説明

ケナフ糸の製造方法と該方法により製造したケナフ糸

【課題】ケナフ糸が充分な強度を持つようにすること、及び織成生地及び編成生地として、柔らかな風合いを残しながら十分な強度を発揮できて、衣料用等の目的で使用できるようにすること。
【解決手段】採取したケナフ繊維に、天然繊維と繊維分散剤としての澱粉系糊を混合し、少なくとも円網抄き工程を経て得た薄手の紙をスリットし、これに撚りをかけることによりケナフ糸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ケナフの靭皮の繊維を用いたケナフ糸の製造方法と該方法により製造したケナフ糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ケナフは、世界中、特に、南米、東南アジア、中国等において多量に栽培されている植物で、3〜4メートル程度に成長し、古くはその靭皮が強力であるところから、麻と同様に綱を撚ったりして利用されてきたが、昨今は、木と同様に酸素供給源として、地球環境の改善に適した素材提供源として注目されているものである。
【0003】
また、最近に至っては、ケナフ繊維を撚って織物用糸を製造し、衣料用として使用することが提案されている。
【特許文献】特開2000−234158。ケナフ紙を用いたシート。
【特許文献】特開2000−40187。ケナフ繊維を用いて衣料用に使用できる糸の製造方法。
【特許文献】特開2002−32735.ケナフ糸の作成方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、ケナフ繊維が織物用糸或いはケナフ紙として使用することが出来ること、また、天然繊維であるところから、廃棄したときに自然に回帰することができて、環境汚染の心配がないという自然に優しい繊維であるところから、今後の研究開発の期待が出てきている。
【0005】
これまでに提案されているケナフ糸を用いた生地は、麻と同様に天然繊維としての柔らかさを持つと共に麻よりも更に柔らかな風合いを持つことが判っている。
その反面、麻に比べて強度が小さく、衣料用として用いるには不適切であることも判って来ている。
従って、これまで提案されてきたケナフ繊維を用いた糸によって織製された生地で衣類を製造しても、他の天然繊維や化繊のように充分な強度が得られず、そのケナフ繊維糸の使用対象が極く僅かなものに限定されるものであった。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑み、ケナフ糸が充分な強度を持つようにすること、及び織成生地及び編成生地として、柔らかな風合いを残しながら十分な強度を発揮でき、天然繊維としての吸湿性と水分の発散機能を備えて、衣料用等の目的で使用できるところのケナフ糸の製造方法と該方法により製造されたケナフ糸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるケナフ糸の製造方法は、上記目的を達成するために、ケナフを水煮又は/及び破砕によって靭皮の繊維を採取し、このケナフ繊維からケナフ糸を製造する方法であって、
採取したケナフ繊維に、マニラ麻繊維を重量比で50%〜70%混合し、少なくとも繊維分散剤として澱粉系糊を混入して攪拌し、
少なくとも円網抄き工程を経て、目付けが12g/m〜25g/mの薄手の長尺の紙を製造し、
製造された紙を、スリット幅が1mm〜5mmの紙片となるように裁断し、
裁断した紙片に400回〜800回の撚りをかけることによって糸を製造する、という手段を講じたものである。
【0008】
このように、ケナフ繊維を30%乃至50%用いて、出来上がった糸にケナフ繊維の軟らかな風合いを発現させながら、円網抄き工程によって、ケナフ繊維を主に縦方向に並べて糸の長手方向に強度を持たせた目付けが12g/m〜25g/mの薄手の長尺の紙を製造することができ、この後の1mm〜5mm幅のスリットと、400回〜800回の十分な撚りをかけることができて、被服等にも使用し得る強度のあるケナフ糸が得られたのである。
【0009】
そして、本発明にかかるケナフ糸は、上記目的を達成すするために、請求項1乃至請求項3の製造方法によって製造される。このようなケナフ糸は、そのまま用いて織成又は編成して被服等に用いることができ、また、該ケナフ糸を縦糸又は横糸として用い、化繊糸又は天然糸と混紡して織成又は編成することによって被服等に用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ケナフ繊維を用いたケナフ糸でありながら、天然繊維としての吸湿性と水分の発散機能を備え、ケナフ独特の柔らかな風合いを発現しつつ、これまでのケナフ糸では得られなかった充分な強度を有するので、衣料等の具体的実用商品に適用できる利点がある。
【0011】
請求項1のように、ケナフ繊維とマニラ麻繊維の混合に際して、繊維分散剤としての澱粉系糊を用いると共に、少なくとも円網の抄き工程(円網のドラムによる)を経ることで、特にケナフ繊維が主に縦方向に並び易くなり、縦方向、即ち、抄き紙を長尺にスリットしたときの長手方向での強度が増加され、400回〜800回の撚りをかけたときに充分に耐えることが出来て、十分な撚りを得ることができ、その結果強度のあるケナフ糸が製造できるのである。
【0012】
そして、製造されたケナフ糸を織物として使用するためには、細い糸でなければならず(例えば、10番手から20番手の糸)、そのためには、原材料として抄いた紙の目付けも小さなものとし、スリットの幅も狭くする(1mm〜5mm)という必要性がある反面、これに十分な撚りをかける必要性があるため、その薄く、細い紙片に十分な強度が求められるのであるが、本発明によれば、こうした要求を満たすことが出来たのである。そして、上述のように、スリットされた細片に対する撚りを、400回乃至800回とすることで、充分な強度と細さを確保できて、麻糸等の一般天然繊維の糸と差異のないケナフ糸が得られる。
【0013】
また、本発明においては、ケナフ繊維の相手としてマニラ麻繊維を使用しているが、これに代えて、みつまた、コーゾ又はその組み合わせとすることも可能であり、これらは、ケナフ繊維との相性がよく、繊維同士の絡みが充分に得られる。その他、場合によっては、綿等も添加することも可能である。
また、上記円網抄き工程に続けて長網抄き工程を用いた場合、ケナフ繊維及びマニラ麻繊維が主に縦に並ぶ円網抄き工程による紙層と、それら繊維がアトランダムの状態に並ぶ長網抄き工程による紙層が積層状態となり、撚りに必要な縦方向(スリット片の長手方向)の強度が得られるのは勿論のこと、横方向の強度も十分に得られ、原紙としての強度が非常に向上するので撚り加工に好適である。
【0014】
そして、請求項1乃至請求項3の方法によって製造されたケナフ糸を縦糸又は横糸として用いて織成又は編成された織成生地は、充分な強度を備えることができて、被服、タペストリー等、種々の用途に用いることが出来る。
尚、織成に代えて編成生地を得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
【0015】
ここでは、ケナフの靭皮から繊維を抽出するのに、水煮及び破砕工程を用いて行うが、この工程は、既存の方法であるので、詳細説明を省く。この他の方法としては、古くから、水桶、池等にケナフを投入し、自然腐敗を進行させて繊維を抽出するという方法もある。
【0016】
上記方法で採取されたケナフ繊維に、別途準備した天然繊維、ここではマニラ麻の繊維を、重量比で70%混合させ、結合目的と合わせて繊維を分散させる機能を発揮する澱粉系糊(芋等から精製)を混入して攪拌を行った。
そして、この原料パルプを円網抄き装置に送り、回転ドラムの表面に、その円周方向、即ち、製造する原紙の長尺方向(縦に)ケナフ繊維及び麻繊維が並ぶ姿勢で抄かれていく。
ここでの目付は、15g/mに調整され、所定の乾燥工程を経て、ドラムに巻き取られる。
【0017】
製造された長尺の紙を、ここでは、スリット機を用いて、幅2mmの長尺の細片に裁断する。このような、スリットは、和紙等の裁断に用いる多数の円盤刃を備えた公知のスリット機を調整することによって行う。
次いで、裁断された2mm幅の細片の紙を、それ自体公知の撚り機にかけて撚りを付与する。この実施例では、オイルを供給しながら750回の撚りをかけ、17.5番手の糸を得た。
【0018】
この糸の物性は、次の通りであった。
比重:0.5 吸湿率:13.5 ヤング率(N/m):2187
引張強さ(縦方向):5.85(kgf/15mm)
引張強さ(横方向):0.69(kgf/15mm)
湿潤引張強さ(縦方向):2.11(kgf/15mm)
湿潤引張強さ(横方向):0.21(kgf/15mm)
伸び(縦方向):3.4%
伸び(横方向):3.7%
摩擦強度:強
熱の影響:200℃まで
【0019】
この他に、次の目付けの抄き、裁断、及び撚りを行った。
1.目付け:22.5g・スリット幅2mm・撚り回数500・糸番手11.4
2.目付け:22.5g・スリット幅3mm・撚り回数400・糸番手7
3.目付け:22.5g・スリット幅4mm・撚り回数400・糸番手5.8
【0020】
更に、抄きに際しての目付けとして、12g、15g、23g、25gを行ったが、本発明の目的を達成できる範囲であった。
同時に、上記目付けとの組み合わせが関係するが、スリット幅についても、1.5mm、3mm、4mmを実施したが、撚りをかけると、目付け12g、幅1.5mmで17番手の糸、目付け15g、幅12mmで12番手の糸、目付け23g、3mmで、10番手の糸、目付け25g、4mmで8番手の糸が得られた。
【0021】
こうした得られたケナフ糸を縦糸(又は横糸)として用い、他方の横糸(又は縦糸)に、化繊糸(綿糸等の天然繊維でもよい)を重量比で50%用い、織機によって織成して生地を得た。
【0022】
この実施例で用いたマニラ麻に代え、使用する天然繊維としては、みつまた、コーゾ等がケナフ繊維と相性良く用いることが出来た。また、ケナフ繊維、麻繊維を分散させる機能を発揮する澱粉系糊を混入しているが、ここに天然樹脂を添加することで、繊維の結合力をより強化させるようにしてもよい。
【実施例2】
【0023】
この実施例において、ケナフの靭皮から繊維を抽出する方法は、実施例1と同じ方法が採られた。
上記方法で採取されたケナフ繊維に、マニラ麻の繊維を、重量比で60%混合させ、結合目的と合わせて繊維を分散させる機能を発揮する澱粉系糊(芋等から精製)を混入して攪拌を行った。
そして、この原料パルプを先ず、円網抄き装置に送り、回転ドラムの表面に、その円周方向、即ち、製造する原紙の長尺方向(縦)にケナフ繊維及びマニラ麻繊維が並ぶ姿勢で抄かれていく。
ここでの目付は、10g/mに調整された。
【0024】
次いで、円網抄き装置に続いて、長網装置に送られ、目付け13g/mに調整されて積層状態に抄いて行く。
従って、抄かれた原紙は、目付けが23g/mとなり、厚みは約0.1mm乃至0.2mmとなる。
尚、長網装置による抄きを円網抄き装置による抄きに先行させてもよい。
その後に、所定の乾燥工程を経て、ドラムに巻き取られる。
【0015】
製造された長尺原紙を、円盤刃を備えた公知のスリット機を用いて、幅3mmの長尺の細片に裁断する。次いで、裁断された3mm幅の細片の紙を、それ自体公知の撚り機にかけて撚りを付与する。この実施例では、オイルを供給しながら500回の撚りをかけ、10番手の糸を得た。
【0026】
この糸の物性は、次の通りであった。
比重:0.5 吸湿率:14.1 ヤング率(N/m):2235
引張強さ(縦方向):5.96(kgf/15mm)
引張強さ(横方向):0.76(kgf/15mm)
湿潤引張強さ(縦方向):2.23(kgf/15mm)
湿潤引張強さ(横方向):0.24(kgf/15mm)
伸び(縦方向):3.3%
伸び(横方向):3.6%
摩擦強度:強
熱の影響:200℃まで
【0027】
この他に、次の目付けの抄き、裁断、及び撚りを行った。
1.目付け:23g・スリット幅2mm・撚り回数500・糸番手11.4
2.日付け:23g・スリット幅4mm・撚り回数400・糸番手5.8
【0020】
従って、全体としては、抄かれた紙の日付けは20g/mとなり、その厚みは、0.1mm〜0.2mm程度である。
【0028】
尚、上記の他に、円網抄き工程(及び/又は長網工程)を経て、目付けが12g/m〜25g/m、スリット幅が1mm〜5mm、撚り回数が400回〜800回について夫々実施したが、この範疇であれば、本発明の目的を達成することが分った。
【産業上の利用可能性】
【0029】
財団法人地球・人間環境フォーラム ケナフ等植物資源利用による地球環境保全協議会「略称ケナフ協議会」によれば、紙としてケナフ繊維20%以上、他の繊維との織製の場合重量比10%以上の使用であれば、ケナフ糸と認定され、本発明はこれに該当し、被服等に利用できる充分な強度を有するので、従来の強度を必要としない単なるテーブルクロス、タペストリー等の装飾布だけでなく、実用上の被服、例えば、作業着、ジーンズ等の広範囲の用途が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケナフを水煮又は/及び破砕によって靭皮の繊維を採取し、このケナフ繊維からケナフ糸を製造する方法であって、
採取したケナフ繊維に、マニラ麻繊維を重量比で50%〜70%混合し、少なくとも繊維分散剤として澱粉系糊を混入して攪拌し、
少なくとも円網抄き工程を経て、目付けが12g/m〜25g/mの薄手の長尺の紙を製造し、
製造された紙を、スリット幅が1mm〜5mmの紙片となるように裁断し、
裁断した紙片に400回〜800回の撚りをかけることによって糸を製造する、
ことを特徴とするケナフ糸の製造方法。
【請求項2】
上記円網抄き工程に続けて長網抄き工程を用いた、請求項1のケナフ糸の製造方法。
【請求項3】
上記目付けが15g/mで、スリット幅が2mm、撚りをかけて17.5番手の糸を得た請求項1又は請求項2のケナフ糸の製造方法。
【請求項4】
上記請求項1乃至請求項3の方法により製造されたケナフ糸。

【公開番号】特開2006−274531(P2006−274531A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100134(P2006−100134)
【出願日】平成18年3月4日(2006.3.4)
【出願人】(000201744)曽和繊維工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】