説明

グラウンドアンカーの軸力測定方法

【課題】簡易な装置で容易に軸力測定を行うことができる、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供する。
【解決手段】斜面などの安定化に用いるグラウンドアンカー31の軸力測定方法であって、グラウンドアンカー31の頭部に設けた定着具32の一側面で超音波を発振し、定着具32の一側面と対向する他側面に透過する超音波の振幅に基づいて、グラウンドアンカー31の軸力を求めるグラウンドアンカー31の軸力測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面の安定化などに用いるグラウンドアンカーの軸力を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
斜面や構造物、またトンネル内空断面などを安定化する方法として、グラウンドアンカー工法が知られている。
グラウンドアンカー工法は、グラウンドアンカー31をグラウト35によって地中に定着し、グラウンドアンカー31に軸力(引張力)を付与した状態で定着具32やくさび33を介して支圧板34に定着することにより、斜面を安定化するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
グラウンドアンカー31の軸力は、斜面変動によって増加したり、経時的に生じる定着部や地盤のクリープによって減少するため、グラウンドアンカー工法の斜面などを安定化させる性能は徐々に変化する。
このため、施工から年数が経過したグラウンドアンカーは、維持管理のために、軸力の測定が必要となる。
【0004】
グラウンドアンカーの軸力の測定は、施工された複数のグラウンドアンカーの一部に対してリフトオフ試験を実施して行うが、リフトオフ試験には以下のような問題点がある。
(1)リフトオフ試験はグラウンドアンカーの再緊張余長311またはアンカーヘッド(定着具32)を把持し、ジャッキによってグラウンドアンカーを引き抜くように引張力を付与して行うため、把持することができない再緊張余長または形状のアンカーヘッドを有するグラウンドアンカーには試験を行うことができない。
(2)リフトオフ試験は引き抜くように引張力を付与するため、既設のグラウンドアンカーへの影響が大きい。
(3)リフトオフ試験は、ジャッキの設置や測定に長時間を要し、高コストである。
(4)重量物であるジャッキを固定するため、架台が必要となる。
(5)ジャッキ等の試験装置や架台を測定現場まで搬入する必要がある。
【0005】
本発明は、簡易な装置で容易に軸力測定を行うことができる、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた本願の第1発明は、斜面などの安定化に用いるグラウンドアンカーの軸力測定方法であって、グラウンドアンカーの頭部に設けた定着具の一側面で超音波を発振し、前記定着具の一側面と対向する他側面に透過する超音波の振幅に基づいて、グラウンドアンカーの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供する。
本願の第2発明は、第1発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、前記超音波の振幅に離散フーリエ変換を適用して周波数‐振幅スペクトルの関係を得て、全周波数領域での振幅スペクトルの合計値に対する、特定の周波数領域での振幅スペクトルの合計値の比(Partial Power)によりグラウンドアンカーの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供する。
本願の第3発明は、第1発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、前記超音波の振幅の初期部分の時間重心を得て、時間重心に基づいてグラウンドアンカーの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供する。
本願の第4発明は、第1発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、前記超音波の振幅にウェーブレット変換を適用して得られる時間‐周波数‐振幅スペクトルの関係に基づいてアンカーボルトの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供する。
本願の第5発明は、第1発明乃至第4発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、ニューラルネットワークを用いてアンカーボルトの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)グラウンドアンカーおよびグラウンドアンカーのアンカーヘッドの形状に関わらず、グラウンドアンカーの軸力を求めることができる。
(2)リフトオフ試験のように、引き抜くように引張力を付与するものではなく、グラウンドアンカーの定着具の両側にて超音波を発振、受信するものであるため、既設のグラウンドアンカーに影響を及ぼすことがない。
(3)定着具の両側にて超音波を発振、受信して測定するものであるため、短時間で測定を行うことができる。
(4)超音波により測定するものであるため、重量物のジャッキが不要である。
(5)ジャッキが不要であるため、試験装置の測定現場までの搬入が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法の実施図(1)
【図2】本発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法の実施図(2)
【図3】本発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法により測定した、軸力と透過超音波の最大振幅値のグラフ
【図4】本発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法により測定した、軸力とPartial Powerのグラフ
【図5】本発明のグラウンドアンカーの軸力測定方法により測定した、軸力と時間重心のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図に示す実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0010】
(1)測定装置
本発明の軸力測定方法のための軸力測定装置は、一対の超音波振動子1a、1bと、超音波探傷器2からなる。
超音波振動子1a、1bは超音波探傷器2にケーブルを介して接続する。
一方の超音波振動子1aは超音波探傷器2により超音波を発振し、他方の超音波振動子1bにより超音波を受信し、超音波探傷器2により受信した超音波を解析する。
【0011】
(2)グラウンドアンカー
グラウンドアンカー工法は、グラウンドアンカー31をグラウト35によって地中に定着し、グラウンドアンカー31に軸力(引張力)を付与した状態で定着具32やくさび33を介して支圧板34に定着する。
グラウンドアンカー31はPC鋼線からなる。
グラウンドアンカー31がPC鋼線の場合には、地盤から支圧板34及び定着具32を貫通して露出する側の端部にくさび33を取り付け、くさび33がグラウンドアンカー31の軸力によって定着具32に貫入されることにより、定着具32とグラウンドアンカー31が連結される。(図1)
【0012】
また、グラウンドアンカー31は鋼棒(PC鋼棒)であってもよい。
この場合、グラウンドアンカー31の地盤から露出する側の端部が雄ネジ状に形成されており、六角ナットからなる定着具32とグラウンドアンカー31は螺合される。(図2)
【0013】
いずれの場合にも、支圧板34は軸力を付与したグラウンドアンカー31に挿通しており、定着具32により、斜面である地盤に緊締する。
【0014】
(3)軸力測定
軸力測定は、定着具32の互いに対向する側面32a、32bに各々超音波振動子1a、1bを当接して行う。
超音波振動子1aを振動し、超音波を定着具32の一方の側面32aから定着具32及びグラウンドアンカー31の軸を透過させる。そして、透過した超音波を超音波振動子1bで受信し、超音波探傷器2により解析する。
グラウンドアンカー31の軸力に従って、グラウンドアンカー31と定着具32の当接圧は変化し、この当接圧の大小が、超音波振動子1b側で受信する透過超音波の最大振幅値に反映するので、超過超音波の最大振幅値からグラウンドアンカー31の軸力を知ることができる。
【0015】
この軸力測定方法は、定着具32に超音波振動子1を当接するのみであるため、グラウンドアンカー31および定着具32の形状に関わらず、短時間で軸力を測定することが出来る。
また、引張力を付与するものではないため、既設のグラウンドアンカー31に影響を及ぼすことがない。
そして、測定器具は超音波振動子1と超音波探傷器2のみであるため、測定現場への搬入、設置が容易である。
【0016】
図3は、一辺37mm、開口部の幅35mmの六角ナット状の定着具32を有するグラウンドアンカー3を対象とし、ジャッキで0kNから600kNの範囲で50kN間隔で段階的に緊張する、載荷・除荷過程において、10MHzの超音波を発振した際の超過超音波の最大振幅値を計測した結果である。
同図より、載荷過程(■)においては400kN、除荷過程(□)においては350kN以下で、最大振幅値と軸力に相関があることが分かる。
【0017】
(4)Partial Power
図4は、載荷・除荷過程における、最大振幅値に離散フーリエ変換を適用して周波数‐振幅スペクトルの関係を得て、全周波数領域での振幅スペクトルの合計値に対する、特定の周波数領域での振幅スペクトルの合計値の比(Partial Power)を求めたものである。
離散フーリエ変換結果の周波数f1−fnに対応する振幅スペクトルをP1−Pnとすると、周波数領域fk−flでのPartial Powerは以下の式で表わされる。
【0018】
【数1】

【0019】
実験で得られた受信波形は様々な周波数成分を含み、Partial Powerはこの受信波形における特定の周波数成分の大きさ・割合を示す指標である。
媒質の物性や内部に存在する境界面の違いにより、これを伝播する超音波の各周波数の伝播特性が異なるため、受信波形の周波数に着目することで媒質(アンカーの場合、アンカーヘッド内部の接触状態)の特徴をとらえることが可能となる。さらに、本指標は全周波数のスペクトルの大きさに対する特定の周波数の大きさの比を表すため、送信波の振幅値の大小による影響がない。
【0020】
(5)時間重心
図5は、載荷・除荷過程における、最大振幅値の初期部分の時間重心を求めたものである。
時間t1-tnでの振幅がA1-Anである波形の特定の時間領域tk-tlの時間重心Tは以下の式で表される。
【0021】
【数2】

【0022】
一般に、超音波が伝搬する媒質が均質である場合や剛性が高い場合、超音波が伝搬する際に分散が生じず、その結果波形の継続時間が短く、受信波形前方に振幅のピークが得られる。
一方、媒質が不均質である場合や間隙などを多く含む場合、伝播に伴う分散が生じ、その結果波形継続時間が長く、後方にピークが移動することとなる。これらはピーク位置で示すこともできるが、複数得られる場合や見極められない場合があり、より一般的に波形の時間重心により定量的に示すことが可能である。
また、得られる値の単位が「振幅」ではなく「時間」であるため、Partial Powerの場合と同様、送信波の振幅値の変化は得られる結果に影響を及ぼさない。
【0023】
(6)ウェーブレット変換
さらに、載荷・除荷過程における、最大振幅値にウェーブレット変換を適用することもできる。
ウェーブレット変換は時間周波数解析手法の一つであり、単位となる関数 (マザーウェーブレット)により信号を切り出したときの信号各部の大きさを表すことができる。すなわち、ウェーブレット変換することにより波形f(x)の時間ごとの各周波数成分の大きさが表される。
波形f(x)のウェーブレット変換は以下の式で表される。
【0024】
【数3】

Ψ(x)はマザーウェーブレット関数、aはスケール・パラメータでありマザーウェーブレットの伸縮比を決定する正の実数、bは時間シフトパラメータでありマザーウェーブレットの時間方向へのシフト量を決定する実数である。これより同式で算出されるW(b、a)が時間ごとの各周波数成分の大きさを表す。具体的に、受信波形の初動時刻付近の特定の周波数の大きさやそのエネルギーの変化の検討や各周波数の到達時間のずれを検討することが可能である。
フーリエ変換で得られるPartial Powerが受信波形全体にわたる周波数特性を示す指標であるのに対し、ウェーブレット変換は“各時間(時間領域)”での周波数特性の検討が可能となる。
【0025】
(7)ニューラルネットワーク
上記(4)〜(6)で得られた結果にニューラルネットワークを適用することもできる。Partial Power、時間重心、およびウェーブレット変換による指標は室内実験により緊張力変化に有効と判断されたパラメータであるが、原位置試験での様々な環境変化に、より対応させるためにはこれらを組み合わせた推定法が必要といえる。
ニューラルネットワークは室内実験で得られた各指標を入力データ、緊張力を出力データとし、これらを教師データとして学習させる(各指標の重み付けを行う)ことで、複雑な原位置計測においても最適な推定値(緊張力)が得られるように考案したものである。
【符号の説明】
【0026】
1 超音波振動子
2 超音波探傷器
31 グラウンドアンカー
311 再緊張余長
32 定着具
33 くさび
34 支圧板
35 グラウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面などの安定化に用いるグラウンドアンカーの軸力測定方法であって、
グラウンドアンカーの頭部に設けた定着具の一側面で超音波を発振し、
前記定着具の一側面と対向する他側面に透過する超音波の振幅に基づいて、グラウンドアンカーの軸力を求めることを特徴とする、
グラウンドアンカーの軸力測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、前記超音波の振幅に離散フーリエ変換を適用して周波数‐振幅スペクトルの関係を得て、全周波数領域での振幅スペクトルの合計値に対する、特定の周波数領域での振幅スペクトルの合計値の比(Partial Power)によりアンカーボルトの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、前記超音波の振幅の初期部分の時間重心を得て、時間重心に基づいてアンカーボルトの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、前記超音波の振幅にウェーブレット変換を適用して得られる時間‐周波数‐振幅スペクトルの関係に基づいてアンカーボルトの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のグラウンドアンカーの軸力測定方法において、ニューラルネットワークを用いてアンカーボルトの軸力を求めることを特徴とする、グラウンドアンカーの軸力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233351(P2012−233351A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102925(P2011−102925)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(394026714)株式会社ジャスト (9)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】