説明

グランドアンカーの頭部構造

【課題】頭部形状が従前のものよりも小さく、充填する防錆油の量も削減可能なグランドアンカーの頭部構造を提供する。
【解決手段】グランドアンカーの頭部構造は、引張鋼材1を挿通して受圧板4上に載置する支圧板5と、引張鋼材1の頭部側端部を抱持するアンカーヘッド6と、このアンカーヘッド6を支持する再緊張用ワッシャー7と、下端を支圧板5に当接するナット8と、再緊張用ワッシャー7に螺合して、その先端周面をナット8の上面に当接するオイルキャップ9を有する。再緊張時はオイルキャップ9を外してジャッキを再緊張用ワッシャー7に螺合して所定の緊張力まで載荷する。ナット8を支圧板5に接触させてOリング8bが縮むまで締め付け載荷を解放してジャッキを取り除く。その後、オイルキャップ9に防錆油10を追加しながらワッシャー7に螺合する。ナット8はオイルキッャプ9の内部に閉じ込める必要はないのでオイルキャップ9の内容量を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、斜面や法面の安定に用いられるグランドアンカーに関するものであり、特に地山等の経年変化に応じて再びプレストレスを与えることができる再緊張可能なグランドアンカーの頭部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカーは、PC鋼より線等の引張鋼材にプレストレスを導入して、斜面や法面上に構築するコンクリート構造物を地盤に強く押し当てて固定し、滑り面における滑り抵抗力を増大させ、土圧・地震及び降雨等により発生する滑り力に対し、地山全体の安定を図るものであるが、初期に導入するプレストレスが地山の経年変化等により引張鋼材に弛みが生じて設計荷重を維持できなくなる場合があるため、再緊張可能な頭部構造を有するグランドアンカーが設置されている。
【0003】
このように再緊張可能な従来のグランドアンカーとしては、例えば以下に示すような頭部構造が知られている。
【特許文献1】実公平7−25364公報
【特許文献2】特公平4−26645公報 ここで特許文献1に記載されるアンカー頭部構造は、外周に雄ネジを形成すると共にくさび挿入可能なテーパー状の開口部を有するPC鋼材挿通孔を貫通する円盤状の定着体と、この定着体に螺合可能で支圧板に当接するナット体を有し、これらのPC鋼材定着具の外周には防錆のためにオイルキャップを被せて内部にオイルを充満させていた。このグランドアンカーを再緊張する場合には、円盤状の定着体の雄ネジに緊張治具を螺合し、これをジャッキによって引っ張り、その後支圧板から離隔したナット体を下降させて支圧板に再度当接していた。
【0004】
又、特許文献2には、支圧板であるアンカープレート上に載置するナット体と、これに螺合するアンカーヘッドと、その上面で引張鋼材を固定する圧着グリップとが記載されており、これらの頭部定着部材も内部に防錆油を充填するキャップにより封止されていた。この引張鋼材を再緊張する場合には、キャップを外し、露出したアンカーヘッドのうちナット体の上面より上方に突出した雄ネジに再緊張用ジャッキのラムアタッチメントをネジ接合し、これを引っ張った後、ナット体を廻してアンカープレートに当接させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のアンカー頭部構造では、支圧板上に載置するナット体を含めて頭部全体を防錆用キャップで覆う構造としていたため、地山表面に突出する頭部が大きくなると同時に、充填するオイル量が多くなるという問題があった。特にナット体の外形を多角形状とすると、各頂点の外方にキャップ周面が位置することになるため、キャップ外周が過大となる問題が生じていた。
【0006】
この発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、頭部形状が従前のものよりも小さく、充填する防錆油の量も削減可能なグランドアンカーの頭部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成した。
【0008】
請求項1に記載の発明は、引張鋼材を挿通する支圧板と、引張鋼材の頭部側端部を抱持すると共に下端を支圧板に当接する定着部材と、少なくとも支圧板外方にある引張鋼材を被包して内部に防錆油を充填する蓋体とを備えるグランドアンカーの頭部構造において、前記定着部材は、内面に雌ネジを形成する環状体と、引張鋼材を挿通して外面に形成する雄ネジの少なくとも下方部分を前記環状体の雌ネジに螺合する係止体とを備え、前記蓋体は、この係止体の雄ネジ上方部分に螺合し蓋体先端の周面を前記環状体に当接することを特徴とするものである。
【0009】
環状体は支圧板上に載置するナット体であって、これに螺合する係止体は、外面に雄ネジを形成するものであれば、内空に引張鋼材を収容する円筒体でもよいし、外面の一部切欠部に引張鋼材を収容したり、あるいは貫通孔に引張鋼材を挿通する棒状体でもよい。又引張鋼材の先端部の固定方式は、くさび方式でもよいし圧着グリップによるものでも、あるいはナットによる固定でもよい。係止体は、環状体螺合部と引張鋼材固定部を別体とするものでもよいし、これらを一体化したものでもよい。
【0010】
又、係止体は、少なくとも蓋体に螺合する部分として環状体の上面に突出し得る長さが必要であり、再緊張時にはこの雄ネジ部にジャッキをネジ接合する。又、環状体と係止体との螺合長さは、再緊張時に離隔した支圧板に対し環状体を降下させた場合にも相互に十分な噛み合せを保持した状態で当接し得る長さが必要である。
【0011】
請求項2記載のグランドアンカーの頭部構造における環状体は、支圧板との当接面に止水構造を有し、前記蓋体は、環状体との当接面に止水構造を有することを特徴とするものである。止水構造としては、例えば環状体及び蓋体の夫々下面周方向にOリングを埋設し、これを支圧板又は環状体の上面に接触させてOリングが縮むまで締め付けて止水する。止水構造は、その止水効果が確実に得られるものであればOリング以外の構造でもよい。
【発明の効果】
【0012】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0013】
請求項1に記載の発明では、防錆油を充填する蓋体が係止体の雄ネジ上方部分に螺合し蓋体先端の周面を環状体に当接する構造であるので、環状体を蓋体内部に閉じ込める必要がなく、環状体の肉厚を大きくしたり、外面形状を多角形状としても、蓋体形状には影響しないので頭部形状を従前のものよりも小さくでき、充填する防錆油の量も削減可能となる。
【0014】
請求項2記載の発明では、環状体と蓋体の下面に夫々止水構造を設けるので、防錆油を収容する蓋体で頭部全体を封止しなくとも確実な止水効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明のグランドアンカーの頭部構造の実施の形態について説明するが、この発明は、この実施の形態に限定されない。また、この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明の用語はこれに限定されない。
【0016】
図1はグランドアンカーの頭部構造を示す断面図であり、引張鋼材1は、PC鋼より線で構成され、この線材の頭部側にシース管2を被覆する。この引張鋼材1は、シース管2で被覆された部分が、伸びのあるアンカー自由長部となり、被覆されない先端側が、図示しないグラウト材で固定されるアンカー体部となる。
【0017】
このグランドアンカーを設置する場合には、先ず斜面や法面となる地盤3にコンクリート構造物、例えば格子状の受圧板4はグラウンドアンカー挿通部4aを除いて構築する。この構造物上に図示しない穿孔機をセットして、受圧板4のグラウンドアンカー挿通部4aに穿孔用ロッドを挿通し、地盤3を所定の深さまで穿孔する。その後グラウト材を注入し、その硬化前に引張鋼材1の先端側を挿入する。
【0018】
グラウト材を養生固化した後にセットされるグランドアンカーの頭部構造は、引張鋼材1を挿通して受圧板4上に載置する支圧板5と、引張鋼材1の頭部側端部を抱持するアンカーヘッド6と、このアンカーヘッド6を支持する再緊張用ワッシャー7と、下端を支圧板5に当接するナット8と、再緊張用ワッシャー7に螺合して、その先端周面をナット8の上面に当接するオイルキャップ9を有する。オイルキャップ9の内部には引張鋼材1の頭部防錆保護のための防錆油10が充填され、キャップ9の先端には六角ボルト9aが螺合する。
【0019】
アンカーヘッド6はテーパー溝を有し、定着くさび6aを用いて引張鋼材1を保持する。なお、アンカーヘッド6は引張鋼材1の種類によってはナットによる固定方式も使用できる。引張鋼材1に支圧板5をセットし、ナット8及び再緊張用ワッシャー7を装着した後、引張鋼材1の頭部より止水管11を挿通し、その内部に止水ゴム12を装填する。
【0020】
止水ゴム12の上方には圧縮シリンダー13を装着し、引張鋼材定着時に圧縮シリンダー13を止水ゴム12側に移動してこれを押圧圧縮し、シース管2より突出する引張鋼材1部分を覆って確実に止水する。
【0021】
ナット8は内面に雌ネジ8aを形成し、支圧板5との当接面にOリング8bを埋設して止水する。又、ナット8には鍍金等の防錆表面処理を施す。ナット8の周面は多角形あるいは円形でもよい。円形の場合には、回転のために穴を周面に穿設し、そこに工具を係合して回転させる。
【0022】
ナット8に螺合する再緊張用ワッシャー7は、外面に雄ネジ7aを形成する。この雄ネジ7aの少なくとも下方部分はナット8に螺合し、これに連続する雄ネジ上方部分にはオイルキャップ9が螺合する。再緊張時にはこの雄ネジ部にジャッキをネジ接合する。再緊張用ワッシャー7には引張鋼材1への止水のための鍔付きの止水管11を固定するための座繰り7bをつけておく。
【0023】
オイルキャップ9の先端周面にはOリング9bを埋設し、これをナット8に当接して止水する。六角ボルト9aは、再緊張用ワッシャー8に螺合させる際、これを外して防錆油10を吐出させて充填状況を確認するためのものである。
【0024】
再緊張時は、オイルキャップ9を外し、図示しないジャッキの雄ネジを再緊張用ワッシャー7に螺合して、所定の緊張力まで載荷する。この時、ワッシャー7に連結するナット8が支圧板5から浮上った場合には、所定の緊張力まで載荷した状態でナット8を支圧板5に接触させてOリング8bが縮むまで締め付ける。その後、載荷を解放してジャッキを取り除く。その後、オイルキャップ9に防錆油10を追加しながら当初と同じようにしてワッシャー7に螺合する。
【0025】
このようにナット8は、オイルキッャプ9の内部に閉じ込める必要はないので、オイルキャップ9の内容量を小さくできる。又再緊張用ワッシャー7にオイルキャップ9を嵌め合わせるだけで、グランドアンカー頭部の止水が十分となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】グランドアンカーの頭部構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 引張鋼材
4 受圧板
5 支圧板
6 アンカーヘッド
7 再緊張用ワッシャー
8 ナット
9 オイルキャップ
10 防錆油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張鋼材を挿通する支圧板と、前記引張鋼材の頭部側端部を抱持すると共に下端を前記支圧板に当接する定着部材と、少なくとも支圧板外方にある前記引張鋼材を被包して内部に防錆油を充填する蓋体とを備えるグランドアンカーの頭部構造において、
前記定着部材は、
内面に雌ネジを形成する環状体と、
前記引張鋼材を挿通して外面に形成する雄ネジの少なくとも下方部分を前記環状体の雌ネジに螺合する係止体とを備え、
前記蓋体は、
前記係止体の雄ネジ上方部分に螺合し蓋体先端の周面を前記環状体に当接することを特徴とするグランドアンカーの頭部構造。
【請求項2】
前記環状体は、支圧板との当接面に止水構造を有し、
前記蓋体は、環状体との当接面に止水構造を有することを特徴とする請求項1記載のグランドアンカーの頭部構造。


【図1】
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【公開番号】特開2006−322223(P2006−322223A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146683(P2005−146683)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】