説明

クロマトグラフ媒体

【課題】
本発明は、イムノクロマトグラフ法による測定において、陰性検体を測定した際に観察されるノイズを抑制することができる一方、陽性検体を測定した際に得られるシグナルを増強することができる、新規なクロマトグラフ媒体の提供を目的とする。
【解決手段】
本発明は、判定部位に第四級アンモニウム塩が付着することを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体及び該クロマトグラフ媒体を含有する測定キットに関する。また、本発明は、判定部位に第四級アンモニウム塩が付着したクロマトグラフ媒体を用いたイムノクロマトグラフ法による測定方法、及び、判定部位に第四級アンモニウム塩が付着したクロマトグラフ媒体の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体に関する。より詳細には、本発明は、被検出物質と特異的に結合する第一試薬が固定化された判定部位に、第四級アンモニウム塩が存在することを特徴とする、クロマトグラフ媒体及びクロマトグラフ媒体の製造方法に関する。さらに、本発明は、クロマトグラフ媒体を含有する測定キット及びクロマトグラフ媒体を用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原とこれに対する抗体による特異的な結合反応を利用した、特定の抗原又は抗体からなる被検出物質を検出する免疫測定法が知られている。標識物質により標識化した抗体又は抗原を試料中の被検出物質に結合させ、被検出物質と複合体を形成した標識物質からのシグナルを測定することで高い感度が得られるため、免疫測定法は広く臨床検査の領域で利用されている。
このような免疫測定法の1つに、イムノクロマトグラフ法がある。免疫測定法では、一般に、被検出物質を、標識物質により標識化した抗体等と反応させた後、被検出物質と複合体を形成した標識物質を、被検出物質と結合していない標識物質から分離する工程が必要となる。イムノクロマトグラフ法は、この工程を、クロマトグラフィーの原理を応用して、固定相とそれに接して連続的に流れる移動相からなる系で行う点に特徴がある。
【0003】
例えば、イムノクロマトグラフ法により、試料中の抗原からなる被検出物質を検出する場合には、以下のような操作が行われる。
(1)被検出物質である抗原に特異的に結合する抗体を第一試薬とし、この第一試薬をクロマトグラフ媒体の所定の部位に所定の形で塗布すること等により、クロマトグラフ媒体に判定部位を形成する。
(2)一方、被検出物質と特異的に結合する抗体を第二試薬とし、この第二試薬を酵素等の標識物質により標識、又は、当該第二試薬を不溶性担体等の標識物質に感作することにより、標識試薬を調製する。
(3)移動相を構成する展開液を、被検出物質を含む試料及び標識試薬と共に、固定相であるクロマトグラフ媒体上で展開する。
以上の操作により、試料中に被検出物質が存在する場合には、クロマトグラフ媒体に形成した判定部位において、被検出物質である抗原が、判定部位に固定した第一試薬である抗体と結合することにより捕捉されると共に、この抗原と、標識試薬を構成する抗体とによって抗原−抗体反応が生ずる結果、当該判定部位においては第一試薬(固定化された抗体)−被検出物質(抗原)−標識試薬(標識化された抗体)の三者のサンドイッチ型複合体が生成する。その結果、判定部位に間接的に標識物質が結合することによって所定のシグナルが現れ、これによって被検出物質の検出を行うことができる。
【0004】
このようなイムノクロマトグラフ法は、特別な装置を必要とせず、操作が簡便であり、短時間で測定可能であることから、臨床検査や研究室における測定試験等で広く利用されている。さらに、近年においては、その簡便な検出方法としての利用価値のみならず、より高感度で信頼性の高い測定データの取得が希求されるに至っている。
【0005】
イムノクロマトグラフ法において高感度な測定を可能とするためには、測定により得られるシグナル/ノイズ比(以下、S/Nともいう)に着目し、それがより大きな値となるよう改良する必要がある。シグナルとは、試料中に被検出物質を含む陽性検体を測定した際に得られる測定値であり、ノイズとは、試料中に被検出物質を含まない陰性検体を測定した際に得られる測定値をいう。シグナル/ノイズ比を改良するためには、標識試薬が被検出物質を介して判定部位に結合することにより得られるシグナルを増強するとともに、標識試薬が被検出物質を介さずに判定部位に非特異的に吸着することによるノイズを抑制しなければならない。シグナルが小さいことにより十分なシグナル/ノイズ比が得られない場合には、特に低濃度の被検出物質が検出できないという問題があり、ノイズが大きいことによりシグナル/ノイズ比が小さくなっている場合には、目的とする被検出物質が存在しないにも関わらず陽性と判定してしまうおそれを生じ、測定系の信頼性が著しく損なわれるからである。しかし、イムノクロマトグラフ法による免疫測定においては、高感度で信頼性の高い測定系の開発が求められているにも関わらず、シグナルを増強しつつノイズを低下させることが可能な簡便な手段は提供されておらず、現在の測定系が示すシグナル/ノイズ比は実用上必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
イムノクロマトグラフ法において、測定系のシグナル/ノイズ比をより大きな値に改良しようという試みは、主にノイズの低下という点に着目して行われてきた。クロマトグラフ媒体に設けられた判定部位にノイズが観測される原因の一つとしては、標識試薬が被検出物質を介さずに直接、又は被検出物質以外の何らかの因子(非特異因子)を介して判定部位に非特異的に結合することが挙げられる。このようにして生じるノイズを低下させる手段としては、ブロッキング剤の使用が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、クロマトグラフ媒体に被検出物質と特異的に結合する第一試薬を固定化して判定部位を形成した後、クロマトグラフ媒体全体を、ブロッキング剤を含む緩衝液に浸漬し、さらに乾燥させることにより、クロマトグラフ媒体の製造を行う。ブロッキング剤を用いて判定部位を予め被覆してしまうことにより、標識試薬や非特異因子の非特異的な吸着を防止し、ノイズの発生を抑制するものである。
このようなブロッキング剤の使用は、陰性検体測定時に観察されるノイズを低下させる点で一応の効果は認められるものの、ブロッキング剤がクロマトグラフ媒体全体を被覆してしまうことにより移動相の展開効率に影響を与える、長期保存によりクロマトグラフ媒体全体を被覆するブロッキング剤自体が変性し測定結果に影響を与える等の問題を有していた。そこで、近年では、クロマトグラフ媒体全体にブロッキング剤を作用させるのではなく、測定結果の解析に必要な判定部位の領域にのみブロッキング剤を塗布する技術も提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
ブロッキング剤の使用は、ノイズの低下という点に着目した場合に一定の効果を有しているが、それは必ずしもイムノクロマトグラフ法による高感度な測定系の開発には結びついていない。ブロッキング剤は、判定部位を被覆することにより標識試薬等の非特異的吸着を抑制するが、判定部位を被覆することにより当該部位に固定された第一試薬と被検出物質の特異的な結合も一部抑制してしまうため、陽性検体を測定した際に得られるシグナルの低下も招くからである。ブロッキング剤の使用により、陰性検体測定時に観察されるノイズが大幅に低下しシグナル/ノイズ比が増加して一見改良したように見えても、陽性検体のシグナルが低下してしまう場合には、特に低濃度域で被検出物質の検出が困難となるため、実際の測定を行う上で大きな問題となっていた。
【0008】
【特許文献1】特開平10−068730号公報(第0026欄)
【特許文献2】特開2006−189317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、イムノクロマトグラフ法による測定において、高感度で信頼性の高い測定データの取得を達成するために、測定系が示すシグナル/ノイズ比を改良する手段を提供する。より詳細には、陰性検体を測定した際に観察されるノイズを抑制することができる一方、陽性検体を測定した際に得られるシグナルは増強することができる、新規なクロマトグラフ媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、被検出物質と特異的に結合する第一試薬及び第四級アンモニウム塩を用いて、イムノクロマトグラフ法に用いられるクロマトグラフ媒体の判定部位を形成させることにより、陰性検体を測定した際に観察されるノイズを抑制することができる一方、陽性検体を測定した際に得られるシグナルは増強することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、判定部位に第四級アンモニウム塩が付着することを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体及び該クロマトグラフ媒体を含有する測定キットに関する。また、本発明は、判定部位に第四級アンモニウム塩が付着したクロマトグラフ媒体を用いたイムノクロマトグラフ法による測定方法に関する。さらに、本発明は、判定部位に第四級アンモニウム塩が付着したクロマトグラフ媒体の製造方法に関する。
【0012】
本発明をより詳細に説明すれば、以下のとおりとなる。
(1)被検出物質と特異的に結合する第一試薬が固定化された判定部位を有するクロマトグラフ媒体において、前記判定部位に第四級アンモニウム塩が付着していることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体。
(2)被検出物質と特異的に結合する第一試薬が固定化された判定部位を有するクロマトグラフ媒体において、前記判定部位に第四級アンモニウム塩及びブロッキング剤が付着していることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体。
(3)判定部位のみにブロッキング剤が付着していることを特徴とする、(2)に記載のクロマトグラフ媒体。
(4)第四級アンモニウム塩が、次の一般式(I)
[RN] (I)
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を有してもよいアルコキシアルキル基、Xは、ハロゲンイオンを示す)で表される化合物である、(1)から(3)のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体。
(5)第四級アンモニウム塩が、ハロゲン化コリン又はハロゲン化テトラアルキルアンモニウムである、(4)に記載のクロマトグラフ媒体。
(6)第四級アンモニウム塩に含まれるハロゲンイオンが、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである、(4)又は(5)に記載のクロマトグラフ媒体。
(7)第四級アンモニウム塩が、塩化コリン又は塩化テトラエチルアンモニウムである、(6)に記載のクロマトグラフ媒体。
(8)(1)から(7)のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体を含有してなる、イムノクロマトグラフ法のための測定キット。
(9)さらに、被検出物質と特異的に結合する第二試薬及び標識物質からなる標識試薬を含有することを特徴とする、(8)に記載の測定キット。
(10)(1)から(7)のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体を用いることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法による測定方法。
(11)さらに、被検出物質と特異的に結合する第二試薬及び標識物質からなる標識試薬を用いることを特徴とする、(10)に記載の測定方法。
(12)第四級アンモニウム塩を含有する溶液に、被検出物質と特異的に結合する第一試薬を混合し、前記混合液をクロマトグラフ媒体に塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
(13)第四級アンモニウム塩を含有する溶液に、被検出物質と特異的に結合する第一試薬及びブロッキング剤を混合し、前記混合液をクロマトグラフ媒体に塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
(14)被検出物質と特異的に結合する第一試薬を固定化し、前記固定化部位に第四級アンモニウム塩を含有する溶液を塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
(15)被検出物質と特異的に結合する第一試薬を固定化し、前記固定化部位に第四級アンモニウム塩及びブロッキング剤を含有する混合液をクロマトグラフ媒体に塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
(16)第四級アンモニウム塩が、次の一般式(I)
[RN] (I)
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を有してもよいアルコキシアルキル基、Xは、ハロゲンイオンを示す)で表される化合物である、(12)から(15)のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
(17)第四級アンモニウム塩が、ハロゲン化コリン又はハロゲン化テトラアルキルアンモニウムである、(16)に記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
(18)第四級アンモニウム塩に含まれるハロゲンイオンが、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである、(16)又は(17)に記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
(19)第四級アンモニウム塩が、塩化コリン又は塩化テトラエチルアンモニウムである、(18)に記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
【0013】
本発明者らは、イムノクロマトグラフ法において、判定部位において効率よく非特異反応を抑制する物質を探索するために、被検出物質に特異的に反応する第一試薬とともに、種々の物質を用いて判定部位を形成し、検討を行った。イムノクロマトグラフ法による測定の例として、豚肉抽出液、すなわち主に豚の筋肉組織からなる部分の抽出液に存在する豚肉に特異的な抗原を被検出物質として、肉の由来する動物種を識別する測定系を用いて詳細な検討を行った。測定系には、豚肉抽出液を免疫原として得られたポリクローナル抗体を第一試薬及び第二試薬として用い、第二試薬をコロイド金粒子に結合したものを標識試薬として用いた。種々の物質について検討したところ、以下の表1に示すように、第四級アンモニウム塩を判定部位の形成に使用した場合に、効率よく非特異反応を抑制できるばかりでなく、陽性検体を測定時に得られるシグナルの増強が見られ、良好なシグナル/ノイズ比が得られることが明らかとなった。
【0014】
表1に示す結果は、第四級アンモニウム塩として塩化コリン、ブロッキング剤としてBlocking Peptide Fragment(TOYOBO)を例として用い、第一試薬と共に判定部位を形成した場合の、陽性検体及び陰性検体の測定値を示す。豚肉に特異的な抗原を被検出物質として含む陽性検体として豚肉抽出液を、被検出物質を含まない陰性検体として牛肉抽出液を試料として測定を行った。判定部位に現れた標識試薬に由来する発色をデンシトメーターで測定することにより数値化した。
【0015】
【表1】

【0016】
炭酸緩衝液中に溶解した抗豚肉ポリクローナル抗体のみを固定化し判定部位を形成した場合(比較例1)と比較して、第一試薬である抗体とともにブロッキング剤を塗布した場合(比較例2)には、陰性検体を測定した際に判定部位に観察される発色が顕著に低下した。従来の技術では、このように判定部位における非特異的な吸着を抑制しノイズを低下させることで、S/Nが大きくなるよう改良を図っていた。しかし、この方法では、ノイズの低下とともに、陽性検体を測定した際に観察されるシグナルも大幅に低下してしまうという問題を有していた。一方、塩化コリン等の第四級アンモニウム塩を用いて判定部位を形成した場合(実施例1)には、陰性検体を測定した際に観察されるノイズを低下させることができるとともに、陽性検体を測定した際に得られるシグナルを増強することが可能であった。第四級アンモニウム塩を判定部位に用いる本発明は、ノイズを低下させシグナルを増強するという2つの利点を兼ね備えており、結果として得られるS/Nにおいて顕著な改良効果が見られた。また、同じ測定時間で同程度のS/Nが得られる測定系を比較する場合(例えば、実施例1の0.1%塩化コリン(S/N=42.8)と比較例2の0.01%BPF(S/N=45.4))、より高いシグナルを示す測定系(実施例1)の方が、より迅速に判定ができるという点で優れている。すなわち、陽性検体を測定した場合、実施例1で構築した測定系の方が、より短い時間で、比較例2の測定系と同程度の発色が得られるので、測定結果の判定が早期に可能となるからである。さらに、興味深いことに、塩化コリンとブロッキング剤を併用した場合(実施例2)には、第四級アンモニウム塩によるシグナル増強効果を妨げることなく、ブロッキング剤により効率的にノイズの発生が抑制された。
【0017】
塩化コリン等の第四級アンモニウム塩は、ラテックス粒子の自然凝集を防止することができるので、免疫測定の分野、特にラテックス受身凝集反応による測定において、非特異反応抑制剤としてしばしば反応溶液中に添加される。イムノクロマトグラフ法による測定では、標識試薬を構成する不溶性担体としてラテックス粒子が用いられる場合に、塩化コリンを展開液に添加する例が知られている(特開2001−21560号公報、特開2007−315883号公報)。本発明である、判定部位に第四級アンモニウム塩を存在させたクロマトグラフ媒体の奏する効果が、第四級アンモニウム塩を展開液に添加した場合の効果とは異なることを明確にするために、以下の実験を行った。
【0018】
【表2】

【0019】
比較例3では、炭酸緩衝液中に溶解した抗豚肉ポリクローナル抗体のみを用いて判定部位を形成した。そして、展開液に塩化コリンを添加したものを用いて、試料及び標識試薬をクロマトグラフ媒体に展開した。比較例3のS/Nは、展開液に塩化コリンを含有しない比較例1の結果と比べてほとんど変化はなく、陰性検体を測定した際に観察されるノイズを低下させることも、陽性検体を測定した際に得られるシグナルを増強することもなかった。また、展開液に塩化コリン及びブロッキング剤を添加した場合には(比較例4)、陰性検体を測定した際のノイズがわずかに低下したが、陽性検体を測定した際のシグナルも同様に低下し、塩化コリンによるシグナルの増強効果は見られなかった。比較例5では、第一試薬である抗体とともにブロッキング剤を塗布して判定部位を形成し、塩化コリンを含む展開液を測定に用いた。ブロッキング剤を判定部位に塗布することにより、陰性検体を測定した際のノイズ、陽性検体を測定した際のシグナルはともに低下する(比較例2)が、展開液に塩化コリンを添加しても、陽性検体からのシグナルが増強されることはなく、S/Nの改良効果は見られなかった。これらの結果から、塩化コリン等の第四級アンモニウム塩は、展開液への添加ではなく、クロマトグラフ媒体の判定部位に付着させることにより、ノイズの抑制効果とシグナルの増強効果という顕著な効果を奏することが明らかとなった。
【0020】
次に、塩化コリンに代えて、第四級アンモニウム塩として、テトラエチルアンモニウムクロリド(TEAC)(実施例3)又はヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(HDTAC)(比較例6)を用いてクロマトグラフ媒体の判定部位を形成し、陽性検体である豚肉抽出液及び陰性検体である牛肉抽出液の測定を行った。
【0021】
【表3】

【0022】
テトラエチルアンモニウムクロリドをクロマトグラフ媒体の判定部位に付着した場合には、塩化コリンの場合と同様に、陰性検体を測定した際にノイズの低下が観察されるとともに、陽性検体の測定においてシグナルの増強効果が見られた。一方、陽イオン性界面活性剤としても知られるヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドを判定部位に付着した場合には、ノイズの発生が抑制されたが、陽性検体を測定した際のシグナルも大幅に低下し、S/Nの改良効果は得られなかった。
【0023】
本発明において、第四級アンモニウム塩は、被検出物質に特異的に反応する第一試薬とともに、クロマトグラフ媒体に付着し判定部位を形成する。判定部位に、第四級アンモニウム塩が存在することで、イムノクロマトグラフ法による測定の際に、ノイズを抑制し、シグナルを増強するので、良好なS/Nを得ることができる。本発明で用いることのできる第四級アンモニウム塩は、次の一般式(I)で表すことができる。
[RN] (I)
ここで、R、R、R及びRはそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルコキシアルキル基を示す。アルキル基及びアルコキシアルキル基における置換基としては、水酸基、ハロゲン、カルボニル基などが挙げられる。好ましい置換基としては、水酸基が挙げられる。さらに、R、R、R及びRのうち、3つ又は4つが同じアルキル基であることが好ましい。式(I)中のXは、ハロゲンイオンを表す。好ましくは、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンであり、より好ましくは、塩素イオンである。好ましい第四級アンモニウム塩としては、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、塩化コリン、臭化コリン、ヨウ化コリン、塩化アセチルコリン、臭化アセチルコリン、塩酸ベタイン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明においては、被検出物質と特異的に結合する第一試薬と第四級アンモニウム塩を用いて、被検出物質−標識試薬からなる複合体を捕捉する判定部位をクロマトグラフ媒体に形成する。第一試薬をクロマトグラフ媒体に固定化する方法としては、第一試薬をクロマトグラフ媒体に物理吸着等の物理的手段又は共有結合等の化学的手段により直接固定化する方法等が挙げられる。第四級アンモニウム塩は、第一試薬をクロマトグラフ媒体に固定化した後に、固定化した部位に第四級アンモニウム塩を含む溶液をさらに塗布し乾燥することにより判定部位に存在させることができる。あるいは、第四級アンモニウム塩を含む溶液に第一試薬を混合し、かかる混合液を用いて物理吸着等の手段により第一試薬を判定部位に固定化することで、同時に第四級アンモニウム塩を判定部位に付着することもできる。工程数が少なく、判定部位の形成が容易となることから、好ましくは、予め第一試薬と第四級アンモニウム塩を混合した溶液を、クロマトグラフ媒体の任意の位置に塗布することで判定部位を形成する。判定部位を形成するのに用いられる溶液中に含まれる第四級アンモニウム塩の濃度は、0.0001重量%から0.1重量%、好ましくは0.0005重量%から0.05重量%、より好ましくは0.001重量%から0.01重量%である。
さらに、非特異的な吸着により陰性検体測定時に主に観察されるノイズの発生を抑制するため、必要に応じて、クロマトグラフ媒体に、ブロッキング処理を行うこともできる。ブロッキング処理に用いることのできるブロッキング剤としては、ウシ血清アルブミン、スキムミルク、カゼイン、ゼラチン等の蛋白質の他、Blocking Peptide Fragment(TOYOBO)や親水性高分子ポリマー等の市販のブロッキング剤が挙げられる。ブロッキング処理は、第一試薬及び第四級アンモニウム塩を用いてクロマトグラフ媒体に判定部位を形成した後に、クロマトグラフ媒体全体をブロッキング剤を含む緩衝液に浸漬すること、又は、判定部位にのみブロッキング剤を含む溶液を塗布し乾燥させることで行うことができる。あるいは、第四級アンモニウム塩を含む溶液にブロッキング剤を添加して、この混合液を塗布することにより判定部位の形成と同時にブロッキング処理を行うこともできる。
【0025】
本発明のクロマトグラフ媒体は、毛管現象を示す微細多孔性物質からなる不活性のものであって、標識試薬、被検出物質等と反応しないものであれば、特にその素材が限定されるものではない。具体的には、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ニトロセルロース又は酢酸セルロース等のセルロース誘導体等で構成される繊維状又は不織繊維状マトリクス、膜、濾紙、ガラス繊維濾紙、布、綿等が挙げられる。好ましくはセルロース誘導体やナイロンの膜、濾紙、ガラス繊維濾紙等であり、より好ましくはニトロセルロース膜、混合ニトロセルロースエステル(ニトロセルロースと酢酸セルロースの混合物)膜、ナイロン膜、濾紙である。
クロマトグラフ媒体の形態及び大きさは特に制限されるものではなく、実際の操作の点及び結果の観察の点において適切であればよい。操作をより簡便にするためには、判定部位が表面に形成されているクロマトグラフ媒体の裏面に、プラスチック等からなる支持体を設けることもできる。この支持体の性状は特に制限されるものではないが、目視判定によって測定結果の観察を行う場合には、支持体は、標識物質によりもたらされる色彩と類似しない色彩を有するものであることが好ましく、通常、無色又は白色であることが好ましい。
【0026】
本発明のクロマトグラフ媒体を用いて検出することのできる被検出物質としては、それに特異的に結合する物質が存在するものであれば特に限定されず、蛋白質、ペプチド、糖(特に糖タンパク質の糖部分、糖脂質の糖部分等)、複合糖質などを例示することができる。本明細書において「特異的に結合する」とは、生体分子が持つ親和力に基づいて結合することを意味する。このような親和力に基づく結合としては、抗原と抗体との結合が代表的なものであり、免疫測定法で広く利用されるが、このような結合のみならず、本発明では、糖とレクチンとの結合、ホルモンと受容体との結合、酵素と阻害剤との結合、核酸と核酸結合蛋白質との結合なども利用できる。具体的な被検出物質としては、例えば、癌胎児性抗原(CEA)、HER2タンパク、前立腺特異抗原(PSA)、CA19−9、α−フェトプロテイン(AFP)、免疫抑制酸性タンパク(IPA)、CA15−3、CA125、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、便潜血、トロポニンI、トロポニンT、CK−MB、CRP、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、梅毒抗体、インフルエンザウイルス、クラミジア抗原、A群β溶連菌抗原、HBs抗体、HBs抗原、ロタウイルス、アデノウイルス、アルブミン、糖化アルブミン、及び、花粉、ダニ、室内塵、食品などのアレルゲン、アレルゲン特異的IgE等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記被検出物質を含む試料としては、例えば、生体試料、即ち、全血、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、鼻腔又は咽頭拭い液、髄液、羊水、乳頭分泌液、涙、汗、皮膚からの浸出液、組織や細胞及び便からの抽出液等の他、牛乳、卵、小麦、豆、牛肉、豚肉、鶏肉などやそれらを含む食品等の抽出液等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
本発明のクロマトグラフ媒体は、イムノクロマトグラフ法において、被検出物質を含む試料及び標識試薬を展開液で展開するための媒体として使用することができる。クロマトグラフ媒体に設けられた判定部位において、固定化された第一試薬が被検出物質−標識試薬複合体と結合するので、間接的に判定部位に捕捉された標識物質の存在を検出又は定量することにより、イムノクロマトグラフ法による測定を行うことができる。
本発明のクロマトグラフ媒体による測定で用いられる第一試薬及び標識試薬を構成する第二試薬は、被検出物質に特異的に結合し得る物質である。すなわち、被検出物質が抗原性を有する物質である場合、第一試薬又は第二試薬として用いることができる物質は、被検出物質に対するポリクローナル抗体モノクローナル抗体又はそれらの断片等である。また、被検出物質が抗体、すなわち特定の抗原に対する免疫グロブリン分子である場合には、第一試薬又は第二試薬として用いることができる物質は、抗体が認識する抗原又は免疫グロブリン分子に対する抗体等である。さらに、被検出物質が糖の場合、第一試薬又は第二試薬としては糖に対する抗体の他、レクチンタンパク質等を用いることもできる。
【0028】
標識試薬を構成する第二試薬は、標識物質と結合して用いられる。第二試薬の標識化に使用できる標識物質としては、酵素又は不溶性担体が挙げられる。酵素としては、アルカリフホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ等があり、それぞれの酵素に対応する公知の発色基質と共に用いることができる。不溶性担体としては、金、銀、白金のようなコロイド状金属粒子、酸化鉄のようなコロイド状金属酸化物粒子、硫黄などのコロイド状非金属粒子及び合成高分子よりなるラテックス粒子、その他を用いることができる。コロイド状金属粒子及びコロイド状金属酸化物粒子には、例えば、コロイド状金粒子、コロイド状銀粒子、コロイド状白金粒子、コロイド状酸化鉄粒子、コロイド状水酸化アルミニウム粒子などが挙げられる。特に、コロイド状金粒子とコロイド状銀粒子が適当な粒径において、コロイド状金粒子は赤色、コロイド状銀粒子は黄色を示す点で好ましい。これらのコロイド状金属粒子の平均粒径は1〜500nm、特に強い色調が得られる10nm〜150nmであることが好ましく、より好ましくは40〜100nmの範囲内である。ラテックス粒子としては、例えばスチレンとメタクリル酸との共重合体、スチレンとイタコン酸との共重合体などを挙げることができる。これらのラテックス粒子の平均粒径は50〜500nmの範囲内であることが好ましい。
本発明で使用する第二試薬を標識物質で標識化する方法としては、物理吸着や化学結合などの公知の方法が使用できる。例えば、第二試薬としての抗体をコロイド状金粒子に感作した標識試薬は、緩衝液等で希釈し金粒子がコロイド状に分散した溶液に抗体を加えて物理吸着させた後、前述の市販ブロッキング剤を添加して抗体が未結合である粒子表面をブロッキングすることにより調製する。緩衝液としては、標識化される物質の種類に応じた各種緩衝液が用いられ、測定物質を失活させることがなく、かつ、抗原抗体反応を阻害しないようなpHを有するものであればよく、例えば、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。pHは、好ましくは6.0〜10.0である。
【0029】
本発明のクロマトグラフ媒体を用いたイムノクロマトグラフ法による測定で使用できる展開液としては、通常、水を溶媒とし、上記の緩衝剤あるいは塩化ナトリウムなどの無機塩を含有することが好ましい。さらに、必要に応じて、ウシ血清アルブミン(BSA)等のタンパク質成分(含有量は通常0.01重量%〜10重量%)、非イオン性界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名「Tween」シリーズ)、ポリオキンエチレンp−t−オクチルフェニルエーテル(商品名「Triton」シリーズ)、ポリオキシエチレンp−t−ノニルフェニルエーテル(商品名「TritonN」シリーズ)、等のポリオキシエチレン系界面活性剤やポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)アルキルエーテルなどの共重合体を好ましく用いることができる。非イオン性界面活性剤の含有量は、好ましくは0.05重量%〜0.5重量%、より好ましくは0.08重量%〜0.25重量%の範囲内である。
【0030】
本発明のクロマトグラフ媒体には、任意で、被検出物質を含む試料を添加するための試料添加部位(サンプルパッド等)、試料中の固形成分を除去する部位(固形成分分離部位等)、展開液を添加するための展開液添加部位、判定部位に捕捉されなかった標識試薬や展開液を吸い取る吸収部位(吸収パッド等)、測定が正常に行われたことを示す対照部位等を組み入れてもよい。これらの部位の部材は、毛管現象により試料溶液や展開液が移動できれば特に限定されず、一般的には、ニトロセルロース膜、濾紙、ガラス繊維濾紙等の複数の多孔性物質からその目的に応じたものを選択して用い、第一試薬が固定化されたクロマトグラフ媒体と毛管で繋がるように配置することができる。
【0031】
本発明のクロマトグラフ媒体を用いた免疫測定の態様の1つとしては、被検出物質を含む試料溶液を、予め標識試薬と混合し、液相中で被検出物質−標識試薬複合体を形成した後、クロマトグラフ媒体と接触することにより行われる。試料溶液と共に又は遅れて、展開液がクロマトグラフ媒体と接触し、移動相を構成して、被検出物質−標識試薬複合体と共に移動する。複合体が、クロマトグラフ媒体の判定部位を移動する際に、固定化された第一試薬により捕捉され、標識物質が間接的に判定部位に結合することにより、標識物質を検出又は定量することができる。標識物質が不溶性担体である場合には直接、標識物質が酵素である場合には基質を作用させ反応産物について、目視又はデンシトメーター等により、その存在の確認又は定量化を行うことができる。
免疫測定のさらなる態様としては、標識試薬を、クロマトグラフ媒体における移動相の展開移動経路上、すなわち展開液が適用される端部と判定部位との間の領域に存在させて適用することもできる。クロマトグラフ媒体に存在させる場合、標識試薬が展開液に速やかに溶解して毛管作用によって自由に移動できるように、それらの試薬を支持させるのが好ましい。支持させる部位には、それらの試薬の再溶解性を良好にするため、サッカロース、マルトース、ラクトース等の糖類、マンニトール等の糖アルコールを添加して塗布したり、これらの物質を予めコーティングしたりしておくこともできる。標識試薬を塗布し乾燥することによりクロマトグラフ媒体に存在させる場合には、クロマトグラフ媒体に直接行うこともできるし、別の多孔性物質、例えばセルロース濾紙、ガラス繊維濾紙、ナイロン不織布に塗布、乾燥し標識試薬保持部材を形成した後、第一試薬が固定化されたクロマトグラフ媒体と毛管で繋がるように配置してもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、イムノクロマトグラフ法において、陰性検体を測定した際に観察されるノイズを抑制することができる一方、陽性検体を測定した際に得られるシグナルを増強することができる、良好なシグナル/ノイズ比を示すクロマトグラフ媒体を提供する。本発明のクロマトグラフ媒体を測定に用いることにより、低濃度の被検出物質の測定が可能となる一方、非特異的な吸着が抑制されるので、高感度で信頼性の高い測定データの取得が可能となる。さらに、本発明のクロマトグラフ媒体は、判定部位にのみ第四級アンモニウム塩及びブロッキング剤を有するので、試料を展開した際の展開効率にも影響を与えず、長期の保存安定性にも優れているという利点を有する。
【0033】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製
25×2.5cmのニトロセルロース膜に、抗体塗布機(BioDot社製)を用いて、0.001〜0.1重量%塩化コリン及び5重量%のイソプロピルアルコールを含む炭酸緩衝液(pH7.5)で1.5mg/mLの濃度になるように希釈した抗豚肉ポリクローナル抗体を塗布し、42℃で60分間乾燥させた後、室温で一晩乾燥させ、クロマトグラフ媒体上の判定部位を作製した。
【0035】
2.標識物質溶液の作製
金コロイド懸濁液(田中貴金属工業社製:平均粒子径60nm)0.5mLにリン酸緩衝液(pH10.0)で0.02mg/mLの濃度になるように希釈した抗豚肉ポリクローナル抗体を0.1mL加え、室温で10分間静置した。次いで、1重量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を0.1mL加え、十分撹拌した後、8000×gで15分間遠心分離を行った。上清を除去した後、1重量%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)0.1mLを加え、標識物質溶液とした。
【0036】
3.クロマトグラフ媒体の作製
上記作製した標識物質溶液をグラスファイバー製パッドに均一になるように添加した後、真空乾燥機にて乾燥させ、標識試薬保持部材とした。次いで、バッキングシートから成る基材に、上記調製したクロマトグラフ媒体、標識試薬保持部材、試料を添加する部分に用いるサンプルパッド、及び展開した試料、不溶性担体を吸収するための吸収パッドを貼り合わせた。最後に、裁断機で幅が5mmとなるように裁断し、クロマトグラフ媒体を作製した。
【0037】
4.試料の作製
豚肉あるいは豚以外の動物種に由来する肉10gに対して500mM塩化ナトリウム溶液を10mL加え、割り箸等で2分間、ホモジナイズした。次いで濾紙を用いてホモジナイズした試料を濾過し、抽出液を被検検体とした。
【0038】
5.測定
上記作製したクロマトグラフ媒体を用いて、以下の方法で試料中の豚肉に特異的な抗原の存在の有無を測定した。すなわち、0.20重量%Tween20を含む150mM塩化ナトリウム溶液からなる展開液を作製し、上記のように作製した豚肉が含まれる試料を展開液で4倍希釈したものを陽性検体、また上記作製した豚以外の動物種由来の肉が含まれる試料を展開液で4倍希釈したものを陰性検体とし、各々120μLをクロマトグラフ媒体のサンプルパッド上に載せて展開させ、20分後にデンシトメーター(浜松ホトニクス)で数値を算出し、判定した。
表1に結果を示す。
【0039】
(実施例2)
実施例1の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において、塩化コリンとともに0.01重量%BPF(Blocking Peptide Fragment, TOYOBO)を用いて以下、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例2の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において塩化コリンの代わりに0.01重量%塩化テトラエチルアンモニウムを用いて以下、実施例1と同様に測定した結果を表3に示す。
(実施例4)
実施例3の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において塩化テトラエチルアンモニウムの代わりにテトラブチルアンモニウム塩を用いても塩化テトラエチルアンモニウムと同様にS/Nの改良効果が得られる。
【0040】
(比較例1)
実施例1の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において塩化コリンを用いず以下、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において塩化コリンの代わりに0.001〜0.025重量%BPF(Blocking Peptide Fragment, TOYOBO)を用いて以下、実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において塩化コリンを用いず、5.測定において0.1重量%塩化コリンを含む展開液を用いて以下、実施例1と同様に測定した結果を表2に示す。
(比較例4)
比較例3の5.測定において更に0.1重量%BPF(Blocking Peptide Fragment, TOYOBO)含む展開液を用いて以下、比較例3と同様に測定した結果を表2に示す。
(比較例5)
比較例3の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において、0.01重量%BPF(Blocking Peptide Fragment, TOYOBO)を用いて以下、比較例3と同様に測定した結果を表2に示す。
(比較例6)
実施例3の1.クロマトグラフ媒体上への判定部位の作製において塩化テトラエチルアンモニウムの代わりに0.01重量%塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを用いて以下、実施例1と同様に測定した結果を表3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のクロマトグラフ媒体は、イムノクロマトグラフ法に用いた場合、陰性検体を測定した際に発生するノイズを効率的に抑制する一方、陽性検体を測定した際に得られるシグナルを増強することができるので、良好なシグナル/ノイズ比を示し、高感度で信頼性の高い臨床検査の実施を可能にするという、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質と特異的に結合する第一試薬が固定化された判定部位を有するクロマトグラフ媒体において、前記判定部位に第四級アンモニウム塩が付着していることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体。
【請求項2】
被検出物質と特異的に結合する第一試薬が固定化された判定部位を有するクロマトグラフ媒体において、前記判定部位に第四級アンモニウム塩及びブロッキング剤が付着していることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体。
【請求項3】
判定部位のみにブロッキング剤が付着していることを特徴とする、請求項2に記載のクロマトグラフ媒体。
【請求項4】
第四級アンモニウム塩が、次の一般式(I)
[RN] (I)
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を有してもよいアルコキシアルキル基、Xは、ハロゲンイオンを示す)
で表される化合物である、請求項1から3のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体。
【請求項5】
第四級アンモニウム塩が、ハロゲン化コリン又はハロゲン化テトラアルキルアンモニウムである、請求項4に記載のクロマトグラフ媒体。
【請求項6】
第四級アンモニウム塩に含まれるハロゲンイオンが、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである、請求項4又は5に記載のクロマトグラフ媒体。
【請求項7】
第四級アンモニウム塩が、塩化コリン又は塩化テトラエチルアンモニウムである、請求項6に記載のクロマトグラフ媒体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体を含有してなる、イムノクロマトグラフ法のための測定キット。
【請求項9】
さらに、被検出物質と特異的に結合する第二試薬及び標識物質からなる標識試薬を含有することを特徴とする、請求項8に記載の測定キット。
【請求項10】
請求項1から7のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体を用いることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法による測定方法。
【請求項11】
さらに、被検出物質と特異的に結合する第二試薬及び標識物質からなる標識試薬を用いることを特徴とする、請求項10に記載の測定方法。
【請求項12】
第四級アンモニウム塩を含有する溶液に、被検出物質と特異的に結合する第一試薬を混合し、前記混合液をクロマトグラフ媒体に塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項13】
第四級アンモニウム塩を含有する溶液に、被検出物質と特異的に結合する第一試薬及びブロッキング剤を混合し、前記混合液をクロマトグラフ媒体に塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項14】
被検出物質と特異的に結合する第一試薬を固定化し、前記固定化部位に第四級アンモニウム塩を含有する溶液を塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項15】
被検出物質と特異的に結合する第一試薬を固定化し、前記固定化部位に第四級アンモニウム塩及びブロッキング剤を含有する混合液をクロマトグラフ媒体に塗布することにより判定部位を形成させることを特徴とする、イムノクロマトグラフ法のためのクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項16】
第四級アンモニウム塩が、次の一般式(I)
[RN] (I)
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を有してもよいアルコキシアルキル基、Xは、ハロゲンイオンを示す)
で表される化合物である、請求項12から15のいずれかに記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項17】
第四級アンモニウム塩が、ハロゲン化コリン又はハロゲン化テトラアルキルアンモニウムである、請求項16に記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項18】
第四級アンモニウム塩に含まれるハロゲンイオンが、塩素イオン、臭素イオン又はヨウ素イオンである、請求項16又は17に記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。
【請求項19】
第四級アンモニウム塩が、塩化コリン又は塩化テトラエチルアンモニウムである、請求項18に記載のクロマトグラフ媒体の製造方法。

【公開番号】特開2010−156576(P2010−156576A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334012(P2008−334012)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【特許番号】特許第4382866号(P4382866)
【特許公報発行日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000217228)TANAKAホールディングス株式会社 (146)