説明

クロストリジウムディフィシル疾患に対する受動免疫感作

【課題】クロストリジウムディフィシル(Clostridiumdifficile)毒素中和ポリクローナル免疫グロブリン、C.ディフィシル・トキソイド、またはそれらの組み合わせの経皮投与を含む、クロストリジウムディフィシル感染の予防および治療のための能動かつ受動の免疫感作法の提供。
【解決手段】クロストリジウムディフィシルの毒素またはトキソイドに対して誘起されたヒト毒素中和抗体およびクロストリジウムディフィシルの毒素またはトキソイドを用いたクロストリジウムディフィシル感染の予防および治療。また、C.ディフィシル・トキソイド、C.ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリン、C.ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリンを産生する対象を同定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロストリジウム ディフィシル(Clostridium difficile)疾患の予防および治療のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
毒素産生性グラム陽性菌であるクロストリジウム ディフィシルは、広域性抗生物質による治療のために正常腸管内菌叢が抑制されている患者の腸管に侵入する。細菌毒素は、大腸(即ち、結腸)上皮に対する様々な程度の傷害を引き起こし、軽度の下痢から重度の大腸炎にまで及ぶ疾病のスペクトルを引き起こす。抗生物質治療がC.ディフィシル疾患の開始を誘導するため、それに関連する症候群は、抗生物質関連性の下痢症および大腸炎と呼ばれる(LaMont,Bacterial Infections of the Colon,Textbook of Gastroenterology,second edition,1897-1903,1995(非特許文献1))。
【0003】
感染の重度に基づき、C.ディフィシルにより引き起こされる三つの臨床的症候群が認識されている。最も重度の型は、多量の下痢、腹痛、疾病の全身的徴候、および結腸の特殊な内視鏡的外観を特徴とする偽膜性腸炎(PMC)である。PMCの致死率は、10%もの高さであり得る。抗生物質関連大腸炎(AAC)も、多量の下痢、腹部の疼痛および圧痛、全身的徴候(例えば、発熱)、ならびに白血球増多症を特徴とする。AACにおける腸の損傷は、PMCほど重度ではなく、PMCにおける結腸の特徴的な内視鏡的外観は存在せず、死亡率が低い。最後に、抗生物質関連下痢症(AAD、C.ディフィシル関連下痢症(CDAD)としても既知)は、C.ディフィシルにより引き起こされる最も軽度の症候群であり、軽度〜中程度の下痢を特徴とし、(例えば、腹部の疼痛および圧痛を特徴とするような)大腸の炎症および感染の全身的徴候(例えば、発熱)の両方を欠いている。これら三つの別個の症候群は、順に高い頻度で発生する。即ち、PMCは、AACより低い頻度で発生し、AADが、C.ディフィシル疾患の最も高頻度の臨床的症状である。
【0004】
C.ディフィシルにより影響を受ける集団は、主に、広域性抗生物質を受容したことのある入院高齢患者および養護ホーム居住者である。高齢、病院滞在期間の長さ、元々の疾病、および抗生物質療法の使用が、C.ディフィシル感染の認識されているリスクファクターである(McFarland et al.,J.Infect.Dis.162:678-684,1990(非特許文献2);Bennett,Aging,Immunity,and Infection,216-229,1994(非特許文献3))。C.ディフィシル感染の高頻度の合併症は、C.ディフィシル疾患から回復した全ての対象の最大20%において発生する再発性または回帰性の疾患である。再発は、AAD、AAC、またはPMCとして臨床的に特徴付けられ得る。再発に関する特定のリスクファクターまたは素因要素は存在しないが、1回再発した患者は、再び再発する可能性がより高い。
【0005】
C.ディフィシルは、C.ディフィシルにより引き起こされる疾患の経過を媒介する二つの外毒素、毒素Aおよび毒素Bを産生する。毒素Aおよび毒素Bは、大きな(およそ300kDa)細胞外タンパク質であり、それらの活性型はホモダイマーであると考えられている。毒素は、単一の染色体遺伝子座からほぼ等しい量で安定的に発現される(Mitty et al.,The Gastroenterologist 2:61-69,1994(非特許文献4))。毒素は、相互にほぼ50%のアミノ酸配列相同性を有しているが、免疫学的には別個である。二つの毒素の100kDaカルボキシル末端は、反復オリゴペプチドを含有しており、インビボでの炭水化物受容体結合に関与している。受容体の特異性は、毒素作用の組織特異性および宿主特異性を媒介すると考えられている。また、この領域は、アミノ末端より免疫原性が高い。アミノ末端200kDa領域は、GTP結合タンパク質Rho、Rac、およびCdc42をグリコシル化し、それにより、それらのリン酸化を防止し、アクチン重合および細胞骨格の完全性を失わせると考えられている酵素ドメインを含有している(Eichel-Streiber,Trends Micro.4:375-382,1996(非特許文献5))。細胞骨格変化の結果、上皮細胞間の密着結合が失われる。上皮の傷害は、局所的な炎症イベントと協同して、下痢として発現する、腸への液体滲出を引き起こす(Mitty et al.,supra(非特許文献4))。いずれの毒素も、全身投与された場合、動物にとって致死性である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】LaMont,Bacterial Infections of the Colon,Textbook of Gastroenterology,second edition,1897-1903,1995
【非特許文献2】McFarland et al.,J.Infect.Dis.162:678-684,1990
【非特許文献3】Bennett,Aging,Immunity,and Infection,216-229,1994
【非特許文献4】Mitty et al.,The Gastroenterologist 2:61-69,1994
【非特許文献5】Eichel-Streiber,Trends Micro.4:375-382,1996
【発明の概要】
【0007】
本発明は、ヒト患者におけるクロストリジウム ディフィシル疾患を治療する方法を提供する。これらの方法は、毒素Aおよび毒素Bの両方を中和するヒトC.ディフィシル・ポリクローナル免疫グロブリン(以後、「免疫グロブリン」)(例えば、体重1kg当たり0.01〜100mg)を患者へ経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または皮下)投与することを含む。これらの方法は、患者における抗C.ディフィシル免疫応答を刺激するための、クロストリジウムの毒素またはトキソイドの患者への経皮投与も含み得る。影響を受けた個体における治療として投与される場合、注射された免疫グロブリンは、再発も予防するであろう。
【0008】
ヒト患者におけるC.ディフィシル疾患を予防する方法も、本発明に含まれる。これらの方法においては、C.ディフィシルの毒素またはトキソイドに対して誘起された毒素中和抗体(例えば、C.ディフィシル・ポリクローナル免疫グロブリン(例えば、体重1kg当たり0.01〜100mg))が、C.ディフィシルに感染するリスクを有するヒト対象へ経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または皮下)投与される。これらの方法において使用されるC.ディフィシル免疫グロブリンは、例えば、ヒトにおいて作製され得る。これらの方法は、毒素Aおよび毒素Bのエピトープを含有しているクロストリジウムの毒素またはトキソイドの患者への経皮投与も含み得る。
【0009】
本発明は、ミョウバンのようなアジュバントの存在下または非存在下で、クロストリディウム(例えば、C.ディフィシル)の毒素またはトキソイドを患者へ経皮投与することを含む、ヒト患者における症候性C.ディフィシル感染を予防または治療する方法も提供する。これらの方法により治療される患者は、例えば、再発性C.ディフィシル関連下痢症(CDAD)を有しているか、またはそれを発症するリスクを有しているかもしれない。本発明に含まれるさらなる方法は、患者を迅速に治療または防御するために上記のようなC.ディフィシル免疫グロブリンを投与し、同時に、患者の免疫系の刺激による長期的な能動的防御のため、トキソイドを投与することを含む。
【0010】
上記の予防法および治療法は、全て、経皮投与と併せて(即ち、そのような投与の前、途中、または後に)、経口投与または直腸投与のような粘膜投与を含んでいてもよい。
【0011】
また、C.ディフィシル・トキソイドを作製する方法も、本発明に含まれる。これらの方法は、C.ディフィシル菌を準備すること;培養物を作製するため、適当な動物産物(例えば、カゼイン産物)を含有している培地において細菌を培養すること;同時精製された毒素Aおよび毒素Bの混合物を作製するため、クロストリジウム毒素Aおよびクロストリジウム毒素Bを培養物から同時精製すること;ならびにクロストリディウム・トキソイドを作製するため、約25℃以下(例えば、15℃以下、または5℃以下)の温度におけるホルムアルデヒド中でのインキュベーションにより、同時精製された毒素Aおよび毒素Bを不活化することを含む。同時精製された毒素Aおよび毒素Bは、0.1:1〜10:1の範囲内、例えば、2:1の比率で混合物中に存在し得る。本発明は、この方法により作製されたC.ディフィシル・トキソイド、ならびにこのトキソイドおよび0.012〜0.020%のホルムアルデヒドを含有しているワクチン組成物を含む。任意で、この組成物は、ミョウバンのようなアジュバントを含有していてもよい。
【0012】
本発明は、ヒト毒素中和C.ディフィシル免疫グロブリンを作製する方法も提供する。これらの方法においては、例えば、毒素Aおよび/または毒素Bを含有しているC.ディフィシルの毒素またはトキソイドが、ヒトに投与され、C.ディフィシル免疫グロブリンがヒトから単離される。これらの方法を使用して作製されたC.ディフィシル免疫グロブリンも、本発明に含まれる。
【0013】
また、C.ディフィシル免疫グロブリンを産生するヒトを同定する方法も、本発明に含まれる。これらの方法は、C.ディフィシル・トキソイドにより予防接種されたヒトから血液試料を入手すること;酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により血液試料中のC.ディフィシル毒素AおよびBに対する抗体のレベルを決定すること;ならびに血液試料中のC.ディフィシル毒素AおよびBに対するインビトロ細胞毒性中和活性のレベルを決定することを含む。血液試料中のC.ディフィシル毒素AおよびBに対する抗体の増加したレベルの検出、ならびに血液試料中のC.ディフィシル毒素AおよびBに対するインビトロ細胞毒性中和活性の検出は、C.ディフィシル免疫グロブリンを産生するヒトの同定を示す。C.ディフィシル・トキソイドにより予防接種されたヒトに加え、予防接種されていないヒトでも、予防接種のための良好な候補を同定するため、この方法が実施され得る。
【0014】
「C.ディフィシル免疫グロブリン」という用語は、C.ディフィシル・トキソイドにより予防接種された対象(例えば、ヒト有志者)において誘起されたポリクローナル過免疫血清を記載するために本明細書において使用される。免疫グロブリンは、毒素Aおよび毒素Bの細胞毒性およびインビボ効果を中和する抗体を含有している。
【0015】
「C.ディフィシル・トキソイド」という用語は、例えば、化学的(例えば、ホルムアルデヒド)処理により部分的または完全に不活化されたC.ディフィシル毒素(毒素Aもしくは毒素B)またはC.ディフィシル毒素の混合物を記載するために使用される。毒素は、例えば、インビトロ細胞毒性アッセイにより、または動物毒性により測定されるように、未処理の毒素より低い毒性(例えば、100%、99%、95%、90%、80%、75%、60%、50%、25%、または10%低い毒性)を有している場合、「不活化」されていると言われる。例えば、過酸化物またはグルタルアルデヒドによる処理を含む、毒素を不活化するためのその他の化学的手段も、使用され得る。トキソイドは、毒素不活化をもたらす遺伝学的変化によっても作製され得る。
【0016】
本発明は、いくつかの利点を提供する。例えば、本発明の方法を使用した治療は、正常な腸管内菌叢に影響を与えることなく、特異的にC.ディフィシル菌毒素の不活化をもたらす。C.ディフィシルの毒素Aおよび毒素Bの両方がヒト疾患に関与しており、本発明の免疫療法は、これらの分子の両方を標的とするために使用され得る。免疫療法を使用した回復は、毒素中和を指図するのではなく増殖型の細菌を標的とする抗菌療法より迅速である。毒素活性の特異的中和は、組織傷害の原因を特異的かつ迅速に不活化するという利点を有している。さらに、本発明の方法においては、経口投与のために必要とされる反復投薬ではなく、経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または腹腔内)投与されるC.ディフィシル免疫グロブリンの単回投薬が使用され得る(Lyerly et al.,Infect.Immun.59:2215-2218,1991)。さらに、注射された抗体の半減期は、経口投与された抗体と比較して、長いため(数時間に対し数週間または数ヶ月)、経皮投与されるC.ディフィシル免疫グロブリンの全体用量は、経口法において必要とされる用量より低い。また、特異的抗体療法は、腸管内菌叢の再構築およびC.ディフィシル感染からの回復を許容するために通常は中止されなければならない、抗生物質による元々の状態の治療の継続を許容する。また、本発明の方法を使用した治療は、抗生物質耐性菌の出現を防止する。特に、C.ディフィシル疾患は、伝統的にバンコマイシンおよびメトロニダゾールにより治療されており、バンコマイシンの使用はバイコマイシン耐性腸球菌を出現させた。同様の問題は、メトロニダゾール治療からも生じ得る。さらに、後にさらに記載されるように、本発明の方法は、通常は管理するのが困難であり、メトロニダゾールまたはバンコマイシンによる長期的な療法を必要とする、再発性疾患(例えば、再発性C.ディフィシル関連下痢症(CDAD))を有する患者において有効であることが示された。さらに、C.ディフィシルは、本発明の方法において、神経系の産物、例えば、ブレイン・ハート・インフュージョン(Brain Heart Infusion)培地中の動物産物のような複雑な動物産物を欠く培地において培養される。そのような複雑な動物産物を含有している培地は、牛海綿状脳症(BSE)プリオンを含有していることが見出されている。従って、そのような培地を使用しないため、本発明は、そのような病原体による感染に対する安全性を提供する。
【0017】
本発明のその他の特色および利点は、以下の詳細な説明、図面、および前述の特許請求の範囲から明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】セファクリル(Sephacryl)S-300カラムからのC.ディフィシル硫酸アンモニウム沈殿物の溶出プロファイルのクロマトグラム・トレーシングである。
【図2】C.ディフィシル毒素ロット144の不活化動力学を示すグラフである。
【図3】免疫感作後のチャレンジからの防御のためのC.ディフィシル・トキソイド・ワクチンによるハムスターの能動免疫感作のためのスケジュールの概略図である。
【図4】トキソイド・ワクチンにより筋肉内免疫感作されたハムスターが、C.ディフィシル・チャレンジ後の死亡および下痢から防御されることを示すグラフである。
【図5】C.ディフィシル毒素中和抗体によるハムスターの受動免疫感作のためのスケジュールの概略図である。
【図6】毒素中和抗体により腹腔内処置されたハムスターが、C.ディフィシル・チャレンジ後の死亡および下痢から防御されることを示すグラフである。
【図7】C.ディフィシル毒素中和抗体を使用した、下痢を有するハムスターの受動免疫感作のためのスケジュールの概略図である。
【図8】C.ディフィシル毒素中和抗体で処置されたハムスターにおいて、死亡および下痢が予防されることを示すグラフである。
【図9】アカゲザルにおけるC.ディフィシル・トキソイド・ワクチンの安全性および免疫原性を取り扱った実験の概略図である。
【図10】C.ディフィシル・トキソイド・ワクチンで免疫感作されたアカゲザルにおける平均毒素中和抗体力価を示すグラフである。
【図11】再発性C.ディフィシル抗生物質関連下痢症を有する3人の対象における血清IgG抗毒素A抗体(上パネル)および血清IgG抗毒素B抗体(下パネル)のレベルを示すグラフのセットである。対象は、0日目、7日目、28日目、および56日目にC.ディフィシル・トキソイド・ワクチンの筋肉内接種を受容した。検出可能な中和活性を有していた血清試料について、精製されたC.ディフィシル毒素A(上パネル)または毒素B(下パネル)の細胞毒性を中和した血清の最も高い希釈率が、括弧内に示される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明は、ヒトのような哺乳動物におけるC.ディフィシル疾患の予防および治療のための方法および組成物を提供する。その方法は、C.ディフィシル・トキソイドに対する抗体(例えば、毒素中和ポリクローナル免疫グロブリン)、C.ディフィシル・トキソイドそれ自体、またはそれらの組み合わせの、経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または腹腔内)投与を含む、受動および能動の免疫感作アプローチを含む。例えば、本発明は、トキソイドAおよび/またはトキソイドBを含むワクチンの経皮投与(例えば、筋肉内)による再発性C.ディフィシル関連下痢症(CDAD)の予防および/または治療の方法を含む。本発明は、C.ディフィシル・トキソイド、C.ディフィシル・トキソイドを含有しているワクチン組成物、C.ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリンを作製する方法、実質的に精製されたC.ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリン、およびC.ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリンのドナーを同定する方法を含む。これらの方法および組成物について、以下、さらに記載する。
【0020】
本発明の予防および治療の方法は、治療そのものの実施における、または後に受動免疫感作において使用するためのC.ディフィシル免疫グロブリンの作製における、C.ディフィシル・トキソイドによる予防接種を含む。C.ディフィシル・トキソイドは、C.ディフィシル培養物からの毒素(毒素A、毒素B、またはそれらの組み合わせ)の精製、および化学的な、例えば、ホルムアルデヒド(下記参照)、グルタルアルデヒド、過酸化物、または酸素による処理による毒素の不活化により作製され得る(例えば、Relyveld et al.,Methods in Enzymology 93:24,1983;Woodrow and Levine,eds.,New Generation Vaccines,Marcel Dekker,Inc.,New York,1990を参照のこと)。または、毒性を欠くかまたは低下した毒性を有している野生型または変異型のC.ディフィシル毒素が、組み換え法を使用して作製され得る。遺伝学的方法によりトキソイドを作成する方法は、当技術分野において周知である(例えば、米国特許第5,085,862号、第5,221,618号;第5,244,657号;第5,332,583号;第5,358,868号;および第5,433,945号を参照のこと)。例えば、毒素のアミノ末端酵素領域を除去する欠失変異が作成され得る。欠失または点変異は、毒素活性部位に作成されてもよい。さらに、受容体または炭水化物の結合を防止する欠失または点変異が作成されてもよい。
【0021】
C.ディフィシル・トキソイドを含有しているワクチン組成物は、薬学的に許容される希釈剤(例えば、生理食塩水)にトキソイドを懸濁させることにより、または薬学的に許容される担体とトキソイドを会合させることにより、投与用に調製され得る。トキソイドは、当業者により決定され得る量で、アジュバントの存在下または非存在下で投与され得る。本発明において使用され得るアジュバントには、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、およびヒドロキシリン酸アルミニウム(aluminum hydroxy phosphate)のようなアルミニウム化合物が含まれる。抗原は、標準的な方法を使用して、アルミニウム化合物により沈殿させられるか、またはアルミニウム化合物に吸着させられ得る。具体例として、ミョウバン(例えば、Rehydragel LV(登録商標),Reheis,Inc.,Berkeley Heights,New Jersey;最大2mg AlOH/用量、例えば、約1.5mg AlOH/用量)が使用され得る。使用され得るさらなるアジュバントには、RIBI(ImmunoChem,Hamilton,MT)、QS21(Aquila)、Bay(Bayer)、およびPolyphosphazene(Virus Research Institute,Cambridge,MA;WO95/2415)が含まれる。
【0022】
本発明のワクチン組成物は、当業者により適切であると決定された量および計画で経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または腹腔内)経路により投与され得る。例えば、100ng〜500μg、1〜250μg、10〜100μg、25〜75μg、または50μgのトキソイドが投与され得る。予防または治療の目的の場合、ワクチンは、例えば、1回、2回、3回、または4回、投与され得る。複数回投与される場合、投与間隔は、例えば、1週間〜1ヶ月であり得る。C.ディフィシル免疫グロブリンのドナーを刺激する目的の場合には、より多くの回数、投与され得る。例えば、1週間〜1ヶ月の間隔で、例えば、最大6回、投与され得る。もう一つの例において、各50μgを、4回、8週間にわたり筋肉内投与することができる。そのようなスケジュールは、再発性C.ディフィシル関連下痢症の治療に関連して、より詳細に後に記載される。
【0023】
予防接種がC.ディフィシル・ポリクローナル免疫グロブリン(例えば、ヒトC.ディフィシルポリクローナル免疫グロブリン)を作製するために実施される場合には、まず、免疫感作されたドナーからの血清試料が、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)分析により、C.ディフィシル毒素Aおよび毒素Bの存在に関してモニタリングされる。簡単に説明すると、ELISAプレートを、炭酸/重炭酸、pH8.5および1μg/mlのタンパク質(精製された毒素Aまたは毒素B)によりコーティングし、4℃で一夜インキュベートする。ウェルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈された血清試料と接触させ、洗浄し、アルカリホスファターゼのような検出可能標識に連結された抗ヒト抗体と接触させる。バックグラウンドに対して2倍超のシグナルの検出を陽性とみなす。シグナルは、405nmにおける光学濃度測定により検出される。
【0024】
次いで、ELISAアッセイにおいて陽性であった試料を、毒素中和アッセイにおいて試験する。簡単に説明すると、血清試料(100μl)を、MEMで2倍段階希釈し、等しい容量の10 MC50を含有している毒素Aと共に、37℃で1時間、プレインキュベートする。毒素A濃度を細胞のチャレンジのため規準化する。例えば、細胞の50%に影響を与える濃度の10倍が、チャレンジのために使用される。毒素Aのために使用される範囲は、10〜100ngである。次いで、毒素A/血清混合物(100μl)を、コンフルエントなIMR90細胞単層(American Type Culture Collection(ATCC,Rockville,Maryland);Torres et al.,supra)に添加する。重層された細胞を、37℃で16〜18時間、インキュベートし、次いで、細胞毒性に関して判定する。細胞の少なくとも50%が球状化から防御された場合、その血清は「防御的」と見なされる。毒素Bについての効力テストは、IMR90細胞アッセイ法における細胞毒性の決定の前に、血清試料が毒素Bと共にプレインキュベートされることを除き、毒素Aに関して上に記載されたのと同じ手法により、実施される。IMR90細胞の50%に対して効果を有する毒素Bの量は、10〜100pgである。
【0025】
上記のスクリーニング法は、C.ディフィシル・トキソイドにより予防接種されていないが、正常より高いC.ディフィシル毒素に対する抗体の血清レベルを有している対象を同定するためにも使用され得る。これらの対象は、C.ディフィシル免疫グロブリンの作製のための、トキソイドによる予防接種のための良好な候補である。
【0026】
許容されるドナーが同定された後は、標準的な血漿分離法を使用して、ドナーから免疫グロブリンが入手される。免疫グロブリンは、Cohnの低温エタノール分画のような標準的な方法、またはサイジング(sizing)カラム・クロマトグラフィもしくは(例えば、プロテインAを使用した)抗体アフィニティ・クロマトグラフィのような標準的なクロマトグラフィ法を使用して精製される。最大で1週間に2回、ドナーから全血(500ml〜1L)を入手し、遠心分離により血漿を単離し、細胞をドナーに戻す。好ましくは、精製された試料は、IgGのみを含有しているか、または主にIgGを含有しているが、例えば、IgG、IgA、およびIgMを含有している混合物も、本発明において使用され得る。
【0027】
上記のようにして調製されたC.ディフィシル免疫グロブリンは、C.ディフィシル感染を有しているか、またはそれを発症するリスクを有している患者に、経皮(例えば、筋肉内、静脈内、または腹腔内)投与され得る。これらの患者集団には、例えば、入院高齢患者、養護ホーム居住者、慢性病患者、癌患者、エイズ患者、集中治療室の患者、および透析治療を受けている患者のような、広域性抗生物質を受容したことのある患者が含まれる。C.ディフィシル免疫グロブリンは、ドナー力価に依って、100μm/kg〜100mg/kgまたは1〜50mg/kgの範囲内、例えば、約15mg/kgの量で投与され:免疫グロブリンの中和力価が高いほど、投与される必要がある量は、低くなる。免疫グロブリンは、例えば、1回または2回、投与され得る。例えば、治療的な受動免疫感作の場合には、初回量を治療のために投与し、再発を予防するために2回目を投与することができる。
【0028】
本発明の方法および組成物を、本発明を支持する実験的な証拠と共に、以下のように、さらに詳細に記載する。
【0029】
ワクチン作製
概要
C.ディフィシル毒素Aおよび毒素Bは、培養ビン(10〜20L)において培養されたC.ディフィシルの嫌気培養物において産生される。C.ディフィシルのマスター(Master)セル・バンクおよびワーキング(working)セル・バンクが、C.ディフィシルATCC43255株からATCCにおいて調製された凍結乾燥リサーチ(research)セル・バンクから製造された。ワクチン作製のため、増殖培地に懸濁した透析サックで培養されたC.ディフィシル培養物により、毒素を産生させる。多数のサック培養物をプールし、生存可能なC.ディフィシルおよび胞子を、遠心分離、それに続くサブミクロン濾過により除去する。得られた濾液を濃縮し、透析濾過(diafiltered)し、4℃で60%飽和硫酸アンモニウムにより毒素を沈殿させ、ペレットを凍結保管する。硫酸アンモニウム・ペレットを、リン酸緩衝液に再溶解させ、S-300セファクリル・サイズ排除カラムに適用する。毒素Aおよび毒素Bを含有しているピークを収集し濃縮する(2:1の毒素A毒素B比で、50〜60%毒素)。次いで、毒素調製物を、4.25mg/mlリジンを含有している溶液中で、4℃〜6℃で、4.25mg/mlホルムアルデヒドにより、18日間不活化する。不活化の後、安定剤として使用するため、ホルムアルデヒド濃度を透析濾過により0.016%にまで低下させる。最終産物を、2.5mg/mlの濃度で、0.6mlの充填容量でガラス・バイアルに充填する。
【0030】
現在の方法は、15〜20mg/Lまたは150〜200回分のトキソイドを与える。同一性、効力、および安全性のロット・リリース・テスティング(lot release testing)アッセイは、全て、臨床前ロットにおいて確立された。GMPマスター・セル・バンクおよびプロダクション(Production)セル・バンクが作製され、認定され、安定的な条件で保管された。C.ディフィシル・トキソイド・ワクチン調製を、以下、さらに詳細に記載する。
【0031】
マスター・セル・バンクおよびワーキング・セル・バンク
リサーチ・シード(research seed)は、基準株ATCC43255のアンプルを使用して、標準的な方法により、ATCCによる契約の下で調製され凍結乾燥された。オキソイド・リインフォースド・クロストリジアル培地(Oxoid Reinforced Clostridial Medium)(RCM)が、シード・ストックを培養するために使用された(Oxoid Ltd.,Hampshire,England)。培地中のウシ由来材料は、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、および米国で、ヒト消費用に使用される健康な動物から入手された。培養物は、保存剤として5%デキストランおよびトレハロースを使用して、RCM中で安定化された。
【0032】
C.ディフィシル・マスター・セル・バンク(MCB)およびワーキング・セル・バンク(WCB)の調製
C.ディフィシルのMCBは、リサーチ・シード・ストックの凍結乾燥バイアルを、RCM(ATCCにより使用されたのと同じロット)に再懸濁させ、インキュベートし、それに続いて、トリプトン(0.48%)-酵母抽出物(0.24%)-マンニトール(0.1%)(TYM)培地で2回増幅することにより、調製された。グリセロールを凍結保護剤として添加し、およそ1mlずつに分割したもの250個を急速凍結させ、液体窒素中で保管した。ワーキング・セル・バンクは、MCBのバイアルを接種原として使用して、同様の様式で調製された。
【0033】
セル・バンク試験
マスター・セル・バンクおよびワーキング・セル・バンクは、生存率、純度、同一性、および毒素発現に関して試験された。生存率は、固形培地および液体培地の両方における増殖により証明された。純度は、嫌気培養下でのグラム染色およびコロニー形態学、ならびに好気増殖の欠如により試験された。C.ディフィシルの同一性は、ガス・クロマトグラフィ脂肪酸分析、および臨床的な嫌気的同一性試験により証明された。毒素の発現および同一性は、透析サックでセル・バンクを培養し、交差免疫電気泳動により両毒素の発現に関して培養物を試験することにより確認された。毒素Aの発現および同一性は、ELISAによっても確認された。毒素Bの発現は、細胞毒性に関する試験および細胞毒性の特異的な中和により確認された。毒素発現は、ATCC43255標準と平行に測定され、比較可能であることが示された。
【0034】
培養および毒素発現
毒素は、窒素源(例えば、1〜100g/L、5〜20g/L、または12g/Lの濃度のトリプトン)、酵母抽出物(1〜100g/L、15〜35g/L、または24g/L)、リン酸緩衝液、炭素源(例えば、マンニトール(1〜50g/L、例えば、8g/L)、グルコース、グリセロール(1〜50g/L、例えば、4g/L)、またはマンニトール+グリセロール(例えば、上に示された量)を含有している培地に懸濁した、透析サック(13〜14,000分子量カットオフ)で培養されたC.ディフィシルの嫌気培養物において産生される。産生は、ワーキング・セル・バンクのバイアルを小さい静置培養物において増幅し、その培養物の一定分量を、透析サックに接種するために使用することにより、開始させられる。およそ5日間の37℃における増殖の後、サック内の材料を採集する。採集された産物を、増殖型の細胞および胞子を除去するため、遠心分離し、濾過する(0.5μm、続いて0.2μm)。濾液を洗浄し、濃縮し、硫酸アンモニウムにより沈殿させる。
【0035】
培養単位の調製
培養単位は、2つのサイドアーム・ポートを有する8Lまたは16Lのスピナー・フラスコ、透析サック、およびリン酸緩衝液の1Lまたは2Lのフラスコからなる。最大25個の8Lまたは16Lの単位を、各産生ランのために接種する。培養単位は、スピナー・フラスコで培地を溶解させ、サイドアーム・ポート間に透析サックを吊るし、ポートの端にキャップをし、100mMリン酸緩衝液のフラスコを1つのポートへ取り付けることにより調製される。培地の滅菌および嫌気生活の作出のため、単位全体をオートクレーブ処理する。50℃未満にまで冷却した後、リン酸緩衝液をポンプで透析サックへと送り込み、単位を37℃で一夜平衡化し(その間に、増殖栄養素が透析サックへと拡散し、細菌増殖に適した条件が確立される)、その後、接種を行う。
【0036】
接種および培養
ワーキング・セル・バンクのバイアルを解凍し、嫌気TYスターター培地(トリプトン(0.48%)および酵母抽出物(0.24%))50mlに接種するために使用する。フラスコを、14〜16時間、37℃の嫌気チャンバーに置く。接種原を含む適切な容量の希釈剤およそ2mlを、各透析サックに添加する。次いで、培養単位をインキュベーターに戻し、5日間放置する。不必要な撹拌を防止することにより、オートクレーブ処理の後、嫌気生活を維持する。
【0037】
採集、濾過、および沈殿
インキュベーションの後、培養単位をインキュベーターから取り出し、透析サックの内容物をポンプで送り出し、プールし、培養物の純度および同一性に関して試験する。遠心分離、それに続く、0.5μmプレフィルター、次いで0.2μm滅菌フィルターによる濾過により、生存可能なC.ディフィシル生物および胞子を除去する。濾液を、毒素Aおよび毒素Bの濃度、ならびに無菌性に関して試験し、30,000MWカットオフ中空糸カートリッジを用いた限外濾過により10倍に濃縮する。濾液を、25mMトリス、pH7.5により洗浄し、低分子量培地成分を減少させる。濾過された飽和硫酸アンモニウム溶液を、60%飽和の最終溶液が得られるよう、濃縮物に添加する。その溶液を4℃で48時間以上インキュベートし、遠心分離および上清の廃棄により、毒素を含有している沈殿物を採集する。硫酸アンモニウム・ペレットを、さらなる加工まで、−10℃以下で凍結保管する。
【0038】
精製および不活化
ペレットを、室温で、100mMリン酸緩衝液、pH7.4と混合することにより解凍する。可溶化された毒素を、遠心分離により清浄化し、0.45μmフィルタを使用して濾過する。次いで、清浄化された材料を、セファクリルS-300ハイ・リゾリューション(High Resolution)(Pharmacia Biotechnology)ゲル濾過カラムにおいて分画する。典型的なクロマトグラフィ・プロファイルを図1に示す。毒素ピークを収集し、5.0±0.5mg/mlに濃縮する。収集は、クロマトグラムの視覚的検査により決定されるような、毒素ピークの上昇期から開始し、下降期の変曲点まで継続する。
【0039】
精製の後、毒素溶液を、4.25mg/mlのホルムアルデヒドを使用して、4〜6℃で、18日間不活化する。不活化は、4.25mg/mlリジン塩酸塩を含有している100mMリン酸緩衝液においてpH7.0±0.2で実施される。不活化期間は、マウスにおける致死の完全な排除のために必要とされる期間の3倍を越えるよう設定される。従って、不活化の6日目までに、0.5mgのトキソイドによる腹腔内接種は、マウスにおいて致死または体重変化を与えないようになる。これは、IMR90細胞における細胞毒性力価のおよそ6 log10の減少に相当する。18日間の不活化の後、生物学的活性は、典型的には、8〜9 log10という完全な不活化のため、IMR90細胞に対する効果により判断されるように、さらに2〜3桁減少する。
【0040】
18日間の不活化の後、不活化された毒素を、50mMリン酸、100mM NaCl、pH7.4に緩衝液交換し、ホルムアルデヒド濃度を0.16±0.04mg/mlに低下させる。2.5mg/mlの可溶性不活化毒素を滅菌濾過し、グレー・ブチル・ゴム栓(gray butyl rubber stoppers)を有する2ml I型ホウケイ酸ガラス・バイアルに充填する。
【0041】
不活化および製剤化の条件を支持する研究
ホルムアルデヒドによる毒素不活化のための最適条件を確立するため、拡張的な研究を実施した。生物学的活性の損失をモニタリングするため、これらの研究は、C.ディフィシル毒素の生物学的活性の高感度の指標となるIMR90組織培養系を利用した(Torres et al.,supra)。研究されたパラメータには、完全なトキソイド化(toxoiding)を容易にするために設計された、ホルムアルデヒドおよび毒素の濃度、緩衝液の組成、pH、時間、温度、ならびに添加されるL-リジンの効果が含まれた(表1)。
【0042】
(表1)試験されたパラメータ

【0043】
一般に、C.ディフィシル毒素は、全ての条件下で、37℃での不活化に対して極めて感受性であり、極めて迅速に不活化が起こった(例えば、8時間で7 log10の活性の損失)。従って、不活化の制御および再現性を最大限にするため、本発明者らは、4℃で不活化することに決定した。4℃で不活化されたトキソイドは、37℃でホルムアルデヒドにより不活化されたトキソイドより高い抗体力価を誘導した。選択された明示された条件の下では、インビトロのおよそ5〜6 log10の損失に相当する、検出可能なインビボの生物学的活性の完全な損失が、6日間の不活化で起こる。十分な安全性の余裕を提供するため、不活化はさらに12日間継続され、その間に、さらに2〜3 log10の細胞毒性が失われる。不活化期間の終了時、細胞培養系中の活性は、検出可能しきい値において、かろうじて検出可能である。典型的な不活化の動力学を、図2に示す。
【0044】
低濃度のホルマリンが、トキソイド復帰を防止するため、ワクチンの製剤に含まれる。他の毒素で復帰を低下させることが既知である、活性化部位へのLys取り込みにも関わらず(Relyveld,Prog.Immunobiol.Stand.3:258,1969)、復帰は検出された。製剤化の選択は、様々な条件の下で、復帰の可能性を含むトキソイドの安定性を決定するために行われた、多数の研究に基づいていた。一般に、トキソイドは、低濃度の残余ホルマリンの存在下または存在下で、4℃で安定していた。残余ホルマリンの非存在下では、部分的な復帰が比較的高い温度(28〜37℃)で起こり、トキソイドは、数日〜数週かけて検出可能な生物学的活性を回復した(表2)。
【0045】
(表2)ホルマリンの非存在下におけるC.ディフィシル・トキソイドの部分的な復帰

【0046】
認められるように、長期間(2ヶ月以上)、復帰のための最適条件(37℃)への曝露の後ですら、部分的な復帰のみが検出されている。この時間の後、最初に不活化された8〜9 log10のうちおよそ5 log10が回復された。
【0047】
復帰は、全ての温度で、0.010%以上の濃度のホルマリンを含めることにより、完全に防止された(表3)。従って、製剤化されたトキソイド・ワクチンのための規格は、0.012〜0.020%のホルマリン濃度を保証するよう設定されている。
【0048】
(表3)低濃度のホルマリンによる復帰の防止

【0049】
(不活化前の)C.ディフィシル毒素の特徴決定
サイズ排除クロマトグラフィの後、ホルムアルデヒド処理の前に、部分精製された毒素調製物を特徴決定するための研究を行った。毒素Aおよび毒素Bは、トリス−グリシン還元SDS-PAGEにおいて十分に分離されない。しかしながら、全毒素(毒素Aおよび毒素B)は、クーマシー染色されたトリス−グリシン還元SDS-PAGEゲルの濃度測定スキャニングによって推定され得る。全毒素は、全タンパク質の50〜60%を占める。これらの還元ゲルのイムノブロットは、一つの大きな抗毒素A反応性バンド、ならびに抗毒素B反応性の一つの大きなバンドおよびいくつかの小さいバンドを示す。
【0050】
本発明者らは、ワクチン中の主要な不純物の同定を行った。精製されたバルク毒素をSDS-PAGEゲルに過負荷し、還元SDS-PAGE条件下でタンパク質を分離した。毒素バンドを切り取るため、244kDaの予備染色されたマーカーの直下で、ゲルを切断した。次いで、毒素バンドより下のタンパク質をPVDF膜に転写し、配列データベースとの相同性比較のためアミノ酸配列決定に供した。18〜25サイクルのN末端配列決定から、本発明者らは、およそ35kDaの不純物がC.ディフィシル3-ヒドロキシブチリルCoAデヒドロゲナーゼであり、45〜47kDaの不純物がC.ディフィシル・グルタミン酸デヒドロゲナーゼであり、60〜70kDaのタンパク質がgroELのホモログまたは細菌hsp60ファミリーのタンパク質(およそ70%の相同性)であることを同定した。
【0051】
抗毒素A抗体および抗毒素B抗体を用いたウェスタン・ブロッティングにより確認されたように、毒素Aタンパク質と毒素Bタンパク質との良好な分離は、非還元PAGEゲルを使用して達成される。還元ゲルの場合と同様に、多数の比較的低分子量の抗毒素B反応性バンドが観察される。
【0052】
毒素Aは、DEAE-5PWカラムを使用したイオン交換HPLCによっても毒素Bから分離され得る。毒素A/毒素B比は、ELISAにより測定した場合、およそ2.2、イオン交換クロマトグラフィにより測定した場合、およそ1.9である。
【0053】
ミョウバン吸着トキソイド・ワクチン
本発明者らは、市販の20mg/ml酸化アルミニウムを含有している無菌Rehydragel LV(登録商標)(Reheis,Inc.,Berkeley Heights,New Jersey)から、トキソイド吸着のためのミョウバンを調製する。この材料を、まず、pH7.4の50mMリン酸緩衝液、100mM NaCl、100mg/mlホルムアルデヒドにより、3mg/ml酸化アルミニウムにまで希釈する。希釈されたミョウバンを、クラス100条件下で、グレー・ブチル・ゴム栓を有する無菌の発熱性物質なしの10ml容量ガラス・バイアルに無菌的に充填する。
【0054】
C.ディフィシル免疫グロブリン・ドナーを作製するための予防接種のための候補の同定
上述のように、C.ディフィシル免疫グロブリン・ドナーは、C.ディフィシル・トキソイド・ワクチンの経皮投与によって作製され得る。予防接種のための好ましい候補は、既にC.ディフィシル・トキソイド中和抗体を有している対象である。これらのドナーは、毒素に曝されたことがあり、有用な力価に達するために、より少ない追加刺激を必要とするであろう。本発明者らは、静脈内免疫グロブリンの9つの商業的なロットを試験し、それらが極めて低いレベルのC.ディフィシル毒素Aおよび毒素Bに対する中和抗体を含有していることを見出した。これらの調製物中の抗毒素の力価は、いずれの毒素に対しても<1:50であり、毒素Aより毒素Bに対する力価の方が高い。本発明者らは、Nevadaのセンターからの100人の専門家血漿ドナーの調査も実施した。その結果は、これらの個体の2%および13%が、それぞれ抗毒素Aおよび抗毒素Bの中和抗体を有していたが、力価は極めて低かったことを示している。これらのデータは、C.ディフィシル治療用の過免疫ヒト抗毒素を調製する目的のため、未刺激の血清陽性血漿ドナーからの血漿を選択することは効果的でないであろうこと、および、治療用のヒト免疫グロブリンを作製するためには、トキソイド・ワクチンによる免疫感作によりドナーを刺激する必要があることを示している。
【0055】
(表4)血漿ドナーの抗毒素抗体レベル(n=100)

【0056】
能動及び受動の免疫感作法の臨床前評価
マウスの能動免疫感作
8匹の雌Swiss Websterマウスの群を、1週間間隔で2回、ミョウバン吸着トキソイド・ワクチンにより腹腔内(IP)免疫感作した。トキソイドは、ヒト製剤を模倣するためにミョウバンに吸着させられた(アルミニウム1mg当たりタンパク質0.144mgの比率)。用量は、吸着ワクチンの一連の10倍希釈で投与された。動物は、免疫原性の比較のための4つの異なるトキソイド・ロットを投薬された:1つは研究用ロット(ロット27-33)、3つは、臨床的産物の作製の方法に従い製造されたワクチン・ロット(ロット133、135、および144)であった。2回目の免疫感作の1週間後、血清を、ELISAにより、全抗体に関して試験し、細胞毒性中和により、毒素Aおよび毒素Bに対する抗体に関して試験した。細胞毒性中和アッセイにおいては、毒素(10×MC50)を、37℃で1時間、2倍抗体希釈物と共にインキュベートし、次いで、IMR90細胞の単層培養物へと接種する。中和力価は、球状化から細胞の50%を防御する抗体の最も高い希釈率として表される。
【0057】
ELISAデータは、抗毒素免疫が用量依存的に発達することを示す。トキソイドの特定の稀釈液における応答の大きさを比較したところ、毒素Aは毒素Bよりわずかに免疫原性が強いようである。トキソイドは、中和抗体応答も誘発した。球状化から細胞を防御する中和抗体を誘発するために必要とされるトキソイドの用量は、毒素Aより毒素Bの方が高く、このことからも、マウスにおいては毒素Aの方が免疫原性が強いことが証明される。
【0058】
トキソイド・ワクチンが毒素AおよびBの致死効果からマウスを防御するか否かを決定するため、マウスの群を、1週間おきに2回、ワクチンにより腹腔内免疫感作した。次いで、それらに、毒素A(100ng、IP)または毒素B(200ng、IV)のLD50の5倍をチャレンジした。14日間、疾病および死亡に関して、動物をモニタリングした。免疫感作されていない動物は、チャレンジ後24時間以内に死亡した。
【0059】
結果は、>50ngのタンパク質を含有している吸着トキソイドの用量で毒素Aからマウスが防御され、>5mgの用量で毒素Bからマウスが防御されることを示した。上記の免疫原性実験において、毒素Aは、毒素Bのチャレンジから動物を防御するのに必要とされる用量より10〜100倍低い用量で防御的であった。
【0060】
トキソイドの免疫原性に対するミョウバンの効果を、マウスにおいて試験した。10匹の動物の群を、可溶性トキソイドまたはミョウバン吸着トキソイドにより1週間毎に3回、腹腔内免疫感作した。ミョウバン吸着は、アルミニウム1mg当たり0.144mgのトキソイド・タンパク質を混合することにより、投薬の直前に実施された。動物は、10μgのトキソイド単独、または10μgのミョウバン吸着トキソイドを受容した。抗毒素免疫応答は、血清試料におけるELISAおよび細胞毒性中和により測定された。ELISAにより決定された全抗体力価は、可溶性トキソイドおよびミョウバン吸着トキソイドについて比較可能であった。両方の毒素に対する中和抗体力価は、ミョウバン吸着トキソイドを受容した群の方が高かった。
【0061】
マウスは、非経口投与された精製された毒素Aおよび毒素Bに対して極めて感受性であり、従って、トキソイド不活化をモニタリングするために使用され得る。個々に試験された、精製された毒素Aおよび毒素BのLD50は、およそ50ngである。不活化前の部分精製された毒素調製物は、およそ4〜8ngの各毒素に相当する、20ng未満の全タンパク質というLD50を有しており、そのことは、毒素が、共に投与された場合、協同作用することを示唆しているかもしれない。
【0062】
ホルマリンによる不活化の後、約500mgの毒素Aトキソイドおよび250μgの毒素Bトキソイドに相当する、1.25mgの全タンパク質を含有している、投与された中で最大の用量の不活化トキソイドを動物が受容した場合、マウスにおいて毒性は観察されない。これらのデータは、6.25×104倍超の致死の最小の減少を示す。より高感度の組織培養アッセイにより決定されるように、不活化の実際の程度は、少なくとも8桁の大きさである。マウス安全性アッセイも、不活化の期間を定義するために使用される。トキソイド(0.5mg)は、典型的には、5〜6日目に完全に許容されるようになる。不活化は、0.5mgの腹腔内チャレンジの後、マウスにおいて致死を示さないようになるために必要とされる不活化の長さの3倍の後に中止される。
【0063】
予防接種は毒素Aおよび毒素Bの生物学的効果からマウスを防御するため、製造されたトキソイド・ワクチンの主要な効力アッセイとして役立つよう、マウス・モデルを適合化した。このアッセイにおいては、マウスを免疫感作し、次いで、血清を回収するために採血し、その血清を、IMR90組織培養系におけるインビトロ毒素中和活性に関して試験する。
【0064】
このアッセイを利用するため、本発明者らは、まず、IMR90系で測定されるようなインビトロ中和活性と、マウスにおける防御が相関することを決定した。トキソイド・ワクチンの4つのロットを、1週間毎に2回、マウスに腹腔内予防接種するために使用した。トキソイドは、上記のようなミョウバンに吸着させ、一連の10倍用量において試験した。ワクチンの2回目の投薬から7日後、動物から採血をし、個々のマウスからの血清を、IMR90細胞に対する毒素AおよびBの効果を中和する能力に関して試験した。動物を、4日間、回復させ、次いで、致死量の毒素Aまたは毒素Bのいずれかをチャレンジした。中和抗体力価と、両毒素によるチャレンジからの生存との相関は、高度に有意であった(ウィルコクソン順位和検定によりp<0.0001)。
【0065】
ハムスターの能動免疫感作
ハムスターは、毒素Aおよび毒素Bの作用に対して高度に感受性であるため、この種は、C.ディフィシル感染の優れたモデルを提供する。C.ディフィシルの存在下でのクリンダマイシンの単回投与の後、ハムスターは、劇症性の下痢および出血性の盲腸炎により2〜3日以内に死亡する。トキソイド・ワクチンにより筋肉内免疫感作されたハムスターは、その後C.ディフィシルをチャレンジされた場合、死亡および下痢から防御される。この免疫感作の経路は、血清抗体(IgG)を誘導するが、検出可能な粘膜の抗体を誘導せず、このことは、高力価のIgGが、C.ディフィシルにより引き起こされる腸疾患から防御し得ることを示している。
【0066】
死亡および下痢からの防御のレベルを定量するため、ハムスターの群を、およそ100μgのトキソイド(AおよびB)を含む溶液(n=15)またはプラセボ(n=10)により、0日目、14日目、および21日目に筋肉内予防接種した。最終投薬の2週間後、ハムスターに、1.0mgのクリンダマイシン、続いて1×105 C.ディフィシル(ATCC 43255株)を胃内に(IG)チャレンジした。チャレンジ後の14日間、体重減少、下痢、および生存に関して、動物をモニタリングした(図3)。トキソイド・ワクチンにより免疫感作されたハムスターは、偽免疫感作対照と比較して、死亡(p≧0.0001)および下痢(p=0.0057)から防御された(図4)。個々の各動物からの血清を分析したところ、毒素中和抗体レベルが存在し、防御と相関していた。
【0067】
ハムスターおよびマウスにおける受動免疫感作
2つの動物モデルにおける実験は、受動免疫感作の治療効力を確認する。毒素中和抗体調製物による処置は、致死的なチャレンジからマウスを防御する。上記のクリンダマイシン・チャレンジ・モデルを利用して、毒素中和抗体を与えられたハムスターは、死亡および下痢から防御されることが示された。下痢を発症しているハムスターは、毒素中和抗体の非経口投与により治癒され得る。受動的に投与された抗体の防御治療活性は用量依存性であり、抗体含有調製物により処置された動物において達成される受動血清中和抗体レベルと相関する。
【0068】
致死的チャレンジからのマウスの受動的防御
毒素中和抗体の防御力を試験するため、マウスに、腹腔内(IP)経路により、毒素Aおよび毒素Bの両方に対する抗体を含有している過免疫マウス腹水を与え、次いで、毒素Aまたは毒素Bをチャレンジした。100μl、10μl、または1μlの用量のプールされた腹水をマウスに単回投与し、血清中の受動的に入手された中和抗体のレベルを決定するため、毎日採血をした。次いで、動物に、毒素A(5×LD50 IP)または毒素B(5×LD50 IV)をチャレンジし、7日間モニタリングした。毒素Aおよび毒素Bの直接投与は、マウスを死亡させる。100μl用量の腹水は、毒素Aによる致死から動物の60%を防御し、毒素Bによる致死から動物の80%を防御した。マウスは、抗体投与後、最長23日間、毒素Aチャレンジから防御された。このレベルの致死からの防御を入手するためには、毒素注射の30分以内に抗体を投与しなければならなかった。実験室における測定は、生存していた動物が、全て、腹水の注入の結果として、≧200の相反血清中和力価を有していたことを示した。毒素中和抗体の半減期は、この研究の条件下では、2週間であると推定された。
【0069】
クリンダマイシン・チャレンジ後のハムスターの受動的防御
雌ハムスターの群に、過免疫マウスの腹水をIPで単回投与した。段階的な用量が投与された(1匹当たり6、2、0.6、または0.2mlの腹水)。非免疫マウスからの腹水を、陰性対照とした。動物は、腹水を受容した翌日に受動血清抗体レベルを測定するために採血され、2日後にクリンダマイシンをチャレンジされた。チャレンジ後の3週間、生存、下痢、および体重減少に関して、動物をモニタリングした(図5)。死亡からの防御は、3つの最も高い用量群において達成され、死亡および下痢の両方からの防御は、最高用量の抗体を受容した動物において見られた(図6)。中和抗体のレベルは、死亡および下痢からの防御と相関していた。完全に防御された動物は、およそ800の相反血清中和抗体を有し、最小有効力価は200であった。この研究におけるハムスター血清中の中和抗体の半減期は、14日であると推定された。
【0070】
中和抗体を使用したハムスターにおける下痢の治療
抗生物質関連下痢症のハムスター・モデルは、C.ディフィシルに対する予防戦略の評価に有用なものである。しかしながら、ハムスターにおけるC.ディフィシル疾患は極めて重度であり、クリンダマイシン・チャレンジの後、迅速に、急性盲腸炎および死亡が起こる。感染の重度は、死亡からは防御するが下痢からは防御しないよう設計された、予定された量の毒素Aおよび毒素Bに対する中和抗体の投与によって低下させることができる。死亡を予防し、下痢は予防しない用量を、用量範囲実験において確定した。動物が下痢を有している期間中、付加的な中和抗体は、下痢を消散することができた。非免疫動物からの腹水を与えられた動物は、下痢に罹患し続け、最終的に死亡した。治療された動物は、処置後24時間以内に下痢から回復し、再発しなかった。実験の設計および下痢の結果を、図7および8に示す。この実験は、C.ディフィシル関連下痢症を治療するために毒素中和抗体が使用され得ることを示す。回復は迅速であった。
【0071】
非ヒト霊長類におけるトキソイド・ワクチンの免疫原性
毒素Aおよび毒素Bの両方に対する中和抗体が、本発明のトキソイド・ワクチンによる免疫感作の後にアカゲザルにおいて誘導された。3匹の動物の群に、ミョウバン吸着ワクチンまたはプラセボのいずれかを含む液体ワクチンを与えた。研究は、非ヒト霊長類において高力価の中和抗体を誘起するワクチンの能力を証明するために設計された。プラセボ対照は、主として、安全性比較のため含まれた。動物は、ミョウバン吸着ワクチン(110μg)またはプラセボを含む溶液を5回受容した。ワクチンは、臀部に筋肉内経路により、0.5mlの容量で、0日目、8日目、29日目、65日目、および118日目に投与された。免疫応答および臨床病状をモニタリングした(図9)。5回分が与えられた後、有害な病状または感受性は認められなかった。免疫感作された動物は、全て、結合抗体および中和抗体の両方により応答した。数回のワクチン投薬が、有意な中和抗体を誘導するために必要とされ;65日目および118日目における追加投薬は中和抗体レベルをさらに高めた。ミョウバン吸着ワクチンは、いくつかの動物において、より迅速な、より高い応答を誘導した(図10)。研究は、免疫グロブリン調製物へと加工するのに適している、誘導レベルの中和ワクチンにより誘導された抗体の実現可能性を示し、初回刺激された動物における追加投薬の、高力価の防御抗体を誘発する能力を証明した。この実験は、多数回のトキソイドの追加投薬による過免疫感作が、非ヒト霊長類において安全であることも証明した。
【0072】
能動免疫感作法の臨床的評価
下記の研究においては、トキソイドAおよびBを含有している非経口C.ディフィシル・ワクチンが、再発性C.ディフィシル関連下痢症(CDAD)の多数回のエピソードの履歴を有する3人のヒト対象に投与された。対象は、8週間にわたり4回の50μgのワクチンの筋肉内接種を受容した。2人の対象は、血清IgG抗毒素Aおよび抗毒素B抗体のレベルの増加を示し、両毒素に対する血清細胞毒素中和活性を示した。予防接種の後、3人の対象は全員、経口バンコマイシンによる治療を中止したが、CDADのさらなる再発はなかった。これは、C.ディフィシル・ワクチンの使用が、高いCDADのリスクを有する対象の治療において有効であることを示す。
【0073】
この研究の目的は、C.ディフィシル・ワクチンが、安全であり、免疫原性であり、かつCDADの多数の再発を有する患者において再発を予防するか否かを調査することであった。非盲検予備研究は、3人の対象(1人の男性、51歳、および2人の女性、71歳および33歳)において実施された。各対象は、抗生物質使用後のCDADを発症しており、大便がC.ディフィシル毒素陽性となる再発性CDADの立証された履歴を有していた。彼らの下痢は、メトロニダゾールまたはバンコマイシンによる治療により改善されたが、全ての症例において、抗生物質治療中止から3〜14日以内に少なくとも3度CDADが再発した。また、対象は、経口生菌療法、コレスチラミン、リファンピシン、および静脈内免疫グロブリンを含む再発性CDADのためのその他の多様な治療にも応答しなかった。その結果として、研究参加の時点で、彼らは、それぞれ10ヶ月、22ヶ月、および9ヶ月という期間、メトロニダゾールまたはバンコマイシンによるほぼ継続的な治療を必要としていた。
【0074】
C.ディフィシル・トキソイド・ワクチンは、以前に記載されたようにして作製された(Kotloff et al.,Infect.Immun.69(2):988-995,2001)。簡単に説明すると、毒素AおよびBを含有しているC.ディフィシルATCC43255株の培養物濾液を、S300セファクリル・サイズ排除カラムを使用して部分精製し、ホルムアルデヒドにより不活化した。ワクチンの全タンパク質濃度は、0.52mg/mlであり、その約44%を毒素AおよびBが占め、毒素A毒素B比は1.5:1であった。そのワクチンを、0.4ml当たり50μgのタンパク質を含有するよう希釈し、これを、各接種において送達される用量とした。
【0075】
登録評価を完了した後、対象は、0日目、7日目、28日目、および56日目に、三角筋部に、C.ディフィシル・ワクチンの4回の筋肉内接種を受容した。全ての対象がバンコマイシンを経口摂取し続け(少なくとも125mg、1日2回)、56日目に中止した。各訪問時および70日目に血液試料を入手した。血清抗毒素抗体濃度を、ELISAにより測定し、血清毒素中和活性を、以前に記載された組織培養細胞毒素アッセイ法を使用して決定した(Kyne et al.,New England Journal of Medicine 342(6):390-397,2000;Kyne et al.,Lancet 357(9251):189-193,2001;Kotloff et al.,Infect.Immun.69(2):988-995,2001;Kelly et al.,Antimicrobial Agents&Chemotherapy 40(2):373-379,1996)。
【0076】
予防接種はよく許容され、対象は注入部位における最小限の不快感を報告した。1人の対象(71歳女性)は、4回目の接種の後に一過性の多発性関節痛を発症した。2ヶ月後、リウマチ性多発筋痛症と診断され、予防接種と関係がある可能性があるとみなされた。彼女は、経口コルチコイド治療を受け、効果は良好であった。
【0077】
2人の対象が、予防接種後に血清IgG抗毒素Aおよび抗毒素B抗体レベルの増加を示した(図11)。これらの対象は、いずれも、血清中の毒素Aおよび毒素Bに対する細胞毒素中和活性も示した。1人の対象(51歳男性)は、増加した血清抗毒素抗体レベルまたは中和活性を示さなかった。予防接種を完了しバンコマイシン治療を中止した後、2ヶ月間、3人の全ての対象を追跡したところ、いずれも再発性CDADを発症しなかった。
【0078】
この研究は、C.ディフィシル・トキソイド・ワクチンが、再発性CDADを有する患者における毒素Aおよび毒素Bに対する防御免疫応答の誘導において有効であり得ることを示している。予防接種の後、以前はバンコマイシンによる長期治療を必要としていた3人の対象全員が、それ以上CDADを再発することなく、療法を中止することができた。
【0079】
本明細書において引用された全ての参照が、参照により完全に組み入れられる。本発明のその他の態様は、前述の特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者におけるクロストリジウム ディフィシル(Clostridium difficile)感染を治療する方法であって、ヒト・クロストリジウム ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリンを該ヒト患者へ経皮投与することを含む、方法。
【請求項2】
クロストリジウム ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリンが、ヒト患者へ筋肉内投与、静脈内投与、または皮下投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
体重1kg当たり0.01〜100mgのクロストリジウム ディフィシル毒素中和免疫グロブリンがヒト患者へ投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
クロストリジウムの毒素またはトキソイドをヒト患者へ経皮投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
クロストリジウムの毒素またはトキソイドが、ヒト患者へ筋肉内投与、静脈内投与、または皮下投与される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ヒト患者におけるクロストリジウム ディフィシル感染を予防する方法であって、クロストリジウム ディフィシルの毒素またはトキソイドに対して誘起されたヒト毒素中和抗体を該ヒト患者へ経皮投与することを含む、方法。
【請求項7】
抗体がクロストリジウム ディフィシル毒素中和ポリクローナル免疫グロブリンである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
抗体が、ヒト患者へ筋肉内投与、静脈内投与、または皮下投与される、請求項6記載の方法。
【請求項9】
体重1kg当たり0.01〜100mgの抗体がヒト患者へ投与される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
クロストリジウムの毒素またはトキソイドをヒト患者へ投与することをさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
クロストリジウムの毒素またはトキソイドが、ヒト患者へ筋肉内投与、静脈内投与、または皮下投与される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
ヒト患者におけるクロストリジウム ディフィシル感染を予防または治療する方法であって、クロストリジウムの毒素またはトキソイドを該ヒト患者へ経皮投与することを含む、方法。
【請求項13】
毒素またはトキソイドがクロストリジウム ディフィシルの毒素またはトキソイドである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
患者が、再発性クロストリジウム ディフィシル関連下痢症を有しているか、またはそれを発症するリスクを有している、請求項12記載の方法。
【請求項15】
クロストリジウムの毒素またはトキソイドが、ヒト患者へ筋肉内投与、静脈内投与、または皮下投与される、請求項12記載の方法。
【請求項16】
患者が、症候性クロストリジウム ディフィシル感染を有していないが、それを発症するリスクを有している、請求項12記載の方法。
【請求項17】
患者が、症候性クロストリジウム ディフィシル感染を有している、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−31182(P2012−31182A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195944(P2011−195944)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【分割の表示】特願2006−545434(P2006−545434)の分割
【原出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(503389389)サノフィ パスツール バイオロジクス カンパニー (17)
【Fターム(参考)】