説明

グルコース消費量測定による細胞成長因子の活性評価方法

【課題】
従来、培養基材に含有された細胞成長因子の活性を測定するためには破壊的な方法しかなく、同じサンプルを用いて経時的に活性を測定することができなかった。本発明は、組織再生用基材に含まれる細胞成長因子の活性をin vitroで非破壊的にかつ、簡便に、しかも経時的に測定することが可能な新規な方法を提供するものである。
【解決手段】
本発明は細胞成長因子を含む組織再生用基材に細胞を播種し、一定期間培養後に、培養液中のグルコース消費量を測定することによって細胞成長因子の活性を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織再生用基材に含まれる細胞成長因子の活性を簡便に、かつ非破壊的に測定することができる新規な方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
受傷による皮膚欠損が広範囲にわたる場合、そのまま放置しておくと感染や生体内の水分の蒸発によって生命に関わる重篤な状態になることが多く、早期に皮膚欠損部を閉鎖する必要がある。皮膚組織の再生を促進させる方法としては、細胞成長因子、例えば塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)を吸着させた人工真皮材料を用いる治療方法がある。このような治療方法としては、例えばゼラチンとコラーゲンからなる組織再生用基材を生体に移植して生体内で擬似真皮組織を再生させる方法がある(特許文献1)。
【0003】
組織再生用基材に含有させた細胞成長因子の活性を測定する方法としては、動物の背部に作製した皮膚欠損層に該組織再生用基材を移植して所定期間後に組織切片を作製、周囲組織からの細胞の侵入や血管新生の度合いなどを評価する方法が一般的である。
【0004】
しかしながら、この方法では時間がかかる上に実験動物の個体差も大きく、定量的な評価が困難であるという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2007−68884
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、組織再生用基材に含まれる細胞成長因子の活性をin vitroにおいて、非破壊的にかつ、簡便に測定する新規な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は細胞成長因子を含む組織再生用基材に細胞を播種し、所定期間培養後に、培養液中のグルコース消費量を測定することによって細胞成長因子の活性を測定することを特徴とする。
【0008】
従来、細胞成長因子の評価方法としては細胞の増殖を指標としていた。例えば代表的なMTTアッセイ法は、細胞または細胞を含む組織再生用基材をMTT含有培養液中で一定時間(通常は3時間程度)培養する。そして、細胞質内に取り込まれたMTTは、ミトコンドリア内の脱水素酵素の働きによって水不溶性のMTTホルマザンに還元され、細胞内に蓄積される。すなわち、生きている細胞内でのみ青紫色のMTTホルマザン色素が生成することから、MTTホルマザン色素量を定量することによって、「細胞の成長」を判定するものである。
【0009】
この方法は操作が比較的簡便であり、かつ費用も安価であることから最も頻繁に利用されている方法の一つであるが、測定の際に細胞または細胞を含む組織再生用基材それ自体を使用する「破壊的」方法であるため、同一サンプルについて経時的変化を測定することは不可能であった。
【0010】
一方、細胞はその増殖や代謝機能維持のために栄養素を必要とする。本発明は、これら栄養素の中でグルコースに着目し、細胞を播種した細胞成長因子含有組織再生用基材を培養液中で培養し、培養液中のグルコース消費量を測定することによって、細胞成長因子の活性を「非破壊的」方法で評価することを目的としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述したように、細胞成長因子を含む組織再生用基材に細胞を播種し、一定期間培養後に培養液中の消費されたグルコース量を測定することによって、組織再生用基材に含まれる細胞成長因子の活性をin vitroで非破壊的にかつ、簡便に測定することが可能となるものである。すなわち、本発明に係る方法を用いることによってはじめて、同一サンプルについて組織再生用基材に含有される細胞成長因子の活性の経時的変化を評価することが可能になったものである。さらに、グルコースセンサーを用いることによって、培養液中のグルコース消費量を経時的に、しかも自動的に測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
(1)ゼラチン/コラーゲンスポンジの作製
ブタ腱由来I型コラーゲンとブタ皮膚由来ゼラチンとを混合して水溶液とした。コラーゲンとゼラチンの質量比は、100:0(コラーゲンスポンジ)および90:10(10%ゼラチン/コラーゲンスポンジ)とした。水溶液を型枠に流し込み、−40℃で凍結した。これを凍結乾燥した後、真空減圧下、110℃で24時間熱脱水架橋を加えた後、0.2%グルタルアルデヒド溶液に24時間浸漬することにより化学架橋を導入した。これを再び凍結乾燥してゼラチン/コラーゲンスポンジを得た。
【0014】
(2)bFGFとの複合化
48ウェル培養プレートに、前記(1)で作製したゼラチン/コラーゲンスポンジ(直径10mmに打ち抜いたもの)を敷き詰め、bFGFが5.5μg含浸するようbFGF水溶液55μLをスポンジに滴下し、4℃下で一晩放置することで、ゼラチン/コラーゲンスポンジにbFGFを複合化させた。
【0015】
(3)ヒト線維芽細胞の播種および培養
前記(2)で作製したbFGFを含浸させたゼラチン/コラーゲンスポンジにクロネティクス社から購入したヒト線維芽細胞をDME培地(血清不含)に懸濁し、このスポンジ上に3.5×10cellsを播種し、細胞が接着するまで37℃、5%CO雰囲気下で2時間培養した。その後、DME培地(血清不含、3.0mL)中に、このヒト線維芽細胞を播種したゼラチン/コラーゲンスポンジを浸漬し、さらに37℃、5%CO雰囲気下で3日間培養した。
【0016】
(4)MTT法による細胞数の測定
前記(3)で作製したヒト線維芽細胞を播種したゼラチン/コラーゲンスポンジ(培養0日目および3日目)を、0.5mg/mL濃度のMTT溶液(1.0mL)中で3時間培養した後、生細胞中に蓄積された青紫色のMTTホルマザンをイソプロパノール(4.0mL)にて抽出し、570nmの吸光度を測定した。
【0017】
(5)グルコース消費量の測定
前記(3)の方法でヒト線維芽細胞を播種したゼラチン/コラーゲンスポンジを3日間培養した際の培養液を回収し、市販のグルコース濃度測定用のキット(グルコースCII−テストワコー、和光純薬製)を用いて、グルコース消費量を測定した。
【0018】
(6)結果
上記の方法で得られた試験結果を図1および図2に示す。図1にはゼラチン/コラーゲンスポンジ中で繊維芽細胞を3日間培養したときの培養液中グルコース消費量を示す。図2にはゼラチン/コラーゲンスポンジ中で繊維芽細胞を培養したときの、繊維芽細胞数(培養0日目および3日目)を示した。
【0019】
図1に示すように、bFGFを含浸させることによって、コラーゲンスポンジおよび10%ゼラチン/コラーゲンスポンジともにグルコース消費量が増加していた。すなわち、bFGFの細胞成長活性によって播種された繊維芽細胞の代謝が増加していることがわかる。一方、図2に示すようにコラーゲンスポンジおよび10%ゼラチン/コラーゲンスポンジ中の繊維芽細胞の数は、コラーゲンスポンジおよび10%ゼラチン/コラーゲンスポンジの差異、ならびにbFGFの含浸の有無に関わらず変化が認められなかった。
【0020】
以上のことから、本発明に係る測定方法を利用することにより、細胞の数に影響されることなく組織再生基材に含有された細胞成長因子の活性を評価することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
組織再生基材に含有された細胞成長因子の非破壊的評価方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】培養液中のグルコース消費量(培養3日間)
【図2】組織再生基材に含有される繊維芽細胞数(培養0日目および3日目)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞成長因子を含有する組織再生用基材上に細胞を播種して培養液中で培養し、前記培養液中のグルコース消費量を測定することによって、非破壊的に前記組織再生用基材に含有されている細胞成長因子の活性を評価する方法。
【請求項2】
培養液中のグルコース消費量を経時的に自動計測することを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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