説明

グリコサミノグリカン画分中の不純物の除去方法

【課題】グリコサミノグリカン画分中に存在する核酸、鉄、タンパク質等の不純物を簡便、迅速かつ効率よく除去できる方法、これらの不純物が除去されたグリコサミノグリカン画分を大量に製造しうる方法等を提供すること。
【解決手段】次の工程(1)及び(2)を含む、グリコサミノグリカン画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去方法;工程(1)グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭とを接触させる工程、工程(2):グリコサミノグリカン画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のグリコサミノグリカン画分を採取する工程。これら工程を含む、次の性質(a)〜(c)を有するグリコサミノグリカン画分の生産方法;性質(a)核酸含量がグリコサミノグリカン画分1mgあたり0.08μg未満である、性質(b)鉄含量が、0.07ppm以下である、性質(c)タンパク質含量が0.4%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカン画分から不純物を効率よく除去する方法、不純物が除去されたグリコサミノグリカン画分の生産方法、及びこれらの物質の除去に有用な除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、本明細書中で用いた略号について説明する。
EtOH:エタノール
GAG:グリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)
HA:ヒアルロン酸(hyaluronic acid)
CH:コンドロイチン(chondroitin)
CS:コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate)
DS:デルマタン硫酸(dermatan sulfate)
Hep:ヘパリン(heparin)
HS:ヘパラン硫酸(heparan sulfate)
KS:ケラタン硫酸(keratan sulfate)
EDTA:エチレンジアミン四酢酸(ethylenediamine tetraacetic acid)
特許文献1には、低分子キトサンを有効成分として含有することを特徴とする核酸またはエンドトキシンの除去剤が記載されている。そして当該文献中には、エンドトキシンを除去する方法として活性炭などによる方法が知られている旨の開示がある。
【0003】
また特許文献2には、HAの水溶液に活性炭とEtOHを加え、その後減圧濾過を行い、濾液にEtOHを加えて沈殿させて、HAを取得することが開示されている。
【0004】
しかし、活性炭によって、GAG画分中に存在する核酸、鉄、タンパク質が極めて効率よく除去できることについては知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特公平6−41479号公報
【特許文献2】特開2001−270829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、GAG画分中に存在する核酸、鉄、タンパク質等の不純物を簡便、迅速かつ効率よく除去できる方法、これらの不純物が除去されたGAG画分を大量に製造しうる方法、及びこれらの方法に使用できる不純物の除去剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、活性炭を用いることにより、極めて効率的に核酸、鉄、タンパク質等の不純物を除去することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、下記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする、GAG画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去方法(以下、本発明除去方法という。)を提供する。
工程(1):GAG画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
工程(2):GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のGAG画分を採取する工程。
【0009】
GAGは、HA、CH、CS、DS、Hep、HS、及びKSから選ばれることが好ましい。また、「GAG画分の溶液」における有機溶剤含量は、20%(v/v)未満であることが好ましい。また、GAG画分の溶液と活性炭との接触は、溶液中のGAG画分に実質的に悪影響を与えない条件下で行われる限り特に限定されず、例えばpH5〜9かつ20〜70℃の条件下で行われることが好ましい。また、GAG画分の溶液と活性炭との接触は、5分間以上保持されることが好ましい。
【0010】
また本発明は、下記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする、下記の性質(a)〜(c)を有するGAG画分の生産方法(以下、本発明生産方法という。)を提供する。
工程(1):GAG画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
工程(2):GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のGAG画分を採取する工程。
性質(a):エチジウムブロマイド法によって測定した核酸含量が、GAG画分1mgあたり0.08μg未満である。
性質(b):原子吸光測定法によって測定したGAG画分中の鉄含量が、0.07ppm以下である。
性質(c):ローリー法によって測定したGAG画分中のタンパク質含量がGAG含量の0.4%以下である。
【0011】
GAGは、HA、CH、CS、DS、Hep、HS、及びKSから選ばれることが好ましい。また、「GAG画分の溶液」における有機溶剤含量は、20%(v/v)未満であることが好ましい。また、GAG画分の溶液と活性炭との接触は、pH5〜9かつ20〜70℃の条件下で行われることが好ましい。また、GAG画分の溶液と活性炭との接触は、5分間以上保持されることが好ましい。
【0012】
さらに本発明は、活性炭を有効成分とする、GAG画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去剤(以下、本発明除去剤という。)を提供する。GAGは、HA、CH、CS、DS、Hep、HS、及びKSから選ばれることが好ましい。本発明除去剤は、GAG画分の溶液と接触させて用いられることが好ましい。またこの場合、「GAG画分の溶液」における有機溶剤含量は、20%(v/v)未満であることが好ましい。また本発明除去剤は、pH5〜9かつ20〜70℃の条件下で使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明除去方法は、GAG画分中の核酸、鉄、タンパク質等の不純物を極めて効率よく、簡便かつ迅速に除去することができ、極めて有用である。また、本発明生産方法は、これらの不純物が除去されたGAG画分を簡便、迅速かつ大量に製造することができ、極めて有用である。さらに本発明除去剤は、このような本発明除去方法や生産方法にそのまま使用することができ、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
<1>本発明除去方法
本発明除去方法は、下記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする、GAG画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去方法である。
工程(1):GAG画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
工程(2):GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のGAG画分を採取する工程。
【0015】
ここで、核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質を除去する対象となるGAG画分は、GAGを含有する画分である限りにおいて特に限定されないが、HA、CH、CS、DS、Hep、HS、及びKSから選ばれる画分であることが好ましい。このようなGAGの画分は、市販のもの等を用いることもでき、また次のような公知の方法で製造することもできる;例えば、HAはニワトリの鶏冠、サメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシ、ブタ等の哺乳動物の軟骨、臍帯、皮、HAを産生する微生物の培養物などを原料に、CHやCSはチョウザメの脊索、クジラ、サメ、イカなどの軟骨やヒレなどや、ウシの気管などを原料に、DSはニワトリの鶏冠やブタの皮などを原料に、Hepはブタの腸などを原料に、HSはウシの腎臓などを原料に、KSはサメなどの軟骨魚類、クジラ、ウシなどの哺乳動物の軟骨、角膜などを原料にして、破砕、プロテアーゼ等の酵素を用いる方法、オートクレーブを用いる方法、第四級アンモニウム塩を用いる方法などによって抽出・処理し、有機溶媒(例えばアルコール)による沈殿、塩析などをして回収する方法。
【0016】
本発明除去方法は、このようなGAG画分中から核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質を除去するものである。どの物質を除去するかは、目的に応じて適宜選定することができる。例えば本発明除去方法を、GAG画分中の核酸を除去するために実施してもよく、鉄を除去するために実施してもよく、タンパク質を除去するために実施してもよく、核酸及び鉄を除去するために実施してもよく、核酸及びタンパク質を除去するために実施してもよく、鉄及びタンパク質を除去するために実施してもよく、核酸、鉄及びタンパク質の全てを除去するために実施してもよい。
【0017】
本発明における「核酸」の用語には、核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、DNA、RNAが包含され、本発明除去方法によって除去出来る核酸関連物質である限りにおいて特に限定されず、その組成や配列、分子量も特に限定されない。また、本発明における「鉄」の用語には、鉄分子、鉄イオン(2価、3価)、鉄原子を含有する化合物、鉄を含有する錯体や、タンパク質や脂質等の生体物質に結合した鉄分子や鉄イオン等が包含され、本発明除去方法によって除去出来る鉄含有物質である限りにおいて特に限定されず、その存在様式・形態等は特に限定されない。また、本発明における「タンパク質」の用語には、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド等が包含されるが、本発明除去方法によって除去出来るペプチド配列を有する物質であれば特に限定されず、そのアミノ酸組成や配列、分子量も特に限定されない。
【0018】
また本出願書類において「除去」とは、ある物質を完全に除き去ることのみならず、部分的に除き去る(その物質の量を減少させる)ことをも意味する用語として用いる。
【0019】
本発明除去方法は、前記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする。以下、工程ごとに説明する。
【0020】
工程(1):GAG画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
【0021】
工程(1)は、GAG画分の溶液と活性炭とを接触させる工程である。
【0022】
ここで用いるGAG画分の溶液は、GAG画分が何らかの溶媒に溶解しているものである限りにおいて特に限定されない。GAG画分を溶解する溶媒も特に限定されないが、水性溶媒が好ましい。水性溶媒としては、水、緩衝液、生理的塩類溶液等が例示される。また、「GAG画分の溶液」における有機溶剤含量は、20%(v/v)未満となるように調整することが好ましく、15%(v/v)以下となるように調整することがより好ましく、10%(v/v)以下となるように調整することがさらに好ましく、8%(v/v)以下となるように調整することがさらに好ましく、7%(v/v)以下となるように調整することがさらに好ましく、6%(v/v)以下となるように調整することがさらに好ましく、5%(v/v)以下となるように調整することが特に好ましく、有機溶剤を実質的に含有しないよう調整することが極めて好ましい。このような有機溶剤含量が少ない溶液を採用することによって、タンパク質等の含量をさらに低減でき、より精製度が高いGAG画分を得られるという利点がある。ここで「実質的に含有しない」とは、一分子たりとも存在しないという意味ではなく、本発明除去方法における除去の効果に実質的な影響を与えない限りにおいて多少の含有は許される、という趣旨である。
「有機溶剤」の一例として、例えばメタノール、EtOH、プロパノールといったアルコール類や、アセトンなどのケトン類が例示される。
【0023】
また、ここで用いる活性炭も、GAG画分の溶液中に存在する核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質をGAG画分中において吸着する能力を有する限りにおいて特に限定されない。例えば、活性炭のベースとなる素材としては木、ヤシ殻、石炭等が例示される。活性炭が製造される際の賦活化の方法としては、水蒸気による高温処理や塩化亜鉛などを用いた方法が例示される。またその形状としては、粉末状、粒状等を例示することができる。粒状のものとしては破砕状、顆粒状、円柱状、球状等の形状を例示することができる。またこのような活性炭をさらにフィルター状、フェルト状、布状等に加工したものを用いてもよい。
【0024】
このような活性炭をGAG画分の溶液と接触させる方法も、GAG画分の溶液中に存在する核酸分子、上述した鉄又はタンパク質分子と、活性炭とが接触するものである限りにおいて特に限定されない。例えば、両者を直接混合して接触させてもよく、活性炭を充填したカラムにGAG画分の溶液を通すことによって接触させてもよく、活性炭を保持する膜、フィルター、フェルト、布等にGAG画分の溶液を通すことによって接触させてもよい。また、この際に用いる活性炭の量も、GAG画分の溶液量や、GAG画分の溶液中に存在する核酸分子、鉄、たんぱく質分子をどの程度除去するか、ということに応じて当業者が適宜設定することができる。好ましくは、これら分子を十分除去するために必要な、十分な量の活性炭を用いればよい。
【0025】
また、GAG画分の溶液と活性炭との接触が行われる条件も、GAG画分の溶液中に存在する核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質がGAG画分中において活性炭に吸着され、保持される条件である限りにおいて特に限定されないが、pH5〜9の条件下で行われることが好ましい。また、温度は20〜70℃の条件下で行われることが好ましい。また活性炭と接触させる際のGAG画分の溶液の濃度は、当該溶液が、活性炭の表面に密に接触しうる程度の流動性を有する限りにおいて特に限定されないが、0.05〜1.0%(w/v)であることが好ましい。また、GAG画分の溶液と活性炭とが接触している時間も特に限定されないが、核酸、鉄又はタンパク質が活性炭に十分吸着させるという観点では、好ましくは5分間以上、より好ましくは15分間以上、さらに好ましくは30分間以上、最も好ましくは1時間以上保持されることが好ましい。
【0026】
このように、GAG画分の溶液と活性炭とを接触させることにより、GAG画分の溶液中に存在する核酸、鉄及びタンパク質が活性炭に吸着される。
【0027】
工程(2):GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のGAG画分を採取する工程。
【0028】
工程(2)は、GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離して、当該分離後のGAG画分を採取する工程である。GAG画分の溶液に接触させた活性炭には、GAG画分の溶液中に存在していた核酸、鉄及びタンパク質が吸着しているため、これを分離することによって核酸、鉄及びタンパク質が除去されたGAG画分を得ることができる、
GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離する方法も特に限定されないが、例えば濾過、フィルタープレス分離、デカンテーション、遠心分離等の方法を例示することができる。この場合、その濾液や上清を採取することによって、活性炭と分離した後のGAG画分を採取することができる。また、カラムや膜、フィルター、フェルト、布状のものにGAG画分の溶液を通した場合には、その通過した溶液を採取することによって活性炭を分離すると同時に当該分離後のGAG画分を採取することができる。
【0029】
本発明除去方法は、このような工程(1)及び(2)を少なくとも含んでいれば良く、さらに他の工程を含んでいてもよい。例えば、工程(1)の前にGAG画分を製造したり、GAG画分中の核酸、鉄、タンパク質を測定する工程等をさらに含んでいてもよい。また工程(2)の後に、採取したGAG画分を乾燥させたり、別の溶媒に置換したり、GAG画分中の核酸、鉄、タンパク質を測定する工程等をさらに含んでいてもよい。
【0030】
本発明除去方法によってGAG画分中の核酸、鉄、タンパク質が除去されたか否かは、活性炭に接触させる前のGAG画分中のこれらの物質の量と、接触後のGAG画分中のこれらの物質の量とを比較することによって調べることができる。これらの物質の定量は、公知の測定方法によって行うことができる。例えば、核酸の定量はエチジウムブロマイド法によって行うことができ、鉄の定量は原子吸光測定法によって行うことができ、タンパク質の定量はローリー法によって行うことができる。これらの具体的な方法は、後述の実施例を参照されたい。
<2>本発明生産方法
本発明生産方法は、下記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする、下記の性質(a)〜(c)を有するGAG画分の生産方法である。
工程(1):GAG画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
工程(2):GAG画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のGAG画分を採取する工程。
性質(a):エチジウムブロマイド法によって測定した核酸含量が、GAG画分1mgあたり0.08μg未満である。
性質(b):原子吸光測定法によって測定したGAG画分中の鉄含量が、0.07ppm以下である。より好ましくは0.06ppm以下である。
性質(c):ローリー法によって測定したGAG画分中のタンパク質含量がGAG含量の0.4%以下である。
【0031】
本発明生産方法におけるGAG画分は、GAGを含有する画分である限りにおいて特に限定されないが、HA、CH、CS、DS、Hep、HS、及びKSから選ばれる画分であることが好ましい。本発明生産方法における工程(1)及び(2)その他の説明は、前記<1>に記載した本発明除去方法におけるものと同じである。
【0032】
本発明生産方法によって生産されるGAG画分は、下記の性質(a)〜(c)を有するものである。
性質(a):エチジウムブロマイド法によって測定した核酸含量が、GAG画分1mgあたり0.08μg未満である。
性質(b):原子吸光測定法によって測定したGAG画分中の鉄含量が、0.07ppm以下である。
性質(c):ローリー法によって測定したGAG画分中のタンパク質含量がGAG含量の0.4%以下である。
【0033】
エチジウムブロマイド法、原子吸光測定法及びローリー法についての詳細は、後述の実施例を参照されたい。
<3>本発明除去剤
本発明除去剤は、活性炭を有効成分とする、GAG画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去剤である。
【0034】
本発明除去剤を用いた、核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去の対象となるGAGは、HA、CH、CS、DS、Hep、HS、及びKSから選ばれることが好ましい。また、本発明除去剤は、GAG画分の溶液と接触させて用いられることが好ましい。この場合、本発明除去剤をGAG画分の溶液と接触させる方法や、GAG画分の溶液と本発明除去剤との接触が行われる条件(pH、温度、GAG画分の溶液の濃度、有機溶剤含有量、時間など)等については、前記<1>に記載したものと同様である。
【0035】
本発明除去剤は、前記<1>に記載した本発明除去方法に従って使用することができる。また、前記<2>に記載した本発明生産方法に従って使用することもできる。
【0036】
本発明除去剤において、GAG画分を溶解させる溶媒、GAG画分の溶液や、有効成分である活性炭等についての説明も、前記<1>に記載したものと同じである。本発明除去剤においては、活性炭を有効成分として含有する限りにおいて、他の成分を含有していてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【0038】
まず、本実施例において共通して用いた方法を説明する。
(1)エチジウムブロマイド法
試料を1%となるようにTris-EDTA緩衝液(pH7.2)で溶解し、必要に応じてGAG分解酵素でGAGの粘性を低下させた。この試料、DNA標準液(Tris-EDTA緩衝液(pH7.2)で1μg/mLに調製したもの)及びブランク(Tris-EDTA緩衝液(pH7.2))各1mLに、臭化エチジウム溶液(蒸留水で0.0002%としたもの)をそれぞれ1mL添加して攪拌した。その後、それぞれ蛍光分光光度計を用いて励起波長360nm、蛍光波長590nmにより蛍光強度を測定した。
(2)原子吸光測定法
試料25mgを試験管に量り取り、2mol/Lの塩酸2mLで溶解した後、10分間煮沸した。その後、蒸留水0.5mLを添加してよく攪拌した。この試料及び鉄標準液(0〜4ppm;検量線を作成用)について、原子吸光分光光度計(Z−8000形偏光ゼーマン原子吸光分光光度計(HITACHI製))とホローカソードランプ(Fe)を用いて吸光度を測定した。
(3)ローリー法
Lowry.O.Hら、J.Biol.Chem.,193、p.265―275(1951)記載の方法を参考に、一般的な方法に従って行った。
(実施例1)HAを用いた実施例
鶏冠を、特公昭61−21241号公報に記載の方法で処理し、HAを含有するアルコール沈殿画分を得た。
【0039】
このアルコール沈殿画分を、精製水に溶解し、これにオートクレーブ処理した活性炭を添加して、1時間撹拌した。
【0040】
その後、セラミックフィルターを用いて濾過した。その際の濾過助剤としては珪藻土を用いた。
【0041】
その濾液を回収し、さらにフィルタープレスを用いて濾過した。その際の濾過助剤としては珪藻土を用いた。濾液を回収し、「活性炭処理後の画分」とした。
【0042】
なお、以上の濾過助剤は全てオートクレーブ処理したものを用いた。
【0043】
アルコール沈殿画分(活性炭処理前の画分)及び活性炭処理後の画分について、核酸含量、鉄含量及びタンパク質含量を測定した。核酸含量の結果を表1に(単位:μg/mgHA)、鉄含量の結果を表2に(単位:ppm)、HA含量に対するタンパク質含量の比を表3にそれぞれ示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
表1〜3から明らかな通り、活性炭処理するだけで、核酸含量については少なくとも1/13以下に、鉄含量については1/4以下に、タンパク質含量は1/65以下となることが示された。したがって、活性炭を用いることによって、HA画分中に存在するこれらの物質を極めて効率よく除去できることが示された。
【0048】
さらに、これによって(a)エチジウムブロマイド法によって測定した核酸含量がGAG画分1mgあたり0.08μg未満であり、(b)原子吸光測定法によって測定したGAG画分中の鉄含量が0.07ppm以下(0.06ppm以下)であり、かつ(c)ローリー法によって測定したGAG画分中のタンパク質含量がGAG含量の0.4%以下である、という性質を有するHAが製造できることが示された。
(実施例2)CS(サメのヒレ由来)を用いた実施例
サメヒレからのCSの調製は、一般的な方法を用いて行った。すなわち、サメのヒレを粉砕し、これにタンパク質分解酵素(エスペラーゼ;ノボザイムズ社製)を作用させることにより、CSを抽出した。この抽出物についてアルコール沈殿を行い、CSを含むアルコール沈殿画分を得た。得られた画分について、実施例1と同様の方法により1回目の活性炭処理(1次処理)を行い、セラミックフィルターを用いて濾過することにより、1次処理液を得た。この処理液についてアルコール分画を2回連続して行うことにより、分画液を得た。さらにこの分画液について再度1回目と同様に活性炭処理(2次処理)と濾過を行うことにより、2次処理液を得た。
【0049】
アルコール沈殿画分(活性炭処理前の画分)及び活性炭処理後の画分(1次処理液、2次処理液)について、タンパク質含量を測定した。CS含量に対するタンパク質含量の比を表4に示した。
【0050】
【表4】

【0051】
表4から明らかな通り、1次活性炭処理を行うだけで、タンパク質含量が1/3以下(含有比0.15%以下)になることが示された。さらに2次活性炭処理を行うことにより、タンパク質含量が当初の1/17以下(含有比0.03%以下)となることが示された。
(実施例3)CS(ウシの気管由来)を用いた実施例
実施例2と同様の方法により、牛気管由来のCSを得、活性炭処理、濾過、アルコール分画(1回)を行った。アルコール沈殿画分(活性炭処理前の画分)及び活性炭処理後の画分(1次処理液、2次処理液)について、タンパク質含量を測定した。CS含量に対するタンパク質含量の比を表5に示した。
【0052】
【表5】

【0053】
実施例2及び実施例3により、活性炭を用いることにより、HAのみならずCS中の不
純物をも極めて高度かつ効率的に除去できることが明らかになった。
以上の結果から、活性炭を用いることによりGAG画分中の核酸、鉄、タンパク質を極めて効率的に除去することができ、不純物含量が極めて低いGAG画分を極めて簡便、迅速かつ大量に製造できることが示された。また、本発明によって得られるGAG画分は、一般に医薬として利用しうる程度にまで、高度に精製されたものであることが明らかになった。したがって、活性炭を、GAG画分中のこれら不純物を高度に取り除く除去剤として利用できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明除去方法は、医薬品、化粧品、食品、飲料等の原料となりうるGAG画分中の不純物(核酸、鉄、タンパク質)の除去に利用することができる。本発明生産方法は、このような不純物が除去されたGAG画分の生産に利用することができる。本発明除去剤は、このような本発明除去方法や生産方法に利用することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする、グリコサミノグリカン画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去方法。
工程(1):グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
工程(2):グリコサミノグリカン画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のグリコサミノグリカン画分を採取する工程。
【請求項2】
グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びケラタン硫酸から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
「グリコサミノグリカン画分の溶液」における有機溶剤含量が、20%(v/v)未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の除去方法。
【請求項4】
グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭との接触が、pH5〜9かつ20〜70℃の条件下で行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の除去方法。
【請求項5】
グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭との接触が、5分間以上保持されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の除去方法。
【請求項6】
下記の工程(1)及び(2)を少なくとも含むことを特徴とする、下記の性質(a)〜(c)を有するグリコサミノグリカン画分の生産方法。
工程(1):グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭とを接触させる工程。
工程(2):グリコサミノグリカン画分の溶液に接触させた活性炭を分離し、当該分離後のグリコサミノグリカン画分を採取する工程。
性質(a):エチジウムブロマイド法によって測定した核酸含量が、グリコサミノグリカン画分1mgあたり0.08μg未満である。
性質(b):原子吸光測定法によって測定したグリコサミノグリカン画分中の鉄含量が、0.07ppm以下である。
性質(c):ローリー法によって測定したグリコサミノグリカン画分中のタンパク質含量がグリコサミノグリカン含量の0.4%以下である。
【請求項7】
グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びケラタン硫酸から選ばれることを特徴とする、請求項6に記載の生産方法。
【請求項8】
「グリコサミノグリカン画分の溶液」における有機溶剤含量が、20%(v/v)未満であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の生産方法。
【請求項9】
グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭との接触が、pH5〜9かつ20〜70℃の条件下で行われることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項10】
グリコサミノグリカン画分の溶液と活性炭との接触が、5分間以上保持されることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項11】
活性炭を有効成分とする、グリコサミノグリカン画分中の核酸、鉄及びタンパク質から選ばれる1又は2以上の物質の除去剤。
【請求項12】
グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、及びケラタン硫酸から選ばれることを特徴とする、請求項11に記載の除去剤。
【請求項13】
グリコサミノグリカン画分の溶液と接触させて用いられることを特徴とする、請求項11又は12に記載の除去剤。
【請求項14】
「グリコサミノグリカン画分の溶液」における有機溶剤含量が、20%(v/v)未満であることを特徴とする、請求項13に記載の除去剤。
【請求項15】
pH5〜9かつ20〜70℃の条件下で使用されることを特徴とする、請求項11〜14のいずれか1項に記載の除去剤。




【公開番号】特開2006−104461(P2006−104461A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261689(P2005−261689)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】