説明

クロック動的切替制御装置

【課題】情報処理システムの運用中にクロックの擬似障害を発生させてクロック供給部の待機系を点検でき、またDCSのクロック障害検出回路の障害によるクロックの出力停止を予防する。
【解決手段】クロック供給制御手段31はクロック生成装置10,11の出力のクロック#1,#2をある時間間隔で順にストップ/スタート制御する。クロック障害アラームマスク手段32は、現用系クロック生成装置のクロック出力がストップされている時間にクロック選択/分配部2から報告されるクロック障害検出信号211をマスクする。現用系クロック生成装置のクロック出力がストップされている時間にクロック障害検出信号211がアサートしなかった時にクロック障害検出回路アラーム信号332として外部に報告する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現用クロック系と待機クロック系とから夫々供給されるクロックをダイナミッククロックスイッチ(Dynamic Clock Switch )により円滑に切り替えるクロック装置に適用され、特に現用クロック系で動作中に待機クロック系に障害が生じていたことにより、クロック切替時に、そのクロックを受けて動作する情報処理装置がシステムダウンとなるリスクを回避するようにしたクロック動的切替制御装置および方法並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
信頼性の高いクロックを供給するクロック装置は、互いに独立して作動する複数のクロック生成装置でなるクロック供給部と、それら複数のクロック生成装置の各出力のクロックから1つのクロックを選択して、情報処理システムに出力するダイナミッククロックスイッチ(Dynamic Clock Switch,DCS )とを有することが多い。DCSは、供給される複数のクロックを切り替えて、そのうちの1つを現用クロックとして選択し、他のクロックを待機クロックとするとともに、クロックの切替の際にクロックの位相飛びや位相の擾乱を生じさせることのないように、切替前の現用クロックの位相から切替後の現用クロックの位相に徐々に移相してクロックを生成し、この移相したクロックを情報処理システムに出力する。
【0003】
このように、クロック装置からクロックを受けて動作する情報処理システムがシステムダウンするのを避けるために、切替前の現用クロックの位相から切替後の現用クロックの位相に徐々に移相したクロックを生成するようにして行うクロックの切替は、クロックの動的切替と称される。動的切替を実現するデバイスが前記のDCSである。DCSにおけるクロックの動的切替の動作は、PLL回路を有するマルチプレクサ回路により実現される。DCSは、例えば、インテリジェント・ダイナミック・クロック・スイッチ・デバイス(Intelligent Dynamic Clock Switch (IDCS) devices)なる名称で、米国カリフォルニア州に本社を有するイクサー社(Exar Corporation)から販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−244812号公報
【特許文献2】特開平01−180645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コンピュータシステムのような情報処理システムにおいては、その信頼性を向上させるために、クロックを供給するクロック供給装置において、現用系のクロック生成装置と待機系のクロック生成装置とを備えた冗長化構成を採用するとともに、更に、このよう冗長化構成において、一層の信頼性向上を図るために、現用系と待機系との選択切替を動的切替とすることにより、一度もシステムをダウンさせることなく瞬時に自動的に現用系から待機系への選択切替を行うようすることが多い。この動的切替は上述のDCSにより行う。
【0006】
この動的切替によるクロックの切替制御はより詳しくは次のように行なわれている。
クロック供給部は複数のクロック生成装置を有する。各クロック生成装置は互いに独立して作動する。DCSで現用クロックとして選択されているクロックにおいて、ストップや周期的な歯抜けといった障害が生じると、DCSは、該障害を検出し、待機クロックへのクロックの選択切替を自動的に行うとともに、障害が発生したことを示すクロック障害検出信号を出力する。クロック障害検出信号は、診断装置やコンソールディスプレイ/表示ランプ等へ送られる。このとき、DCSによるクロックの切替は動的切替であるから、クロックを受けて作動する情報処理システムの運転は正常に継続される。
【0007】
しかしながら、この動的切替制御によるクロック装置では、現用系クロック生成装置からクロックを受け、そのクロックに障害が生じるまでそのクロックだけで長時間に亘って運用することになる。このような場合には、現用系クロックに障害が生じ、DCSがクロックを待機系に切り替えたとき、待機系のクロック生成装置が故障していた場合や待機系のクロック供給パス(線路)にも障害が潜在していた場合は、クロックの切替が発生すると、クロック供給が完全にストップしてしまい情報処理システムのシステムダウンといった重障害となり得る。
【0008】
また、DCSのクロック障害検出回路が故障していた場合には、現用系に障害が発生するまでは、その障害が検出されないので、ロック障害検出回路の障害の検出漏れとなり、現用系に障害が発生したとしてもクロックの切替が行われず、情報処理システムにクロックへのクロック供給が停止し、やはり情報処理システムのシステムダウンとなり得る。
【0009】
特許文献1(特開2001−244812)の段落0025には、クロックの断を検出した場合にクロックの自動切替を行う装置が開示されている。また、特許文献2(特開平01−180645)のページ2、右上第14−17行目には、擬似障害を発生させ、障害検出機構を自動的に検証する技術が記載されている。
【0010】
しかしながら、これらの特許文献1,2に記載された技術では、クロック供給部に擬似障害を発生させたときにDCSで検出されるクロック障害検出信号が外部の診断装置にそのまま出力されてしまうので、情報処理システムの運用中は擬似障害の発生は事実上困難である。また、これら特許文献1,2に記載された技術では、現用クロックで長期間に亘って運用している間にDCSのクロック障害検出回路に障害が生じていたときには、その障害を検出できないので、現用系に障害が生じも待機系にクロックが切り替えられず、情報処理システムにシステムダウンが起きてしまう可能性が高い。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、情報処理システムの運用中にクロックの擬似障害を発生させてクロック供給部の待機系を点検でき、しかも情報処理システムの運用を継続でき、またDCSのクロック障害検出回路の障害によるクロックの出力停止を予防できるクロック動的切替制御装置および方法並びにプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するため、本発明によるクロック動的切替制御装置および方法並びにプログラムは、主に、次のような特徴的な構成を採用している。
【0013】
(1)本発明によるクロック動的切替制御装置は、多重化されたクロック供給部のクロック出力を、時間的に間隔を空けて、1つずつ順にある時間に亘って停止させることにより、クロック障害を擬似的に生じさせる擬似的クロック障害生成手段と、
前記時間にクロック障害検出回路で検出される擬似的クロック障害に基づくアラームをマスクすることにより、該擬似的クロック障害が真のクロック障害として外部に報告されるのを防ぐ擬似的クロック障害アラームマスク手段と
を有することを特徴とする。
【0014】
(2)また、本発明によるクロック動的切替制御装置は、複数のクロック生成手段を有するクロック供給部から供給される複数のクロックのうちの1つを現用クロックとして選択する一方、該現用クロックを除く他の前記クロックを待機クロックとするというクロック選択切替を行うとともに、該クロック選択切替前の現用クロックの位相から該クロック選択切替後の現用クロックの位相に漸次に移相したクロックを出力クロックとして生成し、また前記クロック選択切替により選択されている前記現用クロックに異常が生じたときにクロック障害検出信号を生成するダイナミッククロックスイッチ(Dynamic Clock Switch )から該クロック障害検出信号を受けるクロック障害アラームマスク手段と、
前記クロック供給部から前記ダイナミッククロックスイッチへの前記複数のクロックの供給または該供給の停止を制御するクロック供給制御手段と
を有し、
前記クロック供給制御手段は、前記クロック供給部を制御し、該クロック供給部から前記ダイナミッククロックスイッチに供給されるべき前記複数のクロックを、予め定めた順に1つずつ停止にし、
前記クロック障害アラームマスク手段は、少なくとも前記停止の期間には前記クロック障害検出信号をマスクすることにより、該クロック障害検出信号を受けてもクロック障害アラームをアサート(assert)にせず、他方該クロック障害検出信号をマスクするマスク期間を除く期間に該クロック障害検出信号を受けたときは該クロック障害アラームをアサートにする
ことを特徴とする。
【0015】
(3)本発明によるクロック動的切替制御方法は、多重化されたクロック供給部のクロック出力を、時間的に間隔を空けて、1つずつ順にある時間に亘って停止させることにより、クロック障害を擬似的に生じさせ、
前記時間にクロック障害検出回路で検出される擬似的クロック障害に基づくアラームをマスクすることにより、該擬似的クロック障害が真のクロック障害として外部に報告されるのを防ぐ
ことを特徴とする。
【0016】
(4)本発明によるクロック動的切替制御プログラムは、少なくとも前記(2)に記載の電話着信通知方法を、コンピュータによって実行可能なプログラムとして実施していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクロック動的切替制御装置および方法並びにプログラムによれば、情報処理システムの運用中にクロックの擬似障害を発生させて、クロック供給部の待機系を点検でき、しかも情報処理システムの運用を継続でき、またDCSのクロック障害検出回路の障害によるクロックの出力停止を予防できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態であるクロック動的切替制御装置を有するクロック装置の一例の構成を示す回路ブロック図である。
【図2】図1に示したクロック装置における作動の手順を示す図(A)並びにその手順において生成される各信号の時間関係を示す図((B)及び(C))である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明によるクロック動的切替制御装置および方法並びにプログラムの好適な実施形態について添付図を参照して説明する。なお、以下の説明においては、本発明によるクロック動的切替制御装置およびクロック動的切替制御方法について説明するが、かかるクロック動的切替制御方法をコンピュータにより実行可能なクロック動的切替制御プログラムとして実施するようにしても良いし、あるいは、クロック動的切替制御プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録するようにしても良いことは言うまでもない。
【0020】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明は、多重化されたクロック供給部のクロック出力を、時間的に間隔を空けて、1つずつ順にある時間に亘って停止させることにより、クロック障害を擬似的に生じさせ、前記時間にDCSのクロック障害検出回路で検出される擬似的クロック障害に基づくアラームをマスクすることにより、該擬似的クロック障害が真のクロック障害として外部に報告されるのを防ぐことを主要な特徴としている。この特徴により、情報処理システムの運用中にクロックの擬似障害を発生させて、クロック供給部の待機系を点検でき、しかも情報処理システムの運用を継続できる。
【0021】
また、本発明では、前記時間に前記擬似的クロック障害のアラームがアサートにならなかった場合に、クロック障害検出回路アラームをアサートにすることも可能である。このことにより、DCSのクロック障害検出回路の障害によるクロックの出力停止を予防できる。
【0022】
(本発明の実施形態の構成例)
次に、本発明によるクロック動的切替制御装置の実施形態の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態であるクロック動的切替制御装置を有するクロック装置の一例の構成を示す回路ブロック図である。
【0023】
図1のクロック装置は、クロック供給部1、クロック選択/分配部2およびクロック動的切替制御装置3を有してなる。クロック供給部1は、クロック生成装置#1およびクロック生成装置#2を有してなる。クロック生成装置#1は、クロック発生回路10aおよび出力バッファ10bを有する。クロック生成装置#2は、クロック発生回路11aおよび出力バッファ11bを有する。クロック供給パス101及び111は、出力バッファ10bおよび11bからそれぞれ出力されるクロックの出力線路である。クロック発生回路10aはクロック#1を生成し、クロック発生回路11aはクロック#2を生成する。クロック#1は、出力バッファ10bおよびクロック供給パス101を経て、クロック選択/分配部2に出力される。クロック#2は、出力バッファ11bおよびクロック供給パス111を経て、クロック選択/分配部2に出力される。
【0024】
クロック選択/分配部2は、ダイナミッククロックスイッチ(Dynamic Clock Switch,DCS )21を有してなる。DCS21は、クロック供給パス101及び111経由で供給されるクロック#1及び#2を受け、電源投入時にはこれら2つのクロックのうちのクロック#1を現用クロックとして選択して、CPU等の外部の情報処理システムにクロック(出力クロック)212を出力する。DCS21は、クロック障害検出回路を内部に有し、クロックの停止、位相飛び、位相擾乱などという異常が現用クロックに生じると、現用クロックをクロック#1からクロック#2に動的に切り替えるとともに、クロック障害検出信号211(前述の「クロック障害に基づくアラーム」に対応する。)をクロック動的切替制御装置3に出力する。
【0025】
クロック動的切替制御装置3は、タイミング手段30、クロック供給制御手段31、クロック障害アラームマスク手段32およびクロック障害検出回路アラーム報告手段33を有してなる。タイミング手段30はタイミング信号301を生成する。タイミング信号301は、クロック供給制御手段31、クロック障害アラームマスク手段32およびクロック障害検出回路アラーム報告手段33に供給される。
【0026】
クロック供給制御手段31は、タイミング信号301に応じ、クロック#1出力イネーブル信号311及びクロック#2出力イネーブル信号312を所定の時間間隔でON/OFFにし、出力バッファ10bおよび11bを夫々制御し、クロック#1及び#2の通過または通過の阻止をする。クロック#2出力イネーブル信号312がOFFのときは、クロック#1出力イネーブル信号311はONである。逆に、クロック#1出力イネーブル信号311がOFFのときは、クロック#2出力イネーブル信号312はONである。クロック#1出力イネーブル信号311およびクロック#2出力イネーブル信号312の双方をONにする期間はあるが、これら両信号の双方をOFFにする期間はない。
【0027】
出力バッファ10bは、クロック#1出力イネーブル信号311のON又はOFFに応じて、クロック発生回路10aで発生したクロック#1を通過させ又は通過を阻止する。出力バッファ11bは、クロック#2出力イネーブル信号312のON又はOFFに応じて、クロック発生回路11aで発生したクロック#2を通過させ又は通過を阻止する。出力バッファ10b又は11bがクロック#1又は#2の通過を阻止することは、DCS21へのクロック#1又は#2の供給の停止となる。
【0028】
クロック供給制御手段31がクロック#1出力イネーブル信号311及びクロック#2出力イネーブル信号312を所定の時間間隔でON/OFFにし、DCS21に供給されるクロック#1及びクロック#2の供給を制御するのは、クロックの異常を意図的に生成し、クロック生成装置#1又は#2に擬似的な障害を起こさせ、後に詳述するように、図1のクロック装置の信頼性を向上するためである。
【0029】
DCS21は、現用クロックが停止になると、クロックの動的選択切替を行うことにより、切替前の待機クロックが現用クロックとして選択するとともに、クロック障害検出信号211をアサートにする。いま、図1のクロック装置に電源が投入され、その時にクロック#1が現用クロックとして選択されていて、クロック#2が待機クロックの状態であったし、この状態が継続していたとする。このとき、クロック#1が停止すると、DCS21は、クロックの動的選択切替を行い、クロック#2を現用クロックとして選択する。この動的選択切替により、出力クロック212の位相は、その切替までのクロックの#1の位相からクロック#2の位相へ漸次に移行される。即ち、DCS21の出力クロックを、クロック#1の位相からクロック#2の位相へ漸次に移相される。
【0030】
クロック障害アラームマスク手段32は、タイミング信号301およびクロック障害検出信号211を入力し、クロック障害アラーム信号322を出力する。このクロック障害アラームマスク手段32は、タイミング信号301に同期してクロック障害アラームマスク信号321を生成する。クロック障害アラームマスク手段32は、アンドゲート32aを有し、クロック障害アラームマスク信号321がアサートである期間、クロック障害検出信号211をマスクし、他方、クロック障害アラームマスク信号321がアサートでない期間(即ちネゲート(negate)である期間)は、クロック障害検出信号211をそのまま出力する。クロック障害アラームマスク信号321は外部の診断装置などに送られる。このクロック障害アラームマスク信号321がアサートになると、外部の診断装置などは、図1のクロック装置の障害、ひいては出力クロックの異常と判断する。
【0031】
クロック障害アラームマスク信号321をアサートにする期間は、前述のマスク期間である。このマスク期間は、クロック供給制御手段31の制御により、クロック供給部1のクロック生成装置#1または#2に擬似的な障害を生じさせ、DCS21に供給される現用クロックを意図的に停止させる擬似障害期間より長い期間とする。クロック障害アラームマスク信号321によるマスク期間を擬似障害期間を含む期間とすることにより、クロック生成装置#1または#2の擬似障害が真のクロック障害として、外部の診断装置などに報告されるのを防止している。
【0032】
クロック障害検出回路アラーム報告手段33は、タイミング信号301およびクロック障害検出信号211を入力し、クロック障害検出回路アラーム報告信号332を出力する。このクロック障害検出回路アラーム報告手段33は、タイミング信号301から所定の微小な時間ΔTの後にアサートになる、クロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号331を生成する。クロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号331は、一定の期間(この期間を、クロック障害検出回路アラーム有効期間と称することとする。)に亘ってアサートになる。クロック障害検出回路アラーム有効期間は、クロック生成装置#1または#2に生じさせたクロックの擬似障害(現用クロックの停止)を、DCS21内部のクロック障害検出回路が検出し、クロック障害検出信号211をアサートにするべき期間に含まれる期間とする。前記の微小な時間ΔTは、少なくとも、タイミング信号301に応じて出力バッファ10b又は11bがクロック#1又は#2を停止することにより、DCS21に供給される現用クロックが停止され、DCS21内部のクロック障害検出回路がクロックの擬似障害を検出し、クロック障害検出信号211をアサートにするまでの時間とする。
【0033】
クロック障害検出回路アラーム報告手段33は、アンドゲート33aを有し、クロック障害検出信号211がアサートでない(ネゲートである。)ときは、クロック障害検出回路アラーム報告信号332をアサートにし、他方、クロック障害検出信号211がアサートであるときは、クロック障害検出回路アラーム報告信号332をアサートにしない(ネゲートにする。)。
【0034】
上記のように、クロック障害検出回路アラーム有効期間は、クロック生成装置#1又は#2のクロック出力を停止し、クロック供給部1にクロックの擬似障害を生じさせたときに、クロック障害検出信号211がアサーになるべき期間に含まれる期間に設定されている。そこで、DCS21のクロック障害検出回路が正常であって、クロックの異常を検出できれば、このクロック障害検出回路アラーム有効期間にクロック障害検出信号211はアサートになっているはずである。そこで、このクロック障害検出回路アラーム有効期間にクロック障害検出信号211がアサートでないのであれば、クロック障害検出回路に障害があることになるから、クロック障害検出回路アラーム報告手段33はクロック障害検出回路アラーム報告信号332をアサートにし、クロック障害検出回路に障害があることを外部の診断装置などに報告する。
【0035】
(実施形態の動作の説明)
次に、図1に示したクロック装置における作動の手順を示す図2(A)並びにその手順において生成される各信号の時間関係を示す図2(B)及び図2(C)を参照して、図1のクロック装置の動作を更に詳しく説明する。図2(A)における符号40乃至55は、クロック装置の動作の手順を表すものであり、以下ではステップと称することとする。なお、クロック障害アラームマスク手段32におけるクロック障害アラームマスク信号321、クロック供給制御手段31におけるクロック#1出力イネーブル信号311及びクロック#2出力イネーブル信号312、並びにクロック障害検出回路アラーム報告手段33におけるクロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号331は、タイミング手段30から出力されるタイミング信号301に基づき生成されることは、前述のとおりである。これら信号321,311,312及び331相互のタイミングは、タイミング信号301を基準にし、各手段32,31及び33について後に説明するところに従って、設定される。
【0036】
図1のクロック装置に電源が投入されると、クロック生成装置10及び11がクロック#1及び#2をそれぞれ生成する(ステップ40)。このとき、クロック#1出力イネーブル信号311およびクロック#2出力イネーブル信号312はONであり、出力バッファ10bおよび110bはクロック#1及び#2をそれぞれ通過させる。DCS21はクロック#1を現用クロックとして選択し、クロック#1に基づく出力クロック212を生成する。
【0037】
クロック#1に基づく出力クロック212の出力を一定時間継続する(ステップ41)。この一定時間は例えば、図1のクロック装置およびこのクロック装置の出力クロック212を受けて作動する情報処理システムの作動が安定するまでの期間であれば足りる任意の時間長さであり、例えば10分である。
【0038】
クロック装置が一定時間運用されると(ステップ41)、クロック障害アラームマスク手段32によりクロック障害アラームマスク信号321をオン(アサート)にする(ステップ42)。クロック障害アラームマスク信号321がオンである期間には、クロック障害検出信号211がアンドゲート32aにおいてマスクされ、クロック障害アラーム信号322がアサートしない状態となる。
【0039】
クロック障害アラームマスク信号321によるクロック障害検出信号211のマスクが有効になった後に、クロック供給制御手段31はクロック#1出力イネーブル信号311により、現用系のクロック生成装置(#1)10の出力のクロック#1をストップ(イネーブルオフ)にし、現用系のクロック生成装置(#1)10に擬似エラーを発生させる。この時、DCS21では、内部のクロック障害検出回路により、現用クロックであるクロック#1のストップをクロック異常として検出し、クロック障害検出信号211をアサートにする。ただし、クロック障害アラームマスク手段32がクロック障害アラームマスク信号321によりクロック障害検出信号211をマスクしているので、クロック障害アラーム信号322はアサートされず(ネゲートのままであり)、診断装置などの外部装置にはクロック障害アラームが報告されることはない。
【0040】
DCS21は、現用クロックであるクロック#1が停止すると、現用クロックが異常であると認識し、クロック障害検出信号211をアサートにするとともに、クロックの動的な選択切替を行う。このクロックの選択切替により、クロック生成装置(#1)10が現用系のクロック生成装置から待機系のクロック生成装置になり、クロック生成装置(#2)11が待機系のクロック生成装置から現用系のクロック生成装置となる。このとき、出力クロック212の位相は、クロック#1の位相からクロック#2の位相へ漸次に合わせ込まれるので、出力クロック212に基づいて動作する情報処理装置はシステムダウンすることなく、運用を継続できる。したがって、図1のクロック装置では、クロック生成装置(#1)10に故意に発生させた擬似エラーは、出力クロック212に基づき作動する外部の情報処理装置やクロック障害アラーム信号322を受ける診断装置などには影響を与えず、その情報処理装置の運用の継続を妨げることはない。
【0041】
前記擬似エラーが発生するタイミングで、クロック障害検出回路アラーム報告手段33はクロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号331をオンにする(ステップ44)。このクロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号331がオンである期間には、ロック障害検出回路アラームが有効な状態となる(この期間を「クロック障害検出回路アラーム有効化期間」と称することとする。)。クロック障害検出回路アラーム有効化期間は、クロック障害検出回路アラーム報告手段33がクロック障害検出信号211のアサート又は非アサート(ネゲート)であることを判断し、クロック障害検出回路アラーム信号332を生成し、このクロック障害検出回路アラーム信号332を受けた外部の診断装置などがクロック障害検出回路アラーム信号332を認識するに足る時間に設定され、例えば0.1秒である。
【0042】
クロック障害検出回路アラーム報告手段33は、クロック障害検出回路アラーム有効化期間にクロック障害検出信号211がアサートである場合には、DCS21のクロック障害検出回路を正常とみなし、クロック障害検出回路アラーム信号332をアサートにしない(クロック障害検出回路のアラームを外部の診断装置などに報告しない。)。図2(B)は、DCS21のクロック障害検出回路が正常(障害なし)であるときにおける各信号の時間関係を概念的に示している。
【0043】
他方、クロック障害検出回路アラーム報告手段33は、クロック障害検出回路アラーム有効化期間にクロック障害検出信号211がアサートでない場合には、DCS21のクロック障害検出回路を異常とみなし、クロック障害検出回路アラーム信号332をアサートにする(クロック障害検出回路のアラームを外部の診断装置などに報告する。)。図2(C)は、DCS21のクロック障害検出回路が異常(障害あり)であるときにおける各信号の時間関係を概念的に示している。
【0044】
クロック障害検出回路アラーム信号332のアサートにより、DCS21のクロック障害検出回路の異常が外部の診断装置なでに報告されると、その報告をうけた診断装置などにおける警報の表示や音により、その異常を認識した情報システム等の操作者は、DCS21の交換などをする。尤も、クロック障害検出回路アラーム信号332のアサートにより、DCS21のクロック障害検出回路の異常が報告されたとしても、一般的にはそのときの現用クロックが短期間に停止する可能性は低いので、このDCS21の交換等によるクロック障害検出回路の修復は、通常は情報処理システムの停止が可能な時間を選んで行うことができる。そこで、図1の実施形態では、クロック障害検出回路アラーム信号332により、クロック障害検出回路の障害を把握することにより、情報処理システムが不意にシステムダウンに陥る可能性を顕著に低減できる。
【0045】
ステップ44を前記クロック障害検出回路アラーム有効化期間だけ継続した後に、クロック障害検出回路アラーム報告手段33はクロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号331をオフにする(ステップ45)。ステップ45において、クロック障害検出信号211はクロック障害検出回路アラーム報告手段33によりマスクされ、クロック障害検出回路アラーム信号332はアサートしない状態、即ちクロック障害検出回路アラーム無効状態となる。
【0046】
このクロック障害検出回路アラーム無効状態になった後に、クロック供給制御手段31は出力イネーブル311を再びオンにし、クロック#1を通過させる状態に出力バッファ10bを設定し、クロック#1の出力の停止を解除し、クロック#1をDCS21に供給する(ステップ46)。クロック供給部1が、ステップ43においてクロック#1の出力を停止し、ステップ46においてクロック#1の出力の停止を解除するまでの期間(クロック#1の停止期間)は、DCS21がクロック#1の停止を検出し、DCS21が、クロック#1に代えてクロック#2を現用クロックとして選択し、出力クロック212の位相がクロック#2の位相に合わせ込まれるまでの時間以上であれば足りる。
【0047】
ステップ46に続いて、クロック障害アラームマスク手段32は、クロック障害アラームマスク信号321をOFF(ネゲート)にする(ステップ47)。クロック障害アラームマスク信号321が、ステップ42でONにされ、ステップ47でOFFにされるまでの期間(クロック障害アラームマスク期間)は、ステップ43において現用クロックのクロック#1が停止され、ステップ46においてクロック#1の停止が解除される期間(クロック#1の停止期間)を含む期間に設定する。このようにクロック障害アラームマスク期間を設定することにより、クロック供給部1に故意に起こしたエラー(擬似エラー)によるクロック障害検出信号211がクロック障害アラーム信号322として外部の診断装置などに提供されることを防ぎ、ひいてはクロック供給部1に真の障害が生じたと外部の診断装置などに誤って認識されることを確実に防ぐことができる。
【0048】
ステップ47の動作を終えた状態は、クロック供給部1におけるクロックの選択(現用系/待機系)が切り替わった以外は当初の供給状態(ステップ40)となり、一定時間システム運用がされる(ステップ48)。この一定時間は、ステップ41の一定時間と同じく、図1のクロック装置およびこのクロック装置の出力クロック212を受けて作動する情報処理システムの作動が安定するまでの期間であれば足りる任意の時間長さであり、例えば10分である。
【0049】
ステップ48に続いて、ステップ42と同様に、クロック障害アラームマスク手段32によりクロック障害アラームマスク信号321をオンにする(ステップ49)。クロック障害アラームマスク信号321がオンであるは、クロック障害アラームマスク手段32により、クロック障害検出信号211がマスクされ、クロック障害アラーム信号322はアサートしない状態となる。
【0050】
続いて、前述のステップ43からステップ48までと同様な動作をステップ50からステップ55で行う。但し、ステップ43でONにし、ステップ46でOFFにするクロックはクロック#1であったが、ステップ50でONにし、ステップ53でOFFにするクロックはクロック#2である。
【0051】
以降はステップ42〜55の動作を繰り返し行う。
【0052】
(本実施形態の効果の説明)
以上に図2を参照して説明したように、図1の本実施の形態では、通常システム運用中にある時間間隔(ステップ43−46の時間、ステップ50−53の時間)で現用系クロックをストップさせるともに、一時的にアラームをマスクすることで、擬似クロック障害発生による現用系/待機系切替を行い、その度に擬似クロック障害の発生(クロック障害検出信号211)の有無もチェックすることにより、情報処理システムの正常運転を継続しつつ、現用系/待機系すべてのクロック生成装置およびクロック供給パス、並びに、DCS21のクロック障害検出回路の正常性のチェックが可能となる。
【0053】
要するに、このように作動する図1の本実施の形態では、現用系/待機系すべてのクロック生成装置およびクロック供給パスが一定時間間隔で点検される。そこで、現用クロックで作動中に、待機クロック系(待機クロックを生成しているはずのクロック生成装置およびそのクロック生成装置から出力されるクロックの線路であるクロック供給パス)に何らかの障害が生じていて、現用クロックに障害が発生し、現用クロックから待機クロックに切り替えるクロックの選択切替が生じたとき、出力クロック212が停止し、出力クロック212で作動していた情報処理装置などが予期せずシステムダウンに陥るというリスクは軽減される。
【0054】
さらに、図1の本実施の形態では、DCS21のクロック障害検出回路が一定時間間隔で点検される。そこで、現用クロックで作動中にクロック障害検出回路に何らかの障害が生じていて、現用クロックに障害があっても検出できず、その障害により出力クロック212に異常が生じ、出力クロック212で作動している情報処理システムなどが不意にシステムダウンするというリスクも格段に軽減される。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態の構成を説明した。しかし、かかる実施形態は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが、当業者には容易に理解できよう。
【符号の説明】
【0056】
1 クロック供給部
2 クロック選択/分配部
3 クロック動的切替制御装置
10 クロック生成装置#1
11 クロック生成装置#2
10a,11a クロック発生回路
10b,11b 出力バッファ
101,111 クロック供給パス
21 ダイナミッククロックスイッチ(Dynamic Clock Switch,DCS )
211 クロック障害検出信号
212 出力クロック
30 タイミング手段
31 クロック供給制御手段
32 クロック障害アラームマスク手段
33 クロック障害検出回路アラーム報告手段
301 タイミング信号
311 クロック#1出力イネーブル信号
312 クロック#2出力イネーブル信号
321 クロック障害アラームマスク信号
322 クロック障害アラーム信号
331 クロック障害検出回路アラーム有効化タイミング信号
332 クロック障害検出回路アラーム信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重化されたクロック供給部のクロック出力を、時間的に間隔を空けて、1つずつ順にある時間に亘って停止させることにより、クロック障害を擬似的に生じさせる擬似的クロック障害生成手段と、
前記時間にクロック障害検出回路で検出される擬似的クロック障害に基づくアラームをマスクすることにより、該擬似的クロック障害が真のクロック障害として外部に報告されるのを防ぐ擬似的クロック障害アラームマスク手段と
を有するクロック動的切替制御装置。
【請求項2】
前記時間に前記擬似的クロック障害のアラームがアサートにならなかった場合に、クロック障害検出回路アラームをアサートにするクロック障害検出回路アラーム報告手段を有する請求項1に記載のクロック動的切替制御装置。
【請求項3】
複数のクロック生成手段を有するクロック供給部から供給される複数のクロックのうちの1つを現用クロックとして選択する一方、該現用クロックを除く他の前記クロックを待機クロックとするというクロック選択切替を行うとともに、該クロック選択切替前の現用クロックの位相から該クロック選択切替後の現用クロックの位相に漸次に移相したクロックを出力クロックとして生成し、また前記クロック選択切替により選択されている前記現用クロックに異常が生じたときにクロック障害検出信号を生成するダイナミッククロックスイッチ(Dynamic Clock Switch )から該クロック障害検出信号を受けるクロック障害アラームマスク手段と、
前記クロック供給部から前記ダイナミッククロックスイッチへの前記複数のクロックの供給または該供給の停止を制御するクロック供給制御手段と
を有し、
前記クロック供給制御手段は、前記クロック供給部を制御し、該クロック供給部から前記ダイナミッククロックスイッチに供給されるべき前記複数のクロックを、予め定めた順に1つずつ停止にし、
前記クロック障害アラームマスク手段は、少なくとも前記停止の期間には前記クロック障害検出信号をマスクすることにより、該クロック障害検出信号を受けてもクロック障害アラームをアサートにせず、他方該クロック障害検出信号をマスクするマスク期間を除く期間に該クロック障害検出信号を受けたときは該クロック障害アラームをアサートにする
クロック動的切替制御装置。
【請求項4】
前記クロック障害アラームマスク手段は、前記複数のクロックのうちの1つのクロックであって、前記クロック供給制御手段の制御により前記停止にされた前記クロックの次に停止されるべきクロックが該停止にされる時より前に前記マスク期間を終え、
前記マスク期間内の任意の期間をクロック障害検出回路アラーム有効化期間として設定し、該クロック障害検出回路アラーム有効化期間には、前記クロック障害検出信号がアサートでないとき、クロック障害検出回路アラーム信号をアサートにし、他方、該クロック障害検出信号がアサートであるとき、クロック障害検出回路アラーム信号をアサートにしないクロック障害検出回路アラーム報告手段を有する請求項3に記載のクロック動的切替制御装置。
【請求項5】
前記複数のクロックを順に1つずつ前記停止にするべきタイミングの基準となるタイミング信号を、前記クロック供給制御手段、前記クロック障害アラームマスク手段および前記クロック障害検出回路アラーム報告手段に供給するタイミング手段を有する請求項3または4の何れかに記載のクロック動的切替制御装置。
【請求項6】
前記クロック障害アラームマスク手段は、前記クロック供給部の制御を受けた前記クロック供給制御手段が前記ダイナミッククロックスイッチに対する前記クロックの供給を開始してから所定時間の後に、前記マスク期間を示すクロック障害アラームマスク信号をONにする請求項3乃至5の何れかに記載のクロック動的切替制御装置。
【請求項7】
前記クロック供給制御手段は、前記クロック障害アラームマスク手段が前記クロック障害アラームマスク信号をONにした時と同時またはその時の後であって、前記クロック障害検出回路アラーム有効化期間の前に前記1つのクロックを停止にするとともに、該クロック障害検出回路アラーム有効化期間の経過後に該1つのクロックの停止を解除し、
前記クロック障害アラームマスク手段は、前記クロック供給制御手段が前記1つのクロックの停止を解除した後に、前記クロック障害アラームマスク信号をOFFにする請求項4乃至6の何れかに記載のクロック動的切替制御装置。
【請求項8】
前記クロック障害アラームマスク手段は前記クロック障害アラームマスク信号をOFFにした後に一定時間を置いて前記クロック障害アラームマスク信号を再びONにし、前記クロック供給制御手段は該クロック障害アラームマスク信号のONの後に、停止にした前記1つのクロックの次の順番の1つのクロックを停止にし、前記クロック障害検出回路アラーム報告手段は該次の順番の1つのクロックの停止の後に前記クロック障害検出回路アラーム有効化期間を設定し、前記クロック供給制御手段は該クロック障害検出回路アラーム有効化期間の終了の後に該次の順番の1つのクロックの停止の解除をし、前記クロック障害アラームマスク手段は該次の順番の1つのクロックの停止の解除の後に、前記クロック障害アラームマスク信号をOFFにしする請求項7に記載のクロック動的切替制御装置。
【請求項9】
多重化されたクロック供給部のクロック出力を、時間的に間隔を空けて、1つずつ順にある時間に亘って停止させることにより、クロック障害を擬似的に生じさせ、
前記時間にクロック障害検出回路で検出される擬似的クロック障害に基づくアラームをマスクすることにより、該擬似的クロック障害が真のクロック障害として外部に報告されるのを防ぐ
クロック動的切替制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載のクロック動的切替制御方法を、コンピュータによって実行可能なプログラムとして実施することを特徴とするクロック動的切替制御プログラム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−146260(P2012−146260A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6118(P2011−6118)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000168285)エヌイーシーコンピュータテクノ株式会社 (572)