説明

グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品

【課題】木目が際立ち、艶のある美感を有し、「シックハウス症候群」の原因となる有機溶剤を一切含有せず、子供が舐めたり、口にしたりした場合にも問題のない極めて優れた安全性を有すると共に、臭気が殆どなく、且つ長期間美感を維持する木製品を提供する。
【解決手段】(1)エステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルにおいて、構成する脂肪酸の90%以上が、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸から成る混合脂肪酸であり、パルミチン酸:オレイン酸:リノール酸=1.0:1.5〜4.6:1.1〜3.7であるグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品に関するものであり、更に詳しくは、グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた、床材、壁材、天井、柱、建具、敷居、框、幅木、廻り縁、欄間、木製ドア等の建築用材、机、椅子、棚、箪笥等の木製家具、木製楽器、スピーカーやオーディオ機器の木製キャビネット、木製のおもちゃ等、木製品全般に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、殆どの木製品は、木目を際立たせたり、艶を出させる等の美感を向上させる目的で、アクリル樹脂系のものが塗布されたり、亜麻仁油、荏胡麻油、桐油等の植物性の乾性油を用いたオイルフィニッシュ仕上げ等が為されている。しかしながら、アクリル樹脂系を塗布した木製品は、人体に有害な有機溶剤が木製品の内部に浸透しており、それが長期に渡って徐々に空気中に放出される事で、鼻や目、喉の刺激、頭痛等、人体に悪影響を及ぼす所謂「シックハウス症候群」を引き起こし、近年社会問題となっている。更に、木製のおもちゃ等、子供が舐めたり、口にする可能性のあるものについては、その使用を制限すべきである。
【0003】
また、亜麻仁油、荏胡麻油、桐油等の植物性の乾性油を用いたオイルフィニッシュ仕上げ等にも、一部有機溶剤を含有するものが使用される場合があり、上記理由と同様、「シックハウス症候群」を引き起こす懸念がある。これら以外のものとして、有機溶剤を含有せず、亜麻仁油、荏胡麻油、桐油等の植物性の乾性油のみでオイルフィニッシュ仕上げを施した木製品は、これら乾性油に特有の臭気が有り好ましくない。また、これらは自動酸化による酸化被膜を木製品表面に形成させ、表面に光沢等を付与するが、その被膜は表面上のみに存在するため、摩擦や日常の使用により容易に失われ、頻繁に再塗布等のメンテナンスを行う必要があり、使用者に不便さを与えていた。
【0004】
その他、特許文献1に「木材加工品用コーティング組成物、該コーティング組成物から形成されるコーティング、及び該コーティングを表面に有する木材加工品」が報告されており、これにキトサンの酸性水溶液を含有する木材加工品用コーティングを表面に有する木材加工品が記載されている。これについても、表面上のみで被膜を形成させる事が記載されている事から、上記と同様、摩擦や日常の使用により、その被膜が容易に失われ、頻繁に再塗布等のメンテナンスを行う必要性があった。このことから、上記のような被膜形成性成分により表面処理された木製品よりも、長期間美感を維持する事で、再塗布等のメンテナンスの回数が減る等、経済性に優れると共に、臭気が良好で、子供が舐めたり、口にしたりした場合にも問題がない極めて安全性に優れた木製品が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−18643
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、床材、壁材、天井、柱、建具、敷居、框、幅木、廻り縁、欄間、木製ドア等の建築用材、机、椅子、棚、箪笥等の木製家具、木製楽器、スピーカーやオーディオ機器の木製キャビネット、木製のおもちゃ等の木製品において、木目が際立ち、艶のある美感を有し、「シックハウス症候群」の原因となる有機溶剤を一切含有せず、子供が舐めたり、口にしたりした場合にも問題のない極めて優れた安全性を有すると共に、臭気が殆どなく、且つ長期間美感を維持する事で、再塗布等のメンテナンスの回数が減少し、優れた経済性を有する木製品を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品が、上記課題を解決し得る事を見出だし、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(1)エステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルの内、炭素数16の飽和脂肪酸と炭素数18の不飽和脂肪酸が必須成分であり、且つ構成する全脂肪酸量の90%以上であるグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品に関するものである。更に、(1)グリセリン脂肪酸エステルと、
(2)エステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルの内、炭素数20の不飽和脂肪酸と炭素数22の不飽和脂肪酸とが必須成分であり、且つ構成する全脂肪酸量の90%以上であるグリセリン脂肪酸エステルとを混合した、グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品、例えば床材、壁材、天井、柱、建具、敷居、框、幅木、廻り縁、欄間、木製ドア等の建築用材、机、椅子、棚、箪笥等の木製家具、木製楽器、スピーカーやオーディオ機器の木製キャビネット、木製のおもちゃ等の木製品は、木目が際立ち、艶のある美感を有し、「シックハウス症候群」の原因となる有機溶剤を一切含有せず、子供が舐めたり、口にしたりした場合にも問題のない極めて優れた安全性を有すると共に、臭気が殆どなく、且つ長期間美感を維持する事で、再塗布等のメンテナンスの回数が減少し、優れた経済性を有する木製品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明には、グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品を用いる。この時、グリセリン脂肪酸エステルを含浸させる木製品としては、特に限定はなく、アオダモ、アオハダ、アカガシ、アカシナ、アカマツ、アサダ、梓、アスナロ、蘭、イスノキ、イタヤカエデ、一位、イチョウ、イヌエンジュ、イヌグス、イヌシデ、イヌマキ、伊吹、エゾマツ、榎、槐、オニグルミ、楓、柿、桂、榧、カラマツ、樺、カワグルミ、キタゴヨウ、黄肌、桐、楠、栗、クロマツ、桑、欅、ケンポナシ、コウヤマキ、サワグルミ、椹、シウリザクラ、椎、塩地、シナノキ、シラガシ、杉、栓、センダン、竹、タブノキ、タモ、栂、黄楊、トガサワラ、トキワガキ、栃、トドマツ、トネリコ、ドロノキ、楢、楡、ネズ鼠子、ハリモミ、ハルニレ、ハンノキ、檜、ヒバ、ヒメコマツ、ヒメシャラ、ビャクシン、藤木、フジマツ、椈、ベニマツ、朴、ホンマキ、ミズメ、ムクノキ、樅、ヤチダモ、ヤマエンジュ、ヤマザクラ等の国産木材、アガチス、アサメラ、アスペン、アニグレ、アピトン、アフリカンパドウク、アフリカンマホガニー、アフロルモシア、アボジラ、アムーラ、アルトカルプス、アルダー、アルモン、アンベロイ、イエローシダー、イエローステルキュリア、イエローターミナリア、イエローラワン、イゲム、イぺ、イロコ、インチア、インテュレ、ウイロー、ウエスタンレッドシーダー、ウエンジ、ウォールナット、ウリン、エボジア、エボニー、エルム、エヨン、エルム、欧州赤松、オクメ、オバンコル、オフン、オベチェ、カイン、カナリューム、カプール、カメレレ、ガラムート、カランタス、ガム、カリビア松、花梨、カロフィルム、キレット、クインズランドウォルナット、グランドファー、クリンキーパイン、クルイン、ゲロンガン、ケンパス、コーディア、ゴールデンエルム、黒檀、コットンウッド、コティベ、ゴムノキ、コルク、ササフラス、サテンシカモア、サペリ、ジェルトン、シカモア、シタン、シトカスプルス、シュリアンバツ、ジョンコン、シルキーオーク、シルバーハート、シロタガヤ、スコッチパイン、スロアネラ、スプルース、セセンドッグ、セプター、ゼブラウッド、セペチール、セランガンカチャ、セランガンバツ、セルチス、センゴンラウト、ソフトメープル、ダークレッドメランチ、ターミナリア、ダイゾックス、台湾杉、台湾檜、タウン、ターミナリア、鉄刀木、ダグラスファー、ダフリカ、ダンタ、チーク、チェリー、チトラ、チャンパカ、中国ナラ、チューリップウッド、朝鮮松、チンウィン、テレンタン、テュレ、ドリアン、ナーラ、ナイジェリアチーク、南洋桂、南洋桐、ニヤトー、ニューギニアウォールナット、ニャーギニアバスウッド、ニューギニアローズウッド、ノーブルファー、バーケラ、ハードメープル、バーチ、パープルハート、バーリニア、パイン、パオロッサ、バクチカン、バスウッド、ハックベリー、パドウク、パラゴム、パリサンダー、バンキライ、ピーカン、ビーチ、ビアンヌ、ビテックス、ヒッコリー、ピメロデンドロン、ビンタンゴール、フープパイン、ファルカタ、フィリピンマホガニー、ブビンガ、プライ、ブラウンターミナリア、ブラックチェリー、プランチョネラ、米杉、米檜、米栂、米ヒバ、米樅、紅桧、紅松、ヘムロック、ペルポック、ペンシルシダー、北洋エゾ松、北洋カラ松、北洋トド松、ポドカルプス、ポプラ、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトシリス、ホワイトセラヤ、ホワイトファー、ホワイトラワン、ホワイトメランチ、マコレ、マホガニー、マラス、マヤピス、マンガシロノ、マンソニア、ミルキーパイン、ミレシア、マンソニア、メープル、メラピ、メルサワ、メルボウ、モアビ、モラベ、モレイラ、モンキーポッド、ラジアタ松、ラブラ、ラミン、ラワン、ラング、リンデン、レッドウッド、レッドオーク、レッドガム、レッドメランチ、ローズウッド、ローソンサイプレス、ヤン、ヨーロピアンレッドウッド、ワワ等の輸入木材、その他これらを原料とした合板等の加工木材が挙げられ、これらを用いた床材、壁材、天井、柱、建具、敷居、框、幅木、廻り縁、欄間、木製ドア等の建築用材、机、椅子、棚、箪笥等の木製家具、木製楽器、スピーカーやオーディオ機器のキャビネット、木製のおもちゃ等の木製品等、木製品全般が挙げられる。
【0010】
次に、木材表面より含浸させるグリセリン脂肪酸エステルとは、脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応により得られるエステル化反応生成物、及び天然の動植物から採取した油脂であるトリグリセリドの事を言い、そのエステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルを用いる。エステル化率は、「基準油脂物性試験法」(日本油化学協会制定)により測定した、グリセリン脂肪酸エステルのケン化価(SV)、酸価(AV)、水酸基価(OHV)を用い、次式より算出する。
エステル化率(%)={(SV−AV)×100}/(OHV+SV−AV)
SV:ケン化価、AV:酸価、OHV:水酸基価を表す。
エステル化率が75%未満のグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品は、木製品の表面がべたつき使用者に不快感を与える、また、グリセリン脂肪酸エステルの親水性が高まり、水に対し溶解し易くなる事から、水拭き等で容易に拭い去られ耐久性が悪くなり好ましくない。
【0011】
木材表面より含浸させるグリセリン脂肪酸エステルである、(1)グリセリン脂肪酸エステルとは、上記条件を満たし、且つパルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸から成る混合脂肪酸で構成されるグリセリン脂肪酸エステルである。グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応生成物の原料としては、特に限定はなく、汎用されているグリセリン、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸を用いる事が出来、この3種の脂肪酸の合計量が、グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の90%以上で合成したグリセリン脂肪酸エステルを用いる。また、本発明では先述の合成したグリセリン脂肪酸エステルの他、動植物から採取した油脂(トリグリセリド)の内、構成する脂肪酸の90%以上が、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸であるグリセリン脂肪酸エステルも用いる事が出来る。更には、合成したグリセリン脂肪酸エステルと動植物から採取した油脂(トリグリセリド)の混合物を用いても、同様の効果を得る事が出来る。構成する脂肪酸の内、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸の合計が90%未満のグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合、例えばラウリン酸、カプリン酸やカプリル酸等の脂肪酸が多い場合には、それを含浸させた木製品が特有の臭気を発したり、また皮膚に触れる機会の多い家具等では、使用者に皮膚刺激の懸念があり、好ましくない。また、ステアリン酸等の脂肪酸が多い場合には、木製品への浸透性が悪く、グリセリン脂肪酸エステルが表面上のみに留まる為、摩擦や日常の使用により容易に失われ、耐久性が悪くなり長期間美感を維持する事が出来なくなる等の問題が発生する。
【0012】
更に、本発明に用いる(1)グリセリン脂肪酸エステルは、上記条件を満たし、且つその構成脂肪酸の比は、パルミチン酸:オレイン酸:リノール酸=1.0:1.5〜4.6:1.1〜3.7、好ましくはパルミチン酸:オレイン酸:リノール酸=1.0:2.0〜4.0:1.5〜3.5である。上記範囲外では、グリセリン脂肪酸エステルの木製品への浸透性が悪くなり、グリセリン脂肪酸エステルが表面に留まり易くなる、その為、木製品の表面にべたつきが生じ、使用者に不快感を与え好ましくない。また、摩擦や日常の使用により容易に失われ、耐久性が悪く、長期間美感を維持出来ない。更には、本発明の効果である木目が際立ち、艶のある美感を有する木製品を得る事が出来ない。
【0013】
上記条件を満たす(1)グリセリン脂肪酸エステルは、常法により得られる。例えばグリセリンと、上記条件を満たす様に混合したパルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸の混合脂肪酸を仕込み、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を加えた後、常圧若しくは減圧化においてエステル化反応して得られる。また、上記条件を満たすグリセリン脂肪酸エステルである動植物から採取した油脂(トリグリセリド)としては、例えば、米油(米糠油)、米胚芽油、落花生油、カボチャ種子油、スダチ種子油、モッコク種子油、ゆず種子油等の油脂が挙げられる。これら動植物油脂を使用する場合、米油(米糠油)は、安定供給の面及び食物アレルギーの懸念がない点等から特に好ましい。
【0014】
更に、上記記載の(1)グリセリン脂肪酸エステルと、以下に詳細を説明する(2)グリセリン脂肪酸エステルとを併用して木材表面より含浸させ木製品を得る。
【0015】
(2)グリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応により得られるエステル化反応生成物、及び天然の動植物から採取した油脂であるトリグリセリドの事を指し、そのエステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルを用いる。エステル化率が75%未満のグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品は、木製品の表面がべたつき使用者に不快感を与える、また、グリセリン脂肪酸エステルの親水性が高まり、水に対し溶解し易くなる事から、水拭き等で容易に拭い去られ耐久性が悪くなり好ましくない。
【0016】
また、(2)グリセリン脂肪酸エステルは、上記条件を満たし、且つエイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸から成る混合脂肪酸で構成されるグリセリン脂肪酸エステルである。グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応生成物の原料としては、特に限定はなく、汎用されているグリセリン、エイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸を用いる事が出来、この3種の脂肪酸の合計量が、グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の90%以上で合成したグリセリン脂肪酸エステルを用いる。また、本発明では先述の合成したグリセリン脂肪酸エステル以外に、動植物から採取した油脂(トリグリセリド)の内、構成する脂肪酸の90%以上が、エイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸であるグリセリン脂肪酸エステルも用いる事が出来る。更には、合成したグリセリン脂肪酸エステルと動植物から採取した油脂(トリグリセリド)の混合物を用いても、同様の効果を得る事が出来る。構成する脂肪酸の内、エイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸の合計が90%未満のグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合、例えばアラキジン酸やベヘン酸等の脂肪酸が多い場合には、木製品への浸透性が悪く、グリセリン脂肪酸エステルが表面上のみに留まる為、摩擦や日常の使用により容易に失われ、耐久性が悪くなり長期間美感を維持する事が出来なくなる等の問題が発生する。また、リノレン酸、アラキドン酸やドコサテトラエン酸等の脂肪酸が多い場合には、自動酸化による酸化被膜を木製品表面に形成させ、表面に光沢等を付与するが、その被膜は表面上のみに存在するため、摩擦や日常の使用により容易に失われ、頻繁に再塗布等のメンテナンスを行う必要があり、使用者に不便さを与えたり、またそれを塗布した木製品が特有の臭気を発する為、好ましくない。
【0017】
更に、(2)グリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸比は、ドコサジエン酸:ドコセン酸:エイコセン酸=1.0:1.1〜2.5:4.2〜7.6、好ましくはドコサジエン酸:ドコセン酸:エイコセン酸=1.0:1.5〜2.0:4.5〜7.0である。この範囲外では、木製品への浸透性が悪くなり、グリセリン脂肪酸エステルの木製品への浸透性が悪くなり、グリセリン脂肪酸エステルが表面に留まり易くなる、その為、木製品の表面にべたつきが生じ、使用者に不快感を与え好ましくない。また、摩擦や日常の使用により容易に失われ、耐久性が悪く、長期間美感を維持出来ない。更には、本発明の効果である木目が際立ち、艶のある美感を有する木製品を得る事が出来ない。
【0018】
上記条件を満たす(2)グリセリン脂肪酸エステルは、常法により得られる。例えばグリセリンと、上記条件を満たすように混合したエイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸の混合脂肪酸を仕込み、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を加えた後、常圧若しくは減圧化においてエステル化反応して得られる。また、上記条件を満たすグリセリン脂肪酸エステルである動植物から採取した油脂(トリグリセリド)としては、例えば、メドフォーム油等が挙げられる。メドフォーム油は、臭気が少なく、植物由来である点からも好ましい。
【0019】
更に本発明では、(1)グリセリン脂肪酸エステルと(2)グリセリン脂肪酸エステルとを混合し、その混合グリセリン脂肪酸エステル中の(1)グリセリン脂肪酸エステルの配合量が60〜99重量%、好ましくは65〜85重量%であるグリセリン脂肪酸エステルを用いる。このものは、(1)グリセリン脂肪酸エステルより、木製品への浸透性が良好である、その為(1)グリセリン脂肪酸エステルのみを含浸させた木製品より、長期間美感が維持出来、再塗布等のメンテナンスの回数が減少し、経済性がより優れている。更には、木目が際立ち、艶のある美感が更に向上した木製品を得る事が出来る。(2)グリセリン脂肪酸エステルが40%を超える場合は、(1)グリセリン脂肪酸エステルを含浸させた木製品と比べ、木目が際立ち、艶のある美感や、その長期に渡る美感維持等が劣る木製品となる。
【0020】
本発明は、「シックハウス症候群」の原因となる有機溶剤、例えば、ホルムアルデヒド、ベンゼン、キシレン、酢酸エチル、トルエン等を一切含有しない、グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品である。更には、子供が木製品を舐めたり、口にしたりした場合にも問題のない極めて優れた安全性を有する為、木材表面より含浸させるグリセリン脂肪酸エステルは、食品添加物の規格試験に定められる試験項目(純度試験)の1つである、鉛等の重金属は20ppm以下、砒素は2ppm以下を達成しておく必要がある。
【0021】
また、本発明では、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を配合したグリセリン脂肪酸エステルを用いる事も可能であり、それを木材表面より含浸させた木製品であっても良い。他の成分としては、例えばキャンデリラワックス、カルナバワックス等の天然ワックス類、デキストリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の油溶性の増粘剤、トコフェロールや天然ビタミンE、γ―オリザノール、ローズマリーエキス等の酸化防止剤、天然系の油溶性の染料、顔料、多価アルコール、フラボノイド系の消臭成分等が挙げられる。
【0022】
本発明のグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品は、常法により得られる。例えば、木製品の表面に対して、上記範囲のグリセリン脂肪酸エステルを刷毛、ローラーやウエス等で塗布する方法、スプレー等により噴霧する方法、またグリセリン脂肪酸エステルに直接浸漬する方法等が挙げられ、いずれかの方法でグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させ木製品を得る。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0024】
実施例1
米油(エステル化率100%、構成する脂肪酸の95.1%が、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸から成る混合脂肪酸であり、パルミチン酸:オレイン酸:リノール酸=1.0:2.6:2.3であるグリセリン脂肪酸エステル)を、温度23℃、湿度55%の環境下において、1cm四方(厚さ1cm)の檜板に0.5gを刷毛で塗布し、含浸させた木製品を得た。その木製品の表面の状態(木目の際立ち具合や艶、ベタツキの有無)、臭気の無さ、及び塗布含浸から1日後の木製品の表面をウエスで乾拭きを100回実施した時の木製品の表面(木目の際立ち具合や艶)、及び同様に作成した、もう一つの木製品(塗布含浸から1日後の木製品)を水拭きした時の表面(木目の際立ち具合や艶)について、30名のパネラーによる官能評価を行った。尚、それぞれの評価点数を5点満点とし、30名の平均点を算出し、以下の基準に従い評価した。実施例1の結果を表1に示す。
<評価基準>
◎:4.5点以上(非常に良好である)
○:4.0点以上、4.5点未満(良好である)
△:3.0点以上、4.0点未満(やや悪い)
×:3.0点未満(悪い)
【0025】
実施例2
カボチャ種子油(エステル化率100%、構成する脂肪酸の94.7%が、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸から成る混合脂肪酸であり、パルミチン酸:オレイン酸:リノール酸=1.0:4.4:2.6であるグリセリン脂肪酸エステル)と、メドフォーム油(エステル化率100%、構成する脂肪酸の95.0%が、エイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸から成る混合脂肪酸であり、ドコサジエン酸:ドコセン酸:エイコセン酸=1.0:2.0:6.5であるグリセリン脂肪酸エステル)とを混合し、その混合グリセリン脂肪酸エステル中の米油の配合量が60重量%であるグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品を、実施例1と同様な方法に従い評価した。その結果を表1に示す。
【0026】
実施例3〜10
表1に示すグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品を作成し、上記評価方法に従い評価した。その結果を表1に示す。
【0027】
実施例11
チーク材で製作した椅子に実施例1で使用したグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させ、上記評価方法に従い評価した。その結果を表1に示す。
【0028】
実施例12
ローズウッドでスピーカーの木製キャビネットを製作し、実施例3で使用したグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させ、上記評価方法に従い評価した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
比較例1〜11
表2に示すグリセリン脂肪酸エステル等を木材表面に処理した木製品を作成し、上記評価方法に従い評価した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
比較例12
チーク材で製作した椅子に比較例1で使用したグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させ、上記評価方法に従い評価した。その結果を表2に示す。
【0033】
比較例13
ローズウッドでスピーカーの木製キャビネットを製作し、比較例2で使用したグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させ、上記評価方法に従い評価した。その結果を表2に示す。
【0034】
比較例14
特開2004−18643記載の木材加工品用コーティング組成物を、その特許公報に記載されている実施例1に準じて作成し、実施例1と同様な方法に従い評価した。その結果を表2に示す。
【0035】
実施例1〜12の木製品は、木目が際立ち、艶のある美感を有すると共に、臭気が殆どなく、また、木製品の表面を水拭きや、ウエスで100回乾拭きを実施した後も、木製品の表面は木目が際立ち、艶のある美感を維持しており、高い耐久性を有しており、長期間美感を維持できるものであった。また「シックハウス症候群」の原因となる有機溶剤を一切含有していない為、使用者にとって安全性の高いものである。また、実施例12と比較例13で得られたスピーカーを用いて、その音質を30名のパネラーにおいて比較評価した結果、30名中24名が、実施例12で得られたスピーカーの方が、重量感のある安定した音質であるとの意見であり、音響設備においても良好な特長を示した。一方、比較例1〜14の木製品は、評価項目の何れか若しくは全ての項目において、満足する結果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品は、木目が際立ち、艶のある美感を有し、「シックハウス症候群」の原因となる有機溶剤を一切含有せず、子供が舐めたり、口にしたりした場合にも問題のない極めて優れた安全性を有すると共に、臭気が殆どなく、且つ長期間美感を維持する事で、再塗布等のメンテナンスの回数が減少する等、優れた経済性を有し、床材、壁材、天井、柱、建具、敷居、框、幅木、廻り縁、欄間、木製ドア等の建築用材、机、椅子、棚、箪笥等の木製家具、木製楽器、スピーカーやオーディオ機器の木製キャビネット、木製のおもちゃ等に利用出来るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品において、
(1)エステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルの内、構成する脂肪酸の90%以上が、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸から成る混合脂肪酸であり、パルミチン酸:オレイン酸:リノール酸=1.0:1.5〜4.6:1.1〜3.7であるグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品。
【請求項2】
請求項1記載の(1)グリセリン脂肪酸エステルと、
(2)エステル化率が75%以上のグリセリン脂肪酸エステルの内、構成する脂肪酸の90%以上が、エイコセン酸、ドコセン酸及びドコサジエン酸から成る混合脂肪酸であり、ドコサジエン酸:ドコセン酸:エイコセン酸=1.0:1.1〜2.5:4.2〜7.6であるグリセリン脂肪酸エステルとを混合((1)+(2))し、その混合グリセリン脂肪酸エステル中の(1)の配合量が60〜99重量%であるグリセリン脂肪酸エステルを木材表面より含浸させた木製品。

【公開番号】特開2008−30212(P2008−30212A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202888(P2006−202888)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(500247769)株式会社 ルバンシュ (7)
【出願人】(503294326)有限会社ライスクリエイト (3)
【Fターム(参考)】