説明

クランク穴の加工工具

【課題】短い加工時間で精度の良い仕上げ面を得ることができるシリンダブロックのクランク穴の加工工具を提供する。
【解決手段】クランクシャフトのジャーナル部の軸受部を構成するためシリンダブロックに設けられる複数のクランク穴を加工する加工工具において、前記加工工具の先端部に設けられた荒加工刃と、該荒加工刃よりも該加工工具の基端部側に設けられた中仕上げ加工刃と、該中仕上げ加工刃よりも該加工工具の基端部側に設けられた仕上げ加工刃と、を直列的にかつ同軸線上に備え、前記荒加工刃の先端から前記中仕上げ加工刃の先端までの距離及び前記中仕上げ加工刃の先端から前記仕上げ加工刃の先端までの距離はいずれも前記ジャーナル部の長さより長く、前記荒加工刃の先端から前記仕上げ加工刃の後端までの長さは前記クランクシャフトの隣接するジャーナル部間の長さよりも短いこととする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックに設けられるクランクシャフトのジャーナル部の軸受部を構成するクランク穴を加工する加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダブロックのクランク穴のように、穴の内周面を特に良好に加工する必要がある場合、荒加工としてのリーマによる切削加工の後、仕上げ加工としての砥石による研削加工が行われていた。しかし、研削加工を行う際には、軸状の砥石を被加工穴に対して精度よく位置決めした状態で挿入することが必要であり、砥石と被加工穴との相対位置精度が悪い場合(以下「心ずれ」という。)には、高精度の穴加工を行うことができない。そのため、切削加工された被加工穴に心ずれを生じさせることなく、砥石による研削を行う技術として、例えば特許文献1に示す加工工具が知られている。これは、特許文献1の図1に示すように、先端部外周に荒加工用のリーマ部材61を備えたリーマ部16を設け、該リーマ部16より基端部側に、仕上げ用の砥石部材60を前記リーマ部16とは同心上の外周に備えた砥石部14からなる。この加工工具によると、被加工穴の内周面を加工する際、まず、リーマ部16を被加工穴に挿入して荒加工を行い、そのまま加工工具をさらに被加工穴に挿入して砥石部14で研削加工することにより、前記心ずれを生じさせることなく仕上げの研削加工を行うことができる。
【特許文献1】特開2004−291226号公報(第16頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の工具では、被加工穴の加工中に荒加工であるリーマ部16での加工と仕上げ加工である砥石部14での加工とを同時に行うことが有る。例えば被加工穴であるクランク穴の長さが、リーマ部の軸線方向の長さより長いときには、リーマ部による荒加工と砥石部による仕上げ加工との同時加工が、該荒加工の後半において生じることとなる。ところで、シリンダブロックのクランク穴は、下穴を半円ずつ別工程・別部品で加工し、クランク穴の内周面を加工する前に組付けることから、組付け精度の関係から取しろを小さくすることが難しい。そのため荒加工において、大きな取しろを短時間で加工しようとすると切削抵抗が大きくなるため加工振動が発生する。この加工振動が、前記同時加工する際の仕上げ加工に悪影響を生じて被加工穴(クランク穴)の仕上げ面の精度を悪化させる。
【0004】
本発明は係る従来の問題点に鑑みてなされたものであり、短い加工時間で精度の良い仕上げ面を得ることができるシリンダブロックのクランク穴の加工工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明の特徴は、クランクシャフトのジャーナル部の軸受部を構成するためシリンダブロックに設けられる複数のクランク穴を加工する加工工具において、前記加工工具の先端部に設けられた荒加工刃と、該荒加工刃よりも該加工工具の基端部側に設けられた中仕上げ加工刃と、該中仕上げ加工刃よりも該加工工具の基端部側に設けられた仕上げ加工刃と、を直列的にかつ同軸線上に備え、前記荒加工刃の先端から前記中仕上げ加工刃の先端までの距離及び前記中仕上げ加工刃の先端から前記仕上げ加工刃の先端までの距離はいずれも前記ジャーナル部の長さより長く、前記荒加工刃の先端から前記仕上げ加工刃の後端までの長さは前記クランクシャフトの隣接するジャーナル部間の長さよりも短いことである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、前記仕上げ加工刃の直径よりもわずかに小さい直径のガイド部を、前記仕上げ加工刃よりも前記加工工具の基端側に、前記荒加工刃、前記中加工刃、前記仕上げ加工刃と直列的にかつ同軸上に備えたことである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、前記荒加工刃又は前記中仕上げ加工刃は、超硬リーマ又はボーリング工具の切刃構成としたことである。
【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1又は2において、前記仕上げ加工刃は電着砥石であり、スピンドルスルークーラント穴を備えたことである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1又は2において、前記仕上げ加工刃は軸線に対してねじれ形状となった複数のねじれ刃であり、隣接する該ねじれ刃の間にクーラント噴出孔を設けたことである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係るクランク穴加工工具によると、クランク穴の加工を各加工刃が荒加工、中仕上げ加工、仕上げ加工の順に単独で行うことができるので、先に行われる加工の加工振動が後に行われる加工に影響を及ぼさない。そのため、荒加工では切削負荷を上げて速やかに加工でき、中仕上げ加工では最終的な仕上げ面につなげる適度な精度の面を速やかに加工でき、仕上げ加工では良好な精度の仕上げ面を得ることができる。このような構成でいわゆる1パス加工することによって短い加工時間で精度の良い仕上げ面を得ることが可能なクランク穴加工工具を提供することができる。
【0011】
請求項2に係るクランク穴加工工具によると、そのガイド部によってセルフサポートされるため、加工振動が抑制されて、より一層良好な精度の仕上げ面を得ることができる。
【0012】
請求項3に係るクランク穴加工工具によると、超硬リーマやボーリング工具は切削量を大きくとることができるので、荒加工や中仕上げ加工に使用することで、加工時間の短縮を図ることができる。また、ボーリングでは、切刃(チップ)を交換するだけで簡単に新たな切れ味を回復することができる。
【0013】
請求項4に係るクランク穴加工工具によると、電着砥石は砥粒の突き出しが大きく切れ味が鋭いので、仕上げ精度の良好な仕上げ面を得ることができる。また、電着砥石は工具再生産コストも安いので、生産コストの低減を図ることができる。また、スピンドルスルークーラントによって、工具の表面への切り屑の溶着を防止して高い研削効率を維持することができるとともに工具の使用耐用期間を延長してコストの削減を図ることができる。
【0014】
請求項5に係るクランク穴加工工具によると、ねじれ刃形状とすることによって、加工の際の切削負荷を滑らかに受けることができて良好な仕上げ面を得ることができる。また、クーラントによって刃先への切り屑の溶着を防止して高い研削効率を維持することができるとともに工具の使用耐用期間を延長してコストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るクランク穴加工工具の実施形態を図面に基づいて以下に説明する。図1はクランク穴加工工具の側面図であり、図2該クランク穴加工工具を構成する各加工刃の軸線方向の寸法と、クランクシャフトのジャーナル部の軸線方向の寸法と、シリンダブロックのジャーナル部の軸受部の巾寸法(長さ)との関係を示す図である。
【0016】
クランク穴加工工具1は、例えばマシニングセンタ等に使用される加工工具であり、段付円筒状に形成され、先端部に設けられている荒加工部3と、該荒加工部3よりも基端部側に設けられた中仕上げ加工部5と、該中仕上げ加工部5よりも基端部側に設けられた仕上げ加工部7とを備え、基端部には図略の大径のシャンクが設けられ、該シャンクにおいて図略のホルダに保持されるようになっている。
【0017】
荒加工部3には荒加工刃としての超硬リーマ4が設けられている。この超硬リーマ4は一般に知られているもので、複数の短冊状の超硬チップ9が荒加工部3の外周にろう付によって固着されている。隣接する超硬チップ9の間には軸線方向に延びる溝11が夫々形成されている。これらの超硬リーマ4の先端より後述する中仕上げ加工刃の先端までの距離L1は、図2に示すように、加工されるクランク穴に軸承されるクランクシャフトWのジャーナル部Jの長さLJよりも少し長く形成されている。
【0018】
中仕上げ加工部5には中仕上げ加工刃としての超硬リーマ6が設けられている。この超硬リーマ6も一般に知られているもので、前記荒加工部3の超硬チップ9よりも細い超硬チップ13が設けられ、隣接する超硬チップ13の間には前記荒加工部3の溝11よりやや浅い溝15が形成されている。中仕上げ加工部5の超硬チップ13を含む直径は荒加工部3の直径よりもわずかに大きく形成されている。これらの超硬リーマ6の先端より後述する仕上げ加工刃の先端までの距離L2は、図2に示すように、荒加工部3と同様に前記クランクシャフトWのジャーナル部Jの長さLJよりも少し長く形成されている。
【0019】
仕上げ加工部7には仕上げ加工刃としての砥石部17が設けられ、砥石部17には複数の短冊状の砥石19が仕上げ加工部7の外周面に等間隔に設けられている。砥石19は仕上げ加工部7の外周面に砥粒が電着されることにより形成された電着砥石である。この砥粒は、例えばダイヤモンド又はCBN(立方晶型窒化ホウ素)等であり、ニッケル等を用いて電解メッキ法によって固着されている。互いに隣接する砥石19の間には軸線方向に延びる溝21が形成され、該溝21には後述するクーラント噴出孔23が夫々二箇所ずつ開口している。仕上げ加工部7の砥石19を含む直径は中仕上げ加工部5の直径よりもわずかに大きく形成されている。また、砥石部17の先端より後述するガイド部の先端までの距離L3は、図2に示すように、前記クランクシャフトWのジャーナル部Jの長さLJよりも少し長く形成されている。また、図2に示すように、前記荒加工部3の先端より仕上げ加工部7の後端までの長さLTは前記クランクシャフトWの隣接するジャーナル部J間の長さLWよりも短くなるように形成されている。
【0020】
前記クーラント噴出孔23にクーラント液を送るクーラント穴25は、前記シャンクの後端から仕上げ加工部7まで延びる穴であり、いわゆるスピンドルスルークーラントを構成している。クーラント穴25には各クーラント噴出孔23へ連通する連通路27が設けられている。クーラント噴出穴23は仕上げ加工部7よりも基端部側には、超鋼製のガイドパット29が軸線方向に延在するように複数個所において設けられたガイド部30が形成されている。このガイド部30の直径は仕上げ加工部7の直径よりもわずかに小さく形成されている。このガイド部30によりクランク穴加工工具1のセルフサポート性を実現させている。
【0021】
以上の構成のクランク穴加工工具1の使用について、図面に基づき以下に説明する。まず、クランク穴加工工具1によって加工されるシリンダブロック31は、図3に示すように、例えば鋳鉄製で、シリンダブロック本体31aとロアーケース31bとから構成される。シリンダブロック本体31aとロアーケース31bとは別工程で製作され、接合部においてクランクシャフトWを軸支する軸受部の下穴31cが形成された状態で組付けられている。
【0022】
クランク穴加工工具1は、例えばマシニングセンタの図略のホルダに保持して、加工するシリンダブロック31の軸受部の下穴31c正面の前進位置にセットする。そして、前記マシニングセンタの駆動装置を駆動させ、同加工工具1を回転させながら前記下穴31cに向かって前進させる。図3に示すように、まず荒加工部3によって軸受部の下穴31cを荒加工して加工穴31dにする。この軸受部の下穴31cの長さは荒加工部3の超硬リーマ4の先端から中仕上げ加工刃である超硬リーマ6の先端までの距離よりも短いので、該超硬リーマ4の先端が下穴31cの奥端に到達するまで、次の中仕上げ加工部5の超硬リーマ6の先端が該下穴31c(加工穴31d)に接触することがない。続いて、同加工工具1を前進させて、図4に示すように、中仕上げ加工部5によって、中仕上げ加工を行う。この場合も、加工される加工穴31dの長さが、中仕上げ加工部5の超硬リーマ6の先端から仕上げ加工刃である砥石部17の先端までの距離よりも短いので、該超硬リーマ6の先端が該加工穴31dの奥端に到達するまで、次の仕上げ加工部7の砥石部17の先端が該加工穴31dに接触することがない。そして、図5に示すように、さらに同加工工具1を前進させて、仕上げ加工部7によって仕上げ加工を行う。一方、図略のクーラント液供給装置からクーラント液が供給され、該クーラント液はクーラント穴25、連通路27を経由してクーラント噴出孔23より噴出される。このクーラント液によって、砥石部17の表面への切り屑の溶着を防止して高い研削効率を維持することができる。次に、図6に示すように、さらに同加工工具1を前進させた場合、荒加工部3先端から仕上げ加工部7の後端までの長さが、(前記クランクシャフトWの隣接するジャーナル部J間の長さLWに略等しい)隣接する軸受部間の長さよりも短いので、必ず仕上げ加工が終了した後に、次の軸受部の下穴31cの荒加工を開始することができる。
【0023】
このように、本実施形態におけるクランク穴加工工具1によると、各加工工程は夫々単独で行われ、同時に異なった加工が進行することを防止することができる。そのため、各加工工程はその加工にあった切削或いは研削条件(例えば回転速度や送り速度等)により速やかに加工することができ、また、前加工工程における影響(例えば荒加工工程における切削振動等)が後の仕上げ加工工程に影響を与えることがないので、良好な仕上げ面を有するクランク穴31eを得ることができる。
【0024】
次に、他の実施形態におけるクランク穴の加工工具を、図面に基づいて以下に説明する。図7に示すように、本実施形態におけるクランク穴加工工具51は仕上げ加工部53における仕上げ加工刃である砥石部55が軸線方向に対してねじれたねじれ刃形状となっている。その他の構成は先の実施形態と同様なので省略する。本実施形態におけるクランク穴加工工具51によると、砥石部55をねじれ刃形状とすることによって、加工の際の切削負荷を滑らかに受けることができて良好な仕上げ面を得ることができる。
【0025】
なお、上記実施形態において、荒加工及び中仕上げ加工に使用する加工刃を超硬リーマとしたがこれに限定されず、例えばボーリング工具の切刃構成としてもよい。ボーリングでは、切刃(チップ)を交換するだけで簡単に新たな切れ味を回復することができる。
【0026】
また、上記実施形態においては、クーラント液を噴出する噴出孔を、仕上げ加工部における隣接する砥石部の間に設けるものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば荒加工部や中仕上げ加工部における隣接する超硬リーマの超硬チップ間に設けられた溝に供給するようにしてもよい。これによって、超硬リーマに切り屑が溶着するのを防止することができ、高い切削効率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るクランク穴加工工具の側面図。
【図2】加工工具の加工刃とクランクシャフトとの寸法関係を示す図。
【図3】シリンダブロックの加工状態を示す図。
【図4】同加工状態を示す図。
【図5】同加工状態を示す図。
【図6】同加工状態を示す図。
【図7】他の実施形態を示す図。
【符号の説明】
【0028】
1…クランク穴加工工具、3…荒加工部、4…超硬リーマ(荒加工刃)、5…中仕上げ加工部、6…超硬リーマ(中仕上げ加工刃)、7…仕上げ加工部、17…砥石部(仕上げ加工刃)、23…クーラント噴出孔、25…クーラント穴(スピンドルスルークーラント穴)、30…ガイド部、J…ジャーナル部、L1…荒加工刃の長さ、L2…中仕上げ加工刃の長さ、L3…仕上げ加工刃の長さ、LJ…ジャーナル部の長さ、LT…荒加工部の先端より仕上げ加工部の後端までの長さ(荒加工刃の先端より仕上げ加工刃の後端までの長さ)、LW…隣接するジャーナル部間の長さ、W…クランクシャフト。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトのジャーナル部の軸受部を構成するためシリンダブロックに設けられる複数のクランク穴を加工する加工工具において、
前記加工工具の先端部に設けられた荒加工刃と、
該荒加工刃よりも該加工工具の基端部側に設けられた中仕上げ加工刃と、
該中仕上げ加工刃よりも該加工工具の基端部側に設けられた仕上げ加工刃と、を直列的にかつ同軸線上に備え、
前記荒加工刃の先端から前記中仕上げ加工刃の先端までの距離及び前記中仕上げ加工刃の先端から前記仕上げ加工刃の先端までの距離はいずれも前記ジャーナル部の長さより長く、前記荒加工刃の先端から前記仕上げ加工刃の後端までの長さは前記クランクシャフトの隣接するジャーナル部間の長さよりも短いことを特徴とするクランク穴の加工工具。
【請求項2】
請求項1において、前記仕上げ加工刃の直径よりもわずかに小さい直径のガイド部を、前記仕上げ加工刃よりも前記加工工具の基端側に、前記荒加工刃、前記中加工刃、前記仕上げ加工刃と直列的にかつ同軸上に備えたことを特徴とするクランク穴の加工工具。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記荒加工刃又は前記中仕上げ加工刃は、超硬リーマ又はボーリング工具の切刃構成であることを特徴とするクランク穴の加工工具。
【請求項4】
請求項1乃至3において、前記仕上げ加工刃は電着砥石であり、スピンドルスルークーラント穴を備えたことを特徴とするクランク穴の加工工具。
【請求項5】
請求項1乃至3において、前記仕上げ加工刃は軸線に対してねじれ形状となった複数のねじれ刃であり、隣接する該ねじれ刃の間にクーラント噴出孔を設けたことを特徴とするクランク穴の加工工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−90450(P2007−90450A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279238(P2005−279238)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】