説明

グロープラグの通電制御装置及びその制御方法

【課題】省電力化を図りつつ低吸気温度時の運転を安定化する。
【解決手段】本発明のグロープラグ4の通電制御方法は、ディーゼルエンジンの始動後に、グロープラグ4への供給電力を制御してグロープラグの温度が設定された所定の目標温度となるようにアフターグローを行うグロープラグの通電制御方法である。グロープラグ4の温度抵抗特性を利用してグロープラグ4の温度を検出し、クランキング時の吸気に伴ってグロープラグ4の温度変化を検出することで、吸気温を検出することができる。そして、吸気温度Tinが低いときにアフターグローの目標温度を高く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロープラグの通電制御装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジンのグロープラグに関しては、エンジンの始動前の予熱(本書では、これを「予熱グロー」と呼ぶことがある)だけでなく、エンジンの始動後もグロープラグに通電して比較的高温に維持するアフターグローを実行することで、エンジンの振動や騒音の低減、排ガスのクリーン化を図ることが行われている。
【0003】
一方で、このアフターグローを実行すると電力の消費量が増大することになる。このため、電力消費を極力抑えるべく、例えば特許文献1に記載した技術では、エンジンの冷却水温を検出し、それが高くなるほどグロープラグへの通電時間(アフターグローの時間)を短くする制御方式が提案されている。
【特許文献1】特開昭63−5173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、エンジンの冷却水温がある程度高い状態になったとしても、冬場の極寒冷地などで外気温が例えば−40℃のような極めて低い状態では、吸気温度が低いためスワールによってグロープラグ表面が冷却されてしまうことがある。すると、上述したグロープラグの通電制御装置では、冷却水温が高くなるとグロープラグへの通電時間が短くされるため、グロープラグが低温となってアフターグローが適切に働かず、結局、アイドリングが安定しないことがあった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、アフターグローの省電力化を図りつつ、エンジンへの吸気温度が低い場合でも、エンジンの運転を安定化できるグロープラグの温度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグロープラグの通電制御方法は、ディーゼルエンジンの始動後に、グロープラグへの供給電力を制御してグロープラグの温度が設定された所定の目標温度となるようにアフターグローを行うグロープラグの通電制御方法において、ディーゼルエンジンへの吸気温度が低いときに前記目標温度を高く設定するところに特徴を有する。
【0007】
本発明によれば、エンジンへの吸気温度が低い場合には、グロープラグ温度の目標温度を高く設定するから、スワールによってグロープラグから熱が奪われてもエンジン内の温度を高く維持できてエンジンの安定的運転に寄与する。
【0008】
ここで、ディーゼルエンジンの吸気温度は、ディーゼルエンジンの始動前のグロープラグの予熱温度と、ディーゼルエンジンの始動に伴う吸気動作によって変化したグロープラグの始動後温度とに基づいて算出することができる。
【0009】
本発明のグロープラグの通電制御装置は、ディーゼルエンジンの始動後にグロープラグに電力を供給してアフターグローを行うグロープラグの通電制御装置であって、グロープラグの温度を検出するグロープラグ温度検出手段と、グロープラグへの通電路に設けられグロープラグ温度検出手段によって検出される温度が設定された所定の目標温度となるようにグロープラグへの供給電力を制御する電力制御手段と、ディーゼルエンジンへの吸気温度を検出する吸気温検出手段と、この吸気温検出手段からの信号に基づき吸気温度が高いほど電力制御手段における目標温度を低く設定し、吸気温度が低いほど目標温度を高く設定する目標温度設定手段とを備えるところに特徴を有する。
【0010】
上記グロープラグの通電制御装置において、前記グロープラグ温度検出手段は、グロープラグの通電時の抵抗を測定する抵抗測定手段を備え、グロープラグが有する抵抗発熱体の温度−抵抗特性に基づいてグロープラグの温度を検出する構成とできる。
【0011】
この構成とすると、グロープラグの温度をグロープラグ自体が有する抵抗発熱体を利用して測定することができるから、グロープラグの温度を測定するための専用の温度センサーを別個に設ける必要がない。
【0012】
また、吸気温検出手段は、グロープラグ温度検出手段によって測定された、ディーゼルエンジンの始動前のグロープラグの予熱温度と、ディーゼルエンジンの始動に伴う吸気動作によって変化したグロープラグの始動後温度とに基づいて吸気温度を検出する構成とすることができる。
【0013】
グロープラグを所定温度に予熱してディーゼルエンジンを始動させた後でも、吸気温度が低ければ低いほど、シリンダ内のスワールの影響によってグロープラグからより多くの熱が奪われ、その温度がより低下する。このことは、グロープラグのエンジン始動後の温度変化を観察すると、吸気温度が推定できることを意味する。そこで、上記構成はでは、エンジンの始動後の吸気動作によって変化したグロープラグの始動後温度に基づいて吸気温度を検出することとした。一般に、吸気温度を検出するには、エンジンへの吸気経路に吸気温度センサを設けることにより可能になるが、上記の構成とすると、吸気温度センサを設けることなく、グロープラグ自体を利用して吸気温度を検出することができるので、構成が簡単になる。
【0014】
さらに、前記吸気温検出手段は、予熱温度とディーゼルエンジンが始動してから所定時間が経過したときにおける始動後温度との温度差を求める始動後温度差算出手段と、予め求めた複数の吸気温度と前記温度差との関係をテーブル化して記憶する記憶手段と、始動後温度差算出手段によって算出した温度差に応じて記憶手段に記憶したテーブルから吸気温度を読み出す読み取り手段とを備える構成とすることができる。
【0015】
このようにすると演算処理が簡単になるから、高速処理が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アフターグローの省電力化とエンジンの運転の安定化を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
1.全体構成
本実施形態では、例えば4気筒のディーゼルエンジン(以下「エンジン」という)に適用されるグロープラグ通電制御装置1を例に説明する。
【0018】
図1に図示するようにグロープラグ通電制御装置1にはEFI-ECU(Engine Fuel Injection Electronic Control Unit)2、車両に搭載されて直流電源として機能するバッテリ3、4本のグロープラグ4が接続されている。図示はしないがグロープラグ4は、金属外筒の中に抵抗発熱体を収容してなる周知の構造で、エンジンの各気筒にそれぞれ設置されている。
【0019】
EFI−ECU2はエンジンの各部を制御する制御コンピュータである。EFI−ECU2は、イグニッションスイッチIGがオンにされてエンジンを始動するとき、グロープラグ通電制御装置1に通電指令を出力する。EFI−ECU2にはエンジンの運転状態を把握するための各種センサが接続されている。
【0020】
グロープラグ通電制御装置1は、CPU21を備えた制御部20、FET31を備えたスイッチング部30、逆接続保護回路40を備える。
【0021】
制御部20は、後述する作用説明から明らかなように、本発明における「グロープラグ温度検出手段」、「電力制御手段」、「吸気温検出手段」及び「目標温度設定手段」として機能し、CPU21の他、各種のプログラムやデータを記憶しているROM22、RAM23などを備えている。
【0022】
スイッチング部30は、本発明における「電力制御手段」の一部を構成するもので、パワーMOSFETなどからなるFET31の他、このFET31のソース電圧を検出する電圧測定回路、センスFETによって構成されてメインFETであるFET31のソース電流を検出する電流検出回路等を備え、過熱・過電流・過電圧等の保護機能と負荷短絡・オープン時の診断機能を有するいわゆるIPS(Intelligent Power Device)により構成されている。
【0023】
逆接保護回路40は電源側がバッテリ3の+B端子に接続されている。逆接保護回路40の負荷側では回路が4分岐し、それぞれスイッチング部30を介して前記グロープラグ4に接続されている。逆接保護回路40はPチャンネルのMOSFET41を備えると共に、ゲートが抵抗42を介して接地され、ゲート−ソース間に互いに逆方向接続したツエナーダイオード43,44が接続され、ドレイン−ソース間にはボディダイオード45が順方向に並列接続された状態になっている。これにより、万一、バッテリー3が逆方向の極性で接続されてしまったときには、MOSFET41及びボディダイオード45がオフ状態を維持するから、グロープラグ4に電流が流れることが防止される。
【0024】
2.制御の態様
[1]グロープラグの温度測定原理
一般に、グロープラグ4の抵抗発熱体の温度T[℃]とその抵抗値R[Ω]との関係、すなわち温度−抵抗特性は、グロープラグの抵抗発熱体の抵抗温度係数をk(材料に応じた固有の値である)、0℃のときの抵抗値をR0 とすると、以下の一次式で近似することができる。
【0025】
R=R0 (1+kT) ……式(1)
従って、目標温度をTpとすると、そのときの抵抗値(目標抵抗値Rp )は次式(2)によって示される値となるから、グロープラグの抵抗値が目標抵抗値Rp となるように通電を制御すれば、そのときにグロープラグの抵抗発熱体の温度は目標温度Tpとなっていることになる。
【0026】
Rp =R0 (1+kTp) ……式(2)
なお、グロープラグ4には抵抗発熱体の断面積や長さなどについて製造誤差があるため、同一温度でもその抵抗値はグロープラグ4間でばらつく。このため、同一の抵抗値に達したとしても、各グロープラグ4の温度は必ずしも同一ではない。したがって、全てのグロープラグ4に同一の目標抵抗値Rp を設定してしまうと、グロープラグ4によってはその抵抗値が目標抵抗値Rp に達したとしても、その温度が目標温度Tpとは異なる可能性がある。
【0027】
そこで、本実施例では、各グロープラグ4について、その温度が目標温度Tpとなる抵抗値を当該グロープラグに固有の目標抵抗値Rp として設定し、それぞれ各固有の目標抵抗値Rp に達したときにグロープラグ4を個別に断電することとしている。これにより、全てのグロープラグ4について同一の目標温度Tpに温度制御することができる。
【0028】
ところで、上式(1)においてR0 (0℃における抵抗値)は上述したように製造誤差によってばらつきグロープラグ4によって異なるから、式(1)に基づいてグロープラグ4の抵抗値と温度との関係を求めるには、各グロープラグ4毎に判っている必要がある。そのためには、各グロープラグ4に関して、ある特定の温度(初期温度Tini )における抵抗値Rini を測定し、T=Tini ,R=Rini を式(1)に代入することで、R0 を求めることができる。
【0029】
この場合、本実施形態ではグロープラグ4には温度を測定するための温度センサが設けられていないので、グロープラグ4の初期温度Tini を直接測定することはできない。しかし、エンジンがある程度の長い期間停止していた場合には、グロープラグ4に通電する前であれば、全てのグロープラグ4の温度は、冷却水、シリンダブロックなどの温度とほぼ等しくなっていると見なすことができる。
【0030】
そこで、本実施形態では、エンジンをある程度の長い期間停止していた後に始動する場合であって、グロープラグ4への予熱通電前に、冷却水温度を測定する温度センサからの信号に基づいてグロープラグ4の初期温度Tini (冷却水温度)を読み取ると共に、そのときの抵抗値Rini を測定し、これらに基づいてR0 を算出する。R0 が判れば、グロープラグ4の抵抗発熱体の抵抗温度係数kは既知であるから、これらを用いて式(1)により、グロープラグ4の抵抗からその温度を知ることができる。このようにすると、グロープラグ4の温度を測定するための温度センサを別途備える必要がなくなる。
【0031】
[2]グロープラグ温度検出手段における変数の初期化
以上の原理に基づき、本実施形態では、グロープラグ温度検出手段が次のようにして各グロープラグ4の温度を検出するための準備動作を行う。
本実施形態のグロープラグ温度検出手段はグロープラグの通電時の抵抗を測定する抵抗測定手段を備える。その抵抗測定手段は、スイッチング部30における、FET31のソース電圧を測定する電圧測定回路、センスFETによって構成されてFET31のソース電流を測定する電流測定回路及びそれらの回路からの信号を受けて、グロープラグ4への通電時における電圧値を電流値で除した値(抵抗値)を演算するCPU21により構成されている。
【0032】
グロープラグ通電制御装置1の制御部20がEFI−ECU2からエンジン始動のための予熱指令を受けると、制御部20は図2に示す予熱制御を開始するが、まずエンジンブロックの温度とグロープラグ4の温度とがほぼ等しくなっていると見なせる程度の長時間にわたってエンジンが停止していた場合には、制御部20は図3に示すような変数の初期化動作を行う(ステップS101)。なお、エンジン停止からの時間が短く、冷却水温度とグロープラグ温度とが一致していないような場合には、この初期化動作は省略され、前回の値が利用される。
【0033】
まず、制御部20は1本のグロープラグ4への短時間通電を行う(ステップS111)。これは、残り3本のグロープラグ4については断電したまま、スイッチング部30のFET31を例えば2ミリ秒などの短時間だけオン状態にすることにより行う。その時のFET31のソース電流、ソース電圧はそれぞれスイッチング部30の電流測定回路及び電圧測定回路によって測定され、これに基づき初期抵抗値Rini が算出される(ステップS112)。一方、その時点での冷却水温度がEFI−ECU2から取得され、これがグロープラグ4の初期温度Tini とみなされる(ステップS113)。これらに基づき、上記式(1)においてR=Rint ,T=Tini とおいて、そのグロープラグ4の発熱抵抗体の抵抗値R0 を算出し、その具体的な値を式(1)のR0 に代入して初期化を行う(ステップS114)。
なお、これらの処理は4本全てのグロープラグ4について各抵抗値R0 を求めるまで繰り返してリターンするが、本実施形態の場合、初期温度Tini は全て同一の値を使用している。
【0034】
[3]予熱グローにおける通電制御
変数の初期化動作が終わると、予めRAM23に記憶されている予熱グロー時の目標温度に対応する各グロープラグ4の目標温度Ttaと、抵抗温度係数kが読み出され(ステップS102)、これと上述の通りに設定された抵抗値R0 に基づいて目標温度Ttaに対応する各グロープラグ4の目標抵抗値Rp を算出し、RAM23に格納する(ステップS103)。なお、本実施形態では、各グロープラグ4の目標温度Ttaは各気筒について同一の温度としているが、これは気筒毎に異ならせるようにしてもよい。
【0035】
次に、制御部20は全てのスイッチング部30のFET31をオン状態にして各グロープラグ4に通電してこれを発熱させる(ステップS104)。同時に、制御部20はグロープラグ4に流れる電流(FET31のソース電流)を電流検出回路により検出するとともに、グロープラグ4に印加される電圧を電圧検出回路によって検出し、検出した電圧値を対応する電流値で除算することにより、通電中のグロープラグ4の抵抗値Rをそれぞれ測定する(ステップS105)。
【0036】
そして、制御部20は各グロープラグ4について、測定した抵抗値Rが当該グロープラグ4に固有の目標抵抗値Rp に達したか否かを判定し(ステップS106)、その目標抵抗値Rp に達するまで通電を維持し、目標抵抗値Rp に達したグロープラグ4については制御部20はそのグロープラグに対応するFET31をオフ状態にして当該グロープラグ4への通電を終了し、個別に温度維持制御に移行する。
【0037】
ここで温度維持制御とは、気筒内の温度を一定範囲に維持するために行うグロープラグ4への通電制御であり、グロープラグ4が常に目標抵抗値Rp を維持するように、例えばFET31を所要のデューティー比でオンさせる。
各グロープラグ4の発熱抵抗体が目標抵抗値Rp に達していることは、その温度、ひいてはグロープラグ4の表面温度が目標温度Ttaに到達したことを意味しているから、ここでエンジンのクランキングを行うことで、エンジンを始動させることができる。運転者がクランキングの開始操作を行うと、図4に示すアフターグローにおける通電制御に移行する。この通電制御の説明に先立ち、本実施形態における吸気温度の測定原理について説明する。
【0038】
[4]吸気温度の測定原理
エンジンの始動のために数回のクランキングが行われると、気筒内に外気が導入されるため、所定の目標温度Ttaに維持されていたグロープラグ4が冷却され、グロープラグ4はその抵抗発熱体の抵抗温度係数に従って抵抗値が変化する。このとき、どの程度の値だけ抵抗値が変化するか、すなわちどの程度温度が低下するかは、導入される外気の温度に依存する。
【0039】
従って、エンジン中のグロープラグ4を所定の温度となるように予熱グローを行った状態で、様々な温度の空気を気筒内に導入し、その時のグロープラグ4の温度変化(抵抗変化)を予め測定しておけば、吸気温度を推定することができる。図5には、予熱グローを行ってグロープラグ4を所定の目標温度に維持した状態で、様々な温度の冷気を気筒内に導入した場合のグロープラグ4の温度変化を測定した結果をグラフ化して示してある。これによれば、クランキングを開始してから最低数秒後の温度を測定することで、吸気温度の相違を識別できることが判る。
【0040】
そこで、本実施形態では、この実験結果を予めデータテーブル化しておき、クランキング開始から所定時間経過後のグロープラグ4の温度を測定し、その温度差に基づいて吸気温度を検出することとしている。
【0041】
そのための吸気温検出手段の具体的な構成としては、クランキング後温度差算出手段と、EPROM等の記憶手段(図示せず)と、読み取り手段とを備える。クランキング後温度差算出手段は制御部20に含まれるCPU21により構成され、グロープラグ4の予熱温度(即ち予熱グローの制御時に設定した「目標温度Tta」に相当する)と、エンジンのクランキングを開始してから所定時間が経過したときのクランキング後温度との温度差を求める。記憶手段には、吸気温度とグロープラグの温度低下量との関係がテーブル化されて記憶されている。このデータテーブルは、予熱グローを行ったエンジン内に予め温度が異なる複数種の空気をクランキングによって導入し、クランキング開始から所定時間経過後のグロープラグ4の温度低下量をグロープラグ温度検出手段によって検出することで得たものである。また、読み取り手段は、制御部20に含まれるCPU21により構成され、グロープラグ温度検出手段によって検出した温度低下量を求めることで、上記データテーブル内のその温度低下量に対応する吸気温度の値を読み出す機能を有する。
【0042】
[5]アフターグローにおける通電制御
アフターグローは、エンジンが始動した後においてもグロープラグ4に通電して、その温度を高く維持しておくことをいう。このアフターグローを行う場合のグロープラグ4の通電制御は、グロープラグ4が常にある目標温度Ttaを維持するようにFET31を所要のデューティー比でオンさせることにより行うのであり、グロープラグ温度検出手段によって検出されたグロープラグ4の実際の温度と、目標温度Ttaとを比較し、その実際の温度が目標温度Ttaよりも低い場合には通電のデューティー比を大きくし、実際の温度が目標温度Ttaに到達した場合にはデューティー比を小さくまたはグロープラグ4を断電する。
【0043】
本実施形態ではアフターグローを行う場合、上記の目標温度Ttaは次のようにして設定される。
すなわち、グロープラグ4が予熱グローの目標温度Ttaに到達し、運転者がクランキングの開始操作を行うと、まず、アフターグローの目標温度Ttaとして標準の目標温度Tstが設定される(ステップS121)。そして、クランキングを開始してから所定時間(例えば数秒以内であって燃料の着火前)が経過したところで、グロープラグ温度検出手段によってグロープラグ4の温度を測定し(ステップS122)、その温度と目標温度Ttaとの温度差を算出する(ステップS123)。そして、その値に基づいて、記憶手段に記録してあるその温度差に対応する吸気温度Tinを読み取る(ステップS124)。これにより吸気温度Tinがグロープラグの温度変化から推定されたことになる。
【0044】
この後、その吸気温度Tinが予め定めてある基準温度Tref に比べて低いか否かが判断され(ステップS125)、高い場合(「N」の場合)には目標温度Ttaの変更を行わないが(ステップS126)、低い場合(「Y」の場合)には、変更後の目標温度Ttaとしてその時点の目標温度Tta(標準の目標温度Tst)に所定値ΔTだけ加えたものを再設定し(ステップS127)、その後、その目標温度Tta(=Tta+ΔT)に基づいてアフターグローにおけるグロープラグ4の通電が制御される。ここでは制御部20のCPU21が目標温度設定手段として機能している。
【0045】
従って、本実施形態によれば、極寒冷地においてエンジンが始動され非常に低い温度の外気が気筒内に吸引されるような事態が生じた場合には、吸気温度Tinが基準温度Tref よりも低いときに、アフターグローの通電制御におけるグロープラグ4の目標温度を高く設定するから、グロープラグ4の抵抗発熱体の温度は通常よりも高く維持される。この結果、始動後のいわゆるスワールによってグロープラグ4の表面から通常よりも多くの熱が奪われる場合であっても、グロープラグ4の温度低下を抑制することができ、エンジンを安定的に運転することができる。
【0046】
また、エンジンへの吸気温度Tinが基準温度Tref よりも高い場合(ステップS125にて「N」)には、アフターグローの目標温度Ttaは標準的な目標温度Tstのままであるから、無駄にグロープラグ4を加熱することがなく、アフターグローのための消費電力を削減することができる。このようにグロープラグ4の目標温度Ttaが低くしても、吸気温度Tinが高ければスワールによるグロープラグの冷却が少ないないからエンジンは安定的に運転できる。
【0047】
また、本実施形態では、グロープラグ4の温度をグロープラグ4自体が有する抵抗発熱体を利用して測定するグロープラグ温度検出手段を設けたから、グロープラグ4の温度を測定するための温度センサーを別個に設ける必要がない。さらに、吸気温度Tinを検出する吸気温検出手段も、グロープラグ温度検出手段を利用し、クランキングに伴うグロープラグの温度変化に基づき吸気温度Tinを検出する構成としたから、やはり吸気温度Tinを測定するための温度センサーを別個に設ける必要がなく、構成が簡単になる。
【0048】
なお、本実施形態のグローブラグ温度検出手段では、エンジンをある程度の長い期間停止していた後に始動する場合に、グロープラグ4の抵抗値を測定して変数R0 をその都度初期化することとしている。このため、グロープラグ4の抵抗発熱体が経年劣化によって抵抗温度特性が変化してしまっても、それに追従して正しく通電制御を行うことができるようになる。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
(1)前記実施形態では、吸気温検出手段を、クランキング時のグロープラグ4の温度変化を利用して吸気温を検出する構成としたが、これに限らず、エンジンへの吸気経路のいずれかの場所に温度センサを設け、その温度センサによって吸気温を直接的に測定してもよい。
【0051】
(2)上記実施形態では、検出された吸気温度Tinが基準温度Tref よりも低いときに、アフターグロー温度の目標温度をΔTだけ高くする構成としたが、このように温度の閾値を1つだけ設けるに限らず、温度の閾値を複数設けて、目標温度を3以上に異ならせるようにしてもよい。また、吸気温度Tinと目標温度Ttaとの関係を特定の関数(直線的関係を含む)によって記述できるようにしておき、検出された吸気温度Tinに応じて目標温度Ttaを決定するようにしてもよく、要するに、吸気温度Tinが低いほど目標温度Ttaを高く設定するようにしておけばよい。
【0052】
(3)上記実施形態では、クランキング時のグロープラグ4の温度変化に基づいて吸気温度Tinを検出し、それが基準温度Tref よりも低いか否かを判断するようにしたが、クランキング時のグロープラグ4の温度変化に基づく抵抗値変化を検出し、その抵抗値変化を基準値と比較し、抵抗値変化が基準値よりも大きい場合にはアフターグロー時の目標温度を温度が高くなる方向に変更させればよい。グロープラグ4の抵抗発熱体は所定の温度抵抗特性を有しているのであるから、抵抗変化が大きい場合には吸気温度が低いことを意味するからである。
【0053】
(4)上記実施形態では、吸気温度Tinを取得するに当たり、エンジンをクランキングして燃料の着火前におけるグロープラグ4の温度変化を利用するようにしたが、これに限らず、燃料の着火後のエンジンのアイドリング時におけるグロープラグの温度変化を測定して吸気温度を取得することもできる。アイドリング時の燃料消費、ひいては気筒内の発熱量はほぼ一定であるから、極低温の空気の吸気に伴ってアイドリング時にグロープラグ温度がどの程度低下するかは、やはり吸気する空気温度に依存し、それを実験的に把握することもできるからである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るグロープラグの通電制御装置のブロック図
【図2】予熱グローの温度制御を示すフローチャート
【図3】変数の初期化ルーチンを示すフローチャート
【図4】アフターグローの温度制御を示すフローチャート
【図5】各種の吸気温度においてエンジンをクランキングした場合におけるグロープラグ4の温度変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0055】
4…グロープラグ
20…制御部(グロープラグ温度検出手段、吸気温検出手段、目標温度設定手段)
30…スイッチング部(電力制御部)
40…逆接保護回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの始動後にグロープラグに電力を供給してアフターグローを行うグロープラグの通電制御装置であって、前記グロープラグの温度を検出するグロープラグ温度検出手段と、前記グロープラグへの通電路に設けられ前記グロープラグ温度検出手段によって検出される温度が設定された所定の目標温度となるように前記グロープラグへの供給電力を制御する電力制御手段と、前記ディーゼルエンジンへの吸気温度を検出する吸気温検出手段と、この吸気温検出手段からの信号に基づき前記吸気温度が低いほど前記目標温度を高く設定する目標温度設定手段とを備えるグロープラグの通電制御装置。
【請求項2】
前記グロープラグ温度検出手段は、前記グロープラグの通電時の抵抗を測定する抵抗測定手段を備え、前記グロープラグが有する抵抗発熱体の温度−抵抗特性に基づいて前記グロープラグの温度を検出するものである請求項1記載のグロープラグの通電制御装置。
【請求項3】
前記吸気温検出手段は、前記グロープラグ温度検出手段によって測定された、前記ディーゼルエンジンのクランキング前の前記グロープラグの予熱温度と、前記ディーゼルエンジンのクランキングに伴う吸気動作によって変化した前記グロープラグのクランキング後温度とに基づいて前記吸気温度を検出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のグロープラグの通電制御装置。
【請求項4】
前記吸気温検出手段は、前記予熱温度と前記ディーゼルエンジンのクランキングを開始してから所定時間が経過したときにおける前記クランキング後温度との温度差を求めるクランキング後温度差算出手段と、予め求めた複数の吸気温度と前記温度差との関係をテーブル化して記憶する記憶手段と、前記クランキング後温度差算出手段によって算出した温度差に応じて前記記憶手段に記憶したテーブルから前記吸気温度を読み出す読み取り手段とを備える請求項3記載のグロープラグの通電制御装置。
【請求項5】
ディーゼルエンジンの始動後に、グロープラグへの供給電力を制御して前記グロープラグの温度が設定された所定の目標温度となるようにアフターグローを行うグロープラグの通電制御方法において、前記ディーゼルエンジンへの吸気温度が低いほど前記目標温度を高く設定するようにしたことを特徴とするグロープラグの通電制御方法。
【請求項6】
前記ディーゼルエンジンの吸気温度を、前記ディーゼルエンジンのクランキング前の前記グロープラグの予熱温度と、前記ディーゼルエンジンのクランキングに伴う吸気動作によって変化した前記グロープラグのクランキング後温度とに基づいて算出することを特徴とする請求項5記載のグロープラグの通電制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−175116(P2010−175116A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16998(P2009−16998)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)