説明

グリセルアルデヒドアセトニドの調製方法

本発明は、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを酸化剤で酸化することによってグリセルアルデヒドアセトニドを調製する方法であって、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを、不活性な塩基およびTEMPOまたはTEMPO誘導体の存在下に有機N−クロロ化合物で酸化する方法に関する。本発明の一実施態様においては、対応する光学活性な2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールから、光学活性なグリセルアルデヒドアセトニドが調製される。好ましくは、有機N−クロロコンパウント(compount)は、トリクロロイソシアヌル酸またはジクロロジメチルヒダントインである。好ましくは、不活性な塩基は、酢酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対応する2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを酸化剤で酸化することによってグリセルアルデヒドアセトニドを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の方法は、エルモレンコ(Ermolenko)らによる、「An expedient one−step preparation of (S)−2,3−O−isopropylidene−glyceraldehyde((S)−2,3−O−イソプロピリデン−グリセルアルデヒドの好都合な一段階調製)」、Synlett、pp.1565〜1566、2001年により周知である。エルモレンコらは、ジクロロメタン中において(R)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールをクロロクロム酸ピリジニウム(PCC)または二クロム酸ピリジニウム(PDC)で酸化することによって(S)−グリセルアルデヒドアセトニドを調製できることを開示している。この方法の主な欠点は、副生成物の著しい形成によって収率が非常に低くなる(30%)ことにある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを酸化することによりグリセルアルデヒドアセトニドを調製する方法であって、より高収率でグリセルアルデヒドアセトニドが得られる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
驚くべきことに、この目的は、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを、不活性な塩基および式1、
【化1】


(式中、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、RおよびRは、両方ともがHもしくは1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表すか、または、一方がHを表すとともに他方が1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜6個の炭素原子を有するアルキルカルボニルオキシ基、1〜6個の炭素原子を有するカルボニルオキシ基を有するアリールカルボニルオキシ基、もしくは1〜6個の炭素原子を有するアルキルカルボニルアミノ基を表すかのいずれかであるか、あるいはRおよびRが一緒になって、式a〜c、
【化2】


(式中、Rは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表す)のケタール基を表し、Yは、一般式d〜f、
【化3】


(式中、Xは陰イオンを表す)の基を表す)のTEMPOまたはTEMPO誘導体の存在下に、有機N−クロロ化合物で酸化することによって達成される。
【発明の効果】
【0005】
本方法を用いることにより、より高い収率が達成されるとともに、形成される副生成物が実質的に低減される。さらに、本発明の方法は、環境に不利な酸化剤であるPCCやPDCを必要としない。
【0006】
1級および2級アルコールをTEMPOまたはTEMPO誘導体および塩基の存在下に有機N−クロロ化合物によって対応するアルデヒドに酸化することができるという事実はEP−B−0775684により周知であり、このことは特定のアルコール群に関し示されている。しかしながら、驚くべきことに、この酸化方法は特に2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールからグリセルアルデヒドアセトニドへの酸化に非常に効果がある。この他にもアルコールを酸化する多くの方法が知られているが、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを酸化して妥当な収率でグリセルアルデヒドアセトニドを得るのに好適なものは見い出されていなかったので、このことは驚くべきことである(表A参照)。
【0007】
好ましくは、本発明の方法は、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル)の存在下に実施される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の一実施態様においては、対応する光学活性な2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールから光学活性なグリセルアルデヒドアセトニドが調製される。光学活性なグリセルアルデヒドアセトニドは、(S)−グリセルアルデヒドアセトニドまたは(R)−グリセルアルデヒドアセトニドのいずれかであり得る。好ましくは、グリセルアルデヒドアセトニドの鏡像体過剰率(ee)は80%を超え、より好ましくは90%を超え、特に95%を超え、より特に98%を超え、最も特に99%を超える。好ましくは、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールのエナンチオマー過剰率(ee)は80%を超え、より好ましくは90%を超え、特に95%を超え、より特に98%を超え、最も特に99%を超える。驚くべきことに、本発明の方法を用いることにより、出発物(starting product)である対応する2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールのeeが、調製されたグリセルアルデヒドアセトニドのeeとほぼ等しくなる。このことは、本発明の方法中にラセミ化がほとんど起こらないことを示唆している。
【0009】
本発明の範囲において、不活性な塩基とは、通常の酸−塩基反応は別として、有機N−クロロ化合物またはその分解生成物の1種、式1のTEMPOまたはTEMPO誘導体(式中、R、R、R、R、R、およびRは上記と同義)とも、グリセルアルデヒドアセトニドまたは2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールとも反応しない塩基を意味する。本発明の方法においては、この不活性な塩基は、反応中に形成されるHClを中和するために使用される。好ましくは、共役酸がpK>2である塩基を使用する。不活性な塩基としては、例えば、酢酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0010】
好ましくは、塩基の使用量は、該反応において形成され得るHClの理論最大モル量を基準として少なくとも0.8モル当量であり、より好ましくは少なくとも0.9モル当量であり、最も好ましくは少なくとも1モル当量である。
【0011】
本発明の方法の温度は、原則として決定的な因子ではない。好ましくは、−20℃を超え、より好ましくは0℃を超え、よりさらに好ましくは15℃を超える温度を用いる。この温度は、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃未満である。実際は、好ましくは−20〜100℃、より好ましくは15〜80℃の温度を用いる。
【0012】
有機N−クロロ化合物、式1のTEMPOまたはTEMPO誘導体(式中、R〜Rは上記と同義)を添加する順序は、原則として決定的な因子ではない。好ましくは、溶媒中に2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、有機N−クロロ化合物、および不活性な塩基を含む混合物に式1のTEMPOまたはTEMPO誘導体(式中、R〜Rは上記と同義)を添加する。
【0013】
好適な有機N−クロロ化合物としては、N−クロロ−4−トルエンスルホンアミドナトリウム塩、N−クロロ−ベンゼンスルホンアミドナトリウム塩、トリクロロイソシアヌル酸、およびジクロロジメチルヒダントインが挙げられる。好ましくは、有機N−クロロ化合物は、トリクロロイソシアヌル酸またはジクロロジメチルヒダントインである。
【0014】
有機N−クロロ化合物の量は、原則として決定的な因子ではない。好ましくは、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として、活性塩素が少なくとも0.5モル当量、より好ましくは活性塩素が少なくとも1モル当量、最も好ましくは活性塩素が少なくとも1.1モル当量となる量の有機N−クロロ化合物を使用する。有機N−クロロ化合物の最大量は、原則として決定的な因子ではない。経済的な理由により、好ましくは、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として活性塩素の量を5モル当量未満とする。
【0015】
本発明の方法に使用される式1のTEMPOまたはTEMPO誘導体(式中、R〜Rは上記と同義)の量は、原則として決定的な因子ではない。しかしながら、経済的な理由により、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として好ましくは20モル%未満、より好ましくは5モル%未満、特に1モル%未満のTEMPOまたはTEMPO誘導体を使用する。好ましくは、TEMPOまたはTEMPO誘導体の量は、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として0.01モル%を超え、より好ましくは0.02モル%を超え、よりさらに好ましくは0.05モル%を超え、最も好ましくは0.1モル%を超える。実際は、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として0.1〜1モル%の量のTEMPOまたはTEMPO誘導体を使用することが好ましい。
【0016】
好ましくは、本発明の方法は、溶媒の存在下に実施される。
【0017】
好適な溶媒としては、ケトン類、例えば、アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン;エステル類、例えば、酢酸エチルまたは酢酸メチル;ハロゲン化炭化水素、例えばジクロロメタン;エーテル類、例えば、メチル−t−ブチルエーテルまたはジエチルエーテル;芳香族溶媒、例えばトルエン;ニトリル類、例えばアセトニトリル;アミド類、例えばN,N−ジメチルホルムアミド;ラクタム類、例えばN−メチルピロリジノン;スルホキシド類、例えばジメチルスルホキシドが挙げられる。どの溶媒が特に好ましいかは、選択された塩基の溶解性に依存し、これは当業者らによって容易に決定することができる。
【0018】
グリセルアルデヒドアセトニド、特に(S)−グリセルアルデヒドアセトニドは、例えば医薬品(特に抗ウイルス剤)や農薬等の合成に有用な中間体である。例えば、国際公開第03/022853号パンフレットには、(S)−グリセルアルデヒドアセトニドから出発して以下に示す化合物:2−(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメチレン)−マロン酸ジエチルエステル、2−[1−(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イル)−2−ニトロエチル]−マロン酸ジメチルエステル、4−メトキシ−2−オキソ−ヘキサヒドロ−フロ[3,4−b]フラン−3−カルボン酸メチルエステル、2−(4−ヒドロキシ−2−メトキシ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−マロン酸ジメチルエステル、4−メトキシ−テトラヒドロ−フロ[3,4−b]フラン−2−オン、4−ヒドロキシ−2−メトキシ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)酢酸メチルエステル、ヘキサヒドロ−フロ[2,3−b]フラン−3−オールを調製するための方法(特に、光学活性な形態にある数種の化合物の調製)が記載されている。これらの化合物は、特に光学活性な形態で、抗ウイルス剤、特に抗HIV剤、より具体的にはHIVプロテアーゼ阻害剤の調製に使用することができる。これらの化合物を、国際公開第03/022853号パンフレットにおいて使用されている参照番号を用いて以下に示すこととする。この化合物は、国際公開第95/24385号パンフレット、国際公開第99/65870号パンフレット、国際公開第00/47551号パンフレット、国際公開第00/76961号パンフレット、米国特許第6,127,372号明細書、国際公開第01/25240号パンフレット、EP0715618、および国際公開第99/67417号パンフレット(これら全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に開示されているようなHIVプロテアーゼ阻害剤の調製、特に以下に示すHIVプロテアーゼ阻害剤:
[(1S,2R)−2−ヒドロキシ−3−[[(4−メトキシフェニル)スルホニル](2−メチルプロピル)アミノ]−1−(フェニルメチル)プロピル]−カルバミン酸(3R,3aS,6aR)−ヘキサヒドロフロ[2,3−b]フラン−3−イルエステル(HIVプロテアーゼ阻害剤1)、
[(1S,2R)−3−[[(4−アミノフェニル)スルホニル](2−メチルプロピル)アミノ]−2−ヒドロキシ−1−(フェニルメチル)プロピル]−カルバミン酸(3R,3aS,6aR)−ヘキサヒドロフロ[2,3−b]フラン−3−イルエステル(HIVプロテアーゼ阻害剤2)、
[(1S,2R)−3−[(1,3−ベンゾジオキソール−5−イルスルホニル)(2−メチルプロピル)アミノ]−2−ヒドロキシ−1−(フェニルメチル)プロピル]−カルバミン酸(3R,3aS,6aR)−ヘキサヒドロフロ[2,3−b]フラン−3−イルエステル(HlVプロテアーゼ阻害剤3)、またはその薬剤的に許容される任意の付加塩の調製において特に興味深いものである。
【0019】
国際公開第03/022853号パンフレットによれば、2−(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメチレン)−マロン酸ジエチルエステル(化合物III.2)は、グリセルアルデヒドアセトニドから、マロン酸ジメチルを用いて調製することができる。2−[1−(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イル)−2−ニトロエチル]−マロン酸ジメチルエステル(化合物III.3)は、触媒量の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)の存在下に2−(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イルメチレン)−マロン酸ジエチルエステル(化合物III.2)をニトロメタンと反応させることによって調製することができる。4−メトキシ−2−オキソ−ヘキサヒドロ−フロ[3,4−b]フラン−3−カルボン酸メチルエステル(化合物III.4)および2−(4−ヒドロキシ−2−メトキシ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−マロン酸ジメチルエステル(化合物III.4’)は、2−[1−(2,2−ジメチル−[1,3]ジオキソラン−4−イル)−2−ニトロエチル]−マロン酸ジメチルエステル(化合物III.3)から、まず塩基を、続いて酸を用いることによって調製することができる。化合物4−メトキシ−テトラヒドロ−フロ[3,4−b]フラン−2−オン(化合物III.5)および4−ヒドロキシ−2−メトキシ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)酢酸メチルエステル(化合物III.5’)は、化合物4−メトキシ−2−オキソ−ヘキサヒドロ−フロ[3,4−b]フラン−3−カルボン酸メチルエステル(化合物III.4)および2−(4−ヒドロキシ−2−メトキシ−テトラヒドロ−フラン−3−イル)−マロン酸ジメチルエステル(化合物III.4’)の脱カルボキシル化によって調製してもよい。ヘキサヒドロ−フロ[2,3−b]フラン−3−オール(化合物7.1)は、4−メトキシ−テトラヒドロ−フロ[3,4−b]フラン−2−オン(化合物III.5)を還元することによって調製することができる。それにより中間体化合物である4−(2−ヒドロキシ−エチル)−5−メトキシ−テトラヒドロ−フラン−3−オール(式(6)の化合物)が生じ、次いでこれを環化することによってヘキサヒドロ−フロ[2,3−b]フラン−3−オール(化合物7.1)を形成することができる。
【0020】
本発明の方法は、ここで以下の非限定的な実施例を示すことによって明確になるであろう。
【実施例】
【0021】
実施例1 酸化剤の選別
材料および方法
(R,S)−ソルケタール(=(R,S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、97重量%)を、アクロス(Acros)から入手したままの状態で使用する。4−メチルモルホリン−N−オキシド(一水和物)、ピリジン−N−オキシド(実験E〜Hに適用)、RuCl、ZrOCl、TEMPO(=2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル)、TCCA(=トリクロロイソシアヌル酸、1モルが活性塩素3モルに相当)、およびNaOCl(水溶液、活性塩素12重量%を含む)を、アルドリッチ(Aldrich)から入手したままの状態で使用する。分析用(p.a.quality)のアセトニトリル(メルク(Merck))をさらに精製することなく使用する。H(50重量%水溶液)を、デグサ(Degussa)から入手した状態のままで使用する。ピリジン−N−オキシド(実験I〜Lに使用)を、ピリジン(分析用、メルク)のCHCl(分析用、メルク)溶液をH(ピリジンを基準として10モル当量、50重量%水溶液、デグサ)を用いて0℃で処理し、反応混合物を一夜撹拌した後、有機相を分離し、これを1回水洗した後、溶媒を蒸発させることによって現場で調製し、得られた残渣をさらに精製することなく酸化反応に使用する。
【0022】
GC分析には、アジレント(Agilent)6890GCを使用し、これに長さ10m、内径0.10mm、膜厚0.10μmのDB−5カラムを組み合わせ、スプリット注入口系を使用した(キャリアガス:ヘリウム、カラム流量:0.5mL/分、スプリット比:100:1)。注入量を1.0μLとした。検出にはFIDを300℃で用いた。注入温度を250℃とし、カラムの温度プログラムの構成を、100℃で0.5分、続いて40℃/分で280℃まで昇温するものとした。
【0023】
一般手順
(R,S)−ソルケタール0.50g(3.79ミリモル)をアセトニトリル5mLに溶解した後、触媒(表Aに示す)0.38ミリモル(=(R,S)−ソルケタールを基準として0.1モル当量)を加える。この溶液に、酸化剤(表Aに示すように、(R,S)−ソルケタールを基準として1または2モル当量)の溶液を、室温で30分間で加えた。酸化剤が4−メチルモルホリン−N−オキシド、ピリジン−N−オキシド、およびTCCAの場合は、アセトニトリル2mLの溶液として加え、酸化剤がPyr−NO、NaOCl、およびHの場合は、水溶液として加える。反応混合物を室温で撹拌した後、(R,S)−ソルケタールの(R,S)−ソルケタールアルデヒドへの転化率をGCを用いて観測する。測定された最大転化率を表Aに示す。
【0024】
結果
【0025】
【表1】

【0026】
結論として、上述の酸化剤の選別から、本発明の方法に用いられるTCCA(有機N−クロロ化合物)(実施例U)とTEMPO(またはTEMPO誘導体)との組合せは、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールからグリセルアルデヒドアセトニドが許容可能な転化率で得られる唯一の酸化剤および触媒の組合せであることがわかる。
【0027】
実施例2 パラメータの影響
材料および方法
(R)−ソルケタール(=(R)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、97重量%、e.e.99.6%)、(R,S)−ソルケタール(=(R,S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、97重量%)、TCCA(=トリクロロイソシアヌル酸、99重量%、1モルが活性塩素3モルに相当)、DCDMH(=ジクロロジメチルヒダントイン、1モルが活性塩素1.33モルに相当)、TEMPO(=2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシラジカル、98重量%)、NaOAc(=酢酸ナトリウム、99重量%)、NaHCO(=炭酸水素ナトリウム、99重量%)、KCO(=炭酸カリウム、99重量%)、およびTEPA(=ホスホノ酢酸トリエチル)、97重量%)に加えて、溶媒としてアセトン、2−ブタノン、酢酸エチル、アセトニトリル、およびジクロロメタン(いずれも分析用)、をアクロスから入手したままの状態で使用する。
【0028】
GC分析には、アジレント6890GC(EPC)およびアジレント7683自動液体サンプラーを使用し、これに長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μmのベータデックス(Betadex)カラム(品番24305、スペルコ(Supelco))を組み合わせ、スプリット注入口系を用い、流量を一定とした(キャリアガス:ヘリウム、カラム入口圧力:26.4kPa、カラム流量:1.4mL/分、スプリット流量37.5mL/分)。検出にはFIDを250℃で用いた。(R)−および(S)−グリセルアルデヒドアセトニドの定量分析測定の場合は、注入温度を150℃とし、カラム温度のプログラム構成を、60℃で3分間、5℃/分で130℃まで昇温、さらに130℃で1分間、そして25℃/分で230℃まで昇温するものとした。(R)−および(S)−エチル−((4,5)−O−イソプロピリデン−(4,5)−ジヒドロキシ)−2−(E,Z)−ペンテノアートの定量分析測定の場合は、注入温度を250℃とし、カラム温度のプログラムの構成を、80℃で1分間、5℃/分で225℃まで昇温、さらに225℃で10分間とした。
【0029】
溶媒の影響
【0030】
【表2】

【0031】
実施例2.1:アセトン中における、(R)−ソルケタールから(S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R)−ソルケタール5.46g(40.0ミリモル)をアセトン25.9gに溶解する。次いで、NaOAc3.95g(48.2ミリモル)およびTCCA3.72g(16.0ミリモル)を添加し、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。
【0032】
TEMPO15.7mg(0.10ミリモル)をアセトン11.3gに溶解した溶液を8分間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させる。この反応混合物をさらに30分間撹拌した後、固形分を濾去し、アセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド(e.e.=99.5%)4.2g(32.2ミリモル、(R)−ソルケタールを基準とした収率:80%)が得られたことがわかる。
【0033】
実施例2.2:2−ブタノン中における、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)を2−ブタノン18.9gに溶解する。次いで、NaOAc2.96g(36.1ミリモル)およびTCCA2.79g(12.0ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO11.8mg(0.075ミリモル)を2−ブタノン8.5gに溶解した溶液を9分間かけて加え、反応混合物を74℃まで自然に昇温させる。この反応混合物をさらに30分間撹拌した後、固形分を濾去して、2−ブタノン20gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド3.0g(23.2ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:77%)が得られたことがわかる。
【0034】
実施例2.3:酢酸エチル中における、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
TEMPO溶液を10分間かけて加えること、反応混合物を77℃まで自然に昇温させること、および固形分を酢酸エチルで洗浄することを除いて、実施例2.2の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)を酢酸エチル19.0gに溶解した溶液を酢酸エチル中で酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.6g(20.2ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:67%)が得られたことが分かる。
【0035】
実施例2.4:アセトニトリル中における、(R.S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
TEMPO溶液を6分間かけて加えること、反応混合物を60℃まで自然に昇温させること、および固形分をアセトニトリルで洗浄することを除いて、実施例2.2の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をアセトニトリル19.2gに溶解した溶液をアセトニトリル中で酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.5g(19.1ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:64%)が得られたことが分かる。
【0036】
実施例2.5:ジクロロメタン中における、(R,S)−ソルケタールの(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
TEMPO溶液を15分間かけて加えること、反応混合物を42℃まで自然に昇温させること、および固形分をジクロロメタン30gで洗浄することを除いて、実施例2.2の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をジクロロメタン28.0gに溶解した溶液をジクロロメタン中で酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.4g(18.4ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:61%)が得られたことが分かる。
【0037】
TEMPOの量の影響
【0038】
【表3】

【0039】
実施例2.6:TEMPO1.0モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をアセトン18.0gに溶解する。次いで、NaOAc2.96g(36.1ミリモル)およびTCCA2.79g(12.0ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO48.0mg(0.30ミリモル)をアセトン12.2gに溶解した溶液を7分間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させる。反応混合物をさらに30分間撹拌し、固形分を濾去して、アセトン20gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.9g(22.1ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:74%)が得られたことがわかる。
【0040】
実施例2.7:TEMPO0.33モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
TEMPO15.8mg(0.10ミリモル)をアセトン9.3gに溶解した溶液を12分間かけて加え、反応混合物を60℃まで自然に昇温させることを除いて、実施例2.6の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.10g(30.1ミリモル)をアセトン19.3gに溶解した溶液を酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド3.0g(23.1ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:77%)が得られたことがわかる。
【0041】
実施例2.8:TEMPO0.15モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
TEMPO9.4mg(0.059ミリモル)をアセトン9.3gに溶解した溶液を11分間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させることを除いて、実施例2.1の手順に従い、(R,S)−ソルケタール5.45g(40.0ミリモル)をアセトン25.6gに溶解した溶液を酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド3.8g(29.6ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:74%)が得られたことがわかる。
【0042】
実施例2.9:TEMPO0.081モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール6.14g(45.0ミリモル)をアセトン30.2g中に溶解する。次いで、NaOAc4.44g(54.23ミリモル)およびTCCA4.19g(18.0ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO5.8mg(0.036ミリモル)をアセトン12.3gに溶解した溶液を10分間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させる。この反応混合物をさらに30分間撹拌し、固形分を濾去して、アセトン28gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド4.1g(31.5ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:70%)が得られたことがわかる。
【0043】
実施例2.10:TEMPO0.023モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
TEMPO1.1mg(0.0068ミリモル)をアセトン8.6gに溶解した溶液を10分間かけて加え、反応混合物を46℃まで自然に昇温させることを除いて、実施例2.6の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.10g(30.1ミリモル)をアセトン19.7gに溶解した溶液を酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.3g(18.0ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:60%)が得られたことがわかる。
【0044】
TCCAの量の影響
【0045】
【表4】

【0046】
実施例2.11:TCCA33モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.10g(30.1ミリモル)をアセトン19.2gに溶解する。次いで、NaOAc2.51g(30.3ミリモル)およびTCCA2.35g(10.0ミリモル)(活性塩素30.0ミリモルを含む)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO12.3mg(0.077ミリモル)をアセトン8.6gに溶解した溶液を8分間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させる。TEMPOの添加が完了した後、反応混合物を5分間かけて25℃まで冷却する。固形分を濾去してアセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.9g(21.9ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:73%)が得られたことがわかる。
【0047】
実施例2.12:TCCA50モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
NaOAc3.77g(45.45ミリモル)およびTCCA3.52g(15.0ミリモル)(活性塩素45.0ミリモルを含む)を使用すること、およびTEMPO溶液を12分間かけて加え、反応混合物を59℃まで昇温させることを除いて、実施例2.11の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をアセトン22.2gに溶解した溶液を酸化する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド3.0g(23.0ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:77%)が得られたことがわかる。
【0048】
実施例2.13:TCCA100モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底ラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.44g(32.6ミリモル)をアセトン25.3gに溶解する。次いで、NaOAc8.16g(98.5ミリモル)およびTCCA7.65g(32.6ミリモル)(活性塩素97.8ミリモルを含む)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO13.0mg(0.082ミリモル)をアセトン9.7gに溶解した溶液を9分間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させる。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.9g(21.9ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:67%)が得られたことがわかる。
【0049】
TCCAに対するNaOAcの量の影響
【0050】
【表5】

【0051】
実施例2.14:NaOAc80モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をアセトン19.3g中に溶解する。次いで、NaOAc2.00g(24.1ミリモル)およびTCCA2.83g(12.0ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO12.0mg(0.075ミリモル)をアセトン8.9gに溶解した溶液を9分間かけて加え、反応混合物を57℃まで自然に昇温させる。TEMPOの添加が完了した後、反応混合物をさらに30分間撹拌する。固形分を濾去してアセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド1.4g(11.1ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:37%)が得られたことがわかる。
【0052】
実施例2.15:NaOAc108モル%を使用した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
NaOAc2.66g(32.1ミリモル)を使用することを除いて、実施例2.14の手順に従い、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をアセトン19.5gに溶解した溶液を酸化する。TEMPO溶液を添加した後、反応混合物の温度は59℃まで上昇する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.8g(21.7ミリモル、(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:73%)が得られたことがわかる。
【0053】
塩基の種類による影響
【0054】
【表6】

【0055】
実施例2.16:NaHCOを使用した、ジクロロメタン中における(R)−ソルケタールから(S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R)−ソルケタール4.19g(30.7ミリモル)をジクロロメタン24.8gに溶解する。次いで、NaHCO3.07g(36.2ミリモル)およびTCCA2.84g(12.1ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を3℃に冷却する。TEMPO24.1mg(0.151ミリモル)をジクロロメタン10.6gに溶解した溶液を3〜8℃で15分間かけて加える。反応混合物を5℃で60分間撹拌した後、固形分を濾去して、ジクロロメタン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド(e.e.=99.6%)1.8g(13.6ミリモル、(R)−ソルケタールを基準とした収率:44%)が得られたことがわかる。
【0056】
TEMPO溶液の添加時間の影響
【0057】
【表7】

【0058】
実施例2.17:TEMPOを短時間で添加した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.09g(30.0ミリモル)をアセトン20.2gに溶解する。次いで、NaOAc2.99g(36.1ミリモル)およびTCCA2.82g(12.0ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO12.0mg(0.075ミリモル)をアセトン6.4gに溶解した溶液を85秒間かけて加え、反応混合物を59℃まで自然に昇温させる。反応混合物を22℃に冷却し、固形分を濾去して、アセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド3.0g(23.4ミリモル、(R,S)ソルケタールを基準とした収率:78%)が得られたことがわかる。
【0059】
温度の影響
【0060】
【表8】

【0061】
実施例2.18:低温下における、(R)−ソルケタールから(S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R)−ソルケタール4.10g(30.1ミリモル)をアセトン24.4gに溶解する。NaOAc2.99g(36.1ミリモル)を加え、この懸濁液を1℃に冷却する。温度を4℃未満に維持しながらTCCA2.83g(12.0ミリモル)を加える。結果として得られた懸濁液をさらに0℃に冷却した後、TEMPO12.1mg(0.076ミリモル)をアセトン7.4gに溶解した溶液を9分間かけて加える。反応混合物を、最高温度である24℃まで自然に到達させるが、TEMPO溶液を添加する時間の少なくとも90%は、温度は6〜15℃であった。TEMPO溶液の添加が完了した後、反応混合物を0〜6℃で60分間撹拌し、次いで、60分間で20℃まで加温する。固形分を濾去してアセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド(e.e.=99.6%)2.3g(17.8ミリモル、(R)−ソルケタールを基準とした収率:59%)が得られたことがわかる。
【0062】
添加順の影響
【0063】
【表9】

【0064】
実施例2.19:TEMPOに替えてTCCAを添加した、(R,S)−ソルケタールから(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R,S)−ソルケタール4.21g(30.9ミリモル)をアセトン16.6g中に溶解する。次いで、NaOAc3.09g(37.3ミリモル)およびTEMPO12.3mg(0.077ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TCCA酸2.90g(12.4ミリモル)をアセトン22.6gに溶解した溶液を15分間かけて加え,反応混合物を47℃まで自然に昇温させる。反応混合物をさらに60分間撹拌し、固形分を濾去してアセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(R,S)−グリセルアルデヒドアセトニド2.7g(20.7ミリモル,(R,S)−ソルケタールを基準とした収率:67%)が得られたことがわかる。
【0065】
酸化剤の種類の影響
【0066】
【表10】

【0067】
実施例2.20:DCDMH90モル%を使用した、(R)−ソルケタールから(S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R)ソルケタール4.11g(30.1ミリモル)をアセトン30.1gに溶解する。次いで、NaOAc6.73g(81.2ミリモル)およびDCDMH5.33g(27.0ミリモル)(活性塩素36.0ミリモルを含む)を加え、結果として得られた懸濁液を18℃で撹拌する。TEMPO12.2mg(0.077ミリモル)をアセトン8.7gに溶解した溶液を9分間かけて加え、反応混合物を51℃まで自然に昇温させる。反応混合物をさらに30分間撹拌し、固形分を濾去して、アセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド(e.e.=99.6%)2.8g(21.6ミリモル、(R)−ソルケタールを基準とした収率:72%)が得られたことがわかる。
【0068】
実施例2.21:DCDMH120モル%を使用した、(R)−ソルケタールから(S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
NaOAc5.98g(72.2ミリモル)およびDCDMH7.10g(36.0ミリモル)(活性塩素48.0ミリモルを含む)を使用すること、およびTEMPO溶液を10分間かけて加え、反応混合物を57℃まで自然に昇温させることを除いて、実施例2.20の手順に従い、(R)−ソルケタール4.10g(30.0ミリモル)をアセトン30.5gに溶解した溶液を酸化する。濾液のGC分析を行うと、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド(e.e.=99.5%)2.5g(19.4ミリモル、(R)−ソルケタールを基準とした収率:65%)が得られたことがわかる。
【0069】
反応条件のe.e.への影響
【0070】
【表11】

【0071】
表10からわかるように、鏡像体過剰率(e.e.)が99.6の光学活性なソルケタールから出発すると、e.e.が同程度の光学活性なグリセルアルデヒドアセトニドを調製することができる。
【0072】
実施例2.22:より多量のTEMPOおよびTCCAを使用した、(R)−ソルケタールから(S)−グリセルアルデヒドアセトニドへの酸化
100mlの4頚丸底フラスコ内で、(R)−ソルケタール4.14g(30.3ミリモル)をアセトン19.1gに溶解する。次いで、NaOAc4.49g(54.2ミリモル)およびTCCA4.25g(18.1ミリモル)を加え、結果として得られた懸濁液を25℃で撹拌する。TEMPO24.3mg(0.15ミリモル)をアセトン9.0gに溶解した溶液を12分間かけて加え、反応混合物を58℃まで自然に昇温させる。反応混合物をさらに105分間撹拌し、固形分を濾去して、アセトン25gで洗浄する。濾液のGC分析を行うと、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド(e.e.=99.6%)2.8g(21.5ミリモル、(R)ソルケタールを基準とした収率:71%)が得られたことがわかる。
【0073】
実施例2.23:(R)−エチル−((4,5)−O−イソプロピリデン−(4,5)−ジヒドロキシ)−2−(E,Z)−ペンテノアートの調製
250mlの4頚丸底フラスコ内で、KCO32.0g(231.5ミリモル)を水120mlに溶解する。この溶液のpHを、4MのHCl水を添加することにより11.5に調整する。結果として得られた溶液を3℃に冷却し、TEPA8.0g(34.6ミリモル)を添加する。反応混合物の温度を5℃未満に維持しながら、(S)−グリセルアルデヒドアセトニド4.2g(32.0ミリモル)を含むアセトン溶液73.5g(実施例2.1の手順により得られたもの)を70分間かけて加える。その間、反応混合物のpHを、KCOを少量添加することにより11.0〜11.5の範囲内に維持する。結果として得られた混合物を、0〜5℃で4時間、続いて5〜15℃で16時間撹拌する。有機相のGC分析を行うと、(R)−エチル−((4,5)−O−イソプロピリデン−(4,5)−ジヒドロキシ)−2−(E,Z)−ペンテノアート(e.e.=97.8%、E/Z=95/5)5.8g(28.8ミリモル、(S)−グリセルアルデヒドアセトニドを基準とした収率:90%)が得られたことがわかる。
【0074】
結論として、実施例2に示したように、本発明の方法を用いることによってe.e.の高いグリセルアルデヒドアセトニドを高収率(30%超)で調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを酸化剤で酸化することによってグリセルアルデヒドアセトニドを調製する方法であって、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールが、不活性な塩基および式1、
【化1】


(式中、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、RおよびRは、両方ともがHもしくは1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表すか、または、一方がHを表すとともに他方が1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜6個の炭素原子を有するアルキルカルボニルオキシ基、1〜6個の炭素原子を有するカルボニルオキシ基を有するアリールカルボニルオキシ基、もしくは1〜6個の炭素原子を有するアルキルカルボニルアミノ基を表すかのいずれかであるか、あるいはRおよびRが一緒になって、式a〜c、
【化2】


(式中、Rは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、RおよびRは、それぞれ独立して、Hまたは1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表す)のケタール基を表し、Yは、一般式d〜f、
【化3】


(式中、Xは陰イオンを表す)の基を表す)のTEMPOまたはTEMPO誘導体の存在下に、有機N−クロロ化合物によって酸化されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
対応する光学活性な2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールを酸化することによって、光学活性なグリセルアルデヒドアセトニドが調製されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機N−クロロ化合物が、トリクロロイソシアヌル酸またはジクロロジメチルヒダントインであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールが、TEMPOの存在下に酸化されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記不活性な塩基の共役酸がpK>2であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
不活性な塩基の量が、前記反応において形成され得るHClの理論最大モル量を基準として少なくとも0.8モル当量であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記不活性な塩基が、酢酸ナトリウムまたは炭酸水素ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、15〜80℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記式1(式中、R〜Rは上記と同義)のTEMPOまたはTEMPO誘導体が、溶媒中に2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール、前記有機N−クロロ化合物、および前記不活性な塩基を含む混合物に添加されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
有機N−クロロ化合物が、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として活性塩素が少なくとも0.5モル当量存在する量であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノールの量を基準として、0.1〜1モル%の量の式1(式中、R〜Rは上記と同義)のTEMPOまたはTEMPO誘導体が使用されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−522097(P2007−522097A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537158(P2006−537158)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012064
【国際公開番号】WO2005/040149
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)