説明

グルコース取込みおよびインスリン感受性を制御するための方法

本発明は、糖尿病、およびメタボリック症候群(インスリン抵抗性を含む)などの関連障害を、抗体、抗体フラグメント、siRNAおよびアプタマーを含むオステオポンチン(OPN)の阻害剤を投与することにより治療するための方法を、提供する。さらに開示されるのは、OPNの阻害剤を投与することによって、対象における細胞によるグルコース取込みを増加させるための方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001] 本出願は、2007年4月17日に出願された米国仮出願第60/912,385の利益を主張し、該出願は、その全体が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
[002] 本発明は、細胞によるグルコース取込みおよび対象におけるインスリン感受性を、オステオポンチン(OPN)阻害剤の投与により制御する方法に関する。本発明は、さらに、OPN阻害剤の投与による、2型糖尿病を含む糖尿病、およびメタボリック症候群(インスリン抵抗性を含む)などの関連障害の治療に関する。OPN阻害剤は、α−グルコシダーゼ阻害剤、インスリン増感剤、インスリン分泌促進剤、肝グルコース生産を低下させる化合物、B−3アゴニストまたはインスリンと併用投与されてもよい。また、OPN阻害剤は、体重低減剤と併用投与されてもよい。
【背景技術】
【0003】
[003] 肥満、加齢および2型糖尿病を伴うインスリン抵抗性は、骨格筋、肝臓、脂肪組織および免疫細胞に影響を及ぼす、ますます広まっている疾患である。チアゾリジンジオン(TZD)ファミリーの薬物は、2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群および「シンドロームX」を含む多様な病理学的状態におけるインスリン抵抗性を治療するために用いられる(Berger JPら、PPARs: therapeutic targets for metabolic disease. Trends in Pharmacological Sciences 26: 244-251、2005年;Bruemmer Dら、Angiotensin II-accelerated atherosclerosis and aneurysm formation is attenuated in osteopontin-deficient mice. J Clin Invest 112:1318-1331、2003年)。TZDは、筋肉、肝臓、結腸およびマクロファージに発現し、かつ脂肪組織に高発現している核内受容体タンパク質である、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARγ)の合成リガンドである。活性化されたPPARγは、正および負双方の遺伝子調節を仲介することが可能であり、そして、遺伝子プロモーター領域内DNAとの直接的および間接的な結合を介して遺伝子発現を調節する。PPARγの転写活性は、細胞型によって様々であり、そして、他のホルモンシグナル伝達経路および核内受容体活性によって調整される。TZDは、PPARγリガンドとして、多くの遺伝子の発現を調節し、そして、インスリンの作用を調節する正確な遺伝子はまだ同定されていないものの、特定の遺伝子の発現を変えることによってインスリン感受性を増強させる可能性がある。
[004] 脂肪細胞は、マクロファージの活性化および遊走を誘導する炎症性タンパク質を分泌することが可能である(Giorgino,F.ら、2005年、Acta Physiol Scand 183:13-30;Neels,J.G.ら、2006年、J Clin Invest 116:33-35)。肥満およびインスリン抵抗性は、ヒトおよびげっ歯類モデルにおける脂肪組織のマクロファージ浸潤と関連している(Bouloumie,A.ら、2005年、Curr Opin Clin Nutr Metab Care 8:347-354;Wellen,K.E.ら、2005年、J Clin Invest 115:1111-1119)。マクロファージおよび脂肪細胞により分泌される炎症促進性因子は、インスリン感受性を阻害し、肥満および2型糖尿病患者の血漿中で上昇しており、そして、PPARγの活性を抑制する(Grimble,R.F.、2002年、Curr Opin Clin Nutr Metab Care 5:551-559)。インスリン抵抗性のヒトおよびマウスのTZDにより誘導されるインスリン感作は、脂肪組織における炎症性マーカー遺伝子発現およびマクロファージの低減を伴い(Xu,H.ら、2003年、J Clin Invest 112:1821-1830;Di Gregorio,G.B.ら、2005年、Diabetes 54:2305-2313)、これは、マクロファージおよび/もしくは脂肪細胞でTZDによりPPARγが活性化されたことによる可能性がある。マクロファージおよび脂肪細胞におけるPPRAγの活性化は、サイトカイン発現を抑圧し(Welch,J.S.ら、2003年、Proc Natl Acad Sci USA 100:6712-6717)、そしてそれによってインスリン感受性を増強し、そして脂肪組織におけるマクロファージの活性化および補充を低減させるであろう。脂肪組織の炎症およびマクロファージ浸潤を開始する正確な遺伝子は、分かっていない。
[005] 分泌型細胞外マトリックス結合タンパク質であるOPNは、多様な生物活性を有し、その多くは、インスリン抵抗性および2型糖尿病に関連した研究に非常に重要である((Wai,P.Y.ら、The role of osteopontin in tumor metastasis. 2004年、J Surg Res 121:228-241;Bruemmer,D.ら、2003年、Angiotensin II-accelerated atherosclerosis and aneurysm formation is attenuated in osteopontin-deficient mice. J Clin Invest 112:1318-1331)およびその中の参考文献)。例えば、OPNは、細胞の遊走および接着、マクロファージ活性化、炎症、組織石灰化、ならびにマトリックスリモデリングに関わる(Denhardt,D.T.ら、2001年、Role of osteopontin in cellular signaling and toxicant injury. Annu Rev Pharmacol Toxicol 41:723-749)。OPNは、高血糖性糖尿病の大動脈、アテローム性動脈硬化症、活性化マクロファージ、脂肪性肝炎、末期腎不全および骨粗しょう症などの、インスリン抵抗性および2型糖尿病に伴う多くの病態生理学的状態において、過剰発現している。しかしながら、これまで、OPNとインスリン抵抗性発症との関連性は報告されていない。OPN発現の正のレギュレーターには、例えばIL−6、IL−1β、INF−γ、TNFα、LPS、レプチンおよびアンギオテンシンIIなどのサイトカイン類、活性酸素種、ならびに低酸素が含まれ(Bruemmer,D.ら、2003年;Denhardt,D.T.ら、2001年;Ogawa,D.ら、2005年、Liver X receptor agonists inhibit cytokine-induced osteopontin expression in macrophages through interference with activator protein-1 signaling pathways. Circ Res 96:e59-67)、これらがインスリン感受性を低下させる。PPARγおよびLXRリガンドは、マクロファージモデル(Ogawa,D.ら、2005年;Oyama,Y.ら、2002年、PPARγ ligand inhibits osteopontin gene expression through interference with binding of nuclear factors to A/T-rich sequence in THP-1 cells. Circ Res 90:348-355)およびマウス大動脈(Keen,H.L.ら、2004年、Gene expression profiling of potential PPARγ target genes in mouse aorta. Physiol Genomics 18:33-42)において、OPN発現をアンタゴナイズすることが示されている。OPNは、広範かつ不均一にリン酸化、グリコシル化およびタンパク質分解される(Christensen,B.ら、2005年、Post-translationally modified residues of native human osteopontin are located in clusters: identification of 36 phosphorylation and five O-glycosylation sites and their biological implications. Biochem J 390:285-292)。OPNの翻訳後修飾は、細胞型によって様々であって、かつ、その生物活性を差次的に調整する(Christensen,B.ら、2005年;Weber,G.F.ら、2002年、Phosphorylation-dependent interaction of osteopontin with its receptors regulates macrophase migration and activation. J Leukoc Biol 72:752-761)。OPNは、インテグリン類およびCD44に結合し、それらを介して、ホスファチジルイノシトール 3−キナーゼ(PI3K)、srcキナーゼおよびNFLBを含む下流の標的へとシグナル伝達することが可能である。
[006] したがって、本発明は、OPN阻害剤の投与によりグルコース取込みおよび/またはインスリン感受性を制御するための方法を提供する。さらに、本発明は、糖尿病および関連障害の新規治療、すなわち、OPN阻害剤の投与を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Berger JPら、PPARs: therapeutic targets for metabolic disease. Trends in Pharmacological Sciences 26: 244-251、2005年
【非特許文献2】Bruemmer Dら、Angiotensin II-accelerated atherosclerosis and aneurysm formation is attenuated in osteopontin-deficient mice. J Clin Invest 112:1318-1331、2003年
【非特許文献3】Giorgino,F.ら、2005年、Acta Physiol Scand 183:13-30
【非特許文献4】Neels,J.G.ら、2006年、J Clin Invest 116:33-35
【非特許文献5】Bouloumie,A.ら、2005年、Curr Opin Clin Nutr Metab Care 8:347-354
【非特許文献6】Wellen,K.E.ら、2005年、J Clin Invest 115:1111-1119
【非特許文献7】Grimble,R.F.、2002年、Curr Opin Clin Nutr Metab Care 5:551-559
【非特許文献8】Xu,H.ら、2003年、J Clin Invest 112:1821-1830
【非特許文献9】Di Gregorio,G.B.ら、2005年、Diabetes 54:2305-2313
【非特許文献10】Welch,J.S.ら、2003年、Proc Natl Acad Sci USA 100:6712-6717
【非特許文献11】Wai,P.Y.ら、The role of osteopontin in tumor metastasis. 2004年、J Surg Res 121:228-241
【非特許文献12】Bruemmer,D.ら、2003年、Angiotensin II-accelerated atherosclerosis and aneurysm formation is attenuated in osteopontin-deficient mice. J Clin Invest 112:1318-1331
【非特許文献13】Denhardt,D.T.ら、2001年、Role of osteopontin in cellular signaling and toxicant injury. Annu Rev Pharmacol Toxicol 41:723-749
【非特許文献14】Ogawa,D.ら、2005年、Liver X receptor agonists inhibit cytokine-induced osteopontin expression in macrophages through interference with activator protein-1 signaling pathways. Circ Res 96:e59-67
【非特許文献15】Oyama,Y.ら、2002年、PPARγ ligand inhibits osteopontin gene expression through interference with binding of nuclear factors to A/T-rich sequence in THP-1 cells. Circ Res 90:348-355
【非特許文献16】Keen,H.L.ら、2004年、Gene expression profiling of potential PPARγ target genes in mouse aorta. Physiol Genomics 18:33-42
【非特許文献17】Christensen,B.ら、2005年、Post-translationally modified residues of native human osteopontin are located in clusters: identification of 36 phosphorylation and five O-glycosylation sites and their biological implications. Biochem J 390:285-292
【非特許文献18】Weber,G.F.ら、2002年、Phosphorylation-dependent interaction of osteopontin with its receptors regulates macrophase migration and activation. J Leukoc Biol 72:752-761
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
[007] 本発明は、OPNの阻害剤の投与によりグルコース取込みおよび/またはインスリン感受性を制御する方法を提供する。さらに、本発明は、対象にOPNの阻害剤を投与することにより糖尿病、および肥満などの関連疾患を治療する方法を提供する。本発明の方法において使用可能な適切なOPNの阻害剤には、これに限定されないが、OPN(またはOPNの受容体)に結合し、その受容体へのOPNの結合を阻害する抗体および抗体フラグメント、OPN受容体ペプチドアンタゴニスト、OPN mRNAに向けられたアンチセンス核酸、ならびに抗OPNリボザイムが含まれる。
[008] 別の側面において、本発明は、OPN阻害剤を投与することにより細胞によるグルコース取込みを増加させる方法を提供する。このような方法は、糖尿病および関連疾患を治療するためだけでなく、高血糖などの不十分なグルコース代謝に起因するいくつかの全身性問題を治療するためにも用いることが可能である。
[009] 別の側面において、本発明は、低インスリン感受性である対象におけるインスリン感受性を増加させる方法であって、対象におけるOPN活性を減少させることを含んでなる方法を提供する。
[010] 本発明の方法はまた、OPNに対する構造および活性において関連している他の細胞外マトリックス結合タンパク質を、標的として用いて行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1A、1Bおよび1Cは、ラットおよびヒトの脂肪組織におけるOPN RNAレベルを示すグラフを表す。(1A)は、ズッカー痩身(fa/+)、肥満(fa/fa)およびピオグリタゾンで治療された肥満ラットから得た脂肪組織のOPN RNAレベルを表す。1群につき6動物である。(1B)は、正常なインスリン感受性を有する痩身患者およびインスリン抵抗性を有する肥満患者における、ピオグリタゾン治療前(黒色バー)および後(灰色バー)の脂肪組織のOPN RNAレベルを表す。1群につき4〜7患者である。値は、平均±標準誤差である:p<0.05 vs痩身;#<0.05 vs治療前肥満。(1C)は、ピオグリタゾン治療前の個々の痩身患者(黒塗りシンボル)および肥満患者(白抜きシンボル)における、脂肪組織のOPN RNAレベルとグルコース処理(Rd)率との相関を示す。
【図2】図2A、2Bおよび2Cは、インスリン感受性の特性評価を示すグラフを表す。正常血糖高インスリンクランプ試験を用いて、通常飼料または高脂肪食餌(HFD)を与えられたWT(黒色バー)およびOPN KO(灰色バー)マウスにおける、(2A)グルコース注入(Ginf)、(2B)グルコース処理(GDR)、および(2C)肝グルコース生産(HGO)を計算した。値は、平均±標準誤差である。1群につき7〜9動物で試験した:p<0.05 vs食餌が同じであるWT、#<0.05 vs系統が同じである、通常飼料。
【図3】図3Aおよび3Bは、脂肪細胞の大きさを表す。(3A)は、通常飼料(NC)またはHFDを与えられたマウス群から得た、表皮白色脂肪組織(eWAT)の代表的な組織像を示す。(3B)は、鼠径部白色脂肪組織(iWAT)およびeWATの脂肪細胞の大きさの定量化を示す。WT iWAT(黒色バー)、WT eWAT(暗灰色バー)、OPN KO iWAT(薄灰色バー)、OPN KO eWAT(白色バー)。値は、平均±標準誤差である。1群につき7動物で試験した:p<0.05 vs食餌が同じであるWT、#<0.05 vs系統が同じである、通常飼料。図3Cは、WT(黒塗りシンボル)およびHFDを与えられたOPN KOマウス(白抜きシンボル)(n=7)における、脂肪体量と脂肪細胞の大きさとの相関を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、血漿中レプチンを表す。(4A)は、ELISAにより測定されたレプチンレベルを示す。WT(黒色バー)およびOPN KO(灰色バー)マウスは、通常飼料またはHFDを与えられた。値は、平均±標準誤差である。1群につき8〜10動物で試験した:p<0.05 vs食餌が同じであるWT、#<0.05 vs系統が同じである、通常飼料。(4B)は、WT(黒塗りシンボル)およびOPN KOマウス(白抜きシンボル)における、血漿中レプチンレベルと細胞の大きさとの相関を示す。(4C)は、血漿中レプチンレベルとeWATの脂肪細胞の大きさとの相関である。(4D)は、HFDでのマウスの食餌摂取を、4回の暗周期にわたる3.5日間をかけて測定したものを示す。WTマウス、n=5(黒色バー)、OPN KOマウス、n=6(ハッシュバー)。値は、平均±標準誤差である:p<0.05 vs WT。
【図5】図5Aおよび5Bは、骨髄間質細胞の骨形成および脂肪生成分化を表す。NCまたはHFDを与えられたWTおよびOPN KOマウスの骨髄から得たBMSCを、14日間培養し、そして次いで、示した日数の間、骨形成もしくは脂肪生成分化カクテルで晒した。(5A)では、骨形成分化を、グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)発現と比較したAkp2およびOSX RNA発現により、判断した。(5B)では、脂肪生成分化を、PPARγ RNA発現により判断した。挿入された棒グラフは、WT BMSCから得たデータを示す。実験は、1群につき4動物より単離した骨髄由来間葉系間質細胞(BMSC)を用いて、トリプリケートで実施した。遺伝子発現を、定量的RT−PCRにより測定し、そして、すべての遺伝子のデータを、GAPDH RNA発現で正規化した。群は:NCを与えられたWTマウス(黒色バー)、HFDを与えられたWTマウス(白色バー)、NCを与えられたOPN KOマウス(暗灰色バー)、HFDを与えられたOPN KOマウス(薄灰色バー)である。値は、平均±標準誤差である:p<0.05 vs食餌が同じであるWT、#p<0.05 vs系統が同じである、通常飼料。
【図6】図6は、脂肪組織のサイトカインレベルを示すグラフを表す。サイトカインタンパク質レベルを、通常飼料またはHFDを与えられたWT(黒色バー)およびOPN KO(灰色バー)マウスから得たeWATライセートにおいて測定した。値は、平均±標準誤差である。1群につき8〜10動物を試験した:p<0.05 vs食餌が同じであるWT、#p<0.05 vs系統が同じである、通常飼料。サイトカイン類は、IL−1β、一番目のパネル、上部左;IL−12p70、二番目のパネル、左;IFNγ、三番目のパネル、左;IL−6、四番目のパネル、下部左;Cxcl1、一番目のパネル、上部右;IL−10、二番目のパネル、右;TNFα、三番目のパネル、左;および、OPN、四番目のパネル、下部右;である。
【図7】図7Aおよび7Bは、HFDを与えられたマウスにおける、インスリンにより刺激されたAktリン酸化を表す。15分間in vivoでインスリン刺激した後のSer473−Aktのリン酸化を、組織ライセートにおいて、ウェスタンブロッティング(7A)およびELISA(7B)により測定した。ELISAデータをグラフ化し、そして、全Aktタンパク質で正規化する:HFDを与えられたWT(黒色バー)、HFDを与えられたOPN KO(灰色バー)。各組織から得た代表的なウェスタンブロットを、対応する棒グラフの真上に示す。組織は、筋肉−腓腹筋、iWAT−鼠径部白色脂肪組織、eWAT−表皮白色脂肪組織;である。値は、平均±標準誤差である。1群につき8〜10動物を試験した:p<0.05 vs WT。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
[018] 本明細書では、「OPN阻害剤」または「OPNの阻害剤」の語は、OPN活性を阻害可能な任意の剤を含み、これに限定されないが、ペプチド(OPNまたは他の関連しない配列に由来)、ドミナントネガティブタンパク質突然変異体、ペプチド模倣体、抗体もしくはそのフラグメント、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはOPNの作用を特異的に阻害する他の小分子が含まれる。
[019] 本明細書では、「OPN活性」の語は、OPNにより仲介される任意の生物活性を含む。例えば、OPNは、細胞遊走および接着、マクロファージ活性化、炎症、組織石灰化、ならびにマトリックスリモデリングに関わることが知られている(Denhardtら、2001年)。OPNは、高血糖性糖尿病の大動脈、アテローム性動脈硬化症、活性化マクロファージ、脂肪性肝炎、末期腎不全および骨粗しょう症などの、インスリン抵抗性および2型糖尿病に伴う多くの病態生理学的状態において、過剰発現している。
[020] 本明細書では、「阻害する」の語は、部分的あるいは全体的な機能の減少を指す。例えば、遺伝子転写または発現の阻害は、これらの機能の完全な排除を含む、任意のレベルでのこれらの機能のダウンレギュレーションを指す。タンパク質活性の調整は、活性の完全な排除を含む、任意の活性減少を指す。
[021] 本明細書では、「糖尿病」の語は、Abelら、Diabetes Mellitus: A Fundamental and Clinical Text(1996年)530〜543ページに記載のような、I型およびII型糖尿病を含む、すべての公知の糖尿病形態を含む。
[022] 本明細書では、「メタボリック症候群」の語は、特段に示されない限り、乾癬、真性糖尿病、創傷治癒、炎症、神経変性疾患、ガラクトース血症、メイプルシロップ尿症、フェニルケトン尿症、高サルコシン血症、チミン−ウラシル尿症(thymine uraciluria)、スルホニル尿症、イソ吉草酸血症、サッカロピン尿症、4−ヒドロキシ酪酸尿症、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症およびピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症を意味する。
[023] 本発明のOPN阻害剤は、典型的には、「実質的に純粋な」形態で対象に投与される。OPN阻害剤は、当該技術分野において公知の任意の適切な手段により、実質的に精製されることが可能である。
[024] 「実質的に純粋な」の語は、本明細書では、自然界で付随している他のタンパク質、脂質、炭水化物、または他の物質を実質的に含まないOPNを指すことが可能である。当業者は、標準的なタンパク質精製技術を用いて、OPNを精製することが可能である。実質的に純粋なポリペプチドは、非還元ポリアクリルアミドゲル上に単一の主要バンドを生じるであろう。OPNポリペプチドの純度は、アミノ末端アミノ酸配列解析によっても測定することが可能である。
[025] 本明細書では、「OPN活性の調整」または「OPNレベルの調整」の語は、その天然状態と比較したOPN活性もしくはレベルの変化を指す。この変化は、正(アップレギュレーション)であっても、または負(ダウンレギュレーション)であってもよいが、ただし本発明の目的上、後者が望ましい。
[026] 筋、脂肪および肝細胞などの、本発明の方法によって標的とされる細胞には、培養維持されている単離細胞、ならびにin vivoでの自然な状況にある細胞(例えば、胸筋、三頭筋、腓腹筋、四頭筋および腸肋筋などの脂肪組織または筋組織中、ならびに肝細胞)が含まれる。
[027] 「アンチセンス核酸」の語は、特定のmRNA分子の少なくとも一部分と相補的なDNAもしくはRNA分子を指す(Weintraub、Scientific American 262:40(1990年))。細胞内で、アンチセンス核酸は、対応するmRNAとハイブリダイズして、二本鎖分子を形成する。細胞が二本鎖のmRNAを翻訳しないことから、アンチセンス核酸はmRNAの翻訳を妨げる。簡単に合成でき、そして、標的のOPN産生細胞に導入する際により大きな分子よりも問題の起こる可能性が少ないことから、約15ヌクレオチドのアンチセンスオリゴマーが好ましい。遺伝子のin vivo翻訳を阻害するためのアンチセンス法の使用は、当該技術分野において周知である(Marcus-Sakura, Anal.Biochem. 172:289(1988年))。
[028] 本明細書では、「リボザイム」は、特定の核酸配列に対するヌクレアーゼ活性を有する核酸分子である。例えば、OPN mRNAに特異的なリボザイムは、OPN mRNAの特定領域に結合し、そしてそれを切断することによって、それを翻訳できないようにさせ、そしてOPNポリペプチド産生の欠如となる。
[029] 本明細書では、「低分子干渉RNA」(siRNA)は、その内在性の細胞対応物の遺伝子/mRNAの発現を減少させるかまたはサイレンシング(防止)させるRNA分子を意味する。当該用語は、「RNA干渉」(RNAi)を包含することが理解される。RNA干渉(RNAi)は、低分子干渉RNA(siRNA)によって仲介される、哺乳動物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングの過程を指す(Fireら、1998年、Nature 391,806)。RNA干渉応答は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と一般に称される、siRNAを含有するエンドヌクレアーゼ複合体を特徴とする場合があり、これは、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な配列を有する一本鎖RNAの切断を仲介する。標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な領域の中央部で起こり得る(Elbashirら、2001年、Genes Dev.,15,188)。これらの用語および提唱されるメカニズムについての最近の情報に関しては、Bernstein E., Denli AM., Hannon GJ:The rest is silence. RNA. 2001 Nov;7(11):1509-21;および、Nishikura K.:A short primer on RNAi: RNA-directed RNA polymerase acts as a key catalyst. Cell. 2001 Nov 16;107(4):415-8を参照されたい。
[030] 「ドミナントネガティブ突然変異体」とは、その自然状態から変異したOPNタンパク質であって、かつ、OPNまたはOPN遺伝子と相互作用することによりその産生および/もしくは活性を阻害するタンパク質を指す。
[031] 本発明の「抗体」には、OPNポリペプチドまたはその機能的フラグメントと免疫反応性の抗体が含まれる。異なるエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体から本質的になる抗体、ならびに、別個のモノクローナル抗体調製物が、提供される。モノクローナル抗体は、当業者に周知の方法により、抗原を含有するタンパク質フラグメントから作製される(Kohlerら、Nature 256:495(1975年))。本発明での「抗体」の語には、OPN上のエピトープ決定基と結合可能な、無傷の分子、ならびに、FabおよびF(ab’)、FvおよびSCAフラグメントなどのそれらのフラグメントを含むことが意図される。
[032] 「Fabフラグメント」は、抗体分子の一価抗原結合フラグメントからなり、そして、全抗体分子を酵素パパインで消化して、無傷の軽鎖および重鎖の一部分からなるフラグメントを生じさせることにより、作製可能である。
[033] 抗体分子の「Fab’フラグメント」は、全抗体分子をペプシンで処理し、続いて還元して、無傷の軽鎖および重鎖の一部分からなる分子を生じさせることにより、得ることが可能である。この方法で処理した一抗体分子につき、二つのFab’フラグメントが得られる。
[034] 抗体の「(Fab’)」は、全抗体分子を酵素ペプシンで処理し、それに続いて還元しないことにより、得ることが可能である。(Fab’)フラグメントは、二つのジスルフィド結合により結び付いた二つのFab’フラグメントの二量体である。
[035] 「Fvフラグメント」は、二つの鎖として表される軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有する、遺伝子操作されたフラグメントとして定義される。
[036] 「一本鎖抗体」(SCA)は、適切な可動性ポリペプチドリンカーにより連結された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含有する、遺伝子操作された一本鎖分子である。
【0008】
本発明の方法における使用のためのOPN阻害剤
[037] 本発明における使用に適したOPN阻害剤には、これに限定されないが、OPN由来ペプチド(例えば、成熟OPNまたはOPNのプロドメイン)、またはOPN(もしくはOPNの受容体)と結合し、そしてOPNとその受容体との結合を阻害する非OPNペプチド、OPNドミナントネガティブ突然変異体、OPN(もしくはOPNの受容体)と結合し、そしてOPNとその受容体との結合を阻害する抗体および抗体フラグメント、OPN受容体ペプチドアンタゴニスト、OPN mRNAに向けられたアンチセンス核酸、ならびに抗OPNリボザイムが含まれる。このように、OPN阻害剤は、メッセージ(転写)レベルまたはタンパク質(発現もしくは活性)レベルにて作用することが可能である。
[038] OPN阻害性ペプチドを、当該技術分野において公知のペプチドもしくはタンパク質精製技術を用いて、OPNを発現している細胞の培地から同定および単離することが可能であり、それらの技術には、イオン交換クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ、限外ろ過、電気泳動、および、OPN阻害剤に特異的な抗体もしくはその一部分を用いた免疫親和性精製が含まれる。一実施態様では、OPNを発現する細胞の培養物から得た培地を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)にかける。次いで、得られた試料を、以下に記載のようにOPN阻害活性について試験する。
[039] あるいは、OPNペプチド阻害剤を、OPNのフラグメントを阻害活性についてスクリーニングすることにより、同定することが可能である。OPN活性の適切なアッセイは、例えば、細胞遊走、細胞接着またはマクロファージ活性化に基づくことが可能である。例えば、Wai,P.Y.ら、2004年;およびBruemmer,D.ら、2003年、同上、ならびに該文献中に引用されている方法を参照されたい。OPNフラグメントは、多様な公知の技術により作製可能である。例えば、OPN配列にかかる特異的なオリゴペプチド(およそ10〜25アミノ酸長)を(例えば、化学的または組換えによって)合成し、そして、例えば本明細書に記載されるアッセイを用いて、そのOPN阻害能につき試験することが可能である。OPNペプチドフラグメントを、Bodansky,M. Principles of Peptide Synthesis、スプリンガー・ヴェルラグ、ベルリン(1993年)およびGrant,G.A(編)−Synthetic Peptides: A User's Guide、W.H.フリーマン・アンド・カンパニー、ニューヨーク(1992年)に記載されたものなどの標準的な技術を用いて、合成することが可能である。自動ペプチド合成機は、市販されている(例えば、Advanced ChemTech Model 396; Milligen/Biosearch 9600)。
[040] あるいは、天然の、もしくは組換えにより作製されたOPNを、例えばプロテアーゼ(例えば、トリプシン、サーモリシン、キモトリプシンまたはペプシン)を用いることによって消化することにより、OPNフラグメントを作製することが可能である。コンピュータ解析(例えば、MacVector、Omega、PCGene、モレキュラー・シミュレーションInc.などの市販のソフトウェアを用いる)を、タンパク質分解性切断部位を同定するために用いることが可能である。
[041] 本発明の方法において用いられるOPN阻害剤は、好ましくは単離されている。本明細書では、「単離された」もしくは「精製された」タンパク質またはその生物学的に活性なペプチドは、OPNタンパク質もしくはペプチドが由来する細胞または組織源からの細胞物質または他の混入タンパク質を実質的に含まないか、あるいは、化学合成された場合は、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。「細胞物質を実質的に含まない」の言語は、OPNタンパク質またはそのペプチドの調製物であって、該タンパク質またはそのペプチドが、それが単離される、もしくは組換えによって作製される細胞の細胞構成成分から分離されているものを含む。一実施態様において、「細胞物質を実質的に含まない」の言語は、非OPNタンパク質またはそのペプチド(「混入タンパク質」とも称される)が約30%未満(乾燥重量による)、より好ましくは非OPNタンパク質もしくはそのペプチドが約20%未満、よりいっそう好ましくは非OPNタンパク質もしくはそのペプチドが約10%未満、そして最も好ましくは非OPNタンパク質もしくはそのペプチドが約5%未満である、OPNタンパク質またはそのペプチドの調製物を含む。OPNタンパク質またはその生物学的に活性な部分が組換えによって作製される場合、それは培養培地を実質的に含まない、すなわち、培養培地が、タンパク質調製物の容量の約20%未満、より好ましくは約10%未満、そして最も好ましくは約5%未満である。
[042] このようなタンパク質分解性切断されたOPNペプチドを作製および単離するために、二工程の方法を用いることが可能である。第一工程は、OPNタンパク質の酵素消化を伴う。OPNは、CHO細胞条件培地等から二量体として、または大腸菌(E.coli)もしくは酵母において単量体として産生させるか、あるいは、天然にOPNを産生する細胞から単離することが可能である。例えばHPLCクロマトグラフィによる、OPN単量体もしくは二量体の精製に続いて、その酵素消化を、以下に記載のように実施する。消化中に切断されるアミノ酸は、当該技術分野において公知のように、実験に用いる特定のプロテアーゼに応じて決まる。例えば、選択したプロテアーゼがトリプシンであるならば、切断部位はアミノ酸アルギニンおよびリジンとなるであろう。OPNタンパク質を、このようなプロテアーゼの1またはそれより多くを用いて消化することが可能である。
[043] 消化後に、第二工程は、タンパク質消化によって得られるペプチド画分の単離を伴う。これは、例えば、以下に記載のような高分解能ペプチド分離によって成し遂げることが可能である。画分を単離した後に、そのOPN阻害活性を、以下に記載のように、適切なバイオアッセイにより試験することが可能である。
[044] タンパク質分解によるか、もしくは合成のOPNフラグメントは、例えば部分的もしくは完全に、OPNの機能を阻害するために必要な数のアミノ酸残基を含んでなることが可能であり、そして好ましくは、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100またはそれより多くのアミノ酸長を含んでなる。
[045] 他の好ましいOPNのペプチド阻害剤は、OPNタンパク質の表面(例えば、親水性領域)にあり、そして、高抗原性の領域または高い表面可能性スコアのフラグメントを、当業者に周知のコンピューター解析プログラムを用いて同定することが可能である(HoppおよびWood(1983年)Mol.Immunol. 20,483-9、KyteおよびDoolittle(1982年)J.Mol.Biol. 157,105-32、CorriganおよびHuang(1982年)Comput.Programs Biomed 3,163-8)。
[046] あるいは、抗OPN抗体または抗体フラグメントを、OPN活性を阻害するために対象に直接投与することが可能である。好ましい抗体には、ヒト化、キメラおよびヒトモノクローナルまたはそのフラグメントを含む、モノクローナル抗体が含まれる。
[047] あるいは、米国特許第5,795,872、Riciglianoら、「DNA construct for immunization」(1998年)および米国特許第5,643,578、Robinsonら、「Immunization by inoculation of DNA transcription unit」(1997年)に開示されるものなどのDNA免疫テクノロジーを用いて、対象(例えば、OPNノックアウトマウス)をOPNを発現するプラスミドで免疫することも可能である。
[048] OPNに向けられた抗体分子を、哺乳動物から単離し(例えば、血液から)、そして、IgG画分を得るためのプロテインAクロマトグラフィなどの周知の技術により、さらに精製することが可能である。例えば、抗OPN力価が最も高いときなどの免疫後の適切な時点で、抗体産生細胞を対象から得て、そして、これを用いて、例えば、KohlerおよびMilstein(1975年)Nature 256:495-497により最初に記載されたハイブリドーマ技術(Brownら(1981年)J.Immunol 127:539-46;Brownら(1980年)J.Biol.Chem. 255:4980-83;Yehら(1976年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:2927-31;およびYehら(1982年)Int.J.Cancer 29:269-75もまた参照されたい)、より最近のヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら(1983年)Immunol Today 4:72)、EBV−ハイブリドーマ技術(Coleら(1985年)、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R.Liss,Inc.、77〜96ページ)、あるいはトリオーマ技術などの標準技術により、モノクローナル抗体を調製することが可能である。モノクローナル抗体ハイブリドーマを作製するためのテクノロジーは、周知である(一般的に、R.H.Kenneth、Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses、プレナム・パブリッシングCorp.、ニューヨーク、ニューヨーク州、(1980年);E.A.Lerner(1981年)Yale J.Biol.Med. 54:387-402;M.L.Gefterら(1977年)Somatic Cell Genet. 3:231-36を参照されたい)。簡潔には、不死細胞株(典型的には、骨髄腫)を、OPN免疫原で上述のように免疫した哺乳動物から得たリンパ球(典型的には、脾細胞)と融合させ、そして、生じたハイブリドーマ細胞の培養上清をスクリーニングして、OPNと結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。
[049] リンパ球と不死化細胞株とを融合させるために用いられる多くの周知のプロトコールのいずれもを、抗OPNモノクローナル抗体を作出する目的で適用することが可能である(例えば、G.Galfreら(1977年)Nature 266:55052;Gefterら、Somatic Cell Genet、上記に引用;Lerner、Yale J.Biol.Med.、上記に引用;Kenneth、Monoclonal Antibodies、上記に引用、を参照されたい)。さらに、当業者は、同じく有用であろうこのような方法の多くの変形形態があることを、理解するであろう。典型的には、不死細胞株(たとえば、骨髄腫細胞株)は、リンパ球と同じ哺乳動物種に由来する。例えば、本発明の免疫原性調製物で免疫したマウスから得たリンパ球を不死化マウス細胞株と融合させることによって、ネズミハイブリドーマを作製することが可能である。好ましい不死細胞株は、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン含有培養培地(「HAT培地」)に感受性のマウス骨髄腫細胞株である。例えばP3−NS1/1−Ag4−1、P3−x63−Ag8.653またはSp2/O−Ag14骨髄腫株などの、多数の骨髄腫細胞株のいずれもを、標準技術による融合パートナーとして用いることが可能である。これらの骨髄腫株は、ATCCより入手可能である。典型的には、HAT感受性マウス骨髄腫細胞を、ポリエチレングリコール(「PEG」)を用いてマウス脾細胞と融合させる。次いで、融合により生じたハイブリドーマ細胞を、融合していない、および非産生的に融合している骨髄腫細胞(融合していない脾細胞は、形質転換されていないため数日後に死ぬ)を死滅させるHAT培地を用いて、選択する。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、例えば標準的なELISAアッセイを用いて、ハイブリドーマ培養上清をOPNと結合する抗体についてスクリーニングすることにより、検出する。次いで、抗体を、例えば本明細書に記載したアッセイを用いて、OPN阻害活性につき試験することが可能である。
[050] 本明細書では、「バイオアッセイ」の語には、OPN阻害剤を同定するように設計された任意のアッセイが含まれる。アッセイは、OPN阻害剤がOPNの生物学的機能の1またはそれより多くを阻害可能であるかどうかを同定するのに適した、in vitroまたはin vivoアッセイであることが可能である。適切なバイオアッセイの例には、DNA複製アッセイ、転写ベースのアッセイ、クレアチンキナーゼアッセイ、3T3−L1脂肪細胞前駆体の分化に基づくアッセイ、3T3−L1脂肪細胞におけるグルコース取込み制御に基づくアッセイ、および免疫学的アッセイが含まれる。
【0009】
使用
[051] 一実施態様において、本発明の方法をin vivoで用いて、インスリン感受性および/または細胞によるグルコース取込みを増加させることが可能である。
[052] 別の実施態様では、本発明の方法を用いて、インスリン機能不全(例えば、抵抗性、不活性または欠損症)および/または細胞内への不十分なグルコース輸送を特徴とする疾患を治療することが可能である。このような疾患には、これに限定されないが、糖尿病、高血糖および肥満が含まれる。他の疾患には、インスリン抵抗性などの、肥満により誘導され得るメタボリック症候群、多嚢胞性卵巣症候群および加齢が含まれる。
[053] 別の実施態様では、本発明の方法を用いて、インスリン機能不全(例えば、抵抗性、不活性または欠損症)および/または細胞内への不十分なグルコース輸送を特徴とする疾患を治療することが可能である。このような疾患には、これに限定されないが、糖尿病、高血糖および肥満が含まれる。
[054] 別の実施態様では、本発明の方法を用いて、OPNを利用して脂肪細胞におけるグルコース取込みまたはグルコース代謝を検討する、新規in vitroモデルを創出することが可能である。In vivoで筋肉および脂肪に特異的に発現しているOPNは、脂肪細胞特異的遺伝子の発現を直接もしくは間接的に抑制することによって、3T3−L1脂肪細胞の分化を阻害する。したがって、3T3−L1細胞系において、OPNをこれらの遺伝子のプロトタイプレギュレーターとして用いることが可能である。この系は、脂肪細胞特異的遺伝子発現の調節および分子のタンパク質活性におけるOPNの役割を理解するためのモデルであることが可能であり、該分子には、これに限定されないが、転写因子、シグナル伝達タンパク質、レプチン、脂肪酸結合タンパク質、脂肪酸合成酵素、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体、脱共役タンパク質1および2、ならびに、OPNの作用によって活性化、不活化または修飾される分子が含まれる。
[055] 別の実施態様において、OPN阻害剤は、siRNAであることが可能である。近年、RNAiが、遺伝子不活化の最も効率的な方法の一つとして出現してきた(Nature Reviews、2002年、v.3、737〜47ページ;Nature、2002年、v.418、244〜51ページ)。方法として、それは、特定のタンパク質複合体に入り込み、次いで相補的な細胞RNAを標的とし、そしてそれを特異的に分解する、dsRNA種の能力に基づく。より詳細には、dsRNAは、III型RNAse(DICER、Drosha等)によって短い(17〜29bp)阻害的RNA(siRNA)へと消化される(Nature、2001年、v.409、363〜6ページ;Nature、2003年、425、415〜9ページ)。これらのフラグメントおよび相補的mRNAは、特定のRISCタンパク質複合体によって認識される。全過程の結果として、標的mRNAがエンドヌクレアーゼ切断される(Nature reviews、2002年、v.3、737〜47ページ;Curr Opin Mol Ther. 2003年6月;5(3):217-24)。既知の遺伝子に対してsiRNAをどのように設計および調製するかに関する開示については、例えば、Chalk AM, Wahlestedt C, Sonnhammer EL. Improved and automated prediction of effective siRNA. Biochem.Biophys.Res.Commun. 2004年6月18日;319(1):264-74;Sioud M., Leirdal M., Potential design rules and enzymatic synthesis of siRNAs, Methods Mol Biol. 2004年;252:457-69;Levenkova N, Gu Q, Rux JJ:Gene specific siRNA selector Bioinformatics. 2004年2月12日:20(3):430-2、および、Ui-Tei K, Naito Y, Takahashi F, Haraguchi T, Ohki-Hamazaki H, Juni A, Ueda R, Saigo K., Guidelines for the selection of highly effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference, Nucleic Acids Res. 2004年2月9日;32(3):936-48を参照されたい。Liu Y, Braasch DA, Nulf CJ, Corey DR. Efficient and isoform-selective inhibition of cellular gene expression by peptide nucleic acids Biochemistry, 2004年2月24日;43(7):1921-7もまた参照されたい。修飾された/より安定なsiRNAの作製に関しては、PCT公開WO 2004/015107(Atugen)およびWO 02/44321(Tuschlら)、ならびに、Chiu YL, Rana TM. siRNA function in RNAi: a chemical modification analysis, RNA 2003年9月;9(9):1034-48、ならびに米国特許第5898031および6107094(Crooke)もまた参照されたい。
[056] 細胞内でsiRNAを作出可能なDNAベースのベクターが、開発された。方法は、一般的には、効率的にプロセシングされて細胞内でsiRNAを形成する、短いヘアピンRNAの転写を伴う。Paddisonら、PNAS 2002年、99:1443-1448;Paddisonら、Genes & Dev 2002年、16:948-958;Suiら、PNAS 2002年、8:5515-5520;および、Brummelkampら、Science 2002年、296:550-553。これらの報告は、多数の内因性および外因性発現遺伝子を特異的に標的とすることが可能なsiRNAを作出するための方法を記載している。
[057] siRNAの送達に関しては、例えば、Shenら(FEBS letters 539:111-114(2003年))、Xiaら、Nature Biotechnology 20:1006-1010(2002年)、Reichら、Molecular Vision 9:210-216(2003年)、Sorensenら(J.MoI.Biol. 327:761-766(2003年)、Lewisら、Nature Genetics 32:107-108(2002年)、および、Simeoniら、Nucleic Acids Research 31, 11:2717-2724(2003年)を参照されたい。近年、siRNAを、霊長類における阻害に用いることに成功した;さらなる詳細については、Tolentinoら、Retina 24(1) 2004年2月、132〜138ページを参照されたい。
[058] 本発明の方法についてのその他の使用に関しては、以下の実施例および特許請求の範囲から、当業者に明らかであろう。
【0010】
医薬組成物中OPN阻害剤の投与
[059] 本発明の方法において用いられるOPN阻害剤は、一般的に、適切な医薬組成物の形態で対象に投与される。このような組成物は、典型的には、阻害剤および医薬的に許容可能なキャリアを含有する。本明細書では、「医薬的に許容可能なキャリア」の言語は、医薬投与に適合する任意およびすべての溶剤、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含むことが意図される。医薬的に活性な物質へのこのような媒質および剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の慣用の媒質または剤がOPN阻害剤と不適合である場合を除き、組成物中でのその使用が企図される。補助的な活性化合物もまた、組成物中に組み入れることが可能である。
[060] 本発明の医薬組成物は、その目的とする投与経路と適合するように処方物化される。適切な投与経路の例には、例えば静脈内、皮内、皮下などの非経口、経口(例えば、吸入)、経皮(局所)、経粘膜、および直腸投与が含まれる。非経口、皮内もしくは皮下適用に用いられる溶液または懸濁液は、以下の構成成分を含むことが可能である:注射用水などの無菌希釈剤、生理食塩液、固定油、ポリエチレングリコール類、グリセリン、プロピレングリコールまたはその他の合成溶剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベン類などの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などの緩衝液、ならびに、塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの浸透圧調整剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することが可能である。非経口調製物は、アンプル、使い捨てシリンジ、またはガラスもしくはプラスチック製の複数回投与用バイアルに封入することが可能である。
[061] 注射使用に適した医薬組成物には、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、ならびに、無菌注射用溶液または分散液の即時調製用無菌粉末が含まれる。静脈内投与に関しては、適切なキャリアには、生理食塩液、静菌水、クレモフォアEL(商標)(BASF、パーシッパニー、ニュージャージー州)またはリン酸緩衝生理食塩液(PBS)が含まれる。あらゆる場合において、組成物は無菌でなければならず、かつ、容易な注入可能性(syringability)が存在する程度の液体であるべきである。それは、製造および保管条件下で安定でなければならず、かつ、細菌および真菌などの微生物の混入作用に抗して保存されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含有する、溶剤または分散媒であることが可能である。適切な流動性を、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合においては必要とされる粒子の大きさの維持によって、および、界面活性剤の使用によって、維持することが可能である。微生物の作用の阻止を、例えばパラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等の種々の抗菌剤および抗真菌剤によって成し遂げることが可能である。多くの場合、例えば糖類、マンニトール(manitol)、ソルビトールなどのポリアルコール類、塩化ナトリウムなど、等張剤を組成物中に含むことが好ましいであろう。注射用組成物の吸収延長を、吸収を遅延させる剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を組成物中に含むことによってもたらすことが可能である。
[062] 必要量のOPN阻害剤を上記に列挙した成分の一つまたは組み合わせとともに適切な溶剤中に組み入れた後、必要に応じてろ過滅菌することにより、無菌注射用溶液を調製することが可能である。一般的に、分散液は、基本的な分散媒と上記に列挙したもののうち必要な他成分とを含有する無菌媒体にOPN阻害剤を組み入れることにより、調製される。無菌注射用溶液調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であって、あらかじめ無菌ろ過したその溶液から、任意のさらなる所望の成分の加えられた活性成分の粉末を得る。
[063] 経口組成物には、一般的に、不活性希釈剤または可食性キャリアが含まれる。それらは、ゼラチンカプセルに封入されるか、または錠剤へと圧縮されることが可能である。経口治療投与の目的で、OPN阻害剤を賦形剤とともに組み入れ、そして、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で用いることが可能であり、経口組成物はまた、マウスウォッシュとしての使用のための液体キャリアを用いても調製可能であって、その場合、液体キャリア中の化合物を経口適用し、そしてゆすぎ、そして吐き出すかもしくは飲み込む。医薬的に適合性の結合剤および/またはアジュバント物質は、組成物の一部として含まれることが可能である。錠剤、ピル、カプセル、トローチ等は、任意の以下の成分、または同様な性質の化合物を含有することが可能である:微結晶性セルロース、トラガントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたはラクトースなどの賦形剤;アルギン酸、プリモジェルまたはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステローツ(Sterotes)などの潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖またはサッカリンなどの甘味料;あるいは、ハッカ、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料などの着香料。
[064] 吸入による投与では、化合物は、適切な噴霧剤(例えば、二酸化炭素などの気体)を含有する加圧型容器もしくはディスペンサーからエアゾールスプレーの形態で、あるいはネブライザーの形態で、送達される。
[065] 全身性投与は、経粘膜もしくは経皮的手段によっても可能である。経粘膜または経皮投与では、関門を透過するのに適した浸透剤が処方物中に用いられる。このような浸透剤は、一般的に、当該技術分野において公知であり、そして、例えば、経粘膜投与に関しては、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーまたは坐剤の使用によって成し遂げることが可能である。経皮投与に関しては、活性化合物は、当該技術分野において一般的に公知のように、軟膏(ointment)、軟膏(salve)、ジェルまたはクリーム中に処方物化される。
[066] OPN阻害剤を、坐剤(例えば、ココアバターおよび他のグリセリド類などの慣用の坐剤基剤を用いる)または停留浣腸の形態で、直腸への送達用に調製することもまた可能である。
[067] 一実施態様において、OPN阻害剤は、植込錠およびマイクロカプセル送達システムを含む徐放性処方物などの、化合物を体内からの急速な排泄に対して保護するであろうキャリアを用いて、調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物類、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル類およびポリ乳酸などの、生分解性の生体適合性ポリマーを用いることが可能である。このような処方物の調製方法は、当業者に明らかであろう。材料はまた、アルザ・コーポレーションおよびノバ・ファーマシューティカルズInc.からも商品として入手することが可能である。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する、感染細胞を標的とするリポソームを含む)もまた、医薬的に許容可能なキャリアとして使用可能である。これらは、例えば、米国特許第4,522,811に記載のような当業者に公知の方法にしたがって、調製することが可能である。
[068] 投与の容易性および投与量の均一性のために、投与量単位形態で経口もしくは非経口組成物を処方物化することが、特に好都合である。投与量単位形態とは、本明細書では、治療される対象に対する単位投与量として適した物理的に別個の単位を指し;各単位は、必要とされる医薬キャリアと併せて、所望の治療効果を作り出すように計算されたあらかじめ決められた量の活性化合物を含有する。本発明の投与量単位形態の詳細は、活性化合物の独自の特徴および達成すべき特定の治療効果、ならびに個体治療用にこのような活性化合物を配合する技術に固有の限界により決定され、かつ直接的に依存する。
[069] このような化合物の毒性および治療有効性を、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療効果的な用量)を決定するための、細胞培養物もしくは実験動物における標準的な医薬的手順によって、測定することが可能である。毒性効果と治療効果の用量比は、治療指数であって、かつ、比LD50/ED50として表すことが可能であり、大きな治療指数を呈するOPN阻害剤が好ましい。毒性副作用を呈するOPN阻害剤を使用してもよいが、このようなOPN阻害剤に罹患組織の部位を標的とさせる送達システムを設計するには、感染していない細胞への潜在的な損傷を最小化し、そしてそれにより副作用を低減させるために、注意が払われるべきである。
[070] 細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを、ヒトにおける使用のための投与量範囲を処方するのに用いることが可能である。このような化合物の投与量は、ほとんどもしくは全く毒性を伴わない、ED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。投与量は、使用する剤形および利用する投与経路に応じてこの範囲内で変化してもよい。本発明の方法において用いられる任意のOPN阻害剤について、治療有効用量を、まず、細胞培養アッセイから推定することが可能である。細胞培養において測定されたIC50(すなわち、徴候の最大阻害の半分を達成する試験OPN阻害剤の濃度)を含む循環血漿中濃度範囲に達するように、動物モデルにおいて、用量を処方してもよい。このような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することが可能である。血漿中レベルを、例えば高速液体クロマトグラフィにより、測定してもよい。
[071] 医薬組成物は、投与のための説明書とともに、容器、パックまたはディスペンサーに含まれることが可能である。
[072] 例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド阻害剤などの、本発明のOPN阻害剤を、さらに、ベクター内に挿入し、そして遺伝子治療に用いることが可能である。遺伝子治療用ベクターを、例えば、静脈内注射、局所投与(米国特許第5,328,470を参照されたい)または定位注射(例えば、Chenら(1994年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3054-3057を参照されたい)により、対象に送達することが可能である。遺伝子治療用ベクターの医薬調製物は、許容可能な希釈剤中に遺伝子治療用ベクターを含むか、あるいは、遺伝子送達媒体が埋め込まれた徐放性マトリックスを含んでなることが可能である。あるいは、完全な遺伝子送達ベクターを組換え細胞から完全な状態で産生可能である場合(例えば、レトロウイルスベクター)、医薬調製物は、遺伝子送達システムを産生する1またはそれより多くの細胞を含むことが可能である。
[073] 遺伝子治療における使用に適したベクターは、当該技術分野において公知である。例えば、アデノウイルス由来ベクターを用いることが可能である。アデノウイルスのゲノムを、それが目的とする遺伝子産物をコードし、そして発現するが、ただし正常な溶解ウイルス生活環におけるその複製能に関して不活化されるように、操作することが可能である。例えば、Berknerら(1988年)BioTechniques 6:616;Rosenfeldら(1991年)Science 252:431-434;および、Rosenfeldら(1992年)Cell 68:143-155を参照されたい。アデノウイルス株Ad5型dl324またはアデノウイルスのその他の株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)に由来する適切なアデノウイルスベクターは、当業者に周知である。組換えアデノウイルスは、それらが非分裂細胞に感染できないことから、一定の環境において好都合であり得る。さらに、ウイルス粒子は、比較的安定であって、かつ精製および濃縮が可能であり、そして、上記のように、感染性の範囲(the spectrum of infectivity)に影響を及ぼすように修飾されることが可能である。加えて、導入されたアデノウイルスDNA(およびそれに含有される外来DNA)は、宿主細胞のゲノム内に組み込まれないが、しかし、エピソーム性のままであることによって、導入されたDNAが宿主ゲノム(例えば、レトロウイルスDNA)内に組み込まれるようになる状況における挿入突然変異の結果として生じ得る問題が回避される。さらに、アデノウイルスゲノムが外来DNAを保有する能力は、他の遺伝子送達ベクターと比較して大きい(8キロベースまで)(Berknerら、上記に引用;Haj-AhmandおよびGraham(1986年)J.Virol. 57:267)。現在使用されており、かつそれゆえに本発明に好ましいほとんどの複製欠損性アデノウイルスベクターは、ウイルスE1およびE3遺伝子の全部もしくは一部が欠失しているが、しかし、アデノウイルス遺伝物質の80%ほどを保持している(例えば、Jonesら(1979年)Cell 16:683;Berknerら、同上;および、Grahamら、Methods in Molecular Biology、E.J.Murray編(ヒューマナ社、クリフトン、ニュージャージー州、1991年)第7巻、109〜127ページを参照されたい)。核酸分子内に含まれる目的とする遺伝子の発現は、例えば、E1Aプロモーター、主要後期プロモーター(MLP)および関連するリーダー配列、E3プロモーター、または外来的に付加されたプロモーター配列の制御下にあり得る。
[074] 本発明のOPN阻害剤の送達に有用なさらに別のウイルスベクター系は、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。アデノ随伴ウイルスは、効率的な複製および生産的な生活環のために、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスなどの別のウイルスをヘルパーウイルスとして必要とする、自然界に存在する欠損ウイルスである(総説に関しては、Muzyczkaら、Curr.Topics in Micro. and Immunol.(1992年)158:97-129を参照されたい)。アデノ随伴ウイルスは、高頻度の安定な組込みを呈する(例えば、Flotteら(1992年)Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol. 7:349-356;Samulskiら(1989年)J.Virol. 63:3822-3828;および、McLaughlinら(1989年)J.Virol. 62:1963-1973を参照されたい)。わずか300塩基対のAAVを含有するベクターがパッケージされ、そして組み込むことが可能である。外因性DNAのためのスペースは、約4.5kbに限定される。Tratschinら(1985年)Mol.Cell.Biol. 5:3251-3260に記載されたものなどのAAVベクターを用いて、DNAをT細胞に導入することが可能である。多様な核酸が、AAVベクターを用いて、異なる細胞型に導入されている(例えば、Hermonatら(1984年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466-6470;Tratschinら(1985年)Mol.Cell.Biol. 4:2072-2081;Wondisfordら(1988年)Mol.Endocrinol. 2:32-39;Tratschinら(1984年)J.Virol. 51:611-619;および、Flotteら(1993年)J.Biol.Chem. 268:3781-3790を参照されたい)。本発明のOPN阻害剤の送達に有用な可能性のある他のウイルスベクター系は、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよびいくつかのRNAウイルスに由来する。
[075] インスリン抵抗性(IR)は、筋肉、脂肪組織(AT)および肝臓に現れ、そして、ATにおける炎症を伴う。インスリンに対する応答が正常な対象における応答の半分であるならば、対象はIRを有している。IRは、高インスリン正常血糖クランプの使用、Reaven改変インスリン抑制試験、恒常性モデル評価、または定量的インスリン感受性検査指数によって測定することが可能である。本発明は、炎症促進性タンパク質OPNのmRNA発現が肥満でインスリン抵抗性のヒトおよびラットのATにおいて上昇し、そして、チアゾリジンジオン治療後に両種で正常化されたとの発見に、部分的に基づいている。本発明者は、OPNノックアウトマウス(OPN KO)およびIRの2週間高脂肪食餌(HFD)モデルを用いて、IRにおけるOPNの役割を研究した。OPN KOは、野生型マウス(WT)に認められた、HFDにより誘導される、インスリン刺激によるグルコース処理率および肝グルコース生産の著しい変化から、完全に保護された。HFDは、体重、ATマクロファージ浸潤、または血漿中遊離脂肪酸およびサイトカイン類を変化させなかった。HFDにより誘導される高レプチン血症、ATサイトカイン分泌および脂肪細胞肥大は、OPN KOでは、WTと比較して鈍化したか、またはなかった。筋肉およびeWATでのインスリン刺激によるAktリン酸化は、HFDを与えられたOPN KOで、WTと比較して大きかった。OPN KOの骨髄間質細胞は、WT細胞よりも骨形成が多く、かつ脂肪生成が少なかった。WT細胞では、両方の分化経路がHFDにより影響を受けた。これらのOPN KOフェノタイプは、IRからの保護と一致する。OPNは、肥満およびATマクロファージ浸潤が起こる前の、食餌により誘導されるIRの主要な構成成分である。OPNが細胞遊走、マクロファージ活性化、炎症および細胞外マトリックスリモデリングに関わることが、本発明の一部としてさらに発見された。これらの生物活性はすべて、インスリン抵抗性の動物およびヒトモデルの脂肪組織において活性化される。
【実施例】
【0011】
[076] 以下の実施例を、本発明を実施するほんの一例として示す。これらの実施例は、例示することを目的とするが、しかし、本発明を限定することを目的としない。それらは、用いられてもよい典型的なものであるが、当業者に公知の他の手順を代替的に用いてもよい。
【0012】
実施例1.遺伝子発現:インスリン抵抗性への介入治療の潜在的な標的としてのOPNの同定
[077] インスリン抵抗性は遺伝子発現の変化を伴うため、アフィメトリクスを用いて全体的な遺伝子発現プロファイリングを行い、インスリン抵抗性ヒト患者(n=34)の脂肪組織においてインスリン感受性の痩身患者(n=6)と比較して差次的に調節され、かつインスリン感作性チアゾリジンジオン(TZD)での治療により正常化される遺伝子を同定した。インスリン抵抗性患者とインスリン感受性患者との間で差次的発現を示す、300を超える遺伝子が同定された。同様なアプローチを、インスリン抵抗性げっ歯類fa/faモデルを利用して実施した。差次的遺伝子発現を、ズッカー痩身(fa/f)、ズッカー肥満(fa/fa)および14日間TDZ治療肥満ラットの脂肪組織において測定した。このモデルにおける脂肪組織の全体的な遺伝子発現プロファイリングによって、インスリン抵抗性fa/faラットでその痩身対照と比較して差次的に調節されている、100を超える遺伝子が同定された。ヒトとラットとの発現プロファイリング試験の重複部分を用いて、発明者は、インスリン抵抗性ヒトおよびラットの脂肪組織において差次的発現を示し、かつTZD治療により正常化された4遺伝子を、介入治療の潜在的な標的として同定することができた。OPN、ALCAM、GLIPR1およびS100 A4が、候補遺伝子として同定された。OPNは公知の分泌タンパク質であって、かつ同定された統計学的に最も有意な転写物であることから、結果を確認するために、発明者は、定量的RT−PCRを用いて、インスリン感作性TZDであるピオグリタゾンでの治療前および治療後の、痩身および肥満のヒトおよびズッカーラットから得た脂肪組織におけるOPN発現を比較した。
【0013】
実施例2.インスリン感受性
[078] ラットおよびヒト群の末梢インスリン感受性(グルコース処理率Rdとして測定)を、高インスリン正常血糖クランプ手順を用いて測定した。ラットおよびヒトの臨床的特徴を、表1に列挙する。脂肪組織におけるOPN発現は、インスリン感受性痩身対照と比較して、肥満のインスリン抵抗性ラット(17倍)およびヒト(4.6倍)で上昇した。ピオグリタゾン治療によって、肥満ラットおよびヒトのインスリン感受性は増加し(表1)、そして、両種の脂肪組織におけるOPN発現は正常化された(図1Aおよび1B)。実際に、治療前の患者データを併せると、脂肪組織のOPN RNAレベルとRdとの間に有意な相関があった(図1C)。
【0014】
【表1−1】

【0015】
【表1−2】

【0016】
実施例3.OPN KOマウスは食餌により誘導されるインスリン抵抗性から保護される
[079] 早期発症型の食餌により誘導されるインスリン抵抗性における全身OPN遺伝子ノックアウトのin vivo効果を、C57BL/6 WTおよび系統が同じであるOPN KOマウスを用いて評価した。正常血糖高インスリンクランプ試験を、NCまたはHFDを2週間与えられたWTおよびOPN KOマウスで行い、そして、両食餌を与えられたマウス系統から得たクランプデータに、有意差が認められた(図2A〜C)。クランプ中のグルコース注入率(Ginf)は、NCを与えられたOPN KOマウスにおいて、WTマウスと比較して27%大きかった。NCを与えられたOPN KOマウスにおけるクランプ中のグルコース処理率(GDR)も同様に、大きい傾向にあった。NCを与えられたOPN KOマウスのクランプ中の肝グルコース生産率(HGO)は、WTマウスと比較して52%低かった。加えて、OPN KOマウスは、WTマウスにおいて認められた、HFDにより誘導されたGinf(73%)およびGDR(57%)の著しい減少、ならびにHGOの増加(66%)から保護された。これらのデータは、OPNの欠失が、マウスにNCを与えた場合は肝臓のインスリン感受性の改善を、そして、マウスにHFDを与えた場合は肝臓および骨格筋のインスリン抵抗性からの保護をもたらすことを、示している。
[080] WTとOPN KOマウスにおいてHFDにより誘導された変化の間には、正常血糖高インスリンクランプにより検出されたインスリン感受性の差を除いては、多くの類似性が認められた。また、インスリン抵抗性の2週間HFDモデルは、より長期のHFDモデルにおいて認められる二次的異常の多くを示さない。総体重は、マウス系統間で差はなく、そして、HFDにより変化しなかった(表2)。表皮白色脂肪組織(eWAT)の脂肪体重量は、HFDの全動物で同様に増加し、そして、総体重のパーセントとして系統間で差はなかった(表2)。空腹時血漿中インスリンレベルは、NCおよびHFDを与えられたWTマウスにおいて、OPN KOマウス群と比較して高い傾向にあったが、しかし、ANOVA分析による差は有意でなかった(p=0.068)(表2)。空腹時血漿中インスリンレベルは、NCおよびHFDを与えられたWTマウスにおいて、OPN KOマウス群と比較して高い傾向にあったが、しかし、ANOVA分析による差は有意でなかった(p=0.068)(表2)。
【0017】
【表2】

【0018】
[081] 空腹時血漿中グルコースレベルは、HFDを与えられたOPN KOマウスのみでわずかに上昇した。本発明者は、4動物群において、OPN、アディポカイン類、サイトカイン類、ケモカイン類および脂質類を含む、他の血漿中構成成分のレベルを測定した(表3)。総コレステロールを除けば、表3の血漿中構成成分はいずれも、HFDを与えられたWTまたはOPN KOマウスで上昇しなかった。血漿中総コレステロールは、HFDを与えられた両マウス系統で上昇したが、OPN KOマウスではわずかに低かった。
【0019】
【表3−1】

【0020】
【表3−2】

【0021】
実施例4
[082] OPN KOマウスにおけるWATの差次的組織学的検査および血漿中レプチンレベル eWAT(内臓脂肪蓄積)および鼠径部脂肪組織(iWAT、皮下脂肪蓄積)の組織切片を検査し、そして、WTマウスから得たeWATおよびiWATにおいてHFDにより誘導される脂肪細胞肥大が、ONP KOマウスでは、それぞれ23%および30%鈍化することが見いだされた(図3)。HFDを与えられた二つの系統におけるeWAT脂肪体量が同程度であると仮定すると、OPN KOマウスにおいて、より小さな脂肪細胞の過形成があり得る。OPN KOとWTのWAT組織切片を比較した場合、細胞外マトリックスまたは他の非脂肪細胞構造に、著しい差は認められなかった。eWATおよびiWAT切片を、脂肪組織マクロファージの存在について、マクロファージ特異的マーカーMac−2を検出するための免疫組織化学的検査を用いて検査した。Mac−2染色は、肥満マウスおよびヒトから得た脂肪組織において増加することが、先に示されている(Cinti,S.ら、2005年、J Lipid Res 46:2347-2355)。NCを与えられたマウスとHFDを与えられたマウスから得た切片を比較した場合、王冠型構造およびMac−2染色細胞数の差は検出されず、かつ、両系統間に差はなく、2週間HFD後のインスリン抵抗性に、脂肪へのマクロファージ浸潤が関与していないことが示唆された。複数種の肥満モデルにおいて、血漿中レプチンレベルは、脂肪量と相関する(Fruhbeck,G. 2006年、Biochem J 393:7-20)。したがって、血漿中レプチンレベルを4マウス群において測定し、そして、WTマウスにおいてHFDにより誘導される血漿中レプチンの増加(4.6倍)が、OPN KOマウスでは45%鈍化することが見いだされた(図4A)。HFDを与えられたWTとOPN KOマウスとの間で平均脂肪体量に有意差はなかったが(表2および図4B)、血漿中レプチンレベルは、個々のマウスにおいて、eWAT脂肪細胞の大きさと有意に相関している(図4C)。
【0022】
実施例5
[083] インスリン抵抗性に関連する組織構成成分の分析 本発明者は、インスリン抵抗性に関連する系統および/もしくは食餌依存性の差を同定するために、マウス群で組織構成成分について研究した。食餌により誘導されるインスリン抵抗性のいくつかのモデルにおいて、トリグリセリド蓄積が、筋肉および肝臓で認められる。表3に、筋肉および肝臓において測定された組織トリグリセリドレベルを示す。トリグリセリドレベルは、NCを与えられたOPN KOマウスから得た骨格筋において、WTマウスと比較して有意に低かった。しかしながら、HFDを与えられた系統間では、筋肉トリグリセリドに差はなく、HFDの結果としてトリグリセリドの有意な増加もなかった。肝臓におけるトリグリセリドレベルは、HFDを与えられたWTおよびOPN KOマウスにおいて増加する傾向にあったが、ただし、この傾向は有意ではなく、かつ系統間で差はなかった。脂肪組織が肥満における局所炎症の部位であるため、サイトカインタンパク質レベルを、この組織において検査した。いずれの系統でも、HFDにより血漿中サイトカインレベルは増加しなかったが、IL−1β、IL−12p70、IFNγ、IL−6およびIL−10レベルの上昇が、WTマウスから得たeWATライセートにおいて認められた(図5)。Cxcl1(KC)およびTNFαレベルもまた、WTマウスにおいてHFD後に増加する傾向にあったが、ただし、この増加は統計学的有意には達しなかった。HFDを与えられたOPN KOマウスは、eWATライセートでのIL−1β、IL−12p70、IFNγ、IL−6、IL−10、Cxcl1およびTNFαレベルの増加から、完全に保護された。
[084] HFD後のAktリン酸化の差次的な活性化 HFDを与えられたマウスにおいてインスリンシグナル伝達に及ぼすOPN KOの効果を検討するために、本発明者は、インスリン0.85mU/kgの腹腔内注射により群を急性にインスリン刺激し、そして、15分後に組織を回収した。これらの試験における、筋肉および脂肪のインスリン刺激によるAktリン酸化のELISA定量を、図6に示す。筋肉におけるインスリン刺激によるAktリン酸化は、OPN KOマウスで、WTマウスと比較して58%大きかった。iWATにおけるインスリン刺激によるAktリン酸化に系統間で差はなかったが、しかし、OPN KOマウスから得たeWATでは、WTマウスと比較して73%大きかった。並行して、本発明者は、SDS−PAGEおよびウェスタンブロッティングにより組織ライセートを分析した。ELISAの結果と同様に、インスリン刺激によるAktリン酸化は、OPN KOマウスから得た筋肉およびeWATで、WTマウスと比較して有意に大きかった。
【0023】
実施例6
[085] 骨髄間質細胞の分化 骨髄由来間葉系間質細胞(BMSC)は、多能性(multi-potent)であり、かつ、骨形成、脂肪生成および軟骨形成経路へと分化することが可能である(Gimble,J.M.ら、2006年、J Cell Biochem 98:251-266)。OPN発現の欠如および/食餌がこれらの経路のうちの二つへと分化するBMSCの性向に影響を及ぼすかどうかを分析するために、研究を行った。
[086] BMSCを4マウス群から回収し、そして、それらに骨形成プロトコールと脂肪生成プロトコールの双方を行った。各分化プログラムによる進行を、骨芽細胞遺伝子アルカリホスファターゼ(Akp2)およびオステリックス(Osx)、ならびに脂肪細胞遺伝子PPARγの発現により測定した(図7)。骨形成分化中のAkp2およびOsxの発現は、OPN KO BMSCで、WT BMSCよりも有意に大きかった(図7A)。HFDは、WT BMSCの骨形成分化を有意に鈍化させたが、しかし、OPN KOの骨形成分化には影響を与えなかった。脂肪生成プロトコール中のPPARγの発現は、OPN KO BMSCで1000倍増加したが、しかし、WT BMSCでは9桁増加した(図7B)。HFDは、WT BMSCの脂肪生成分化を有意に増強したが(1000倍多くのPPARγ発現)、しかし、OPN KOの脂肪生成分化には影響を与えなかった。2週間のHFDが、4週間を超えるex vivo培養後にWT BMSCの骨形成および脂肪生成分化にこのような影響を与えたことは、注目すべきである。HFDが、in vivoで、BMSCにおける分化の潜在的バイアスをプログラムする可能性は高い。つまり、これらのデータは、OPNの欠失がBMSCの骨形成分化を増強し、かつ脂肪生成分化を阻害し、そして逆に、HFDがBMSCの骨形成分化を阻害し、かつ脂肪生成分化を増強することを、示唆している。
[087] インスリン抵抗性は、脂肪組織における低度の慢性炎症を伴う。OPNの既知の生物学的役割には炎症の調節が含まれるが、脂肪組織生物学および/または全身代謝の調節におけるOPNの役割は、ごく最近になって記載された(Nomiyama Tら、Osteopontin mediates obesity-induced adipose tissue macrophage infiltration and insulin resistance in mice. J Clin Invest 117: 2877-2888、2007年)。本結果は、OPN RNA発現が肥満のインスリン抵抗性ラットおよびヒトから得た脂肪組織で上昇し、ヒトにおいてはRdと相関し、そしてTZD治療後に正常化したことを、示している。全体的な転写プロファイリング解析において、Xuらは、OPNが5つのマウス肥満モデルから得たWATに過剰発現している50の炎症性遺伝子の一つであることを、見いだした(Xu Hら、2003年)。肥満のインスリン抵抗性対象の脂肪組織におけるOPN過剰発現は、レプチン、サイトカイン類または脂質モジュレーターの活性化に応答した脂肪細胞および/または間質血管細胞に起因する可能性がある。OPNは、多くの細胞型に発現し(Denhardt DTら、2001年、同上)、そして、3T3−L1脂肪細胞にも発現している(Ross SEら、Microarray analyses during adipogenesis: understanding the effects of Wnt signaling on adipogenesis and the roles of liver X receptor alpha in adipocyte metabolism. Mol Cell Biol 22:5989-5999, 2002年;および、発明者のデータ)。TZDにより仲介されるインスリン感作は、脂肪組織炎症の減少を伴う(Di Gregorio GBら、2005年)。OPN発現は、マクロファージモデルにおいて、PPARγおよびLXRリガンドによりダウンレギュレートされる(Ogawa Dら、2005;Oyama Yら、2002;Oyama Yら、Troglitazone, a PPARgamma ligand, inhibits osteopontin gene expression in human monocytes/macrophage THP-1 cells. J Atheroscler Thromb 7:77-82、2000年)。上記に開示されたOPN KOデータは、脂肪組織におけるOPN発現の正常化が、炎症を低減することにより、TZDにより仲介される感作において役割を果たし得ることを、示唆している。
[088] 本発明者は、早期発症型の2週間HFDモデルにおいて、インスリン抵抗性の発症におけるOPNの役割を検討した。注目すべきことに、2週間のHFDは、体重、肝臓もしくは骨格筋トリグリセリド、脂肪組織へのマクロファージ浸潤、血漿中FFAもしくはトリグリセリド、または血漿中炎症性マーカー(レプチンを除く)の検出可能な変化を伴わなかった。本明細書に開示した早期発症型の高脂肪食によるフェノタイプは、HFDにより誘導されるインスリン抵抗性の経時的試験においてParkらにより観察されたものと同様である(Park SYら、Unraveling the temporal pattern of diet-induced insulin resistance in individual organs and cardiac dysfunction in C57BL/6 mice. Diabetes 54:3530-3540、2005年)。2週間後に、HFDは、WTマウスにおいて重度の肝臓および骨格筋のインスリン抵抗性、ならびに、両マウス系統において高インスリン血症、高コレステロール血症および脂肪体増大を誘導した。OPN KOマウスは、HFDにより誘導される肝臓および骨格筋のインスリン抵抗性から保護され、そして、NCを与えられた場合、WTマウスよりも大きい肝臓のインスリン感受性を有した。OPN KOマウスもまた、WTマウスと比較して、HFD後にインスリンにより刺激された骨格筋およびeWATのAktリン酸化の有意な増強を呈し、このことは、それらのインスリン感受性の増強と一致する。興味深いことに、インスリンにより刺激されたiWATのAktリン酸化は、HFDを与えられた系統間で差がなく、この皮下脂肪蓄積が、eWAT蓄積とは違いインスリン抵抗性でないことが、示される。
[089] WTマウスにおいて、HFDは血漿中レプチンレベルを増加させ、そして、この増加はOPN KOマウスにおいて鈍化した。本発明者は、これらの系統から得た脂肪組織において、レプチンRNA発現に対するHFDの効果に同様な差を認めた。加えて、血漿中レプチンレベルは、WTマウスおよびOPN KOマウス双方において、eWAT脂肪細胞の大きさと相関した。いくつかの肥満モデルにおいて、レプチンレベルは上昇し、脂肪量を反映し、そして、ヒトにおいて脂肪細胞の大きさと相関した(Frederich RCら、Expression of ob mRNA and its encoded protein in rodents. Impact of nutrition and obesity. J Clin Invest 96: 1658-1663、1995年;Fruhbeck、2006年;Lofgren Pら、Long-term prospective and controlled studies demonstrate adipose tissue hypercellularity and relative leptin deficiency in the post-obese state. J Clin Endocrinol Metab 90:6207-6213、2005年)。TZDおよび体重減少は、双方とも、血漿中レプチンレベルおよび脂肪細胞の大きさを低減させた(Lofgrenら、2005年、同上;Yamauchi Tら、The mechanisms by which both heterozygous peroxisome proliferator-activated receptor gamma (PPARgamma) deficiency and PPARgamma agonist improve insulin resistance. J Biol Chem 276:41245-41254、2001年)。レプチンは炎症性活性を有し、そして、炎症促進性サイトカイン類の分泌を活性化することが可能である(Fruhbeck、2006年、同上;Sanchez-Margalet Vら、Role of leptin as an immunomodulator of blood mononuclear cells: mechanisms of action. Clin Exp Immunol 133:11-19、2003年)。レプチンは、リンパ球および骨格筋においてIRS1のSer−318リン酸化を誘導し、筋肉においてインスリンシグナル伝達を阻害する(Hennige AMら、Leptin down-regulates insulin action through phosphorylation of serine-318 in insulin receptor substrate 1. FASEB J 20:1206-1208、2006年)。db/dbマウスから得た培養肝細胞では、レプチンで治療した後、OPNのmRNAおよびタンパク質発現が増加した(Sahai Aら、Obese and diabetic db/db mice develop marked liver fibrosis in a model of nonalcoholic steatohepatitis: role of short-form leptin receptors and osteopontin. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 287:G1035-1043、2004年)。このように、HFDを与えられたWTマウスの血漿中、およびおそらく脂肪組織中の高いレプチンレベルが、OPN KOマウスと比較してこれらのマウスにおいて認められる複数組織でのインスリン抵抗性の一因である可能性がある。さらなる研究が、種々の組織におけるOPNとレプチンとの間の機構的関連について進行中である。
[090] OPN KOから得た脂肪細胞は、WTマウスから得た脂肪細胞よりも、HFD後の肥大が有意に少なかった。HFDにより誘導されるOPN KO脂肪細胞の肥大の減少は、WT BMSCと比較した場合のOPN KO BMSCの脂肪生成の潜在性の減少と関連している可能性があり、そして、以下により詳細に論じる。より大きな脂肪細胞はより小さな脂肪細胞よりも、多くのレプチンを分泌することに加えて、インスリン感受性が低く、多くの炎症性サイトカイン類およびFFAを分泌し、そして、多くの活性酸素種を産生する(Pausova Z.、From big fat cells to high blood pressure: a pathway to obesity-associated hypertension. Curr Opin Nephrol Hypertens 15:173-178、2006年)。本知見は、HFDを与えられたWTマウスから得たeWATにおいて、OPN KOマウスと比較して、インスリン感受性が減少し、かつサイトカイン分泌が増加することを示す。サイトカイン分泌の増加は、常在性マクロファージ、脂肪細胞、または内皮細胞および脂肪細胞前駆体などのeWAT中の他の細胞型に起因し得る。レプチンおよびOPNは、双方とも、炎症性サイトカイン分泌を誘導し(Denhardt、2001年、同上;Fruhbeck、2006年、同上)、そして、HFDを与えられたWT eWATにおいて認められたサイトカイン分泌増加のメディエーターであり得る。他の系にて示されたように、差次的なグリコシル化、リン酸化および/またはタンパク質分解によって仲介される、OPNの生物活性において、HFDにより誘導されるシフトはあり得るが、WTマウスから得たeWAT OPNタンパク質では、HFD後に変化は認められなかった(Christensen Bら、2005年;Weber GFら、2002年)。本明細書に開示したヒトおよびラットでの発現データ、ならびにXuら(2003年)のデータに基づくと、OPN発現は、より長期のHFD後に増加するようである。
[091] in vivoおよびin vitro双方の試験により、BMSCの骨芽細胞と脂肪細胞への分化の間に逆相関が示された(Gimble JMら、2006年、同上;Rosen CJら、Mechanisms of disease: is osteoporosis the obesity of bone? Nat Clin Pract Rheumatol 2:35-43、2006年)。骨髄における骨と脂肪細胞の生成間の平衡は、加齢、骨粗しょう症、およびPPARγの活性化を含む要因によって影響を受ける。本発明者は、qPCRを用いて、OPN KOマウスから単離されたBMSCで、WTマウスから単離されたBMSCよりも骨形成が多く、かつ脂肪生成が少ないことを示し、これにより、OPNが両分化経路の重要なレギュレーターであることが示唆される。同様な骨髄フェノタイプは、欠失変異体FosB導入遺伝子を発現しているマウスにおいて報告された(Kveiborg Mら、DeltaFosB induces osteosclerosis and decreases adipogenesis by two independent cell-autonomous mechanisms. Mol Cell Biol 24:2820-2830、2004年)。本明細書のデータは、OPN KOマウスは、WTマウスよりも骨石灰化が多く(Harmey Dら、Elevated skeletal osteopontin levels contribute to the hypophosphatasia phenotype in Akp2(-/-) mice. J Bone Miner Res 21:1377-1386、2006年)、そして、骨減少のモデルに抵抗性である(Ishijima Mら、Osteopontin is associated with nuclear factor kappaB gene expression during tail-suspension-induced bone loss. Exp Cell Res 312:3075-3083、2006年;Yoshitake Hら、Osteopontin-deficient mice are resistant to ovariectomy-induced bone resorption. Proc Natl Acad Sci USA 96:8156-8160、1999年)との報告と相関している。
[092] 脂肪組織由来間質細胞(ATSC)およびBMSCは、類似した遺伝子発現パターン、ならびに骨形成および脂肪生成分化の潜在性を有する(Lee RHら、Characterization and expression analysis of mesenchymal stem cells from human bone marrow and adipose tissue. Cell Physiol Biochem 14:311-324、2004年)。したがって、OPN KO ATSCは、OPN KO BMSCと同様に、WT ATSCよりも脂肪生成が少ない可能性がある。脂肪細胞の肥大を調節するメカニズムについては、ほとんど分かっていない。HFDを与えられたOPN KOマウスでは、WTマウスと比較して脂肪細胞の肥大が減少しており、このことは、脂肪細胞の完全に成熟分化する能力が減少(肥大する可能性が低減)すること、および、HFDの高脂質負荷に順応するために代償的に脂肪細胞過形成が起こり得ることによる可能性がある。脂肪細胞の肥大および分化には、広範な細胞外マトリックスリモデリングが必要である(Chun THら、A pericellular collagenase directs the 3- dimensional development of white adipose tissue. Cell 125:577-591、2006年;Gregoire FM、Adipocyte differentiation: from fibroblast to endocrine cell. Exp Biol Med (Maywood) 226:997-1002、2001年;Nakajima Iら、Adipose tissue extracellular matrix: newly organized by adipocytes during differentiation. Differentiation 63:193-200、1998年)。細胞外マトリックスリモデリングにおけるOPNのよく特徴付けられた役割を考えると、OPN欠損によって、細胞外マトリックスの調節不全により脂肪細胞の肥大/分化が損なわれる可能性がある。注目すべきことに、in vitroでのBMSCの脂質生成分化に対するOPN欠損の効果は、インスリン抵抗性および脂肪細胞生物学におけるOPNの役割が、免疫細胞機能を調整する役割を越えていることを、示している。
[093] 本発明者は、2週間の高脂肪食餌が、それに続くin vitroでのBMSC骨形成分化を妨害し、そしてWTマウスで脂肪生成分化を増強し、OPN KOマウスでは増強しないとの新規の知見を得た。WTマウスにおいて、この効果は、BMSCの分化潜在性に長期の効果がある、PPARγリガンド、HFDの構成成分もしくは代謝物により仲介される可能性がある。この発見は、骨髄脂肪蓄積と骨密度との間の平衡に関する公表されたin vivo試験と相関する(Gimbleら、2006年)。興味深いことに、BMSCの分化潜在性に対する高脂肪食餌の効果は、OPN KOマウスでは認められず、そして、OPNが脂肪生成の正のレギュレーターであって、かつ骨芽細胞分化の負のレギュレーターであるとのさらなるエビデンスである。これらのマウス群から得たBMSCの脂肪生成および骨形成分化の潜在性を、さらなる分化マーカーを用いて、さらに探求する必要がある。
[094] 要約すれば、我々は、OPNが、肝臓、筋肉および脂肪組織において高脂肪食餌により誘導されるインスリン抵抗性の早期発症型の重要なモジュレーターであることを見いだしている。我々は、OPN KOマウスがHFDにより誘導されるインスリン抵抗性から保護されるメカニズムが、レプチン発現の低減、脂肪細胞の肥大の減少、および脂肪組織における炎症性サイトカイン分泌の抑制を伴うとのエビデンスを、提供する。OPN KOマウスは、アテローム性動脈硬化促進性のマウス背景においてアテローム性動脈硬化から保護され、そして、Bruemmerらは、これが白血球由来のOPNにより仲介されることを示した(Bruemmerら、2003年;Matsui Yら、Osteopontin deficiency attenuates atherosclerosis in female apolipoprotein E-deficient mice. Arterioscler Thromb Vase Biol 23:1029-1034、2003年)。Nomiyamaらは、OPN欠損が、長期に高脂肪を与えられた後に誘導されるインスリン抵抗性を、脂肪組織へのマクロファージ浸潤を低減させることによって部分的に軽減することを、最近示した(J Clin Invest 117:2877-2888、2007年)。我々の2週間HFDモデルにおいてインスリン抵抗性におけるOPNの役割を仲介する細胞型は、現時点では不明瞭であり、そして、我々の研究所における現在の研究の焦点である。OPNは、食餌により誘導されるインスリン抵抗性の早期発病およびインスリンを標的とする組織生物学における新規関与体である。そのようなものとして、OPNは、ヒトインスリン抵抗性および2型糖尿病の治療のための魅力ある治療標的である可能性がある。
[095] したがって、一実施態様において、本発明は、真性糖尿病、ならびに肥満もしくは高血糖などの関連障害を治療するための方法であって、該疾患の症状を改善するのに十分な量のOPNの阻害剤を対象に投与することによる方法を提供する。2型またはインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)は、具体的には、(1)末梢組織、特に骨格筋および脂肪細胞におけるグルコース取込みへのインスリンの作用に対する抵抗性、(2)インスリンの作用の不全による肝グルコース産生の阻害、ならびに(3)インスリン分泌の調節不全;の三徴候を特徴とする(DeFronzo(1997年)Diabetes Rev.5:177-269)。したがって、2型糖尿病を患う対象を、本発明にしたがって、インスリンに対する感受性および細胞によるグルコース取込みを増加させるOPN阻害剤の投与により治療することが可能である。同様に、インスリン機能不全(例えば、抵抗性、不活性または欠損症)および/または細胞内への不十分なグルコース輸送を特徴とする他の疾患もまた、本発明にしたがって、インスリンに対する感受性および細胞によるグルコース取込みを増加させるOPN阻害剤の投与により治療することが可能である。
【0024】
材料および方法
実施例MM1:ヒト試験
[096] 5例の痩身インスリン感受性対象および6例の肥満インスリン抵抗性対象を、ピオグリタゾン(45mg/日)で3ヶ月間治療した。患者の臨床的特徴を、表1に示す。ピオグリタゾン治療の前および後に、各患者から皮下脂肪組織生検を回収し、そして液体窒素中で瞬間冷凍し、そして、各患者に60mU/m2/分の高インスリン正常血糖クランプを5時間行った。ベースラインの血漿試料を採取し、そして、高インスリン正常血糖クランプを、先に記載されたように(Frias,JPら、2000年、Diabetes Care 23,64-69;Yu,JGら、2002年、Diabetes 51,2968-2974)、10時間絶食後の朝に行った。実験プロトコールは、カリフォルニア大学サンディエゴ校の治験審査委員会により認可された。書面によるインフォームドコンセントを、各対象から得た。
【0025】
実施例MM2:動物系統
[097] 雄性C57Bl/6J WTマウス(カタログ番号000664)およびOPN KOマウス(B6.Cg−Spp1tm2blh/J、カタログ番号004936)を、ジャクソン・ラボラトリーズ社から購入した。このOPN KOマウス系は、>10世代、C57Bl/6J背景に戻し交配されている。マウス食餌は以下のとおりであった:通常飼料食餌(脂肪から12%kcal;Purina5001、ラボダイエット(LabDiet)社)および高脂肪食餌(脂肪から41%kcal;TD96132、ハーラン・テクラド(Harlan Teklad)社)。マウスは、全試験において4〜6ヶ月齢であり、かつ、年齢を一致させた。雄性痩身ズッカー(fa/+)および脂肪質ズッカー(fa/fa)は、チャールズ・リバー社より購入した。痩身ラットには通常飼料を与え、脂肪質ラットには通常飼料、または10mg/kg/日のピオグリタゾンを送達する用量を添加された通常試料を3週間与えた。すべてのラットは、代謝試験終了および組織回収時に9週齢であった。すべての動物を、光(12:12の光:暗)および天候条件の制御下で、1ケージにつき1〜3例収容した。動物は、食物および水に無制限にアクセスした。
[098] すべての手順は、国立衛生研究所の「Guide for Care and Use of Laboratory Animals」にしたがって実施され、そして、カリフォルニア大学サンディエゴ校の実験動物委員会(Animal Subjects Committee)により承認された。
【0026】
実施例MM3:ラットにおけるin vivo代謝試験
[099] インスリン感受性を、高インスリン正常血糖クランプにより、先に公表されたように(Hevener,ALら、2001年、Diabetes 50, 2316-2322)測定した。グルコース(50%ブドウ糖;アボット・ラボラトリーズ)の可変注入は、トレーサー(0.16μCi/分)およびインスリン(25mU/kg/分、ノブリンR;ノボノルディスク社、コペンハーゲン)の注入とともに用いられた。クランプ手順終了時に、致死量のペントバルビタールナトリウム注射(100mg/kg;ネンブタール;アボット・ラボラトリーズ)を動物に投与した。血漿中グルコース特異的活性を、水酸化バリウムおよび硫酸亜鉛で除タンパク質を行った後に測定した(Revers,RR、1984年、J Clin Invest 73, 664-672)。肝グルコース生産(HGO)およびグルコース処理率(GDR)を、ベース期間およびグルコースクランプの定常状態部分について、定常状態条件に関するスティール方程式を用いて計算した(Steele R. Influences of glucose loading and of injected insulin on hepatic glucose output. Ann N Y Acad Sci 82:420-430年、1959年)。高インスリン正常血糖クランプ試験を行わなかった、同じであるラット群を、脂肪組織分析に用いた。これらのラットから得た組織を、致死量の注射後に切除し、液体窒素中で直ちに瞬間冷凍し、そして、続いて行うin vitro分析用に−80℃で保管した。
【0027】
実施例MM4:マウスにおけるin vivo代謝試験
[100] インスリン感受性を、先に記載した最大下高インスリン正常血糖グルコースクランプ技術(46)を以下のように改変して用い、評価した:1)イソフルランを麻酔剤に用いた、2)グルコーストレーサーを、2μCi/時間で注入した、および、3)インスリンを3mU/kg/分で注入した。動物を、回復させた。4日後に、マウスを5時間絶食させ、そして次いで、麻酔(イソフルラン)して血液を回収し(心穿刺)、そして次いで、屠殺(ペントバルビタール)して腓腹筋、肝臓、精巣上体および鼠径部脂肪を回収した。各組織試料の半分を液体窒素中で瞬間冷凍し、そして、半分をZn−ホルマリン中で固定した。血漿中グルコース特異的活性、GDRおよびHGOを、上述のように計算した。急性インスリン刺激を、6時間絶食させたマウスに0.85U/kgのインスリンを腹腔内注射することにより、成し遂げた。15分後に、上記のように組織を回収した。
【0028】
実施例MM5:血漿および組織の分析
[101] 血漿中インスリンは、ラジオイムノアッセイキット(Lincoリサーチ社、セント・チャールズ、ミズーリ州)により測定した。血漿中FFAレベルは、市販のキット(NEFA C;和光ケミカル社、米国)を用いて、酵素的に測定した。トリグリセリド類は、トリグリセリド−SLアッセイ(ダイアグノスティック・ケミカルズLtd)を用いて測定した。コレステロールは、Cholキットおよびロシュ/日立アナライザー(ロシュ社)を用いて測定した。組織ライセートは、SDS−PAGE、ウェスタンブロッティングおよび化学発光、ならびにELISAにより、分析した。化学発光オートラジオグラフのシグナル強度は、デジタル・コダック3Dイメージステーションおよび付随するデジタルイメージ解析ソフトウェア(コダック社、ニューヘイブン、コネチカット州)を用いて、デンシトメトリーにより定量した。血漿中および組織ライセート中のIL−1β、IL−12p70、IFNγ、IL−6、IL−10、Cxcl1およびTNFαレベルは、マルチプレックス(7プレックス)ELISA(メソ・スケール・ディスカバリー社)を用いて測定した。
【0029】
実施例MM6:組織学的試験
[102] 切除した脂肪体を、直ちにZn−ホルマリン中で一晩固定し、70%エタノールへ移し、そしてそれに続き、パラフィン包理した。ヘマトキシリンおよびエオシン染色したパラフィン切片を、細胞の大きさを測定するため、先に記載されたように(Miles,PDら、2000年、J Clin Invest 105, 287-292)用いた。組織切片のすべてのデジタル像を、同じ顕微鏡拡大率を用いて捉えた。非脂肪細胞物質がわずかである顕微鏡視野を、1視野あたりの細胞数を定量するために選択した。選択したものの中の非脂肪細胞物質に、マウス群間で明白な差はなかった。各群の5例のマウスより、1マウス脂肪体につき3つの視野を捉えた。切片像を可視化し、そして、1視野像あたりの細胞を、ImageJソフトウェア(NIHフリーウェア)を用いてカウントした。脂肪細胞の大きさは、1視野あたりの脂肪細胞数の逆数によって表される。免疫組織化学的検査を、Mac−2抗体(セダーレーン・ラボラトリーズLtd.、ホーンビー、オンタリオ州、カナダ)を用いて実施し、マクロファージを同定した。
【0030】
実施例MM7:プラスチック付着性骨髄間質細胞(BMSC)の単離および分化
[103] 示したマウス群から得た大腿骨を、1%FCS含有DMEM低グルコース培地で洗い流した。洗浄された大腿骨由来細胞を、続いて、500xgにて10分間遠心分離し、そして、1%グルタミン(w/v)、100U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシンおよび10% FCSを添加されたベース間葉系幹細胞(MSC)培地(Cambrex、ウォーカーズビル、メリーランド州)中で14日間培養した。培養BMSCの分化を、先に記載されたもの(Sciaudone,Mら、2003年、Endocrinology 144, 5631-5639;Sekiya,Iら、2004年、J Bone Miner Res 19, 256-264)をわずかに改変して実施した。脂肪生成分化に関しては、BMSCを0.5μMデキサメタゾン、50μMインドメタシンおよび0.5mM IBMXを加えたMSC培地に単層に蒔いた。細胞を示した日数生育させ、そして、培地を3日毎に交換した。骨形成分化に関しては、BMSCを10% FCS、0.5UMデキサメタゾン、50Ug/mlアスコルビン酸、10mM β−グリセロホスフェート含有αMEM培地に単層に蒔き、そして、上記のように生育させた。
【0031】
実施例MM8:RNAの単離および定量
[104] 全RNAを、トリゾール(Trizol)(インビトロジェン社)を用いてヒト脂肪組織およびBMSCから、そして、RNeasy Lipid Tissueキット(キアゲン社)を用いてラット脂肪から単離した。ヒトおよびラット脂肪のRNA定量:ワンステップ定量的リアルタイムPCRを、10ngのヒトもしくはラットRNAで実施した。用いたプライマーおよびプローブは、以下のとおりであった:ヒトOPN:順方向、5’− AGTTTCGCAGACCTGACATCCAGT−3’ 配列番号1;逆方向、5’−TTCATAACTGTCCTTCCCACGGCT−3’ 配列番号2;プローブ、5’FAM TGGAAAGCGAGGAGTTGAATGGTGCA−TAMRA−3’ 配列番号3;ラットOPN:順方向、5’−TATCAAGGTCATCCCAGTTGCCCA−3’ 配列番号4;逆方向、5’−ATCCAGCTGACTTGACTCATGGCT−3’ 配列番号5;プローブ、5’−FAM−TCTGATCAGGACAGCAACGGGAAGA−TAMRA−3’ 配列番号6。反応を、7900リアルタイムPCRシステム(アプライド・バイオシステムズ社)で、400nMの順方向および逆方向プライマー、200nMのプローブ、1x iScript逆転写酵素および1X iTaq RTPCR−マスターミックス(バイオ・ラッド社)を含有する20UIの最終容量にて行った。反応は、トリプリケートにて行った。サイクリングパラメータは、以下のとおりであった:50℃10分間および95℃5分間に続いて、95℃10秒間および60℃30秒間を40サイクル。絶対量測定は、ヒトもしくはラットのユニバーサル・リファレンスRNA標準品(ストラタジーン社)を用いて構築されたOPN標準曲線と比較することにより、成し遂げた。標準曲線は、少なくとも0.99のr2値を有した。加えて、GAPDH発現を用いて、試料の添加が等しいことを確認した。BMSCのRNA定量:BMSCから単離されたRNAを、逆転写酵素およびdNTPを用いてcDNAに変換した。qPCRに関しては、特定の逆転写反応液(上記)から得たcDNAの25倍希釈1μLを、ライトサイクラー2.0(ロシュ・ダイアグノスティクス社、インディアナポリス、インディアナ州)中0.5μMの各プライマーを加えた、ライトサイクラー・ファストスタートDNAマスタープラスSYBRグリーンIキット(ロシュ・ダイアグノスティクス社、インディアナポリス、インディアナ州)を用いて増幅させた。増幅に続き、標的遺伝子および参照GAPDHの単色相対的定量解析を行って、製造業者のライトサイクラー・ソフトウェア(バージョン4.0)により、正規化された標的遺伝子/GAPDH mRNA複製比を決定した。以下のプライマーを用いた:マウスGAPDH:順方向 5’−CATCCCAGAGCTGAACG−3’ 配列番号7;逆方向 5’−CTGGTCCTCAGTGTAGCC−3’ 配列番号8;マウスOSX:順方向 5’−CTCTCTTTGTCAAGAGTCTTAGC−3’ 配列番号9;逆方向 5’−AGAAAGATTAGATGGCAACGAGTTA−3’ 配列番号10;マウスPPARγ:順方向:5’−AGAGTCTGCTGATCTGCG−3’配列番号11;逆方向 5’−TCCCATCATTAAGGAATTCATGTCGTA−3’ 配列番号12;マウスAkap2:順方向 5’−AGACACAAGCATTCCCACTAT−3’ 配列番号13;逆方向 5’−CACCATCTCGGAGACCG−3’ 配列番号14。すべてのプライマーは、ライトサイクラー・プローブ・デザイン・ソフトウェア2.0を用いて設計された。
【0032】
実施例MM9:統計学的解析
[105] スチューデントt検定およびANOVAを、統計学的解析に用いた。相関のP値は、両側ピアソン相関係数を用いた線形相関解析(グラフパッド・プリズム)を用いて決定した。0.05のp値カットオフを用いて、統計学的検定後の有意性を決定した。
[106] 本明細書に記載した実施例および実施態様が単に例示的な目的のためであること、ならびに、それを考慮した種々の改変もしくは変更が当業者に提案されるであろうし、かつ本出願の精神および範囲内に含まれるべきであることが、理解される。本明細書に引用したすべての出版物、特許および特許出願は、各個々の出版物、特許または特許出願が参照によって非常に援用されていることが具体的かつ個々に示された場合と同程度に、すべての目的のために、その全体が参照によって本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン抵抗性である対象におけるインスリン感受性を増加させる方法であって、対象におけるオステオポンチン活性を減少させることを含んでなる、前記方法。
【請求項2】
前記対象がII型糖尿病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オステオポンチン活性がオステオポンチン阻害剤の投与によって減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
阻害剤が、抗体、抗体フラグメント、siRNAおよびアプタマーからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抗体がヒト抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
抗体がヒト化抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記対象におけるグルコースの細胞取込みを増加させることをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記対象の体液におけるサイトカイン減少を測定することをさらに含んでなり、ここで、サイトカインが、レプチン、IL−1β、IL−12p70、IFN−γ、IL−6、Cxcl1、IL−10およびTNF−αからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
対象における細胞によるグルコース取込みを増加させる方法であって、該対象にオステオポンチン阻害剤を投与することを含んでなる、前記方法。
【請求項11】
細胞が脂肪細胞またはその前駆体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
治療を必要とする対象におけるメタボリック症候群を治療する方法であって、該対象にオステオポンチン阻害剤を投与することを含んでなる、前記方法。
【請求項13】
前記メタボリック症候群が糖尿病である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記オステオポンチン阻害剤が、抗体、抗体フラグメント、siRNAまたはアプタマーである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体がヒト抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体がヒト化抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体が抗体フラグメントまたは誘導体である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
インスリン感受性、および筋肉もしくは肝細胞によるグルコース取込みを増加させる方法であって、筋肉または肝細胞それぞれにオステオポンチン阻害剤を投与することを含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−524961(P2010−524961A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504243(P2010−504243)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/060619
【国際公開番号】WO2008/131094
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(593141953)ファイザー・インク (302)
【出願人】(509287234)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (1)
【Fターム(参考)】