説明

クレーン補修方法および補修クレーン

【課題】クレーンの構造の補修を短い工事期間で行なうニーズが非常に強いが、特にトロリー横行に伴う応力変動の影響で疲労破壊発生の確率が高いブリッジガーダ構造のトロリーレール敷設部の修復については亀裂がクレーンスパン全体に多数分布しそれらの溶接補修にはフルペネ溶接を必要とし工事に長時間を要するばかりでなく溶接の入熱によるガーダ構造の変形を生じ易い欠点があった。
【解決手段】ウエブおよびその縁に沿って取り付けたフランジから成る補修用ビームあるいはH型鋼のウエブを切断して作製した補修用付加ビームをブリッジガーダのトロリーレール下のフランジを撤去後に既設ガーダのウエブと付加ビームのウエブを重ねてボルト等で接合し、付加ビームのフランジをトロリーレール敷設用に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの鋼構造の補修方法及び既設クレーンの鋼構造の補修を行なったクレーンについての技術に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンは多くの生産工場に設置され重量物の運搬と組み立てに広く利用されている。クレーンはその機能上運搬対象荷物の移動中に機体構造に応力変動を生ずる。応力変動としては特に荷物を横方向に移動するトロリーの運動に伴い発生するものが応力変動振幅、頻度とも大きくその結果トロリーレールを敷設し保持するブリッジ主ガーダに亀裂が発生する確率が高い。
【0003】
クレーン構造の多くの部分は強度面から設計寿命を越えてもなお使用可能な場合が多く、必要な補修を行なって永く使用したいというクレーンユーザの希望が強い。特にクレーンの構造は大重量であり天井等の高所に設置されて簡単に交換することは困難であるから構造部の破損箇所を修復して信頼性を損なわずに長期利用し、実質的に運転寿命を延長することの利益は大きい。一方クレーンの設置状況や運用の実情からすると生産や荷役に不可欠な装置でありながら予備機を設置しない場合が多く補修期間中の代替手段の手配が難しいこと、また補修工事期間中は他の生産設備運転への干渉も懸念される等大掛かりな補修工事実施は生産への支障が多く生ずる。従って構造補修によってクレーン寿命の延長を図る上で、補修をいかに短期に終らせことは最も重要な課題である。
【0004】
クレーンのブリッジとは搬送対象の荷重を吊って左右に移動するトロリー装置を搭載する長スパンの梁(ガーダ)であって、建屋等クレーン運転場所に敷設したランウエイレール上を走行する。ブリッジガーダ構造には各種形式のものが使用されるが、ウエブとその幅方向両縁部に鋼鈑を固定したフランジから成るI型構造や図3に一例を示すウエブとフランジを箱型に構成した箱桁構造の組み合わせにより構成する場合が多い。図3に示すようにウエブ3とフランジ4は一般的に溶接により組み立てられ、トロリーレール6は一般に上フランジの面12a上に敷設される。
【0005】
トロリーの横行によりトロリーレール6を通じて前記ウエブとフランジの溶接部7に生ずる応力変動の振幅と頻度は荷重条件と荷重移動回数に対応するがいずれにしても運転時間の長時間化とともに前記溶接部7において多数の亀裂が生じ、そのような亀裂箇所の数と亀裂の大きさによって実質的なクレーン運転時間が制限されることになる。前記のようにトロリーレール6による応力変動を最も受け易いブリッジガーダのフランジ4とウエブ3との溶接接合部7はクレーン構造全体で特に疲労が原因の亀裂損傷が発生する確率が高く、補修の必要性が最も高い。その一方前記トロリーレールを敷設するフランジとウエブ接合部7の損傷はトロリーレールを敷設したブリッジスパンのほぼ全長におよぶことが多いから構造補修の他の部分の補修に比較して最も長期の補修期間を要する。
【0006】
クレーンの運転寿命に影響する程に進展したトロリーレールを敷設したウエブとフランジの溶接結合部7に発生する亀裂の補修は亀裂箇所をガウジングで掘り起こしその後溶接補修を行なう必要がある。また亀裂の箇所もブリッジスパンに広く発生し個数も多いことが一般である。したがってそれら亀裂を溶接で補修するとすれば、多量の溶接時入熱によりガーダに歪が生じクレーンスパンの変動、トロリーレールの変形やゆがみが生じる可能性が高い。これら歪みを補正するには当然のことながら長い補修期間を要し生産現場における要求を満たさない恐れがある。このようなブリッジの主ガーダの全長におよぶ亀裂を溶接で補修することは例え時間を掛けて補正するとしてもブリッジ構造の歪、変形のよる補修後の運転上の不具合発生の可能性が残り、工事期間の面と補修後のクレーン構造の信頼性確保の両面について問題が多い。
【0007】
クレーンの主ガーダあるいは類似の長いスパンのビームを有する構造物の補強工事の方法は従来から提案されており、例えば特許文献1はクレーンガーダの補強方法についての技術が開示されている。特許文献1においてはブリッジ主構造を構成するガーダ40であって上下フランジ44とそれらを結合するウエブ45からなるものに対して、PC鋼(プレストレス鋼)で成りクレーンスパン方向に伸張する補強部材41を、その部材の両端部をクレーン主構造ガーダの下フランジに固定する方法が開示されている(図5参照)。前記PC鋼の補強部材41にはプリテンションを与えられるようにねじ43を持つ張力付加手段42を補修対象クレーンのフランジに装着する。張力付加手段42により補強部材41の張力を調整しクレーンの荷重吊時にブリッジ主構造に発生する曲げ変形を減少させることを目的とする。この方法はクレーンの許容荷重を元の主構造を大きく変更することなく増加させることに意義がある。この方法は主構造全体の強度増加の効果は期待できるものの、長期の使用で生じたトロリーレールの敷設場所に局部的に生じた疲労による亀裂への対応についての効果は不十分であり既に発生した亀裂をそのまま残すことは補修後の運用中に更に亀裂を拡大させる可能性が大きい。その他主構造の下フランジに鋼材を付加する方法であるからクレーン下のリフトが減ずることになり使用上の制限が生ずる場合もある。
【0008】
また特許文献2にはクレーンを設置した建屋のクレーンランウエイガーダの構造補強に関する技術を開示しているが、目的が該ランウエイガーダを走行するクレーンの巻上げ荷重の増加に対応する同ガーダ補強に関し、荷重増加の結果ガーダに加わるクレーンからの水平荷重の増加に対応することが主目的であり、その方法は支柱を追加し、その上に追加のガーダを設置して既設ガーダと前記追加ガーダにより水平方向の力の増加に対応する構成である。従って本発明とは目的、構成とも異なる。
【特許文献1】特開平01−286946公報
【特許文献2】特開平10―279273公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ウエブとフランジで構成された梁材、典型的にはI(アイ)型断面を有する梁材あるいは箱型梁材により構成されたガーダを有するクレーンのブリッジガーダ構造に長期運転により生じた多数の亀裂を該ガーダの所要の信頼性を確保しながら、短期間に補修する方法の提供およびそのような方法で再生したクレーンの提供を行なうこと。
【課題を解決するための手段】
【0010】
トロリー横行によってガーダ、特にトロリーレール敷設場所に沿って生じた疲労破壊による多数の亀裂を所要の信頼性と寿命を確保して補修する従来の方法では全ての亀裂をフルペネ溶接あるいは他の適当な溶接方法で補修することが必要とされていた。本発明では亀裂の補修の代わりにウエブとフランジから成り、ブリッジガーダに敷設したトロリーレール全長のうちの必要部分をカバーする長さの部材(以下付加ビームと呼ぶ)を既設のガーダにあてがって固定し、既設ガーダのウエブと一体になった前記付加ビームのフランジ面を新たなトロリーレール敷設場所にする。この場合既設ガーダのフランジはウエブとの接合部で切断し撤去する。
【0011】
通常亀裂が入り易いのはウエブとフランジ接合部の溶接線に沿った部分であり、該箇所の亀裂がクレーンガーダの寿命に支配的に影響するが、ウエブ部分については適切に保守を行なっておれば多数の亀裂損傷が発生することはまれであり、既設ガーダのウエブは前記のような補修において再利用可能である場合が多い。そこで既設ガーダのウエブは残し、該ウエブと重ねるように新たにトロリーレール敷設部となるフランジを有する梁材(付加ビームと呼ぶ)のウエブをボルト締めあるいはリベットによるかしめその他適宜な方法で取り付け固定することにより補修を行なう。既設ガーダへの付加ビーム取り付けの際、付加ビームのフランジが既設ガーダの撤去したフランジの位置に対応するように位置を決めることが本発明を実施する場合の通常の形態である。ただし既設フランジの面が位置していた箇所に対して付加ビームのフランジ面の位置を一致させることは本発明実施上必ずしも必須の要求事項ではない。
【0012】
付加ビームは既設クレーンに取り付ける前に所要の形状、寸法に組み上げ固定用のボルト穴加工、歪取りなどをおこなっておくことが補修工事期間短縮の観点から望ましい。付加ビームの形状は略T型断面、即ちウエブの一方の縁に沿って略T字(フランジのウエブ両側への張り出しが均等であることは必ずしも必須ではなく逆L字に近い断面の場合もある)をなすようにフランジを溶接取り付けるもの、図4に示すように箱型断面を有するものなど適用現場の状況によって選択可能であるが、製作済のH型鋼やI型鋼のウエブを切断して略T型断面に形成したCT型鋼を使用する方法が簡便でありコストも安いと考えられる。なお、老朽化したクレーンのブリッジ構造に本発明による補修方法である付加ビームを取り付ければクレーン構造を再利用したクレーンの製作が可能であり経済性が高く省資源型のクレーンが提供できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、クレーンの運転寿命を延長する目的で行なう補修工事の中で、特に損傷が多く、また補修工事期間の長いブリッジガーダ上のトロリーレールに沿う鋼構造の補修を、補修後の構造の信頼性を確保しつつ短時間に行なうことを可能にする方法である。疲労により生じた亀裂の溶接による補修代えて、トロリーレールを敷設するガーダのフランジの補修を要する亀裂発生全範囲に渡って交換するものであるが、あらかじめ略T字型あるいは箱型等に加工、組み立てたビームを既設のガーダ構造のウエブにボルト、リベットなどで固定する方法により溶接の補修より短時間に補修が可能である。溶接による補修ではクレーン使用場所において多数の亀裂を埋めるガウジングとその後の溶接作業が必要であり、その溶接も上向き溶接にならざるを得ない場合が多く溶接品質の確保にも困難性があり補修後の構造の信頼性上の問題も発生し易い。またこのようなクレーン使用場所での溶接作業の後には構造の歪みが発生しクレーン運転上の問題が生じ易く、場合によっては補修後の歪み補正作業を必要とし補修工事長期化とクレーン構造品質上問題である。本発明の方法によればの前記のような補修に関るクレーン構造の信頼性低下の懸念は少なくかつクレーン使用場所への干渉を少なく短期に工事を終えることから極めて望ましい方法と言える。さらに本発明の方法による補修の結果生ずるクレーン全体の重量(即ち車輪圧増加)、ブリッジやトロリーの寄りへの影響は極めて少なく適用上の制約が少ない。本発明の方法を活用してクレーンに運転寿命を延長することが容易に実施できることは余寿命の残る鋼構造の再利用であり鉄資源の有効利用にも資する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図3は本発明を実施するための最良に形態を適用するガーダの断面図の例である。図3において補修対象であるクレーン(既設クレーンと呼ぶ)のブリッジ構造1は箱型断面を有するガーダ2(既設ガーダと呼ぶ)、すなわち鋼鈑であるウエブ3(既設ウエブと呼ぶ)の長手方向の2つの縁部に同じく鋼鈑のフランジ4(既設フランジと呼ぶ)を溶接接合した形状であり該既設ガーダの断面は箱型をなす。図3のクレーン全体配置図に示すように前記ガーダ2は既設ウエブ3を垂直にして、その長手方向両端部をエンドタイ構造5で結合してブリッジ構造1を形成する。
【0015】
図3において既設ブリッジ構造1を形成する既設ガーダ2の上フランジ上にはトロリーレール6がレールクリップなどを使用して敷設される。このように配置したブリッジ構造1においてトロリ−の横行により生じる疲労破壊が図3に示すウエブとフランジの接合部7の溶接に亀裂として発生する。
【0016】
図3に示すブリッジ構造のウエブ、フランジ接合部7の溶接に発生した亀裂に本発明の補修方法を実施する形態を図2に示す。図2(a)においてフランジ4の一部であって既設ブリッジ構造1からクレーン外側へ張り出した部分は既設フランジ4とウエブ3接合部7付近からガスカット等適宜な方法で切断される。即ち2点鎖線で示されたフランジ4aの部分がトロリーレールと共に撤去される。図2(b)において補修部に取り付けるビーム8(付加ビームと呼ぶ)は既製のH型鋼のウエブを長手方向に切断して製作したものである。該ビームは工事の進め方に対応して適当な長さに分割して複数本となることもあるが分割部分の合計長さは既設ブリッジのトロリーレール敷設部のフランジ交換に必要な長さをカバーする必要がある。なお付加ビームの分割は補修工事中にトロリーをブリッジ上に仮置きする場所を確保する都合上トロリー仮置きに必要な長さと残りの範囲をカバーする長さのビームに分割することが便宜である。付加ビーム8のウエブの幅は既設ウエブ3のそれに等しいか狭いように元のH型鋼のウエブを切断する。
【0017】
ウエブ9(付加ウエブと呼ぶ)とフランジ10(付加フランジと呼ぶ)から成る前記付加ビーム8は補修工事場所とは別途加工されて補修工事現場に持ち込むことも可能である。スペースが許せば補修現場での作製も可能であるが、いずれにしても補修現場と関係なく製作場所を選ぶことが可能でありクレーン使用場所での本来の生産工程への影響を最小限に止めるように補修工事を計画する自由度がある。
【0018】
図1は付加ビーム8を既設ガーダ2に取り付けた状態であって本発明の実施がなされた後の状況を示す。付加ビーム8を既設ガーダ2に固定装着する際は、付加ウエブ9の一方側に張り出した付加フランジ10の下面を、撤去しなかった既設フランジ4の残部の上面に載せ、撤去済の既設フランジ4aが、かって存在した位置の上方付近に付加フランジ10の他の側が位置するように付加ビーム8の位置調整を行ない、既設ウエブ3に付加ウエブ9の面を合わせる。前記位置調整後ボルト11を使用して既設ウエブ3の面に付加ウエブ9の面を固定する。前記のウエブ同士の固定が終了後付加フランジ10にトロリーレール6を敷設して基本的なガーダ構造の補修が終る。
【産業上の利用可能性】
【0019】
上記のようにクレーンの運転寿命延長はクレーン使用現場の強い要望であり短期間に且つクレーンが設置された生産現場への干渉を最小限にする本発明による補修不法に利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用したクレーンのブリッジガーダ補修の説明図である(実施の最良形態)。
【図2】本発明を適用したクレーンのブリッジガーダ補修方法を示す説明図である(実施の最良形態)。
【図3】本発明を実施する対象のクレーンブリッジの配置図である。
【図4】本発明を適用したクレーンのブリッジガーダ補修の例を示す説明図である。
【図5】従来のクレーンのブリッジガーダ補修方法の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 クレーンブッリジ構造
2 既設ガーダ
3 既設ウエブ
4 既設フランジ
5 エンドタイ構造
6 トロリーレール
7 ウエブとフランジの接合部
8 付加ビーム
9 付加ウエブ
10 付加フランジ
11 ボルト
12a フランジ上面
13 箱型構造
40 ガーダ
41 補強部材
42 張力付加手段
43 ねじ
44 フランジ
45 ウエブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブとフランジにより構成したガーダ(既設ガーダと呼ぶ)のフランジ面にトロリーレールを敷設するよう配置したクレーンブリッジ構造の補修方法であって、ウエブとフランジとから成る付加ビームを、該付加ビームのウエブ面が既設ガーダのウエブ面に接し、該付加ビームのフランジが既設ビームのフランジ上に重なるように配置し、該付加ビームをボルト締め等の方法で既設ガーダに固定し、該固定した付加ビームのフランジ面上にトロリーレールの敷設を行うことを特徴とするクレーンブリッジ構造の補修方法。
【請求項2】
請求項1に記載の付加ビームはウエブとフランジをから成る型鋼を該型鋼のウエブ面で切断して形成したものであることを特徴とする請求項1に記載のクレーンブリッジ構造の補修方法
【請求項3】
請求項1に記載した付加ビームは、フランジとウエブから成るビームであって、その断面形状が略T字形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のクレーンブリッジ構造の補修方法。
【請求項4】
請求項3に記載の付加ビームはH型鋼又はI型鋼のウエブ面を切断して略T字形状に形成したものであることを特徴とする請求項1ないし3に記載のクレーンブリッジ構造の補修方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4に記載したクレーンブリッジ構造の補修方法を使用して補修したブリッジガーダを有することを特徴とするクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−132415(P2010−132415A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310418(P2008−310418)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(591124488)エムイーシーエンジニアリングサービス株式会社 (5)
【Fターム(参考)】