説明

クリーンルーム用設備及びクリーンルームの空調方法

【課題】運転条件の変化に柔軟に対応可能なクリーンルーム用設備及びクリーンルームの空調方法を提供する。
【解決手段】クリーンルーム6への給気風量とクリーンルーム6内の圧力を制御するクリーンルーム用設備100であって、クリーンルーム6への給気風量を制御する風量制御手段3,9と、クリーンルーム6内の圧力を制御する圧力制御手段4,10と、風量制御手段3,9と圧力制御手段4,10とを制御する演算部14,15と、を備え、クリーンルーム6には、クリーンルーム6に供給されるエアが流通する給気ダクト12と、クリーンルーム6から排出されるエアが流通する排気ダクト13と、が接続され、風量制御手段3,9は、給気ダクト12と排気ダクト13とにそれぞれ備えられ、圧力制御手段4,10は、給気ダクト12と排気ダクト13とにそれぞれ備えられているクリーンルーム用設備100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム用設備及びクリーンルームの空調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば手術、製薬、動物飼育、遺伝子工学実験、蓄電池や半導体の製造等、幅広い分野でクリーンルームが使用されている。中でも、手術や製薬等の医学分野、動物飼育、遺伝子工学実験に好適に使用されるバイロジカルクリーンルームにおいては、主に、(1)病原体や遺伝子材料の施設外部への漏出或いは施設内部での拡散防止、(2)室内の清浄度維持、(3)温度及び湿度の維持、等が特に重要である。
【0003】
クリーンルームには、通常は必要に応じて、クリーンルームに付随して、清浄廊下、前室、後室等も併設されている。具体的には、非清浄廊下に対して、後室、クリーンルーム、前室及び清浄廊下の順で併設されていることがある。そして、これらは、扉等に通じて相互に入室可能な構成となっている。そのため、特に(1)に関する目的を達成するために、クリーンルームと各室との間、或いはクリーンルームと清浄廊下若しくは非清浄廊下との間等において一定の静圧差を生じるように、クリーンルーム内の圧力が制御されている。具体的には、従来、クリーンルームに供給される空気の給気風量、及び、クリーンルームから排出される排気風量を制御することが行われている。そして、これらの制御が、前記静圧差を維持するために重要である。
【0004】
図9は従来のクリーンルーム用設備の構成を模式的に示す図である。図9に示すクリーンルーム用設備300は、主に、空調機1と、クリーンルーム6への給気風量を制御する給気側風量制御ダンパ3と、排気風量を制御することでクリーンルーム6内の圧力(室圧)を制御する排気側圧力制御ダンパ10と、排気ファン11と、を備えている。
【0005】
また、これらの他にも、クリーンルーム用設備300は、風量センサ2、クリーンルーム6内外の圧力を測定する圧力センサ7a,7b、圧力センサ7a,7bに接続される差圧計7、HEPA(High Efficiency Particulate Air Filter)フィルタ5,8、給気風量及び圧力についての設定値が入力される操作部16,17、調整用ダンパ18を備えている。調整用ダンパ18の詳細については後記する。
【0006】
空調機1とクリーンルーム6とは給気ダクト12によって接続されている。また、クリーンルーム6と排気ファン11とは排気ダクト13によって接続されている。そして、給気側風量制御ダンパ3の開度は風量コントローラ14によって制御されるようになっている。さらに、排気側圧力制御ダンパ10の開度は圧力コントローラ15によって制御されるようになっている。
【0007】
従って、従来のクリーンルーム用設備300においては、給気ダクト12の途中に設けられている給気側風量制御ダンパ3によって、クリーンルーム6に給気される風量が制御されるようになっている。また、排気ダクト13の途中に設けられている排気側圧力制御ダンパ10によって、クリーンルーム6内の圧力が制御されるようになっている。
【0008】
従来のクリーンルーム用設備300においては、通常運転時、一定の給気風量及び圧力が維持されることを想定してクリーンルーム用設備300が運転される。即ち、試運転時に所望の給気風量及び圧力に対応する開度に各ダンパの開度が設定された後、当該開度が維持されて通常運転が行われる。そして、その結果、クリーンルーム6に初期設定した風量のエア(空気)が給気され、初期設定したクリーンルーム6内の圧力が維持されるようになっている。
【0009】
なお、試運転時の各ダンパの開度を設定する際、当該開度が最適なものとなるように、調整用ダンパ18を用いて微調整が行われる。この微調整は、作業者が試運転時に実測される給気風量及び圧力を参照しながら行われる。それとともに、風量コントローラ14及び圧力コントローラ15の制御パラメータも調整される。そして、これらの調整が完了した後、通常運転が行われることになる。
【0010】
試運転時に設定する給気風量及び圧力(室内圧力)と各ダンパ開度との関係を図10に示す。(a)は給気側風量制御ダンパ3に関するもの、(b)は排気側圧力制御ダンパ10に関するものである。図10(a)に示すように、クリーンルーム6への給気風量を多くする場合には、給気側風量制御ダンパ3の開度を大きくするようになっている。一方、クリーンルーム6への給気風量を少なくする場合には、給気側風量制御ダンパ3の開度を小さくするようになっている。
【0011】
さらに、図10(b)に示すように、クリーンルーム6内の圧力を高くする場合には、排気側圧力制御ダンパ10の開度を小さくするようになっている。一方、クリーンルーム6内の圧力を低くする場合には、排気側圧力制御ダンパ10の開度を大きくするようになっている。
【0012】
また、このような従来のクリーンルーム用設備として図9に示すもののほかにも、例えば特許文献1に記載の技術が挙げられる。即ち、特許文献1には、流量調整用ダンパと空調対象空間との間に、さらに、空調対象空間と圧力調整用ダンパとの間に遮断弁が備えられる空調装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−26382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記のように、図9や特許文献1に記載のクリーンルームにおいては、クリーンルームの上流と下流側(即ち給気側と排気側)とにそれぞれ備えられている一組のダンパが給気風量の制御と圧力の制御とを行っている。そして、例えば図9に示すクリーンルーム用設備300においては、これらの制御に先だって、前記一組のダンパとは別に備えられる調整用ダンパ18によって試運転時に調整が行われるようになっている(この際、調整用ダンパ18の開度は固定される。)。
【0015】
従って、給気風量や圧力を試運転時に設定したものから変更したい場合には、変更の都度調整用ダンパによる調整が通常は必要になる。この調整は時間を要するものであり、風量変更や圧力変更に際して利便性が高くないという課題がある。即ち、例えばクリーンルームの運用条件(給気風量や圧力等)や用途(他室との圧力関係等)を一度設定すると、設定した条件や用途からの変更作業が煩雑になることがある。
【0016】
また、例えばHEPAフィルタの目詰まり、給気ファン及び排気ファンの経時的な性能低下によって、ユーザの意図しない条件変化が生じる場合がある。例えば、給気ファンの性能が低下して、クリーンルームへの給気風量が意図せず減少することがある。その結果、意図しないクリーンルーム6内の圧力変化が生じることがある。そして、このような圧力変化の結果、例えば別のクリーンルーム等の各室や各廊下に対する圧力関係に変化が生じ、例えば封じ込め等が困難になる可能性がある。即ち、クリーンルームの安定的な運用が困難になる可能性があるという課題がある。
【0017】
本発明は前記の課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、運転条件の変化に柔軟に対応可能なクリーンルーム用設備及びクリーンルームの空調方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、給気風量及び圧力を独立して制御可能な手段をそれぞれ設けることにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0019】
本発明に拠れば、運転条件の変化に柔軟に対応可能なクリーンルーム用設備及びクリーンルームの空調方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るクリーンルーム用設備を示す図である。
【図2】ダンパの開度とダンパの抵抗係数との関係を示すグラフである。
【図3】本実施形態に係るクリーンルーム用設備における、給気風量及び圧力とダンパ開度との関係を示すグラフである。
【図4】本実施形態に係るクリーンルーム用設備における制御に係るフローチャートである。
【図5】給気風量変更時の測定圧力変化を示すグラフである。
【図6】設定圧力変更時の測定圧力変化を示すグラフである。
【図7】圧力損失が生じた際の測定圧力変化を示すグラフである。
【図8】本実施形態に係るクリーンルーム用設備の適用例である。
【図9】従来のクリーンルーム用設備を示す図である。
【図10】従来のクリーンルーム用設備における、給気風量及び圧力とダンパ開度との関係を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しながら本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明するが、本実施形態は以下の内容に制限されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施可能である。
【0022】
[1.構成]
はじめに、本実施形態に係るクリーンルーム用設備100の構成について、図1を参照しながら説明する。図1中、破線は電気信号線を表している。また、破線の矢印は、信号の伝達される向きを表している。
【0023】
クリーンルーム用設備100は、クリーンルーム6に適用されるものである。クリーンルーム用設備100の具体的な構成としては、図1に示すように、空調機1と、風量センサ2と、給気側風量制御ダンパ3と、給気側圧力制御ダンパ4と、HEPAフィルタ5と、を備えている。そして、これらは、給気ダクト12の途中に備えられ、クリーンルーム6に対して給気ダクト12によって接続されている。
【0024】
また、クリーンルーム用設備100は、HEPAフィルタ8と、排気側風量制御ダンパ9と、排気側圧力制御ダンパ10と、排気ファン11と、を備えている。そして、これらは、排気ダクト13の途中に備えられ、クリーンルーム6に対して排気ダクト13によって接続されている。
【0025】
なお、給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9が、クリーンルーム6への給気風量を制御する「風量制御手段」に相当する。さらに、給気側圧力制御ダンパ4及び排気側圧力制御ダンパ10が、クリーンルーム6内の圧力を制御する「圧力制御手段」に相当する。
【0026】
なお、本実施形態におけるクリーンルーム6には差圧計7が備えられている。そして、差圧計7に電気的に接続された圧力センサ7a,7bがクリーンルーム6内の圧力とクリーンルーム6外の圧力とをそれぞれ測定し、これにより差圧が測定されるようになっている。
【0027】
さらに、クリーンルーム用設備100は、給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9を制御する風量コントローラ14を備えている。そして、風量コントローラ14には風量センサ2と操作部16とが接続されている。従って、作業者が操作部16を操作することにより、クリーンルーム6への給気風量が制御されるようになっている。なお、風量コントローラ14が、前記した「風量制御手段」を制御する「演算部」に相当する。
【0028】
またさらに、クリーンルーム用設備100は、給気側圧力制御ダンパ4及び排気側圧力制御ダンパ10を制御する圧力コントローラ15を備えている。そして、圧力コントローラ15には差圧計7と操作部17とが接続されている。従って、作業者が操作部17を操作することにより、クリーンルーム6の圧力が制御されるようになっている。なお、圧力コントローラ15が、前記した「圧力制御手段」を制御する「演算部」に相当する。
【0029】
本実施形態におけるクリーンルーム用設備はこのような構成を有するため、給気風量及び圧力は、試運転時のみならず、通常運転時の任意のタイミングで変更可能である。即ち、クリーンルーム用設備100に拠れば、給気風量や設定圧力を通常運転時に変更しても、クリーンルーム6内の圧力が乱れることがない。また、給気風量や設定圧力を変更しても調整用ダンパ18による調整も必要が無いため、変更に際しての利便性が向上する。これらについては、後記する[2.制御]において詳述する。
【0030】
空調機1は、冷却コイル1aと、加熱コイル1bと、加除湿ユニット1cと、給気ファン1dと、を備えている。冷却コイル1aと、加熱コイル1bと、加除湿ユニット1cと、により、外部からのエアが適切な温度及び湿度に制御された後、給気ファン1dによって当該エアがクリーンルーム6に給気されるようになっている。
【0031】
風量センサ2は、空調機1から排出されて給気ダクト12を流通するエアの流量を測定するものである。風量センサ2の構成は特に制限されず、任意の風量センサを用いることができる。そして、風量センサ2は、前記のように風量コントローラ14に接続されている。そのため、風量センサ2において測定された風量は、電気信号線を通じて風量コントローラ14に送信されるようになっている。
【0032】
給気側風量制御ダンパ3は、クリーンルーム6に給気されるエアの風量(即ち給気風量)を制御するダンパである。給気側風量制御ダンパ3は任意のダンパを用いることができる。ただし、本実施形態においては、給気側風量制御ダンパ3としてモータダンパが用いられている。そして、給気側風量制御ダンパ3は、風量コントローラ14に接続されている。従って、風量コントローラ14が、排気側風量制御ダンパ9(後記する)とともに給気側風量制御ダンパ3を制御することにより、クリーンルーム6への給気風量を制御できるようになっている。
【0033】
なお、空調機1に備えられる給気ファン1dとしてインバータ制御されるファンを用いる場合、給気側風量制御ダンパ3は設置しないことも可能である。このような場合には、インバータ制御される給気ファン1dが「風量制御手段」に相当する。
【0034】
給気側圧力制御ダンパ4は、クリーンルーム6の圧力を制御するダンパである。給気側圧力制御ダンパ4として、任意のダンパを用いることができる。ただし、本実施形態においては、給気側圧力制御ダンパ4としてモータダンパが用いられている。そして、給気側圧力制御ダンパ4は、圧力コントローラ15に接続されている。従って、圧力コントローラ15が、排気側圧力制御ダンパ10(後記する)とともに給気側圧力制御ダンパ4を制御することにより、クリーンルーム6内の圧力を制御できるようになっている。
【0035】
なお、給気側風量制御ダンパ3及び給気側圧力制御ダンパ4の作動により生じた余剰のエア(余剰エア)は、図示しない還気ダクトを流通して空調機1に戻るようになっている。ちなみに、インバータ制御されて給気ファン1dの回転速度が可変の場合には、余剰エアの発生を避けることが可能である。
【0036】
HEPAフィルタ5は、クリーンルーム6に給気されるエアからちりや埃、微生物等を除去するものである。従って、HEPAフィルタ5によって、クリーンルーム6へのちりや埃、微生物等の侵入を防止することができるようになっている。
【0037】
クリーンルーム6は、清浄な環境で作業者が作業等を行う部屋である。具体的には、クリーンルーム6内では例えば、手術、製薬、遺伝子工学実験、蓄電池や半導体の製造等が行われる。また、作業者の作業を伴わなくとも、クリーンルーム6は例えばラット、マウス等の動物飼育室としても適用可能である。クリーンルーム6の具体的な構成は特に制限されず、任意のクリーンルームが適用可能である。
【0038】
クリーンルーム6と図示しない他の部屋(例えば各室や各廊下等)との圧力関係は、差圧計7によって把握可能となっている。即ち、クリーンルーム6内に設けられている圧力センサ7aと、クリーンルーム6外(例えば各室や各廊下等)に設けられている圧力センサ7bとによって、前記圧力関係を管理することができるようになっている。このような差圧計7及び圧力センサ7a,7bとしては、任意のものを用いることができる。なお、クリーンルーム6内の圧力を測定する圧力計のみが設けられるようにしてもよい。
【0039】
HEPAフィルタ8は、クリーンルーム6から排出されるエアからちりや埃、微生物等を除去するものである。従って、HEPAフィルタ8によって、クリーンルーム6からのちりや埃、微生物等の外部への漏出を防止することができるようになっている。
【0040】
排気側風量制御ダンパ9は、クリーンルーム6から排出されるエアの風量(即ち排気風量)を制御するダンパである。排気側風量制御ダンパ9は任意のダンパを用いることができる。ただし、本実施形態においては、排気側風量制御ダンパ9としてモータダンパが用いられている。そして、排気側風量制御ダンパ9は、風量コントローラ14に接続されている。従って、風量コントローラ14が、前記した給気側風量制御ダンパ3とともに排気側風量制御ダンパ9を制御することにより、クリーンルーム6への給気風量を制御できるようになっている。
【0041】
なお、排気ファン11(後記する)としてインバータ制御されるファンを用いる場合、排気側風量制御ダンパ9は設置しないことも可能である。このような場合には、インバータ制御される排気ファン11が「風量制御手段」に相当する。
【0042】
排気側圧力制御ダンパ10は、クリーンルーム6内の圧力を制御するダンパである。排気側圧力制御ダンパ10として、任意のダンパを用いることができる。ただし、本実施形態においては、排気側圧力制御ダンパ10としてモータダンパが用いられている。そして、排気側圧力制御ダンパ10は、圧力コントローラ15に接続されている。従って、圧力コントローラ15が、前記した給気側圧力制御ダンパ4とともに排気側圧力制御ダンパ10を制御することにより、クリーンルーム6内の圧力を制御できるようになっている。
【0043】
排気ファン11は、クリーンルーム6からの排出されるエアを外部へ排出するものである。このような排気ファン11としては、任意のファンを用いることができる。また、前記したように、給気ファン11としてインバータ制御されるファンを用いることもできる。そして、このような場合には、排気側風量制御ダンパ9を設けないことが可能となる。
【0044】
風量コントローラ14は、給気側風量制御ダンパ3、排気側風量制御ダンパ9及び操作部16に接続されている。そして、風量コントローラ14は、操作部16によって入力された風量設定値に基づいてPID(Proportional, Integral and Derivative Control)制御を行い、給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9の制御を行うようになっている。この点についての詳細な制御は後記する。なお、風量コントローラ14の具体的な構成は特に制限されず、例えばCPU(Central Processing Unit)等により構成される。ちなみに、PID制御はクローズドループによるフィードバック制御であるが、ステッピングモータ等を用いたオープンループによるフィードフォワード制御が適用されてもよい。
【0045】
圧力コントローラ15は、給気側圧力制御ダンパ4、排気側圧力制御ダンパ10及び操作部17に接続されている。そして、圧力コントローラ15は、操作部17によって入力された圧力設定値に基づいてPID制御を行い、給気側圧力制御ダンパ4及び排気側圧力制御ダンパ10の制御を行うようになっている。この点についての詳細な制御は後記する。なお、圧力コントローラ15の具体的な構成は特に制限されず、例えばCPU等により構成される。ちなみに、圧力コントローラ15についても風量コントローラ14と同様に、PID制御とは異なるオープンループによるフィードフォワード制御が適用されてもよい。
【0046】
[2.制御]
次に、本実施形態に係るクリーンルーム用設備100、並びに、従来のクリーンルーム用設備の具体例として図9に示すクリーンルーム用設備300を挙げて、各設備における制御を図2〜図4を参照しながら説明する。
【0047】
[2−1.はじめに]
図1に示すクリーンルーム用設備100や図9に示すクリーンルーム用設備300において用いられる通常のダンパ(モータダンパ)は、図2に示すように、開度と抵抗係数とが非線形の関係にある。即ち、図2に示す例えば開度aと開度bとでは、ダンパ操作量に対する抵抗係数の変化量(図2中、太矢印の傾き)が大きく異なる。具体的には、例えば開度aの状態からは、開度を少し大きくしただけで抵抗係数は大きく減少する。一方、開度bの状態からは、開度を少し大きくしても、抵抗係数の減少量は小さい。
【0048】
つまり、開度aと開度bとでは制御の特性が大きく異なることになる。従って、開度aの状態で試運転調整を行った場合、通常運転時に開度bで運転すると、満足な制御を行うことができない。具体的には例えば、試運転時に決定された抵抗係数の減少量に対応する開度の変化を開度bから行っても、通常運転時には抵抗係数の変化が小さいことになる。その結果、給気風量や圧力制御が十分に行えないことになる。
【0049】
また、逆に、開度bの状態で試運転調整を行った場合、通常運転時に開度aで運転すると、制御が不安定になることがある。具体的には例えば、試運転時に決定された抵抗係数の減少量に対応する開度の変化を開度aから行うと、抵抗係数の減少量が試運転時のものよりも著しく大きなものとなる。その結果、給気風量や圧力の制御が極めて大雑把なものとなり、精度良く制御を行うことができない。
【0050】
特に圧力は、開度の変化に対する追従性が給気風量と比べて高いため、圧力制御を高精度に行うことがとりわけ重要である。換言すれば、給気風量が変化した場合に、特に圧力維持が不安定になりやすい。そのためダンパの開度制御の精度や試運転時の各制御パラメータの調整、調整用ダンパによる調整が重要である。
【0051】
しかしながら、例えばHEPAフィルタの目詰まり、給気ファンや排気ファンの等経時的な性能低下等により、作業者が意図せず、給気風量が変化(減少)することがある。また、作業者の希望により、通常運転時に給気風量や設定圧力を変更する場合もある。そうすると、試運転調整した状態とは異なるダンパ開度や各コントローラの制御パラメータを用いて、給気風量及び圧力が制御されることになる。特に前者の場合、給気風量の減少を補うべく、給気側風量制御ダンパの開度を試運転時のものよりも大きくすることが避けられないものとなる。そして、それらの結果、圧力制御が不安定なものになったり、不正確なものになったりする。
【0052】
即ち、従来の設備においては、経時的な性能低下や運転条件の変更により、給気風量や圧力の正確な制御が行えなくなる可能性がある。そして、このような性能低下後に正確な制御を行おうとすると、再度、調整用ダンパによる調整や、各コントローラの制御パラメータの調整を行わなければならず、操作が煩雑になる。また、設備をいったん停止しなければならないという手間も生じる。
【0053】
また、クリーンルームの中でもバイオロジカルクリーンルームは、通常のクリーンルームと比べて空調に要求されるエネルギ量が大きい傾向にある。具体的には、特にエアの供給に関するエネルギ消費量が多い傾向にある。これは、主に、エアの湿度及び温度の調節に要する電力、並びに、給気ファンの消費電力等に基づく。
【0054】
従って、例えばクリーンルーム内で作業が行われないとき等には給気風量を減少させて消費電力を低下させることも考えられる。しかしながら、給気風量を減少させると、前記のようにクリーンルーム内の圧力維持が不安定なものになり、圧力を所望のものに制御できなくなる可能性がある。そのため、給気風量を容易に減少させることができず、常に最大風量で運転を行わなければならないことになる。そして、その結果、消費エネルギの削減が困難になることになる。
【0055】
また、例えばクリーンルーム内の圧力が外部よりも高い状態で使用した後、逆に外部よりも低い状態でクリームルームを使用したい場合、具体的には、クリーンルームの用途を例えば「医薬の製造」用途から「病原体微生物実験」用途に変更する場合にも同様のことが生じる。つまり、このような用途変更には、クリーンルーム内の圧力の変更が伴う。しかしながら、前記のように圧力を変更する場合には調整用ダンパの制御や制御パラメータの設定を行わなければならない。そのため、クリーンルーム用途の変更の利便性が低いという課題がある。
【0056】
ここで、図9に示す従来(比較例)のクリーンルーム用設備300における制御方法を説明する。クリーンルーム用設備300において給気風量を低下させる場合、給気側風量制御ダンパ3を閉方向に変化させ(即ち開度を絞り)、抵抗係数を大きくしている。しかし、給気ダクト12における抵抗係数のみを大きくすると、クリーンルーム6内の圧力は低下する(これにより差圧が低下する)。そこで、クリーンルーム6内の圧力(差圧)を維持するために、排気側圧力制御ダンパ10も閉方向に変化させ、抵抗係数を大きくしている。さらに、HEPAフィルタ5等の目詰まりや外乱等が発生した場合、給気側風量制御ダンパ3の開度も変化させている。そして、それにあわせて、排気側圧力制御ダンパ10の開度も変化させるようにしている。
【0057】
このように、従来のクリーンルーム用設備300においては、給気風量の制御時に排気側圧力制御ダンパ10もあわせて駆動させている。そして、圧力制御時にも、給気側風量制御ダンパ3もあわせて駆動させている。即ち、給気側風量制御ダンパ3及び圧力制御ダンパ10が同時に駆動するようになっている。そして、このようなときには、中でも排気側圧力制御ダンパ10の開度が特に大きく変化する。その理由は、主に、給気風量条件や風量制御に対応して駆動する給気側風量制御ダンパ3の動作に対応するためである。さらには、給気風量制御と圧力制御とが相互に依存しているためである。
【0058】
そして、これらの事情の下、本発明者らが検討を行って本発明を完成させたのである。即ち、前記の構成を有するクリーンルーム用設備を用いて、以下で詳細に説明する制御を行うことにより、柔軟に運転可能なクリーンルーム用設備を提供することができた。その結果、本実施形態に係るクリーンルーム用設備に拠れば、給気風量制御と圧力制御とにおける相互依存を弱めることにより、排気側圧力制御ダンパ10の開度の変化を小さくすることができる。そして、その結果、給気風量制御及び圧力制御を安定して行うことができる。
【0059】
[2−2.制御方法]
クリーンルーム用設備100における、具体的な制御方法を説明する。図1に示すクリーンルーム用設備100においては、前記のように、風量制御手段としての給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9、並びに、圧力制御手段としての給気側圧力制御ダンパ4及び排気側圧力制御ダンパ10が備えられている。さらには、これらを制御する風量コントローラ14及び圧力コントローラ15が備えられている。即ち、クリーンルーム6の給気側と排気側とのそれぞれに、給気風量を制御する一組のダンパ及びクリーンルーム6内の圧力を制御する一組のダンパが備えられている。そして、それぞれの一組のダンパの開度を制御する2つのコントローラが備えられている。
【0060】
そして、それぞれの一組のダンパは、図3に示す制御が行われる。図3(a)に示すように、クリーンルーム6への給気風量を多くする場合には、給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9の開度をともに大きくする。一方、給気風量を少なくする場合には、給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9の開度をともに小さくする。即ち、給気側風量制御ダンパ3と排気側風量制御ダンパ9との開度が同位相になるように駆動される。
【0061】
そして、これらの制御は、前記のように、風量コントローラ14が行うようになっている。なお、これらの制御の際、クリーンルーム6内の圧力を一定に維持する場合には、給気側圧力制御ダンパ4及び排気側圧力制御ダンパ10の開度は一定のままとする。
【0062】
一方、図3(b)に示すように、クリーンルーム6内の圧力を高くする場合には、給気側圧力制御ダンパ4の開度を大きくする一方、排気側圧力制御ダンパ10の開度を小さくする。また、クリーンルーム6内の圧力を低くする場合には、給気側圧力制御ダンパ4の開度を小さくする一方、排気側圧力制御ダンパ10の開度を大きくする。即ち、給気側圧力制御ダンパ4と排気側圧力制御ダンパ10との開度が逆位相になるように駆動される。
【0063】
そして、これらの制御は、前記のように、圧力コントローラ15が行うようになっている。なお、これらの制御の際、クリーンルーム6への給気風量を一定に維持する場合には、給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9の開度は一定のままとする。
【0064】
次に、図4に示すフローチャートを参照しながら、クリーンルーム用設備100における制御をより詳細に説明する。
【0065】
作業者が操作部16を操作する等して給気風量の変更設定が行われ(ステップS101のYes方向)、現在の風量よりも多い給気風量に変更された場合(ステップS102のYes方向)、増加する風量に応じて、風量コントローラ14が給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9の開度をそれぞれ大きくする。
【0066】
なお、給気風量と開度との具体的な対応関係(制御パラメータ)は、空調機1やダンパの性能、給気ダクト12の太さ、クリーンルーム6の大きさ等によって異なるため、試運転時に決定される。そして、決定された対応関係が通常運転前に風量コントローラ14に入力され、風量コントローラ14に予め記憶されている。従って、風量コントローラ14がこの制御パラメータに基づいて、変更後の開度を決定するようになっている。
【0067】
また、現在の給気風量よりも少ない給気風量に変更する場合(ステップS102のNo方向)、風量コントローラ14が給気側風量制御ダンパ3及び排気側風量制御ダンパ9の開度をそれぞれ小さくする。変更後の具体的な開度も、風量コントローラ14が前記の制御パラメータに基づいて決定するようになっている。
【0068】
なお、ステップS101で給気風量が変更されない場合には(ステップS101のNo方向)、給気風量を変更せずに圧力変更制御に移行する(ステップS105以降)。
【0069】
次に、作業者が操作部17を操作する等してクリーンルーム6内の圧力の変更設定が行われ(ステップS105のYes方向)、現在の圧力よりも高い室内圧力に変更された場合(ステップS106のYes方向)、圧力コントローラ15が給気側圧力制御ダンパ4の開度を大きくし、排気側圧力制御ダンパ10の開度を小さくする(ステップS107のYes方向)。
【0070】
なお、クリーンルーム6内の圧力と開度との具体的な対応関係(制御パラメータ)も、空調機1やダンパの性能、給気ダクト12の太さ、クリーンルーム6の大きさ等によって異なるため、試運転時に決定される。そして、決定された対応関係が通常運転前に圧力コントローラ15に入力され、圧力コントローラ15に予め記憶されている。従って、圧力コントローラ15がこの制御パラメータに基づいて、変更後の開度を決定するようになっている。
【0071】
また、現在の圧力よりも低い圧力に変更する場合(ステップS106のNo方向)、圧力コントローラ15が給気側圧力制御ダンパ4の開度を小さくし、排気側圧力制御ダンパ10の開度を大きくする(ステップS108)。変更後の具体的な開度も、圧力コントローラ15が前記の制御パラメータに基づいて決定するようになっている。
【0072】
なお、ステップS105で圧力の変更がされない場合には(ステップS105のNo方向)、圧力を変更せずに一連のフローが終了する。
【0073】
[3.効果]
次に、図5〜図7を参照しながら、本発明により奏される効果を説明する。
【0074】
空調機1の出口側静圧と排気ファン11の入口側静圧とが一定であれば、クリーンルーム6への給気風量は給気ダクト12の抵抗係数と排気ダクト13の抵抗係数との合計に基づいて決定される。一方、同様の場合において、クリーンルーム6内の圧力は給気ダクト12の抵抗係数と排気ダクト13の抵抗係数との比に基づいて決定される。ここで、図1に示す例における給気ダクト12の抵抗係数は、給気側風量ダンパ3の抵抗係数と給気側圧力制御ダンパ4の抵抗係数との合計値となる。また、排気ダクト13の抵抗係数は、排気側風量制御ダンパ9の抵抗係数と排気側圧力制御ダンパ10の抵抗係数との合計値となる。なお、各ダンパの抵抗係数は、各ダンパの開度によって決定される値である(図2参照)。
【0075】
従って、クリーンルーム6への給気風量の制御時、給気ダクト12の抵抗係数と排気ダクト13の抵抗係数との比率を変更せずに(変更を少なくし)合計を変更する制御が行われる。一方、クリーンルーム6内の圧力制御時には、給気ダクト12の抵抗係数と排気ダクト13の抵抗係数との合計を変更せずに(変更を少なくし)比率を変更する制御が行われる。そして、これらの制御が行われることにより、風量変更と圧力変更とが相互に影響せず独立して変更可能となり、安定した変更が可能になる。
【0076】
このように、2つの風量制御ダンパ、並びに、2つの圧力制御ダンパによって制御が行われるため、個々のダンパの操作量が従来よりも小さくなる。その結果、ダンパ開度の相違による制御特性の変化も小さくなる。そのため、従来よりも幅広い運転条件下で安定した給気風量及び圧力制御を行うことができる。
【0077】
図5及び図6に、本実施形態に係るクリーンルーム用設備100と、従来のクリーンルーム用設備300とにおける、給気風量変更時(図5)及び設定圧力変更時(図6)の測定圧力(測定室圧)の変化を示す。なお、図5及び図6は、本発明者らの検討により得られた結果である。ただし、説明の簡略化のために、図示を一部簡略化して示している。また、破線は設定値、実線は測定値を示している。
【0078】
図5(a)に示すタイミングで給気風量V1からV2に変更し、さらにV1に給気風量を戻した場合の測定圧力の変化を、図5(b)及び(c)に示す。図5(b)は本実施形態に係るクリーンルーム用設備100を適用したもの、(c)は図9に示す従来のクリーンルーム用設備300を適用したものである。
【0079】
図5に示すように、任意の時刻で給気風量を変更しても、クリーンルーム用設備100を適用したクリーンルーム6内の測定圧力は、P1で略一定に維持されている(図5(a))。一方で、従来技術であるクリーンルーム用設備300を適用したクリーンルーム内の測定圧力は、給気風量の変化に伴って大きな乱れが生じている(図5(b))。即ち、クリーンルーム用設備100を適用した場合には、給気風量の変更が圧力に影響をほとんど及ぼしていない。しかし、クリーンルーム用設備300を適用した場合には、給気風量が変更されると、クリーンルーム6内の圧力が大きく変化している。
【0080】
また、図6(a)は、設定圧力を時刻t5においてP2からP3に変更し、さらに、時刻t6において設定圧力をP2に戻した場合を示している。図6(a)に示すように、クリーンルーム用設備100を適用した場合には、設定圧力の変更に追従して測定圧力も減少し、その後は略一定状態となっている。そして、時刻t6で設定圧力を変更してもそれに追従して測定圧力も増加し、測定圧力は再び略一定状態となる。
【0081】
しかしながら、クリーンルーム用設備300を適用した場合には、設定圧力の変更に追従して測定圧力も減少するものの、その後は測定圧力に乱れが生じている。さらに、時刻t6において測定圧力も増加し、圧力P2で略一定状態となる。即ち、設定圧力が初期設定時のもの(試運転時に設定したもの)から変更されると、測定圧力に乱れが生じることがわかる。
【0082】
さらに、図7に、運転時に例えばHEPAフィルタ5等に目詰まりが生じ、給気ダクト13の圧力損失が継時的に増加した場合を示す。図7は、図5及び図6同様、本発明者らの検討により得られた結果である。図7(a)に示すように、圧力損失が徐々に増加しているが、時刻t7で新たなHEPAフィルタに交換する(即ち、バックアップ用のHEPAフィルタに切り替える)ことにより、圧力損失が再び減少している様子を示している。
【0083】
このような場合、本実施形態においては、圧力損失が増加しても、測定圧力は設定圧力P4で略一定となっている(図7(b))。しかしながら、従来技術においては、圧力損失の増加とともに測定圧力にも乱れが生じ、時刻t7で新たなHEPAフィルタに交換した後の測定圧力の乱れは非常に大きなものとなる(図7(c))。
【0084】
図5〜図7を参照して説明したように、これらのような室内圧力の乱れは、例えば他の部屋(例えば各室や各廊下等)との圧力の相対関係を維持できないことにつながる。その結果、封じ込め機能の低下や清浄度の低下といった事態が生じることがある。
【0085】
しかし、本実施形態に係るクリーンルーム用設備に拠れば、給気風量や設定圧力を変化させても、室内圧力に大きな乱れが生じることは無い。従って、クリーンルーム6内の圧力を安定して制御可能となり、従来よりも圧力制御が確実なクリーンルームを提供することができる。
【0086】
また、条件に応じて風量変更を安定して行えるため、クリーンルーム及びクリーンルーム用設備の運転時の消費エネルギを削減することができる。さらに、室内圧力の変更も安定して行えるため、クリーンルームの用途を柔軟に変更することが可能となる。即ち、これらの変更を行っても室内圧力の乱れが極めて少ないため、より緩やかな条件にて変更が容易に可能である。
【0087】
そして、本実施形態における給気風量及び圧力の制御は、通常運転時の任意のタイミングで変更可能である。即ち、クリーンルーム用設備100に拠れば、給気風量や設定圧力を通常運転時に変更しても、クリーンルーム内の圧力が乱れることがない。また、給気風量や設定圧力を変更しても調整用ダンパ18による調整も特に必要無いため、変更に際しての利便性が向上する。
【0088】
[4.用途]
本実施形態に係るクリーンルーム用設備は、任意の用途に適用することができる。図7に、本実施形態に係るクリーンルーム用設備を適用した一例を示す。なお、図8において、図1と同じ符号を付すものは図1に示すものと同じものを示すものとし、その詳細な説明を省略する。また、図示の簡略化のために、図8においては風量コントローラ14、圧力コントローラ15、操作部16及び操作部17、並びにそれらを接続する電気信号線は図示していない。
【0089】
図8に示すクリーンルーム用設備200は、3つのクリーンルーム6A,6B,6Cに対して適用されている。特に、図8に示す例においては、クリーンルーム6Aが後室、クリーンルーム6Bがバイオロジカルクリーンルーム、クリーンルーム6Cが清浄廊下である。そして、各クリーンルーム6A,6B,6C間は、図示しない扉を介して相互に行き来が可能なようになっている。
【0090】
即ち、作業者は、非清浄廊下(図示しない)から後室であるクリーンルーム6Aに入室し、クリーンルーム6Aにて着替えた後身体を清浄にする。その後、作業者は扉を通じてバイオロジカルクリーンルームであるクリーンルーム6Bに入室し、クリーンルーム6Bにて作業を行う。そして、必要に応じて、清浄廊下であるクリーンルーム6Cを通って別のクリーンルーム(図示しない)に入室することが可能になっている。
【0091】
図8に示す例において、各クリーンルーム6A,6B,6C内の圧力は、所定の関係になるように維持されている。即ち、クリーンルーム6Cの圧力が最も高く、次いでクリーンルーム6B、クリーンルーム6Aの順で圧力が低くなる。このような圧力関係を維持することにより、例えば後室(クリーンルーム6A)からのちりや埃がバイオロジカルクリーンルーム(クリーンルーム6B)に混入することが無い。
【0092】
また、このような運用をしている状態において、例えばクリーンルーム6Bから作業者が退室した場合には室内を飛散する塵埃等が減少すると考え、給気風量を減少させる制御を行うことができる。前記のように従来は、単純に給気風量を減少させると室内圧力に乱れが生じているため、このような運用が困難であった。しかしながら、本実施形態に拠れば、このような乱れなく自由に給気風量を減少させることができる。そして、その結果、消費エネルギの削減を図ることができる。
【0093】
さらに、このような運用をしているクリーンルーム用設備200において、例えば微生物等の封じ込めが必要な運用を行う場合、クリーンルーム6Bの上流側と下流側とに備えられる給気側圧力制御ダンパ4及び排気側圧力制御ダンパ10を操作して、クリーンルーム6Bの圧力を最も低くすればよい。或いは、クリーンルーム6A,6Cの圧力を高くするようにしてもよい。そして、このような圧力変更時にも各室の圧力の乱れなく、しかも新たな調整を要しないため、異なる運用を効率よく行うことができる。
【0094】
[5.変更例]
以上、具体的な実施形態を挙げて本発明を説明したが、本実施形態は前記の内容に何ら制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施可能である。
【0095】
例えば、クリーンルーム内に人の存在を検知する人感センサを設けてもよい。そして、クリーンルーム内に人がいる時(人感センサがオンの時)は埃等が飛散し易いため給気風量を多く制御し、人がいないとき(人感センサがオフの時)は埃等が飛散しにくいため給気風量を少なくする制御を行ってもよい。このような制御を行うことにより、室内圧力は維持されつつも無人時の給気風量を抑制することができ、省エネルギ化を図ることができる。
【0096】
さらに、同様に、クリーンルーム内に塵埃センサ(例えばパーティクルカウンタ等)を設けてもよい。そして、クリーンルーム内の塵埃数が所定数を超えた場合に給気風量を多くし、所定数以下の場合には給気風量を減らす制御を行ってもよい。このようにしても、室内圧力は維持されつつもクリーンルーム内を清浄に保つことができる。しかも、クリーンルーム内が清浄時(即ち塵埃数が所定値以下)の場合には給気風量を減らすことができるため、省エネルギ化を図ることができる。
【0097】
また、例えば、図1等で説明した例においては、風量コントローラ14及び圧力コントローラ15を独立して設けているが、これらをまとめて一つのコントローラとして設けてもよい。そして、このコントローラに対して、給気風量及び圧力を指示する操作部を接続するようにしてもよい。
【0098】
さらに、例えば、図4に示すフローチャートにおいては、風量制御の後に圧力制御を行うようにしているが、圧力制御を先に行って、その後に風量制御を行うようにしてもよい。
【0099】
また、例えば、図8に示すクリーンルーム用設備200において設けられるクリーンルームの数は3つであるが、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0100】
さらに、例えば、排気側圧力制御ダンパ10を通過したエアが、図示しない還気ダクトを流通して空調機1に戻るように構成してもよい。
【0101】
また、各ダンパは、4つとも同じ仕様のものを用いることもできるし、異なる仕様のものを適宜組み合わせて用いることもできる。また、前記のように給気ファン1dや排気ファン11をインバータ化して回転速度を可変化することにより、ダンパの数を減らすこともできる。例えば、これらのファンのうちの1つのファンをインバータ化することにより、ダンパの数を1つ減らすことができる。また、両方のファンをインバータ化することにより、ダンパの数を2つ減らすことができる。つまり、給気ファン1dや排気ファン11を給気風量制御手段とすることができる。
【符号の説明】
【0102】
3 給気側風量制御ダンパ(風量制御手段)
4 給気側圧力制御ダンパ(圧力制御手段)
6 クリーンルーム
9 排気側風量制御ダンパ(風量制御手段)
10 排気側圧力制御ダンパ(圧力制御手段)
12 給気ダクト
13 排気ダクト
14 風量コントローラ(演算部)
15 圧力コントローラ(演算部)
100,200 クリーンルーム用設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーンルームへの給気風量と前記クリーンルーム内の圧力を制御するクリーンルーム用設備であって、
前記クリーンルームへの給気風量を制御する風量制御手段と、
前記クリーンルーム内の圧力を制御する圧力制御手段と、
前記風量制御手段と前記圧力制御手段とを制御する演算部と、
を備え、
前記クリーンルームには、前記クリーンルームに給気されるエアが流通する給気ダクトと、前記クリーンルームから排気されたエアが流通する排気ダクトと、が接続され、
前記風量制御手段は、前記給気ダクトと前記排気ダクトとにそれぞれ備えられ、
前記圧力制御手段は、前記給気ダクトと前記排気ダクトとにそれぞれ備えられている
ことを特徴とする、クリーンルーム用設備。
【請求項2】
前記クリーンルームへの給気風量を増加させる場合には、前記演算部が、前記給気ダクトを流通して給気される前記エアの流量と、前記排気ダクトを流通して排気される前記エアの流量と、の両方を増加させるように前記2つの風量制御手段を制御し、
前記クリーンルームへの給気風量を減少させる場合には、前記演算部が、前記給気ダクトを流通して給気される前記エアの流量と、前記排気ダクトを流通して排気される前記エアの流量と、の両方を減少させるように前記2つの風量制御手段を制御する
ことを特徴とする、請求項1に記載のクリーンルーム用設備。
【請求項3】
前記クリーンルーム内の圧力を上昇させる場合には、前記演算部が、前記給気ダクトを流通して給気される前記エアの流量を増加させるとともに前記排気ダクトを流通して排気される前記エアの流量を減少させるように前記2つの圧力制御手段を制御し、
前記クリーンルーム内の圧力を低下させる場合には、前記演算部が、前記給気ダクトを流通して給気される前記エアの流量を減少させるとともに前記排気ダクトを流通して排気される前記エアの流量を増加させるように前記2つの圧力制御手段を制御する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のクリーンルーム用設備。
【請求項4】
クリーンルームに対する少なくとも給気風量を制御するクリーンルームの空調方法であって、
前記クリーンルームへの前記給気風量を増加させる場合には、前記クリーンルームに給気されるエアの流量と、前記クリーンルームから排気されるエアの流量と、の両方を増加させ、
前記クリーンルームへの給気風量を減少させる場合には、前記クリーンルームに給気される前記エアの流量と、前記クリーンルームから排気される前記エアの流量と、の両方を減少させる
ことを特徴とする、クリーンルームの空調方法。
【請求項5】
さらに前記クリーンルーム内の圧力を制御するクリーンルームの空調方法であって、
前記クリーンルーム内の圧力を上昇させる場合には、前記クリーンルームに給気される前記エアの流量を増加させるとともに、前記クリーンルームから排気される前記エアの流量を減少させ、
前記クリーンルーム内の圧力を低下させる場合には、前記クリーンルームに給気される前記エアの流量を減少させるとともに、前記クリーンルームから排気される前記エアの流量を増加させる
ことを特徴とする、請求項4に記載のクリーンルームの空調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−2653(P2013−2653A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131071(P2011−131071)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】