説明

クランク軸のジャーナル軸受構造

【課題】 シリンダブロックに亀裂が発生することを防止できるクランク軸のジャーナル軸受構造を提供する。
【解決手段】 シリンダブロック30とベアリングキャップ3とでクランク軸33のジャーナル35を挟み込んで軸支するクランク軸のジャーナル軸受構造であって、上記ベアリングキャップ3における上記シリンダブロック30との接合面3aの幅方向外側端部を凹凸状に形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸のジャーナル軸受構造に係り、特に、シリンダブロックに亀裂が発生することを防止できるクランク軸のジャーナル軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンのクランク軸のジャーナルを軸支する軸受構造として、図6に示す構造のものが知られている。
【0003】
この軸受構造は、エンジンのシリンダブロック30の下部に形成された軸受本体30aと、その軸受本体30aの下面にボルト31を介して取り付けられるベアリングキャップ32とでクランク軸33のジャーナル35を挟み込んで軸支するものである。なお、軸受本体30a及びベアリングキャップ32と、ジャーナル35との間には図示しない軸受メタルが介設される。
【0004】
このような軸受構造を備えたエンジンにおいて、各シリンダCの燃焼室内の燃焼圧力によりピストン(図示せず)が往復運動すると、それがコンロッド(図示せず)を介してクランク軸33の回転力に変換されるのであるが、燃焼室内の燃焼圧力の全てが回転力に変換される訳ではなく、燃焼圧力の一部はクランク軸33に負荷されることになる。そして、クランク軸33に負荷された荷重は、ベアリングキャップ32及びボルト31を介してシリンダブロック30の軸受本体30aに伝達され、最終的にこの軸受本体30aで燃焼圧力の反力を受けることになる。
【0005】
【特許文献1】実開昭62−102019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、近年ではエンジンの高出力化に伴ってクランク軸33に負荷される荷重が増大しており、その結果、シリンダブロック30の軸受本体30aに過大な負荷がかかり亀裂が発生する場合があった。
【0007】
これを具体的に説明する。
【0008】
燃焼圧力によりクランク軸33に負荷される荷重の一部は、クランク軸33をシリンダブロック30の幅方向に押す力として作用する。例えば、図6に示したようなV型エンジンでは、クランク軸33に作用する荷重Fがシリンダブロック30の垂直線VLに対して傾斜しているため、クランク軸33を幅方向に押す分力F1が比較的大きくなる(図では右側のシリンダC内の燃焼圧力により発生する力を示している)。ここで、本明細書及びそれに付随する特許請求の範囲における「幅方向」とは、クランク軸33の軸芯且つボルト31の軸芯と直交する方向(図6中左右方向)のことを意味し、「長手方向」とはクランク軸33の軸芯と平行な方向(図6中紙面裏表方向)のことを意味する。
【0009】
さて、クランク軸33を幅方向に移動させる(押す)力F1はベアリングキャップ32及びボルト31を介してシリンダブロック30の軸受本体30aに伝達されるのであるが、このとき、軸受本体30aの下面においてベアリングキャップ32と接触する部位にのみ分力F1による引張力が作用する。つまり、軸受本体30aの下面においてベアリングキャップ32と接触する部分のみが分力F1と同方向に引っ張られることになる。この結果、図7に示すように、軸受本体30aの下面における引っ張りの境界線、即ち、ベアリングキャップ32の上面(接合面)の幅方向外側端部との接合ラインBに大きな引張応力が発生し、この部位Bに亀裂が発生してしまう。
【0010】
ここで、図8に示すように、軸受本体30aの下面の幅方向外側端部に凹部36を形成し、ベアリングキャップ32の上面の幅方向外側端部と軸受本体30aの下面とが直接接触しないようにした軸受構造も知られている(特許文献1参照)。
【0011】
この構造では、軸受本体30aの下面に引っ張りの境界線が存在しなくなるため上記のような応力集中は起こらないと考えられる。しかしながら、本発明者がこの軸受構造を用いて種々の試験を行った結果、凹部36の内面の一部分Dに応力が集中し、この部位Dに亀裂が発生してしまうことが分かった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、シリンダブロックに亀裂が発生することを防止できるクランク軸のジャーナル軸受構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、シリンダブロックとベアリングキャップとでクランク軸のジャーナルを挟み込んで軸支するクランク軸のジャーナル軸受構造であって、上記ベアリングキャップにおける上記シリンダブロックとの接合面の幅方向外側端部を凹凸状に形成したものである。
【0014】
ここで、上記ベアリングキャップにおける上記接合面の上記幅方向外側端部に、上記幅方向に延出する溝を長手方向に複数設けても良い。
【0015】
また、上記シリンダブロック及びベアリングキャップが、ピストンの支持中心とクランク軸の軸芯とがエンジンの幅方向にオフセットされたエンジン用のものであっても良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下に示す効果を得ることができる。
【0017】
1)シリンダブロックにおけるベアリングキャップの幅方向外側端部との接合ライン(引っ張りの境界線)が幅方向に凹凸した形状となるため、シリンダブロックに発生する引張応力を幅方向に分散でき、亀裂の発生を防止できる。
【0018】
2)シリンダブロックにおけるベアリングキャップの幅方向外側端部との接合ライン(引っ張りの境界線)が従来よりも長くなるため、シリンダブロックに発生する引張応力を分散・低減でき、亀裂の発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
図1は本実施形態のクランク軸のジャーナル軸受構造におけるベアリングキャップの部分斜視図、図2はベアリングキャップの幅方向外側端部の上面図、図3はベアリングキャップの幅方向外側端部とシリンダブロックとの接合部を示す部分正面断面図である。
【0021】
本実施形態のクランク軸のジャーナル軸受構造(以下、軸受構造という)の基本的な構成は、図6に示したものと同様である。即ち、本実施形態の軸受構造は、エンジンのシリンダブロック30の下部に形成された軸受本体30aと、軸受本体30aの下部にボルト31を介して取り付けられたベアリングキャップ3とを備える。
【0022】
シリンダブロック30の軸受本体30aの下面及びベアリングキャップ3の上面にはクランク軸33のジャーナル35を収容するための半円形状の凹部37,39がそれぞれ形成されており、この凹部37,39の内面には図示しない軸受メタルが装着される。
【0023】
クランク軸33のジャーナル35を、軸受本体30aの下面の凹部37内に収容した状態で、ベアリングキャップ3をシリンダブロック30に対して下側から嵌め込み、ベアリングキャップ3の上面を軸受本体30aの下面に当接させる。この状態で、ベアリングキャップ3に形成された複数のボルト挿通穴40にボルト31を挿通し、そのボルト31の先端部を軸受本体30aの下面に形成されたネジ穴41に螺合させることで、シリンダブロック30とベアリングキャップ3とを一体的に固定し、両者の間にクランク軸33のジャーナル35を軸支することができる。
【0024】
本実施形態の軸受構造の特徴は、図1及び図2に示すように、ベアリングキャップ3の上面3a(つまり、軸受本体30aの下面との接合面)の幅方向外側端部(上面3aと側面3bとが交差するライン)が幅方向に凹凸状に形成されていることである。
【0025】
具体的に説明すると、本実施形態のベアリングキャップ3の上面3aには、その幅方向外側端部から幅方向内側に向かって延出する溝5が長手方向に複数設けられており、これによって、上面3aの幅方向外側端部が凹凸した形状を有している。なお、図では、ベアリングキャップ3の幅方向の一端側しか示されていないが、図示しない他端側にもこれと同様の溝5が形成されている。
【0026】
本実施形態では溝5は矩形状であり、幅方向内側への延出距離X、長手方向への延出距離Y、深さZにより定義される。また、本実施形態では、溝5同士の間隔は各溝5の長手方向への延出距離Yとほぼ等しく設定される。なお、溝5の具体的な寸法や、間隔・個数等はエンジンの特性等に応じて適宜設定されるものである。
【0027】
このように、上面3aの幅方向外側端部が凹凸状に形成されたベアリングキャップ3を備えた本実施形態の軸受構造では、当然、シリンダブロック30の軸受本体30aの下面におけるベアリングキャップ3の幅方向外側端部との接合ラインA(図3参照)も溝5と同形状に凹凸した形状となる。つまり、軸受本体30aの下面において、ベアリングキャップ3の端部と接触する位置が長手方向の位置によって異なることになる。
【0028】
次に本実施形態の軸受構造の作用を説明する。
【0029】
エンジンのシリンダCの燃焼室内の燃焼圧力がクランク軸33に負荷されると、ベアリングキャップ3及びボルト31を幅方向に押す分力F1(図6参照)が発生し、その分力F1により軸受本体30aの下面においてベアリングキャップ3と接触する部位にのみ分力F1による引張力が作用する。つまり、軸受本体30aの下面においてベアリングキャップ3と接触する部分のみが分力F1と同方向に引っ張られる。このとき、軸受本体30aの下面におけるベアリングキャップ3の上面3aの幅方向外側端部との接合ラインA(図3参照)が幅方向に凹凸した形状であるため、軸受本体30aの下面に生じる引っ張りの境界線も同様に凹凸した形状となる。この結果、軸受本体30aの下面における引張応力の発生位置が幅方向に分散される。
【0030】
即ち、従来の軸受構造ではベアリングキャップ32の幅方向外側端部が直線状であったため、軸受本体30aの下面の幅方向の一点に引張応力が集中していたが、本実施形態の軸受構造ではベアリングキャップ3の上面3aの幅方向外側端部が凹凸状であるため、引張応力の発生位置を幅方向に散らすことができる。これにより、高い応力集中を回避でき亀裂の発生を防止できる。
【0031】
また、本実施形態の軸受構造では、ベアリングキャップ3の上面3aの幅方向外側端部が凹凸状であるため、軸受本体30aの下面におけるベアリングキャップ3の幅方向外側端部との接合ラインA(引っ張りの境界線)の全長が従来(図7のB)よりも長くなる。この結果、軸受本体30aの下面に発生する引張応力が分散・低減されるため、亀裂の発生がより一層防止される。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定はされない。
【0033】
例えば、溝5の形状は一例として示したものであり本発明を限定する意図はない。つまり、溝5を形成する目的は、ベアリングキャップ3の幅方向外側端部を幅方向に分散させることと、幅方向外側端部の全長を増加させることにあるので、図4(a)に示すように三角形状の溝5’としても良いし、図4(b)に示すように台形形状の溝5’’としても良い。また、溝5を形成する目的は、ベアリングキャップ3の上面3aを凹凸状にすることにあるので、溝5の底面はあらゆる形状を取ることができる。例えば、図5に示すように、溝5の底面5aを斜めに形成しても図1の形態と同様の効果を得ることができる。
【0034】
更に、ベアリングキャップ3に溝を形成するのではなく、ベアリングキャップ3の幅方向外側側面3bそのものを凹凸状(波状等)に形成しても本発明の効果を得ることはできる。
【0035】
また、上記実施形態ではV型エンジンの軸受構造に適用した例を示したが、本発明はこの点において限定されず、あらゆるタイプのエンジンに適用可能である。例えば、ピストンの支持中心(つまりシリンダボアの中心)とクランク軸の軸芯とがエンジンの幅方向にオフセットされたエンジンではクランク軸に対して幅方向に作用する分力F1(図6参照)が大きくなるので、このようなエンジンに本発明を適用することも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係るクランク軸のジャーナル軸受構造におけるベアリングキャップの部分斜視図である。
【図2】図1の軸受構造のベアリングキャップの幅方向外側端部の上面図である。
【図3】ベアリングキャップの幅方向外側端部とシリンダブロックとの接合部を示す部分正面断面図である。
【図4】ベアリングキャップに形成する溝の変形例を示す上面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るクランク軸のジャーナル軸受構造におけるベアリングキャップの部分斜視図である。
【図6】クランク軸のジャーナル軸受構造の概略正面図である。
【図7】従来の軸受構造においてシリンダブロックに亀裂が発生する箇所を説明するための部分拡大断面図である。
【図8】従来の軸受構造においてシリンダブロックに亀裂が発生する箇所を説明するための部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0037】
3 ベアリングキャップ
3a 上面(接合面)
5 溝
30 シリンダブロック
35 ジャーナル
37 クランク軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとベアリングキャップとでクランク軸のジャーナルを挟み込んで軸支するクランク軸のジャーナル軸受構造であって、
上記ベアリングキャップにおける上記シリンダブロックとの接合面の幅方向外側端部を凹凸状に形成した
ことを特徴とするクランク軸のジャーナル軸受構造。
【請求項2】
上記ベアリングキャップにおける上記接合面の上記幅方向外側端部に、上記幅方向に延出する溝を長手方向に複数設けた
請求項1記載のクランク軸のジャーナル軸受構造。
【請求項3】
上記シリンダブロック及びベアリングキャップが、ピストンの支持中心とクランク軸の軸芯とがエンジンの幅方向にオフセットされたエンジン用のものである
請求項1又は2記載のクランク軸のジャーナル軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−70905(P2006−70905A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251263(P2004−251263)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】