説明

グラフトポリマーの製造方法

【課題】化学構造が精密に制御されたグラフトポリマーを製造する方法、その方法で得られたグラフトポリマー及び該グラフトポリマーを含有する水系顔料分散体を提供する。
【解決手段】(1)保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)由来の構成単位、及びラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤と反応し得る官能基含有モノマー(B)由来の構成単位を含むポリマーから構成される主鎖を、原子移動ラジカル重合法により合成する工程、(2)工程(1)で得られた主鎖に、ラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤を導入する工程、(3)工程(2)で得られた主鎖の側鎖に、疎水性モノマー由来の構成単位を含むグラフトポリマーを、原子移動ラジカル重合法により合成する工程を有するグラフトポリマーの製造方法、この方法で得られたグラフトポリマー、及び該グラフトポリマーを含有する水系顔料分散体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフトポリマーの製造方法、その方法により得られるグラフトポリマー、及び該グラフトポリマーを含む水系顔料分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフトポリマーに関して、各種の製造方法が知られており、その応用面も多岐にわたっている。その中で顔料分散剤としての応用面も見出されている。
グラフトポリマーの製造方法としては、典型的にはマクロモノマー法が挙げられる。
特許文献1には、リビングラジカル重合法の一つである原子移動ラジカル重合(ATRP)により調製したマクロモノマーを用いたグラフトポリマーの製造方法が記載されている。しかしながら、この製造方法においては、未反応のマクロモノマーの存在や、グラフトポリマーの分子量分布が広いため、十分に構造の制御されたグラフトポリマーが合成されているとはいえない。
また、従来法で合成したグラフトポリマーでは、水溶性の低分子ポリマーが生成してしまい、これを顔料分散剤として用いた場合、水の表面張力を低下させ、塗布時に顔料がぬれ広がってしまうという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特表2005−510595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、化学構造が精密に制御されたグラフトポリマーを製造する方法、その方法で得られたグラフトポリマー、及び該グラフトポリマーを含有する水系顔料分散体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の工程を有する方法により、化学構造が精密に制御されたグラフトポリマーが効率よく得られることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[3]を提供する。
[1]下記工程(1)〜(3)を有するグラフトポリマーの製造方法。
工程(1):保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)由来の構成単位、及びラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤と反応し得る官能基含有モノマー(B)由来の構成単位を含むポリマーから構成される主鎖を、原子移動ラジカル重合法により合成する工程
工程(2):工程(1)で得られた主鎖に、ラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤を導入する工程
工程(3):工程(2)で得られた主鎖の側鎖に、疎水性モノマー由来の構成単位を含むグラフトポリマーを、原子移動ラジカル重合法により合成する工程
[2]前記[1]の方法により得られる、グラフトポリマー。
[3]前記[2]のグラフトポリマーを含有する、水系顔料分散体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、主鎖及び側鎖を原子移動ラジカル重合で合成しており、またマクロモノマーを使用していないため、十分に構造の制御された組成の均一なグラフトポリマーを得ることができる。
本発明のグラフトポリマーは、主鎖に保護されたカルボン酸基含有モノマー由来の構成単位を含み、分子量分布が狭く、未反応のマクロモノマーを含まない。このため、カルボン酸の保護基を脱保護した後、顔料を水中に分散させるための分散剤として用いると、水の表面張力をほとんど低下させることなく、顔料を十分に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[グラフトポリマーの製造方法]
本発明のグラフトポリマーの製造方法は、下記工程(1)〜(3)を有することを特徴とする。
工程(1):保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)由来の構成単位、及びラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤と反応し得る官能基含有モノマー(B)由来の構成単位を含むポリマーから構成される主鎖を、原子移動ラジカル重合法により合成する工程
工程(2):工程(1)で得られた主鎖に、ラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤を導入する工程
工程(3):工程(2)で得られた主鎖の側鎖に、疎水性モノマー由来の構成単位を含むグラフトポリマーを、原子移動ラジカル重合法により合成する工程
【0008】
(原子移動ラジカル重合法(ATRP法))
本明細書中において、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)とは、リビングラジカル重合法の一つであり、次の反応式で表すことができる。
【0009】
【化1】

【0010】
ここでPはポリマー又は重合開始剤、Xはハロゲン原子、Aは低原子価金属錯体、XAは高原子価錯体である。最初にAが有機ハロゲン化物P−Xからハロゲン原子Xを引き抜き、XAと成長ラジカルP・が生成する。このP・にはモノマーが付加し、やがてXAからXを引き抜いて再びP−Xに戻る。この活性化状態と不活性化状態を繰り返すことで、分子量分布の狭いポリマーが生成する。
原子移動ラジカル重合には、周期表7族〜11族から選ばれる少なくとも一種の遷移金属が中心金属である金属錯体を触媒として使用し、重合開始剤として有機ハロゲン化物、ハロゲン化スルホニル化合物、又はハロゲン含有マクロイニシエーターを使用する。
【0011】
使用する有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物は、重合の開始点となるハロゲンを少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はないが、通常、開始点(重合開始末端)となるハロゲンを1つ又は2つ有する化合物を使用する。
開始点となるハロゲンを1つ有する重合開始剤の具体例としては、フェニルメチルクロライド、フェニルメチルブロマイド、フェニルメチルヨーダイド等;1−フェニルエチルクロライド、1−フェニルエチルブロマイド、1−フェニルエチルヨーダイド等;1−フェニルイソプロピルクロライド、1−フェニルイソプロピルブロマイド、1−フェニルイソプロピルヨーダイド等;メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−ヨードプロピオネート等;メチル−2−クロロイソブチレート、エチル−2−クロロイソブチレート、メチル−2−ブロモイソブチレート、エチル−2−ブロモイソブチレート、メチル−2−ヨードイソブチレート、エチル−2−ヨードイソブチレート等;α−クロロアセトフェノン、α−ブロモアセトフェノン、α−クロロアセトン、α−ブロモアセトン等;α−クロロイソプロピルフェニルケトン、α−ブロモイソプロピルフェニルケトン等;p−トルエンスルフォニルクロリド、p−トルエンスルフォニルブロミド等が挙げられる。
【0012】
開始点となるハロゲンを2つ有する重合開始剤の具体例としては、α,α'−ジクロロキシレン、α,α'−ジブロモキシレン、α,α'−ジヨードキシレン等;ビス(1−クロロエチル)ベンゼン、ビス(1−ブロモエチル)ベンゼン等;ビス(1−クロロ−1−メチルエチル)ベンゼン、ビス(1−ブロモ−1−エチル)ベンゼン等;2,5−ジクロロアジピン酸ジメチル、2,5−ジブロモアジピン酸ジメチル、2,5−ジヨードアジピン酸ジメチル、2,5−ジクロロアジピン酸ジエチル、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル、2,5−ジヨードアジピン酸ジエチル、2,6−ジクロロ−1,7−ヘプタン二酸ジメチル、2,6−ジブロモ−1,7−ヘプタン二酸ジメチル、2,6−ジヨード−1,7−ヘプタン二酸ジメチル、2,6−ジクロロ−1,7−ヘプタン二酸ジエチル、2,6−ジブロモ−1,7−ヘプタン二酸ジエチル、2,6−ジヨード−1,7−ヘプタン二酸ジエチル等;2,6−ジクロロ−2,6−ジメチル−1,7−ヘプタン二酸ジメチル、2,6−ジブロモ−2,6−ジメチル−1,7−ヘプタン酸ジメチル等;3,5−ジクロロ−2,6−ヘプタンジオン、3,5−ジブロモ−2,6−ヘプタンジオン等;3,5−ジクロロ−3,5−ジメチル−2,6−ヘプタンジオン、3,5−ジブロモ−3,5−ジメチル−2,6−ヘプタンジオン等;エチレングリコールビス(2−ブロモ酢酸)エステル等;エチレングリコールビス(2−ブロモプロピオン酸)エステル、エチレングリコールビス(2−クロロプロピオン酸)エステル等;エチレングリコールビス(2−ブロモイソ酪酸)エステル、エチレングリコールビス(2−クロロイソ酪酸)エステル等;α,α−ジクロロアセトフェノン、α,α−ジブロモアセトフェノン等が挙げられる。
これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
一方、ハロゲン含有マクロイニシエーターとは、重合の開始点(重合開始末端)となるハロゲン末端を少なくとも1つ有する重合体である。ハロゲン含有マクロイニシエーターは、通常、原子移動型ラジカル重合法又は逆原子移動型ラジカル重合法によるレドックス触媒系を使用したリビングラジカル重合方法で得られる。
原子移動型ラジカル重合法を使用する場合は、重合開始時に重合開始剤としてハロゲン含有ラジカル重合開始剤、触媒として低原子価金属錯体を使用してラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させる。一方、逆原子移動型ラジカル重合法を使用する場合は、重合開始時に重合開始剤としてラジカル重合開始剤、触媒としてハロゲン含有高原子価金属錯体を使用してラジカル重合性モノマーをリビングラジカル重合させる。
【0014】
上記の何れの重合法の場合も、重合開始剤は、開始点となるハロゲンを少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はないが、通常、開始点となるハロゲンを1つ又は2つ有する化合物である。理論的には、マクロイニシエーターの重合に使用する重合開始剤の開始点の数がそのまま得られるマクロイニシエーター1分子当たりの開始点の数となるが、2分子停止反応、不均化反応、ハロゲンの脱離等の副反応で開始点が若干少なくなることもある。したがって、重合条件等により分子量分布および1分子当たりの開始点の数の異なるマクロイニシエーターが得られる。
マクロイニシエーターの製造方法としては、原子移動型ラジカル重合法によるリビングラジカル重合方法が好ましい。ハロゲン含有マクロイニシエーターの重合に使用するモノマーは、ラジカル重合性モノマーであれば特に制限はなく、本発明における重合に使用するモノマーと同じでも異なっていてもよい。
【0015】
(工程(1))
工程(1)は、保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)(以下、「(A)成分」ともいう)由来の構成単位、及びラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤と反応し得る官能基含有モノマー(B)(以下、「(B)成分」ともいう)由来の構成単位を含むポリマーから構成される主鎖を、原子移動ラジカル重合法により合成する工程である。
重合体中にカルボン酸基を導入する場合、一般的にはアクリル酸、メタクリル酸等のカルボン酸を有するモノマーを共重合することで行う。しかし、遊離のカルボン酸基を有する場合、後述のATRP法の重合触媒である金属錯体が失活してしまうため、重合を制御することができない。本発明ではカルボン酸基を脱離可能基により保護したモノマーを用いてATRPを行うことで、重合がリビング的に進行するために重合を制御することができ、分子量分布の狭い重合体を得ることができる。
【0016】
<(A)成分>
工程(1)で使用する(A)成分としては、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、2−テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、温和な条件で脱保護反応が進行するという観点から、2−テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレートが好ましい。すなわち、保護されたカルボン酸基が2−テトラヒドロピラニロキシカルボニル基であることが好ましい。
また、工程(1)で得られる主鎖のうち、(A)成分由来の構成単位の含有量は、顔料の水分散性の観点から、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは10〜40質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。
【0017】
<(B)成分>
工程(1)で使用する(B)成分としては、アミノ基を有するモノマー、エポキシ基を有するモノマー、ヒドロキシ基を有するモノマー等が挙げられるが、反応性、重合速度の観点からヒドロキシ基を有するモノマーが好ましい。
アミノ基を有するモノマーとしては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等が挙げられる。
エポキシ基を有するモノマーとしては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
ヒドロキシ基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド等が挙げられ、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましく、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
工程(1)で得られる主鎖のうち、(B)成分由来の構成単位の含有量は、顔料へのポリマーの吸着性の観点から、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜15質量%である。
【0019】
<(C)成分>
工程(1)においては、前記の(A)成分及び(B)成分と共に、(C)成分として、これらと共重合可能な他のモノマーを使用することができる。この共重合可能な他のモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン等のスチレン系モノマーが挙げられる。
【0020】
さらに、(C)成分として、下記式(1)で表されるモノマーが挙げられる。
CH2 =C(R1)COO(R2O)p3 (1)
(式中、R1は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R3はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは1〜30、好ましくは2〜20の数を示す。)
式(1)で表されるモノマーの具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30:式(1)中のpの値を示す。以下、同じ。その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30、特に2〜20)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30、特に2〜20)−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
工程(1)で得られる主鎖のうち、(C)成分由来の構成単位の含有量は、顔料水分散体の粘度の観点から、好ましくは20〜95質量%、より好ましくは30〜85質量%、さらに好ましくは40〜75質量%である。
なお、本発明においては、前記(A)〜(C)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
<重合開始剤>
工程(1)で用いられる好ましい重合開始剤は、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物であり、前記で例示したものが挙げられる。
それらの中でも、フェニルメチルクロライド、フェニルメチルブロマイド、1−フェニルエチルクロライド、1−フェニルエチルブロマイド;2−クロロプロピオニトリル;2−クロロプロピオン酸、2−ブロモプロピオン酸、2−クロロイソブタン酸、2−ブロモイソブタン酸等のアルキルエステル;α,α'−ジクロロキシレン、α,α'−ジブロモキシレン、p−ハロメチルスチレン;2,5−ジブロモアジピン酸ジアルキルエステル、2,6−ジブロモ−1,7−ヘプタン二酸ジアルキルエステルが好ましい。また、特に好ましくは、1−フェニルエチルクロライド、1−フェニルエチルブロマイド、メチル−2−クロロプロピオネート、エチル−2−クロロプロピオネート、メチル−2−ブロモプロピオネート、エチル−2−ブロモプロピオネート、メチル−2−クロロイソブチレート、エチル−2−クロロイソブチレート、メチル−2−ブロモイソブチレート、エチル−2−ブロモイソブチレート(EBiB)である。
重合開始剤の使用量は特に限定されないが、重合を制御するという観点から、モノマー100molに対し、通常0.05〜20mol、好ましくは0.1〜10mol、さらに好ましくは0.5〜10molである。
【0022】
<低原子価金属>
工程(1)における原子移動ラジカル重合法において、使用できる金属錯体の低原子価金属としては、Cu+、Ni0、Ni+、Ni2+、Pd0、Pd+、Pt0、Pt+、Pt2+、Rh+、Rh2+、Rh3+、Co+、Co2+、Ir0、Ir+、Ir2+、Ir3+、Fe2+、Ru2+、Ru3+、Ru4+、Ru5+、Os2+、Os3+、Re2+、Re3+、Re4+、Re6+、Mn2+、Mn3+が挙げられる。これらの中では、Cu+、Ru2+、Fe2+、Ni2+が好ましく、Cu+がより好ましい。
1価の銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅等、2価のニッケル化合物としては、二塩化ニッケル、二臭化ニッケル、二ヨウ化ニッケル等、二価の鉄化合物としては、二塩化鉄、二臭化鉄、二ヨウ化鉄等、2価のルテニウム化合物としては、二塩化ルテニウム、二臭化ルテニウム、二ヨウ化ルテニウム等が挙げられる。
原子価金属の使用量は、分子量分布の狭いポリマーを得るという観点から、重合開始剤1molに対し、好ましくは0.01〜100mol、より好ましくは0.1〜50mol、さらに好ましくは0.1〜10molである。
【0023】
上記金属の金属錯体には有機配位子が使用される。有機配位子は、重合溶媒への可溶化及びレドックス共役錯体の可逆的な変化を可能にするため使用される。金属への配位原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子等が挙げられるが、好ましくは窒素原子又はリン原子である。
有機配位子の具体例としては、2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等が挙げられる。
工程(1)においては、重合制御のために、前記低原子価錯体に高原子価錯体を添加してもよい。
【0024】
<重合溶媒>
工程(1)のラジカル重合は、無溶媒又は各種の溶媒中で行うことができる。
必要できる重合溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等ハロゲン化炭化水素類が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
重合溶媒の使用量は、特に限定されないが、モノマー仕込み量100質量部に対し、好ましくは1〜2000質量部、より好ましくは10〜1000質量部である。
【0025】
<ポリマーの製造>
工程(1)における重合温度は、通常−50〜200℃、好ましくは0〜150℃の温度で行われる。重合後は、公知の方法により、残存モノマー及び/又は溶媒の留去、適当な溶媒中での再沈殿、沈殿したポリマーの濾過又は遠心分離、ポリマーの洗浄及び乾燥を行うことができる。
再沈殿に使用する溶媒としては、水;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等のC5−C8アルカン;シクロヘキサン等のC5〜C8シクロアルカン;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のC1〜C6アルコール等が挙げられる。これらの中では、水、ヘキサン、メタノール又はこれらの混合物が好適である。
遷移金属化合物は、重合溶液から、アルミナ、シリカ又はクレーのカラム若しくはパッドに通すことにより除去することができる。その他、重合溶液に金属吸着剤を分散させて処理する方法も採用し得る。必要ならば金属成分は重合体中に残っていてもよい。
得られたポリマーは、公知の手法により、サイズ排除クロマトグラフィー、NMRスペクトル等により分析することができる。
【0026】
(工程(2))
工程(2)は、工程(1)で得られた主鎖に、ラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤(以下、「(D)成分」ともいう)を導入する工程である。
本発明においては、マクロモノマーを使用せず、主鎖合成後に原子移動ラジカル重合の重合開始点となる部位を有する化合物を主鎖中に均一に導入し、その重合開始点から原子移動ラジカル重合法により側鎖を合成することが、組成が均一で分子量分布の狭い構造の十分制御されたグラフトポリマーを得るために重要である。
【0027】
<(D)成分>
(D)成分は、原子移動ラジカル重合の重合開始点となる部位を有し、かつ、(B)成分由来の官能基と反応し得る官能基を持つ。(B)成分由来の官能基と反応し得る官能基としては、(B)成分由来の官能基がヒドロキシ基又はエポキシ基であればカルボキシ基、(B)成分由来の官能基がエポキシ基であれば、アミノ基、(B)成分由来の官能基がアミノ基であればエポキシ基が挙げられるが、反応性の観点からカルボキシ基が好ましい。
【0028】
カルボキシ基を有する(D)成分にはカルボキシ基をハロゲン化した酸ハロゲン化物も含むが、反応性の観点から酸ハロゲン化物が好ましい。
カルボキシ基を有する(D)成分としては、例えば2−クロロプロピオン酸、2−ブロモプロピオン酸、2−ヨードプロピオン酸、2−クロロブタン酸、2−ブロモブタン酸、2−ヨードブタン酸、2−クロロイソブタン酸、2−ブロモイソブタン酸、2−ヨードイソブタン酸、及びそれらの酸ハロゲン化物等が挙げられる。
アミノ基を有する(D)成分としては特に限定されず、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子、Rは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基、nは1〜20の整数を示す。)
一般式(2)において、Rのうちの炭素数1〜20のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基である。このアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基は、環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数6〜15のアリール基である。このアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
炭素数7〜20のアラルキル基は、環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数7〜15のアラルキル基である。このアラルキル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ナフチルメチル基、メチルナフチルメチル基等が挙げられる。
【0031】
上記エポキシ基を有する(D)成分としては特に限定されず、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、X、R及びnは前記と同じである。)
(D)成分の使用量としては、(B)成分由来の反応性官能基1molに対して、通常0.01〜1000mol、好ましくは0.01〜100mol、さらに好ましくは0.01〜10molである。
【0034】
<反応溶媒>
工程(2)で使用する反応溶媒は、特に限定されない。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等ハロゲン化炭化水素類が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
反応溶媒の使用量は特に限定されないが、ポリマー仕込み量100質量部に対し、好ましくは0〜1000質量部、より好ましくは50〜500質量部である。
【0035】
<重合開始剤導入ポリマーの製造>
(B)成分由来の官能基と、(D)成分中の(B)成分由来の官能基と反応し得る官能基との反応温度は特に限定されないが、通常−50〜200℃、好ましくは−20〜150℃である。またその際、必要なら適宜の触媒を使用しても差し支えない。反応後は、段落〔0025〕に記載した公知の方法により精製、洗浄、乾燥し、また、得られたポリマーは、公知の手法により分析することができる。
【0036】
(工程(3))
本発明の工程(3)は、工程(2)で得られた主鎖の側鎖に、疎水性モノマー由来の構成単位を含むグラフトポリマーを、原子移動ラジカル重合法により合成する工程である。
本発明においては、工程(2)で主鎖に導入した原子移動ラジカル重合の開始基を重合開始点として、原子移動ラジカル重合法により側鎖を合成する。主鎖のみならず側鎖も原子移動ラジカル重合で合成することで、組成が均一で、分子量分布の狭いグラフトポリマーを得ることができる。
なお、この工程(3)においては、主鎖の重合末端がリビング性を有するので、主鎖末端にも疎水性ポリマー鎖が導入される。
【0037】
<疎水性モノマー>
本発明に用いられる疎水性モノマーは、特に限定されないが、顔料に対する吸着能の観点から、水100gに対する20℃における溶解度が2g未満の疎水性モノマーが好ましい。
そのような疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、2−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、トリフルオロエチルメタクリレート等のフッ素系モノマー等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、グラフトポリマーに顔料を十分に含有させる観点から、スチレン系モノマーが好ましく、スチレンがさらに好ましい。
グラフトポリマー中、疎水性モノマー由来の構成単位の割合は、顔料をグラフトポリマーに十分に内包する等の観点から、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは、10〜50質量%、さらに好ましくは20〜50質量%である。
【0038】
<グラフトポリマーの製造>
工程(3)で使用できる低原子価金属、高原子価金属、有機配位子及び重合溶媒の種類及び好ましい使用量は工程(1)と同じである。
工程(3)における重合温度は、好ましくは−50〜200℃、より好ましくは0〜150℃の温度で行われる。重合後は、段落〔0025〕に記載した公知の方法により精製、洗浄、乾燥し、また、得られたポリマーは、公知の手法により分析することができる。
遷移金属化合物は、重合溶液から、アルミナ、シリカ又はクレーを充填したカラム又はパッドに通すことにより除去することができる。その他、重合溶液に金属吸着剤を分散させて処理する方法も採用し得る。必要ならば金属成分はポリマー中に残っていてもよい。
【0039】
(工程(d))
本発明においては、必要に応じて、工程(d)として、前記工程(3)で得られたグラフトポリマー中のカルボン酸基の保護基を脱離する工程を施すことができる。
工程(d)で使用する溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等ハロゲン化炭化水素類が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
脱保護反応時の反応温度は特には限定されないが、グラフトポリマーの分解を抑制するという観点から−50〜200℃が好ましく、更に好ましくは0〜150℃である。またその際、必要なら適宜の触媒を使用しても差し支えない。反応後は、段落〔0025〕に記載した公知の方法により精製、洗浄、乾燥し、また、得られたポリマーは、公知の手法により分析することができる。
工程(d)により得られるグラフトポリマー中、カルボン酸含有モノマー由来の構成単位の割合は、顔料を水中に分散させる観点から、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0041】
[グラフトポリマー]
本発明のグラフトポリマーは、マクロモノマーを使用せず、主鎖合成後に主鎖に導入した重合開始点から側鎖を合成することを特徴とする。さらに主鎖のみならず、側鎖も原子移動ラジカル重合法で合成することで、組成が均一で、分子量分布の狭いグラフトポリマーを得ることができる。
本発明のグラフトポリマーの数平均分子量は、グラフトポリマー分散時の粘度の観点から、好ましくは3000〜50000、より好ましくは4000〜40000、さらに好ましくは5000〜30000である。
本発明のグラフトポリマーの分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)は2.0以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.5以下である。
【0042】
なお、本発明のグラフトポリマーの重量平均分子量、数平均分子量、及び分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)は、東ソー株式会社社製「HLC−8220GPC」を用いて、溶媒として60mmol/Lのリン酸及び50mmol/Lのリチウムブロマイド含有ジメチルホルムアルデヒドを用いたゲルクロマトグラフィー法(カラム:TSK−GEL α−M×2本、流速:1mL/min、温度:40℃、検出:RI、サンプル濃度:0.2mg/mL)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0043】
本発明のグラフトポリマー中、疎水性モノマー由来の構成単位からなる側鎖の割合は、
顔料をグラフトポリマーに十分に内包させる観点から、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは、10〜50質量%、さらに好ましくは20〜50質量%である。
また、本発明のグラフトポリマーが、保護されたカルボン酸基を有する場合、保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)由来の構成単位の割合は、顔料の水分散性の観点から、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは10〜40質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。
【0044】
[水系顔料分散体]
本発明の水系顔料分散体は、前記の本発明のグラフトポリマーを含有する。
(顔料)
本発明の水系顔料分散体で用いられる顔料としては、無機顔料及び有機顔料が挙げられ、必要に応じてそれらに体質顔料を併用することもできる。
無機顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物が挙げられる。有機顔料としては、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
無機顔料の中では、特に黒色水系インクとしてはカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー13,17,74,83,97,109,110,120, 128,139,151,154,155,174,180;C.I. ピグメント・レッド 48,57:1,122,146,176,184,185,188,202;C.I.ピグメント・バイオレット19,23;C.I.ピグメントブルー15,15:1,15:2,15:3,15:4,16,60;C.I.ピグメント・グリーン7,36等が挙げられる。
体質顔料としては、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0045】
本発明の水系顔料分散体においては、顔料の含有量は、分散安定性等を高める点から1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がさらに好ましい。
また、グラフトポリマーと顔料の量比は、分散安定性等を高める観点から、グラフトポリマーの固形分100質量部に対して、顔料20〜1,000質量部が好ましく、50〜900質量部がより好ましく、100〜800質量部が更に好ましい。
【0046】
(水系顔料分散体の調製)
本発明の水系顔料分散体は、下記の工程(i)及び工程(ii)を有する方法により調製することが好ましい。
工程(i):本発明のグラフトポリマー、有機溶媒、中和剤、顔料、水等を含有する混合物を分散処理する工程。
工程(ii)は、前記工程(i)で得られた分散体から有機溶媒を除去する工程。
【0047】
<工程(i)>
(ii)程(i)は、本発明のグラフトポリマー、有機溶媒、中和剤、顔料、水等を含有する混合物を分散処理する工程である。
工程(i)では、まず、本発明のグラフトポリマーを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、中和剤、水、及び必要に応じて、界面活性剤等を前記有機溶媒に加えて混合し、水中油型の分散体を得る。混合物中、顔料の含有量は5〜50質量%が好ましく、有機溶媒の含有量は10〜70質量%が好ましい。本発明のグラフトポリマーの含有量は2〜40質量%が好ましく、水の含有量は10〜70質量%が好ましい。中和度には特に限定はないが、通常、最終的に得られる水系顔料分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。本発明のグラフトポリマーに所望の中和度からpHを決定することもできる。また、本発明のグラフトポリマーは予め、中和剤で中和したものを用いてもよい。
【0048】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒等が好ましく挙げられ、水に対する溶解度が20℃において50質量%以下のものが好ましく、更に10質量%以上が好ましい。
アルコール系溶媒としては、n-ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましい。前記溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
中和剤としては、本発明のグラフトポリマー中の塩生成基の種類に応じて酸又は塩基を使用することができ、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の塩基が使用できる。
【0049】
工程(i)における混合物の分散方法には特に制限はなく、本分散だけで上記ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、水不溶性ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
混合物を予備分散させる際には、アンカー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。混合撹拌装置の中では、ウルトラディスパー〔浅田鉄工株式会社、商品名〕、エバラマイルダー〔株式会社荏原製作所、商品名〕、TKホモミクサー〔プライミクス株式会社、商品名〕等の高速攪拌混合装置が好ましい。
本分散の剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ビーズミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、高圧ホモゲナイザー〔株式会社イズミフードマシナリ、商品名〕、ミニラボ8.3H型〔Rannie社、商品名〕に代表されるホモバルブ式の高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー〔Microfluidics社、商品名〕、ナノマイザー〔ナノマイザー株式会社、商品名〕等のチャンバー式の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの中では、混合物に含まれている顔料の小粒子径化の観点から、高圧ホモジナイザーが好ましい。
【0050】
<工程(ii)>
工程(ii)は、前記工程(i)で得られた分散体から有機溶媒を除去する工程である。
工程(ii)においては、工程(i)で得られた分散体から有機溶媒を留去して水系にすることで顔料を含有するグラフトポリマー粒子の水分散体を得る。水分散体に含まれる有機溶媒の除去は、減圧蒸留等による一般的な方法により行うことができる。得られたグラフトポリマー粒子の水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下である。
顔料を含有するグラフトポリマー粒子の水分散体は、顔料を含有するグラフトポリマーの固体分が、水を主溶媒として、これに分散したものである。
ここで、顔料を含むグラフトポリマー粒子の形態は特に制限はなく、少なくともグラフトポリマーにより粒子が形成されていればよい。例えば、グラフトポリマーに顔料が内包された粒子形態、グラフトポリマーに顔料が均一に分散された粒子形態、グラフトポリマーの粒子表面に顔料が露出された粒子形態等がいずれも含まれる。
【0051】
顔料を含有するグラフトポリマー粒子の水分散体は、例えば、グラフトポリマーを有機溶媒に溶解し、得られた溶液に顔料を添加し、予備混練し、次いで中和剤及び水を添加して混練し、水中油型の分散体を製造し、得られた混練物から有機溶媒を留去することによっても得ることができる。
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく、その具体例としては、工程(i)で例示したものが挙げられる。これらの溶媒の中では、イソプロパノール、アセトン及びメチルエチルケトンが好ましい。
また、必要により、有機溶媒を高沸点親水性有機溶媒と併用してもよい。高沸点親水性有機溶媒としては、フェノキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
中和剤として、塩基を使用することができる。塩基としては、トリメチルアミン、トリエチレアミン等の3級アミン類、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中和度には特に限定はないが、顔料分散体の保存安定性の観点から通常、得られる水分散体の液性が中性、例えば、pHが4.5〜9であることが好ましい。
また、本発明の水系顔料分散体の調製に使用する水としては、一般的に用いられている水を使用することができるが、不純物量の観点から、イオン交換水及び蒸留水が好ましい。
【実施例】
【0052】
実施例1
(1)ランダムコポリマーの合成
三方コックを付けた500mLナスフラスコに、スターラーチップ、モノマーとしてベンジルメタクリレート(BnMA)2.7g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)0.43g、ポリエチレングリコール(EO=4)−2−エチルヘキシルメタクリレート(PEGMA)3.3g、2−テトラヒドロピラニルメタクリレート(M−THP)3.6g、重合開始剤としてエチル−2−ブロモイソブチレート(EBiB)0.094gを仕込み、15分間アルゴンバブリングを行った。
次に、アルゴン雰囲気下で、サンプル瓶に触媒として塩化第一銅 0.024g、塩化第二銅0.0065g、配位子として4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジル(dNbipy)0.24g、重合溶媒としてアニソール10gを秤量し、スターラーチップで攪拌した。この銅錯体を溶解させたアニソール溶液を上記ナスフラスコに添加し、スターラーチップにより攪拌しながら60℃で2時間重合を行った。
その結果、1H−NMRにて測定した重合率は57%であり、ガスクロマトグラフィー測定によるBnMA、HEMA、M−THPの重合率はそれぞれ50%、62%、59%であった。重合終了後、ヘキサンで再沈し、真空乾燥を行い、ランダムコポリマー5gを得た。1H−NMR測定より、得られたポリマーの組成がほぼ仕込み比どおりであることを確認した。またポリスチレン標準試料で校正したゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、数平均分子量は8000、分子量分布指数は1.24であった。
【0053】
(2)重合開始剤が導入されたポリマーの合成
上記(1)で得られたランダムコポリマー1.5g、トリエチルアミン(TEA)0.054g、脱水テトラヒドロフラン(THF)4gをナスフラスコに加え、ゴム栓でキャップした。ナスフラスコを氷冷しながら、2−ブロモイソ酪酸ブロミド(2−Br−BiB)0.125gをシリンジで滴々と加えた。スターラーチップにより攪拌しながら氷冷3時間、室温にもどして10時間反応を行った。反応終了後、生成した塩をろ過により取り除いた。反応溶液を活性アルミナカラムに通し、ヘキサンで再沈したのち真空乾燥を行った。得られたポリマーの1H−NMR測定(400MHz,CDCl3)から、ポリマー中のHEMA由来のOH基がほぼ100% 2−Br−BiBと反応していることを確認した。
【0054】
(3)グラフトポリマーの製造
三方コックをつけた500mLナスフラスコに、スターラーチップ、モノマーとしてスチレン(St)4.7g、重合開始剤として上記(2)で得られたポリマー1.0gを仕込み、15分間アルゴンバブリングを行った。次に、アルゴン雰囲気下で、サンプル瓶に触媒として臭化銅0.033g、配位子としてdNbipy0.19g、重合溶媒としてアニソールを秤量し、スターラーチップで攪拌した。この銅錯体を溶解させたアニソール溶液を上記ナスフラスコに添加し、スターラーチップにより攪拌しながら90℃で4時間重合を行った。1H−NMRにて測定した重合率は15%であった。重合終了後、ヘキサンで再沈後、真空乾燥を行い、グラフトポリマー(側鎖の割合:38質量%、保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)由来の構成単位の割合:24質量%)を得た。またポリスチレン標準試料で校正したゲル浸透クロマトグラフィーで測定した結果、数平均分子量は13200、分子量分布指数は1.35であった。
【0055】
実施例2
実施例1で得られたグラフトポリマー5gとTHF5gをナスフラスコに加え、ポリマーを溶解させたのち、酢酸、水を加えて、玉栓で密封した。スターラーチップで攪拌しながら45℃に加熱、3時間反応させた。反応終了後、ヘキサンで再沈を行った。1H−NMR測定にてほぼ100%カルボン酸基の保護基であるテトラヒドロピラニル(THP)基の脱保護反応が進行していることを確認した。反応終了後、ヘキサンで再沈を行った。クロロホルムに溶解させ、2質量%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)水溶液で分液を行い、銅錯体を除去した。クロロホルム層を回収し、硫酸ナトリウムを加えて脱水後、乾燥させて、グラフトポリマー3gを得た。数平均分子量は13000、分子量分布指数は1.35であった。
【0056】
比較例1
ベンジルメタクリレート(BnMA)42g、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート35g、メタクリル酸8g、スチレンマクロモノマー(東亜合成株式会社製、商品名:「AS−60」、数平均分子量6000、重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)15g、メチルエチルケトン40g、2−メルカプトエタノール0.5g、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、商品名「V−65」) 1g溶液を調製し、そのうちの10質量%を攪拌機、還流冷却管、滴下ロート、温度計、窒素導入管のついた反応容器に入れて、窒素ガス置換を十分に行った。一方、滴下ロートに残りの90質量%を入れて75℃攪拌下、滴下しながら重合を行った。滴下終了から75℃で約2時間経過後、メチルエチルケトン40gに溶解した前記「V−65」0.9gを加えて、その後80℃で1時間熟成させ、未反応モノマーを追い切り、ポリマー溶液を得たのち、常法に従って乾燥ポリマー60gを得た。得られたグラフトポリマーの重量平均分子量は100000であり、分子量分布指数は4.0であった。
【0057】
実施例3
実施例2で得られたグラフトポリマーをメチルエチルケトンで50質量%に調製した溶液77gにメチルエチルケトン90g、及び中和剤(5モル/L水酸化ナトリウム水溶液)を所定量加えてメタクリル酸を中和(中和度75%)したのち、イオン交換水370g、更にC.I.ピグメント・イエロー74を90g加え、ディスパー混合し、更に分散機(マイクロフルイダイザーM−140K、150MPa)で20パス(20回)処理した。
得られた水分散体に、イオン交換水100gを加え、攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)でろ過し、粗大粒子を除去し、水分散体を得た。得られた水分散体30gにグリセリン10g、トリエチレングリコールモノブチルエーテル7g、「サーフィノール465」(日信化学工業株式会社製)1.0g、Ploxel XL2(S) (アビシア株式会社製)0.09g、イオン交換水51.91gを加えて水系顔料分散体を得た。
【0058】
比較例2
実施例2で得られたグラフトポリマーの代わりに、比較例1で得られたグラフトポリマーを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、水系顔料分散体を得た。
【0059】
<水系顔料分散体の評価>
実施例3及び比較例2で得られた水系顔料分散体の表面張力を25℃で下記方法に基づいて評価した。
表面張力計(協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP−2」)を用いて、白金プレートを5gの水系顔料分散体の入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に浸漬させる(ウィルヘルミ法)。
表面張力の測定の結果、実施例3の水系顔料分散体の表面張力は、70.1mN/m、比較例2の表面張力は61.2mN/mであり、実施例3で得られたポリマーを用いると、水の表面張力をほぼ下げることなく、顔料を水中に分散させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(3)を有するグラフトポリマーの製造方法。
工程(1):保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)由来の構成単位、及びラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤と反応し得る官能基含有モノマー(B)由来の構成単位を含むポリマーから構成される主鎖を、原子移動ラジカル重合法により合成する工程
工程(2):工程(1)で得られた主鎖に、ラジカル的移動可能な原子又は原子団を有する重合開始剤を導入する工程
工程(3):工程(2)で得られた主鎖の側鎖に、疎水性モノマー由来の構成単位を含むグラフトポリマーを、原子移動ラジカル重合法により合成する工程
【請求項2】
さらに、下記工程(d)を有する、請求項1に記載のグラフトポリマーの製造方法。
工程(d):工程(3)で得られたグラフトポリマー中の保護基を除去する工程
【請求項3】
グラフトポリマーの数平均分子量が3000〜50000である、請求項1又は2記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項4】
工程(3)において、疎水性モノマーがスチレン系モノマーである、請求項1〜3のいずれかに記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項5】
スチレン系モノマーに由来する構成単位の割合が、全グラフトポリマー中10〜60質量%である、請求項4に記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項6】
工程(1)において、官能基含有モノマー(B)の官能基が、ヒドロキシ基、アミノ基、又はエポキシ基である、請求項1〜5のいずれかに記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項7】
工程(1)において、保護されたカルボン酸基含有モノマー(A)が、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリル(メタ)アクリレート、又は2−テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレートである、請求項1〜6のいずれかに記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項8】
工程(2)において、重合開始剤が酸ハロゲン化物である、請求項1〜7のいずれかに記載のグラフトポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により得られる、グラフトポリマー。
【請求項10】
分子量分布指数(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0以下である、請求項9に記載のグラフトポリマー。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のグラフトポリマーを含有する、水系顔料分散体。

【公開番号】特開2009−298989(P2009−298989A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158279(P2008−158279)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】