説明

グアーガム酵素分解物を有効成分とする腸内環境改善剤

【目的】 本発明はヒトの腸内のpH、すなわち糞便のpHを低下させることによって有用な腸内細菌の増殖を促し、腸内環境の改善を計り、ヒトの健康増進に役立つ腸内環境改善食品を提供することにある。
【構成】 グアー種子に含まれる粘質多糖を1種類または2種類以上の酵素で部分的に加水分解して得られたグアーガム酵素分解物であって、その10%水溶液の粘度がブルックフィールド粘度計を用い、25℃,30 rpmで測定したとき5〜20cps であり、そのマンノース直鎖の鎖長が30〜200 単位内に80%以上分布するものを有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、腸内環境改善剤に関する。より詳しくは、ヒトの腸内のpHすなわち、糞便のpHを低下させることによって腸内の環境の改善を行い、ヒトの健康の増進に導く腸内環境改善剤に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ヒトの腸内の細菌を観察することは困難であった。しかし近年の嫌気培養技術の著しい進歩に伴い、ヒト腸内細菌叢に関する研究が多く行われるようになった。その結果、腸内細菌が糞便のpH,揮発性短鎖脂肪酸,悪臭成分である腐敗産物及び各種酵素活性と深い関わりを有し、ヒトの生理状態に影響を及ぼしていることが明らかにされている。
【0003】これらの腸内細菌は食物や薬物に由来する様々な物質や内因性物質の代謝に関与していて、ヒトの栄養,生理機能,感染免疫,発癌,老化,薬効発現等に重要な役割を果たしている(光岡知足“腸内細菌の世界”叢文社,東京,1980年;D.J.Hentges “Human Intestinal Microflora in Health and Disease ”Academic Press,New York, 1983) 。
【0004】腸内細菌の中には、ビフィドバクテリウム属菌やラクトバチルス属菌のようにヒトの感染防御,栄養,有害菌増殖抑制等の面で有利に働く有用細菌や、クロストリジウム属菌のように発癌,肝臓疾患,動脈硬化症,高血圧症等に関与している有害菌がある。また、有害菌の中には、日和見感染を起こし健康時には増殖できない臓器に進入し、敗血症,心内膜炎,脳,肝,肺の腫瘍,膀胱炎等、好ましからぬ状況をもたらすものが多い。
【0005】ところで、これらの有害菌は腸内のpHが酸性側になると増殖しにくいことが報告されている。例えば、乳児の糞便のpHは4.5 〜5.5 と低いため、有用菌であるビフィドバクテリウム属菌が優勢となり、逆に有害菌であるクロストリジウム属菌の生育が抑えられることが知られている(光岡知足“腸内細菌の話”岩波書店,東京,1978年)。このように、腸内のpHすなわち糞便のpHが酸性側に傾けば、腸内の異常を是正し菌叢を改善することができる。
【0006】グアーガムは、インド,パキスタンで栽培されているグアー植物(Cyamopsistetragonoloba )の種子から得られる粘質多糖であり、食品の安定剤,増粘剤として広く用いられている。またグアーガムに関しては血清コレステロールの低下作用(Jenkins, D.J.A. et.al. Clin.Sci.Mol. Med. (1976) 51, pp171-175 ),血糖値の上昇抑制作用(Jenkins, D.J.A. et.al. Lancet (1976) 24, pp172-174)が証明されている。一方、グアーガムの酵素分解物の応用に関しては、血清コレステロール上昇抑制作用,血糖値の上昇抑制作用,消化管通過時間の短縮作用[飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズ No.4;サンファイバー,(社)菓子総合技術センター]が報告されている。さらに、動物試験により、ガラクトマンナンの酵素分解物には糞便中の水分の増加および単位時間あたりの糞便排泄量の増加作用にあることが知られている(特開平2-229117)。しかし、グアーガム酵素分解物が腸内のpH低下を促し、それによって腸内の環境を改善することに関しては不明である。
【0007】腸内のpH,すなわち糞便のpHを低下させることは、腸内細菌叢の改善につながり、この結果、腸を健丈に保ち、感染予防,下痢予防,その他の腸疾患の予防を達成することが可能になるが、いかに人体にとって安全に腸内のpHを低下させるかが重要となる。本発明の目的は腸内環境改善剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、糞便のpH低下を指標として、鋭意研究を重ねた結果、グアーガム酵素分解物がヒトの糞便のpHを低下せしめることを初めて見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】グアーガム酵素分解物の原料はグアー種子に含まれる粘質多糖すなわちグアーガムである。グアーガムはβ−(1,4)−D−マンノピラノシル単位を主鎖に、α−D(1,6)結合でガラクトースが分岐した構造持っている多糖であることから、アスペリギルス属菌やリゾープス属菌等に由来するβ−マンナナーゼを用いて酵素的にマンノース直鎖のみを加水分解することができる。このようにして低分子化された多糖を濾過することにより本発明のグアーガム酵素分解物を得ることができる。グアーガム酵素分解物は酵素の反応時間を変えることにより分子量を変化させることができるが、本特許にかかるグアーガム酵素分解物はマンノース直鎖の鎖長が30〜200 単位の範囲に80%以上分布するものを指し、腸内環境の改善効果を保持する目的では、50〜150 単位に分布していることが望ましい。また該鎖長を含有する該多糖類を溶解した10%水溶液の粘度は、ブルックフィールド粘度計を用い、25℃において、30rpm で測定したとき5〜20cps であるものを指す。この場合、10%水溶液の粘度が5cps より低いこと、すなわちマンノース鎖長が30単位よりみじかい場合は、還元糖の含量が多くなるため、腸内環境改善効果が期待できず、一方、マンノース鎖長が200 単位以上、すなわち粘度が20cpsより高いと水溶液状での殺菌が困難になったり、また水溶液状で摂取しにくくなるなど産業上の利点が損なわれる。
【0010】本発明に係るグアーガム酵素分解物は、糞便のpH低下、すなわち腸内のpHを低下させることにより、腸内の環境を改善を目的に使用する場合、ヒトの摂取量として一日あたり10〜40gが望ましく、飲むヒトの体調等に合わせて摂取量を増減すると更に好ましい。
【0011】
【作用】本発明のグアーガム酵素分解物が、いかなる作用により腸内のpH、いいかえれば糞便のpHを低下せしめるかは不明であるが、恐らくはグアーガム酵素分解物が腸内細菌により資化され、種々の短鎖脂肪酸が産生され腸内のpHを低下せしめ、さらに低いpHで優勢となるビフィドバクテリウム属菌,ラクトバチルス属菌が代謝産物として産生する酢酸,乳酸,プロピオン酸により更にpHが低下し、糞便のpHを低下させることが推測される。以下、実施例および試験例により詳述する。
【0012】
【実施例】
実施例1水900 部にクエン酸を加えてpHを3.0 に調製した。これにアスペルギルス属菌由来のガラクトマンナナーゼ0.2 部とグアーガム粉末100 部を添加混合して40〜45℃で24時間酵素を作用させた。反応後90℃,15分間加熱して酵素を失活させた。濾過分離して不溶物を除去して得られた透明な溶液を減圧濃縮したのち(固形分20%)噴霧乾燥したところグアーガム酵素分解物の白色粉末65部が得られた。酵素重量法に従う水溶性食物繊維含有量は90%であった。また、ブルックフィールド粘度計を用い、25℃,30rpm の条件でグアーガム酵素分解物10%水溶液の粘度を測定した結果、16 cpsであった。更に、移動層として、カラムにG3000PWX(東ソー)を用いて高速クロマトグラフィーで測定した結果、グアーガム酵素分解物の糖鎖のマンノースの鎖長は55〜135 単位の範囲に80%が包含されていた。このとき糖鎖単位の標準として、アミロースEx−1(18単位,生化学工業株式会社),アミロースEx−3(100 単位,同),デキストランT40(250 単位,ファルマシア社)を用いた。
【0013】試験例1.変異原性試験変異原性試験はサルモネラ菌を用いる復帰突然変異試験[矢作多貴江:蛋白質・核酸・酵素,(1975)20,p.1178-1189 ]に従い、プレインキュベーション法を用いて代謝活性化によらない場合(S9Mix 無添加)と代謝活性化による場合(S9Mix 添加)の両方を行った。すなわち、滅菌した試験管に実施例1のグアーガム酵素分解物(5000,1000,500,100,50μg/ml),陽性対照物質(2−aminoanthracene ,1μg/ml),または注射用蒸留水を0.1ml ,Na−リン酸緩衝液(溶媒対照)またはS9mix 0.5 ml,菌懸濁液(Salmonella typhimurium TA100またはTAを含む)0.1 mlの順に加え、37℃,20分間振とうした。これに、45℃に保温したトップアガー2mlを加えて混合してから最小グルコース寒天平板培地上にひろげプレートを転倒して37℃で48時間培養した。培養終了後、復帰変異により出現したコロニー数を計測した。その結果グアーガム酵素分解物の添加プレートの復帰変異コロニー数は、S9Mix 無添加及び添加の場合とも、いずれの菌株でも溶媒対照に比べ2倍以上の値は示さず、また濃度に依存した増加も認められなかった。
【0014】試験例2.反復投与毒性試験薬発第313 号(昭和57粘3月31日付、GLP 基準)「医薬品の安全性試験の実施に関する基準について」およびその改正基準に従って、実施例1で得られたグアーガム酵素分解物500 及び2500mg/kg を Sprangue- Dawley系の雌雄ラットに1日1回、28日間毎日経口投与した。その結果グアーガム酵素分解物各投与群で雌雄とも死亡発現はなく、また一般状態の変化も認められなかった。また体重,摂餌量、尿検査(潜血,蛋白,糖,ケトン体,ウロビリノーゲン,ビリルビン,pH)、眼科的検査(眼底検査)、血液学的検査(白血球,赤血球,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値,血小板数)、血液生化学的検査(GOT ,GPT ,アルカリフォスファターゼ,総コレステロール,トリグリセライド,総蛋白質,尿素窒素,クレアチニン,総ビリルビン,ブドウ糖,カルシウム,鉄)、剖検および臓器重量に関しては、グアーガム酵素分解物投与による影響は認められなかった。
【0015】実施例2実施例1で得られたグアーガム酵素分解物120 gにアップルフレーバー1gと水を加えて全容1リットルとし、滅菌済褐色ビン(110 ml)に100 mlずつ充填、アルミキャップで密封後、120 ℃,30分間滅菌し、グアーガム酵素分解物入りドリンク(A)10本を得た。実施例1と同様の方法で、しかし反応時間のみを48時間と変えることにより、マンノース直鎖の短いグアーガム酵素分解物(10%水溶液の粘度3 cps)を作製し、さらにそれのドリンクを作製し、グアーガム酵素分解物Bとした。
【0016】試験例3健康な男性16名が、成分の明らかな食事(コントロール食)を1週間摂取(コントロール食期間)し、更に1週間後、8名ずつの2群に分け、コントロール食と毎食後に実施例2のドリンク(A,B)を1週間摂取(グアーガム酵素分解物摂取期間)した。コントロール食期間前1週間およびコントロール食期間とグアーガム酵素分解物摂取期間の各週の連続した5日間の糞便を採取し、純水にて2倍希釈してpHを測定した。測定結果を表1に示した。
【0017】
【表1】


【0018】表1 に示されたように、グアーガム酵素分解物A摂取期間の糞便のpHはコントロール食摂取期間に比べ有意に低いことから、グアーガム酵素分解物のヒト糞便pH低下作用は明らかである。一方、グアーガム酵素分解物BによってはpHの低下が認められなかった。
【0019】
【発明の効果】本発明のグアーガム酵素分解物は、糞便のpHを効果的に低下させる、すなわち腸内のpHを低下させることができ、この結果、ヒトの腸内細菌叢の改善を含め腸内環境を改善することにより、感染予防,下痢予防その他腸疾患の予防にきわめて効果がある。しかも、グアーガムは古くから食品の増粘剤,安定剤として使用されてきたこと、またグアーガム酵素分解物に関する変異原性試験及び反復投与毒性試験の結果からも、本グアーガム酵素分解物の安全性はきわめて高く、かつ大量に供給可能であることから、本発明はヒトの健康増進に貢献するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】グアー種子に含まれる粘質多糖を1種類または2種類以上の酵素で部分的に加水分解して得られたグアーガム酵素分解物を有効成分とする腸内環境改善剤。
【請求項2】請求項1のグアーガム酵素分解物の10%水溶液の粘度が、ブルックフィールド粘度計を用い、25℃,30rpm で測定したとき5〜20 cpsであることを特徴とする腸内環境改善剤。
【請求項3】請求項1のグアーガム酵素分解物であって、該分解物のマンノース直鎖の鎖長が30〜200 単位以内に80%以上分布されるように限定分解されていることを特徴とする腸内環境改善剤。