説明

ケミカルフィルタ

【課題】酸性吸着剤が用いられた場合であっても、フィルタ強度を維持する。
【解決手段】ケミカルフィルタ10は、酸性吸着剤12をウレタン系基材11にウレタンバインダーによって固着して構成する。ウレタンバインダーにおいて、ポリオールとしてひまし油系ポリオールを用いるとともに、充填剤としてタルク又は硫酸バリウム及びタルクを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤をウレタンバインダーによってウレタン系基材に固着させたケミカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路の製造工程において、空気中のガス状汚染物質を高効率で除去するために、三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームに吸着剤を接着させたケミカルフィルタが用いられている(例えば特許文献1)。このフィルタの吸着剤としては、ガス状汚染物質にアルカリ系ガスが含まれるとき、強酸性イオン交換樹脂や、活性炭に燐酸等の酸性物質を添着させた酸性吸着剤が使用される。
【0003】
また、ポリウレタンフォームには、一般的にエステル系ポリウレタンフォームが使用されるとともに、ポリウレタンフォームに吸着剤を接着するためのバインダーとしては、その接着性が考慮されてウレタン系バインダーが好適に使用される。
【特許文献1】特開平11−226338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した酸性吸着剤が用いられる場合、吸着剤の酸と空気中の水分により、エステル系ウレタンフォーム及びウレタン系バインダーには加水分解が生じやすくなる。このように、ウレタンフォームやバインダーに加水分解が生じると、フィルタの強度が低下し、フィルタを交換するとき等にフィルタに破損が生じるおそれがある。
【0005】
また、ケミカルフィルタのバインダーは、ウレタン系基材に塗布又は含浸させるとき、ウレタン系基材表面に充分に付着させる必要があるが、バインダーの配合によってはウレタン系基材表面にバインダーを充分に付着させることができない場合がある。また、ウレタンバインダーに充填剤が配合されるとき、ポリオールと充填剤の組合せによっては保管安定性に問題がある場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、ウレタン系基材表面への付着性及び保管安定性に優れたバインダーを提供し、そのバインダーを用いて、吸着剤に酸性吸着剤が使用されても強度低下が発生しないケミカルフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るケミカルフィルタは、酸性吸着剤をウレタン系基材にウレタンバインダーによって固着させたケミカルフィルタであって、ウレタンバインダーは、ポリオールとしてひまし油系ポリオールが用いられるとともに、充填剤として少なくともタルクが配合されていることを特徴とする。
【0008】
ウレタンバインダーには、ポリオールを含む主剤と、イソシアネートを含む硬化剤とが混合されて、硬化する2液型ポリウレタンが使用されることが好ましく、上記主剤の粘度は、5000〜50000mPa・sであることが好ましい。そのために、充填剤は主剤に配合されていることが好ましい。
【0009】
特に好ましくは、ウレタンバインダーに、充填剤として硫酸バリウム及びタルクが配合されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリオールとしてひまし油系ポリオールを用いると共に、充填剤として少なくともタルクを配合することによりウレタン系基材への付着性及び保管安定性に優れたウレタンバインダーを提供することができる。また、このバインダーを用いて酸性吸着剤をウレタン系基材に固着させることにより、ケミカルフィルタの強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照にして詳細に説明する。
図1は、ケミカルフィルタのウレタン系基材を示す斜視図である。図2はケミカルフィルタの拡大図である。ケミカルフィルタ10は、ウレタン系基材11に、小粒子状の吸着剤12がバインダー(不図示)により固着されて構成される。
【0012】
ウレタン系基材11は、三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームから形成され、ウレタン系基材11のポリウレタンとしてはエステル系ポリウレタンが好ましい。
【0013】
吸着剤12は酸性吸着剤であって、酸性吸着剤としては強酸性イオン交換樹脂、活性炭に燐酸等の酸性物質を添着させた吸着剤等が使用される。
【0014】
ウレタン系基材11に吸着剤12を固着させるためのバインダーとしては、ウレタンバインダーが使用される。ウレタンバインダーとしては、1液型、又は2液型ポリウレタンを用いることができるが、好ましくは2液型ポリウレタンが使用される。2液型ポリウレタンは、ポリオールを主成分とする主剤と、イソシアネートを主成分とする硬化剤とを混合させることにより、反応させ、硬化させて得られるウレタン樹脂である。バインダーに2液型が用いられると、イソシアネートの配合量を抑制することができるので、ウレタン樹脂に残存する過剰イソシアネートを低減させることができる。したがって、過剰イソシアネートのアウトガスを低減させ、バインダーに起因する空気汚染を防止することができる。また、2液型ポリウレタンを使用する場合、アウトガスを抑制し、ポリオールがイソシアネートと充分に反応ができるように、ポリオールとイソシアネートとの割合は、イソシアネートインデックスが80〜120となるように調整されることが好ましい。さらに、ウレタンバインダーはアウトガスを低減させる観点から無溶剤及び無可塑剤で使用されることが好ましく、すなわち、2液型ポリウレタンにあっては、主剤及び硬化剤は溶剤及び可塑剤が配合されていないことが好ましい。
【0015】
ウレタンバインダーに用いられるポリオールはひまし油系ポリオールであって、リシノール酸のトリグリセリドを主成分とするひまし油系ポリオールであることが好ましい。
【0016】
イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、m-キシレンジイソシアネート(XDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(ピュアMDI)、およびこれらの誘導体が使用されるが、好ましくはポリメリックMDI、ピュアMDIが使用される。
【0017】
ウレタンバインダーが2液型ポリウレタンである場合、ウレタンバインダーの主剤の粘度は5000〜50000mPa・sであることが好ましい。主剤の粘度が、上記範囲より低くなると、バインダーの付着力が低下し、ウレタン系基材11に対するバインダーの付着量が少なくなり、吸着剤12のウレタン系基材11に対する接着性が低下する。一方、粘度が上記範囲より高くなると、流動性が低いため、バインダーの取り扱い性に問題が生じる。なお、本明細書における粘度は、BM型粘度計で回転数12rpm、25℃条件下で測定された粘度であって、粘度範囲500〜2500mPasでは2号ローターが、粘度範囲2500〜10000mPasでは3号ローターが、粘度範囲10000〜50000mPasでは4号ローターが使用される。
【0018】
ウレタンバインダーには、充填剤としてタルク(粒状のタルク)が配合されるが、タルクに加えて硫酸バリウムがさらに配合されても良い。充填剤は、ウレタンバインダーが2液型ポリウレタンである場合、主剤に配合されていることが好ましい。主剤に充填剤が配合される場合、充填剤の合計配合量は、主剤全体の重量を100重量部としたとき、5〜80重量部であることが好ましい。上記範囲より少なくなると粘度が上がらなく、多くなるとポリオールとの混合が困難である。ひまし油系ポリオールの粘度は相対的に低いが、上記充填剤が配合されることにより、主剤(又はウレタンバインダー)の粘度が上昇するとともに、バインダーの耐酸性を向上させることができる。
【0019】
また、充填剤として硫酸バリウムのみを配合することも考えられるが、硫酸バリウムはひまし油系ポリオールに対する分散性が不十分であり、硫酸バリウムのみを配合すると主剤において、硫酸バリウムの選択によっては沈殿しやすく取り扱いにくい。一方、充填剤として硫酸バリウム及びタルクの両方を配合すると、硫酸バリウムの分散性が向上され、硫酸バリウムが主剤において沈殿しにくくなる。さらには、硫酸バリウムとタルクの配合量を適宜変化させることにより粘度を適宜変化させ、バインダーのウレタン系基材11に対する付着性を良好にし、かつ取り扱い性も良好にすることができるので、充填剤として硫酸バリウム及びタルクの両方が使用されることが好ましい。
【0020】
以上のように、本実施形態では、ウレタンバインダーのポリオールとしてひまし油系ポリオールが用いられるとともに、充填剤としてタルク又はタルク及び硫酸バリウムが配合され、耐酸性が高められている。したがって、吸着剤12として、酸性吸着剤が用いられるような場合でも、バインダーがウレタン系基材11に付着していることによって、ウレタン系基材11の加水分解が防止され、これによりケミカルフィルタ10の耐久性を向上させることができる。また、バインダーの耐酸性が向上させられることにより、バインダーの耐久性も高められるので、ケミカルフィルタ10の耐久性を向上させることができる。
【0021】
また、本実施形態においては、上記充填剤がバインダーに配合されることにより、バインダーの粘度が高められ、バインダーのウレタン系基材に対する付着性が高められるので、吸着剤のウレタン系基材への接着性が高められる。さらに、上記充填剤はひまし油系ポリオールに配合されても、沈殿しにくいので、バインダーの保管安定性も優れる。
【0022】
次に、本実施形態のケミカルフィルタの製造方法を説明する。本実施形態においては、まず、多数のセルを有するポリウレタンフォームが用意される。そして、そのポリウレタンフォームの各セルに爆発性混合ガスが注入して点火爆発され、セル膜を除去して、三次元網状骨格構造を有するポリウレタンフォームが、ウレタン系基材11として得られる。
【0023】
次いで、上記ウレタン系基材11の表面に、バインダーが塗布されて、又はバインダーにウレタン系基材11が浸漬されて、又はその他の公知の手段によって、ウレタン系基材11の表面にバインダーが付着される。ここで、ウレタン系基材11の表面に、余剰のバインダーが付着されている場合、ウレタン系基材11が圧縮等されて、余剰のバインダーが除去される。なお、バインダーが2液型ポリウレタンである場合、主剤及び硬化剤を混合させた混合液が、バインダーとしてウレタン系基材11の表面に付着される。
【0024】
バインダーが付着されたウレタン系基材11には吸着剤12が供給され、ウレタン系基材11の表面にバインダーを介して吸着剤12が付着される。吸着剤12が付着した状態でバインダーは反応し、硬化して、吸着剤12がウレタン系基材11の表面にバインダーを介して固着され、これによりケミカルフィルタ10が得られる。なお、バインダーが2液型ポリウレタンである場合、バインダーは常温で反応し硬化しても良いし、加熱されて反応・硬化しても良い。また、1液型の場合は、加熱により反応・硬化しても良いし、光照射により反応・硬化しても良いし、空気中の水分により反応・硬化しても良い。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明は以下説明する実施例に限定されるわけではない。
【0026】
[実施例1]
実施例1に係るバインダーは2液型ポリウレタンであって、主剤としてひまし油系ポリオール70重量部に、タルク30重量部が配合されたものが使用された。また、硬化剤としてポリメリックMDIが使用され、そのイソシアネートインデックスは105であった。
【0027】
[実施例2]
実施例2に係るバインダーは主剤の配合以外、実施例1と同一の条件で実施された。実施例2における主剤としては、ひまし油系ポリオール70重量部に、硫酸バリウム15重量部及びタルク15重量部が配合されたものが使用された。
【0028】
[比較例1]
比較例1に係るバインダーは主剤の配合以外、実施例1と同一の条件で実施された。比較例1における主剤としては、ひまし油系ポリオール70重量部に、炭酸カルシウム30重量部が配合されたものが使用された。
【0029】
[比較例2]
比較例2に係るバインダーは主剤の配合以外、実施例1と同一の条件で実施された。比較例2における主剤は、ひまし油系ポリオール70重量部に、充填剤として硫酸バリウム30重量部が配合されたものが使用された。
【0030】
[比較例3〜8]
比較例3〜8は主剤に使用されるポリオールとして、ひまし油系ポリオール以外が用いられた例であって、具体的には石油化学系ポリオールが使用された。比較例3〜8の主剤の配合は、表1に示す通りである。比較例3〜8に係るバインダーは主剤の配合以外実施例1と同一の条件で実施された。
【表1】

【0031】
[評価方法]
各実施例及び比較例について、JIS K6911に準じて耐薬品性試験が行われた。耐薬品性試験では、まず各実施例及び比較例について、主剤及び硬化剤を混合後、硬化させて得られるウレタン樹脂硬化物の試験片が作成された。ここで、各ウレタン樹脂硬化物は60℃で4時間、その後25℃で72時間かけて硬化されたものであって、試験片としては30mm×30mm×3mmの矩形板状のものが作成された。各試験片は、常温(25℃)下、20%塩酸、20%硫酸それぞれに14日間浸漬された後、外観観察および質量変化率の測定が行われた。
【0032】
外観観察では次の評価基準で目視判定により評価された。
○:試験片表面が分解又は溶解しない。
×:試験片表面が分解又は溶解する。(光沢損失を含む。)
【0033】
質量変化率は、試験片が20%塩酸または20%硫酸から取り出され、25℃雰囲気下で24時間放置された後、各試験片の質量が測定され、浸漬前の試験片の質量との変化率が算出された。耐薬品性試験の結果を表1に示す。
【0034】
また、実施例1〜2、比較例1〜2については、主剤の保管安定性についても評価した。保管安定性の評価は、主剤における沈殿の有無を確認することにより行った。表中、○は沈殿が発生しなかったことを、×は沈殿が発生したことを示す。さらに、実施例1〜2、比較例1〜2については、粘度も測定した。
【0035】
耐薬品性試験が示すように、ポリオールとして石油化学系のポリオールを使用した比較例3〜8は、耐酸性に問題があることが理解できる。また、ポリオールとしてひまし油系ポリオールが使用されていても、充填剤として炭酸カルシウムが使用される場合は、試験片に溶解が発生し、耐酸性が良好ではないことが理解できる。また、充填剤として炭酸カルシウムが使用された場合、主剤の粘度が1600mPa・sとなり、バインダーのウレタン系基材に対する付着性が良好ではないことが示された。
【0036】
それに対して、実施例1〜2のように、充填剤としてタルク又はタルク及び硫酸バリウムが用いられると、試験片に分解又は溶解が発生せず、また試験片の質量変化もほとんどなかった。また、主剤の粘度は27000、6000mPa・sになり、ウレタン系基材への付着性が充分に確保でき、かつ主剤の取り扱い性に問題がないレベルになった。さらに、保管安定性についても問題がなかった。
【0037】
また、充填剤として硫酸バリウムのみが配合された比較例2では、粘度が1400mPa・sとなり、バインダーのウレタン系基材に対する付着性が悪く、さらには充填剤が沈殿し保管安定性も良好ではなかった。しかし、充填剤として硫酸バリウム及びタルクの両方を配合した実施例2では、付着性及び保管安定性に問題がなく、耐薬品性についても良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態におけるウレタン系基材の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるケミカルフィルタの拡大図である。
【符号の説明】
【0039】
10 ケミカルフィルタ
11 ウレタン系基材
12 吸着剤(酸性吸着剤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性吸着剤をウレタン系基材にウレタンバインダーによって固着させたケミカルフィルタであって、
前記ウレタンバインダーは、ポリオールとしてひまし油系ポリオールが用いられるとともに、充填剤として少なくともタルクが配合されていることを特徴とするケミカルフィルタ。
【請求項2】
前記ウレタンバインダーには、ポリオールを含む主剤と、イソシアネートを含む硬化剤とが混合されて、硬化する2液型ポリウレタンが使用されることを特徴とする請求項1に記載のケミカルフィルタ。
【請求項3】
前記主剤の粘度は、5000〜50000mPa・sであることを特徴とする請求項2に記載のケミカルフィルタ。
【請求項4】
前記主剤に前記充填剤が配合されることを特徴とする請求項2又は3に記載のケミカルフィルタ。
【請求項5】
前記ウレタンバインダーには、充填剤として硫酸バリウム及びタルクが配合されていることを特徴とする請求項1に記載のケミカルフィルタ。

【図1】
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【図2】
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