリッド)ILと比較して(最初の変種の第2の親と交雑させたときに)ハイブリッド段階で顕著な性能を示した。図5に示した任意及びすべてのマーカーは、原則的には、本発明の植物において連鎖群3に対応する染色体の有無を示すのに使用することができる。
【0152】
LIL4−2のファインマッピングのための高分解能ILパネルの構築
【0153】
LIL4−2を重要な主要ILとみなした。
【0154】
収量QTLのファインマッピングは、「高分解能ILパネル」を用意することによって実施することができる。パネルは、LIL4−2系統に由来するより小さい遺伝子移入を有する系統からなった。
【0155】
LIL4−2×反復親の184F2個体の葉材料を試験した。DNAを単離し、EcoRI/MseIテンプレートを作製した。
【0156】
組み換えの選抜を2段階で実施した。第一段階では、LIL4−2の3個のLG4遺伝子移入セグメントの各々(図1参照)及びLG5上の遺伝子移入セグメントに位置する少なくとも1個のマーカーを増幅する種々のプライマー組合せ(PC)(E12/M24、E18/M15、E14/M60、E11/M62、E13/M17、E25/M13、E22/M12、E21/M16)を使用して、すべての個体をスクリーニングした(LIL4−2は、図2に示すLG5上の望ましくないドナーセグメントを含む。)。96種類の植物を以下の判定基準に基づいて更なる分析のために選抜した。
【0157】
1)ドナーセグメントLG5は、同型接合が存在しない。
【0158】
2)植物は、最高3個のドナーセグメント(LG4上の3個のドナーセグメントの1個)を含む。
【0159】
続いて、96種類のF2植物のこの選抜を、LG4ドナーセグメント上に位置するマーカーを含む2種類の追加のPCを用いてスクリーニングする。これら96種類のF2植物の全データセットに基づいて、2セットの植物をF3への繁殖用に選抜した。47個体からなる1セットを更なる試験用に選抜した。
【0160】
マーカー検出
【0161】
AFLP分析をVos等(1995).Nucleic Acids Res.23:4407−4414に従って実施した。
【0162】
マーカー配列
【0163】
LIL4−2と連鎖したAFLPマーカーの配列の概要。配列は、順方向及び逆方向「コアプライマー」(EcoR1制限酵素切断部位を有する)E及び(MseI制限酵素切断部位を有する)Mを含む。プライマー配列に下線を引いた。逆方向プライマーは、配列に逆方向補足配列として含まれる。「コアプライマー」が伸長される選択的ヌクレオチドには二重下線を引いた。
【0164】
E18/M15−F−089−P2
【0165】
【化1】

【0166】
E14/M60−F−226A−P1(AFLP E14/M60−226の場合、恐らくはバックグラウンドバンドのために、2個の異なる配列が得られた。)
【0167】
【化2】

【0168】
E14/M60−F−226B−P1(AFLP E14/M60−226の場合、恐らくはバックグラウンドバンドのために、2個の異なる配列が得られた。)
【0169】
【化3】

【0170】
E14/M60−F−185−P1
【0171】
【化4】

【0172】
E11/M62−F−200−P1
【0173】
【化5】

【0174】
E18/M15−F−221−P2
【0175】
【化6】

【0176】
E13/M17−F−226−P2
【0177】
【化7】

【0178】
E21/M16−F−080−P2
【0179】
【化8】

【0180】
遺伝研究
【0181】
遺伝様式を決定するために、ILの表現型を異型接合IL及びハイブリッドILの表現型と比較した。結果を表2に示す。
【0182】
表2 遺伝研究の結果。(IL、ライブラリーの最初の(同型接合)遺伝子移入系。F1ILは、反復親と交雑させたILであり、HYILは、実用品種の別の親系統(父系統)と交雑させたILである。)。
【0183】
【表2】

【0184】
ドナー登録種の典型的な追加の特性は、多量の雄花開花、短い果実及び高い果実発育不全、商品価値なしである。
【0185】
同型接合、異型接合及びハイブリッド植物は、これらのネガティブな形質をもはや持たず、市販ハイブリッドの収量をはるかに超えるかなり高い収量を有する。果実の末端部分は、特有の星形の黄色であり、連鎖を引きずった結果であると考えられる。ドナー系統の上記ネガティブ形質は、従来の育種方法(戻し交雑)によって除去された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有するキュウリ育成系統の植物であって、キュウリ登録種PI169383の種子の代表試料はNCIMB、アバディーン、スコットランドに受託番号NCIMB41532及び寄託者参照番号PI169383で寄託されており、前記遺伝子移入が前記植物の高収量に関連した連鎖群3及び/又は4上の遺伝子移入であり、前記植物が前記遺伝子移入のない前記キュウリ育成系統の植物よりも高収量を示し、好ましくは前記高収量とは植物1本当たりのより高い総果実重量を指す、キュウリ育成系統の植物。
【請求項2】
前記植物が本質的に同型接合の純粋エリート育成系統の植物である、請求項1に記載の植物。
【請求項3】
前記植物がキュウリ登録種PI169383由来の他の遺伝子移入を本質的に含まない、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項4】
連鎖群3及び/又は4上の前記遺伝子移入が、
i)AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1に関連したセグメント、
ii)AFLPマーカーE12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2に関連したセグメント、
iii)AFLPマーカーE21/M16−F−080−P2に関連したセグメント
からなる群から選択される連鎖群4上の少なくとも1個のセグメント、及び/又は
連鎖群3の染色体置換
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の植物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項のキュウリ植物を交雑又は自家受粉させることによって生産される、キュウリ種子。
【請求項6】
請求項5に記載の種子を育成することによって生産される、キュウリ植物。
【請求項7】
請求項6に記載の植物の植物部分。
【請求項8】
前記植物部分がキュウリ果実又は種子である、請求項7に記載の植物部分。
【請求項9】
請求項1から4又は6のいずれか一項に記載の植物を別のキュウリ植物と交雑させること、及び得られるハイブリッドキュウリ種子を収穫することを含む、ハイブリッドキュウリ種子を生産する方法。
【請求項10】
前記別のキュウリ植物がキュウリの育成系統の植物、より好ましくは異なるエリート系統の請求項2に記載の植物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の方法によって生産される、ハイブリッドキュウリ種子。
【請求項12】
請求項11に記載のハイブリッドキュウリ種子を育成することによって生産される、ハイブリッドキュウリ植物。
【請求項13】
請求項12に記載のハイブリッドキュウリ植物の植物部分。
【請求項14】
キュウリ育成系統の植物の収量を改善する方法であって、
a)キュウリ育成系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させるステップと、
b)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、前記交雑ステップから得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
c)前記キュウリ育成系統を反復親として使用して、ステップ(b)で選抜された前記子孫キュウリ植物を自家受粉及び/又は戻し交雑させるステップと、
d)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、ステップ(c)の自家受粉又は戻し交雑から得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
e)ステップ(c)及び(d)の自家受粉及び/又は戻し交雑及び選抜の前記ステップを繰り返して、前記遺伝子移入に対して本質的に同型接合であるキュウリ育成系統の植物を生産するステップと
を含み、
ステップ(b)又は(d)で実施される少なくとも1回の選抜がマーカー利用選抜によって実施される、方法。
【請求項15】
前記キュウリ育成系統がエリート系統である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
F1キュウリハイブリッドの収量を改善する方法であって、
a)前記F1キュウリハイブリッドの少なくとも第1の親系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させるステップと、
b)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、前記交雑ステップから得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
c)前記F1キュウリハイブリッドの前記親系統を反復親として使用して、ステップ(b)で選抜された前記子孫キュウリ植物を自家受粉及び/又は戻し交雑させるステップと、
d)高収量に関連した連鎖群4上のキュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入を有する、ステップ(c)の自家受粉又は戻し交雑から得られる子孫キュウリ植物を選抜するステップと、
e)ステップ(c)及び(d)の自家受粉及び/又は戻し交雑及び選抜の前記ステップを繰り返して、前記遺伝子移入に対して本質的に同型接合である前記F1キュウリハイブリッドの親系統を生成するステップと、
f)ステップ(e)で得られた前記親系統を、高収量を有するF1ハイブリッドの生産のための親系統として使用するステップと
を含み、
ステップ(b)又は(d)で実施される少なくとも1回の選抜がマーカー利用選抜によって実施される、方法。
【請求項17】
前記マーカー利用選抜手順が、AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1、E12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2及びE21/M16−F−080−P2に対する選抜を含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項14から17のいずれか一項に記載の方法によって得られる、キュウリ育成系統又はF1キュウリハイブリッド。
【請求項19】
キュウリにおける高収量に関連したQTLを含む単離核酸配列であって、前記QTLが、
i)AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1に関連した連鎖群4上のセグメント、
ii)AFLPマーカーE12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2に関連した連鎖群4上のセグメント、
iii)AFLPマーカーE21/M16−F−080−P2に関連した連鎖群4上のセグメント
によって規定される、単離核酸配列。
【請求項20】
キュウリ植物における高収量に関連したQTLの検出のための、AFLPマーカーE12/M24−F−063−P2、E11/M62−F−200−P1、E12/M24−F−177−P2、E12/M24−F−176−P1、E25/M13−F−128−P2及びE21/M16−F−080−P2からなる群から選択される遺伝マーカーの使用。
【請求項21】
キュウリ植物、又は種子を含めたその部分を選抜する方法であって、
(a)キュウリ育成系統の植物をキュウリ系統PI169383の植物と交雑させることによって、子孫キュウリ植物又はその部分を生産するステップと、
(b)キュウリ登録種PI169383由来の遺伝子移入セグメントの存在について前記子孫キュウリ植物又はその部分を試験し、前記遺伝子移入が前記植物の高収量に関連した連鎖群4上の遺伝子移入であるステップと、
(c)前記試験から得られる情報に基づいて前記子孫キュウリ植物又はその部分を選抜するステップと、
(d)場合によっては、更なる育種を考慮するために前記情報を使用するステップと
を含む、方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−507508(P2011−507508A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539336(P2010−539336)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050834
【国際公開番号】WO2009/082222
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510161141)
【Fターム(参考)】