説明

ギ酸製造装置およびそれを用いたギ酸の製造方法

【課題】温和な反応条件で、かつ簡易な操作でギ酸を製造することができるギ酸製造装置を提供すること。
【解決手段】イオン液体を収容すると共に、外部から水素と二酸化炭素が導入され、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成する密閉可能なギ酸合成反応部を備えたことを特徴とするギ酸製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体の存在下に水素と二酸化炭素からギ酸を合成できるギ酸製造装置およびそれを用いたギ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギ酸は、医薬品から農薬をはじめとする様々な化学物質を合成するための原料として古くから重要な役割を担っている他、特許文献1によって本発明者らが提案した水素の製造方法を用いて水素を製造するための原料としても重要である。ギ酸の製造方法は各種知られており、その一つに水素と二酸化炭素からギ酸を製造する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−289742号公報
【特許文献2】特開平7−173098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、超臨界状態にある二酸化炭素(臨界点:圧力73.3bar、温度31℃)と水素を、金属触媒(第VIII属遷移金属錯体)と過剰量の塩基性物質の存在下で反応させるので、製造設備上、高度な耐圧性を必要とする他、生成したギ酸と塩基性物質の分離操作を必要とするなどの点において制約がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、前記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、温和な反応条件で、かつ簡易な操作でギ酸を製造することができる製造装置の開発に成功し本発明を完結するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば、イオン液体を収容すると共に、外部から水素と二酸化炭素が導入され、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成する密閉可能なギ酸合成反応部を備えたギ酸製造装置が提供される。
本発明において使用される「イオン液体」は、カチオンとアニオンからなる有機塩であって、その蒸気圧は極めて低く常温(15〜25℃)〜150℃の温度範囲で液体であり、室温(1〜30℃)で20〜7000cPの粘度を有する粘稠な液体である。なお、イオン液体について更に詳しくは後述する。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、前記ギ酸製造装置を用いて、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成するギ酸の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のギ酸製造装置によれば、繰り返し使用できるイオン液体の存在下で、比較的温和な反応条件かつ簡易な操作でギ酸を製造できる。したがって、、反応容器に必要な耐熱・耐圧性能が抑制され、装置コストの低減を図ることができるうえに、イオン液体の使用量も最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明のギ酸製造装置の実施形態1を示す概略構成図である。
【図2】図2は本発明のギ酸製造装置の実施形態2を示す概略構成図である。
【図3】図3は実施形態2のギ酸製造装置における展延部を示す構成図であって、図3(A)は側面図、図3(B)は正面図である。
【図4】図4は実施形態2のギ酸製造装置における水素生成反応部の別の展延部を示す構成図であって、図4(A)は側面図、図4(B)は正面断面図である。
【図5】図5は本発明のギ酸製造装置の実施形態3におけるギ酸合成反応部(天板図示省略)を示す概略斜視図である。
【図6】図6(a)および(b)は合成例4における反応前後のプロトンスペクトル変化を示すグラフである。
【図7】図7は合成例1〜5(反応温度60〜140℃)におけるギ酸合成収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈ギ酸製造装置について〉
本発明のギ酸製造装置は、イオン液体を収容すると共に、外部から水素と二酸化炭素が導入され、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成するギ酸合成反応部を備える。
【0011】
なお、本発明のギ酸製造装置において、ギ酸と接触する部分は耐食性の材料にて形成されていることが望ましい。ギ酸に対する耐食性を有する材料としては、例えば、セラミック、ガラス、あるいはTi−Pd合金、純ジルコニウム、Ni−Mo−Cr系合金、ステンレス鋼等の金属、あるいはポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、硬質塩化ビニル(PVC)、ポリサルホン(PSF)、塩化ビニリデン(PVDC)、ポリビニルアルコール(PVA)、フッ素樹脂(PTFE)、メチルペンテン樹脂(TPX)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂(PF)、フラン樹脂(FF)等の熱硬化性樹脂、前記金属表面をセラミック、ガラス、あるいは前記樹脂にてコーティングした複合材料が挙げられる。イオン液体は加熱されるため熱可塑性樹脂を用いないのが好ましい。
【0012】
本発明において、ギ酸合成反応部は、密閉型反応器を必須とするが、次の(1)〜(4)のように構成することにより、効率よくギ酸を合成することができ、構成(1)〜(4)を組み合わせることで更なる効率アップを図ることができる。
【0013】
(1)前記ギ酸合成反応部は、好ましくは、合成されたギ酸を外部へ送出するための送出口を有する密閉型反応容器と、該反応容器内のイオン液体を加熱する加熱手段と、該反応容器内に設けられて反応容器内のイオン液体の表面積を拡大する展延部とを備える。
この展延部は、反応容器内のイオン液体の表面積を拡大し、それによって水素および二酸化炭素の混合ガスとイオン液体との接触部位を拡大(増加)させることで、水素と二酸化炭素からギ酸を効率的に合成するための合成反応促進手段である。このように水素および二酸化炭素の混合ガスとイオン液体との接触部位を広くすることで、前記混合ガスをイオン液体に接触させる界面をより多く提供している。さらに、前記混合ガスとイオン液体の界面に生ずる局所的な強い電場勾配において化学反応は促進されるため、より多くの界面を作り出すことでギ酸合成反応を促進する狙いもある。この構成によれば、高温でエネルギー状態が高い混合ガスでなくても、界面に生じる局所的電場勾配によって、低温であってもギ酸合成反応が進行する。
【0014】
(2)前記展延部は、好ましくは、イオン液体と接触するように前記反応容器内に可動に設けられた展延壁と、該展延壁を動かす駆動手段とを有し、前記展延壁を動かすことによりイオン液体をその液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すように構成する。
構成(2)によれば、反応容器内の限られたスペースにおいて、イオン液体の表面積を容易に拡大することができる。また、一般にイオン液体は粘稠な液体であり、反応容器内のイオン液体を激しく撹拌しても、水素および二酸化炭素の混合ガスとイオン液体との接触部位を増加させ難いため、効率よくギ酸を合成することが難しい。これに対し、展延壁は、粘性を有するイオン液体の表面積を拡大し、ギ酸合成反応を促進させる手段として最適である。特に、展延壁を反応容器内で回転させる手法は、簡素な機構で、かつ少ない駆動エネルギーで高粘性のイオン液体の表面積を拡大するのに有効である。
【0015】
この可動式の展延壁の形状および動き等は特に限定されないが、イオン液体の表面積を小さいスペース内で大きく拡大できるようにすることが好ましい。例えば、1つ以上(好ましくは複数)の円板状展延壁を回転軸にて串刺し状に平行に連結し、各展延壁の下部をイオン液体中に浸すように設置し、モータといった駆動手段にて回転軸を回転させるよう構成する。この構成によれば、高粘性のイオン液体に対して比較的低抵抗で展延壁を回転させ、展延壁に付着したイオン液体を液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すことが連続的に行える。
なお、可動式展延壁の動きは、回転以外に、振り子のような揺動、シーソーのような回動、上下往復運動等でもよく、展延壁をこのように動かしてもイオン液体の表面積を拡大させることができる。
【0016】
(3)前記展延部は、好ましくは、前記反応容器内に立設された1つ以上の展延壁と、前記反応容器内の底部に溜まるイオン液体を汲み上げて前記展延壁の上部に吐出する液体循環ラインとを有し、イオン液体を前記展延壁の上部から側面に沿って流すように構成する。
この場合の展延壁は、可動式の前記展延壁とは異なって固定式であり、例えば、反応容器内に1つまたは複数の展延壁を設けて反応容器内を複数に区画し、各展延壁の両側面に沿ってギ酸とイオン液体の混合液体を垂れ流すように構成することができる。
【0017】
構成(3)によっても、反応容器内の限られたスペースにおいて、イオン液体の表面積を容易に拡大することができ、それに加え、反応容器の強度アップを図ることができて好都合である。また、反応容器の外郭を構成する周囲壁の内面も展延壁の側面として利用すれば、イオン液体の表面積をさらに拡大できるため好ましい。なお、この構成は、比較的低粘度のイオン液体を用いる場合に適している。
液体循環ラインは、イオン液体を繰り返し利用するのに有用であり、設けるポンプの種類(例えば、プランジャーポンプ)によっては高粘度のイオン液体を循環させることも可能である。
【0018】
(4)前記展延壁が凹凸表面を有する。
構成(4)によれば、展延壁の側面の表面積が増加するため、展延壁の側面(凹凸表面)に沿って流れ落ちるイオン液体の表面積が増加する。この結果、水素および二酸化炭素の混合ガスとイオン液体との界面がさらに多く提供され、ギ酸合成効率がさらに向上する。
この場合、凹凸表面は、展延壁の表面に、凸部、凹部あるいは貫通孔を設けることにより形成できる。セラミック製の展延壁であれば自然に凹凸表面が形成され好都合である。凸部、凹部、貫通孔の形状および大きさは特に限定されず、例えば、イオン液体の粘度、展延壁の表面積、可動式展延壁の動く速度等に応じて最も効率よくギ酸を合成できるように設計すればよい。
【0019】
〈ギ酸製造装置を用いたギ酸の製造方法〉
本発明に用いられる「イオン液体」とは、イミダゾリウム塩類およびピリジニウム塩類などのアンモニウム系、リン化合物であるホスホニウム系イオンなどのカチオンと;臭化物イオンなどのハロゲン系、トリフラートおよびトリフルオロアセトキシイオンなどのハロゲン化アルキルオキシイオン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン酸系などのアニオン;との組合せによる塩からなるイオン液体を意味するが、これに限定されるものではない。
【0020】
しかし、繰り返し使用の観点から、好適なイオン液体としては、下記の一般式(1)で示す化合物が好適である。すなわち、カチオンとしてホスホニウム系イオン、アニオンとしてギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンなどの親水性アニオンとからなるイオン液体が好ましい。
【0021】
このような化合物は、水素と二酸化炭素からギ酸を効率よく合成することができる。また、入手の容易さおよび分子設計の容易さの観点からも好ましい。
この場合、イオン液体におけるアニオンとしてギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンと置き換わり得るアニオンを有するイオン液体を原料として用い、Biomacromolecules, Vol. 7, 3295-9297に記載の方法に基づいて、この原料としてのイオン液体におけるアニオンをギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンに置き換えることで本発明に用いることができる。なお、ホスホニウム系イオンとギ酸イオン、塩化物イオン、または硝酸イオンとからなるイオン液体中に、原料中のアニオンが含まれていてもよい。
【0022】
【化1】

[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子によって置換されてもよいアルキル基、あるいは1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、
-はホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンを表す]
【0023】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体において、R1、R2、R3、R4におけるハロゲン原子によって置換されてもよいアルキル基としては、1〜18個の炭素数を有する直鎖または分岐鎖状のアルキル基やパーフルオロアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−オクタデシル基、トリフルオリメチル基、ペンタフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロn−プロピル基、ヘプタフルオロiso−プロピル基、ノナフルオロn−ブチル基などが挙げられる。
【0024】
1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいアリール基としては、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいヘテロアリール基としては、フラン、チオフェンなどが挙げられる。
【0025】
前記一般式(1)で表されるホスホニウム塩系イオン液体において、ホスホニウムカチオンは、R1、R2およびR3は炭素数1〜18のアルキル基、アリール基もしくはヒドロキシメチル基であり、R4は炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、ヒドロキシメチル基もしくはシアノメチル基であるホスホニウムカチオンが好ましい。これらの中でも、ホスホニウムカチオンが、テトラフェニルホスホニウム塩、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム塩、またはテトラブチルホスホニウム塩であることが特に好ましい。
【0026】
ホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンであるZ-としては、塩化物イオン(Cl-)や臭化物イオン(Br-)やヨウ化イオン(I-)などのハロゲン化物イオンの他、硝酸イオン(NO3-)、p−トルエンスルホン酸、メタンスルフォネートアニオン(CH3SO3-)、トリフルオロメタンスルフォネートアニオン(CF3SO3-)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドアニオン((CF3SO22-)、ギ酸アニオン(HCO2-)などが挙げられる。
【0027】
好適なイオン液体としては、カウンターアニオンがギ酸アニオンであるイオン液体(すなわちギ酸塩)または最も強い電場を発生させる塩化物イオンが挙げられる。これらの液体は、水素と二酸化炭素を原料としてギ酸を製造するための媒体として反応の選択性(生成するギ酸の純度が高いこと)や速度に優れる。
カウンターアニオンがギ酸アニオンであるイオン液体、例えば、強塩型イオン交換樹脂を用いたアニオン交換法によって、カウンターアニオンが臭化物イオンなどのギ酸アニオンとは異なるアニオンであるイオン液体から合成することができる(Biomacromolecules、7巻、3295-3297ページ、2006年)。
【0028】
カウンターアニオンがギ酸アニオンとは異なるアニオンであるイオン液体は、種々のイオン液体が市販されているが、市販されていないイオン液体は、例えば、Ionic liquids in Synthesis I、Wiley-VCH、2007年に記載の方法によって合成することができる。
【0029】
イオン液体の存在下での水素と二酸化炭素の反応は、耐圧性の反応容器内に水素と二酸化炭素を導入し、水素と二酸化炭素の混合ガスをイオン液体表面に接触させることで行うことができる。この際、前記展延部にてイオン液体の表面積を拡大させることにより、混合ガスとイオン液体の接触面積を増加させることが好ましい。
なお、二酸化炭素は、液化二酸化炭素およびドライアイスを利用し、これらを反応器内でガス化させてもよい。
反応容器内での水素および二酸化炭素の圧力は、5〜1000bar、より具体的には10〜500barが好ましい。
【0030】
反応温度はイオン液体が液体状態であれば特段の制限はないが、ギ酸を効率よく製造するためには常温以上に加熱することが好ましい。この場合、加熱温度は、高すぎるとイオン液体の分解を引き起こすおそれがあることに加え、熱力学的理由によってギ酸の生成量が低下するおそれがあるため、その上限は250℃であり、例えば60〜140℃が好ましい。反応時間は、例えば1〜100時間である。
【0031】
本発明におけるギ酸の製造方法によれば、金属触媒を用いることなくギ酸を簡便に製造することができるが、金属触媒を用いてもよい。
金属触媒を用いることにより、金属触媒を用いない場合の好適な加熱温度に比較して50℃以上低い加熱温度であっても(例えば加熱温度が50℃であっても)、ギ酸を速い生成速度で生成することができる。
【0032】
金属触媒としては、周期表第8,9,10族の遷移金属(Ru,Rh,Irなど)の単純塩(塩化物や酸化物)や錯体(配位子の具体例:アミン、ホスフィン、共役ジエンなど)などが挙げられる。より具体的には、金属触媒として、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムを用いることができる。その場合、反応が加速されるため、低温でも迅速にギ酸合成が進行する。
【0033】
金属触媒の使用量は、例えば、イオン液体の混合重量の0.01〜3%程度でよい。具体的には、ギ酸合成反応部内のイオン液体100重量部に対して0.01〜3重量部の金属触媒を、イオン液体に添加するか、または、例えば、多孔性セラミックのような担持体に担持させ、金属触媒担持体をギ酸合成反応部の反応容器内に固定する。
【0034】
以下、図面を参照しながら本発明の水素発生システムの実施形態について詳説する。
(実施形態1)
図1は本発明のギ酸製造装置の実施形態1を示す概略構成図である。
先ず、実施形態1のギ酸製造装置の構成について説明し、その後、ギ酸製造装置の運転時の動作について説明する。
図1に示すように、本発明の実施形態1のギ酸製造装置はギ酸合成反応部1を備える。
【0035】
具体的に説明すると、ギ酸合成反応部1は、イオン液体Iを収容する密閉可能な反応容器1aと、イオン液体Iを加熱するヒータ2と、イオン液体Iの表面積を拡大させる展延部3と、イオン液体Iの温度を検出する温度センサ4と、イオン液体Iの液面を検出するレベルセンサ5とを備える。実施形態1のギ酸合成反応部1は、例えば高粘度のイオン液体Iの使用に適している。特にイオン液体が高粘性でかつギ酸の溶解度が低い場合、合成されたギ酸はイオン液体I上に溜まり易いため、レベルセンサ5はイオン液体I上のギ酸液面を検出することになる。イオン液体が低粘度またはギ酸の溶解度が高い場合の分離方法として、例えば冷却操作により相分離させてギ酸をイオン液体から抽出し、濃度センサなどによりギ酸を検出する。
【0036】
反応容器1aは、直方体形に形成されたイオン液体Iを収容する耐圧性容器であり、例えば、セラミック製の内側容器と、ステンレス鋼製の外側容器とから構成されている。また、反応容器1aは、その内部の気圧を測定する圧力計6を有すると共に、内部で合成した前記ギ酸を外部に送出するための送出部7を有している。なお、反応容器1a内の熱が外部に放出するのを抑制するために、断熱材にて反応容器1aを覆ってもよい。
【0037】
反応容器1aは、水素供給源である水素ボンベ21および二酸化炭素供給源である二酸化炭素ボンベ22とガス供給パイプ23を介して接続され、反応容器1aの内部にギ酸の原料となる水素ガスおよび二酸化炭素ガスが所定の圧力比で供給される。なお、水素ボンベ21および二酸化炭素ボンベ22は圧力調整弁21a、22aを有している。
【0038】
前記送出部7は、例えば、反応容器1aの上壁を貫通した長い送出パイプ7aおよび短い送出パイプ7bを有し、反応容器1a内のギ酸液またはギ酸ガスを外部へ送出できるように構成されている。なお、短い送出パイプ7bには開閉バルブが設けられていてもよい。
【0039】
具体的に説明すると、長い送出パイプ7aは、反応容器1a内のイオン液体I上に溜まったギ酸液中に長い送出パイプ7aの下端が開口するよう配置される。一方、短い送出パイプ7bは、反応容器1a内のイオン液体I上に溜まったギ酸液の液面よりも上方に配置される。長い送出パイプ7aと短い送出パイプ7bの反応容器1aから外部へ突出した端部は、ポンプP2およびバルブV2を有するパイプラインL2の上流端と接続している。このパイプラインL2の下流端は、ギ酸Fを貯蔵するギ酸タンク30と接続している。
【0040】
展延部3は、反応容器1a内に設けられてその内部のイオン液体Iの表面積を拡大するものである。実施形態1の場合、展延部3は、複数の円板状展延壁3aおよびこれらを串刺し状に平行に連結する回転軸3bと、回転軸を回転させる駆動手段3cとを備え、各展延壁3aの下部がイオン液体I中に浸すように設置されている。展延壁3aは、例えば、回転軸3bを挿通させる中心孔を有する円板状セラミックからなり、その外周面には複数の溝が形成されている。なお、展延壁3aはこの形状に限らず、例えばギヤ形でもよい。
【0041】
回転軸3bもセラミックからなる。各展延壁3aと回転軸3bの連結構造は、例えば、各展延壁3aの中心孔と回転軸3bの外周面に相互に係合する切欠き凹部と係合凸部を形成し、各展延壁3aと回転軸3bとが一体状に回転する構造である。なお、各展延壁3aの位置がずれないように、例えば、各展延壁3aの両側位置の回転軸3bにセラミック製のネジを螺着する。
【0042】
回転軸3bの両端は、反応容器1aの対向壁に回転可能かつ気密に枢着され、回転軸3bの一端は反応容器1aから突出して駆動手段3cに連結されている。
駆動手段3cは、例えば、モータ3c1と、モータ3c1の駆動軸先端に固定された第1プーリ3c2と、回転軸3bの一端に固定された第2プーリ3c3と、第1および第2プーリ3c2、3c3に掛けられたベルト3c4とからなる。なお、第1、第2プーリ3c2、3c3およびベルト3c4の代わりに、スプロケットおよびチェーンを用いてもよい。
【0043】
〈ギ酸製造装置の運転時の動作について〉
本発明のギ酸製造装置は、例えば、次のように運転する(図1参照)。
ギ酸製造装置の運転スイッチをONすることにより、ヒータ2が発熱し、それによって反応容器1aを介してイオン液体Iが加熱される。また、モータ3c1が回転し、モータ3c1の回転力が第1プーリ3c2、ベルト3c3および第2プーリ3c4を介して回転軸3bに伝達され、回転軸3bと共に各展延壁3aが回転する。
【0044】
各展延壁3aが回転することにより、各展延壁3aの周囲の加熱されたイオン液体Iが液面上に引き上げられる。特に、水飴のように高粘性のイオン液体Iは、展延壁3aへの粘着性が高いため、各展延壁3aの回転に伴って液面上に高く引き上げられる。それに加え、展延壁3aの外周面の複数の溝がイオン液体Iの引き上げに有効である。一方、展延壁3aは厚みが薄い円板形であるため、イオン液体Iに対する回転抵抗を小さくすることができ、モータ3c1に負荷がかかり過ぎないようにすることができる。
【0045】
ギ酸合成反応部1でのギ酸合成において、イオン液体Iの存在下での水素と二酸化炭素の反応は、反応容器1a内に水素と二酸化炭素を導入し、水素と二酸化炭素の混合ガスをイオン液体Iの表面に接触させることで行うことができる。この際、展延部3の各展延壁3aが回転することによりイオン液体Iの表面積が拡大し、混合ガスとイオン液体Iの接触面積が増加する。この際、反応容器61内の水素の圧力は、例えば、50barに設定され、二酸化炭素の圧力は、例えば、50barに設定される。反応温度は、イオン液体Iが液体状態であれば特段の制限はないが、ギ酸を効率よく製造するためには常温以上に加熱することが好ましく、例えば、130℃である。反応時間は、例えば12時間である。
【0046】
一方、展延部3の動作中、温度センサ4によってイオン液体Iの温度が検知され、その検知信号が図示しない制御部に入力される。例えば、イオン液体Iを150℃の温度範囲に加熱するよう設定した場合、制御部は、イオン液体Iの温度が、例えば、155℃を超えるとOFFし、145℃を下回るとONするよう各ヒータ2を制御する。
【0047】
このようにして合成された反応容器1a内のギ酸(ギ酸液)がイオン液体I上に溜まった場合、バルブV2を開き、ポンプP2を駆動することにより、ギ酸液を反応容器1aからギ酸タンク30へ送ることができる。あるいは、ギ酸を蒸溜することもできる。すなわち、ギ酸合成反応部1のヒータ2によってイオン液体Iと共にギ酸液を加熱することによりギ酸ガスを発生させ、ギ酸ガスをパイプラインL2に通す間に液化してギ酸タンク30へ送ることもできる。
なお、ガスボンベを用いず、工場から排出される水素および二酸化炭素を直接ギ酸合成反応部1へ供給するようにしてもよい。この場合、ギ酸合成時およびギ酸送出時は、ギ酸合成反応部1に水素および二酸化炭素を供給することができないため、ギ酸合成反応部1を複数設け、複数のギ酸合成反応部1のうちのいずれかに水素および二酸化炭素を供給することができるようにすることが好ましい。
【0048】
(実施形態2)
図2は本発明のギ酸製造装置の実施形態2を示す概略構成図である。図3は実施形態2のギ酸製造装置における展延部を示す構成図であって、図3(A)は側面図、図3(B)は正面図である。図4は実施形態2のギ酸製造装置における水素生成反応部の別の展延部を示す構成図であって、図4(A)は側面図、図4(B)は正面断面図である。なお、図2において、図1中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
実施形態2のギ酸製造装置が実施形態1と異なる点は、ギ酸合成反応部の構成であり、実施形態2においてその他の構成は実施形態1と同様である。以下、実施形態2の実施形態1とは異なる点を主に説明する。
【0049】
具体的に説明すると、ギ酸合成反応部10は、密閉可能な反応容器11と、ヒータ12と、展延部13と、液体循環ラインL1とを備える。
反応容器11は、実施形態1の反応容器1aと同様であり、その内部で生成したギ酸を外部に送出するための送出部7を有している。
展延部13は、実施形態2の場合、反応容器11内に平行に立設された複数枚の展延壁13aを有してなる。
【0050】
図3および図4に示すように、この展延壁13aの左右の両側面は全面的に凹凸表面であり、それによって展延壁13aの表面積を増加させている。図3(A)および(B)の場合、展延壁13a1の両側面全面に、例えば、幅Wが1〜10mm程度の水平方向に延びる溝13tをストライプ状に複数設けて凹凸表面を形成している。なお、溝13tの代わりに突起でもよい。図4(A)および(B)の場合、浅くW字形に折れ曲がった展延壁13a2の両側面全面に、例えば、直径Dが1〜10mm程度の半球状の凹部13dを複数設けて凹凸表面を形成している。なお、凹部13dの代わりに凸部でもよい。
【0051】
ヒータ12は、反応容器11内のイオン液体Iを加熱する。実施形態2の場合、ヒータ12はM字形のシーズヒータであり、展延壁13aの内部に設けられている。
この場合、例えば、下方に開口する中空扁平形の展延壁13aをセラミックにて形成し、展延壁13aの下方開口部から内部へヒータ12を挿入する。さらに、ヒータ12がギ酸によって腐食しないよう展延壁13aの内部に充填剤、例えば、砂を熱硬化性樹脂と混ぜたペーストを充填して熱硬化させる。これによって、ギ酸に接触して腐食しないようヒータ12を展延壁13a内に固定できる。また、反応容器11の底壁における各展延壁13aを取り付ける位置に貫通孔を形成し、各貫通孔に各ヒータ12の両端を挿通させ、ヒータ12の両端と底壁とを溶接して液漏れがないよう固定する。
【0052】
液体循環ラインL1は、反応容器11内の底部に溜まるイオン液体Iを汲み上げて各展延壁13aの上部に吐出する。実施形態2の場合、液体循環ラインL1は、循環パイプL1Aと、反応容器11内の上部に設けられた吐出部L1Bとを備える。
循環パイプL1Aの途中には、バルブV1、ギ酸とイオン液体の混合液体FIの温度を検知する温度センサ14およびポンプP1が設けられている。この場合、ポンプP1としては特に限定されないが、イオン液体が高粘性である場合は、内部を耐食処理したロータリーポンプが好ましい。なお、図示省略するが、循環パイプL1AのポンプP1よりも下流側に、古くなったイオン液体を反応容器11内から排出するためのバルブ付き排出パイプを設けてもよい。
【0053】
吐出部L1Bは、循環パイプL1Aの下流端と接続された1本のセンターパイプ16と、センターパイプ16から分岐して各展延壁13aの上端の上方に平行に配置される複数の分岐パイプ17とを備え、各分岐パイプ17にはイオン液体Iを吐出する吐出孔が長手方向に沿って複数個形成されている。
【0054】
ギ酸合成反応部10の運転時、各ヒータ12が発熱し、各展延壁13aが加熱される。また、バルブV1が開き、ポンプP1が駆動して、反応容器11内のイオン液体Iが液体循環ラインL1にて汲み上げられ、吐出部L1Bの各分岐パイプ17から各展延壁13aの上端にイオン液体Iが吐出する。これにより、イオン液体Iは加熱された各展延壁13aの左右側面(凹凸表面)に沿って流れ落ち、反応容器11の底部に溜まったイオン液体Iは液体循環ラインL1にて前記のように再び反応容器11の上部へ汲み上げられて各展延壁13aの上端に吐出される。このように、イオン液体Iは、ギ酸合成反応部10を環流し続ける間に、各展延壁13aの左右凹凸表面に沿って流れ落ちながら各ヒータ12にて常温〜200℃の温度範囲に加熱される。
【0055】
実施形態2によれば、ギ酸合成反応部10において最もギ酸生成効率が高い展延壁13aの側面を直接的に加熱することができるため、ギ酸生成効率がより向上すると共に、熱効率も高くなる。なお、ヒータ12は展延壁13aの内部だけに限らず、例えば、反応容器11内の底部、液体循環ラインL1等にも設けてもよい。
【0056】
(実施形態3)
図5は本発明のギ酸製造装置の実施形態3におけるギ酸合成反応部(天板図示省略)を示す概略斜視図である。なお、図5において、図4中の要素と同様の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
実施形態3が実施形態2と異なる点は、ギ酸合成反応部110の構成であり、実施形態3においてその他の構成は実施形態2と同様である。以下、実施形態3の実施形態2と異なる点を主に説明する。
【0057】
実施形態3のギ酸製造装置において、水素生成反応部110は、密閉可能な反応容器111と、ヒータ(図示省略)と、展延部113と、液体循環ラインL11とを備える。この場合、展延部113の展延壁113aが反応容器111の周囲壁および仕切り壁を構成しており、各展延壁113aの内部にヒータが設けられている。なお、反応容器11の周囲壁を構成する展延壁113aの内面、および仕切り壁を構成する展延壁113aの両面は、凹凸表面(図11、図12参照)となっていることが好ましい。
【0058】
また、実施形態3の場合、液体循環ラインL11の吐出部L11Bは、循環パイプL1Aの下流端と接続された1本のセンターパイプ16と、センターパイプ16から分岐して各展延壁113aの上端の側面付近に平行に配置される複数の分岐パイプ117とを備え、各分岐パイプ117にはイオン液体Iを散布若しくは噴霧する吐出孔が長手方向および短手方向に沿って複数個形成されている。すなわち、実施形態3における吐出部L11Bは、低粘度のイオン液体を循環させる場合に適している。
【0059】
実施形態3の水素生成反応部110によれば、各分岐パイプ117から液滴状または霧状のイオン液体Iが反応容器111内に放出されて各展延壁113aの側面上部に付着する。そして、各展延壁113aの側面上部に付着したイオン液体Iは側面に沿って流れ落ちながら加熱され、加熱されたイオン液体Iに水素と二酸化炭素の混合ガスが接触する。
【0060】
実施形態3によれば、各展延壁113aの側面を流れるイオン液体Iの表面積が増加することに加え、各分岐パイプ117から液滴状または霧状にイオン液体Iが放出されることで、イオン液体Iの表面積がより一層増加する。この結果、より高効率にギ酸を合成することが可能である。また、反応容器111を構成する外周壁を展延壁113aとして用いることによって、仕切り壁の数が少なくなって反応容器111をコンパクト化することができる。
【実施例】
【0061】
以下の合成例は、本発明をさらに説明するものであり、本発明を何ら限定するものではない。
イオン液体
なお、本発明において用いるイオン液体としては、以下の合成例1〜5については広栄化学工業製のトリn−ヘキシルn−テトラデシルホスホニウム クロライド(純度99%)を用いた。
このイオン液体は、入手後予め真空下で12時間加熱(120℃)乾燥して用いた。前記の各イオン液体について、次の方法によりギ酸合成反応に適した反応温度を調べた。
【0062】
サンプル調整
イオン液体中における無触媒のギ酸合成について、水素、二酸化炭素、ギ酸の経時変化を1H−および13C−NMRにより観測するために、イオン液体、水素、二酸化炭素を反応容器表面の触媒効果の無い石英管に封じ込んだ。尚、金属によっては触媒効果あるため、これまでの研究で触媒効果が無く、NMR観測可能な石英管を用いた。
【0063】
石英管を開封することなく気相・液相をNMR測定し、反応を追跡した。そこで、これまでに知られている水性ガスシフト反応とは異なり、ギ酸を中間体とする新バージョンの水性ガスシフト反応の可逆性:
【化2】

に注目した。以下のようにギ酸水溶液とイオン液体を石英管に封じ込み、ギ酸から水素と二酸化炭素に分解させることで石英管内に所望量の水素、二酸化炭素、およびイオン液体を封じ込んだ。
【0064】
窒素ガスが充填されたドライボックス中で、市販されているナカライテスク社製のギ酸水溶液(純度95%)と予め乾燥した前記イオン液体の混合物0.29mL(ギ酸とイオン液体のモル比4:1)を、長さ10cm×内径2.5mmの石英管(容量0.49mL)内に充填し、ガスバーナーを用いて石英管を封止してサンプルを作製した。
【0065】
合成例1
ギ酸と前記イオン液体の混合物0.29mL(モル濃度で6.88M)を石英管に充填し封入し、上記方法により水素と二酸化炭素に分解した後に、60℃に保持した電気炉内で12時間反応させた。尚、この時、ギ酸は53%分解し、イオン液体中にギ酸が3.23M存在する条件で合成実験を行った。反応後、NMR観測を行い、ギ酸生成量を調べた。尚、ギ酸生成量は仕込みの水素および二酸化炭素から理論上最大量のギ酸を100%(イオン液体に溶解したギ酸のモル濃度が6.88M)として、各条件でのギ酸生成量を求めた。
なお、ギ酸の生成量には反応開始時に存在するギ酸は含まれず、水素と二酸化炭素ガスから純粋に合成されたギ酸量に言及する。その結果、ギ酸存在下でのギ酸生成収率(ギ酸生成量)は28%(モル濃度で1.91M)であることが判った。
【0066】
合成例2
合成例1の反応温度を80℃としたこと以外は、合成例1と全く同様にした。
その結果、ギ酸生成収率(ギ酸生成量)は29%(モル濃度で2.00M)であることが判った。
【0067】
合成例3
合成例1の反応温度を100℃としたこと以外は、合成例1と全く同様にした。
その結果、ギ酸生成収率(ギ酸生成量)は18%(モル濃度で1.24M)であることがわかった。
【0068】
合成例4
合成例1の反応温度を130℃としたこと以外は、合成例1と全く同様にした。
その結果、ギ酸生成収率(ギ酸生成量)は28%(モル濃度で1.96M)であることがわかった。一例として、図6に反応前後の1H−NMRスペクトル変化を示す。
【0069】
合成例5
合成例1の反応温度を140℃としたこと以外は、合成例1と全く同様にした。
その結果、ギ酸生成収率(ギ酸生成量)は24%(モル濃度で1.65M)であることがわかった。以上の結果からギ酸生成収率と反応温度の関係を図7のようにグラフにまとめる。グラフから、低い60℃であってもギ酸が合成されるため、前記イオン液体において好ましいギ酸合成の温度条件は、60℃であると判断される。
【0070】
試験例1
ホスホニウムイオン系イオン液体の耐久性
ギ酸とトリn−ヘキシルn−テトラデシルホスホニウム クロライドの混合物0.29mL(モル比0.6:1)を石英管に充填して封入した後、250℃で保持した電気炉内で14日反応させた。その後、反応前後の前記イオン液体のNMR観測し、NMRスペクトルを比較してギ酸分解反応で生じる生成物以外のピークの出現の有無を調べ、前記イオン液体の耐久性を調べた。
【0071】
その結果、1H−NMRスペクトルを200倍に拡大して微小なピークの有無を調べたが、ギ酸およびギ酸分解反応生成物以外にピークの変化は無いため、ギ酸分解反応を250℃で14日行ったことによる前記イオン液体の劣化は無いことが確認できた。従って、前記イオン液体は反復使用が可能であり、大幅なコスト低減につながると判断できた。
また、広栄化学工業製の1−ブチル3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド((CF3SO22-)(純度99%)を用いて上記と同様に耐久試験を行ったが、該イオン液体については耐久性が劣ることが判った。
【0072】
以上より、トリn−ヘキシルn−テトラデシルホスホニウム クロライドの耐久性は極めて優れていることが判明した。
なお、上記の合成例は、本発明による装置に好適に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、イオン液体、特にホスホニウムカチオンからなるイオン液体の存在下で、かつ触媒の非存在下に、水素ガスと二酸化炭素を原料として、低温で効率よくギ酸を製造できる。
【符号の説明】
【0074】
1、10、110 ギ酸合成反応部
1a、11、111、61 反応容器
2、12 加熱手段(ヒータ)
3、13、113 展延部
3a、13a、113a 展延壁
3C 駆動手段(モータ)
7 送出部
21 水素ボンベ
22 二酸化炭素ボンベ
30 ギ酸タンク
F ギ酸
I イオン液体
L1 液体循環ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体を収容すると共に、外部から水素と二酸化炭素が導入され、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成する密閉可能なギ酸合成反応部を備えたことを特徴とするギ酸製造装置。
【請求項2】
前記ギ酸合成反応部が、合成されたギ酸を外部へ送出するための送出口を有する密閉型反応容器と、該反応容器内のイオン液体を加熱する加熱手段と、該反応容器内に設けられて反応容器内のイオン液体の表面積を拡大する展延部とを備える請求項1に記載のギ酸製造装置。
【請求項3】
前記展延部が、イオン液体と接触するように前記反応容器内に可動に設けられた展延壁と、該展延壁を動かす駆動手段とを有し、
前記展延壁を動かすことによりイオン液体をその液面上に持ち上げて展延壁の表面に沿って流すように構成した請求項2に記載のギ酸製造装置。
【請求項4】
前記展延部が、前記反応容器内に立設された1つ以上の展延壁と、前記反応容器内の底部に溜まるイオン液体を汲み上げて前記展延壁の上部に吐出する液体循環ラインとを有し、
イオン液体を前記展延壁の上部から側表面に沿って流すように構成した請求項2に記載のギ酸製造装置。
【請求項5】
前記展延壁が凹凸表面を有する請求項3または4に記載のギ酸製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のギ酸製造装置を用いて、イオン液体の存在下で水素と二酸化炭素からギ酸を合成することを特徴とするギ酸の製造方法。
【請求項7】
前記イオン液体が、以下の、一般式(1):
【化1】

[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子によって置換されてもよいアルキル基、あるいは1〜3個のハロゲン原子または低級アルキルもしくはアルコキシ基により、o位またはp位が置換されていてもよいアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、
-はホスホニウムカチオンに対するカウンターアニオンを表す]
で表されるホスホニウムカチオンおよびカウンターアニオンからなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4は炭素数1〜18のアルキル基もしくはアリール基である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ホスホニウムカチオンが、テトラフェニルホスホニウム塩、トリn−ヘキシルn−テトラデシルホスホニウム塩、またはテトラブチルホスホニウム塩である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記カウンターアニオンが、HCOO-、CF3SO3-、Cl-、NO3-、およびp−トルエンスルホン酸のうちの1つ以上を含む請求項7〜9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
反応温度が、常温〜約200℃である、請求項6〜10のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23486(P2013−23486A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161231(P2011−161231)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(509289777)蟻酸・水素エネルギー開発株式会社 (2)
【Fターム(参考)】