説明

グラジエント送液装置,グラジエント送液システム、および液体クロマトグラフ

【課題】
保持時間の再現性の良いグラジエント送液装置を提供する。
【解決手段】
本発明のグラジエント送液装置では、10方バルブは、第1のポンプからの溶液をサンプリングループ4aに送液しながら、第2のポンプによってサンプリングループ4bに充填された溶液を6方バルブ側へ押し出す第1の状態と、第1のポンプからの溶液をサンプリングループ4bに送液しながら、第2のポンプによってサンプリングループ4aに充填された溶液を6方バルブ側へ押し出す第2の状態とを交互に繰り返し、第1の状態と第2の状態の切り替えタイミングと、第2のポンプによって押し出された溶液に試料を導入する6方バルブがロード側からインジェクション側へ切り替わるタイミングは、互いに同期している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラジエント送液装置,グラジエント送液システム、および液体クロマトグラフに関し、特に、グラジエントプロファイルの再現性の良い毎分ナノリットル流量のグラジエント送液装置,グラジエント送液システム、および液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体クロマトグラフ等の分離分析装置において、毎分ナノリットルの流量でグラジエント溶出をし、混合成分の分離を行う方式がいくつか提案されている。
【0003】
例えば、1分析に要する組成の異なるグラジエント溶液を、1つ又は多数の分岐流路に一時格納し、順次分離カラムに導入する方法がある(特許文献1,2)。また、流路にスプリッタを設けて、毎分マイクロリットル領域の流量で送液されてきたグラジエント溶液の一部を分割して毎分ナノリットル領域の送液を得る方法もある。
【0004】
しかし、前者の方法では、1分析に要するグラジエント溶液をあらかじめ分析ごとに充填するため、時間がかかり効率よく連続分析を行うことができない。また後者の方法では、流路の詰まりによる流量変動が発生し、正確に一定流量でグラジエント送液することができない。
【0005】
そこで、安定で効率的に連続測定ができるよう、溶液を一時的に保留するサンプリングループを2つ備え、その流路切り替え手段を有し、グラジエント溶液の充填と試料導入部への押し出しを交互に行う手法が発明された(特許文献3,4)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−71657号公報
【特許文献2】特開2002−365272号公報
【特許文献3】特許第3823092号公報
【特許文献4】特願2005−351717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、保持時間の再現性に関しては、まだ汎用LC(毎分ミリリットル領域)に比べて悪い。考えられる原因の1つとして、溶液を一時的に保留するサンプリングループを持つ流路切り替えバルブは常に一定の間隔で切り替わっており、分析を開始する際、図4(a)(b)に示すように、グラジエント勾配の立ち上がりが測定ごとに微妙にずれてしまうからである。
【0008】
本発明の目的は、この課題を解決し、保持時間の再現性が良い、グラジエント送液装置,グラジエント送液システム、および液体クロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するために、本発明のグラジエント送液装置では、流路切り替え手段は、第1のポンプからの溶液を第1のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第2のサンプリングループに充填された溶液を押し出す第1の状態と、第1のポンプからの溶液を第2のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第1のサンプリングループに充填された溶液を押し出す第2の状態とを交互に繰り返し、
第1の状態と第2の状態の切り替えタイミングと、第2のポンプによって押し出された溶液に試料を導入する試料導入部がロード側からインジェクション側へ切り替わるタイミングは、互いに同期している。
【0010】
また、本発明のグラジエント送液システムでは、流路切り替え手段は、第1のポンプからの溶液を第1のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第2のサンプリングループに充填された溶液を試料導入部側へ押し出す第1の状態と、第1のポンプからの溶液を第2のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第1のサンプリングループに充填された溶液を試料導入部側へ押し出す第2の状態とを交互に繰り返し、第1の状態と第2の状態の切り替えタイミングと、試料導入部がロード側からインジェクション側へ切り替わるタイミングは、互いに同期している。
【0011】
ここで、試料導入部がロード側とは、試料を試料導入部に備えられたカラムに保持する状態であり、インジェクション側とは、カラムに保持した試料が10方バルブ3からの溶液により、分析カラム(不図示),検出器(不図示)側へ送られる状態である。
【0012】
本発明のグラジエント送液装置およびグラジエント送液システムでは、上記のように、第1の状態と第2の状態の切り替えタイミングと、試料導入部がロード側からインジェクション側へ切り替わるタイミングは、互いに同期している。そのため、測定回毎に生じるグラジエントカーブの立ち上がりのズレを無くすことができる。従って、保持時間の再現性を良くすることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、保持時間の再現性を良くすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の一実施の形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図2は、本発明のグラジエント送液システムの概略構成を示す図である。
【0016】
グラジエント送液システムは、図2に示すように、第1のポンプ1,第2のポンプ2,10方バルブ(流路切り替えバルブ)3,6方バルブ(試料導入部)5、および制御部6を備えている。ここで、6方バルブ5を除いた、第1のポンプ1,第2のポンプ2,10方バルブ(流路切り替えバルブ)3、および制御部6を備えたグラジエント送液装置も本発明の範疇に含まれる。また、グラジエント送液システムにさらに、分析カラム(不図示),検出器(不図示)等を加えた液体クロマトグラフも本発明の範疇に含まれる。
【0017】
第1のポンプ1は、マイクロフローレベル(μl/min)の流量で2つの溶液を低圧グラジエント方式、即ち、電磁弁(ソレノイドバルブ)のオン/オフで溶液の組成比を決めて混合し、送液を行う。第1のポンプ1は、複数の溶液の混合比を変更しながら送液するポンプである。第1のポンプ1は、低圧グラジエント方式に限らず、高圧グラジエント方式でもよく、この場合には、それぞれの溶液に送液ポンプが備えられる。この場合、送液ポンプから送られる溶液は、混合された後、10方バルブ3へ送られる。
【0018】
10方バルブ3は、サンプリングループ4a(第1のサンプリングループ),サンプリングループ4b(第2のサンプリングループ)、及びサンプリングループ4cを備えている。第1のポンプ1から送液された溶液は、10方バルブ3内の流路を切り替えることにより、サンプルリングループ4a・4bの何れかに送られ、充填される。サンプリングループ4a・4bの容積は、それぞれ1マイクロリットル(μl)位である。また、切り替えられる流路は、各穴を結ぶ流路である。
【0019】
図2の状態(第1の状態)では、第1のポンプ1からの溶液は、サンプリングループ4aを経由した後、流路4cを介して、ドレインに流れる流路を形成している。この状態において、第1のポンプ1からの溶液がサンプリングループ4aに充填される。
【0020】
10方バルブ3が切り替えられると(第1の状態から第2の状態になると)、第1のポンプ1からの溶液は、流路4cを介して、サンプリングループ4bを経由した後、ドレインに流れる流路を形成する。この状態において、第1ポンプ1からの溶液がサンプリングループ4bに充填される。第1の状態と第2の状態との切り替えは、一定周期で行われる。例えば、図1に示すように、1分毎に切り替えが行われる。これにより、ナノフローグラジエント勾配を得ることができる。
【0021】
第2のポンプ2は、溶液をナノフローレベル(nl/min)の流量で送液するものであり、これによりサンプリングループ4a・4bに充填された溶液を押し出して10方バルブ3から6方バルブ5へ送液する。例えば、第1の状態では、第2のポンプ2からサンプリングループ4bを介して6方バルブ5に通じる流路が形成され、第2のポンプ2は、サンプリングループ4bに充填された溶液を押し出して6方バルブ5へ送る。一方、第2の状態では、第2のポンプ2からサンプリングループ4aを介して6方バルブ5に通じる流路が形成され、第2のポンプ2は、サンプリングループ4aに充填された溶液を押し出して6方バルブ5へ送る。
【0022】
6方バルブ5には、トラップカラムを設けることができる。試料をトラップカラムに保持する状態を、「ローディング」といい、トラップカラムに保持した試料が10方バルブ3からの溶液により、分析カラム(不図示),検出器(不図示)側へ送られる状態を、「インジェクション」という。6方バルブ5を切り替えることにより、「ローディング」と「インジェクション」とを互いに切り替えることができる。6方バルブ5に限られるものでは無く、試料を導入できるものであれば、6方バルブに限られない。
【0023】
第2のポンプ2が送り出す溶液8は、第1のポンプ1からの流量に比べて桁違いに小さいために、実際に分析カラム(不図示)に到達するわけではない。したがって、第2のポンプ2には、電気浸透流を起こすのに最適な溶液を用いた電気浸透流ポンプを用いても良い。また同様の理由により、一定圧で送液する場合はガスボンベを用いても良い。なお、10方バルブ3の切り替え、および6方バルブ5の切り替え等は、制御部6の制御により行われる。
【0024】
次に、図面を用いて、本発明のグラジエント送液システムの動作について説明する。
【0025】
図1に示すように、10方バルブは、1分毎に状態が切り替わる。時刻t1の第2の状態において第1のポンプ1により送られてきた溶液は、サンプリングループ4bに保留される。この時、サンプリングループ4aに保留されている溶液は、送液用の溶液を送液する第2のポンプ2により6方バルブ5に送られる。
【0026】
次に、10方バルブ3が切り替わる時刻t2に、サンプリングループ4bに保留された溶液が第2のポンプ2により6方バルブ5に送られる。その後、次回の10方バルブ3の切り替わり(時刻t3)まで、サンプリングループ4aに第1のポンプ1から送られてきた別の溶液が保留される。
【0027】
本実施の形態では、図1に示すように、分析スタート(6方バルブ5のローディング側からインジェクション側への切り替え)を、10方バルブ3の切り替えのタイミング(時刻t2)と同時に行っている。なお、時刻t2は単なる一例であり、10方バルブの切り替わりのタイミングであればいつでもよい。
【0028】
このため、グラジエントカーブが、図3(a)(b)に示すように、1回目の測定と2回目の測定とで同じになる。ここで、図3(b)は、図3(a)における四角で囲った部分の拡大図であり、図3(a)(b)における太線は低圧グラジエント型ポンプ(第1のポンプ1)が作製したグラジエントプロファイルである。図3(a)(b)における縦軸は、複数のグラジエント溶媒を用いた場合の、あるグラジエント溶媒Bの比率を示しており、横軸は、時間を示している。
【0029】
本実施形態によれば、グラジエント勾配(グラジエントカーブ)の立ち上がりが測定回毎にずれることが無く、保持時間の再現性を良くすることができる。
【0030】
上記では、10方バルブ3の流路の切り替えに合わせて6方バルブ5をローディング側からインジェクション側へ切り替えていた。しかしながら、逆に、6方バルブ5をローディング側からインジェクション側への切り替えに合わせて10方バルブ3の流路を切り替えてもよい。この場合でもグラジエントカーブを測定毎にいつも同じにすることができる。
【0031】
さらに、上記では、10方バルブ3の流路の切り替えと、6方バルブ5をローディング側からインジェクション側への切り替えとを同時に行っているが、これに限らず両者の同期が取れば良く、必ずしも同時に行う必要は無い。例えば、10方バルブ3の流路の切り替えと次回の10方バルブ3の流路の切り替えとの中間において6方バルブ5をローディング側からインジェクション側へ切り替えてもよい。この場合でもグラジエントカーブを測定毎にいつも同じにすることができる。つまり、グラジエントカーブが測定毎にいつも同じであることが重要であるため、図3(a)(b)に示す測定1回目のグラジエントカーブと測定2回目のグラジエントカーブは単なる一例にすぎない。
【0032】
さらに、上記の10方バルブ3の流路の切り替えのタイミング、及び6方バルブ5のローディング側からインジェクション側へ切り替えのタイミングに、第1のポンプ1が溶液を吸引開始するタイミングを同期させてもよい。これにより、更に保持時間の再現性を良くすることができる。図1における「複数の溶液を混合比をプログラムし送液するポンプ」は、第1のポンプ1であり、スタート時の混合比での吸引・送液(平衡化中)から、グラジエントプログラムに従って混合比での吸引・送液(分析中)への切り替わりにおいて(時刻t2において)、グラジエント溶液の吸引が開始されることが好ましい。
【0033】
〔比較例〕
なお、従来は、試料導入部が試料を導入するタイミングと10方バルブが切り替わるタイミングとの同期が図れていなかったため、試料導入部が試料導入側に切り替わり(分析スタート)で始まるグラジエント勾配の立ち上がりは試料の測定回ごとに、10方バルブの周期の間で不定となり、試料の測定再現性にも影響していた(図4(a)(b))。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のグラジエント送液装置は、液体クロマトグラフに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のグラジエント送液装置における、10方バルブの切り替えと、試料導入部のローディング・インジェクションの切り替えを示すタイミングチャートである。
【図2】本発明のグラジエント送液装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明のグラジエント送液装置を用いた場合の、第1回目の測定と第2回目の測定におけるグラジエントカーブである。
【図4】従来のグラジエント送液装置を用いた場合の、第1回目の測定と第2回目の測定におけるグラジエントカーブである。
【符号の説明】
【0036】
1 第1のポンプ
2 第2のポンプ
3 10方バルブ(流路切り替え手段)
4a 第1のサンプリングループ
4b 第2のサンプリングループ
5 6方バルブ(試料導入部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶液の混合比を変更しながら送液する第1のポンプと、
第1のポンプから送液された溶液が充填される第1及び第2のサンプリングループを備えた流路切り替え手段と、
第1及び第2のサンプリングループに充填された溶液を押し出す第2のポンプと、を有するグラジエント送液装置であって、
流路切り替え手段は、第1のポンプからの溶液を第1のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第2のサンプリングループに充填された溶液を押し出す第1の状態と、第1のポンプからの溶液を第2のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第1のサンプリングループに充填された溶液を押し出す第2の状態とを交互に繰り返し、
第1の状態と第2の状態の切り替えタイミングと、第2のポンプによって押し出された溶液に試料を導入する試料導入部がロード側からインジェクション側へ切り替わるタイミングは、互いに同期していることを特徴とするグラジエント送液装置。
【請求項2】
請求項1のグラジエント送液装置において、
第1のポンプが低圧グラジエント型ポンプであり、
さらに、第1のポンプによる溶媒の吸引開始のタイミングが同期していることを特徴とするグラジエント送液装置。
【請求項3】
請求項1のグラジエント送液装置において、
第1の状態と第2の状態の切り替えと、試料導入部のロード側からインジェクション側への切り替えと、を同時に行うことを特徴とするグラジエント送液装置。
【請求項4】
請求項1のグラジエント送液装置において、
試料導入部は、6方バルブであることを特徴とするグラジエント送液装置。
【請求項5】
請求項1に記載のグラジエント送液装置を備えた液体クロマトグラフ。
【請求項6】
複数の溶液の混合比を変更しながら送液する第1のポンプと、
第1のポンプから送液された溶液が充填される第1及び第2のサンプリングループを備えた流路切り替え手段と、
第1及び第2のサンプリングループに充填された溶液を押し出す第2のポンプと、
第2のポンプによって押し出された溶液に試料を導入する試料導入部と、を有するグラジエント送液システムであって、
流路切り替え手段は、第1のポンプからの溶液を第1のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第2のサンプリングループに充填された溶液を試料導入部側へ押し出す第1の状態と、第1のポンプからの溶液を第2のサンプリングループに送液しながら、第2のポンプによって第1のサンプリングループに充填された溶液を試料導入部側へ押し出す第2の状態とを交互に繰り返し、
第1の状態と第2の状態の切り替えタイミングと、試料導入部がロード側からインジェクション側へ切り替わるタイミングは、互いに同期していることを特徴とするグラジエント送液システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−85146(P2010−85146A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252163(P2008−252163)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)