説明

クロロシランの蒸留による精製方法

【課題】汚染されたクロロシランをわずかなコストで精製しかつその場合に存在する不純物をできる限り少量の搬出量に濃縮し、搬出すること
【解決手段】TCS、DCS及びSTCを含むクロロシランからなるホウ素含有混合物を準備する工程、及び複数の蒸留塔中でクロロシランからなる前記混合物を蒸留により精製する工程を有し、低沸点のホウ素化合物を、ホウ素濃度が高められたDCSを含む塔頂流によって前記蒸留塔から分流し、及び高沸点のホウ素化合物を、高沸点物を含むホウ素濃度が高められた塔底流によって前記蒸留塔から分流する、クロロシランを蒸留により精製する方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロシランの蒸留による製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば光起電力又は半導体工業において使用される多結晶シリコンの製造は、原料のトリクロロシラン(TCS)から出発する。
【0003】
このTCSは、主に3つの異なる方法によって製造される。
【0004】
A) Si + 3HCl → SiHCl3 + H2 +副生成物
B) Si + 3SiCl4 +2H2 → 4SiHCl3 + 副生成物
C) SiCl4 + H2 → SiHCl3 + HCl + 副生成物
これらのプロセスの場合に、他の副生成物又は不純物の他に、大量のジクロロシラン(DCS)が生じる。
【0005】
(A)による冶金学的シリコンの塩化水素処理の場合には、反応生成物中に約0.1〜1.0%のDCSが含まれていることは公知である。
【0006】
(B)による冶金学的シリコンと四塩化ケイ素(STC)及び水素との反応は、特に、このプロセスのための触媒として銅を使用する場合に、原則として、反応生成物中に高いDCS含有量を生じさせる。
【0007】
(C)によるSTCの水素化の場合でも、反応生成物中に0.05〜1.0%のDCSが見られる。
【0008】
DCSはそれ自体、半導体工業においてシリコンの堆積のためにも、有機官能性シランの製造のためにも使用することができる有用な生成物である。
【0009】
ただし、このことは、極めて高い純度を前提としている。例えば、半導体に適用するために、<10pptaのホウ素の濃度であるのが好ましい。
【0010】
他の例として、ヒドロシリル化が挙げられる。ヒドロシリル化の場合には、ヒドロシランの誘導体を、ビニル基又は他の多重結合への触媒を用いた付加反応により反応させる。典型的な触媒は、貴金属の白金の錯体である。この場合、<1ppbwのホウ素濃度が好ましい、それというのもホウ素が触媒毒として作用するためである。
【0011】
上記のプロセスA〜Cから得られるDCSは、特にホウ素含有量が高すぎるため、これらの適用のためには不適当である。
【0012】
ホウ素は、主に8.3℃の沸点を有するBCl3として存在し、かつDCS(沸点12.5℃)に近い沸点を有するため、ホウ素は、後続する蒸留においてほぼ完全にDCS生成物流中で濃縮される。
【0013】
沸点において30K足らずの差異があるにもかかわらず、特にTCS中で<0.1ppmのホウ素含有量を達成したい場合に、TCSからBCl3の蒸留による分離は完全には成功していない。
【0014】
先行技術において、冶金学的シリコンの塩化水素処理の場合に生じるBCl3の量は、大量のトリクロロシランと一緒にこの系から搬出される。このことは、例えば、"Handbook of Semiconductor Silicon Technology", William C. O'Mara, Robert B. Herring及びLee P. Hunt著, Noyes Publications, USA 1990, 第4頁、図2に記載されている。
【0015】
極めて近い沸点であるため、BCl3と一緒にDCSもこの系から搬出され、このことは全体のプラントの低い経済性を生じさせる。
【0016】
TCSからホウ素不純物を分離するために、主に4つの異なるアプローチが公知である。
【0017】
単なる蒸留による方法も、加水分解工程を含む方法、錯化工程を含む方法又は吸着工程を含む方法も記載されている。
【0018】
DE 10 2007 014 107 A1には、ホウ素含有シラン混合物から、ホウ素濃度が高められた留出物流を蒸留により分離することにより、ホウ素濃度が低減されたクロロシランを獲得する方法において、1つ以上の蒸留塔の配置において少なくとも1つの蒸留塔で、ホウ素濃度が高められた側流を分流させ、廃棄するか又はその他の使用に供給することが記載されている。多様な塔の接続によりかつその都度の塔の塔頂からの取り出し又は塔底からの取り出しにより、この場合、部分流中で純粋なDCS中のホウ素含有量を約50ppmにまで低減することができる。ただし、ホウ素は、DCS及びTCSを含有する他の部分流中に更に著しく濃縮される。他の欠点は、かなりの量のTCSを廃棄物として失うことにある。
【0019】
DE 10 2008 002 537 A1は、少なくとも1種のケイ素ハロゲン化物を有する組成物I中のホウ素の含有量を低減する方法において、第1の工程でこの組成物Iを、この組成物I1キログラム当たり600mgまでの水分と接触させ、場合によりこの第1の工程で水分と接触された組成物Iを少なくとも1回完全に又は部分的に加水分解されたホウ素及び/又はケイ素を含有する化合物の分離のための部分工程に供給し、前精製された組成物IIを得て、この前精製された組成物IIを完全に又は部分的に新たにこの方法の第1の工程又は第2の工程に供給し、その際、留出物としてホウ素含有量が低減された前精製された組成物IIを得ながら、第2の工程において加水分解されたホウ素及び/又はケイ素を含有する化合物を蒸留により分離する。
【0020】
クロロシラン中のホウ素含有量は、つまり、例えば水を適切な形で添加することにより低減することができる。ホウ素ハロゲン化物を水と反応させることにより、この場合、クロロシランから容易に蒸留により分離することができるより高い沸点の加水分解物が生じる。この方法は、生じるホウ素加水分解物及びクロロシラン加水分解物を分離するために、付加的な搬出流を必要とする(例えば使用生成物に対して搬出量>5%)。装置部分へのケイ酸の沈着及びこの場合に生成されるHClによる腐食も問題である。この腐食は、装置の鋼からのP及びAsのような不純物の放出を生じさせる。
【0021】
EP 2 036 858 A2では、ホウ素含有及びリン含有のクロロシランを錯生成剤のベンズアルデヒド及び酸素と接触させる方法が請求されている。酸化及び錯生成により、クロロシラン中に含まれるホウ素化合物は容易に分離することができる。ただし、この出願の実施例6に記載されているように、この場合に、ホウ素錯体を一緒に搬出しなければならない約10%の残留物が生じる。比較的ゆっくりとした反応(30分)に基づき、この方法は、連続的運転方法には適していない。更に、撹拌槽による装置的なコストが高まり、かつ目的生成物中へ有機不純物が混入される可能性が高い。
【0022】
DE 10 2008 054 537には、少なくとも1種のケイ素化合物及び少なくとも1種の異種金属及び/又は異種金属を含む化合物を含有する組成物の処理方法において、この組成物を第1の工程で、少なくとも1種の吸着剤及び/又は少なくとも1種の第1のフィルターと接触させ、かつ場合により更なる工程で少なくとも1種のフィルターと接触させ、上記異種金属及び/又は上記異種金属を含む化合物の含有量が低減された組成物を得る、組成物の処理方法が記載されている。
【0023】
この場合、クロロシラン中のホウ素含有量は、水不含の吸着剤との接触により低減される。ただし、所望の精製目標を達成するために、極めて大量の吸着剤(120g/250ml TCS)を必要とする。このことがこの方法を不経済にし、特に連続的プロセスがほとんど不可能であり、半導体品質のクロロシランの製造の際に経済的に不利である。吸着剤の使用は、更に、他の装置的コスト(フィルターなど)を必要とし、半導体純度の生成物中へ他の不純物を混入させる危険をはらんでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】DE 10 2007 014 107 A1
【特許文献2】DE 10 2008 002 537 A1
【特許文献3】EP 2 036 858 A2
【特許文献4】DE 10 2008 054 537
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】"Handbook of Semiconductor Silicon Technology", William C. O'Mara, Robert B. Herring及びLee P. Hunt著, Noyes Publications, USA 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
記載された問題から、本発明の課題は、汚染されたクロロシランをわずかなコストで精製しかつその場合に存在する不純物をできる限り少量の搬出量に濃縮し、搬出することである。今日の経済的基準で、TCSの収率は、明らかに95%を越えなければならない。
【0027】
付加的な装置コストが必要なくかつ簡単に連続的に方法を運転できるため、蒸留によるだけの方法が有利であることが判明した。クロロシランの損失量は、この場合、最小化することができる。
【0028】
蒸留による方法の利点は、更なる不純物が混入する危険性が極めて低いという事実である。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明の上記課題は、TCS、DCS及びSTCを含むクロロシランからなるホウ素含有混合物を準備する工程、複数の蒸留塔中でクロロシランからなる混合物を蒸留により精製する工程を有し、低沸点のホウ素化合物をホウ素濃度が高められたDCSを有する塔頂流によって上記蒸留塔から分流し、及び高沸点のホウ素化合物を、高沸点物を有するホウ素濃度が高められた塔底流によって上記蒸留塔から分流する、クロロシランを蒸留により精製する方法により解決される。
【0030】
有利に、準備された、クロロシランからなる混合物を、350〜400℃で流動層反応器中で冶金学的シリコンをHClと反応させることにより製造する。
【0031】
有利に、準備された、クロロシランからなる混合物を分離塔に供給し、この分離塔の塔パラメータを、この分離塔からの第1の留分中にSTC10ppm未満が含まれ、この分離塔からの第2の留分中にTCS10ppm未満が含まれるように選択する。
【0032】
相応する塔パラメータは、特に圧力、塔底温度及び分離段の数である。
【0033】
有利に、この分離塔からの第2の留分を第2の塔に供給し、蒸留によりSTCを含む塔頂流と、高沸点物を含むホウ素濃度が高められた塔底流とに分離する。
【0034】
この分離塔からの第1の留分を有利に第3の塔に供給し、蒸留によりTCSを含む塔底流と、TCSの他に低沸点物、例えばDCSを含むホウ素濃度が高められた塔頂流とに分離する。
【0035】
この第3の塔からの、TCS及び低沸点物、例えばDCSを含むこの塔頂流を、有利に第4の塔に供給し、この場合、不活性ガスが供給され、この第4の塔からのホウ素濃度が高められたDCSを含む塔頂流を搬出し、第4の塔からの塔底流を再び上記分離塔に供給し、第4の塔からの排ガスを含む二次流を廃棄する。
【0036】
この第4の塔は、有利に過圧で運転される。
【0037】
有利に、第3の塔からのTCS及び低沸点物、例えばDCSを含む塔頂流を、第4の塔に供給する前に液化する。
【0038】
本発明は、次に図1及び2を用いて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】クロロシラン混合物を蒸留により後処理する方法のフローチャートを示す。
【図2】蒸留塔の塔頂生成物の凝縮を略示する。
【0040】
図1は、mgシリコンの塩化水素処理の反応生成物として生じるクロロシラン混合物の蒸留による後処理の原理を示す。この本質的な目的は、この場合、ホウ素不純物及びリン不純物を目的生成物のTCSから分離することである。
【0041】
図2は、蒸留塔6(図1参照)の塔頂生成物の凝縮を示す。
【0042】
この塔頂生成物は、順次、水冷装置6w、ブライン冷却装置6s及び低温冷却装置(Frigen)6tで冷却される。このその都度生じる凝縮物は再使用される。水冷装置の凝縮物はこの塔に返送される。ブライン冷却装置及び低温冷却装置の凝縮物は、生成物流6として塔7に供給される。この排ガスは廃棄される。
【0043】
本発明は、多結晶シリコンの製造との関連で多様なクロロシラン留分中へのホウ素不純物の分配についての広範囲にわたる分析調査に基づく。
【0044】
本発明の本質的な工程は、冶金学的シリコンの塩化水素処理によるクロロシラン、有利にTCSの製造、前記クロロシランの蒸留による後処理及びクロロシランからなる前記混合物からのホウ素により著しく汚染されたDCS留分及びSTC留分の分離である。
【0045】
mgシリコンの塩化水素処理からのTCSの有効なホウ素分離は、本発明の場合に、次に記載の多様な塔の接続を使用することにより蒸留により達成することができる。
【0046】
高沸点のホウ素不純物をSTC部分流中で濃縮し、かつDCS部分流中で低沸点のホウ素化合物を濃縮することが目的である。
【0047】
この場合、TCSは、ホウ素を20ppb未満で含有するTCSを製造し、同時に廃棄物中でのTCSの十分な抑制を行ことができる。
【0048】
350〜400℃で流動層反応器中で市販の冶金学的シリコンをHClと反応させることにより得られた、TCS 86%、STC 13.5%、DCS 0.3%、ホウ素 3.2ppm並びに微量の他の不純物(メチルクロロシラン、炭化水素、高沸点物、例えばシロキサン及びジシラン)を含有するクロロシラン1(図1)からの混合物を、分離塔2に供給する。
【0049】
この場合、塔パラメータを、塔頂生成物3中にSTCが10ppm未満含まれ、塔底生成物4中にTCSが10ppm未満含まれるように選択する。
【0050】
この塔底生成物4を更なる塔5に供給し、そこでSTCの留分5aと高沸点物(例えばシロキサン、ジシラン、メチルトリクロロシラン及び場合による金属塩化物)の留分5bとに分離する。
【0051】
この高沸点の化合物5bを連続的に又はバッチ式で塔底から取り出すことができる、それというのもこの高沸点の化合物5bは、全体量の約1%だけに過ぎないためである。
【0052】
この塔2の塔頂生成物3は次の塔6中で、精製されたTCSを含む留分6bと、TCSの他に低沸点物を含む留分6aとを分離する。
【0053】
TCSを含む汚染されたDCSの複数の付加的な流がTCSよりも低い沸点を有する成分を無視できるほどわずかな量で含有する場合に限り、塔2からの塔頂生成物3に、塔6の前方で、このTCSを含む汚染されたDCSの複数の付加的な流れを導入することができる。
【0054】
この留分6bは更なる後処理のために提供される。
【0055】
この留分6aは、DCSの他に、なおかなりの量のTCS及び低沸点の不純物、例えばBCl3を含有する。
【0056】
この留分は付加的な塔7に供給され、特に有利な実施態様の場合に、付加的に不活性ガスを供給することができる。塔7は技術的に、前記塔7が過圧で運転できるように構成されている。
【0057】
塔7からの塔底生成物7bは、塔2中で使用するために再び返送される。
【0058】
塔7からの、かなりの量のホウ素を含有する排ガス7cは、スクラバーを介して更なる廃棄処理に供給することができる。
【0059】
塔7からの塔頂生成物7aは、DCSの他にホウ素不純物の大部分を含有する。
【0060】
この流は、従って、この系からホウ素不純物を効果的な付加的搬出のために用いられる。
【0061】
後に実施例で更に示すように、意外にも、塔6からの塔頂生成物を多段階の冷却を用いて液化し、それぞれの冷却段階の凝縮物を適切に案内する場合に、TCS流中でのホウ素の含有量の劇的な低減を達成できる。(図2参照)。
【0062】
塔6の塔頂生成物をまず水冷装置6wを用いて、約10〜30℃、有利に15〜25℃の温度に冷却することが特に有利であることが判明した。
【0063】
この水冷装置の凝縮物6wkは、前記塔に返送される。
【0064】
凝縮されない部分6wnkは、生成物流を約−7℃に冷却するブライン冷却装置6sに供給される。
【0065】
このブライン冷却装置からの凝縮物6skは、流6aの第1の成分を形成する。
【0066】
ブライン冷却装置中で凝縮されない部分6snkは、低温冷却工程6tに供給され、そこで6tkに凝縮される。
【0067】
この凝縮物は、6aについての第2の成分を形成する。この低温冷却工程は、この生成物流を約−60℃に冷却する。そこで再び凝縮されなかった部分は排ガスとして廃棄される。この全体の生成物流6aは塔7に供給される。
【0068】
前記方法の部分流6bは、ポリシリコンの製造のためのクロロシラン化合物である、目的生成物の精製されたTCSである。
【0069】
このように製造されたTCSは、直接又は他のクロロシラン流と混合して、太陽電池品質のポリシリコンの堆積のために使用することができるか、又は更なる蒸留工程により半導体品質まで精製することができる。
【実施例】
【0070】
350〜400℃で流動層反応器中で市販の冶金学的シリコン(ホウ素含有量は32ppm)を塩化水素ガスと反応させることにより得られた、TCS 86%、STC 13.5%、DCS 0.3%、ホウ素 3.2ppm並びに微量の他の不純物(メチルクロロシラン、炭化水素、高沸点物、例えばシロキサン及びジシラン)の組成を有するクロロシラン混合物1を、蒸留により精製した。
【0071】
塔2の塔頂流3は、ホウ素 3.4ppm(市販の易揮発性BCl3)を含有し、塔底流4は、高沸点のホウ素化合物 1.1ppmを含有していた。
【0072】
STC流4を塔5中で蒸留し、塔底流を介して高沸点物を分離し、この場合、塔頂流5aはいまだにホウ素 1ppmを含有していたため、ホウ素化合物の分離は完全には成功しなかった。
【0073】
比較例1
クロロシラン流3を後続の塔6中で蒸留した。この蒸留は先行技術に従って、つまりホウ素不純物を多量のクロロシランと共に単に搬出した。
【0074】
この場合、塔パラメータを、純粋なDCSが塔頂から留出され、TCSは塔の底部から引き出されるように選択した。
【0075】
こうして蒸留されたTCSは、いまだにホウ素化合物 280ppbwを含有していた。
【0076】
ホウ素化合物は、DCSと一緒に完全にはトリクロロシランから分離できなかったことが判明した。
【0077】
比較例2
クロロシラン流3を後続の塔6中で蒸留した。この蒸留はまた先行技術に従って行い、つまりホウ素不純物を多量のクロロシランと共に単に搬出した。
【0078】
この塔パラメータを、DCS 10%及びTCS 90%の混合物が塔頂から引き出されるように調節した。
【0079】
塔底から取り出されたTCSはいまだにホウ素 14ppbwを含んでいた。
【0080】
使用したTCS 860gに対して、この方法で、27kg/hのTCS損失量が生じた。
【0081】
実施例3
低沸点物含有のTCS留分3を塔6中で蒸留し、この場合、塔頂の取り出しは、塔頂生成物6a中に10%のDCS濃度が生じるように選択した。
【0082】
6a中には88ppmのホウ素濃度が見られ、この塔の塔底生成物6bは、ホウ素 17ppbwを含有していた。
【0083】
記載された方法により、低沸点のホウ素化合物の99%を越える量を、塔頂生成物を介して分離することに成功した。
【0084】
このDCS含有留分6bを塔7中で、0.1〜2.5barの過圧で蒸留した。
【0085】
塔底生成物7b中で、DCS<10ppm及びホウ素 2.6ppmを有する純粋なTCSが得られた。この生成物を、塔2に返送した。
【0086】
塔頂生成物7a中には、DCS 99.4%、モノクロロシラン 0.6%並びにホウ素 770ppmが見られた。
【0087】
全ての不純物の分離後に、このクロロシラン混合物1から、ホウ素 20ppb未満の純粋なTCS約83%を製造することができた。
【0088】
TCS留分7bの返送により、この収率は86%に高められた。
【0089】
更に、出発混合物の量に対して約13%のSTC留分5a(1ppmのホウ素含有量を有する)、及び出発混合物の量に対して0.3%のDCS留分7a(ホウ素 約770ppmを有する)が生じた。
【0090】
実施例4
低沸点物を含有するTCS留分3を、実施例3に記載されたように蒸留した。
【0091】
ただし、DCSを含有する、塔7への供給流6aに、更に、H2O 1ppmvより少ない残留水分を有する窒素6cを20m3/hで供給した。
【0092】
不活性ガスとして、Ar又はH2を使用することもできる。
【0093】
不活性ガスの供給する箇所は、流入箇所に行うか又は塔自体に行うこともできる。この実施例の場合には、不活性ガスを流入箇所に搬入した。
【0094】
更に排ガスの低温凝縮は行わなかった。
【0095】
この不活性ガスの供給によって、この塔の排ガス量は高まった。
【0096】
塔頂生成物7a中にはホウ素 400ppmが見られただけであった。
【0097】
理論的には、2倍を越えるホウ素量、つまり塔に供給したBCl3の50%より多くが排ガス流7c中に濃縮されることが期待された。
【0098】
微量のBCl3、MCS及びDCSを有する主に窒素のこの排ガス流をスクラバーに供給し、廃棄した。
【0099】
この実施例中に生じたTCS 6bは、ホウ素 12ppbwを含有していただけであった。
【0100】
この結果は表1にまとめられている。
【0101】
表1
【表1】

【0102】
実施例5
低沸点物を含有するTCS留分3を、実施例3に記載されたように蒸留した。
【0103】
この場合、塔6のブライン凝縮物を塔7へ搬出した(図2参照)。
【0104】
意外にも、この処置により、TCS収率を低下させることなく、不純物濃度の更なる劇的な低減が生じた。
【0105】
この処置が、ホウ素濃度だけでなく、リン濃度にも明らかに有利な影響を及ぼした。
【0106】
この結果は表2にまとめられている。
【0107】
実施例5の場合に、一定のTCS収率で、ホウ素不純物だけでなくリン不純物に関しても、実施例3に対する明らかな改善が判明した。
【0108】
表2
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TCS、DCS及びSTCを含むクロロシランからなるホウ素含有混合物を準備する工程、及び複数の蒸留塔中でクロロシランからなる前記混合物を蒸留により精製する工程を有し、低沸点のホウ素化合物を、ホウ素濃度が高められたDCSを含む塔頂流によって前記蒸留塔から分流し、及び高沸点のホウ素化合物を、高沸点物を含むホウ素濃度が高められた塔底流によって前記蒸留塔から分流する、クロロシランを蒸留により精製する方法。
【請求項2】
前記の準備された、クロロシランからなる混合物を、350〜400℃で流動層反応器中で冶金学的シリコンをHClと反応させることにより製造する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記の準備された、クロロシランからなる混合物を分離塔(2)に供給し、前記分離塔(2)の塔パラメータを、前記分離塔(2)からの第1の留分(3)中にSTC 10ppm未満が含まれ、前記分離塔(2)からの第2の留分(4)中にTCS 10ppm未満が含まれるように選択する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
分離塔(2)からの第2の留分(4)を第2の塔(5)に供給し、STCを含む塔頂流(5a)と高沸点物を有するホウ素濃度が高められた塔底流(5b)とに蒸留により分離する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
分離塔(2)からの第1の留分(3)を第3の塔(6)に供給し、TCSを含む塔底流(6b)と、TCSの他に低沸点物、例えばDCSを含むホウ素濃度が高められた塔頂流(6a)とに蒸留により分離する、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記第3の塔(6)からの塔頂流(6a)を第4の塔(7)に供給し、その際に不活性ガスを供給し、前記第4の塔(7)からのホウ素濃度が高められたDCSを含む塔頂流(7a)を搬出し、前記第4の塔(7)からの塔底流(7b)を、前記分離塔(2)に返送し、排ガスを含む二次流(7c)を第4の塔(7)から廃棄する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記第4の塔(7)を過圧で運転する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第3の塔(6)からの塔頂流(6a)を、第4の塔(7)に供給する前に液化する、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
塔頂流(6a)を水冷装置(6w)で約10〜30℃の温度に冷却し、生成された凝縮物(6wk)を前記第3の塔(6)に返送し、凝縮されなかった部分(6wnk)をブライン冷却装置(6s)に供給し、この生成物流を約−7℃に冷却し、このブライン冷却装置(6s)中で凝縮されなかった部分(6snk)を低温冷却工程(6t)に供給し、そこで凝縮させることで凝縮物(6tk)を生じさせ、前記凝縮物(6tk)並びに前記ブライン冷却器からの凝縮物(6sk)を第4の塔(7)に供給する、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−158515(P2012−158515A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17182(P2012−17182)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】