説明

クロマト分析法及びクロマト分析キット

【課題】 高感度な分析が可能で、センシングのバラツキを抑制して定量性も向上することが可能なクロマト分析法及びクロマト分析キットを提供する。
【解決手段】 所定の位置に被検物質5と反応する反応物質(例えば捕捉抗体4等の生体材料)が固定され、被検物質5を含む被験溶液6を展開し、反応物質との反応(例えば捕捉抗体4との抗原抗体反応)により被検物質5を結合し検出するクロマト分析法である。被検物質5を含む被験溶液6を展開する前に、予めクロマトストリップ(例えばメンブレン2)を湿潤溶液により湿潤させておく。さらに、メンブレン2に接続された吸収パッド3を加熱ヒータ10により加熱してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマト分析法及びクロマト分析キットに関するものであり、特に、定量性の向上及び高感度化のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマト分析法は、標識物質や被検物質と特異的な結合が可能な抗体(または抗原)を濾紙片(メンブレン)の所定の位置に固定した後、当該濾紙片の一端から試験溶液を吸収させ、毛細管現象を利用して試験溶液を展開するとともに、標識物質と被検物質の複合体を前記抗体(または抗原)が固定化された位置に集合、発色させることにより、試験溶液中の被検物質の有無を確認する技術である。
【0003】
前述のイムノクロマト分析法は、その特異性と簡便さ、製造コストの低さ、分析所要時間の短さ等、多くの有用性から、例えばインフルエンザ検査、HCV検査、妊娠検査、アレルギー検査、食中毒検査等、医療検査の分野を中心に広く用いられており、一般ユーザにも利用可能な形態で検査キットが提供される等、その用途は拡大しつつある。
【0004】
イムノクロマト分析法(例えばサンドイッチ法を利用したイムノクロマト分析法)の一般的な手順について説明すると、イムノクロマト分析法では、先ず、被検物質の異なる部位を認識する2種類の抗体とストリップ状のメンブレン(クロマトストリップ)とを用意し、一方の抗体(捕捉抗体)はメンブレンのテストラインと呼ばれる領域に予め固相化しておき、他方の抗体は例えば金コロイド粒子で標識して金コロイド標識抗体とする。そして、試験溶液を金コロイド標識抗体と混合した後、ストリップの一端から吸収させ、展開する。試験溶液中に被検物質が含まれる場合、被検物質と金コロイド標識抗体とが反応して被検物質−金コロイド標識抗体複合体が形成され、この複合体がテストライン上を通過する際に捕捉抗体に捕捉され、捕捉抗体−被検物質−金コロイド標識抗体複合体が形成される。その結果、前記テストラインにおいて、金コロイド標識抗体の赤色の呈色が観察される。この赤色の呈色の有無により、被検物質の有無を判定することができる。
【0005】
前述のイムノクロマト分析法においては、高感度化や検出精度の向上が課題となっており、その改善が検討されている。例えば、特許文献1には、サンドイッチイムノクロマトグラフィー法、あるいは競合的イムノクロマトグラフィー法において、被検物質と標識物質とを含む溶液の多孔性担体上における水平方向の展開速度を遅くすることで、高感度化を図ることが開示されている。特許文献1記載の発明では、メンブレンの細孔径や、イムノクロマトストリップの最下流に組み込まれる吸収材の吸収力によって、前記展開速度を調節し、標識粒子の流速を制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−197038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えばメンブレンの細孔径を制御することは難しく、十分な流速制御を行おうとすると、前記細孔径を極端に小さくする必要が生じ、メンブレンの製造が困難になったり、製造コストの大幅な上昇を招く等の問題が生ずるおそれがある。一方、吸収材の吸収力の違いを利用して流速制御を行う方法では、被検物質と標識物質とを含む溶液が吸収材に到達するまで流速の制御ができず、また、その役割を考えても明らかなように、展開速度を遅くする方向に機能させることは難しい。一般に、メンブレンと吸収材とからなるハーフストリップタイプのバイオセンサにおける被検溶液の展開は、先ず、メンブレンの毛細管引力によりメンブレンに被検溶液が浸透していき、吸収材に被検溶液が到達した後、吸収材の毛細管引力により吸収材にも被検溶液が浸透する。この時、メンブレンでの被検溶液の展開速度と吸収材での被検溶液の展開速度が異なり、メンブレンの方が速くなる。
【0008】
さらに、前述の特許文献1に記載される技術では、展開速度を遅くすることはできても、検出(センシング)のバラツキを解消することは難しい。イムノクロマト分析法では、被検溶液をメンブレンに展開、泳動させるのに毛細管現象を利用しているが、被検溶液の展開速度は、メンブレンの細孔径の他、メンブレンの表面状態、製造条件(メンブレンは長尺状に製造されるが、例えばロールに巻き取った際に内側と外側では加わる圧力等が異なり、メンブレンに切断した際に状態が異なる。)、保存状態等によっても影響を受け、展開速度がメンブレン毎に異なり、発色度合い等にバラツキが生ずるおそれがある。また、前記展開速度は、周囲の湿度によっても影響を受け、現状の一般的な使用法では、分析の際に湿度コントロールを行うことが困難であることから、やはり発色度合い等にバラツキが生ずるおそれがある。
【0009】
前述の発色度合い等のバラツキは、精度の高い検査を行う上で大きな障害となる他、厳密な定量性を持たせることが難しく、これによってイムノクロマト分析法の応用範囲が制限されている部分も多い。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、特殊なメンブレン等を使用することなく高感度な分析が可能で、しかもセンシングのバラツキを抑制して定量性も向上することも可能なクロマト分析法及びクロマト分析キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明のクロマト分析法は、所定の位置に被検物質と反応する反応物質が固定され、被検物質を含む被験溶液を展開し、前記反応物質との反応により前記被検物質を結合し検出するクロマト分析法であって、前記被検物質を含む被験溶液を展開する前に、予めクロマトストリップを湿潤溶液で湿潤させておくことを特徴とする。例えばイムノクロマト分析法の場合、所定の位置に生体材料が固定化されたクロマトストリップに対し、被検物質を含む被験溶液を展開し、前記生体材料との抗原抗体反応により前記被検物質を捕捉するイムノクロマト分析法であって、前記被検物質を含む被験溶液を展開する前に、予めクロマトストリップを湿潤させておくことを特徴とする。また、本発明のクロマト分析キットは、所定の位置に反応物質(例えば生体材料)が固定されたクロマトストリップを備え、前記反応物質との反応(例えば生体材料との抗原抗体反応)により前記被検物質を結合し検出するクロマト分析キットであって、前記クロマトストリップが湿潤した状態に維持されていることを特徴とする。
【0012】
例えばイムノクロマト分析に用いられるクロマトストリップ(メンブレン等)は、毛細管現象により被検溶液を展開するが、これを予め湿潤させた状態とすると、展開速度(被検溶液の流速)が低下する。被検溶液の流速が速いと、抗原抗体反応が不十分となり、捕捉されずに流出する被検物質の割合が多くなって、感度の低下を招く。被検溶液の流速が低下すれば、前記抗原抗体反応が十分に行われ、捕捉される被検物質の割合が増加して、高感度化が図られる。本発明では、特殊なメンブレン等を使用しなくとも、前記湿潤により展開速度を遅くすることができ、高感度化が実現される。また、クロマトストリップを予め湿潤させておくことで、乾燥したクロマトストリップに例えば標識抗体溶液を展開させるときに起こるクロマトストリップ(メンブレン)と標識物質の非特異的な吸着が抑制される。
【0013】
さらに、クロマトストリップを予め湿潤させておくことで、例えばメンブレンの状態等による影響を受け難くなり、周囲の湿度にも影響され難くなる。その結果、発色度合い等、検出結果におけるバラツキが解消される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、クロマトストリップに特殊なメンブレンや吸収材を使用することなくイムノクロマト分析等のクロマト分析を高感度化することが可能であり、製造コストを上昇することなく、極めて簡便に前記高感度化及び検出精度の向上を実現することが可能である。また、本発明によれば、検出結果(発色の度合い等)のバラツキも抑制することができるので、定量性を向上することも可能である。したがって、本発明によれば、イムノクロマト分析の応用範囲を拡大することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】イムノクロマトアッセイを行うためのバイオセンサの構成例を示す図である。
【図2】イムノクロマトアッセイの手順の一例を示す図であり、(a)は捕捉抗体の固相化工程、(b)は被検溶液の展開工程、(c)は標識溶液の展開工程をそれぞれ示す。
【図3】メンブレンを湿潤するための手法の一例を示す図である。
【図4】ヒータの設置状態を示す図である。
【図5】通常測定と湿潤後測定における感度(吸光度)の相違を示す特性図である。
【図6】湿潤溶液の種類による感度の相違を示す特性図である。
【図7】湿潤溶液に含まれる界面活性剤の濃度による感度の相違を示す特性図である。
【図8】吸収パッドの加熱温度と展開時間の関係を示す特性図である。
【図9】メンブレンの種類が相違する場合における吸収パッドの加熱温度と展開時間の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用したクロマト分析法及びクロマト分析キットについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本実施形態において、クロマト分析法(ここではイムノクロマト分析法)に用いられるバイオセンサは、例えば図1に示すような構成を有するものである。図1に示すバイオセンサ1は、クロマトストリップであるメンブレン2と吸収パッド3とから構成されるものであり、メンブレン2の展開溶液(被検溶液等)の流出端側に吸収パッド3が一部重なるように設置されている。図1に示すバイオセンサは、いわゆるラテラルフロー型のバイオセンサであり、メンブレン2の一端(図中、左側の端部)から被験溶液を吸収させ、毛細管現象を利用してこれを展開する。クロマトストリップは、前記メンブレン(多孔質シート)に限らず、濾紙等、この種のバイオセンサに使用可能なものがいずれも使用可能である。
【0018】
前記構成のバイオセンサ1を用いたイムノクロマト分析の検出原理を、いわゆるサンドイッチ法によるイムノクロマトアッセイを例にして説明すると、サンドイッチ法によるイムノクロマトアッセイにおいては、被検物質(例えば抗原)上の異なる部位をそれぞれ認識する2種類の抗体を用いる。図2(a)に示すように、2種類の抗体のうち一方の抗体(捕捉抗体)(生体材料に該当)4は、バイオセンサ1のメンブレン2の所定位置に固相化する。他方の抗体は、メンブレン2には固相化せず、標識物質で標識して標識抗体とする。なお、前記捕捉抗体や標識される抗体は、例えばモノクロナール抗体、ポリクロナール抗体のいずれであってもよく、さらには必ずしも抗体でなくてもよく、被検物質に応じて、当該被検物質と直接的、あるいは間接的に結合する特定反応物質を用いればよい。例えば、被検物質が抗体である場合には、バイオセンサ1のメンブレン2には生物材料として抗原を固相化すればよい。
【0019】
試験溶液中の被検物質を検出するには、例えば先ず、図2(b)に示すように、被検物質5を含む被検溶液6にメンブレン2の先端部分を浸し、メンブレン2に展開する。この展開に伴って被検物質5も泳動し、前記固相化された捕捉抗体4との抗原抗体反応によって捕捉される。
【0020】
前記被検溶液6の展開の後、図2(c)に示すように、標識抗体7を含んだ標識溶液8にメンブレン2の先端部分を浸し、これをメンブレン2に展開する。この展開に伴って標識抗体7が泳動し、捕捉された被検物質6と抗原抗体反応により結合する。その結果、メンブレン2に固相化された捕捉抗体4と標識抗体7とがサンドイッチ状に被検物質5に対して結合し、結果として捕捉された被検物質5の量に応じた量の標識抗体7が判定部(捕捉抗体4が固相化された部分)に集積される。
【0021】
なお、予め被検物質5と標識抗体7とを抗原抗体反応により結合させて複合体とし、これを含む被検溶液をメンブレン2によって展開するようにしてもよい。この場合、展開が一度で済むというメリットがある。
【0022】
前述の標識抗体7の判定部への集積により、例えば標識物質が金コロイドの場合、赤色の呈色として観察され、被検物質の有無、あるいは濃度等を把握することができる。なお、標識物質としては、前記金コロイドに限らず、各種発色物質や発光物質を用いることができる。ただし、迅速且つ簡便な検出を可能とするには、肉眼で検出可能な発色又は発光を示す発色物質又は発光物質を標識物質として用いることが好ましく、特に発色物質を用いることが好ましい。
【0023】
具体的には、発色物質として、コロイド金属粒子、ラテックス粒子、有機高分子粒子、無機粒子、金属微粒子、発色剤を包含したリポソーム等の発色粒子を挙げることができる。コロイド金属粒子としては、例えば前述の金コロイド粒子等が例示される。ラテックス粒子としては、ポリスチレン、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体等が例示される。有機高分子粒子としては、不溶性アガロース、セルロース、不溶性デキストラン等が例示される。無機粒子としては、シリカ、アルミナ等が例示される。金属微粒子としては、金、チタン、鉄、ニッケル、銀等が例示される。これら発色物質の中でも、汎用性の高い金コロイド粒子、ラテックス粒子、銀粒子等を用いることが好ましく、特に、明瞭な発色が得られるため金コロイド粒子が好ましい。
【0024】
前記イムノクロマトアッセイでは、生体物質、合成物質等あらゆる物質を被検物質5とすることができる。被検物質5を含む試験溶液としても、例えば血液、血清、尿等の生体由来の溶液、自然環境から採取した水や土壌等を含む溶液、これらを用いて調製して得た溶液等、任意のものを用いることができる。
【0025】
以上のようなイムノクロマトアッセイにおいては、通常、バイオセンサ1のメンブレン2は乾燥状態で使用される。しかしながら、メンブレン2が乾燥状態(積極的に湿潤させた状態ではなく、通常レベルの水分しか含まない状態を言う。)であると、被検溶液を展開する際に展開速度(流速)が速くなり、被検物質5と捕捉抗体4との反応が不十分になって、捕捉されずに流出する被検物質5の割合が多くなる。また、メンブレン2が乾燥した状態であると、メンブレン2の製造条件、保存状態、さらには周囲の湿度等の影響を受けて展開速度(流速)が変動する可能性もある。これらがイムノクロマトアッセイにおける感度低下や測定結果のバラツキ等の原因となり、例えば定量分析等が難しいのが実情である。
【0026】
そこで、本発明においては、前記バイオセンサ1のメンブレン2を予め湿潤させた状態としておき、展開速度(流速)を遅くするとともに、前述の展開速度の変動要因を回避することで、高感度化を図るとともに、測定結果のバラツキを抑制し定量性を向上することとする。メンブレン2を予め湿潤させておけば、特殊なメンブレンを使用しなくても被検溶液を展開する際に展開速度(流速)が遅くなり、被検物質5と捕捉抗体4の抗原抗体反応が十分に進行する。また、メンブレン2が湿潤した状態であると、外部環境(湿度)や他の変動要因の影響を受け難くなり、高精度な分析が可能となる。
【0027】
バイオセンサ1のメンブレン2を予め湿潤させておくためには、例えば、図3に示すように、被検溶液の展開の前に、湿潤溶液9にメンブレン2の先端部分を浸し、これをメンブレン2に展開すればよい。これにより、メンブレン2が湿潤溶液を含んだ状態(湿潤状態)となる。この際、メンブレン2の捕捉抗体4の固相化位置まで湿潤溶液9が到達していることが好ましく、湿潤溶液9がメンブレン2の吸収パッド3との境界位置(図3中、矢印xで示す位置)に到達する程度まで展開を進めることがより好ましい。例えば、湿潤溶液9が吸収パッド3にも吸収され、極端な場合、吸収パッド3が湿潤溶液9で飽和されてしまうと、展開速度が極端に遅くなり、分析に長時間を要することになる。したがって、ある程度の高感度化を図りながら分析時間を比較的短くするためには、湿潤溶液9が吸収パッド3まで到達しないように湿潤溶液9の展開を前記境界位置までとすることが好ましく、逆に、分析に時間を要してもできる限り高感度化を図る場合には、湿潤溶液9が吸収パッド3に到達し、ある程度吸収パッド3が湿潤溶液9を含む状態となるまで予め湿潤溶液9を展開させておくことが好ましい。
【0028】
また、メンブレン2を湿潤溶液に浸漬し、湿潤させることも可能である。この場合には、例えばメンブレン2よりもサイズの大きな容器内に湿潤溶液を入れ、ここにメンブレン2を浸すだけでよい。
【0029】
前述のように、湿潤溶液に浸漬することでメンブレン2を湿潤させたバイオセンサ1は、例えば樹脂製の外装材等を用いて真空パックすることにより、長期に亘りメンブレン2の湿潤状態を維持することができる。したがって、この状態でイムノクロマト分析キットとして提供することで、メンブレン2を予め湿潤状態とした展開を直ちに簡便に行うことができる。
【0030】
なお、この場合、前記構成のバイオセンサ1では、メンブレン2に吸収パッド3が接続されており、吸収パッド3が乾燥状態であると、保存中にメンブレン2に含まれる溶液が吸収パッド3に移行してしまうおそれがある。したがって、前記イムノクロマト分析キットとして提供する場合には、吸収パッド3についても、メンブレン2と同程度に湿潤させておくことが好ましい。ただし、前述の通り、吸収パッド3が湿潤溶液9で飽和されてしまうと、展開速度が極端に遅くなり、分析に時間を要することになることから、感度と分析時間を考慮して湿潤させる溶液量を適正に設定することが好ましい。
【0031】
あるいは、メンブレン2を湿潤させていないバイオセンサ1と、クロマトストリップであるメンブレン2を湿潤した状態にするための湿潤液(例えば洗浄液)を入れた容器とをセットにしてイムノクロマト分析キットとして提供し、被検物質を含む被験溶液を展開する前に、使用者が前記湿潤液を前記メンブレン2に展開させるようにすることも可能である。
【0032】
前記イムノクロマト分析法及びイムノクロマト分析キットにおいては、被検溶液の展開前にメンブレン2が積極的に湿潤されていることが特徴である。具体的には、予めメンブレン2に毛管現象により溶液が吸い上げられない程度に十分な量の溶液を浸潤させることが好ましい。これにより、被検溶液の展開速度を十分に制御することができ、検出結果におけるバラツキも抑えることが可能になる。
【0033】
前述の湿潤溶液には、水(純水)や緩衝液等、任意の溶液を使用することが可能であるが、界面活性剤を添加することで、より一層の感度向上を実現することが可能である。界面活性剤の添加量としては、0.05質量%〜0.1質量%とすることが好ましく、この範囲で高感度化の効果が大きい。
【0034】
前述のイムノクロマトアッセイにおいては、展開速度のより厳密な調整のために、メンブレン2と吸収パッド3を湿潤液で浸潤させた状態において、図4に示すように、吸収パッド3をヒータ10で加熱しながら被検溶液等の展開を行うことも可能である。バイオセンサ1のメンブレン2を予め湿潤させておくことで展開速度を遅くすることが可能であるが、例えば周囲の湿度が大きく異なると、展開速度が若干異なる可能性がある。例えば異なる日時や状況、環境下での測定結果を定量的に比較するような場合、湿度の相違に起因して展開速度が異なると、反応時間(すなわち感度)にばらつきが生じ、正確な比較ができなくなるおそれがある。このような場合には、吸収パッド3をヒータ10で加熱すると、展開速度(流速)をコントロールすることが可能であり、例えば湿度をモニタリング(あるいはコントロール)しながら吸収パッド3を適正な温度で加熱することで、展開速度を任意の速度で一定にすることが可能になる。あるいは、周囲の湿度をコントロールしながら被検溶液等の展開を行うことも可能である。この場合には、吸収パッド3を加熱しなくても展開速度を一定にすることが可能である。
【0035】
前述の構成を有するイムノクロマト分析法、イムノクロマト分析キットにおいては、展開速度(流速)の低下による高感度化を実現することが可能であり、メンブレンの状態や周囲の湿度等に影響されることなく、発色度合い等において、バラツキのない検出を実現することが可能である。
【0036】
なお、本発明が以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、固相化する生体材料は、捕捉抗体や抗原に限られるものではなく、イムノクロマトアッセイの種類に応じて任意の生体材料に適用可能である。例えば、固相化する生体材料として、抗体や抗原の他、酵素、基質、助酵素、ホルモン、レセプター、核酸、オルガネラ、細胞、組織等を挙げることができ、固相化する生体材料と被検物質の組み合わせとして、例えば核酸−核酸(DNA−DNA、DNA−RNA、RNA−RNA)、核酸−核酸結合タンパク質、レクチン−糖鎖、レセプター−リガンド、酵素−基質、助酵素−酵素、ホルモン−レセプター等(これら組み合わせにおいては、いずれが固相化する生体材料であってもよい。)を挙げることができる。
【0037】
また、適用されるイムノクロマトアッセイも、前記サンドイッチ法に限定されるものではなく、競合法によるイムノクロマトアッセイ等、公知のイムノクロマトアッセイ全般に適用可能であり、これらイムノクロマトアッセイに本発明を適用することで、所定の効果を得ることが可能である。さらに、本発明は、イムノクロマト分析に限らず、クロマトストリップに固定された反応物質との反応により被検物質を結合させて検出を行うクロマト分析法、クロマト分析キットにも適用可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施例について、実験結果に基づいて詳細に説明する。
【0039】
メンブレンの浸潤による感度向上
図2に示す手順でイムノクロマトアッセイを行った。被検溶液及び標識溶液は下記の通りである。
被検溶液:hCG抗原溶液(抗原濃度10ng/ml)5μl
標識溶液:金コロイド標識抗hCG抗体溶液(4.2abs)5μl
【0040】
通常測定では、バイオセンサ1のメンブレン2に対して、そのまま被検溶液及び標識溶液の展開(hCGアッセイ)を行った。湿潤後測定では、図3に示すような手法により、予めメンブレン2が湿潤溶液で完全に濡れるまで浸して処理を行い、その後、通常測定と同様の展開(hCGアッセイ)を行った。メンブレン2が湿潤溶液で完全に濡れるまでの時間は、メンブレン2の種類や状態にもよるが、概ね1分間程度である。また、湿潤溶液には、界面活性剤(商品名Tween20)0.1質量%及びウシ血清アルブミン(BSA)0.1質量%を含むリン酸緩衝液を用いた。結果を図5及び表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
図5及び表1から明らかなように、メンブレン2を湿潤させておくことで、感度(吸光度)が大幅に上昇している。具体的には、吸光度の値で200以上の上昇が見られる。また、ばらつきも改善されている。
【0043】
湿潤溶液の組成による相違
湿潤溶液として下記の溶液(4種類)を用い、それぞれについて湿潤後測定を行い、その効果を調べた。
溶液A:超純水
溶液B:50mM・KHPO溶液
溶液C:50mM・KHPO溶液に界面活性剤(商品名Tween20)を0.5質量%添加した溶液
溶液D:50mM・KHPO溶液にウシ血清アルブミン(BSA)0.1質量%を添加した溶液
【0044】
結果を図6に示す。界面活性剤を添加した溶液Cにおいて、他の溶液に比べて顕著な感度向上が見られる。
【0045】
界面活性剤の濃度による相違
前記実験により、界面活性剤が感度の改善に大きく影響していることがわかったので、その最適濃度について検討した。すなわち、界面活性剤の濃度を0〜2質量%の範囲で変動させた湿潤溶液を作製し、それぞれの湿潤溶液で前処理を行った後、被検溶液及び標識溶液の展開(hCGアッセイ)を行った。結果を図7に示す。
【0046】
本実験では、界面活性剤の濃度が0.05質量%〜0.1質量%の範囲において、高感度化の効果が高いことが確認された。
【0047】
加熱温度と展開に要する時間の関係
図4に示すように、吸収パッド3の一部に接するように加熱ヒータ10を設置した。吸収パッド3の長さは20mmであり、加熱ヒータ10により吸収パッド3の端から5mmの領域を加熱するようにした。メンブレン2及び吸収パッド3に湿潤溶液を染み込ませておき、20μlの被検溶液(超純水)をメンブレン2に導入し、超純水が完全に展開してしまうまでの時間を測定した。結果を図8に示す。
【0048】
図8から明らかなように、吸収パッド3の一部を加熱することで、展開速度(流速)をコントロールすることが可能であることがわかった。メンブレン2では、周囲の湿度によって展開速度が大きく異なってくる。これによる測定のバラツキは、従来技術では防ぐことができなかったが、今回の実験より、例えば湿度をモニタリングしながら吸収パッド3を加熱することによって、あるいは逆に周囲の湿度をコントロールすることにより、さらには周囲の湿度をコントロールしながら必要に応じて吸収パッド3を加熱することによって、展開速度を均一にコントロールすることが可能であることが示された。
【0049】
メンブレンの種類の影響
イムノクロマトアッセイにおいては、メンブレンの状態が変わると展開時間等が変動するおそれがある。そこで、仕様の異なる2種類のメンブレンを用いて、湿潤後測定を行った。使用したメンブレンは、メンブレン75(ミリポア社、HiFlowPlus75)とメンブレン135(ミリポア社、HiFlowPlus135)の2種類である。
【0050】
先ず、常温(23.6℃)で湿潤後測定を行った結果を表2に示す。この表2からは、湿潤後測定を行うことで、メンブレンの種類(状態)が変わっても同等の展開時間(すなわち展開速度)となることが確認された。
【0051】
【表2】

【0052】
次に、これら種類の異なるメンブレンを用いた湿潤後測定において、吸収パッドを加熱してその効果を調べた。結果を図9に示す。ヒータ加熱することで、展開速度を速くすることが可能であり、また、その時に展開速度はメンブレンの種類によってほとんど変わっていない。
【0053】
実際の測定においては、メンブレンの状態を把握することは難しい。本実験により、湿潤後測定とすることで、メンブレンの種類によらず同等の展開速度が得られ、また、加熱することで同じように展開速度をコントロールすることが可能であることがわかったので、本発明の方法でイムノクロマトアッセイを実施することで、メンブレンの状態によらずバラツキの少ない測定が可能になるものと考えられる。
【符号の説明】
【0054】
1 バイオセンサ、2 メンブレン、3 吸収パッド、4 捕捉抗体、5 被検物質、6 被検溶液、7 標識抗体、8 標識溶液、9 湿潤溶液、10 加熱ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の位置に被検物質と反応する反応物質が固定され、被検物質を含む被験溶液を展開し、前記反応物質との反応により前記被検物質を結合し検出するクロマト分析法であって、
前記被検物質を含む被験溶液を展開する前に、予めクロマトストリップを湿潤溶液で湿潤させておくことを特徴とするクロマト分析法。
【請求項2】
前記反応物質が生体材料であり、被検物質を含む被験溶液を展開した時に、前記生体材料との抗原抗体反応により前記被検物質を捕捉することでイムノクロマト分析が行われることを特徴とする請求項1記載のクロマト分析法。
【請求項3】
前記クロマトストリップの被検溶液の流出端側に吸収パッドを設置し、前記クロマトストリップのみを湿潤溶液で湿潤させておくことを特徴とする請求項1または2記載のクロマト分析法。
【請求項4】
前記クロマトストリップの被検溶液の流出端側に吸収パッドを設置し、前記クロマトストリップ及び吸収パッドを湿潤溶液で湿潤させておくことを特徴とする請求項1または2記載のクロマト分析法。
【請求項5】
前記吸収パッドの少なくとも一部を加熱することを特徴とする請求項4記載のクロマト分析法。
【請求項6】
周囲の湿度をコントロールしながら被検溶液の展開を行うことを特徴とする請求項4または5記載のクロマト分析法。
【請求項7】
前記湿潤溶液は、界面活性剤を含有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のクロマト分析法。
【請求項8】
前記界面活性剤の含有量が0.05質量%〜0.1質量%であることを特徴とする請求項7記載のクロマト分析法。
【請求項9】
所定の位置に反応物質が固定されたクロマトストリップを備え、前記反応物質との反応により前記被検物質を結合し検出するクロマト分析キットであって、前記クロマトストリップを湿潤した状態にするための湿潤液を具備し、前記被検物質を含む被験溶液を展開する前に、前記湿潤液を前記クロマトストリップに展開させることを特徴とするクロマト分析キット。
【請求項10】
所定の位置に反応物質が固定されたクロマトストリップを備え、前記反応物質との反応により前記被検物質を結合し検出するクロマト分析キットであって、
前記クロマトストリップが湿潤した状態に維持されていることを特徴とするクロマト分析キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−164535(P2010−164535A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9246(P2009−9246)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)