説明

グラフトコポリマーおよびその組成物

本発明は、ポリエステル側鎖および少なくとも1つの四級化された三級アミン基を有するグラフト共重合体に関する。三級アミンは脂肪族であっても、芳香族であっても、または複素環式であってもよい。本発明はさらに、分散剤、特に色素に対する分散剤としてのこの化合物の使用に関する。実施形態の1つにおいて、本発明は、本明細書に開示される式(1)のグラフト共重合体の、担体液中の粒子状の固体に対する分散剤としての使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル側鎖および少なくとも1つの四級化された三級アミン基を有するグラフト共重合体に関する。三級アミンは脂肪族であっても、芳香族であっても、または複素環式であってもよい。本発明はさらに、分散剤、特に色素に対する分散剤としてのこの化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのコーティング特性はしばしば一般的に、コーティング内の色素粒子(またはその他の粒子状材料)の凝集または凝結の程度によって、着色特性(たとえば色強度、不透明性および光沢などを含む)と呼ばれる。色は通常、高濃度の色素を含有する溶媒中の色素分散を添加することによってコーティング配合物に導入される。
【0003】
色素分散は一般的に、さまざまな粉砕(milling)技術の1つによって、色素粒子の凝集物をばらばらにして平均粒子サイズを小さくすることによって生成される。粉砕はしばしば何らかの重合材料の存在下で行なわれ、この重合材料は分散を安定化して分散した粒子の凝結を最小限にするために存在する。しかし、溶媒ベースの系ではあまり分散しない色素分散もある。
【0004】
特許文献1は、分散剤と、三級アミノ基および/または窒素含有複素環ならびに特定のポリエステル成分を有するアクリル重合体成分のグラフト共重合体とを含有するコーティング組成物を開示している。
【0005】
特許文献2(および特許文献3)は、樹脂修飾因子に対して有用なエステル型の共重合体を開示している。
【0006】
特許文献4は、化学的性質が異なる少なくとも3つの配列を含有するグラフト共重合体を開示している。この3つの配列はアンカー基と、親水基と、疎水基とを含む。このグラフト共重合体は、水性および/または有機媒質における色素分散を調製するために有用である。
【0007】
特許文献5は、色素分散剤に対して好適な組成物を開示しており、この組成物は重合主鎖にグラフトされたマクロモノマーを有するグラフト共重合体を含有する。このグラフト共重合体は、色素アンカー基としてアミド官能基を含有する。加えてこの主鎖には、芳香族エステル、芳香族アミン、脂肪族アミン、四級アンモニウム基、またはその混合物から選択される付加的な色素アンカー基が付着されてもよい。
【0008】
特許文献6および特許文献7はどちらも、色素分散剤のためのグラフト共重合体を開示している。
【0009】
溶媒ベースの系ではあまり分散しないことが公知である色素タイプの例には、ペリレンベースの色素、アントラキノンベースの色素、またはキナクリドンベースの色素が含まれる。これらの色素を溶媒ベースの系に分散させる試みには、カプロラクトン:ポリエチレンイミン共重合体分散剤(特許文献8)、ノボラック樹脂分散剤(特許文献9)、酸化アルキレンベースのグラフト共重合体分散剤(特許文献10および特許文献11の両方に開示される)、およびカーボンブラックと相互作用する特定のアクリルグラフト共重合体(特許文献12)の利用が含まれる。
【0010】
しかし、この分散剤の中に、最終的なコーティングにおける良好な着色特性(許容できる分散性、許容できる透明性、許容できる粘性、および許容できる衝撃シーディング(shock seeding)のうちの少なくとも1つを含む)を与えるものはないと考えられる。よって、コーティングに許容できる特性を与えることができる溶媒ベースの系に色素を分散させる必要がある。本発明は、溶媒ベースの系に色素を分散できる組成物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第0 458 479号明細書
【特許文献2】米国特許第5,319,045号明細書
【特許文献3】特開平4−161415号公報
【特許文献4】米国特許第6,362,274号明細書
【特許文献5】国際公開第01/44330号パンフレット
【特許文献6】欧州特許出願公開第1 182 218号明細書
【特許文献7】米国特許出願第2003/00225207号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第632 108号明細書
【特許文献9】特開平09−291249号公報
【特許文献10】特開平10−046050号公報
【特許文献11】特開平10−060360号公報
【特許文献12】特開2004−091610号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の1つにおいて、本発明は、粒子状の固体と、担体液と、式(1)のグラフト共重合体とを含む組成物を提供する:
【0013】
【化1】

ここで
は独立にCHまたはH基であり;
Aは少なくとも1つの三級アミン基を含有する部分(たとえば脂肪族、芳香族、または複素環式のアミン部分など)であり;
は四級化されたアミンを含有する部分であり;
Bは数平均分子量が少なくとも200である少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分であり;
Cは反応性官能基を含有しない部分であり;
Dは少なくとも1つの反応性官能基または極性基を含有する部分であり;
J、K、L、MおよびNは、グラフト共重合体内の各タイプの繰り返し単位の平均(負でない)数であり;
Jは任意には0に等しく;
Kは0に等しくなく;
Lは0に等しくなく;
Mは任意には0に等しく(典型的にMは0に等しく);
Nは任意には0に等しい(典型的にNは0に等しい)。
【0014】
グラフト共重合体の単位は重合体のアーキテクチャを有することによって、部分A、A、B、CおよびDの分布がランダム配列、交互の配列、漸減した(しばしば勾配と呼ばれる)配列、またはブロック配列の中にあってもよい。実施形態の1つにおいて、グラフト共重合体のアーキテクチャは部分A、A、B、CおよびDのランダムな分布である。
【0015】
本発明の実施形態の1つにおいて、グラフト共重合体は(メタ)アクリルグラフト共重合体である。
【0016】
実施形態の1つにおいて、本発明は、ペリレンベースの色素、アントラキノンベースの色素、またはキナクリドンベースの色素を分散させる方法を提供し、この方法は、担体液および式(1)のグラフト共重合体を含む、上記または下記の実施形態のいずれかの組成物を色素に供給するステップを含む。
【0017】
実施形態の1つにおいて、本発明は、式(1)のグラフト共重合体の、本明細書に開示される組成物における分散剤としての使用を提供する。
【0018】
実施形態の1つにおいて、本発明は、本明細書に開示される式(1)のグラフト共重合体の、担体液中の粒子状の固体に対する分散剤としての使用を提供する。実施形態の1つにおいて、この粒子状の固体は色素(たとえば、ペリレンベースの色素、アントラキノンベースの色素、またはキナクリドンベースの色素など)である。本明細書に開示される組成物において、式(1)のグラフト共重合体は、粒子状の固体に対する分散剤として機能する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、本明細書の上記に開示される組成物を提供する。
【0020】
本明細書において用いられる「グラフト共重合体」という用語は、グラフト巨大分子の共重合体を示す。巨大分子は、側鎖として主鎖に結合される1つまたはそれ以上の種のブロックを有する。側鎖は主鎖とは異なる構成的または立体配置的特徴を有する。したがって、グラフト共重合体という用語は、星型(もしくはラジアル)共重合体、または櫛型共重合体も含んでもよい。
【0021】
本明細書において用いられる「(メタ)アクリ」という語幹を有するあらゆる用語は、「メタクリル」または「アクリル」基を有する部分または化合物を意味する。
【0022】
J+K+L+M+Nの合計は、典型的に重合体の数平均分子量が1000より大きいか、または2000より大きいか、または3000より大きくなるような数である。
【0023】
J+K+L+M+Nの合計は、典型的に重合体の数平均分子量が最大100,000、または最大60,000、または最大40,000となるような数である。
【0024】
異なる実施形態においては、J+K+L+M+Nの合計は、重合体の数平均分子量が1000から100,000、または2000から60,000、または3000から40,000の範囲内になるような数である。
【0025】
四級化の前は、式(1)のグラフト共重合体中のB(すなわち、数平均分子量が少なくとも200である少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分)を含む−CH−C(R)(B)−の量は、グラフト共重合体の50重量パーセントから90重量パーセント、または60重量パーセントから80重量パーセント、または65重量パーセントから75重量パーセントであってもよい。
【0026】
四級化の前は、式(1)のグラフト共重合体を定義するその他の構成要素(例、Aおよび任意にはA、CおよびDを含有する繰り返し単位)は、グラフト共重合体の10重量パーセントから50重量パーセント、または20重量パーセントから40重量パーセント、または25重量パーセントから35重量パーセントであってもよい。実施形態の1つにおいて、AおよびAの繰り返し単位は、グラフト共重合体の10重量パーセントから50重量パーセント、または20重量パーセントから40重量パーセント、または25重量パーセントから35重量パーセントを含む。上述の実施形態の1つにおいて、MおよびNの組合せは5または1未満、より望ましくは0.5または0.1未満であり、さらに別の実施形態においてはほぼ0.0である。
【0027】
四級化の後は、式(1)のグラフト共重合体中のB(すなわち、数平均分子量が少なくとも200である少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分)を含む−CH−C(R)(B)−の量は、グラフト共重合体の35重量パーセントから80重量パーセント、または45重量パーセントから70重量パーセント、または50重量パーセントから60重量パーセントであってもよい。
【0028】
四級化の後は、式(1)のグラフト共重合体を定義するその他の構成要素(例、Aおよび任意にはA、CおよびDを含有する繰り返し単位)は、グラフト共重合体の20重量パーセントから65重量パーセント、または30重量パーセントから55重量パーセント、または40重量パーセントから50重量パーセントであってもよい。実施形態の1つにおいて、AおよびAの繰り返し単位は、グラフト共重合体の20重量パーセントから65重量パーセント、または30重量パーセントから55重量パーセント、または40重量パーセントから50重量パーセントを含む。上述の実施形態の1つにおいて、MおよびNの組合せは5または1未満、より望ましくは0.5または0.1未満であり、さらに別の実施形態においてはほぼ0.0である。
【0029】
Aは、少なくとも1つの三級アミンおよび/または塩基性の窒素を含有する芳香族もしくは複素環基を含有する部分である。構成要素Aを含む部分の例は、イミダゾール基、ピリジン基、カルバゾール基、またはキノリン基である。実施形態の1つにおいて、部分Aは三級アミン基を含む。部分Aの例は式(2)から式(9)によって表わされる:
【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

ここで
は独立に、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖であってもよいアルキレン基であり;
およびRは独立に、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖アルキル基であり(典型的にはRおよびRは同じである);
XはN−H基または酸素原子を表わし;
Zはあらゆるジイソシアネート化合物のコア残基であり、すなわちZはジイソシアネート化合物から2つの(NCO)イソシアネート基を差し引いた残基と考えることができる。式(8)はこのことを例示している。
【0033】
式(1)の部分Aは重合の前または後に四級化されてもよい。典型的には、部分Aはグラフト共重合体が合成された後に四級化される。
【0034】
実施形態の1つにおいて、グラフト共重合体は(メタ)アクリルグラフト共重合体である。典型的に、(メタ)アクリルグラフト共重合体は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートまたはその混合物に由来してもよい。好適なジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの例には、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、またはその混合物が含まれる。
【0035】
式(1)のAは、あらゆる公知の四級化剤によって四級化されたあらゆる量のAである。四級化剤は、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、炭酸ジアルキル、硫酸ジアルキルまたはエポキシドを含む。式(1)のグラフト共重合体に対して特に有用な四級化剤は、塩化ベンジル、硫酸ジメチル、酸化プロピレンまたは酸化スチレンを含む。しばしばエポキシドは等モル量の酸(酢酸など)の存在下で用いられる。
【0036】
四級化の程度は、アミン部分の1%より多いか、または10%より多いか、または20%より多いか、または40%もしくはそれ以上であってもよい。四級化の程度は、アミン部分の100%、または95%、または90%という高さであってもよい。異なる実施形態において、四級化の程度は1%より多くから100%まで、または10%より多くから95%まで、または20%より多くから95%まで、または40%から90%の範囲である。
【0037】
Bは、数平均分子量が少なくとも200であるポリエステルYまたはYを含む少なくとも1つの重合体鎖を含有する部分である。数平均分子量は、300から5000、または500から3000、または1000から2500の範囲であってもよい。
【0038】
実施形態の1つにおいて、部分Bは、以下の式(10)〜(17)の少なくとも1つによる、ラクトンまたはヒドロキシカルボン酸、またはその混合物に由来するポリエステル鎖を含む:
【0039】
【化5】

【0040】
【化6】


【0041】
実施形態の1つにおいて、Yは次の式の少なくとも1つによって表わされる:
【0042】
【化7】


【0043】
実施形態の1つにおいて、Yは次の式の少なくとも1つによって表わされる:
【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

ここで、式(10)から(23)について、
、R、R、およびZは前に定義したとおりであり;
は、H、−CH、または典型的に炭素数が2から20のアルキル基を表わし、このアルキル基は直鎖または分岐鎖であってもよく(典型的には直鎖);
は典型的に1個から20個の炭素原子を有するアルキレン基を表わし、このアルキレン基は直鎖であっても分岐鎖であってもよく(典型的には直鎖);
Pは1から200の整数であり;
Qは1から200の整数であり;
またはYはラクトンまたはヒドロキシカルボン酸から得られても/得ることができてもよく、典型的には1個から26個の炭素原子を含有する。
【0046】
好適なラクトンの例は、β−プロピオラクトン、ならびに任意にはC1〜6−アルキルで置換されたδ−バレロラクトンおよびε−カプロラクトン、たとえばβ−メチル−δ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、2−メチル−ε−カプロラクトン、3−メチル−ε−カプロラクトン、4−メチル−ε−カプロラクトン、5−t−ブチル−ε−カプロラクトン、7−メチル−ε−カプロラクトン、4,4,6−ε−カプロラクトン トリメチル−ε−カプロラクトン 4,6,6−トリメチル−ε−カプロラクトン、またはその混合物などを含む。実施形態の1つにおいて、Bはδ−バレロラクトンおよびε−カプロラクトンに由来し得る少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分である。
【0047】
ヒドロキシカルボン酸は飽和または不飽和であっても、直鎖または分岐鎖であってもよい。好適なヒドロキシカルボン酸の例は、グリコール酸、乳酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシドデカン酸、5−ヒドロキシドデカン酸、5−ヒドロキシデカン酸 4−ヒドロキシデカン酸、またはその混合物である。
【0048】
Cはあらゆる非機能性の部分、またはその混合物である。実施形態の1つにおいて、C部分に関する非機能性とは、その部分の原子が、重合体機能付与の重合体鎖伸長に含まれる化学縮合反応に含まれないと考えられる構造における、一般的には炭素、水素および酸素であることを意味する。構成要素Cを含む部分の例は、脂肪族もしくは芳香族のエステル(例、カルボン酸のもの)および/または脂肪族もしくは芳香族の炭化水素である。好適な非機能性部分の例は、式(24)〜(33)によって表わされてもよい。
【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
【化12】

ここで
、R、Rは前に説明したとおりであり;
は、H、−CH、または典型的に1個から20個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、このアルキル基は直鎖または分岐鎖であってもよい(典型的には直鎖)。
【0052】
異なる実施形態において、非機能性部分は、式(24)のフェニル部分、式(27)のフェニルエステル、および式(28)のアルキル部分(例、ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレート)によって表わされてもよい。実施形態の1つにおいては、R=Hのときの式(21)のフェニル部分が有用である。
【0053】
実施形態の1つにおいて、部分M(RおよびCの定義を含む)はスチレンであってもよい。
【0054】
Dはあらゆる官能性もしくは極性の部分またはその混合物である。実施形態の1つにおいて、D部分の官能基は、重合反応に共通する縮合型反応で反応する基を含む。構成要素Dを含む部分の例は、あらゆるアルコール基、酸基、エポキシド基、イソシアネート基、ケトン基、アルデヒド基、β−ジケトエステル基、酸性の塩化物基、酢酸基、ニトリル基、エステル基、ビニル基、アセチル基、またはラクタム基を含む。Dに対する好適な部分の例は、式(34)から(51)によって表わされてもよい。
【0055】
【化13】

【0056】
【化14】

ここで、RおよびRは前に説明したとおりである。
【0057】
実施形態の1つにおいて、Dはアルコールまたは酸性の官能基部分を含む。典型的に、Dはヒドロキシル官能基部分である。
【0058】
グラフト
実施形態の1つにおいて、グラフト共重合体は、式(a)、(b)、(c)および(d)によって表わされるモノマー(例、エチレンで不飽和)をともに重合することによって生成されてもよく、式(a)によって表わされる三級アミン部分を含有するモノマーの部分が四級化される。
【0059】
【化15】

ここで、R、A、B、CおよびDは上記において定義されるものと同じである。
【0060】
グラフト共重合体を生成するために用いられる方法の1つは、モノマー(a)および(b)を、任意には(c)および/または(d)の存在下で重合するものである。実施形態の1つにおいて、(c)および(d)の組合せの量は、結果的に得られる式1のグラフト共重合体の10重量パーセント未満、より望ましくは5重量パーセント未満、好ましくは1重量パーセント未満である。他の実施形態においては、(c)および(d)はもっと多くの量が存在する。次いで、モノマー(a)の三級アミン部分が四級化剤によって四級化される。好適な三級アミンモノマー(a)の例は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを含む。特に有用な三級アミンモノマーは、ジメチルアミノエチルアクリレートおよびジメチルアミノエチルメタクリレートを含む。
【0061】
マクロモノマー(b)は典型的に、(a)ならびに任意には(c)および/または(d)との共重合の前に調製されてもよい。一例は、ヒドロキシル官能性ポリエステルと、ビニル基およびイソシアネート基を含む化合物との反応であり、これは次の反応スキームに示される:
【0062】
【化16】

ここで、R、R、R、およびPは上記において定義されている。
【0063】
代替的には、ポリエステルベースのマクロモノマーは、単一のラクトンについて次の反応スキームに示されているとおり、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いて、ラクトンまたはラクトンの混合物を重合することによって合成されてもよい。
【0064】
【化17】

ここで、R、RおよびPは上記において定義されている。
【0065】
この反応の結果、重合体鎖の端部は典型的にヒドロキシル基を含有する。こうした反応スキームにおいては、ヒドロキシル官能基部分のラクトンに対する比率によって生成物の分子量が決まる。
【0066】
上記に示される反応スキームにおいて、生成物の数平均分子量は典型的に20,000未満、または10,000未満、または5,000未満であってもよい。実施形態の1つにおいて、この反応は塩化スズ触媒を利用する。
【0067】
グラフト共重合体を生成するための別の方法は、(d)または(d)の混合物を(a)および(b)ならびに任意には(c)と共重合させるものである。次いで、一方の鎖端部が(d)に対して反応性であるポリエステル鎖が導入される。1〜99%の割合の(d)が未反応のままであってもよいが、典型的には100%の(d)が反応する。その結果得られる重合体は次いで四級化される。実施形態の1つにおいては、不飽和イソシアネートを三級アミン官能性モノマーと重合する。その結果得られるイソシアネート官能性共重合体は、次いでヒドロキシル官能性ポリエステル鎖と反応する。
【0068】
たとえば、イソプロペニル−ジメチルベンジルイソシアネート(CytecよりTMI(登録商標)という商標名の下で商業的に入手可能)を、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート(ならびに任意には(c)および/または(d)の定義を満たすモノマー、例、ブチル(メタ)アクリレート)と共重合させて、イソシアネート官能性重合体を形成する。次いでこの重合体を1つまたはそれ以上のヒドロキシ官能性ポリエステルと反応させてグラフト共重合体を形成する。次いで、グラフト共重合体の三級アミン基の最大100%が、塩化ベンジルまたは硫酸ジメチルによって四級化されてもよい。
【0069】
別の実施例においては、イソプロペニル−ジメチルベンジルイソシアネート(CytecよりTMI(登録商標)という商標名の下で商業的に入手可能)を、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートと共重合させて、イソシアネート官能性重合体を形成する。次いでこの重合体を1つまたはそれ以上のヒドロキシ官能性ポリエステルと反応させてグラフト共重合体を形成する。次いで、グラフト共重合体の三級アミン基の最大100%が、塩化ベンジルまたは硫酸ジメチルによって四級化されてもよい。
【0070】
別の実施例においては、イソプロペニル−ジメチルベンジルイソシアネートを、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびスチレンと共重合させて、イソシアネート官能性重合体を形成する。次いでこの重合体を1つまたはそれ以上のヒドロキシ官能性ポリエステルと反応させてグラフト共重合体を形成する。次いで、グラフト共重合体の三級アミン基の最大100%が、塩化ベンジルまたは硫酸ジメチルによって四級化されてもよい。
【0071】
グラフト共重合体は、バルク、溶液、懸濁液またはエマルションプロセスを用いるあらゆる公知の重合技術または重合技術の組合せによって合成されてもよい。重合は、ラジカル、アニオン性、カチオン性、原子移動もしくは基移動重合プロセスまたはその組合せを含んでもよい。実施形態の1つにおいて、グラフト共重合体は、鎖移動剤の存在下でのフリーラジカル重合によって重合する。フリーラジカル鎖移動剤の例は、触媒コバルト鎖移動剤またはメルカプタンを含む。メルカプタンは特に有用である。別の実施形態において、グラフト共重合体は、RAFT剤(a reversible addition,fragmentation chain transfer agent:可逆付加−断片化鎖移動剤)の存在下でのフリーラジカル重合によって重合する。
【0072】
メルカプタンの例は、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、チオプロピレングリコール、チオグリセリン、チオグリコール酸、チオヒドロアクリル酸、チオ乳酸およびチオリンゴ酸、イソオクチルチオグリコール酸塩、n−ブチル3−メルカプトプロピオン酸塩、n−ブチルチオグリコール酸塩、グリコールジメルカプトアセテート、トリメチロールプロパントリチオグリコール酸塩、またはそれらの混合物を含む。重合が溶媒中で行なわれるとき、メルカプタンの好ましい例は、イソオクチルチオグリコール酸塩、n−ブチル3−メルカプトプロピオン酸塩、n−ブチルチオグリコール酸塩、グリコールジメルカプトアセテート、トリメチロールプロパントリチオグリコール酸塩、またはそれらの混合物を含む。実施形態の1つにおいて、メルカプタンはブチル3−メルカプトプロピオン酸塩である。
【0073】
RAFT鎖移動剤の例は、ベンジル1−(2−ピロリジノン)カルボジチオアート、ベンジル(1,2−ベンゼンジカルボキシミド)カルボジチオアート、2−シアノプロプ−2−イル1−ピロールカルボジチオアート、2−シアノブチ−2−イル1−ピロールカルボジチオアート、ベンジル1−イミダゾールカルボジチオアート、N,N−ジメチル−S−(2−シアノプロプ−2−イル)ジチオカルバメート、N,N−ジエチル−S−ベンジルジチオカルバメート、シアノメチル1−(2−ピロリドン)カルボジチオアート、クミルジチオベンゾアート、2−ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニル−2−メチル−プロピオン酸ブチルエステル、O−フェニル−S−ベンジルキサントゲン酸塩、N,N−ジエチルS−(2−エトキシ−カルボニルプロプ−2−イル)ジチオカルバメート、ジチオ安息香酸、4−クロロジチオ安息香酸、O−エチル−S−(1−フェニルエチル)キサントゲン酸塩、O−エチル−S−(2−(エトキシカルボニル)プロプ−2−イル)キサントゲン酸塩、O−エチル−S−(2−シアノプロプ−2−イル)キサントゲン酸塩、O−エチル−S−(2−シアノプロプ−2−イル)キサントゲン酸塩、O−エチル−S−シアノメチルキサントゲン酸塩、O−ペンタフルオロフェニル−S−ベンジルキサントゲン酸塩、3−ベンジルチオ−5,5−ジメチルシクロヘキ−2−セン−1−チオンまたはベンジル3,3−ジ(ベンジルチオ)−プロプ−2−エンジチオアート、S,S’−ビス−(α,α’−二置換−α”−酢酸)−トリチオカルボネート、S,S’−ビス−(α,α’−二置換−α”−酢酸)−トリチオカルボネートまたはS−アルキル−S’−(α,α’−二置換−α”−酢酸)−トリチオカルボネート、ベンジルジチオベンゾアート、1−フェニルエチルジチオベンゾアート、2−フェニルプロプ−2−イルジチオベンゾアート、1−アセトキシエチルジチオベンゾアート、ヘキサキス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(チオベンゾイルチオメチル)ベンゼン、1,4−ビス−(2−(チオベンゾイルチオ)プロプ−2−イル)ベンゼン、1−(4−メトキシフェニル)エチルジチオベンゾアート、ベンジルジチオアセテート、エトキシカルボニルメチルジチオアセテート、2−(エトキシカルボニル)プロプ−2−イルジチオベンゾアート、2,4,4−トリメチルペント−2−イルジチオベンゾアート、2−(4−クロロフェニル)プロプ−2−イルジチオベンゾアート、3−ビニルベンジルジチオベンゾアート、4−ビニルベンジルジチオベンゾアート、S−ベンジルジエトキシホスフィニルジチオギ酸塩、t−ブチルトリチオ過安息香酸塩、2−フェニルプロプ−2−イル4−クロロジチオベンゾアート、2−フェニルプロプ−2−イル1−ジチオナフタレート、4−シアノペンタン酸ジチオベンゾアート、ジベンジルテトラチオテレフタレート、ジベンジルトリチオ炭酸塩、カルボキシメチルジチオベンゾアート、またはジチオベンゾアート末端基を有するポリ(エチレンオキシド)、またはそれらの混合物を含む。
【0074】
RAFT鎖移動剤の存在下での重合は、「the Handbook of Radical Polymerization」、Krzysztof MatyjaszewskiおよびThomas P.Davis編、2002年、第12章、629ページから690ページ、John Wiley and Sons Inc.出版(以後「Matyjaszewskiら」と呼ぶ)においてより詳細に説明されている。RAFT重合の重合体機構の考察は、Matyjaszewskiらのセクション12.4.4中の664ページから665ページに示されている。
【0075】
重合プロセスに溶媒が用いられているとき、好適な溶媒は、アルコール、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ブトキシエタノールなど;ケトン、たとえばアセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノンおよびメチルエチルケトンなど;酢酸、プロピオン酸および酪酸のアルキルエステル、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、メトキシプロピルアセテートなど;エーテル、たとえばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ならびにエチレングリコールおよびポリエチレングリコールのモノアルキルおよびジアルキルエーテル、たとえばセルソルブ(cellusolves)およびカルビトールなど;ならびにグリコール、たとえばエチレングリコールおよびプロピレングリコールなど;ならびにその混合物を含む。エステルおよび/またはケトンならびにエステルおよび/またはケトンとアルコールとの混合物は、特に有用である。実施形態の1つにおいては、酢酸ブチルおよびメトキシプロピルアセテート、ならびに酢酸ブチルまたはメトキシプロピルアセテートとアルコールとの混合物が溶媒として用いられる。
【0076】
重合は、選択される溶媒に対するあらゆる好適な温度で行なわれてもよい。典型的には、50℃から150℃、または60℃から120℃の範囲の温度で溶媒の存在下で重合が行なわれてもよい。
【0077】
あらゆる重合開始剤が用いられてもよい。実施形態の1つにおいて、重合開始剤はあらゆるフリーラジカル重合開始剤であり、開始剤の選択は重合温度および重合プロセスに影響される。このプロセスに用いられる重合開始剤は当該技術分野において公知であり、従来のフリーラジカル開始剤、たとえば有機過酸化物およびアゾ化合物などから選択される。使用される特定のフリーラジカル開始剤は、重合されるモノマー材料(単数または複数)およびプロセスの条件によって決まる。典型的には、開始剤の量は100重量部のモノマーに基づいて0.005重量部から5.00重量部の範囲であってもよい。しかし、100重量部のモノマー(単数または複数)に基づく0.01重量部から2.00重量部が特に有用である。
【0078】
好適な過酸化物開始剤の例は、ジアシル過酸化物、ジアルキルペルオキシジカーボネート、t−アルキルペルオキシエステル、モノペルオキシカーボネート、ジペルオキシケタール、ジアルキル過酸化物、t−アルキルヒドロ過酸化物、ケトン過酸化物を含む。ジアシル過酸化物の例は、ジベンゾイル過酸化物、ジ(2,4−ジクロロベンゾイル)過酸化物、ジアセチル過酸化物、ジラウロイル過酸化物、ジデカノイル過酸化物、ジイソノナノイル過酸化物、コハク酸過酸化物である。好適なアゾ開始剤の例は、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2’−アゾビスイソ酪酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチル−ブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチル−ペンタンを含む。
【0079】
重合温度は、用いられる開始剤のタイプに依存する。実施形態の1つにおいては、重合を50℃および100℃、または60℃から90℃の間の温度で行なえるように開始剤が選択される。典型的には、本発明において用いるための開始剤は、ラウロイル過酸化物、ベンゾイル過酸化物、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、または2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを含む。
【0080】
工業的適用
実施形態の1つにおいて、式(1)のグラフト共重合体は分散剤である。
【0081】
異なる実施形態における式(1)のグラフト共重合体は、本発明の組成物中に、組成物の0.1重量パーセントから50重量パーセント、または0.25重量パーセントから35重量パーセント、および0.5重量パーセントから15重量パーセントから選択される範囲で存在する。
【0082】
組成物中に存在する粒子状の固体は、担体液、たとえば有機媒質などの中で実質的に不溶性であるあらゆる無機または有機固体材料であってもよい。実施形態の1つにおいて、粒子状の固体は色素である。
【0083】
実施形態の1つにおいて、本発明の組成物は、粒子状の固体、担体液(有機媒質または水性媒質であってもよい)、結合剤、および式(1)のグラフト共重合体、またはその塩を含む塗料またはインクを提供する。
【0084】
実施形態の1つにおいて、この固体は、たとえば「Colour Index」(1971)の第3版ならびにそれに対するその後の改訂および補足における「Pigments」と題される章などに記載される色素の承認されるクラスのいずれかからの有機色素である。カーボンブラックは厳密には無機であるが、その分散特性においてはむしろ有機色素に似た振舞いをする。
【0085】
好適な固体の例は、無機固体、溶媒インクに対する色素;塗料およびプラスチック材料に対する色素、増量剤および充填剤;染料、特に分散染料;溶媒染色浴、インクおよびその他の適用系に対する光学的増白剤および織物助剤;油ベースの反転エマルション掘削泥水に対する固体;ドライクリーニング液中の汚物および固体粒子;粒子状のセラミック材料;磁気材料および磁気記録媒体、難燃剤、たとえばプラスチック材料において用いられるものなど、ならびに有機媒質中の分散として適用される殺生物剤、農薬および医薬品を含む。
【0086】
無機固体は以下を含む:増量剤および充填剤、たとえばタルク、カオリン、シリカ、バライトおよびチョークなど、難燃性充填剤、たとえばアルミナ三水和物、または水酸化マグネシウムなど;粒子状のセラミック材料、たとえばアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、混合ケイ素−窒化アルミニウム、および金属チタン酸塩など;粒子状の磁気材料、たとえば遷移金属、特に鉄およびクロムの磁性酸化物、例、ガンマ−Fe、Fe、ならびにコバルトをドーピングした酸化鉄、酸化カルシウム、フェライト、特にバリウムフェライトなど;ならびに金属粒子、特に金属鉄、ニッケル、コバルト、銅、およびそれらの合金;ならびに難燃剤、たとえばアルミニウム三水和物および水酸化マグネシウムなど。
【0087】
好適な農薬のいくつかの例には、殺菌剤フルトリアフェン(flutriafen)、カルベンダジム、クロロタロニルまたはマンコゼブが含まれる。
【0088】
実施形態の1つにおいて、色素はペリレンベースの色素、キナクリドンベースの色素、またはアントラキノンベースの色素を含む。
【0089】
ペリレンベースの色素は、Pigment Black 32(CAS No.83524−75−8)、Pigment Black 31(CAS No.67075−37−0)、Pigment Red−Violet Perylene(CAS No.51731−80−7)、Pigment Red 123(CAS No.24108−89−2)、Pigment Red 190(CAS No.6424−77−7)、Pigment Red 179(CAS No.5521−31−3)、Pigment Red 149(CAS No.4948−15−6)、Pigment Red 178(CAS No.3049−71−6)、Pigment Red 189(CAS No.2379−77−3)、Pigment Red 224(CAS No.128−69−8)、Pigment Green 47(CAS No.128−58−5)、Pigment Blue 65(CAS No.116−71−2)、およびPigment Violet 29(CAS No.81−33−4)を含む。典型的には、ペリレンベースの色素は、Pigment Red 149、Pigment Red 178またはPigment Red 179を含む。
【0090】
キナクリドンベースの色素は、Pigment Red 207(CAS No.71819−77−7)、Pigment Red 209(CAS No.3573−01−1)、Pigment Red 202(CAS No.3089−17−6)、Pigment Violet 19(CAS No.1047−16−1)、およびPigment Red 122(CAS No.980−26−7)を含む。
【0091】
アントラキノン色素は、Pigment Red Anthraquinone(CAS No.111417−37−9)、Anthraquinone Brilliant Blue(CAS No.100359−31−7)、Pigment Bordeaux Anthraquinone S(CAS No.79585−80−1)、Pigment Violet Anthraquinone(CAS No.26687−58−1)、Pigment Green 54(CAS No.25704−81−8)、Pigment Violet 5(CAS No.22297−70−7)、Pigment Violet 6(CAS No.6483−85−8)、Pigment Red 89(CAS No.6409−74−1)、Pigment Red 85(CAS No.6370−96−3)、Pigment Yellow 23(CAS No.4981−43−5)、Pigment Orange 43(CAS No.4424−06−0)、Pigment Red 168(CAS No.4378−61−4)、Pigment Red 194(CAS No.4216−02−8)、Pigment Yellow 147(CAS No.4118−16−5)、Pigment Red 177(Cromophtal Red A 3Bとしても公知である、CAS No.4051−63−2)、Pigment Red 196(CAS No.2379−79−5)、Pigment Green 47(CAS No.128−58−5)およびPigment Blue 60(CAS No.81−77−6)を含む。
【0092】
実施形態の1つにおける本発明の組成物中に存在する有機媒質はプラスチック材料であり、別の実施形態においては有機媒質である。有機媒質は非極性または極性有機媒質であってもよいが、典型的には極性有機媒質が用いられる。有機媒質に関係する「極性」という用語は、Crowleyらによる、Journal of Paint Technology、Vol.38、1966、269ページの「A Three Dimensional Approach to Solubility」と題される論文に記載されるとおり、有機媒質が緩やかな結合から強力な結合まで形成できることを意味する。上述の論文に定義されるとおり、こうした有機媒質は一般的に、5またはそれ以上の水素結合数を有する。
【0093】
好適な極性有機媒質の例は、アミン、エーテル、特に低級アルキルエーテル、有機酸、エステル、ケトン、グリコール、アルコールおよびアミドである。Ibert Mellanによる「Compatibility and Solubility」と題される本(Noyes Development Corporationにより1968年に出版)の39〜40ページの表2.14には、こうした緩やかに強力に水素結合する液体の多数の特定の例が示されており、これらの液体はすべて、本明細書において用いられる極性有機媒質という用語の範囲内にある。
【0094】
実施形態の1つにおいて、極性有機媒質は、ジアルキルケトン、アルカンカルボン酸およびアルカノールのアルキルエステル、特に合計6個または8個の炭素原子を最大で含有しかつ含む液体を含む。極性有機媒質の例としては、ジアルキルおよびシクロアルキルケトン、たとえばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルn−アミルケトンおよびシクロヘキサノンなど;アルキルエステル、たとえば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、プロピオン酸メチル、メトキシプロピルアセテートおよび酪酸エチルなど;グリコールならびにグリコールエステルおよびエーテル、たとえばエチレングリコール、2−エトキシエタノール、3−メトキシプロピルプロパノール、3−エトキシプロピルプロパノール、2−ブトキシエチルアセテート、3−メトキシプロピルアセテート、3−エトキシプロピルアセテートおよび2−エトキシエチルアセテートなど;アルカノール、たとえばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールおよびイソブタノールなど、ならびにジアルキルおよび環式エーテル、たとえばジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどが含まれる。実施形態の1つにおいて、溶媒はアルカノール、アルカンカルボン酸、およびアルカンカルボン酸のエステルである。
【0095】
極性有機媒質として用いられてもよい有機媒質の例は、膜形成樹脂、たとえばインク、塗料、ならびに塗料およびインクなどのさまざまな適用に用いるためのチップなどである。こうした樹脂の例は、ポリアミド、たとえばVersamid(商標)およびWolfamid(商標)など、ならびにセルロースエーテル、たとえばエチルセルロースおよびエチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースおよび酢酸酪酸セルロース樹脂など、ならびにその混合物を含む。塗料樹脂の例は、短油アルキド/メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエステル/メラミン−ホルムアルデヒド、熱硬化性アクリル/メラミン−ホルムアルデヒド、長油アルキド、ポリエーテルポリオール、ならびに多媒質の樹脂、たとえばアクリルおよび尿素/アルデヒドなどを含む。
【0096】
有機媒質はポリオール、すなわち2つまたはそれ以上のヒドロキシ基を有する有機媒質であってもよい。実施形態の1つにおいて、ポリオールはアルファ−オメガジオールまたはアルファ−オメガジオールポリオキシエチレン(もしくはポリエチレン酸化物)を含む。
【0097】
実施形態の1つにおいて、非極性有機媒質は、脂肪族基、芳香族基またはその混合物を含有する化合物を含む。非極性有機媒質は、非ハロゲン化芳香族炭化水素(例、トルエンおよびキシレン)、ハロゲン化芳香族炭化水素(例、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン)、非ハロゲン化脂肪族炭化水素(例、完全および部分的に飽和した、6個またはそれ以上の炭素原子を含有する直鎖および分岐鎖脂肪族炭化水素)、ハロゲン化脂肪族炭化水素(例、ジクロロメタン、四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエタン)、および天然の非極性有機物質(例、植物油、ヒマワリ油、亜麻仁油、テルペンおよびグリセリド)を含む。
【0098】
実施形態の1つにおいて、有機媒質は、総有機媒質に基づいて、少なくとも0.1重量%、または1重量%もしくはそれ以上の極性有機媒質を含む。
【0099】
有機媒質は任意に、水をさらに含む。実施形態の1つにおいて、有機媒質は水を含まない。
【0100】
有機媒質が水を含有するとき、実施形態の1つにおいて存在する水の量は、有機媒質の70重量%以下、または50重量%以下、または40重量%以下である。
【0101】
樹脂は、強化性繊維および充填剤が配合されてもよいいわゆるシート成形化合物およびバルク成形化合物を含む不飽和ポリエステル樹脂であってもよい。こうした成形化合物は、DE3,643,007号およびP F Bruinsによる「Unsaturated Polyester Technology」と題する、Gordon and Breach Science出版者、1976年、211ページから238ページの専攻論文に記載されている。
【0102】
所望であれば、分散はその他の成分、たとえば樹脂(すでに有機媒質を構成していないもの)結合剤、流動化剤(たとえばGB−A−1508576号およびGB−A−2108143号に記載されるものなど)、沈殿防止剤、可塑化剤、レベリング剤、および防腐剤などを含有してもよい。
【0103】
この組成物は典型的に2.5重量%から95重量%の粒子状の固体を含有しており、その正確な量は、固体の性質と固体および有機媒質の相対密度とによって決まる。たとえば、固体が有機色素などの有機材料である組成物は、典型的に5重量%から40重量%の固体を含有するのに対し、固体が無機色素、充填剤または増量剤などの無機材料である組成物は、典型的に組成物全体の40重量%から90重量%を含有する。
【0104】
実施形態の1つにおいて、組成物は、40℃以下または30℃以下の温度で有機媒質内の粒子状の固体を粉砕することによって調製される。しかし、固体が銅フタロシアニンなどの粗フタロシアニン色素であるときには、50℃から150℃の温度で有機液体における粉砕を行なうことが有用な場合がある。なぜなら、より緑色の明るい色彩が得られるかもしれないからである。これは、有機液体が高沸点の脂肪族および/または芳香族の蒸留物であるときに特に当てはまる。
【0105】
組成物は、分散を調製するために公知である従来の方法のいずれかによって得られてもよい。よって、固体と、有機媒質と、式(1)のグラフト共重合体とをいかなる順序で混合してもよく、次いで、たとえばボールミリング、ビーズミリング、グラベルミリングまたはプラスチックミリングなどによってその混合物に機械的処理を受けさせることによって、分散が形成されるまで固体の粒子を小さくして適切なサイズにする。代替的には、固体を独立に、または有機溶質もしくは式(1)のグラフト共重合体のいずれかとの混合物中で処理して粒子サイズを低減させ、次いでその他の成分を加え、混合物を撹拌して分散を提供してもよい。
【0106】
乾燥した形の組成物が必要であるとき、液体媒質は典型的に揮発性であることによって、蒸発などの簡単な分離手段によって粒子状の固体から簡単に除去できるようにする。特に有用な組成物の1つにおいては、組成物は液体媒質を含む。
【0107】
乾燥組成物が式(1)のグラフト共重合体と粒子状の固体とを含有するとき、乾燥組成物は、乾燥組成物の重量に基づいて少なくとも0.2%、または少なくとも0.5%、または少なくとも1.0%の式(1)のグラフト共重合体を含有してもよい。異なる実施形態においては、乾燥組成物は、粒子状の固体の重量に基づいて、100重量%以下、または50重量%以下、または20重量%以下、または10重量%以下を含有する。
【0108】
本明細書において前述したとおり、この組成物は、粒子状の固体および膜形成樹脂結合剤の両方の存在下で液体担体中で粒子状の固体を粉砕するミルベース(mill−base)の調製に特に好適である。
【0109】
よって、本発明のよりさらなる局面に従うと、粒子状の固体、式(1)のグラフト共重合体および膜形成樹脂を含むミルベースが提供される。
【0110】
典型的にミルベースは、ミルベースの総重量に基づいて、5重量%から70重量%、または10重量%から50重量%の粒子状の固体を含有する。
【0111】
ミルベース中の樹脂の量は広範囲に変動し得るが、典型的にはミルベースの連続/液相の10重量%以上、または15重量%以上である。異なる実施形態において、樹脂の量はミルベースの連続/液相の50重量%以下、または40重量%以下である。
【0112】
ミルベース中の式(1)のグラフト共重合体の量は粒子状の固体の量に依存するが、ミルベースの0.1重量%から10重量%、または0.5重量%から7.5重量%の範囲であってもよい。
【0113】
結合剤は、天然および合成の材料を含む重合体材料である。実施形態の1つにおいて、結合剤はポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレニクス(polystyrenics)、ポリエステル、ポリウレタン、アルキド、多糖類、たとえばセルロースなど、または天然タンパク質(たとえばカゼインなど)を含む。異なる実施形態において、結合剤は、粒子状の固体の量に基づいて50%より多く、100%より多く、または200%より多く、または300%より多く、または400%より多く組成物中に存在してもよい。
【0114】
ミルベース中の任意の結合剤の量は広範囲に変動し得るが、典型的にはミルベースの連続/液相の10重量%以上、およびしばしば20重量%以上である。実施形態の1つにおいて、結合剤の量はミルベースの連続/液相の50重量%以下、または40重量%以下である。
【0115】
実施形態の1つにおいて、本発明の組成物は、1つまたはそれ以上の付加的な公知の分散剤をさらに含む。
【0116】
以下の実施例は本発明の例示を提供する。これらの実施例は網羅的なものではなく、本発明の範囲を制限することは意図されていない。
【実施例】
【0117】
中間体A:イプシロン−カプロラクトン(275部)および1−ドデカノール(32.07部)を150℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いでジルコニウムブトキシド触媒(1.535部)を加えて、反応物を180℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。次いで反応物を70℃に冷却し、2−イソシアナトエチルメタクリレート(26.7部)を加える。反応物を窒素の下で約1時間撹拌する。1時間後にはイソシアネートはほとんどまたはまったく残っていない。20℃に冷却した後、ポリエステルのロウ様の固体が得られる。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=2300およびMw=5300を有する。これが中間体Aである。
【0118】
中間体B:イプシロン−カプロラクトン(350部)および2−ヒドロキシルエチルメタクリレート(28.5部)を150℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いで4−メトキシ−フェノール(0.38g)および塩化スズ触媒(0.02部)を加えて、反応物を120℃にて窒素の下で約17時間撹拌する。20℃に冷却した後、得られるポリエステルはロウ様の固体である。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=2400およびMw=3400を有する。これが中間体Bである。
【0119】
中間体C:イプシロン−カプロラクトン(200部)および1−ドデカノール(23.32部)を120℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いで塩化スズ触媒(0.002部)を加えて、反応物を120℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。次いで反応物を70℃に冷却する。次いで、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(26.5部)およびジブチルチンジラウレート(0.25部)を加える。反応物を窒素の下で約2時間撹拌する。2時間後にはイソシアネートはほとんどまたはまったく残っていない。20℃に冷却した後、ポリエステルのロウ様の固体が得られる。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=2200およびMw=2600を有する。これが中間体Cである。
【0120】
中間体D:イプシロン−カプロラクトン(800部)および1−ドデカノール(105.3部)を160℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いでジルコニウムブトキシド触媒(0.5部)を加えて、反応物を180℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。次いで反応物を70℃に冷却する。次いで、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(120部)およびジブチルチンジラウレート(4.5部)を加える。反応物を窒素の下で約2時間、イソシアネートがほとんどまたはまったく残らなくなるまで撹拌する。20℃に冷却した後、ポリエステルのロウ様の固体が得られる。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=1600およびMw=4300を有する。これが中間体Dである。
【0121】
中間体E:イプシロン−カプロラクトン(300部)、デルタ−バレロラクトン(108.1部)および1−ドデカノール(57.6部)を160℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いでジルコニウムブトキシド触媒(2.33部)を加えて、反応物を180℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。次いで反応物を70℃に冷却する。次いで、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(57.5部)およびジブチルチンジラウレート(0.1部)を加える。反応物を窒素の下で約2時間、イソシアネートがほとんどまたはまったく残らなくなるまで撹拌する。20℃に冷却した後、ポリエステルが得られる。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=1900およびMw=4500を有する。これが中間体Eである。
【0122】
中間体F:イプシロン−カプロラクトン(500部)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(128部、Mn約350)を150℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いでジルコニウムブトキシド触媒(2.5部)を加えて、反応物を180℃にて窒素の下で約24時間撹拌する。次いで反応物を20℃に冷却する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=2600およびMw=5400を有する。これが中間体Fである。
【0123】
分散剤実施例1:中間体A(30部)をトルエン(200部)に溶解し、50℃にて窒素の下で撹拌する。次いでジメチルアミノエチルメタクリレート(20部)、2,2’−アゾビスブチロニトリル(0.5部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(0.62部、10部のトルエン中)を加えて、反応物を70℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=11,400およびMw=25,400を有する。次いで、塩化ベンジル(14.5部)およびブトキシエタノール(80部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約20時間撹拌する。その結果得られる生成物を、次いで回転式蒸発器において37重量パーセントの固体にまで濃縮する。これが分散剤1である。
【0124】
分散剤実施例2:中間体B(28部)をメチルプロピルアセテート(30部)およびブトキシエタノール(30部)に溶解し、70℃にて窒素の下で撹拌する。次いでジメチルアミノエチルメタクリレート(12部)、2,2’−アゾビスブチロニトリル(0.4部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(0.37部)を加えて、反応物を70℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=14,400およびMw=38,200を有する。次いで、塩化ベンジル(8.7部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約20時間撹拌する。その結果得られる生成物は、45重量パーセントの固体含有量を有した。これが分散剤2である。
【0125】
分散剤実施例3:中間体C(28部)をメトキシプロピルアセテート(20部)およびブトキシエタノール(20部)に溶解し、90℃にて窒素の下で撹拌する。次いでジメチルアミノエチルアクリレート(12部)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(0.4部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(0.37部)を加えて、反応物を90℃にて窒素の下で約22時間撹拌する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=7200およびMw=31,700を有する。次いで反応物を70℃に冷却し、塩化ベンジル(9.5部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約6時間撹拌する。その結果得られる生成物は、52重量パーセントの固体含有量を有する。これが分散剤3である。
【0126】
分散剤実施例4:中間体D(68部)をメトキシプロピルアセテート(50部)およびブトキシエタノール(50部)に溶解し、90℃にて窒素の下で撹拌する。次いでジメチルアミノエチルアクリレート(30部)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(1.0部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.0部)を加えて、反応物を90℃にて窒素の下で約24時間撹拌する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=6800およびMw=29,500を有する。次いで反応物を70℃に冷却し、塩化ベンジル(23.9部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約6時間撹拌する。その結果得られる生成物を、メトキシプロピルアセテートで35%の固体に希釈する。これが分散剤4である。
【0127】
分散剤実施例5:中間体D(68部)を酢酸ブチル(100部)に溶解し、90℃にて窒素の下で撹拌する。次いでジメチルアミノエチルアクリレート(15部)、スチレン(15部)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(1.0部)、およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.0部)を加えて、反応物を90℃にて窒素の下で約24時間撹拌する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=5900およびMw=30,400を有する。反応物を70℃に冷却し、塩化ベンジル(11.9部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約6時間撹拌する。その結果得られる生成物は、50重量パーセントの固体含有量を有する。これが分散剤5である。
【0128】
分散剤実施例6:中間体E(140部)、ジメチルアミノエチルアクリレート(60部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.8部)、メトキシプロピルアセテート(100部)およびブトキシエタノール(100部)を90℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いで1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(2.0部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.8部)を加えて、反応物を90℃にて窒素の下で約24時間撹拌する。この生成物(210.71部)を反応容器から取出して、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=4500およびMw=21000を有する。残りの生成物(193.05部)を70℃に冷却し、塩化ベンジル(22.9部)およびメトキシプロピルアセテート(22.9部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約6時間撹拌する。その結果得られる生成物は、46重量パーセントの固体含有量を有する。これが分散剤6である。
【0129】
分散剤実施例7:中間体E(60部)、ジメチルアミノエチルアクリレート(25部)、ヒドロキシエチルアクリレート(5.0部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.0部)、メトキシプロピルアセテート(60部)およびブトキシエタノール(30部)を90℃にて窒素の下でともに撹拌する。次いで1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(1.0部)およびブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.0部)を加えて、反応物を90℃にて窒素の下で約24時間撹拌する。この生成物(80部)を反応容器から取出して、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=4200およびMw=24000を有する。残りの生成物(100部)を70℃に冷却し、塩化ベンジル(5.4部)およびメトキシプロピルアセテート(5.4部)を加える。次いで反応混合物を70℃にて約6時間撹拌する。その結果得られる生成物は、49重量パーセントの固体含有量を有する。これが分散剤7である。
【0130】
分散剤実施例8:中間体F(69.34部)、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(8.7部)、メトキシプロピルアセテート(70部)およびジブチルチンジラウレート(0.1部)を90℃にて窒素の下で約2時間、イソシアネートがほとんどまたはまったく残らなくなるまで撹拌する。ジメチルアミノエチルアクリレート(30部)、メトキシプロピルアセテート(30部)、ブチル3−メルカプトプロピオン酸塩(1.5部)および1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(1.0部)を加えて、反応物を90℃にて窒素の下で約20時間撹拌する。この生成物を、ポリスチレン標準に対するサイズ排除クロマトグラフィによって特徴付けし、これはMn=5500およびMw=28400を有する。
【0131】
反応物を70℃に冷却し、塩化ベンジル(8部)およびメトキシプロピルアセテート(8部)を加える。次いで反応物を70℃にて窒素の下で20時間撹拌する。その結果得られる生成物は、52%の固体含有量を有する。これが分散剤8である。
【0132】
色素分散性能:分散剤6から8(1.0部)を酢酸ブチル(7.0部)に溶解することによって分散を調製した。3mmのガラスビーズ(20部)および赤色色素(2.0部、Cromophtal Red A3B、Cibaより)を加えて、内容物を水平振とう機において16時間粉砕した。その結果生じたミルベースは流体であった。
【0133】
比較用分散剤1(Comparative Dispersant1:CED1)は分散剤実施例4と類似のものであるが、ただこの分散剤は塩化ベンジルを加えずに調製される。
【0134】
比較用分散剤2(CED2)は分散剤実施例5と類似のものであるが、ただこの分散剤は塩化ベンジルを加えずに調製される。
【0135】
分散評価1:分散剤1から3を、キシレン:酢酸ブチル:メトキシプロピルアセテートの1:1:1混合物に溶解し(1.3部の分散剤(50%活性)を18.6部の溶媒に溶解することに基づく)、次いでDesmophen A 760(8.75部、Bayerより、ヒドロキシルを有するポリアクリレート)を加えることによって、分散を調製する。赤色色素(6.3部、Cromophtal Red A3B、Cibaより)に次いで3mmのガラスビーズ(125部)を加え、内容物をSkandex振とう機において1時間粉砕する。これがミルベースである。
【0136】
各ミルベースの粘性(Pas)をBohlin V88レオメータにおいて、37.6S−1のせん断速度における2.5°/15mmのコーンを用いて測定する。
【0137】
次いで、Desmophen A 760(10.94部、Bayerより)およびキシレン:酢酸ブチル:メトキシプロピルアセテートの1:1:1混合物(2.22部)をミルベースに加える。その結果得られるミルベース(4.82部)を、次いでDesmodure N−3390(0.44部、Bayerより、イソシアネート官能性材料)と混合し、番号3のK−barを用いて白黒のカードの上に展色する。コーティングを風乾させた後に、Byk Gardner光沢計を用いて光沢を測定する。各ミルベースの粘性、および分散剤1から3を用いて配合されたコーティングに対して得られた光沢値は、以下のとおりである:
【0138】
【表1】

分散評価2:CAB樹脂との適合性:分散剤4(3.18部)を酢酸ブチル(9.7部)に溶解することによって、分散を調製する。赤色色素(11.00部、Paliogen Maroon L3920、BASFより)および3mmのガラスビーズ(125部)を加える。次いで、Macrynal SMC565(7.44部、UCB Chemicalsより)および酢酸ブチル中の15%CAB樹脂溶液(8.68部、Eastman Chemicalsより)をミルベースに加える。内容物をskandex振とう機において1時間粉砕する。これがミルベースである。
【0139】
その結果得られるミルベース(1.28部)を、次いで酢酸ブチル中のCAB樹脂の15%溶液(1.00部、Eastman Chemicalsより)と、Macrynal SMC565(1.21部、UCB Chemicalsより)と、Desmodur N3390(0.23部、Bayerより)と、酢酸ブチル(1.06部)と混合する。混合物を番号3のK−barを用いて白黒のカードの上に展色する。その結果得られる分散剤4を用いたコーティングは優れた色強度を有し、かつ高い透明性および光沢を示す。
【0140】
分散評価3:分散剤実施例4および5とCED1およびCED2との比較
分散剤を酢酸ブチルに溶解することによって、分散を調製する。(2.89部の分散剤(50%活性)を11.95部の溶媒に溶解することに基づく。)Macrynal SMC565(10.5部、UCB Chemicalsより)および3mmのガラスビーズ(125部)および赤色色素(7.23部、Cromophtal Red A 3B、Cibaより)を加える。内容物をskandex振とう機において1時間粉砕する。上述のとおりにミルベースの粘性を測定する。ミルベース(1.93部)を、酢酸ブチル(0.85部)中のMacrynal SMC565(2.94部、UCB Chemicalsより)およびDesmodur N3390(0.33部、Bayerより)の溶液中に降下させ、次いで番号3のK−barを用いて白黒のカードの上に展色する。コーティングを風乾させた後に、Byk Gardner光沢計を用いて光沢を測定する。分散剤4、5、CED1およびCED2に対して得られた粘性および光沢の値は以下のとおりである。
【0141】
【表2】

分散評価4:分散剤4および5、CED1およびCED2を酢酸ブチルに溶解することによって、分散を調製する(2.57部の分散剤(50%活性)を4.53部の溶媒に溶解することに基づく)。次いで、Macrynal SMC565(8.54部、UCB Chemicalsより)および酢酸ブチル中の15%CAB樹脂溶液(10.05部、Eastman Chemicalsより)を加える。3mmのガラスビーズ(125部)および赤色色素(6.43部、Cromophtal Red A 3B、Cibaより)を加え、内容物をskandex振とう機において2時間粉砕する。次いでミルベースに酢酸ブチル(10部)を加えて、内容物をさらに2時間粉砕する。
【0142】
その結果得られるミルベース(2.17部)を、次いでMacrynal SMC565(2.94部、UCB Chemicalsより)と、Desmodur N3390(0.33部、Bayerより)と、酢酸ブチル(0.85部)と混合する。混合物を番号3のK−barを用いて白黒のカードの上に展色する。コーティングを風乾させた後に、Byk Gardner光沢計を用いて光沢を測定し、色強度を視覚的に評価する。得られる結果は以下のとおりである:
【0143】
【表3】

分散評価5:評価4からの分散のミルベース(0.84部)を、Acrythane White(7.4部、HMG Paints Limitedより)およびAcrythane Hardner(1.8部、HMG Paints Limitedより)の中に降下させる。コーティングを風乾させた後に、Byk Gardner光沢計を用いて光沢を測定し、色強度および衝撃シーディングを視覚的に評価する。得られる結果は以下のとおりである:
【0144】
【表4】

この結果から、本明細書に開示される分散剤は、特にペリレン色素、アントラキノン色素、またはキナクリドンベースの色素に対して、溶媒ベースの系における色素に、許容できる分散性、許容できる透明性、許容できる粘性、および許容できる衝撃シーディングのうちの少なくとも1つを与えることができ、かつコーティングに許容できる特性を与えることができることが示される。
【0145】
実施例または別様に明確に示されているところを除き、この記載において材料の量、反応条件、分子量、炭素原子の数などを特定するすべての数量は「約」という語によって修正されることが理解されるべきである。別様に示されない限り、本明細書において言及される各化学物質または組成物は商業的な等級の材料であって、異性体、副生成物、誘導体、および商業的等級に存在することが通常理解されているその他の材料を含有し得ると解釈されるべきである。本明細書に示される上方および下方の量、範囲、および比率の制限が独立に組合されてもよいことが理解されるべきである。同様に、本発明の各構成要素に対する範囲および量が、その他の構成要素のいずれかに対する範囲および量とともに用いられてもよい。
【0146】
本発明をその好ましい実施形態に関して説明したが、本明細書を読むとそのさまざまな修正形が当業者に明らかになることが理解されるべきである。したがって、本明細書に開示される発明は、添付の請求項の範囲内にあるこうした修正形を含むことが意図されることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の固体と、担体液と、式(1)のグラフト共重合体とを含む組成物であって:
【化18】

ここで
はCHまたはH基であり;
Aは少なくとも1つの三級アミン基を含有する部分であり;
は四級化されたアミンを含有する部分であり;
Bは数平均分子量が少なくとも200である少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分であり;
Cは反応性官能基を含有しない部分であり;
Dは少なくとも1つの反応性官能基または極性基を含有する部分であり;
J、K、L、MおよびNは、前記グラフト共重合体内の前記部分A、A、B、CおよびDをそれぞれ含有する繰り返し単位の平均(負でない)数であり;
Jは任意には0に等しく;
Kは0に等しくなく;
Lは0に等しくなく;
Mは任意には0に等しく;
Nは任意には0に等しい、組成物。
【請求項2】
式1の前記グラフト共重合体は、−CH−C(R)(A)−を含む繰り返し単位を含み、前記繰り返し単位−CH−C(R)−主鎖に付く前記A部分の最初の3つの原子はC(=O)−O−またはC(=O)−N−である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式1の前記グラフト共重合体は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートまたはその混合物に由来する(メタ)アクリルグラフト共重合体として特徴付けられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
は、塩化ベンジル、ジメチルスルホキシド、酸化プロピレン、または酸化スチレンによって四級化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
Bは、ラクトンまたはヒドロキシカルボン酸、またはその混合物の重合に由来するポリエステル鎖を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
Bは、数平均分子量が300から5000、または500から3000、または1000から2500ダルトンの範囲であるポリエステル鎖を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
Nは0に等しい、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
J+K+L+M+Nの合計は、前記グラフト共重合体の数平均分子量が1000から100,000、望ましくは2000から60,000、好ましくは3000から40,000ダルトンの範囲内になるような数である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
式1の前記グラフト共重合体は繰り返し単位−CH−C(R)−Bを含み、四級化の前は、式(1)の前記グラフト共重合体中の−CH−C(R)−Bの量は、前記グラフト共重合体の重量に基づいて50重量パーセントから90重量パーセントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
式1の前記グラフト共重合体は繰り返し単位−CH−C(R)−Bを含み、四級化の後は、式(1)の前記グラフト共重合体中の−CH−C(R)−Bの量は、前記グラフト共重合体の重量に基づいて35重量パーセントから80重量パーセントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
式(1)の前記グラフト共重合体は、前記組成物の重量に基づいて0.1重量パーセントから50重量パーセントで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
式(1)の前記グラフト共重合体は、前記組成物の重量に基づいて0.5重量パーセントから30重量パーセントで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記粒子状の固体は色素を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記色素は、ペリレンベースの色素、アントラキノンベースの色素、およびキナクリドンベースの色素からなる群より選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ペリレンベースの色素、アントラキノンベースの色素、またはキナクリドンベースの色素を分散させる方法であって、担体液と、式(1)のグラフト共重合体とを含む組成物を前記色素に供給するステップを含み:
【化19】

ここで
はCHまたはH基であり;
Aは少なくとも1つの三級アミン基を含有する部分であり;
は四級化されたアミンを含有する部分であり;
Bは数平均分子量が少なくとも200である少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分であり;
Cは反応性官能基を含有しない部分であり;
Dは少なくとも1つの反応性官能基または極性基を含有する部分であり;
J、K、L、MおよびNは、前記グラフト共重合体内の前記部分A、A、B、CおよびDをそれぞれ含有する繰り返し単位の平均(負でない)数であり;
Jは任意には0に等しく;
Kは0に等しくなく;
Lは0に等しくなく;
Mは任意には0に等しく;
Nは任意には0に等しい、方法。
【請求項16】
担体液中に色素を分散させるための、式(1)の前記グラフト共重合体の使用であって:
【化20】

ここで
はCHまたはH基であり;
Aは少なくとも1つの三級アミン基を含有する部分であり;
は四級化されたアミンを含有する部分であり;
Bは数平均分子量が少なくとも200である少なくとも1つのポリエステル鎖を含有する部分であり;
Cは反応性官能基を含有しない部分であり;
Dは少なくとも1つの反応性官能基または極性基を含有する部分であり;
J、K、L、MおよびNは、前記グラフト共重合体内の前記部分A、A、B、CおよびDをそれぞれ含有する繰り返し単位の平均(負でない)数であり;
Jは任意には0に等しく;
Kは0に等しくなく;
Lは0に等しくなく;
Mは任意には0に等しく;
Nは任意には0に等しい、使用。
【請求項17】
前記色素は、ペリレンベースの色素、アントラキノンベースの色素、またはキナクリドンベースの色素からなる群より選択される、請求項16に記載の使用。

【公表番号】特表2010−528146(P2010−528146A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508865(P2010−508865)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056372
【国際公開番号】WO2008/145613
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(507370530)ルブリゾル リミテッド (8)
【Fターム(参考)】