説明

グロープラグ先端温度推定方法及びグロープラグ駆動制御装置

【課題】グロープラグ先端の温度を、極力簡易に、しかも、精度良く推定可能とする。
【解決手段】演算制御部23は、グロープラグ1の通電電流とグロープラグ1への印加電圧とに基づいて、グロープラグ1の抵抗値を演算算出し(S104)、抵抗値とグロープラグ1の電気的特性に基づいて予め定められ定数との乗算を行う一方、所定のヒーター基準点温度を入力し(S106)、ヒーター基準点温度から所定のオフセット演算式によりオフセットを算出し(S108)、そのオフセットにより、先の乗算結果を補正してグロープラグ1の先端の推定温度とするよう構成されたものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロープラグの先端温度の推定方法に係り、特に、内燃機関などに用いられるグロープラグの先端推定温度の簡易な方法による取得、また、その精度の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関に用いられるグロープラグの先端温度は、グロープラグ自体の通電状態を制御するパラメータとして重要な要素であることは従来から良く知られているところである。
このため、例えば、グロープラグの先端部に熱電対を内蔵し、先端部分の温度を直接取得可能にし、エンジン制御に供するようにした装置や、通電時のグロープラグの抵抗値からグロープラグの先端温度を推定する方法などが種々提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−336468号公報(第6−12頁、図1−図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、グロープラグの先端部に、温度検出のため熱電対を設ける上述のような構成にあっては、熱電対を固定する接着剤の耐熱温度が決して十分なものが無いことに加え、接着剤の熱膨張係数と熱電対の熱膨張係数の整合性が必ずしも良好ではないため、熱電対の断線や接着箇所からの剥離などの虞があり、堅牢さの点で万全とは言い難いという問題に加えて、グロープラグ自体として構成が複雑となり、高価格となるという問題もある。
また、従来のグロープラグの抵抗値からグロープラグの先端温度を推定する方法にあっては、エンジンの負荷や回転数に応じてグロープラグ周辺の伝熱環境が変化することによってグロープラグの抵抗値に少なからず影響を与えるため、推定精度は必ずしも十分ではないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、グロープラグの先端温度を、極力簡易に、しかも、精度良く推定可能なグロープラグ先端温度推定方法及びグロープラグ駆動制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るグロープラグ先端温度推定方法は、
実測されたグロープラグの抵抗値と、前記グロープラグの電気的特性に基づいて定められた定数との乗算結果を、所定のヒーター基準温度を基に求められたオフセットにより補正し、当該補正結果を前記グロープラグの先端推定温度とするよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るグロープラグ駆動制御装置は、
グロープラグの駆動制御を実行する演算制御部と、
前記演算制御部により実行されるグロープラグの駆動制御に応じて、前記グロープラグの通電を行う通電駆動回路とを具備してなるグロープラグ駆動制御装置であって、
前記演算制御部は、前記グロープラグの通電電流と前記グロープラグへの印加電圧とに基づいて、前記グロープラグの抵抗値を演算算出し、当該算出されたグロープラグの抵抗値と前記グロープラグの電気的特性に基づいて予め定められ定数との乗算を行う一方、
所定のヒーター基準点温度を入力し、前記ヒーター基準点温度から所定のオフセット演算式によりオフセットを算出し、当該オフセットにより前記乗算結果を補正して前記グロープラグの先端の推定温度を算出するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、グロープラグの実測の抵抗値と、グロープラグの先端部を除いた任意の部位の温度を用いて、グロープラグの先端部の温度を推定できるようにすることで、従来と異なり、簡易に、しかも、精度良くグロープラグの先端部の温度を推定でき、しかも、グロープラグの先端部に熱電対を設けるような構成を採る必要がないので、熱電対を接着する接着剤に高い耐熱性を考慮する必要がなく、コストの低減に寄与することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態におけるグロープラグ先端温度推定方法が適用されるグロープラグの一構成例を示す縦断面図である。
【図2】図2に示されたグロープラグを構成するセラミックヒータの構成例を模式的に示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるグロープラグ先端温度推定方法が適用されるグロープラグ駆動制御装置の構成例を示す構成図である。
【図4】図3に示されたグロープラグ駆動制御装置により実行されるグロープラグ先端温度推定処理の第1の例における手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図5】図3に示されたグロープラグ駆動制御装置により実行されるグロープラグ先端温度推定処理の第2の例における手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図6】グロープラグの概略構成を模式的に示す縦断面図である。
【図7】図6に示された構成のグロープラグにおける先端部からの距離と抵抗及び温度の関係を示す特性線図である。
【図8】図6に示された構成のグロープラグにおけるグロープラグ抵抗とグロープラグ先端温度との関係を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図8を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるグロープラグの構成例について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
図1及び図2に示されたグロープラグ1は、セラミックス型グロープラグの構成例であり、その基本的な構成は従来から知られているものと基本的に同一のものであり、以下、概略的に説明することとする。
【0010】
このグロープラグ1は、セラミックスヒータ2、金属製外筒3、電極取り出し線4、電極取り出しロッド5、及び、外部接続端子6が、ハウジング11内に挿入、固定されてなるものである(図1参照)。
本発明の実施の形態におけるセラミックスヒータ2は、薄膜型発熱体一層タイプと称される構成のものである。すなわち、セラミックスヒータ2は、セラミックス絶縁体2aの内部に発熱体7が埋設されてなるもので、その発熱体7の負極側は、負極側セラミックリード部8a、負極側金属リード部9aを介して、セラミックス絶縁体2aの外周面に取着された負極側金属取り出し部材10aに電気的に接続されて取り出され(図2参照)、この負極側金属取り出し部材10aは、金属製外筒3に電気的に接続されたものとなっている。
【0011】
一方、発熱体7の正極側も、負極側同様にして、正極側セラミックリード部8b、正極側金属リード部9bを介して、セラミックス絶縁体2aの後端側(発熱体7が位置する部位と反対側)において、正極側電極取り出し部材10bに電気的に接続されて取り出されるようになっている(図2)。
この正極側電極取り出し部材10bは、導電性部材からなる電極取り出し線4、電極取り出しロッド5、及び、外部接続端子6を介して、ハウジング11の後端部側から突出する外部接続端子6のネジ部6aが、図示されないバッテリに接続されるようになっている(図1参照)。
【0012】
なお、セラミックスヒータ2は、必ずしも上述のような薄膜型発熱体一層タイプに限定される必要はなく、他の構成を有するもの、例えば、発熱体が二層に埋設された薄膜型発熱体二層タイプと称されるものや、また、バルク型発熱体を用いたものであっても良い。
【0013】
次に、本発明の実施の形態におけるグロープラグ駆動制御装置(以下「GCU」と称する)について、図3を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるGCU100は、通電駆動回路21と、計測回路22と、演算制御部(図4においては「CPU」と表記)23とに大別されて構成されたものとなっている。
通電駆動回路21は、通電制御用半導体素子31と、抵抗器32とを主たる構成要素として、グロープラグ1の通電制御を行うよう構成されたものとなっている。
【0014】
通電制御用半導体素子31は、例えば、MOS FETなどが用いられ、そのドレインは、車両バッテリ25の正極に、ソースは、抵抗器32を介してグロープラグ1のネジ部6aに接続される一方、ゲートには、演算制御部23からの制御信号が印加されて、その導通、非導通が制御されるものとなっている。かかる通電制御用半導体素子31の導通制御によって、グロープラグ1の通電が制御されるものとなっている。なお、かかる通電駆動回路21と演算制御部23による通電制御は、基本的に従来と同様のものである。
そして、グロープラグ1の発熱体7の負極側が接続されている金属製外筒3(図1参照)に設けられた発熱体負極接続部3aは、アースに接続されたものとなっている。
【0015】
計測回路22は、演算増幅器33と第1のアナログ・ディジタル変換器(図3においては「A/D(1)」と表記)34とを主たる構成要素として、グロープラグ1に流れる電流に比例した抵抗器32における電圧降下を演算制御部23に入力可能に構成されたものとなっている。
演算増幅器33には、抵抗器32の両端の電圧が入力されるようになっており、その出力電圧は、アナログ・ディジタル変換器34によりディジタル値として演算制御部23に入力されるようになっている。
演算制御部23においては、所定の演算式により、上述のようにディジタル入力された抵抗器32における電圧降下の値を、抵抗器32の抵抗値で除し、その除算結果を、グロープラグ1に流れる電流として、適宜な記憶領域に記憶されるものとなっている。
【0016】
演算制御部23は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、先の通電制御用半導体素子31へ対する制御信号を出力するためのインターフェイス回路(図示せず)などを主たる構成要素として構成されたものとなっているものである。
かかる演算制御部23には、第2のアナログ・ディジタル変換器(図3においては「A/D(2)」と表記)35を介して、熱電対36の出力が入力され、後述するグロープラグ先端温度推定処理に供されるようになっている。
【0017】
熱電対36は、後述するグロープラグ先端温度推定処理に必要となるヒータ基準温度を検出するためのもので、本発明の実施の形態においては、グロープラグ1の発熱体負極接続部3aの適宜な部位に取着されて、その部分の温度を検出するものとなっている。
【0018】
次に、上述の演算制御部23によって実行されるグロープラグ先端温度推定処理の第1の例について、図4に示されたサブルーチンフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、前提として、GCU100においては、従来と同様に、グロープラグ1の通電駆動制御処理が実行されるものとなっている。かかる通電駆動制御処理は、図示されないエンジンの駆動状態に応じて、グロープラグ1の通電を制御、換言すれば、通電制御用半導体素子31の導通、非導通を制御するものである。この通電駆動制御処理において、通電制御用半導体素子31の導通、非導通は、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって行われるものとなっている。
【0019】
しかして、演算制御部23により処理が開始されると、まず、グロープラグ1がONか否か、すなわち、グロープラグ1の通電がなされているか否かが判定され(図4のステップS102参照)、通電されていると判定された場合(YESの場合)にのみ次述するステップS104の処理へ進み、未だ通電されていないと判定された場合(NOの場合)は、通電されていると判定されるまで、判定処理が繰り返されることとなる。
【0020】
ステップS104においては、グロープラグ1の抵抗測定が実行される。
すなわち、グロープラグ1の抵抗値Rgは、演算制御部23により、Rg=(VB−Vr)÷(Vr÷R)と演算算出されるものとなっている。
ここで、VBは車両バッテリ25の電圧、Vrは抵抗器32における電圧降下、Rは抵抗器32の抵抗値である。また、かかる演算式は、通電制御用半導体素子31における電圧降下を無視できることを前提としたものである。
なお、抵抗器32における電圧降下Vrは、計測回路22を介して取得されるものである。
【0021】
次いで、ヒーター基準点温度の温度測定が行われる(図4のステップS106参照)。
ここで、ヒーター基準点温度は、後述するグロープラグ先端温度算出処理(図4のステップS110参照)において用いられるオフセット量を定めるパラメータとして必要とされるものである。
具体的には、本発明の実施の形態におけるヒーター基準点温度は、先に説明した負極側電極取り出し部材10aと接続されている発熱体負極接続部3a(図3参照)の温度とされており、かかる部位には、熱電対36(図3参照)が取着されており、その温度が演算制御部23に測定可能とされている。
かかるヒーター基準点温度は、発熱体負極接続部3aに限定されるものではなく、グロープラグ1の他の任意の部位としても勿論良いものである。例えば、発熱体負極接続部3a以外の金属製外筒3の適宜な部位が好適である。
【0022】
次いで、オフセット量算出が行われる(図4のステップS108参照)と共に、このオフセット量を用いてグロープラグ先端温度(推定温度)の算出が行われる(図4のステップS110参照)。
まず、本発明の実施の形態において、グロープラグ先端温度Tgは、Tg=Cg×Rg−Koffと算出されるものとなっている。
ここで、Cgはグロープラグ1の電気的特性によって定まる定数であり、より具体的には、グロープラグ1の温度と抵抗の関係を示す定数で、その値は、グロープラグ1を構成する各部品の形状、材質等により定まるものである。
【0023】
また、Rgは、ステップS104で求められたグロープラグ抵抗の値である。
そして、Koffは、オフセット量である。このオフセット量は、上述のグロープラグ先端温度Tgを求める演算式におけるCg×Rgの部分の、ヒーター基準点温度の変化によって生ずるドリフトを相殺する値として定められるものである。本発明に実施の形態において、かかるオフセット量は、ヒーター基準点温度の関数として、回帰計算などによって算出され、定められたものとなっている。
そして、ヒーター基準点温度とオフセット量との関係は、オフセット量算出用テーブルや演算式とされ、演算制御部23の適宜な記憶領域に予め記憶されて、グロープラグ先端温度Tgに用いられるようになっている。
【0024】
上述のグロープラグ先端温度Tgを求める演算式は、本願発明者による次述するような鋭意努力の結果として得られたものである。
まず、グロープラグ先端温度とグロープラグ抵抗の相関関係はリニアな相関関係、換言すれば、一次関数として表されるが、グロープラグ1自体の温度に応じて、座標平面のY軸方向でドリフトすることを本願発明者は、試験等の結果から導くことができた。
【0025】
本願発明者は、上述の知見に基づいて、そのドリフトを、グロープラグ1自体の温度に関わらず、実質的に相殺可能とすべく鋭意試験等を行った結果、先に述べたヒーター基準点温度による関数として表されるオフセットを、負の要素として一次関数に加えることが有効であるとの結論を得、その結果、先のグロープラグ先端温度Tgの算出式を得るに至ったものである。
上述のようにして得られたグロープラグ先端温度Tgは、演算制御部23の適宜な記憶領域に記憶され、必要に応じてグロープラグ1の通電制御や燃料噴射制御に供されることとなる。
【0026】
グロープラグ先端温度Tgの算出後は、グロープラグ1の通電を停止する必要があるか否かの判断のためのフラグであるグロープラグOFFフラグが成立しているか否か、すなわち、グロープラグOFFフラグの値が、グロープラグ1の通電を停止することに対応する所定の値(例えば”1”)となっているか否かが判定されることとなる(図4のステップS112参照)。
なお、グロープラグOFFフラグの設定は、先に前提条件とした演算制御部23によって実行される従来同様のグロープラグ通電制御処理において、グロープラグ1の通電の要否が判断され、必要に応じて設定されるものである。
【0027】
そして、ステップS112において、グロープラグOFFフラグが成立していると判定された場合(YESの場合)、すなわち、グロープラグ1の通電停止が必要と判定された場合には、グロープラグ1への通電が停止され、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
一方、ステップS112において、グロープラグOFFフラグが成立していないと判定された場合(NOの場合)、すなわち、グロープラグ1の通電停止は必要ではないと判定された場合には、先のステップS102へ戻り、一連の処理が繰り返されることとなる。
【0028】
上述の実施例においては、ヒーター基準点温度として、発熱体負極接続部3aの温度を熱電対36により直接的に取得したものを用いるようにしたが、これに限定される必要はなく、グロープラグ1の発熱体7の近傍を除く他の部位、例えば、金属製外筒3の先端部の温度を用いても好適である。
さらに、ヒーター基準点温度は、熱電対などの直接的な方法によることなく、例えば、車両に従来から取着されている各種センサにより取得された物理量、例えば、エンジン冷却水温、エンジン回転数、吸気量、吸気温度等や、またさらには、各種の検出信号に基づいて演算算出されるEGR率、燃焼圧等を代用し、ヒーター基準点温度に換算して用いるようにしても良い。
【0029】
ここで、先に概略言及した本願発明を導くに至った本願発明者によるグロープラグの温度と抵抗の関係に関する分析について、図6乃至図8を参照しつつより具体的に説明することとする。
グロープラグは、図6に示されたように、セラミック抵抗などによる発熱体によるA部と、金属製のリード線などによるC部と、A部とC部とを接続する部分であるB部との3つに大別できる。
【0030】
図7は、このようなグロープラグにおけるA部、B部、C部の部分抵抗の一例と、グロープラグの長手軸方向における温度分布の一例を示したものである。
図7において、横軸はグロープラグの先端部(A部側)からの距離であり、右側の縦軸はヒータ回路(A部、B部、及びC部の直列接続により構成される回路)を0.1mm単位のユニットに分解した際の部分抵抗を、左側の縦軸は温度を、それぞれ示すものとなっている。
同図において、実線は、先端温度が1200℃、陰極取り出し部の温度が350℃における部分抵抗分布を、点線は、先端温度が1200℃、陰極取り出し部の温度が250℃における部分抵抗分布を、それぞれ表しており、図7においては、図を見易くするため、2つの特性線は若干離れているが、実際にはほとんど重複している。
【0031】
この実線及び点線による特性線は、A部、B部、C部における抵抗が、それぞれの材質等の違いから異なることを表している。すなわち、先端部からの距離が大凡5mm付近までは、A部の抵抗を表しており、0.1mm単位長当たりの部分抵抗は約30mΩ前後となっている。また、先端部からの距離が大凡5乃至10mmの範囲は、B部の抵抗を表しており、0.1mm単位長当たりの部分抵抗は約5mΩ前後となっている。そして、先端部からの距離が大凡10mm以上の部分は、C部の抵抗を表しており、0.1mm単位長当たりの部分抵抗は約2mΩ前後となっている。
【0032】
また、図7において、二点鎖線の特性線は、先端温度が1200℃、陰極取り出し部の温度が350℃におけるグロープラグの長手軸方向における温度分布を、一点鎖線の特性線は、先端温度が1200℃、陰極取り出し部の温度が250℃におけるグロープラグの長手軸方向における温度分布を表したものである。
グロープラグの長手軸方向における温度分布は、通常、例えば、放射温度計により計測可能であるが、グロープラグをエンジンに取り付けた状態では、そのような計測を行うことは不可能である。
【0033】
そこで、本願発明者は、次のようなモデルによりグロープラグ抵抗と基準点の温度から、グロープラグ先端温度を推定する方法を導くに至ったものである。
まず、図6に示されたように、特性の異なる材料が先端側から発熱部A、リード部B、リード部Cと直列接続されたヒータ回路を想定した。回路における各部は、仮想的に単一断面積、単位長のユニットであると仮定した。そして、ある部分での通電時の温度をTg、基準となる常温をTr、常温抵抗をRr、抵抗温度係数をCとするとき、部分抵抗Rgは、Rg=Rr{1+C(Tg−Tr)}と表すことができる。すると、このときのヒータ回路全体の抵抗ΣRgは、ΣRg=ΣRra{1+Ca(Tga−Tr)}+ΣRrb{1+Cb(Tgb−Tr)}+ΣRrc{1+Cc(Tgc−Tr)}と表すことができる。
【0034】
ここで、Ca、Cb、Cc、Tr、Rra、Rrb、Rrcは、既知であるから、Tgaを求めるには、ΣRg、Tgb、Tgcが解ればよいことになる。
Tgb、TgcがTgaと比べて無視できるほど小さい場合は、ΣRg≒ΣRra{1+Ca(Tga−Tr)}と近似できるが、グロープラグ通電時は、電熱作用があるためTgb、Tgcを無視することはできない。それどころが、エンジンの運転状態によってTgb、Tgcが大きく変化し、ΣRgに対し少なからず影響を及ぼす。一方、Tgbは、エンジンの運転状態によらず、TgaとTgcをつなぐ線上に存在するため、TgcからTgbを推定することは比較的容易である。すなわち、結果として、ΣRgとTgcからTgaを精度良く推定することが可能となる。
【0035】
図8には、陰極取り出し部(図6参照)を基準点とし、基準点の温度を25℃間隔で区分(275〜300℃、300〜325℃、325〜350℃、350℃〜375℃、375℃〜400℃、400℃〜425℃)した場合におけるグロープラグ抵抗とグロープラグ先端温度との相関関係(以下「マスターカーブ」と称する)を表した特性線の例が示されている。
同図において、点線の特性線は、基準点温度が275℃〜300℃の範囲にある場合、二点鎖線の特性線は、基準点温度が300℃〜325℃の範囲にある場合、一点鎖線の特性線は、基準点温度が375℃〜400℃の範囲にある場合、実線の特性線は、基準点温度が400℃〜425℃の範囲にある場合、それぞれのグロープラグ抵抗とグロープラグ先端温度との相関関係を表している。
【0036】
なお、図8において、基準点温度が325℃〜350℃の範囲、及び、基準点温度が350℃〜375℃の範囲については、これらの前後の基準点温度における特性線とほぼ重複し、判別が困難となるため、図を見易くし理解を容易とする観点から特性線を省略している。
【0037】
図8によれば、陰極取り出し部温度が異なる場合、グロープラグの長手軸方向の温度分布の違いから、マスターカーブのドリフトが生じ、グロープラグの抵抗のみでグロープラグの先端温度を推定することが困難であることが理解できる。
かかる特性に鑑みて、種々試験等を行った結果、本願発明者は、グロープラグ抵抗と基準点の温度が判明していれば、マスターカーブのドリフトを実質的にキャンセルできることを導くに至り、かかる結果に基づき、先に図4において説明したような処理手順によりグロープラグの先端温度を高精度で推定可能としたものである。
【0038】
図5には、第2の例として、センサにより取得された物理量をヒーター基準点温度として代用する場合の処理例が、サブルーチンフローチャートとして示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
なお、図4に示された処理内容と同一であるステップについては、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明することとする。
演算制御部23による処理が開始されると、図4に示された第1の例と同様に、グロープラグ1の通電がなされているか否かが判定され(図5のステップS102参照)、グロープラグ1が通電されていると判定されると、グロープラグ1の抵抗測定が実行される(図5のステップS104参照)。
【0039】
次いで、ヒーター基準点温度の代用として、センサ(図示せず)の出力信号が、演算制御部23に読み込まれ、図示されない適宜な記憶領域に記憶される(図5のステップS107参照)。
ここで、センサは、車両に従来から取着されている各種センサが好適であり、例えば、エンジン冷却水温を検出するための水温センサ、エンジン回転数を検出するための回転センサ、吸気量を検出するための吸気センサ等が好適である。
【0040】
次いで、ステップS104で取得されたセンサ出力値を基に、オフセット量Koffの算出が行われる(図5のステップS109参照)。
このオフセット量Koffの算出においては、まず、センサ出力値が、所定の変換式を用いてヒーター基準点温度、例えば、発熱体負極接続部3aにおける温度に変換される。ここで、所定の変換式は、センサ出力値とヒーター基準点温度との相関関係についての試験やシミューレーション結果等に基づいて設定されたものである。
【0041】
ヒーター基準点温度が算出された後は、先の図4に示されたS108と同様に、ヒーター基準点温度からオフセット量Koffが求められる。
そして、グロープラグ先端温度Tgが、Tg=Cg×Rg−Koffとして算出され(図5のステップS110参照)、算出値は、演算制御部23の適宜な記憶領域に記憶され、必要に応じてグロープラグ1の通電制御や燃料噴射制御に供されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
従来に比してより精度の高いグロープラグ先端の推定温度が所望される車両の燃料噴射制御装置などに適する。
【符号の説明】
【0043】
1…グロープラグ
3…金属製外筒
3a…発熱体負極接続部
7…発熱体
10a…負極側金属取り出し部材
21…通電駆動回路
22…計測回路
23…演算制御部
36…熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実測されたグロープラグの抵抗値と、前記グロープラグの電気的特性に基づいて定められた定数との乗算結果を、所定のヒーター基準温度を基に求められたオフセットにより補正し、当該補正結果を前記グロープラグの先端推定温度とすることを特徴とするグロープラグ先端温度推定方法。
【請求項2】
所定のヒーター基準温度は、グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度であって、オフセットは、実測されたグロープラグの抵抗値と、前記グロープラグの電気的特性に基づいて定められた定数の乗算結果に生ずる前記ヒーター基準温度の変化によるドリフトを相殺する値であって、前記ヒーター基準温度の関数として算出されるよう定められた演算式によって求められることを特徴とする請求項1記載のグロープラグ先端温度推定方法。
【請求項3】
車両に搭載された所定のセンサ出力を、グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度として代用し、予め求めた前記センサ出力と前記グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度との相関関係に基づいて、前記センサ出力に対応する前記グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度を求めることを特徴とする請求項2記載のグロープラグ先端温度推定方法。
【請求項4】
グロープラグの駆動制御を実行する演算制御部と、
前記演算制御部により実行されるグロープラグの駆動制御に応じて、前記グロープラグの通電を行う通電駆動回路とを具備してなるグロープラグ駆動制御装置であって、
前記演算制御部は、前記グロープラグの通電電流と前記グロープラグへの印加電圧とに基づいて、前記グロープラグの抵抗値を演算算出し、当該算出されたグロープラグの抵抗値と前記グロープラグの電気的特性に基づいて予め定められ定数との乗算を行う一方、
所定のヒーター基準点温度を入力し、前記ヒーター基準点温度から所定のオフセット演算式によりオフセットを算出し、当該オフセットにより前記乗算結果を補正して前記グロープラグの先端の推定温度を算出するよう構成されてなることを特徴とするグロープラグ駆動制御装置。
【請求項5】
所定のヒーター基準温度は、グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度であって、オフセット演算式は、実測されたグロープラグの抵抗値と、前記グロープラグの電気的特性に基づいて定められた定数の乗算結果に生ずる前記ヒーター基準温度の変化によるドリフトを相殺する値が、前記ヒーター基準温度の関数として算出されるよう定められてなるものであることを特徴とする請求項4記載のグロープラグ駆動制御装置。
【請求項6】
演算制御部は、車両に搭載された所定のセンサ出力を、グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度として入力し、予め求めた前記センサ出力と前記グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度との相関関係に基づいて、前記センサ出力に対応する前記グロープラグの発熱体近傍を除く任意の部位の温度を算出可能に構成されてなることを特徴とする請求項5記載のグロープラグ駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−145035(P2012−145035A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3773(P2011−3773)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)