説明

グアニジニウム塩を触媒として用いるオキシジフタル酸無水物の製造方法

【課題】収率が高く、副生物が抑制され、ばらつきなく再現性よく適用可能なオキシジフタル酸無水物の製造方法の提供。
【解決手段】4−オキシジフタル酸無水物のようなオキシジフタル酸無水物が、ハロフタル酸無水物と炭酸カリウムのようなアルカリ金属炭酸塩との反応によって製造される。この反応は、相間移動触媒としてヘキサアルキルグアニジニウムハライド又はα,ω−ビス(ペンタアルキルグアニジニウム)アルカンハライドの存在下で進行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシジフタル酸無水物の製造法、特にその改良相間移動触媒製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシジフタル酸無水物、特に4,4′−オキシジフタル酸無水物は、格別に優れた温度性能と優れた耐溶剤性を有するポリエーテルイミドの製造に重要な単量体である。これらの特性は、先端複合材料や電子回路材料などの高性能プラスチック用途に有用である。
【0003】
多数の刊行物、特にOccidental Chemical社の刊行物には、ハロフタル酸無水物と炭酸カリウムとの反応によるオキシジフタル酸無水物の製造が記載されている。こうした刊行物として、米国特許第4870194号、第5021168号及び第5153335号が挙げられる。適当な反応条件として、ニート反応(反応体のみの反応)及び溶剤反応、並びに各種触媒、典型的にはテトラフェニルホスホニウムハライドのような相間移動触媒、フッ化カリウム及びフッ化セシウムのようなフッ化物、カルボン酸とその塩及び加水分解性エステルの存在などがある。これらの触媒物質の多くは比較的高価であったり、有効性に限界があり、また生成物の収率もひどく低いことが多い。さらに、上記の刊行物には、反応混合物の水分量その他の条件に関して不明瞭な点も多く残っており、再現性に疑義がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4870194号明細書
【特許文献2】米国特許第5021168号明細書
【特許文献3】米国特許第5153335号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、収率が高く、副生物が抑制され、ばらつきなく再現性よく適用可能なオキシジフタル酸無水物の製造方法を提供することができれば有益である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、容易に入手できる比較的安価な触媒物質を用いてオキシジフタル酸無水物を製造することができる。この製造方法では、所望の生成物が高い収率で一貫して得られ、再現性が高い。
【0007】
一実施形態では、本発明は、実質的に無水の反応性条件下、触媒量のヘキサアルキルグアニジニウムハライド及びα,ω−ビス(ペンタアルキルグアニジニウム)アルカンハライドからなる群から選択される1種以上の相間移動触媒の存在下で、1種以上のハロフタル酸無水物を式MCO(式中、Mは原子番号19以上のアルカリ金属である。)の炭酸塩と接触させることを含んでなるオキシジフタル酸無水物の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の方法で製造できるオキシジフタル酸無水物には、4,4′−オキシジフタル酸無水物(以下、「4−ODPA」ともいう。)、3,3′−オキシジフタル酸無水物及び3,4′−オキシジフタル酸無水物がある。これらの化合物の有機製造原料はそれぞれ、4−ハロフタル酸無水物、3−ハロフタル酸無水物及び3−ハロフタル酸無水物と4−ハロフタル酸無水物の混合物である。工業用に好ましい無水物は一般に4−ODPAであり、以下の説明では4−ODPAに言及することが多いが、適宜4−ODPAに代えて他の異性体のいずれかを用いてもよい。
【0009】
ハロフタル酸無水物に存在するハロゲンはいずれでもよい。大抵は、フロロ、クロロ又はブロモフタル酸無水物が用いられるが、比較的低コストであり、しかも特に適していることから、クロロフタル酸無水物が好ましい。
【0010】
4−ODPAの合成反応は式MCOの1種以上の炭酸塩を用いて実施される。式中のMはアルカリ金属、例えばナトリウム、カリウム、ルビジウム又はセシウムである。かかる炭酸塩の混合物を使用してもよい。最適な生成物収率を得るには、原子番号約19以上のアルカリ金属の炭酸塩を用いるのが好ましい。炭酸カリウムが好ましい。
【0011】
炭酸塩の粒度は生成物収率に影響し得る。つまり、粉末状炭酸カリウムは、同じ時間で粒状炭酸カリウムよりも高い収率でオキシジフタル酸無水物を生成することが判明した。ただし、粉末状炭酸カリウムは粒状物よりも乾燥が難しいことも判明した。水は反応に悪影響を与えるので、粉末状炭酸カリウムを用いる場合には、まず十分に脱水することが重要である。
【0012】
ハロフタル酸無水物と炭酸塩との接触は反応性条件下で実施されるが、かかる条件としては、一般に約120〜250℃、好ましくは約170〜250℃の範囲内の温度、大気圧、1.4〜3.0:1、好ましくは2.04〜2.22:1の範囲内のハロフタル酸無水物対炭酸塩モル比が挙げられる。最適な理論収率には2:1のモル比が必要とされるが、モル比が2:1以下であると、条件によっては対応ヒドロキシフタル酸無水物を生じる副反応がかなりの反応速度で起こりかねないことが判明した。2.04〜2.22:1の好ましい範囲では、副反応の速度は無視できる程低く、所望生成物を高い収率で得るための最適条件が達成される。
【0013】
反応は溶剤の非存在下で実施してもよいし、1種以上の溶剤の存在下で実施してもよい。様々な実施形態では、反応を溶剤中で実施するのが好ましい。双極性非プロトン溶剤を使用してもよいが、副反応及び着色副生物の生成を促進しかねないので、その使用は一般に推奨されない。様々な実施形態では、適当な溶剤は、約120℃超、好ましくは約150℃超、さらに好ましくは約180℃超の沸点を有するものである。この種の適当な溶剤としては、特に限定されないが、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1,2,4−トリクロロベンゼン、ジフェニルスルホン、フェネトール、アニソール、ベラトロール及びこれらの混合物が挙げられる。塩素化芳香族液体を溶剤として用いるのがさらに好ましく、その具体例としては、特に限定されないが、o−ジクロロベンゼン、2,4−ジクロロトルエン及び1,2,4−トリクロロベンゼンがある。多くの場合、反応時間及び生成物の分解が最小限に抑えられるので、2,4−ジクロロトルエンが最も好ましい。o−ジクロロベンゼンのようなある種の溶剤では、一段と高い温度及び高い反応速度が達成できるように、相間移動触媒の割合を高めることもできるし、及び/又は反応を過圧下で実施することもできる。
【0014】
反応混合物は実質的に無水とすべきであるが、「実質的に無水」という用語は合計水分量が約50重量ppm未満、好ましくは約20重量ppm未満、最も好ましくは約10重量ppm未満であることを意味する。この量よりも水が多いと、その起源とは無関係に、反応を阻害するおそれがある。いずれかの試薬及び重炭酸塩にも痕跡量の水が存在することがあり、反応開始前に乾燥することによって水を入念に除去すべきである。乾燥は当技術分野で公知の方法で達成し得る。液体試薬及び溶媒は蒸留及び/又はモレキュラーシーブとの接触によって乾燥させることができ、炭酸塩及び重炭酸塩のような固体物質はオーブン内で、大抵は減圧下で加熱することによって乾燥させることができる。
【0015】
これに関して、本発明は前述の米国特許第5153335号に開示された反応とは大きく異なる。この米国特許には、反応混合物中に存在する水分量に関する説明が矛盾していない。クレーム1では実質的に無水の溶媒が要件とされているが、明細書には水分量が0.05〜0.5モル%の範囲内にあると記載されており、これはおそらくは明細書記載の100〜2000ppmの範囲内の重量割合に相当する。しかし、100〜2000ppmは計算上0.2〜4.0モル%に等しい。従って、この米国特許から好ましい水分量について結論を導き出すのは非常に困難である。
【0016】
本発明の一実施形態では、ヘキサアルキルグアニジニウムハライド又はα,ω−ビス(ペンタアルキルグアニジニウム)アルカンハライドを相間移動触媒として使用する。かかる相間移動触媒は当技術分野で公知である。例えば、米国特許第5229482号を参照されたい。ヘキサアルキルグアニジニウムハライドが一般に好ましく、ヘキサエチルグアニジニウムハライドがさらに好ましく、塩化ヘキサエチルグアニジニウムが最も好ましい。グアニジニウム塩を触媒として使用すると、ホスホニウム塩を使用したときよりも反応が速く、格段に短時間で等しい収率が得られることが判明した。
【0017】
使用するグアニジニウム塩の割合は通常、ハロフタル酸無水物を基準にして約0.2〜10.0モル%、好ましくは約1〜3モル%の範囲である。生成物の経時的分解を最少にしつつ収率を最適にするのに最も好ましい割合は約1.5〜2.5モル%の範囲である。ハロフタル酸無水物と炭酸塩との反応が完了したら、生成物を慣用技術で単離することができる。熱いうちに濾過した後、溶媒溶液を単に冷却するのが好都合であることが多く、こうすれば所望のオキシジフタル酸無水物が沈殿し、濾過によって回収することができる。
【実施例】
【0018】
当業者であれば、本明細書の記載に基づいて、本発明を難なく最大限に活用できるものと思料される。以下の実施例は、特許請求の範囲に記載された発明を実施する際の追加の指針を当業者に提供するためのものである。実施例は、本出願の教示内容の基礎となった研究成果の代表例にすぎない。従って、これらの実施例は特許請求の範囲によって規定される本発明を何ら限定するものではない。
【0019】
部及び%はすべて、特記しない限り重量基準である。化学薬品及び溶媒は試薬級のものであり、入念に乾燥した以外はそれ以上精製せずに使用した。溶媒は使用前に活性化3Åモレキュラーシーブで乾燥した。粒状又は粉末状炭酸カリウムは、使用前に、真空オーブンで一夜乾燥した。分析は、反応混合物をn−ブチルアミン及び酢酸と接触させて無水物を対応N−(n−ブチル)イミドに変換した後、溶出液としてテトラヒドロフラン−水混液を用いて高圧液体クロマトグラフィによって行った。
【0020】
実施例1
【0021】
4−クロロフタル酸無水物16グラム(g)(87.7mmol)を秤量し、蒸留ヘッドを備え水分量5ppm未満の蒸留o−ジクロロベンゼン約100mlの入った150mL三首フラスコに入れた。混合物を0.5時間窒素雰囲気中で加熱還流し、約80mlのo−ジクロロベンゼンを蒸留により除去した。
【0022】
粉末状炭酸カリウム6.06g(43.8mmol)を、50mlの乾燥o−ジクロロベンゼンと共に別のフラスコに入れた。この懸濁液を0.5時間窒素下で加熱還流し、40mlのo−ジクロロベンゼンを蒸留した。この4−クロロフタル酸無水物溶液を、炭酸塩を含有するフラスコに移した。この混合物を撹拌し、468mg(1.77mmol)の塩化ヘキサエチルグアニジニウムを(15ppm未満の水を含有するo−ジクロロベンゼン中18%溶液の形態で)加えたところ、溶液は還流を続けるにつれて黄色になった。混合物を定期的に分析したところ、3時間後に所望の4,4′−ODPAの収率が93%になった。同じモル%レベルの臭化テトラフェニルホスホニウムと粉末状炭酸カリウムを用いた対照実験では、同じ収率を得るのに13時間の期間が必要であった。
【0023】
実施例2
【0024】
粒状炭酸カリウムを用い、塩化ヘキサエチルグアニジニウムのレベルを4−クロロフタル酸無水物を基準にして2.0モル%にした以外は実施例1の手順を繰り返した。生成物の生成は、3時間後に最小約85%の全収率で一定になった。
【0025】
以上、例示を目的として代表的な実施形態について記載してきたが、以上の説明及び実施例は本発明を限定するものではない。本発明の技術的思想及び範囲内での様々な修正、適応及び代替は当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に無水の反応性条件下、触媒量のヘキサアルキルグアニジニウムハライド及びα,ω−ビス(ペンタアルキルグアニジニウム)アルカンハライドからなる群から選択される1種以上の相間移動触媒の存在下、溶媒としての蒸留o−ジクロロベンゼン中、120〜250℃の範囲内の温度で、1種以上のハロフタル酸無水物を式M2CO3(式中、Mはアルカリ金属である。)の炭酸塩と接触させることを含んでなる、オキシジフタル酸無水物の製造方法であって、ハロフタル酸無水物対炭酸塩のモル比が2.04〜2.22:1の範囲内にあり、反応混合物が50質量ppm未満の水を含むオキシジフタル酸無水物の製造方法。
【請求項2】
前記ハロフタル酸無水物が3−クロロフタル酸無水物、4−クロロフタル酸無水物又はこれらの混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Mの原子番号が19以上である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Mがカリウムである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記炭酸塩が粉末状である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記相間移動触媒がヘキサアルキルグアニジニウムハライドである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記相間移動触媒が塩化ヘキサエチルグアニジニウムである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
溶媒としての蒸留o−ジクロロベンゼン中、実質的に無水の条件下、120〜250℃の範囲内の温度で、触媒量の塩化ヘキサエチルグアニジニウムの存在下で、4−クロロフタル酸無水物を炭酸カリウムと接触させることを含んでなる4−オキシジフタル酸無水物の製造方法であって、4−クロロフタル酸無水物対炭酸カリウムのモル比が2.04〜2.22:1の範囲内にあり、反応混合物が50質量ppm未満の水を含み、相間移動触媒の割合が4−クロロフタル酸無水物を基準にして1〜3モル%の範囲内にある、4−オキシジフタル酸無水物の製造方法。

【公開番号】特開2012−102146(P2012−102146A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27375(P2012−27375)
【出願日】平成24年2月10日(2012.2.10)
【分割の表示】特願2006−503664(P2006−503664)の分割
【原出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】