説明

グリセロールガラクトシドの抽出方法

【課題】グリセロールガラクシドを、エタノールやエーテルなどの有機溶剤を使用しないで紅藻類に属する海藻(ノリを含む)から安全かつ効率的に抽出する方法。特にタンパク質含量が低くてほとんど利用されていない「色落ち」又は「色落ちノリ」と呼ばれている低品質のノリからグリセロールガラクシドを安全かつ効率的に抽出する方法。
【解決手段】紅藻類に属する海藻、特にノリを原料として、0〜30℃の水のみを溶媒としてグリセロールガラクトシドを選択的に抽出する方法。タンパク質含量30重量%以下のノリを原料として用いることが好ましい。抽出したグリセロールガラクトシドは、限外濾過処理した後イオン交換樹脂処理又は電気透析処理を行なって容易に精製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリセロールガラクトシドの新規な抽出方法に関する。詳しくは、ノリなどの紅藻類に含まれているグリセロールガラクトシドを従来よりも安全かつ効率的に抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平5−139988号公報
【非特許文献1】恒星社厚生閣・昭和48年10月5日発行改訂4版「水産化学」の391〜392頁
【0003】
グリセロールにガラクトースがα結合したグリセロールガラクトシド(以下「GG」と記すことがある。)は、フロリドシドとも呼ばれ、ノリ、ツノマタ、ダルスなどの紅藻類の海藻に広く分布している(非特許文献1)。本発明者は、このグリセロールガラクトシドが紅藻類アマノリ属であるノリの中でも、特に「色落ち」又は「色落ちノリ」と呼ばれていて、タンパク質含量が30重量%以下であり、ほとんど利用されていない低品質のノリに多量に含まれていること、及び、グリセロールガラクトシドは強いビフィズス菌増殖促進能を有し、消化酵素によって消化されず、腸管からも吸収されないため、プレバイオテクスとして利用できることを他の研究者と共同で解明している。
【0004】
グリセロールガラクトシドを食品や医薬品などに利用するためには、紅藻類に属する海藻からグリセロールガラクトシドを抽出・精製する必要がある。従来のグリセロールガラクトシドの抽出方法は、エタノールやエーテルなどの有機溶剤を使用する方法であり、例えば、上記「色落ちノリ」などから75%エタノール水溶液で加熱抽出した後、ジエチルエーテルで脱脂し、さらにイオン交換樹脂を通して不純物を除去するという工程を採っている。
【0005】
このように、従来のグリセロールガラクトシドの抽出方法では、エタノールやエーテルなどの有機溶剤を使用するため、その費用がかかる他、特別な設備や装置を必要とする。また、ジエチルエーテルなどの溶剤は食品に使用できない上、可燃性・爆発性・有害性などの観点から抽出作業の安全確保には特別な配慮が必要である。さらに、イオン交換樹脂処理は、糖液の精製などに用いられている一般的な手段であるが、抽出したグリセロールガラクトシドの不純物の除去にイオン交換樹脂を用いると、樹脂の再生や洗浄に大量の酸又はアルカリ溶液を必要とするため、環境への負荷などの面で懸念がある。このような事情から、エタノールやエーテルなどの有機溶剤を使用しないで、紅藻類に属する海藻から安全かつ効率的に、しかも、なるべく環境を汚染しないようにしてグリセロールガラクトシドを抽出する方法の開発が求められている。
【0006】
なお、特許文献1の実施例2には、オゴノリの乾燥粉末に蒸留水を加え、沸騰水浴中で加温抽出することを繰り返し、抽出液を回収してセロファン膜で透析した後凍結乾燥して乾燥物を得る方法が開示されている。しかし、この抽出方法は、高温で行なわれるため、オゴノリ中の高分子多糖成分(例えば、ガラクタンの一種であるポルフィラン)がグリセロールガラクトシドと共に多量に抽出されているものと考えられる。高分子成分は、抽出後の精製工程で大きな障害となるため、この方法では単品のグリセロールガラクトシドを抽出・精製することは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の状況に鑑み、本発明は、グリセロールガラクシドを、エタノールやエーテルなどの有機溶剤を使用しないで、紅藻類に属する海藻(ノリを含む)から安全かつ効率的に抽出する方法を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、グリセロールガラクシドを、タンパク質含量が低くてほとんど利用されていない「色落ち」又は「色落ちノリ」と呼ばれている低品質のノリから安全かつ効率的に抽出する方法を提供することを第2の課題とする。
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決することを志向し、抽出溶媒として安価で安全な水のみを用いる方法に着目し、鋭意研究を重ねた結果、低温の水を用いるとグリセロールガラクシドを効率的に抽出できると共に、その後の精製も容易であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、上記の課題を解決するための本発明のうち特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、紅藻類に属する海藻から0〜30℃の水のみを溶媒としてグリセロールガラクトシドを選択的に抽出する方法である。
【0010】
また、同請求項2に記載する発明は、紅藻類に属する海藻のうち、アマノリ属のノリを原料として用いる請求項1に記載のグリセロールガラクトシドの抽出方法である。
【0011】
さらに、同請求項3に記載する発明は、アマノリ属のノリのうち、タンパク質含量30重量%以下のノリを原料として用いる請求項2に記載のグリセロールガラクトシドの抽出方法である。
【0012】
さらに、同請求項4に記載する発明は、請求項1から3のいずれかに記載する方法によって抽出したグリセロールガラクトシドを、限外濾過処理した後イオン交換樹脂処理又は電気透析処理を行なって、精製されたグリセロールガラクトシドを得る方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紅藻類に属する海藻から、ビフィズス菌の増殖促進活性を有するグリセロールガラクトシドを、エタノールやエーテルなどの高価で危険な有機溶剤を使用することなく、安価でかつ安全な水のみを用いて抽出することができる。しかも、本発明によれば、抽出後のグリセロールガラクトシドの精製が容易である。すなわち、本発明によって抽出したグリセロールガラクトシドには、その後の濾過や精製の障害となるポルフィランなどの高分子量成分の含量がグリセロールガラクトシド単品の精製に支障がない程度にまで抑制されている。そのため、本発明によって得られるグリセロールガラクトシドの抽出液は粘性が低いので少量混入している高分子量成分を限外濾過処理によって容易に除去できると共に、低分子のイオン性夾雑物はイオン交換樹脂処理で除去できることは勿論、電気透析処理によっても容易に除去することができる。電気透析処理は、イオン交換樹脂処理のように樹脂の洗浄・再生用に酸剤やアルカリ剤を用いる必要がないので、経済的であり、また、環境に負荷をかけるおそれがなく、好ましい精製法である。
【0014】
本発明は、紅藻類アマノリ属に属するノリからグリセロールガラクトシドを抽出する方法に適用できることは勿論、ノリの中でも、特に、タンパク質含量が30重量%以下であって品質の低い「色落ちノリ」からグリセロールガラクトシドを抽出する方法に適用できる。「色落ちノリ」はグリセロールガラクトシドの含量が多いため、本発明は、従来ほとんど利用されておらず、産業廃棄物ともいうべき「色落ちノリ」を、環境に負荷をかけることなく、有用物質の原料に転換することができる。すなわち、本発明は、低品質の「色落ちノリ」を有効に活用するために必要不可欠な基盤技術である。
【0015】
このように、本発明によれば、ノリ、特に「色落ちノリ」からビフィズス菌増殖促進成分であるグリセロールガラクトシドを安価でかつ安全に、しかも環境に負荷をかけずに抽出することができ、グリセロールガラクトシドをビフィズス菌増殖促進剤として、各種の食品や飲料に有用添加物として供給できる。また、本発明によって抽出されたグリセロールガラクトシドは、サプリメント、栄養補助食品、健康食品に対しても、ビフィズス菌増殖促進剤として安心して使用することができる。さらに、魚介類や家畜類の飼料や餌料にも安心して使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、グリセロールガラクトシドは、グリセロールの水酸基にガラクトースの1位の水酸基がα結合して形成されたものである。グリセロールガラクトシドは、海藻の紅藻類中に含まれるが、特に「色落ちノリ」と呼ばれているタンパク質含量の低いノリに多く含まれることが見出されている。そのため、グリセロールガラクトシドの原料としては、タンパク質含量が30重量%以下、好ましくは25重量%以下の色落ちノリを用いるのがよい。
【0017】
以下に本発明によるグリセロールガラクトシドの抽出方法の好ましい例を説明する。
本発明では、ノリ(海苔)を含む紅藻類アマノリ属の海藻の乾燥物に0〜30℃の水、好ましくは0〜10℃の水を加え、加熱することなく抽出する。抽出時間は10〜16時間程度とするのが好ましい。この抽出液は、分画分子量5000程度で限外濾過することによって高分子成分(タンパク質、多糖など)を除去することができる。限外濾過によって得られる濾液は、アミノ酸や有機酸などの低分子イオン性夾雑物を含むが、これはイオン交換樹脂で処理することによって除去できる。また、イオン交換樹脂処理の代わりに電気透析処理を行なうことによっても容易に除去できる。電気透析処理は、イオン交換樹脂処理のように樹脂の再生や洗浄用として多量の酸・アルカリ溶液を使用する必要がないので、より経済的であり、しかも環境への負荷を小さくできる。イオン交換樹脂処理又は電気透析処理によって得られた溶液を逆浸透膜処理することによって水を除去し、グリセロールガラクトシドを濃縮することができる。さらに、凍結乾燥などによって水分を完全に除去すればグリセロールガラクトシドの結晶を得ることができる。「色落ちノリ」の場合も上記と同様の方法を採って差し支えない。
【0018】
すなわち、本発明は、紅藻類に属する海藻から0〜30℃の水のみを溶媒としてグリセロールガラクトシドを選択的に抽出することを特徴とする。一般的に、海藻類から水抽出を行なう際には、抽出効率を向上させるために加熱抽出法を採るが、この方法をノリに適用すると、多糖類ポルフィランなどの高分子性物質がグリセロールガラクトシドと一緒に多量に抽出され、抽出液の粘度を著しく上昇させ、抽出操作後の濾過・精製操作の障害となる。本発明は、グリセロールガラクトシドの水抽出を室温以下の低温(0〜30℃)で行なうので、多糖類ポルフィランの抽出量を抑制することができる。
以下、実施例及び試験例をもって本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
<色落ちノリを原料としてGGを抽出する方法の例>
(1)冷水抽出
タンパク質含量20%の色落ちノリの乾燥粉末10gに10℃に冷却した水200mLを加え、10℃に保ちながら一晩振盪して抽出した。得られた抽出液は、No.1濾紙で吸引濾過した。この残渣に対して10℃の水を加え、1時間攪拌して再度抽出し、先の抽出液と合わせた。抽出液に含まれるグリセロールガラクトシドを(4)に示す方法でHPLC分析したところ、回収率は94.9%であった。
(2)限外濾過
得られた抽出液から50mLを分取し、高分子成分を除去するため、ミリポア製ペリコンXL限外濾過モジュール(バイオマックス−5、分画分子量5000)を用いて限外濾過し、濾液を回収した。濾液中のグリセロールガラクトシドを(4)に示す方法でHPLC分析したところ、回収率は88.0%であった。
(3)電気透析
得られた濾液からイオン性物質を除去するために、電気透析を行なった。電気透析には電気透析装置マイクロアシライザーS−1(旭化成製)を用いた。透析膜カートリッジはネオセプタAC−220−10(分画分子量300:(株)アストム製)を用いた。
濾液を蒸留水で50mLにメスアップした後、V−PATTERNをP1、終了電導度を100μS/cmとして電気透析を行なった。透析終了後、透析液を回収して、透析液を凍結乾燥し、グリセロールガラクトシドを回収した。回収したグリセロールガラクトシドを(4)に示す方法でHPLC分析し、純度と回収率を測定したところ、純度は96.4%、回収率は85.0%であった。グリセロールガラクトシドのHPLCクロマトグラムを図1に示す。
(4)GGのHPLC分析
(1)の抽出液はウルトラフリーMCユニット(分画分子量5000)で濾過して高分子成分を除去した後サンプルを分析した。(2)の濾液はそのまま分析した。(3)のグリセロールガラクトシドは、水に溶かして一定容にした後分析した。
HPLC分析には、カラムとしてTRANSGENOMICS社製Coregel87MMを使用し、カラム温度80℃、移動相として蒸留水を使用し、流速0.6mL/分、注入量20μLにて分析を行なった。グリセロールガラクトシドの溶出は示差屈折計(島津製作所製)で検出した。
【0020】
《試験例1》
<抽出水温を変化させたGGの抽出試験>
抽出水温を変化させた場合に、グリセロールガラクトシドの精製の障害になるポルフィランとグリセロールガラクトシドの抽出量がどのように変化するか、確認する試験を行なった。
(1)試験方法
タンパク質含量20重量%の色落ちノリ乾燥粉末0.25gに水を10mL加え、それぞれ5℃、10℃、25℃、37℃、95℃に加熱した後冷却し、一晩振盪して抽出を行なった。3500rpmで15分間遠心分離し、上清を採取した。それぞれの沈殿には5mLの水を加え、同様の温度で1時間振盪して、さらに抽出した。抽出液を同様に遠心分離し、上清を先の上清と合わせた。沈殿は同様に振盪・抽出し、上清を合わせた(合計3回抽出した)。得られた上清を25mLにフィルアップし、その一部をとってウルトラフリーMCユニット(分画分子量5000)で限外濾過した。抽出上清と限外濾過液の糖含量をフェノール硫酸法で定量し、下記の式にしたがってノリ乾燥粉末1g当たりのポルフィラン抽出量とグリセロールガラクトシドの抽出量を算出した。
ポルフィラン抽出量(mg/g ノリ)
=(抽出上清の糖含量−限外濾過濾液の糖含量)/0.25g
GG抽出量(mg/g ノリ)=限外濾過液の糖含量/0.25g
【0021】
(2)試験結果
試験結果を図2に示す。図2から、抽出温度が30℃以下の条件ではポルフィランがほとんど抽出されないこと、一方で、グリセロールガラクトシドは、抽出温度に関わらず、抽出されることが明らかとなった。
(3)所見
試験結果から、抽出水温を30℃以下に抑えることで、抽出液の粘性を高めて精製操作の阻害要因となるポルフィランの抽出を抑えることができることが明らかとなった。実際の抽出においては、抽出中に雑菌などが繁殖するのを抑えるため、10℃以下の低水温で抽出することが好ましいと考えられる。
【0022】
《試験例2》
<熱水及び冷水によるGGの抽出試験>
海藻成分の抽出に通常用いられる熱水抽出と10℃の水で抽出する冷水抽出について、グリセロールガラクトシドの抽出効率を比較した。
(1)試験方法
2本の耐熱性ねじ口瓶にタンパク質含量20重量%の色落ちノリ乾燥粉末(GG含量11.2%)10gと水200mLをそれぞれ加え、一方を10℃で一晩振盪し、もう一方を95℃で1時間加熱した。その後、それぞれの抽出液をNo.1濾紙で吸引濾過した。その残渣に対して同様に水を加え、1時間攪拌して再度抽出し、その抽出液を先の抽出液と合わせた。得られたそれぞれの抽出液を水で500mLにフィルアップし、抽出液中のグリセロールガラクトシドを実施例1で用いたHPLC法で定量し、グリセロールガラクトシドの抽出効率を測定した。グリセロールガラクトシドの抽出効率は、以下の式により算出した。
GGの抽出効率(%)=抽出されたGG量/ノリに含有されるGG量×100
【0023】
(2)試験結果
試験結果を表1に示す。熱水を用いたグリセロールガラクトシドの抽出では、抽出効率(ノリ中のGGの回収率)は88.8%であるのに対して、10℃の冷水を用いたグリセロールガラクトシドの抽出では、94.9%の抽出効率が得られた。
(3)所見
試験結果から、ノリからグリセロールガラクトシドを抽出する場合、熱水で抽出するよりも、むしろ、低温水で抽出する方が高い抽出効率が得られることが明らかとなった。少なくとも、低温水による抽出効率は実用上十分なものであることが確認された。
【表1】

【0024】
《試験例3》
<熱水及び冷水抽出液の限外濾過試験>
ノリの熱水抽出液と冷水抽出液を限外濾過し、グリセロールガラクトシドを精製する試験を行なった。
(1)試験方法
試験例2によって得られた熱水抽出液と冷水抽出液を各50mL秤り取り、それぞれ、ミリポア製ペリコンXL限外濾過モジュール(バイオマックス−5、分画分子量5000)を用いて限外濾過を行なった。限外濾過操作は、濾過残液の粘性の上昇による圧力損失で濾過ができなくなるか、又は、濾過残液が装置のデッドボリュームに達して濾過ができなくなるまで行なった。グリセロールガラクトシドの分子量は254.23であるため、グリセロールガラクトシドは濾液中に回収されるので、濾液及び濾過残液のグリセロールガラクトシドを実施例1で用いたHPLC法で定量した。また、グリセロールガラクトシドの回収率を以下の式によって算出した。
GGの回収率(%)
=回収された濾液中のGG含有量/濾過前の抽出液のGG含有量×100
【0025】
(2)試験結果
試験結果を表2に示す。表2に示すとおり、冷水抽出液は限外濾過によって50mL中45mLの濾液が回収された。圧力損失による濾過の停止は起こらず、濾過残液は装置のデッドボリュームによるものと思われる。グリセロールガラクトシドは濾液中に88.0%回収された。一方、熱水抽出液は限外濾過によって50mL中35mLしか回収されなかった。限外濾過操作の途中で、濾過残液中のポルフィランによると思われる粘性の増大により、限外濾過操作が不可能となった。そのため、グリセロールガラクトシドの回収率が低下し、67.0%に留まった。
(3)所見
試験結果から、ノリの熱水抽出液では、抽出液中のポルフィランによると思われる粘性の増大により、限外濾過の効率が低下し、グリセロールガラクトシドの回収率が低下し、グリセロールガラクトシドの精製効率を大きく損なうことが明らかになった。一方で、冷水抽出液では、粘性の増大は起こらず、グリセロールガラクトシドの高い回収率が得られることが明らかになった。したがって、ノリからグリセロールガラクトシドを抽出する際には、後工程の限外濾過操作を高効率で行なうためにも、低温水で抽出する方法が好ましいことが明らかとなった。
【表2】

【0026】
《試験例4》
<冷水抽出液の限外濾過濾液のイオン性物質除去試験>
冷水抽出液の限外濾過濾液からグリセロールガラクトシド以外の夾雑物であるイオン性物質を除去するための精製法として、イオン交換樹脂処理及び電気透析処理を行なって、その結果を比較した。
(1)イオン交換樹脂処理
試験例3で得られたノリの冷水抽出液の限外濾過濾液を20mL秤り取り、水で膨潤した両イオン性イオン交換樹脂MB−2(オルガノ製)を充填したカラム(2.5×25cm)に負荷し、蒸留水にて流速3mL/分に展開し、溶出液を分取することでイオン性物質を除去した。溶出液(0〜400mL)を合わせ、凍結乾燥して固形物を得た。固形物は秤量後、25mLの蒸留水に溶解し、実施例1で用いたHPLC法でグリセロールガラクトシドを定量し、固形物中のグリセロールガラクトシドの含量と純度を算出した。
(2)電気透析処理
試験例3で得られたノリの冷水抽出液の限外濾過濾液を20mL秤り取り、電気透析を行なった。電気透析装置はマイクロアシライザーS−1(旭化成製)を用いた。透析膜カートリッジはネオセプタAC−220−10(分画分子量300:(株)アストム製)を用いた。V−PATTERNをP1、終了電導度を100μS/cmとして電気透析を行なった。透析終了後、透析液を回収した。透析液は凍結乾燥して固形物を得た。固形物は秤量後、25mLの蒸留水に溶解し、実施例1で用いたHPLC法でグリセロールガラクトシドを定量し、固形物中のグリセロールガラクトシドの含量と純度を算出した。
【0027】
(3)試験結果
試験結果を表3に示す。表3に示すとおり、イオン交換樹脂処理によってグリセロールガラクトシドは80.9%回収された。回収されたグリセロールガラクトシドの純度は、89.0%であった。一方、電気透析処理によるグリセロールガラクトシドの回収率は94.0%であり、回収されたグリセロールガラクトシドの純度は85.0%であった。
(4)所見
ノリの冷水抽出液の限外濾過濾液からイオン交換樹脂処理によってグリセロールガラクトシドは89.0%という高純度で精製されたが、電気透析処理によっても純度85.0%と、食品などへ応用するには十分な純度に精製できることが明らかとなった。また、電気透析処理は、イオン交換樹脂処理に比べてグリセロールガラクトシドの回収率が94.0%と高く、イオン性物質除去の方法としてすぐれていることが明らかとなった。結論として、本発明によって抽出したグリセロールガラクトシドの精製には、イオン交換樹脂処理も電気透析処理も、どちらも遜色なく使用できることが確認された。
【表3】

【0028】
以上の実施例や試験例によって明らかなとおり、本発明によれば、ノリ、特に品質の低い「色落ちノリ」に多く含まれ、ビフィズス菌増殖促進活性を有するグリセロールガラクトシドを、エタノールやジエチルエーテルなどの高価で危険な有機溶剤を使用せず、安価で安全な水のみで、しかも、後工程の濾過や精製操作の障害となる多糖ポルフィランの溶出を支障にないレベルにまで抑えて抽出することができる。そのため、得られる抽出液はポルフィランの混入量が少ないため、粘性が低く、抽出液に含まれるタンパク質や少量混入しているポルフィランなどの高分子量化合物は、続く限外濾過によって容易に除去できる。さらに、限外濾過によって得られる濾液は、アミノ酸や塩類などの低分子のイオン性夾雑物を含むが、これはイオン交換樹脂で処理することで除去できる。なお、イオン交換樹脂処理の代わりに電気透析を行なうことによっても同様の効果が得られ、しかも、電気透析処理は、イオン交換樹脂処理のように樹脂の再生や洗浄に必要な多量の酸・アルカリ溶液を使用する必要がないので、より経済的であると共に環境への負荷を小さくできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上詳しく説明したとおり、本発明によれば、ノリ、特に品質の低い色落ちノリからビフィズス菌増殖促進成分であるグリセロールガラクトシドを安価でかつ安全に抽出することができる。しかも、本発明によって抽出したグリセロールガラクトシドは、精製が容易であり、また、精製の際に環境を汚染するおそれがない。そのため、本発明によって抽出したグリセロールガラクトシドは、精製して、ビフィズス菌増殖促進作用を有する安全な添加物して各種の食品や飲料に供給することができる。また、サプリメント、健康食品、栄養補助食品としても使用することができ、その他、医薬品・化粧品・飼料などへの応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る方法でノリより抽出・精製したグリセロールガラクトシドのHPLCクロマトグラム(実施例1に対応)
【図2】ノリから各種温度の水で抽出した際のグリセロールガラクトシドとポルフィランの抽出率(試験例1に対応)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅藻類に属する海藻から0〜30℃の水のみを溶媒としてグリセロールガラクトシドを選択的に抽出する方法。
【請求項2】
紅藻類に属する海藻のうち、アマノリ属のノリを原料として用いる請求項1に記載のグリセロールガラクトシドの抽出方法。
【請求項3】
アマノリ属のノリのうち、タンパク質含量30重量%以下のノリを原料として用いる請求項2に記載のグリセロールガラクトシドの抽出方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載する方法によって抽出したグリセロールガラクトシドを、限外濾過処理した後イオン交換樹脂処理又は電気透析処理を行なって、精製されたグリセロールガラクトシドを得る方法。




































【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−290971(P2007−290971A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117517(P2006−117517)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、農林水産省、食品の安全性及び機能性に関する総合研究委託事業(農林水産技術会議)、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】