説明

クロロシランの製造装置

【課題】硬い金属粉体などの接触に対して耐磨耗性が優れた部材を提供する。
【解決手段】気流により移動する金属粉体または無機化合物粉体が接触する部材であって、該部材における粉体が接触する表面にセラミックス層やダイヤモンド膜などの磨耗防止手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磨耗防止手段を設けた部材に関し、具体的には、例えばクロロシランの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロシランは、半導体製造用原料の一つとして、或いは光ファイバ−や合成石英、シリコ−ン充填用などの乾式シリカ、窒化ケイ素などのセラミックスなどの製造原料として用途が拡大しつつある。従って、基礎的な化学原料としてのクロロシランの製造は工業的に重要である。
【0003】
クロロシランの製造方法としては、ケイ素の粉体と塩化水素ガスとを比較的低温で反応させることにより、多結晶シリコンの原料であるトリクロロシラン(SiHCl3)やテトラクロロシラン(SiCl4)を得る方法が知られている。
Si+3HCl→SiHCl3+H2
Si+4HCl→SiCl4+2H2
この反応は約250〜500℃の温度条件で操作され、大規模工業生産技術として現実に数多く採用されている(特許文献1:特開2009−120467号公報)。
【0004】
図1は従来のクロロシラン製造装置の概略図である。同図に示すように、まず粒径が粗いケイ素の粉体を後の塩素化反応に適当な粒子径(100〜300μm程度)になるように粉砕し(なおこの粉砕品は購入してもよい)、粉体用のタンクに留置する。このケイ素粉体を塩化水素ガスの気流により反応器に移送し、反応器内でケイ素粉体と塩化水素とを反応させることで、主として気体状のトリクロロシランとテトラクロロシランとが生成する。反応器から排出された気流中にはクロロシランのほかに未反応のケイ素粉体が存在するため、これらをサイクロンセパレーターやバグフィルターなどにより分離して、未反応のケイ素粉体を回収すると共に気体状のクロロシランを精製工程へ移送する。精製工程へ移送されたクロロシランはトリクロロシランとテトラクロロシランとに分離・精製され、それぞれが製品として出荷される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−120467号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
クロロシランは以上のようにして製造されるが、ケイ素粉体は極めて硬い物質であるため、クロロシランの製造装置内を移動する際に配管内部を磨耗により減肉させたり、開口させたりするなどのおそれがある。また、このような配管の破損といった物的な問題だけでなく、破損した配管から漏洩したケイ素粉体は人に対しては失明のおそれや、ケイ素粉体だけでなくそれを移送する塩化水素ガスが漏洩した場合には薬傷のおそれも生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述する課題を解決するため鋭意検討した結果、クロロシランの製造装置において、ケイ素粉体が接触する箇所に耐磨耗性の部材を適用することが有効であることを見出し、本発明を完成させた。また、本発明は、ケイ素粉体を用いるクロロシランの製造装置のみに応用可能なものではなく、一般に硬度の高い粉体、例えば金属粉体や無機化合物粉体などが接触する部材にも同様に応用することができるものであることを見出した。本発明は以下の各項によって構成される。
【0008】
[1]移動する金属粉体または無機化合物粉体が接触する部材であって、該部材における粉体が接触する表面に磨耗防止手段を設けたことを特徴とする部材。
【0009】
[2]金属粉体または無機化合物粉体の移動が、気流による移動であることを特徴とする、上記[1]に記載する部材。
【0010】
[3]磨耗防止手段がセラミックス層またはダイヤモンド膜であることを特徴とする、上記[1]または[2]に記載する部材。
【0011】
[4]粉体がケイ素粉体である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載する部材。
【0012】
[5]クロロシランの製造装置に用いられる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載する部材。
【0013】
[6]クロロシランの製造装置においてケイ素粉体が移動する配管である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載する部材。
【0014】
[7]クロロシランの製造装置において塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動する配管である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載する部材。
【0015】
[8]クロロシランの製造装置において塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動する反応器である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載する部材。
【0016】
[9]クロロシランの製造装置において塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動する反応器内に設けられる整流管である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載する部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、気流により移動する金属粉体または無機化合物粉体が接触する部材に、セラミックス層やダイヤモンド膜などの磨耗防止手段を設けたことにより、部材の破損を抑制することができ、部材補修のための人的コストを抑えたり生産ラインを安定化させたりすることができる。特に、ケイ素粉体や塩化水素ガスを扱うクロロシラン製造装置においては、ケイ素粉体や塩化水素ガスが作業者に及ぼす危険性を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来のクロロシラン製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るクロロシラン製造装置の概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る反応器の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態を以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
<実施形態に係るクロロシラン製造装置>
まず、本発明の実施形態に係るクロロシラン製造装置について説明する。図2は本発明の実施形態に係るクロロシラン製造装置の概略図である。同図に示すように、まず粒径が粗いケイ素の粉体を後の塩素化反応に適当な粒子径(100〜300μm程度)になるように粉砕し(なおこの粉砕品は購入してもよい)、粉体用のタンクに留置する。この工程において、記号AおよびBは配管またはベルトコンベアなどの移送手段であるが、これらは極めて硬いケイ素粉体の接触により磨耗するおそれがあるため、本実施形態ではこれらの箇所に磨耗防止手段を設ける。
【0021】
次に、移送手段Dにより塩化水素ガスを移送し、このガス気流中に移送手段Cによりケイ素粉体を供給することで、移送手段E中を塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動するようになる。移送手段Aなどと同様に、移送手段CおよびEにも硬いケイ素粉体の接触により磨耗するおそれがあるため、本実施形態ではこれらの箇所に磨耗防止手段を設ける。なお、移送手段D中はケイ素粉体が存在しないため、磨耗防止手段を設ける必要はない。
【0022】
次に、移送手段Eにより塩化水素ガスと共にケイ素粉体を、塩化水素−ケイ素反応器に移送した後、反応器内でケイ素粉体と塩化水素とを反応させることで、主として気体状のトリクロロシランとテトラクロロシランとを製造する。なお、この反応工程は、反応器内に塩化水素ガスとケイ素粉体とを連続的に供給しながら反応させ、反応器を一回流通して得られた反応生成物を連続的に取り出す方式(連続方式)であってもよいし、反応器内に塩化水素ガスとケイ素粉体とを一定量(1バッチ)供給した後、これを反応器内で一定時間流動させながら反応させ、得られた反応生成物を取り出す方式(バッチ方式)であってもよい。
【0023】
次に、移送手段Fにより反応器から製造したクロロシランを取り出す。この際に、排出された気流中にはクロロシランのほかに未反応のケイ素粉体が存在するため、これらをサイクロンセパレーターやバグフィルターなどにより分離して、移送手段Gにより未反応のケイ素粉体を回収すると共に移送手段Hにより気体状のクロロシランを精製工程へ移送する。移送手段Aなどと同様に、移送手段FおよびGにも硬いケイ素粉体の接触により磨耗するおそれがあるため、本実施形態ではこれらの箇所に磨耗防止手段を設ける。なお、移送手段H中はケイ素粉体が存在しないため、磨耗防止手段を設ける必要はない。
【0024】
最後に、精製工程へ移送されたクロロシランをトリクロロシランとテトラクロロシランとに分離・精製し、それぞれを製品として出荷する。
【0025】
<クロロシラン製造装置における反応器>
次に、ケイ素粉体と塩化水素ガスとを反応させる反応器内部への磨耗防止手段の適用について説明する。
【0026】
図3は実施形態に係る反応器の概略断面図である。反応器1は、反応炉2と、この反応炉2に塩化水素ガスをキャリアガスとしてケイ素粉体を供給する原料供給手段3と、そのケイ素粉体と反応する追加の塩化水素ガスを導入するガス導入手段4と、生成したクロロシランガスを排出するガス排出手段5とを備える。
【0027】
反応炉2は、大部分がストレートの円筒状をなす上下方向に沿う胴体部(下方の本体胴部6aと上方の中間胴部6bとからなる)と、この本体胴部6aの下端に連結された下部カバー部7と、中間胴部6bの上端に連結されたトップカバー部8とから構成されている。本体胴部6aと下部カバー部7とはほぼ同じ径に形成され、その間が水平な多孔板9によって仕切られている。一方、中間胴部6bの上部には、上方に向かって拡径したトップカバー部8が一体に連結されており、これら中間胴部6bおよびトップカバー部8の内部空間は相互に連通状態とされている。
【0028】
原料供給手段3は反応炉2の本体胴部6aの下部から塩化水素ガスをキャリアガスとしてケイ素粉体を供給するようになっている。一方、ガス導入手段4は反応炉2の下部カバー部7内に塩化水素ガスを導入するようになっている。
【0029】
また、反応炉2の下部カバー部7と本体胴部6aとを区画する多孔板9には、上下方向に沿う多数の孔が貫通状態に形成されると共に、この多孔板9の上には珪砂10が敷き詰められており、この反応炉2の下部カバー部7内に導入された塩化水素ガスが分散させられた状態で反応炉2内に噴出されるようになっている。
【0030】
原料供給手段3から送り込まれた原料のケイ素粉体は、キャリアガスである塩化水素ガスおよび下部カバー部7から上昇してくる塩化水素ガスと混合されることにより、上昇流となって反応炉2の上部に向けて上昇することになる。
【0031】
胴体部からトップカバー部8にかけた内部空間内には、熱媒体が流通する熱媒管11と、整流管12とが複数本ずつ設けられている。熱媒管11は、中間胴部6bの壁を貫通する熱媒出入口13により流通される熱媒体が反応炉2内で上下往復流通するように構成されており、反応炉2内部の温度を調節してクロロシランの生成反応を制御する機能を有する。整流管12は、例えば横断面が円形で内部が中空の管の両端部を閉塞してなるもので、熱媒管11よりも長さが短く形成され、下端は熱媒管11の下端とほぼ同じ高さに設置されているが、上端は熱媒管11よりも下方位置に配置され、本体胴部6aの上部から下部まで延びて配置されている。整流管12は、反応炉2の上部に向けて上昇するケイ素粉体と塩化水素ガスとの混合気流を整流する機能を有する。なお、熱媒管11や整流管12の本数、長さ、配置位置などは反応炉2の大きさに応じて適宜に設計することができる。
【0032】
このような反応器において、反応器1の内部表面や、反応炉2内に設けられた熱媒管11や整流管12の外部表面は、反応工程中、常に硬いケイ素粉体に晒されるため、その接触により磨耗することが多い。そこで、本実施形態では、移送手段Aなどと同様にこれらの箇所にも磨耗防止手段を設けてもよい。ただし、反応炉2では上述するように反応炉2内部の温度を調節してクロロシランの生成反応を制御するための部材も多い。このような部材の表面に磨耗防止手段を設けることで熱的制御が不安定になる場合には、これを考慮した熱制御を行うようにするとよい。磨耗防止手段を設けることで熱的制御が不可能になる場合には、このような部材には磨耗防止手段を設けないようにする。
【0033】
<磨耗防止手段>
磨耗防止手段としては、移動する金属粉体や無機化合物粉体などが接触する部材をこれらの粉体による接触磨耗から保護することができるものであれば特に限定されないが、例えばセラミックス層やダイヤモンド膜などがあげられる。
【0034】
この磨耗防止手段は金属粉体や無機化合物粉体などが接触する部材表面に設けられ、例えば配管や反応器などの部材の場合には管や反応器の内部表面に設ければよい。また、配管内や反応器内のタービンや攪拌羽根、内部流動を制御する部材(例えば上記熱媒管11や整流管12)などの場合には、粉体が接触する表面はタービンなどの部材の外部表面であるため、外部表面に磨耗防止手段を設ければよい。
【0035】
例えば部材にセラミックス層を設ける方法には、高温のプラズマ流内にセラミックス粉末を投入して溶融し、部材表面に吹き付けるプラズマ溶射法や、電子ビームによってセラミックスインゴットを溶解し、発生した蒸気中に部材を暴露して成膜する電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)法などが一般的に用いられる。プラズマ溶射法は、コーティング材料を幅広く選択することができ、また成膜速度が速く、厚膜の形成が可能であるなどの利点を有する。
【0036】
セラミックス層を形成する材料としては、アルミナ(Al23)、窒化ケイ素(Si34)、ジルコニア(ZrO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、ジルコン酸鉛(PbZrO3)、ジルコン(ZrO2・SiO2)、ムライト(3Al23・2SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al23・5SiO2)などがあげられる。
【0037】
さらに、部材に自溶性合金粉末を溶射後、合金材料の融点まで加熱することによって部材表面に溶着皮膜を形成させる自溶性合金溶射(サーモスプレイ)法などもあげられる。フュージング(再溶融処理)により合金材料と部材が溶着するので、高い密着性を有し、衝撃による剥離性能がすぐれた合金層を形成することができる。自溶性合金としては、ニッケル基、コバルト基、ニッケルクローム基などの合金にホウ素及び珪素を添加したものがあげられる。
【0038】
なお、対象部材が配管などであって、その内部表面にセラミックス層を設ける方法としては、配管の径が大きい場合には上述したプラズマ溶射法などを用いることができるが、小径の場合には、例えばセラミックスの円柱管を別途作製した後にこれを配管の内部へ挿入してモルタルなどで接着してもよいし、セラミックスのタイル状の小片を作製して、これを配管の内部表面を埋めるように接着していくなどの方法を用いてもよい。
【0039】
また、部材にダイヤモンド膜を設ける方法としては、ダイヤモンド粉末を焼結させる方法や化学蒸着法(CVD法)などがあげられる。焼結法は、難削材などの切削加工に用いられる焼結ダイヤモンド工具などの製造に広く用いられている方法であり、膜を形成すべき部材上にダイヤモンドの粉末をコバルトなどのバインダーとともに焼結する方法である。また、CVD法は反応容器中で加熱した部材上に、ダイヤモンドの成分を含む原料ガスを供給し、部材上にダイヤモンド膜を堆積する方法である。CVD法で合成されたダイヤモンド膜は微細な結晶の集まりからなる多結晶であり、通常のダイヤモンド焼結体のようなバインダーを一切含まないことから、硬度の面では天然ダイヤモンドに匹敵するほど優れている。また、複雑な形状を有する部材の表面へのコーティングが容易である。
【0040】
<クロロシラン製造装置以外への応用>
以上、クロロシラン製造装置を例にあげて本発明を説明したが、本発明はクロロシラン製造装置に限定されず、移動する金属粉体または無機化合物粉体が接触する部材であればどのようなものにも応用することができる。また、金属粉体または無機化合物粉体としては、一般的に高い硬度を有し部材や装置の一部を損傷させる粉体であれば特にケイ素粉体には限定されず、この場合、磨耗防止手段としては使用する粉体の硬度よりも比較的高い硬度を有する物質で構成することが好ましい。また、金属粉体または無機化合物粉体などを移動させるためのキャリアガスとしても、これらの粉体を移送するガスであれば特に塩化水素ガスなどに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、気流により移動する金属粉体または無機化合物粉体が接触する部材であって、該部材における粉体が接触する表面にセラミックス層やダイヤモンド膜などの磨耗防止手段を設けることにより、硬い金属粉体などの接触に対して耐磨耗性が優れた部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0042】
A〜H 移送手段
1 反応器
2 反応炉
3 原料供給手段
4 ガス導入手段
5 ガス排出手段
6a 本体胴部
6b 中間胴部
7 下部カバー部
8 トップカバー部
9 多孔板
10 珪砂
11 熱媒管
12 整流管
13 熱媒出入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する金属粉体または無機化合物粉体が接触する部材であって、該部材における粉体が接触する表面に磨耗防止手段を設けたことを特徴とする部材。
【請求項2】
金属粉体または無機化合物粉体の移動が、気流による移動であることを特徴とする、請求項1に記載する部材。
【請求項3】
磨耗防止手段がセラミックス層またはダイヤモンド膜であることを特徴とする、請求項1または2に記載する部材。
【請求項4】
粉体がケイ素粉体である、請求項1〜3のいずれかに記載する部材。
【請求項5】
クロロシランの製造装置に用いられる、請求項1〜4のいずれかに記載する部材。
【請求項6】
クロロシランの製造装置においてケイ素粉体が移動する配管である、請求項1〜5のいずれかに記載する部材。
【請求項7】
クロロシランの製造装置において塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動する配管である、請求項1〜5のいずれかに記載する部材。
【請求項8】
クロロシランの製造装置において塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動する反応器である、請求項1〜5のいずれかに記載する部材。
【請求項9】
クロロシランの製造装置において塩化水素ガスの気流によりケイ素粉体が移動する反応器内に設けられる整流管である、請求項1〜5のいずれかに記載する部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184243(P2011−184243A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51534(P2010−51534)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】