説明

クーラントタンク

【課題】 簡単な構成でクーラントの温度を調整できるクーラントタンクを提供する。
【解決手段】 工作機械1に供給するためのクーラントcを貯蔵するタンク部5Aを備えたクーラントタンク5である。前記タンク部5Aを、工作機械1にクーラントを供給する側のサプライ室5aと、工作機械1からの使用済みクーラントcが戻るリターン室5bと、両室5a,5bを繋ぐ連結流路7とで構成する。連結流路7は、クーラントcの放熱が生じる構造、またはクーラントを加熱する構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、旋盤等の工作機械におけるクーラントタンクの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
旋盤等の工作機械においては、クーラントタンクに貯蔵されたクーラント(切削油)をポンプで吸上げワークに掛けながら切削加工がなされ、ワーク、チャック部或いは切削工具等の加工部の温度上昇を抑制する。使用されたクーラントはクーラントタンクに戻されて、再度ポンプによって吸上げられ、加工部に向け噴射される。
従来のクーラントタンクは、クーラント容量の確保と切粉除去に適した構造とされている。クーラントの冷却装置がない場合は、クーラント温度は僅かな放熱を行い、平衡状態になるまで上昇し続けることになるので、熱の発生源となる問題があった。
【0003】
特許文献1には、クーラントタンク内を隔壁で仕切り、この隔壁に流通窓を設けて還流してきたクーラントにより発生する泡をポンプ吸込側室に及ばないようなされたクーラントタンクが開示されている。
【特許文献1】特開平11−129139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のクーラントの冷却装置を有するものでは、冷却効果には優れるが、加工部に対して温度差が大きい低温のクーラントを掛けると、加工部の変形を生じ加工精度が低下するという問題がある。そのため、過剰な冷却装置の装備と、加工精度の低下を招いている。 特許文献1に開示されたクーラントタンクは、戻り側室とポンプ吸込側室とに区画されているから、浮遊した塵埃がポンプ吸込側室に行かないが、クーラントの冷却については期待できない。
このように、従来のクーラントタンクは、クーラントの温度を適性に維持し得るものではなく、その改善が望まれていた。
【0005】
この発明の目的は、簡単な構成でクーラントの温度を調整できるクーラントタンクを提供することである。
この発明の他の目的は、放熱を生じさせる構造をより簡素化することである。
この発明のさらに他の目的は、クーラントによる加工部の熱変形が防止でき、冷却効果を損なうことなく、加工精度を高めることができるものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のクーラントタンクは、工作機械に供給するためのクーラントを貯蔵するタンク部を備えたクーラントタンクであって、前記タンク部を、工作機械にクーラントを供給する側のサプライ室と、工作機械からの使用済みクーラントが戻るリターン室と、両室を繋ぐ連結流路とで構成し、前記連結流路を、クーラントの放熱が生じる構造またはクーラントを加熱する構造としたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、サプライ室から供給され工作機械で使用されたクーラントは、リターン室に戻り、両室を繋ぐ連結流路を経て再度サプライ室に流動する。連結流路を流動する間に、クーラントは放熱され、または加熱され、再度工作機械に供給される。このように、クーラントタンクを2室に分離し、その間を連結流路で繋ぐという簡単な構成で、クーラントの温度を調節することができる。また、両室は連結流路を介して互いに区画されているため、使用済みクーラントに含まれる切削屑はリターン室に滞留し、サプライ室に流入することが少なく、工作機械には常に清浄なクーラントが供給される。
【0008】
この発明において、前記連結流路を、自然放熱が生じる構造としても良い。クーラントは、熱変形の防止の観点からは、加工部と同程度の温度が好ましく、新たに発生する高温の切削熱を吸収して加工部の過度の温度上昇が防止できれば足りる。この程度にクーラントを冷却する場合、連結流路を自然放熱が生じる構造とすれば足りることが多く、これにより冷却用の駆動源やエネルギ源が不要な簡単な構成で適切な冷却が行える。
【0009】
この発明において、前記クーラントの放熱が生じる構造またはクーラントを加熱し得る構造は、冷却装置または加熱装置を具備したものとし、クーラントを使用する工作機械の加工部の温度に基づき、前記冷却装置または加熱装置を運転してクーラントを工作機械の加工部の温度に近づけるように制御する制御手段を設けるようにしても良い。
冷却装置または加熱装置を設けた場合は、クーラントの温度調節が行い易い。この場合に、クーラントを工作機械の加工部の温度に近づけるように制御する制御手段が設けられていると、加工部は温度差の小さいクーラントにより、新たに発生する切削熱がクーラントで吸収されて温度上昇が防止されることになる。そのため、加工部の熱変形を来たさず、加工精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明のクーラントタンクは、タンク部を、工作機械にクーラントを供給する側のサプライ室と、工作機械からの使用済みクーラントが戻るリターン室と、両室を繋ぐ連結流路とで構成し、前記連結流路を、クーラントの放熱が生じる構造またはクーラントを加熱する構造としたため、タンク部を2室に分離して連結流路で繋ぐという簡単な構成でクーラントの温度を調整することができる。
前記連結流路を、自然放熱が生じる構造とした場合は、冷却用の駆動源やエネルギ源が不要な、簡素な構成で適切な冷却が行える。
冷却装置または加熱装置を具備したものとし、クーラントを使用する工作機械の加工部の温度に基づき、前記冷却装置または加熱装置を運転してクーラントを工作機械の加工部の温度に近づけるように制御する制御手段を設けた場合は、クーラントによる加工部の熱変形が防止でき、冷却効果を損なうことなく、加工精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施形態を図1ないし図6と共に説明する。図1はこの発明のクーラントタンクが適用される工作機械を示す概略的正面図、図2はその側面図を示す。工作機械1は旋盤からなり、ベッド2の上にワークwを回転保持する主軸3と、このワークwに作用する複数種の切削工具4aを着脱自在に保持する工具タレット4を備える。なお、主軸3および工具タレット4の回転駆動源やX−Y軸方向の移動機構等の図示は省略する。
【0012】
ベッド2の前方には左右にクーラントタンク5が設置されている。このクーラントタンク5内に貯留された切削油等のクーラントは、ワークwの切削加工時に、ポンプ6によって吸上げられ、供給管路6aを経てノズル6bより、主軸3に保持されたワークwに対して噴射される。このワークwへの噴射により、ワークwおよび主軸3を含む加工部Wの切削による発熱温度の上昇を抑え、またその潤滑作用により切削工具4aとワークwとの切削抵抗を緩和して円滑な切削加工がなされる。
【0013】
図3はクーラントタンク5の縦断面図を示し、図4はそのX−X線横断平面図である。クーラントタンク5は、そのタンク本体となるタンク部5Aが、クーラントを供給する側のサプライ室5aと、上記加工部Wからの使用済みクーラントが戻るリターン室5bとに左右に区画され、両室5a,5bは複数の連結流路7によって互いに連通している。サプライ室5aにはポンプ6を設けられ、あるいはポンプ6の吸込み口が設けられている。サプライ室5aに貯留されているクーラントcは、矢印aのように吸上げられ、前記のように供給管路6a(図1,図2)を経てノズル6bより加工部Wに対して噴射される。
【0014】
加工部Wで使用済みのクーラントcは、矢印bのようにリターン室5bに還流して貯留される。リターン室5bに還流貯留されるクーラントcは、切削加工時に生じる切粉等の切削屑を含み、連結流路7を経てサプライ室5aに流動する。連結流路7は、サプライ室5aおよびリターン室5bの深さ方向略中間位置に位置しており、細かな切削屑xはリターン室5b内でクーラントcの上面付近に浮遊し、大きな重い切削屑yは底に沈む。このため、中間部部分の澄んだクーラントcのみが、連結流路7からサプライ室5aに流動する。従って、サプライ室5aには常に清浄なクーラントcが貯留され、この清浄なクーラントcの加工部Wへの供給により、ポンプ6の毀損やワークwの傷付き等が回避される。
【0015】
上記連結流路7は筒状に形成され、その筒壁の外周部には多数のフィン8が設けられている。このフィン8および連結流路7の筒壁外周部が大気に触れるようになされている。したがって、使用済みのクーラントcは、加工部Wでの切削熱等を吸収して温度上昇しているが、連結流路7内を流動通過する際に、この多数のフィン8の作用により、放熱が促進され、クーラントcの冷却がなされる。このようなクーラントcの冷却は、連結流路7内を通過する際の筒壁からの放熱と多数のフィン8を介した放熱促進作用による自然放熱に基づくから、放熱のための動力源を必要とせず、装置が大掛かりとならず、簡素な構造で済み、エネルギも消費しない。
【0016】
図5は第2の実施形態に係るクーラントタンク5の破断平面図である。この例では、1本の蛇行した連結流路7が、上記同様に区画されたサプライ室5aおよびリターン室5bを繋ぎ、両室5a、5b間を連通させている。この蛇行した連結流路7の一側部には送気ファン(冷却装置)9が設置され、蛇行する連結流路7の外周壁に向け送風可能とされている。
この実施形態においても、サプライ室5aに貯留されたクーラントcは、ポンプ6によって吸上げられ、供給管路6aを経てノズル6bより前記加工部Wに供給される(図1参照)。加工部Wへの供給により使用済となったクーラントcは、リターン室5bに還流されて貯留されると共に、連結流路7を経てサプライ室5aに流動する。
【0017】
送気ファン9の動力源には制御手段9aが接続され、この制御手段9aには、加工部W付近に配置された温度センサ等の加工部温度検出手段Waおよびクーラントタンク5のサプライ室5a内に設置されたクーラント温度検出手段5cが接続されている。
【0018】
加工部Wへの供給により使用済となったクーラントcは、リターン室5bから蛇行した連結流路7を経てサプライ室5aへ流動する間に、その筒壁から放熱され、温度が低下する。この時、送気ファン9から連結流路7へ送風がなされるから、放熱が促進され効率的なクーラントcの冷却がなされる。そして、加工部温度検出手段Waおよびクーラント温度検出手段5cにより、常時加工部Wおよびサプライ室5a内のクーラントcの温度が検出され、その検出情報が制御部9aに入力される。制御部9aは、この入力情報を比較し、設定許容範囲内にあるか否かで送気ファン9のオン・オフ制御を行う。
【0019】
すなわち、クーラントcの温度が低くなり過ぎると、加工部Wの変形を生じ加工精度が低下することになるので、送気ファン9をオフして送風を停止し、蛇行した連結流路7の流動における自然放熱のみとする。このようにしてサプライ室5a内のクーラントcの温度が適性値になるよう制御される。
クーラントcの適性温度を、常に加工部Wの温度とほぼ同じになるように設定しておけば、切削により発生した高温の切削熱は、クーラントcが吸収し、この吸収した熱はクーラントタンク5内での流動の間に放熱されるから、機械温度の上昇が回避されると共に、上記のような過冷却による加工部Wの変形を来たすこともなく、十分な冷却機能を発揮する。なお、区画されたリターン室5bおよびサプライ室5a間での切粉の分離機能は、上記と同様であり、また、その他の構成も上記と同様であるので、共通部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0020】
図6は第3の実施形態に係るクーラントタンク5の破断平面図である。第1の実施形態と同様に、クーラントタンク5は、サプライ室5aとリターン室5bとに区画され、両室5a,5bは複数の連結流路7によって繋がれて互いに連通している。この複数の連結流路7の回りには加熱装置10が設置されている。加熱装置10は、例えば電気ヒータ等とされる。加熱装置10には制御手段10aが接続され、この制御手段10aには、加工部W付近に配置された加工部温度検出手段Waおよびクーラントタンク5のサプライ室5a内に設置されたクーラント温度検出手段5cが接続されている。
【0021】
この構成の場合、加工部Wへの供給により使用済となったクーラントcは、上記と同様にリターン室5bに還流されて貯留されると共に連結流路7を経てサプライ室5aに流動し、ポンプ6から供給管路6aを経てノズル6bより加工部Wに供給される。この循環系で、冬場等の雰囲気温度が低い場合は、クーラントが自然冷却されて加工部Wの温度よりも低くなることがある。このような場合、上記のように加工部Wの変形を生じ、加工精度の低下を来たす。このため、加熱装置10をオンとして、連結流路7でクーラントcを加熱し、加工部Wへの噴射時に適正温度となるようにする。この適性温度の維持は、上記と同様の加工部温度検出手段Waおよびクーラント温度検出手段5cにより、常時加工部Wおよびサプライ室5a内のクーラントcの温度が検出され、その検出情報が制御部10aに入力され、制御部10aがこの入力情報に基づき加熱装置10のオン・オフ制御を行うことによりなされる。
【0022】
この場合のクーラントcの適性温度は、加工部Wの温度と略同じであるが、切削により発生した高温の切削熱は、クーラントcが吸収する。そのため、機械温度が上昇することが回避されると共に、上記のような過冷却による加工部Wの変形を来たすこともなく、十分な冷却機能が発揮される。なお、区画されたリターン室5bおよびサプライ室5a間での切粉の分離機能は上記と同様であり、また、その他の構成も上記と同様であるので、共通部分には同一の符号を付し、ここでもその説明を省略する。
【0023】
なお、上記実施形態では工作機械1が旋盤である例について述べたが、これに限らず、他の工作機械にもこの発明が適用されることは言うまでもない。また、連結流路7の形状も図示のものに限定されず、他の各種の形状のものも採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明のクーラントタンクが適用される工作機械を示す概略的正面図である。
【図2】同側面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態に係るクーラントタンクを示す縦断面図である。
【図4】図3のX−X線横断平面図である。
【図5】第2の実施形態に係るクーラントタンクの破断平面図である。
【図6】第3の実施形態に係るクーラントタンクの破断平面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…工作機械
5…クーラントタンク
5A…タンク部
5a…サプライ室
5b…リターン室
7…連結流路
9…送気ファン(冷却装置)
9a…制御手段
10…加熱装置
10a…制御手段
c…クーラント
w…ワーク
W…加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に供給するためのクーラントを貯蔵するタンク部を備えたクーラントタンクであって、前記タンク部を、工作機械にクーラントを供給する側のサプライ室と、工作機械からの使用済みクーラントが戻るリターン室と、両室を繋ぐ連結流路とで構成し、前記連結流路を、クーラントの放熱が生じる構造またはクーラントを加熱する構造としたことを特徴とするクーラントタンク。
【請求項2】
前記連結流路を、自然放熱が生じる構造とした請求項1記載のクーラントタンク。
【請求項3】
前記クーラントの放熱が生じる構造またはクーラントを加熱する構造は、冷却装置または加熱装置を具備したものとされ、クーラントを使用する工作機械の加工部の温度に基づき、前記冷却装置または加熱装置を運転してクーラントを工作機械の加工部の温度に近づけるように制御する制御手段を設けた請求項1記載のクーラントタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−35337(P2006−35337A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215296(P2004−215296)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】