説明

キルティング縫製品およびクッション材

【課題】 立体編物を少なくとも一部に用いた圧力分散性、積層部の一体感に優れたキルティング縫製品およびクッション材を提供する。
【解決手段】 表裏二層の編地と該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物を少なくとも一部に用いた積層物からなるキルティング縫製品であって、該立体編物が用いられている部分のキルティング縫製長割合が0.005以上、1以下であるキルティング縫製品、およびこれを用いたクッション材。
キルティング縫製長割合=縫製品の縫製長の総和(cm)/縫製品で立体編物が使用された面積(cm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キルティング縫製品およびクッション材に関し、さらに詳しくは、立体編物を少なくとも一部に用いた、圧力分散性、積層部の一体感に優れたキルティング縫製品およびこれを用いたクッション材に関する。
【背景技術】
【0002】
立体編物は優れた通気性、クッション性を有しており、各種クッション材、例えば、ベッドパッドや椅子の座布団等に使用されている。このような用途に用いられる場合、
a)立体的な形を付ける
b)立体編物同士を積層しクッション性をアップさせる
c)立体編物以外の素材と積層する
等の目的によりキルティング縫製される場合がある。
【0003】
しかしながら、キルティング縫製を行うと、その縫製部分は立体編物の持つクッション機能が低下するため、目的とするクッション性が得られない場合があった。
特許文献1には三層構造立体布と表現されている、立体編物を含む積層生地を一体化するためにキルティングしたものが開示されている。しかしながら、この文献にはパッド全体に対するキルト縫製は記載されているが、立体編物からなる積層物のクッション機能低下を防止するための具体的な縫製条件に関しては全く開示されていない。
【特許文献1】実公平06−022283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、立体編物を少なくとも一部に用いたキルティング縫製品であって、クッション機能である圧力分散性に優れ、かつ積層部の一体感があるキルティング縫製品およびクッション材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために、キルティング縫製方法について詳細に検討した結果、キルティング縫製長が大きく寄与することを突き止め、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本願で特許請求される発明は、以下の通りである。
(1)表裏二層の編地と該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物を少なくとも一部に用いた積層物からなるキルティング縫製品であって、該立体編物が用いられている部分のキルティング縫製長割合が0.005以上、1以下であることを特徴とするキルティング縫製品。
キルティング縫製長割合=縫製品の縫製長の総和(cm)/縫製品で立体編物が使用された面積(cm
(2)前記積層物が立体編物のみからなり、且つ、該立体編物が2枚以上積層されている(1)記載のキルティング縫製品。
【0007】
(3)前記2枚以上積層された立体編物のうち、少なくとも1枚の、厚みが2〜8mm、表面編地の下記に示す総カバーファクター(TCF)が750〜1250、連結糸が15〜170デシテックスのモノフィラメントである立体編物が表層を構成し、もう一枚の、厚みが3〜15mm、連結糸が180〜1000デシテックスのモノフィラメントである立体編物が下層を構成している(2)記載のキルティング縫製品。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)+ウェールカバーファクター(WCF)
但し、コースカバーファクター(CCF)=(コース数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(ウェール数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載のキルティング縫製品を用いたクッション材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、立体編物を少なくとも一部に用いた、圧力分散性に優れ、一体感のある積層品のキルティング縫製品が得られ、この縫製品は、特にクッション材用途として用いると優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の立体編物は、表裏二層の編地と該二層の編地を連結する連結糸により構成されていることが重要である。ダブルラッセル編機、ダブル丸編機、横編機等を用いて立体編物を編成する場合、表裏の編地を連結する連結糸は、必ずどちらかの方向に湾曲した状態で編み込まれる。その連結糸に、厚み方向から力を加えると、既に湾曲している状態からさらに湾曲し、力を取り除くと元の状態に戻る。この際に生じる連結糸の曲げと回復の挙動が立体編物の、反発感のあるクッション性に大きく影響するため、連結糸には曲げ剛性の高いモノフィラメントを用いることが好ましい。従って、立体編物の連結糸は全てモノフィラメントであることが好ましいが、必要に応じて、モノフィラメント以外の繊維を編成時に交編させてもよい。その場合のモノフィラメント以外の繊維は、連結糸における重量混率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下である。例えば、マルチフィラメントの仮撚糸を交編すると、圧縮時にモノフィラメント同士が擦れて発生する耳障りな音を低減できるので好ましい。
【0010】
本発明の立体編物の連結糸に用いるモノフィラメントは、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、サラン繊維、ポリ乳酸、ポリカプロラクタン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸等の脂肪族系ポリエステル、該脂肪族系ポリエステルと芳香族系ポリエステルの共重合体、ポリエステル系エラストマー繊維等、任意の素材の繊維を用いることができるが、この内ポリトリメチレンテレフタレート繊維を連結糸に用いると、繰り返し又は長時間圧縮後の回復性が良好となるので好ましい。
【0011】
立体編物の表裏二層の編地に用いる繊維として、特に限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、サラン繊維、ポリ乳酸、ポリカプロラクタン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸等の脂肪族系ポリエステル、該脂肪族系ポリエステルと芳香族系ポリエステルの共重合体、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維、綿、麻、ウール等の天然繊維、キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維、その他、任意の繊維を用いることができる。
【0012】
繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。繊維の形態も、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれのものを採用してもよい。
【0013】
本発明の立体編物は、相対する2列の針床を有するダブルラッセル編機、ダブル丸編機、Vベッドを有する横編機等で編成できるが、寸法安定性のよい立体編物を得るには、ダブルラッセル編機を用いるのが好ましい。編機のゲージは9ゲージから32ゲージまでが好ましく用いられる。
【0014】
本発明の立体編物における表裏面形状としては特に限定されるものではなく、フラットなものや、畝状に0.5mm以上の凹凸を有するもの、起毛処理等で立毛されたものであってもよいが、立体編物の表裏の編地は、4角、6角等のメッシュ編地、マーキゼット編地等複数の開口部を有する編地にして軽量性及び通気性を向上させることができる。また表面を平坦な組織にして肌触りを良好にすることもできる。また、表面を起毛することにより肌触りの良好なものが得られる。特に、クッション材等で通気性を向上させ、蒸れ感を抑えるためには、表裏の編地の何れか、または両面共に複数の開口部を有する編地とするのが好ましい。
【0015】
本発明の立体編物の厚み及び目付は、目的に応じて任意に設定できる。厚みは2〜15mmが好ましい。厚みが2mm未満の場合、圧縮量が少なく、クッション性に劣る場合があり、15mmを越えると、立体編物の仕上げ加工が難しくなる場合がある。目付は、好ましくは100〜3000g/m、より好ましくは200〜2000g/mである。
本発明の立体編物の表裏編地または連結糸に用いる繊維は、未着色でもよく、着色されていてもよい。
【0016】
着色方法は、未着色の糸をかせやチーズ状で糸染めする方法(先染め)、紡糸前の原液に顔料、染料等を混ぜて着色する方法(原液着色)、立体編物状で染色したりプリントする方法等によって着色することができるが、立体編物状で染色すると、立体形状を維持するのが困難であったり、加工性が悪くなったりするため、先染めや原液着色が好ましい。また、仕上げ加工の後、インクジェット方式、グラビア転写、スクリーン捺染等の着色付与方法を行ってもよい。
【0017】
立体編物の仕上げ加工方法としては、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げることができるが、先染め糸や原液着色糸を使用した立体編物や用途として意匠性が要求されない場合は、精練や染色工程を省いて生機をすぐにヒートセットのみで仕上げることも可能である。
また、仕上げセット時には本発明の目的を損なわなければ、通常、繊維加工に用いられている樹脂加工、吸水加工、制電加工、抗菌加工、撥水加工、難燃加工などの仕上げ加工が適用できる。
【0018】
本発明における積層物は、立体編物のみからなり、且つ、2枚以上積層されていることが好ましい。なお、積層物のトータルの厚みは7〜60mmであることが好ましい。トータルの厚みが7mm未満では圧力分散性が不良となり、60mmを超えると縫製加工時の取扱性が不良となる。
また、本発明における積層物は、表層の立体編物及び下層の立体編物のそれぞれが少なくとも1枚以上積層されて構成されることが好ましく、下層の立体編物は少なくとも2枚以上であることが好ましい。
【0019】
積層物の表層を構成する立体編物は、下層の立体編物の硬さや肌への刺激性に対する緩衝効果を働かせるために、厚みを2〜8mmとし、連結糸に15〜170デシテックスのモノフィラメントを用いることが好ましい。厚みが2mm未満、または連結糸の繊度が15デシテックス未満の場合は、下層の立体編物の硬さや刺激に対する緩衝効果がなくなる。又、連結糸の繊度が170デシテックスを超えると表層の立体編物の肌への刺激性が強過ぎるものとなる。尚、厚みが8mmを超えると、表層の立体編物が適度な硬さを維持できずにつぶれ易くなり、蒸れ防止性能が低下する。
【0020】
表層の立体編物の連結糸繊度は好ましくは20〜120デシテックス、より好ましくは30〜100デシテックスである。
又、表層の立体編物における表面の編地は、肌への刺激を低く抑え、柔らかい風合いとするために、総カバーファクター(TCF)を750〜1250とする必要がある。総カバーファクターが750未満の場合、表面がざらつき易く肌への刺激が強すぎる物となる。又、総カバーファクターが1250を超えると通気性が阻害され、蒸れ防止性能が低下すると共に、風合いが硬く良好な肌触りが得られない。総カバーファクターのより好ましい範囲は、800〜1150、さらに好ましくは850〜1100である。
【0021】
ここで、総カバーファクター(TCF)とは、下記式で計算されるものである。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)+ウェールカバーファクター(WCF)
但し、コースカバーファクター(CCF)=(コース数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(ウェール数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
尚、表面の編地を構成する糸条の太さとは、表面の編地2.54cm平方(6.45cm)の面積中に存在する編目を構成する糸条の太さをいう。例えば2枚筬から同一の針に2本の表糸が供給されて一つの編目を構成する場合は、2本の表糸の太さを合計した太さをいい、表裏面を連結する連結糸を除いたものである。
【0022】
編目を構成する糸条の太さが異なる場合は、先ず表面の編地2.54cm平方(6.45cm)の面積中に存在する編目の総数(n)と、各編目を構成する糸条の太さ(D1、D2、D3、・・・、Dn;dtex)を測定する。次いで、各編目を構成する糸条の太さの合計(D1+ D2+D3+・・・Dn;dtex)を編目の総数(n)で割ったもので表す。
【0023】
本発明において、コースカバーファクター(CCF)は400〜800が好ましく、特に450〜750が好ましく、さらに500〜700が好ましく、又、ウェールカバーファクター(WCF)は250〜550が好ましく、特に300〜500が好ましく、さらに350〜450が好ましい。
さらにコースカバーファクター(CCF)/ウェールカバーファクター(WCF)の比(CCF/WCF)は1.0〜2.5が好ましく、特に1.3〜2.0が好ましい。
【0024】
カバーファクターを適正範囲とするには、使用する編機のゲージ、表面の編地を構成する繊維の繊度、編組織、仕上加工時の幅出し、オーバーフィード率を十分考慮して、表層の立体編物を作製する必要がある。編機は18〜24ゲージものを用い、立体編物の表側の編地に用いる繊維の繊度を100〜280デシテックスとし、仕上後の立体編物のコース数を25〜40コース/2.54cm、ウエール数を16〜25ウエール/2.54cmとすることが好ましい。
【0025】
本発明の積層物の下層に用いる立体編物は良好な体圧分散性を保持するために、180〜1000デシテックスのモノフィラメントからなる連結糸で構成され、厚み3〜15mmであることが好ましい。
厚みが3mm未満では体圧分散性が不十分となり、15mmを超えると立体編物の端部の加工が困難となると共に、長時間使用する際の耐久性が低下しヘタリ易くなる。
【0026】
又、連結糸は180デシテックス未満であると体重を十分支えきれずに立体編物が押し潰され、良好な体圧分散性が得られなくなると共に、空気層を確保できなくなり、蒸れ防止性が大きく低下する。連結糸が1000デシテックスを超えると、立体編物が硬くなりすぎ、良好な体圧分散性が得られなくなる。下層に用いる立体編物の連結糸は好ましくは180〜900デシテックスであり、さらに好ましくは190〜700デシテックスである。
【0027】
本発明の縫製品はキルティング縫製され、立体編物が用いられている積層部のキルティング縫製長割合が0.005以上、又は、1以下であることが必要であり、好ましくは0.01以上、又は、0.5以下、より好ましくは0.02以上、又は、0.1以下である。この範囲内であれば、圧力分散性に優れたものとなる。0.005未満では圧力分散性に劣るものとなり、1を超えると積層部の一体感が得られにくくなる。
【0028】
本発明におけるキルティング縫製長割合とは下記式により計算される。
キルティング縫製長割合=縫製品の縫製長の総和(cm)/縫製品で立体編物が使用された面積(cm
ここでいう、立体編物が使用された面積とは、立体編物を複数枚積層したもの、または立体編物と他素材を積層したものの片側表面の面積を示す。縫製品全体の一部の面積のみに立体編物が使用されている場合はその部分の面積を示す。また、立体編物の周囲が縁部カバー材で覆われている場合は、縁部カバー材を除く面積を示す。
【0029】
縫製長とは連続、非連続に関係なく縫製された長さの総和を示し、縫製方法は特に限定されるものでは無く、手縫い、本縫い、千鳥縫い、単環縫い、二重環縫い、扁平縫いの如何なる方法で縫製されてもよい。また、縫製は、直線、曲線、ジグザグの如何なる方法であってもよい。さらに、キルティング柄についても単に縦、横、斜めに一本のみ縫製したもの、平行、非平行を問わず複数本縫製したもの、格子柄状に縫製したもの等の如何なるものも包含する。
さらに、本発明で用いるキルティング縫製される積層品が合成繊維を中心とした素材で超音波ミシンによるキルティング縫製が可能であれば、超音波縫製されたものであってもよい。
【0030】
本発明のキルティング縫製品は、立体編物の少なくとも一部に使用すれば、立体編物を複数積層したものでもよい。また、天然綿、合成繊維綿、またはこれらの繊維を複合した綿、およびこれらの繊維綿を適宜圧縮した綿や、それらの綿に合成樹脂を施して圧縮回復性を改良したもの、または、発泡ウレタン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン等の発泡体、およびこれらの発泡体と綿とを組み合わせたもの、または、熱可塑性樹脂や熱可塑性弾性樹脂からなる繊維が互いに不規則に交絡し、交絡により接触した接点を形成する、厚さが5〜50mm程度の立体的構造体を積層したものでもよい。
【0031】
なお、本発明では立体編物を用いられたキルティング縫製品であり、本発明の効果が得られれば該縫製品を心材として他素材で、カバー、部分縫製、接着等で一体化してもよい。
本発明のキルティング縫製品は外周を縁部カバー材で縫製されていてもよい。
【0032】
縁部カバー材は特に限定されるものではなく、織物、編物、フィルム等であってもよい。織編物については、カレンダー処理による目潰し加工、ウレタンやアクリル樹脂等による樹脂加工、ウレタン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂等のフィルムを片面または両面にラミネートしたものであってもよい。また、形状も細幅にスリットしたもの、ストレートカットしたもの、バイアスカットしたものの何れであっても良い。さらに、パイピング用等に市販されている細幅テープやリボンであってもよい。特に、縁部カバー材が端部よりほつれないように予め処理されたものであれば、縁部カバー材の端部を折り返す必要がなく、縫製部分を薄く仕上げることができるので好ましい。
【0033】
また、本発明の立体編物に15dtex以上のモノフィラメントが使用されている場合、縁カバー材を突き抜けて表面に出てくる場合がある。このような場合、縁部カバー材にミシン針の突き刺し強度(後述)が1〜20Nの範囲であるものを使用することが好ましく、より好ましくは2.1N以上、15N以下、最も好ましくは2.2N以上、10N以下である。1N未満では縁部カバー材表面にモノフィラメントが表面に飛び出し、皮膚を刺激し、極端な場合は皮膚も貫通して指し傷の原因となる場合がある。一方、20Nを越えると縁部カバー材の曲げ強度が高くなり、風合が損なわれるだけでなく、縫製時に針貫通抵抗が高くなり、正常な縫製が困難となることがある。なお、ミシン針の突き刺し強度は、ミシン針(オルガン株式会社製TV×7#19)を島津オートグラフAGB型(株式会社島津製作所製)のチャック部に動かないようにチャック部の上下移動方向に平行に取り付け、縁部カバー材を直径20mmのピンがついた円盤状圧縮治具に固定し後、50mm/minの速度で突き刺し、貫通時の最大応力を表裏それぞれ3回測定し、その平均値で求めた値である。
【0034】
縁部カバー材の縫製は、例えばJIS−L−0121の付図3クラス3の細分類に記載されているような方法で行えばよい。
本発明の縫製品は圧力分散性をより良好にするために、50N(/78.5cm)負荷時の圧縮変位量が3〜30mmであることが好ましく、より好ましくは4〜25mmである。
【0035】
ここで、本発明における50N/(78.5cm)負荷の意味は、直径100mmの円形の圧縮板により50Nの荷重を掛けた状態を意味し、仙骨部や臀部が良好な圧分散性を示している状態の荷重に相当する。又、圧縮変位量とは立体編物が50N/(78.5cm)の負荷で押し潰される厚みを意味する。
【0036】
積層物の50N(/78.5cm)負荷時の圧縮変位量が30mmを超えると人が上に寝る際に立体編物の連結層が押し潰され、空気層を確保できなくなり、蒸れ防止性能が低下し、特にベッドパッドに使用すると寝返りしずらくなる場合がある。又、圧縮変位量が3mm未満であると、硬くなり過ぎてクッション感が得られにくくなる。
【0037】
積層物の50N(/78.5cm)負荷時の圧縮変位量を適正な範囲とするには、表層及び下層に用いる立体編物の連結糸の繊度、編密度、連結糸の傾斜角、厚みを十分考慮して生機を作成し、ヒートセット仕上げ時の幅出し等により、圧縮硬さを調整する必要がある。特に、立体編物2.54cm平方の面積中にある連結糸の本数をN(本/2.54cm平方)、連結糸のデシテックスをT(g/1×10cm)、連結糸の比重をρ(g/cm)とした時に、立体編物2.54cm平方の面積中にある連結糸の総断面積(N・ T/1×10・ρ)を、表層に用いる立体編物は0.02〜0.25cmとし、下層に用いる立体編物は0.03〜0.3cmとすることが好ましい。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例に基づいて説明する。
(1)厚み測定
JIS−L−1018の厚みの測定方法に準拠して測定した。
【0039】
(2)圧力分散性及一体感の評価
実施例及び比較例で作製したキルティング縫製品並びにキルティング縫製を行わず単に積層した物をパラマウント社製のパラケアスーパーマットレス(登録商標)上に敷き、臥床試験を10日間行い、圧力分散性、積層品の一体感を官能評価で下記の判定に基づき点数付けを行った。なお、着座試験は繊維関連に従事する10名で評価し、その平均点で評価した。
【0040】
「圧力分散性」
3点:キルティング縫製無しに対して殆ど圧力分散性が変わらない。
2点:キルティング縫製無しに対してやや圧力分散性が低下した。
1点:キルティング縫製無しに対して明らかに圧力分散性が低下した。
「一体感」
3点:臥床したときにズレ感を殆ど感じない。
2点:臥床したときにズレ感をやや感じる。
1点:臥床したときにズレ感を非常に感じる。
【0041】
(3)縁部カバー材表面風合
実施例及び比較例で作製したベッドパッドをパラマウント社製のパラケアスーパーマットレス(登録商標)上に敷き1週間使用し、縁部カバー材表面風合を下記の判定に基づき点数付けを行った。なお、繊維関連に従事する10名で評価し、その平均点で評価した。
「風合」
3点:縁部カバー材表面にモノフィラメント繊維の飛び出しを殆ど感じない。
2点:縁部カバー材表面にモノフィラメント繊維の飛び出しをやや感じる。
1点:縁部カバー材表面にモノフィラメント繊維の飛び出しを非常に感じる。
【0042】
(4)50N(/78.5cm)負荷時の圧縮変位量
実施例及び比較例で作製したベッドパッドを島津オートグラフAG−B型(島津製作所製)を用い、直径100mmの円形の圧縮板により、剛体面上に置き、10mm/minの速度で50Nの荷重になるまで圧縮し、50N負荷時の圧縮変位量(mm)を測定する。測定は5点のサンプルで行い平均値を求める。
【0043】
(5)寝心地
実施例及び比較例で作製したベッドパッドをパラマウント社製のパラケアスーパーマットレス(登録商標)上に敷き、臥床し寝心地の官能評価で下記の判定に基づき点数付けを行った。なお、臥床試験は繊維関連に従事する10名で評価し、その平均点で評価した。
3点:床付きを感じず、寝返りもしやすい。
2点:やや床付き感を感じる若しくは寝返りがややしずらい。
1点:床付き感を非常に感じる若しくは寝返りが非常にしずらい。
【0044】
(6)蒸れ防止性
28±1℃、65±5%RHの環境下の人工気候室内に実施例及び比較例で作製したベッドパッドをパラマウント社製のパラケアスーパーマットレス(登録商標)上に敷き、仰臥位で寝て60分間安静にした後、蒸れ感を下記の点数で官能評価を行った。なお、臥床試験は繊維関連に従事する10名で評価し、試験中は綿パイルのタオルケット(良品計画社製)を首から足先まで掛けて行う。
3点:蒸れ感がない
2点:蒸れ感をやや感じる
1点:蒸れ感を非常に感じる
【0045】
(7)肌への刺激性
実施例及び比較例で作製したベッドパッドをパラマウント社製のパラケアスーパーマットレス(登録商標)上に敷き上半身裸で仰臥位で寝て120分間安静にした後、皮膚に対する刺激を下記の点数で官能評価し、10人の平均点を求めた。なお、臥床試験は繊維関連に従事する10名で評価した。
3点:メッシュの跡も痒みも全くなし。
2点:メッシュの跡あるいは痒みが若干ある。
1点:メッシュの跡あるいは痒みが非常にある。
【0046】
<立体編物の製造>
(立体編物A〜C)
6枚筬を装備した22ゲージのダブルラッセル編機を用い、表面の編地を形成する筬(L1、L2)から167dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維の仮撚糸をオールインの配列で供給し、連結糸用の筬(L3)から56dtexのナイロンモノフィラメントをオールインの配列で供給し、又、裏面の編地を形成する筬(L5、L6)から、167dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート原糸を、L5の筬に3イン1アウトの配列で、L6の筬に(1イン)1アウト3インの配列で供給した。
【0047】
この際、編機の釜間を2.5mm、4.5mm、12mmに変更し、「編組織1」に示す編組織で、機上コース30コース/2.54cmの密度で生機を編成した。
得られた生機を70℃で精練後、機上幅と同一の仕上幅で180℃×2分の乾熱ヒートセットを行い、釜間2.5mmによる立体編物A、釜間4.5mmによる立体編物B、釜間12mmによる立体編物Cを得た。得られた立体編物A、B、Cの物性を表1に示す。
【0048】
「編組織1」
L1:2022/2422/
L2:4644/2000/
L3:2020/2424/
L5:4420/2224/2220/2224/4468/6664/
6668/6664/
L6:4468/6664/6668/6664/4420/2224/
2220/2224/
【0049】
(立体編物D、E)
又、6枚筬を装備した18ゲージのダブルラッセル編機を用い、表面の編地を形成する筬(L1、L2)から167dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート原糸を、連結糸用の筬(L3、L4)から200dtexのポリトリメチレンテレフタレートモノフィラメント(ソロテックス社製)を、又、裏面の編地を形成する筬(L5、L6)から、167dtex/48フィラメントのポリエチレンテレフタレート原糸を、L1、L3、L5の筬に1イン1アウトの配列で、L2、L4、L6の筬に1アウト1インの配列で供給した。この際、編機の釜間を5.6mm、12mmに変更し、「編組織2」に示す編組織で、機上コース22コース/2.54cmの密度で生機を編成した。
【0050】
得られた生機を70℃で精練後、機上幅に対し1.4倍の幅出し率で180℃×2分の乾熱ヒートセットを行い、釜間5.6mmによる立体編物D、釜間12mmによる立体編物Eを得た。得られた立体編物D、Eの物性を表1に示す
「編組織2」
L1:4644/4244/4644/4244/4644/4222/
2022/2422/2022/2422/2022/2444/
L2:2022/2422/2022/2422/2022/2444/
4644/4244/4644/4244/4644/4222/
L3:4242/4646/4242/810810/4242/4646/
6868/6464/6868/2020/6868/6464/
L4:6868/6464/6868/2020/6868/6464/
4242/4646/4242/810810/4242/4646/
L5:4446/4442/4446/4442/4446/4442/
2220/2224/2220/2224/2220/2224/
L6:2220/2224/2220/2224/2220/2224/
4446/4442/4446/4442/4446/4442/
【0051】
(立体編物F)
立体編物Bにおいて、ダブルラッセル編機のゲージや生機の密度設計並びに仕上げ時の幅だし幅を変化させて、表面の編地の総カバーファクター(TCF)の異なる立体編物Fを得た。得られた立体編地Fの物性を表1に示す。
【0052】
[実施例1〜7、比較例1〜2]
立体編物Bと立体編物Eを各々タテ200cm×ヨコ100cmに裁断し、立体編物Bが表となるように積層して表1に示す長さと本数のキルティングを積層品の各辺で均等間隔となるように縦及び横方向に縫製を行い、キルティング縫製品を得た。なお、縫製はJUKI(株)製の本縫いミシン(DDL−555)を用いて本縫いを行った。縫製条件は次の通りとした。
ミシン針14番(オルガン株式会社製)、縫い糸:ポリエステルスパン30番、縫い目長さ:2.0mm
得られたキルティング縫製品の評価結果を表2に示す。
【0053】
次いで、実施例1〜7、及び比較例1〜2のキルティング縫製品の縁部をPETタフタaでJIS−L−0120の付図3の3.05になるようにカバーし、2本針扁平縫いミシン(ヤマトミシン製造株式会社製 VEU25000 156M−8 針幅5.6mmで2本針使用に変更)を用いて、JIS−L−0120の表示記号309となるように縫製しベッドパッドを作製した。(縫製条件:ミシン針14番(オルガン株式会社製)、縫い糸:ポリエステルスパン30番、縫い目長さ:2.0mm)
なお、PETタフタaは以下のものを使用した。
【0054】
経糸:ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント56デシテックス/24フィラメント
緯糸:ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント84デシテックス/24フィラメント
組織:タフタ
製織、ヒートセット仕上げ後の密度:タテ114本/2.54cm、ヨコ82本/2.54cm
ミシン針の突き刺し強度:2.45N
得られたベッドパッドの評価結果を表2に示す。実施例1〜7は圧力分散性、一体感、寝心地、蒸れ防性に優れ、皮膚への刺激性もなく、縁部表面にモノフィラメント繊維の飛び出しを感じず良好なベッドパッドであった。しかし、比較例1は積層部の一体感に劣り、比較例2は圧力分散性に劣るものであった。
【0055】
[実施例8]
実施例4のキルティング縫製品を用い、縁部カバー材をPETタフタbに変更し、実施例4と同条件にて縫製しベッドパッドを作製した。
なお、PETタフタbは以下のものを使用した。
【0056】
経糸:ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント加工糸167デシテックス/48フィラメント
緯糸:同上
組織:タフタ
製織、ヒートセット仕上げ後の密度:タテ70本/2.54cm、ヨコ60本/2.54cm
ミシン針の突き刺し強度:0.95N
得られたベッドパッドの評価結果を表2に示す。圧力分散性、一体感、寝心地、蒸れ防性に優れ、皮膚への刺激性のなく良好なベッドパッドであったが、縁部表面にモノフィラメント繊維の飛び出しが感じられるものでやや不十分であった。
【0057】
[実施例9]
実施例4に於いて縁部カバー材をPETタフタaのウレタンコーティング品に変更した以外は同様にしてベッドパッドを作製した。
なお、PETタフタaのウレタンコーティングは下記の配合樹脂を片面にロールコーターでクリアランス150ミクロンに設定し、コーティングした。塗布量は30g/m2 とし、30℃温水で5分間、70℃温水にて15分間浸漬させて脱溶媒を施しウレタンを湿式凝固させた。さらに、PETタフタaの仕上密度に合わせてピンテンターを使用し150℃で2分間熱処理を施した。ミシン針の突き刺し強度は7.5Nであった。
【0058】
<樹脂配合>
ポリウレタン樹脂:(大日本インキ化学工業(株)製1液型ポリウレタン、商品名:クリスボン8166) 40部
4,4ジフェニルメタンジイソシアネート 5部
ジメチルホルムアミド 55部
得られたベッドパッドの評価結果を表2に示す。圧力分散性、一体感、寝心地、蒸れ防性に優れ、皮膚への刺激性もなく、縁部表面にモノフィラメント繊維の飛び出しを感じず良好なベッドパッドであった。
【0059】
[実施例10]
実施例4に於いて縁部カバー材をPETタフタaのポリ塩化ビニルシートラミネート品に変更した以外は同様にしてベッドパッドを作製した。
なお、PETタフタaのポリ塩化ビニルシートラミネート品は、PETタフタaに1mm厚のポリ塩化ビニルをウレタン系接着剤にて張り合わせしたものである。ミシン針の突き刺し強度は:20.5Nであった。
得られたベッドパッドの評価結果を表2に示す。圧力分散性、一体感、寝心地、蒸れ防性に優れ、皮膚への刺激性もなく、縁部表面にモノフィラメント繊維の飛び出しを感じず良好な風合であったが、縁部カバー材の縫製は糸切れのため、やや支障がり、この部分の風合も硬いものであった。
【0060】
[実施例11〜17]
実施例4において表3に示す組み合わせで立体編物を積層した以外は同様に行ってベッドパッドを得た。
得られたベッドパッドの評価結果を表3に示す。実施例11はベッドパッドとして素晴らしいものであった。実施例12〜17のベッドパッドは圧力分散性、一体感に優れ縁部表面にモノフィラメント繊維の飛び出しを感じないものであったが、寝心地、蒸れ防止、肌への刺激性の何れかで問題のあるものであった。特に、実施例16はキルティング縫製時に縫糸切れが多発し、実施例15は表層の立体編物の風合が非常に硬いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のキルティング縫製品は、布団、ベッドパッド等の寝装寝具、座布団、肩パット、レガーズのクッション材、サポーターのクッション材、保温衣料等のライニング材、ヘルメットの内張り、人体保護パッド等、人体に接触するクッション材、緩衝材、保型材等の用途に好適に用いることができる。さらには自動車、鉄道車両、航空機、チャイルドシート、ベビーカー等の乗り物座席シート用クッション材及び家具、事務用等の座席シート用クッション材にも用いることができる。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏二層の編地と該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物を少なくとも一部に用いた積層物からなるキルティング縫製品であって、該立体編物が用いられている部分のキルティング縫製長割合が0.005以上、1以下であることを特徴とするキルティング縫製品。
キルティング縫製長割合=縫製品の縫製長の総和(cm)/縫製品で立体編物が使用された面積(cm
【請求項2】
前記積層物が立体編物のみからなり、且つ、該立体編物が2枚以上積層されている請求項1記載のキルティング縫製品。
【請求項3】
前記2枚以上積層された立体編物のうち、少なくとも1枚の、厚みが2〜8mm、表面編地の下記に示す総カバーファクター(TCF)が750〜1250、連結糸が15〜170デシテックスのモノフィラメントである立体編物が表層を構成し、もう一枚の、厚みが3〜15mm、連結糸が180〜1000デシテックスのモノフィラメントである立体編物が下層を構成している請求項2記載のキルティング縫製品。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)+ウェールカバーファクター(WCF)
但し、コースカバーファクター(CCF)=(コース数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(ウェール数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のキルティング縫製品を用いたクッション材。